「みなさん、集まっていただいて感謝っす。……いや、もう、ほんとにこんな日に任務でお呼び立てして、ほんっとうに申し訳ないっす……」
ヘリオライダーの黒瀬・ダンテが、心なしかいつもよりも深々と頭を下げる。
12月24日。そう、今日はクリスマス・イブ。多くの人々、特にカップルたちにとっては特別な日である。だが、城ヶ島の螺旋忍軍拠点から回収した秘密書類を解析した結果、新たなダンジョンが発見されたという知らせを、ケルベロスとして放っておけるはずがない。
その気持ちを感じとったのか、ダンテは少しほっと息をつき、説明を始める。
「はい、先だってお知らせした通り新たなダンジョンが発見されたんっすけど、実はそれは、体内に残霊発生源を内包した巨大ダモクレスが破壊された姿、だったんすよ」
何でもこのダンジョンは、現時点でも修復中であり、ダモクレス勢力に協力している螺旋忍軍の一派によって隠蔽されていたため、今まで発見されることがなかったのだという。ダンテが続ける。
「ダンジョンの探索の結果、このダンジョンの修復には『つがいである2体の人間を同時に殺害して合成させた特殊な部品』が必要で、その部品を回収するために、日本各地に部品回収用のダモクレスが配置されている事が判明したんっす」
つまり、ダンジョン探索により、この『回収用ダモクレス』の潜伏箇所が判明したので、これ以上、殺されて部品化されるカップルが出ないように阻止したい、というのが今回の任務のようだ。
ケルベロスたちが頷くのを確認し、ダンテは手元の資料に目を走らせる。
「この『回収用ダモクレス』、戦闘力は高くないんすけど、隠れるのが上手くて『ダモクレスの電流』を浴びせられない限り発見することが出来ないんっす。つまり、ダモクレスが『人間のつがい』であると判断するような関係性のある者達か、一時的にでも、そのような状態を演出する事ができるケルベロスが作戦に参加する必要があるってことっすね」
平たく言えば、カップルで行動すればダモクレスに狙われるため、戦うことができるようになる、ということだ。
「この回収用ダモクレス……ええっと、仮に『恋する電流マシン』って呼ばせてもらうんっすけど、1か所のデートスポットに8体潜んでいることが分かっているっす。だから、8組のカップル、あるいはカップルに偽装したケルベロスが満遍なく捜索する事で、全ての『恋する電流マシン』を破壊する事が可能、ってことっす!」
8体の『恋する電流マシン』と『8組のカップル』。ケルベロスたちが情報を頭に刻み込む横で、ダンテは前方のスクリーンを操作し、美しいイルミネーションの写真と、ある場所の地図を映し出す。
「ここにいるみなさんに向かってもらうのは、栃木県足利市にある『あしかがフラワーパーク』で夜間に開催されているイルミネーション、『光の花の庭』っす」
喋りながら、ダンテはスクリーンの写真を切り替えていく。1000平方メートルもの広さに枝を広げた「奇蹟の大藤」に施された美しい藤色のイルミネーションに、色鮮やかな光を放つバラ園、大きな湖に映る光の絵――。まさに『光の庭』の名に相応しいその光景に、しばし皆見入る。
「この園内を、いい感じの雰囲気をかもし出してカップルらしく歩き回れば、ダモクレスが『恋する電流』を浴びせかけてくるばず。みなさんには、その電流の発生源を確認して、戦闘を挑んで欲しいんっす」
全て撃破することができたら、その後は園内を自由にデートしてもらってOKっす、とダンテは付け加える。
そして改めてケルベロスたちに向き合うと、ダンテは力強く拳を握りながら語りかける。
「カップルを殺して部品にしようとするなんて、言語道断! みなさんの愛の力で、悪い奴らの企みを阻止してほしいっす!」
どうか、よろしくお願いします! と勢いよく頭を下げた。
参加者 | |
