恋する電流マシン～ブルーライトファンタジー

■リプレイ

「えーっ！　なして、立ち入り禁止なん？」
「楽しみにしとったのに！」
　クリスマスイブを迎えたシーサイドももちの周辺では、その美しいイルミネーションを楽しもうと訪れた多くのカップルや親子連れなどが、設定された規制線の外側に溜まっている。
「ダモクレスの事件じゃあ、しょんなかね……」
　諦めて天神や中州など別の場所に向かう者もいれば、事件の早期解決と規制解除を願って、近くで時間を潰している者もいる。中には指示を拒むやんちゃな者も居る為、警備にあたる、県警の第一機動隊を中心とする最精鋭の強者も説得に手を焼いている様子だ。
「がんばれー！　頼んだぞ！！」
　物々しい雰囲気の中、人々の期待による重圧を受けながら、シーサイドももちのエリアに入って行く、１０人のケルベロス。
　しかしエリアに入ると、外の喧騒が異世界の出来事であるかのような静けさが支配していた。
　波の音が聞こえる。
　時を忘れそうになる、青い光で満ちた、銀河の如き世界だ。
　１０人は無言で頷きあうと、打ち合わせ通りに男女に扮した５組のペアに分かれて、それぞれ違う方向に向かって歩き出す。
　シーサイドももちと呼称されるウォーターフロントエリアは広大であるため、進捗や救援の要請は携帯電話の着信音で伝えることにし、またＧＰＳによる位置表示機能を使える者は互いの位置を確認できるよう、アプリケーションを最適化した。

「さてと、カップルを狙うダモクレスですか、何とも迷惑な相手でしょうか」
　立て続けに２つ飛び込んできた敵撃破のコールを画面で確認しつつ、バジル・ハーバルガーデン（薔薇庭園の守り人・e05462）は怒りとも、呆れともとれそうな、複雑な感情を口にしつつも気合を入れる。

　最初のコールは、アッシュ・ホールデン（無音・e03495）と、鈴代・瞳李（司獅子・e01586）のペア、続く２回目は、貴石・連（砂礫降る・e01343）とレベッカ・ハイドン（鎧装竜騎兵・e03392）のペアからであった。

「うん。ボクじゃ、力不足かもしれないけど、精いっぱい頑張るから、よろしくね！」
　ペアを組むことにした、山之内・涼子（おにぎり拳士・e02918）は、そう元気に言って、握手の手を差し出す。
「あ、こちらこそよろしくお願いしますねー」
　付き合ってくれてありがとう、バジルが差し出された手を握り返すと、直後、お互いの体温がぬくもりとして感じられる。既に敵を撃破した４人の様子に比べればとても初々しい感じがする。
「あの、バジルさん……」
「どうかしましたか？　涼子さん」
　無警戒に、ずいっと顔を近づけてくるバジル。
　周囲の青い光が映り込んでいるせいか、青く澄んだ瞳の色が、吸い込まれそうなほどに青く見える。
「なんだか、近くでみると、ボクよりも、肌もきめ細かくて、綺麗というか、女の子っぽいと言うか……」
「うーん、妹にもよく言われるんですよね、女の子の服のほうが似合うんじゃない？　とかですねー」
「えっ？　本当に普段から女の子の格好をするの？　スカートを履いたり下着も女の子と同じにするの？」
「大丈夫ですか？　顔が真っ赤ですよ」
　深くは考えず、ついありのままに応えるバジルだったが、反応を見ていると色々誤解されている気もしたため、誤解されていそうな部分にはフォローを入れる。だが妹に言われるままに女装するというのは、取扱注意な創作物にありがちなシチュエーションなので、実は衝撃的なことである。
「それって、変な気もするけど、恋する電流マシン、頑張ってやっつけないとね！」
「そうですね。一緒に頑張りましょうー」
　年齢は共に１３歳。通常であれば中学生なので、年相応に互いに手を繋いだまま、青い光の満ちる街並みを歩き始める。なお、福岡県においても夜間に中学生が２人でデートしていれば、たちまち不良行為少年と見なさるので、デートするなら昼間にするべきだろう。
「ふう、恋する電流マシン、なかなか、現れませんねー。涼子さんは、疲れていませんか？」
「ううん、ボクは大丈夫だよ。でも、結構、寒いね」
　場所が海辺であるためか、風はそれなりに冷たく吹いている。そして幻想的な世界には不似合いな、缶入り飲料の自動販売機が見える。
「ぜんざい、コーンポタージュに、あまざけですか、ラインナップが偏っていますねー。涼子さんは、何が好きですか？」
「えーっと、ボクは……？！」
　バジルの横で涼子が自販機に収められた見本に目を向けた瞬間、背後から放たれた光が２人を直撃する。直後、足元から脳天に向かって突き抜けるような衝撃に襲われる。
「うわっ、これが、恋する電流ですかー」
　衝撃が通り抜けた直後、バジルの目に飛び込んできた、涼子の姿、その平らな胸や健康的な脚、男子のような立ち居振る舞いがとても愛おしく思えてくる。
「す、すごい、バジルさんって、素敵な人なんだ」
　押し寄せてくる体験したことのない感情に飲み込まれそうになりつつも、恋する電流マシンを睨み据える。
「ダメだダメだ！」
　強く奥歯を噛みしめて、バジルの手を放すと、涼子は地を蹴って駆ける。特殊な電流の効果とはわかっていても小さな胸がドキドキする。これが恋、――切なくも甘い情感を込めた降魔の一撃が恋する電流マシンを強かに打てば、爆炎が噴き上がる。
「このまま一気に行けそうですね」
　間髪を入れずに、バジルの放ったストラグルヴァイン、つる草の茂みの如くに変形した、攻性植物が複雑に絡みつかれて、電流マシンは粉々に砕け散った。
「ようしー、うまく行ったね」
「はい、涼子さん、流石ですね。この調子で頑張りましょう！」
　敵はまだまだ残っている。一刻も早く全部倒して、この綺麗な場所に平和を取り戻そう、決意と不思議な感情の変化と胸に、２人は再び歩き出すのだった。