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一恋・二葉(蒼涙サファイアイズ・e00018) |
氷上・結華(シャドウエルフのミュージックファイター・e02351) |
ルコ・エドワーズ(六肢の聲・e02941) |
眞山・弘幸(業火拳乱・e03070) |
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410) |
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856) |
花守・すみれ(菫舞・e15052) |
神喰・鈴(月猫・e17026) |
12月24日の夜、16人のケルベロス達があしかがフラワーパークへと到着した。メッセージアプリのIDを交換し、正面ゲートと西ゲートの二手に分かれて進んでいく。
●
ルコ・エドワーズ(六肢の聲・e02941)はイブ・アンナマリアと共に西ゲートからすぐの池の近くにいた。
「寒いでしょ、おそろいのマフラーと手袋貸してあげるね」
ルコはアンナに丁寧にマフラーを巻き、両手に手袋をはめる。
「ありがと。でも僕はこっちの方がいい」
アンナは手袋を片方外し、ルコと手をつなぐ。
「ふふ、イブにアンナとデートできるなんて嬉しいな」
その言葉とほぼ同時、だった。2人の間に一瞬強い静電気のような物が流れたかと思うと、今まで何もなかった空間に恋する電流マシンが出現した。
「野蛮なダモクレス、アンナには手を触れさせないからね」
ルコは不敵な笑みを浮かべると、早速気咬弾を撃ち込む。敵もエネルギー弾で応戦するが、2人とも素早くその攻撃をかわす。
「……僕が歌うと、ルコが嬉しそうだから」
アンナは静かに息を吸うと、美しい調べを紡ぐ。その曲は『ばらの騎士』。歌い終えて彼女が敵に口付けすると、密かに含ませた毒が敵の体を緩やかに蝕んでいく。妖しくも美しいその光景を見て、芸術家気質のルコは満足気に口元を緩ませる。
しばし攻撃の応酬が続いた後、弱ってよろめく敵にルコが囁く。
「――おいで、僕の君だけの場所だ」
敵が吸い寄せられた先にあるのは巡らされた糸。それは敵の自由を奪い、息の根を完全に止めた。
「僕たちにかかればダモクレスなんて一瞬でボコメキョ、だね」
ルコは携帯を取り出すと、撃破完了のメッセージを送信した。
●
同じ頃、氷上・結華(シャドウエルフのミュージックファイター・e02351)は、ダンジョン探索仲間のアルカナタ・ナイカードと共に、無数の黄金色の光が美しいきばな藤のトンネルを散策していた。男性と歩くのに慣れていない彼女は、リードを任せてトコトコと付いていく。
「結華嬢の気分転換にデート……という設定だけど、そこまで考える必要はなかったかもしれないね」
アルカナタは隣にいる少女を見る。さらさらとした白い髪は、今日は二つに結ってある。可憐な少女と散策する事自体は役得といえるかもしれず、悪い気はしない。上機嫌な彼をじーっと結華は見つめる。
「入り口で、周りの人がアルさん、ろりこんっていってたけど、わたし、たべられる、です?」
アルカナタが答えあぐねていると、2人の間にビリッと強い衝撃が走る。
「みつけた、です!」
結華の指差す方向には、武器を構えたダモクレス。
「こういう時は男に格好つけさせてもらえるかな?」
言うが否や、アルカナタが剣を手に素早く敵の前に躍り出、結華も螺旋氷縛波で追撃する。
しばらくの間、激しい斬り合いが続いたが、不意にアルカナタに向けて魔法光線が発射された。結華は咄嗟に彼を突き飛ばしてその攻撃を受ける。
「……みぅ、いたいのは、だめーなの、ちゃんと、お兄ちゃん、守る、の……です」
赤い瞳を潤ませながらも、結華は癒しの調べを歌う。
その様子を確認したアルカナタは武器を構え直し、敵へ飛び掛る。
「喰らえ、輪廻の血刃――!」
自らの血液を凝縮した無数の刀剣が敵に降り注ぐ。彼が生命力を回復させた時、敵の姿は霧となり消えていた。
戦闘中の恥ずかしい発言が今頃になって蘇ってきて、結華は思わずアルカナタをぽかぽかと叩いてしまうが、彼は優しく微笑んでいるのみだ。
「むぅ、このあと、なにかする、です?」
少し頬を膨らませつつも結華が尋ねる。
「ああ、付き合うとも。どんな事になろうとも……!」
固く決意する彼もまた、シビレ罠にかかったままなのかもしれなかった。
●
「あ、あれ見たかったの! 青泉さん、こっちこっちー!」
「……あ! 待ってください!」
園内のほぼ中央にある奇蹟の大藤に駆け寄る花守・すみれ(菫舞・e15052)を青泉・冬也が追いかける。
この場所が大好きで、ずっとイルミネーションの時期に来たいと思っていたすみれ。冬也が追いつくと、彼女は青い瞳をきらきらと輝かせながら大藤に見入っている。そんな彼女に思わず見惚れてしまった冬也ははっとし、急いで大藤の方に顔を向けた。
しばらく2人で眺めていたが、ダモクレス出現の気配はない。――思い切ってすみれは冬也の手を握る。突然のことに驚く間もなく、2人に電流が襲い掛かり、その視線の先には電流マシンが現れていた。
「……偽装や電流は関係ない、これ以上すみれに手出しはさせない……!」
冬也が叫ぶ。――呼び捨てなのは電流の効果、だろうか?
そんな彼にときめく自分が恥ずかしくて、真っ赤になりながらすみれは自分をキュアする。
瞬く間に辺りには互いの武器がぶつかり合う金属音が響くのみとなった。しばし後、相手の体力が残り僅かなことを見て取ると、すみれは手にした矢に力をこめる。
「この世はあはれと言うならば、ご覧いれましょ夢想花火」
矢が放たれた瞬間青い火花が散り、敵を射抜くと同時に全身を焼き尽くした。――撃破成功、である。
●
一方その頃、一恋・二葉(蒼涙サファイアイズ・e00018)はアイビー・サオトメと共に正面入口付近の小道を歩いていた。丘を彩る銀河鉄道や大きな虹のイルミネーションに歓声を上げる様子にはまだ少し幼さも見え隠れする。
と、突如として2人に激しい衝撃が走る。その直後、目の前に敵が出現していることに気付き、武器を構える。
「アイビー、絶対に二葉の前に出るんじゃねーぞ、です」
気になる男の子の前でいつも以上に張り切る二葉が、自らの全身を炎で覆う。アイビーも軽く頷くと一歩後ろに下がり、光の壁を出現させた。
「こいつは寂しそうで、泣きそうでっ、二葉とおんなじだからっ、一緒にいてーんです!」
叫ぶと同時に、地獄の炎弾を放つ。相手が負けじと放った凍結光線は二葉を直撃してしまったが、すかさずアイビーが回復する。
「二葉さんはボクにやさしくて、かっこよくて、でも寂しそうなのはボクと同じで……ずっと一緒にいたい人なんです!」
その言葉にどきっとするが、恥ずかしくて後ろを向けない。代わりに、気持ちを目前の敵にぶつける。
「二葉が守ってやりてーんですっ、温かくて、笑ってるとこが好きで、抱きしめてーんです!」
激しい一撃が敵を貫く。よろめく敵を二葉が睨みつける。
「……なんか文句がありやがりますかっ!」
自らの周りの氷ごと砕くかのごとく、炎を纏った強烈な一撃が敵に命中する。それがトドメの一撃となった。
戦闘後、メールし終えた二葉がふと顔を上げると、自分を見つめるアイビーと目が合った。急に気恥ずかしくなって、二葉は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。そんな彼女に、アイビーは頬をを赤らめながらも必死に言葉を紡いだ。
「あ、あの! お願いしたいことがありまして……一緒にいるために、手を、繋ぎたいのです……」
思わず、二葉はきゅんとなる。まだ顔は直視できなかったが、