　バジルたちが連絡を飛ばしたその時、セージ・スピリカ（放浪孤軍・e01759）と、スヴァリン・ハーミット（隠者は盾となりて・e16394）の、戦闘は佳境に入っていた。
「顔色、悪いみたいだけど……気分がすぐれないのかしら？」
　恋する電流マシンの攻撃を警戒し、間合いを広げた、スヴァリンが、精彩を欠くセージに向かって、問いかけた瞬間、恋する電流マシンから放たれた光線が２人に命中する。
「しつこいんだよ。なぁ。こっちはトラウマ抉られて散々なんだよ！」
　セージは心の中で急速に膨らんでゆく、スヴァリンへの感情を留めようと、歯を食いしばり、その苛立ちを宿した瞳で敵を睨み据える。
「なあ、憂さ晴らしさせろよ！」
　流星の如き煌めきを帯びた跳び蹴りを、感情の赴くままに繰り出す。直後、強烈な破壊力を持つ蹴りの一撃をかわしたそれは、ケタケタと笑い声にも似た音を立てながら、小さな刃を投げ返してくる。
　ぶつけどころのない感情があふれ出てくる。瞬間、胸にチクチクとした痛みが走る。
「分かってたんだ。俺はお前が気になって仕方ないし、あぶなっかしくてつい手ぇ出しちまう」
　奇妙な痛覚に自分の胸を見遣れば、おもちゃのような小さな刃が何本も突き立っていた。
「昔の傷も、トラウマも、まだあるから……怖いよ」
　共にそれらを払い落とせば、傷口からだくだくとあふれ出る。
「なに言ってるんだ？　電流のせいだとしても、今日はおかしすぎないかい？」
　強大な力を持つ、スヴァリンの気力溜めが、セージの傷とバットステータスを瞬く間に癒す。
「ぶっ壊れちまえよ、こんなふさげたモンはよ！」
　セージは少し哀しげに、失った二度と戻らぬ何かが、再び失われる恐怖と戦うように、得物を突き出す。瞬間、噴き放たれた、地獄の炎が恋する電流マシンに叩きつけられて、爆ぜる。
　力尽きたように、両膝を着くセージの目線の先で、激しい炎が荒れ狂う。鮮やかな橙の光の中で、恋する電流マシンは細かな灰を巻き上げながら崩れ、消滅してゆく。
「セージ？　敵はもう倒れたよ」
「頼むから――」
　少し休憩しようと、差し伸べられた、スヴァリンの手を振り払いつつ、セージは地べたに腰を下ろす。
「お願いだから、その格好で、優しくしないでくれよ……」
「こんな格好でも――俺は紳士だよ？　紳士だから、俺は君に優しくする……じゃだめかい？」
　それが自己満足であったとしても。相手の意にそぐわないものだったとしても、目の前で誰かを喪うに比べれば、ずっとましかも知れない。
「わかったよ。……勝手の分からない間柄でもないだろ」
「あれ？　ご機嫌斜めかしら？　女性の所作、言葉遣い、間違えてたかな～？」
「うっせえ、連絡だけは入れとくぜ」
　思い出したかのように、撃破の連絡を飛ばすと、２人は次の敵を求めて歩き始める。

　ポケットの中の携帯が２回、コール音を刻む。
「もう４体目が撃破されたようだよ」
　ナガヤ・ランドール（餐う呀・e02992）が発信元を確認していると、霧生・ネイト（リコポリスの死神・e15696）が、おもむろに、手を掴んでくる。
「早いネ、やっぱりカップルを狙うってことだからサ、もっとそれっぽくしといた方がいいかしら？」
　どこまでカップルを演じるかは決めていなかったが、ただ一緒に歩くだけでは、カップルには見えない。
　２人の距離感を近く感じさせることがポイントなのかもしれない。
「へへ、こんなキレイな姉御とタッグ組めるなんて、俺ぁ、幸せだぜ」
　無数の青く幻想的な光が瞬く中、ナガヤの表情が、少年のような輝きを見せる。
　手が触れ合い、肩が触れそうなほどの距離、親しい友だちでもなければ、あまりない距離感だろう。
「こっちこそ、イイ男に拾ってもらったモンだネ。頼もしい限りサ」
「もちろん、背中は任せてよ。しっかり守るからさ」
　言いながら、肩に手を掛けようとさらに近づいてくる。
「あらあら、直球ねえ。でも、アタシがやることに変わりはないよ。暴れて、壊して、楽しむ。それだけサ！」
　ちょっと顔が近づきすぎと、肩に掛けられようとした手を摘んだ瞬間、背後から飛来した電撃が２人に命中する。
「？！」
　背中から脳天に突き抜けるような衝撃に身体は硬直し、苦痛を逃そうと身体を捩らせるしか出来ない。電撃が通り抜けた直後、身体に残るのは熱っぽさと、蜜が溢れるような奇妙な身体の疼きだ。吐き出した白い息の先に見える、青色光に照らし出される互いの顔が、舌を絡め合わせたいほどに愛らしく見えた。
「――これが」
「そうだね。恋する電流の効果ってやつだネ」
　だが２人とも、作り出された衝動に流されることは無い。
「見てな、オレの一番カッコいいとこ見せてやる」
　言って、ナガヤは地を蹴って夜空に跳び上がると、電飾された福岡タワーをバックに落下に転じる。
　スターゲイザーである。
　流星の如き煌めきを纏い、無数に輝く青色の光をその身に受けながら跳び、激しい蹴撃を放つ。瞬間、バリバリと破砕音が響き、恋する電流マシン装甲が破け中のパーツらしきものが砕け飛ぶ。
「脆いネ、一気に片付けようか」
　声の方を見遣ると、ロングウェーブの髪をなびかせ、ネイトが両手にガトリングガンを構えている。
　こいつはヤバい、ナガヤが軽い身のこなしで、恋する電流マシンから離れた直後。
「ファイアー！！」
　唸りを上げて回転する銃身がリズムを刻み、大量の弾丸の連射される。横殴りの暴雨の如き弾丸は命中と同時に爆ぜて炎と恋する電流マシンの破片をまき散らす。
　直後、木っ端みじんに爆ぜて砕けた、残骸は白い煙の漂う中、砂が崩れるように、完全に消滅した。

「２人きりになったとたんに、いきなりビリビリとは情けない……」
　アッシュはやれやれついてないと言った調子で背伸びをすると、瞳李に真っ直ぐな視線を向けた。
「まあ、お前に手番を回してやれなかったのは、すまないと思っているよ」
　視線を向けられた、瞳李は未だ恋する電流の効果が残ったままなのか、ドキリとする。が、その胸の鼓動をごまかすように、冗談めかして言い返す。
「想定外ってやつだ。今日は、急に誘って悪かったな、一度お前と来てみたかったんだ」
　見上げれば、青い星の海に漂っていると錯覚しそうになるほどの無数の青い光、
「アッシュ、そんなに私のことを気にしてくれていたのか……」
「当たり前だろ、いつだって忘れたりしねぇさ」
　アッシュの記憶では、２人は付き合いの長い悪友であり、同僚ともいえる恋愛ではない腐れ縁的な間柄だ。
「しっかし、景色はいいがちと寒いな。トーリ、寒いし、もうちょい近くに寄っとけよ」
　海からの風は冷たく、珍しく下ろされた瞳李の髪も時折乱れ揺れている。
「確かに少し寒いな。お前は温かい」
　白く変わった吐息が風に散る。確かに、長身のアッシュに近づくと、風が遮られるような気がした。
　事情を知らない者が見れば、正にキスシーンにでも突入しそうな雰囲気であるが、二人が気にしているのは、あくまで互いの『照れたら負け』という暗黙の勝負ごとについてであり、情念に負けて告白している訳ではない。
　そんなタイミングで死角から放たれた、恋する電流がまたしても２人を直撃する。
「なんてこった、今日二度目の、獲物のお出ましだ」
　当たりさえすれば、強力なデストロイブレイドの一撃が外れて、地面にクレーターのような窪みを作る。
「サポートしてやるから存分に暴れろよ」
　口惜しそうなアッシュの声に応じつつ、瞳李が振るう縛霊手が、破壊の力に変えた、グラビティチェインと共に強かに打ちつけられると、恋する電流マシンは火花を散らして煙を上げる。
「フッ、今度もお前の出番はなさそうだな？」
「いいや、今回はそうでもなさそうだ」
　夜空に跳び上がったアッシュは言い放ち、流星の煌めきに重力を宿した一撃をボロボロになった恋する電流マシンに蹴り込むと、直後、大爆発が起こった。
「正気に戻れ……！」
「ありがとう。冷たさも暖かさも、お前らしい反応なんだな」
　直後、拳に込めたグラビティチェインの癒しの力を打ち込んで、アッシュを治療した瞳李の顔が笑む。
「すまん。お前の異様な姿に拒否反応が出ただけだ」
「拒否反応ってひでぇな！？　ちょっとふざけただけだっての！」
　癒しの技を返しつつ、連戦の疲れを労うようにアッシュも笑うと、撃破のコールを飛ばした。

「残り１体みたい。えへへ、邪魔が多かったけど、こうして大手を振っていちゃいちゃ出来るなんて素敵な夜だね」
　この時点で２体の恋する電流マシンを破壊した連が、今度こそ大丈夫だろうと緊張気味に話を切り出す。
「まだ油断はできませんが、せっかくこういう場所に来たんですし、楽しむのもいいですね」
「……愛してるよ、ベッカ」
　何度も深呼吸をして、やや口調を強張らせながら、連は言い放った。
　直後、レベッカは面食らったような表情見せるが、間もなく真っ直ぐに顔を見つめなおす。
「私もレンのこと好きですよ。ちゃんと特別な存在です。……でも」
　連の言葉をしっかりと受け止めたからこそ、愛を語ったり、恋人の契りを結んだりするのは早いと、誤解が無いようにハッキリと告げる。
「レンは高校を出たら、何をしたいのですか？」
「まだ、ハッキリしたことは言えないかな……」
　ケルベロスである限り、仕事に困ることは無いが、誰かと愛し合うということは、将来に渡って共に歩み続けたいと言う意味合いもある。若さゆえの感情を一歩先のステージに進めるには時間以外のハードルもあるのかも知れない。
「風が冷たいね。コートに一緒にくるまっていい？」
「うん、いいですよ」
　気持ちは伝わっていて、今はそれを受け入れてくれている。
　大好きなレベッカのぬくもりを間近に感じながら、更に身体を近づこうと腰に手を回そうとした瞬間。
「あっ？！」
　物陰から放たれた、電撃が２人に命中する。
「３度目って……、いちばん良いところで、冗談やめてよね」
　恋する電流の影響で、切なさは最高潮に達するが、それが作られたものだと分かっているから尚更、とてつもなく腹が立ってくる。
「それでは、撃ちますよ」
　流れるような動きで構えたレベッカのバスターライフルが極太の光条を放つ。その光を追うように、肉食獣の如きしなやかな身体のバネで跳んだ連が敵との距離を一挙に詰める。
「我が前に塞がりしもの、地の呪いをその身に受けよ！」
　レベッカのビームが恋する電流マシンを焼く中、結晶化させた手を握りしめ、その拳を斜め上から叩き付ける。瞬間、吹き上がる透明な破片を含む爆発が起こり、貴石化した破片とパーツとが夜空高く跳ね上がった。
「まだまだ、終わらないよ！」
　さらに怒りを孕んだ拳の連打は続く。
　激しく地面に叩きつけられ、滅多打ちに打ち据えられて。逃れられない破壊の運命の物悲しさを漂わせながら、助太刀に駆けつけた、ケルベロスたちの目の前で、原形を留めないほどに砕かれた敵だった物体は、その存在感を薄れさせて消滅した。

「これで全部ネ。お疲れさま、あら？　お邪魔したかしら。あっはっは、ごめんなさァい」
　楽し気に声を掛けてくるネイトに、またしても良いムードになり損ねたと連は頬を膨らませた。
　間もなく１０人のケルベロス全員が合流する。見れば全員がペアのまま、仲良く来てくれたことが何よりも素晴らしい。
　かくして８体すべての恋する電流マシンは破壊され危険は無くなったと、安全が宣言される。
　残されたイブの夜。
　本当の幸せな時間はここから始まる。

作者：ほむらもやし	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月8日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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