「し、しかたねーですねっ、はぐれたら大変だから、つなぐぞ、ですっ」
ぎゅっとアイビーの手を握り、2人で歩き始めた。
●
高さ23mのシンボルタワー近くの桟橋に、寄り添う二つの人影がある。フリルで縁取られたワンピースにファーストールを合わせた神喰・鈴(月猫・e17026)と、いつものスーツ姿にクリスマスプレゼントのグレーのマフラーを巻いた鶫屋・雅胤だ。
(「ダモクレスが出てくるまでは、デート気分でいいよね……?」)
2人が恋人同士になったのは今年の秋のこと。まだ照れの残る鈴がそっと雅胤の指を握ると、ごつごつした掌が優しく、しかししっかりと自分の手を包み込んでくれる。その温かさが心にも染みていく。
「ちょっと寒いけど、綺麗だね、雅胤」
「ああ、そうだな――」
2人が見つめ合った、その瞬間。不意に閃光が2人を襲い、前方の草むらからガサガサ、と不穏な音がする。
「――な、何か来た、よ?」
横にいる雅胤が両手の銃から大量の弾丸を連射した。その姿にときめく鈴だったが、急いで雅胤にキュアをかける。続いて自分にもキュアをかけようと集中力を高めていた時、敵の銃口からエネルギー弾が発射された。
「雅胤っ……!」
咄嗟に鈴は雅胤を庇っていた。慌てて雅胤は恋人の元へ駆け寄ると、その身を抱き寄せる。
「俺のためにこんな無茶をするな……!」
その言葉に胸を熱くしながら、鈴は答える。
「大好きな人を、傷つけさせは、しないよ」
「だが……恋人を盾にするっつーのは、プレッシャーだな」
「大丈夫、雅胤が倒してくれるって信じてる」
にっこりと微笑み自分をキュアする鈴に雅胤は固く頷く。その後は雅胤の怒涛の攻撃と鈴の回復のコンビネーションで敵に付け入る隙を与えず、ほどなくして完全に電流マシンは機能停止した。
「ね、怪我もないでしょ? その……ちょっと恥ずかしかったけど、全部終わったらイルミネーション、見に行こう?」
鈴は再び雅胤の手を握り、彼の顔を見上げて笑う。
「分かったから……さっきのは頼むから忘れてくれよ……」
恥ずかしさから完全に目線が泳いでいる雅胤だったが、固く彼女の手を握り返す。互いのぬくもりを感じながらゆっくりと歩みだす2人を、タワーの煌びやかな光が優しく照らしていた。
●
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)と上里・ももは、お揃いのマフラーを身につけて腕組みをし、光り輝く白藤のトンネルを笑顔で寄り添いながら歩いている。
「よーし、おもいっきり遊ぶぜー!」
組んでいない方の腕を高々と上げるももの隣で、物九郎は、ふと心配そうに彼女を見る。
「今回カップル役お願いしちまいましたけども、アイドル的に大丈夫なんでしょうかや?」
「あー、そうね? まあ、バレなきゃおっけーよ」
ウインクしながら指でマルを作る。アイドルとしての姿とギャップがあるが、無邪気にはしゃぐ姿もまた、彼女の一面なのかもしれない。
そんな折、不意に2人の視界が真っ白になる。光が収まると、トンネルの少し先に見慣れない機械がいた。
「ああーっ、あそこ!」
しかし、運悪く敵の方が先に2人を射程に捕らえており、構える前に魔法光線が発射されてしまった。
「きゃっ!」
攻撃を避けようとして、ももの体勢が崩れる。すかさず物九郎は腰を抱きとめて、彼女が転ぶのを防いだ。
「……誰の女に手ェ出したか分かってるんスか、テメエ」
敵のこの攻撃で、物九郎の闘志に火がついた。くっと瞳孔が開かれた次の瞬間、彼のオーラが敵に喰らい付いていく。
一方、体勢を立て直したももは赤いギター型シンセサイザーを構える。
「今回、特別に作った『恋する電流(ラブマシ-ン)』、思い切り歌ってやんよ!」
そして複雑なコードの和音を器用に奏でると、それに乗せて歌い始める。
『気持ちが変われば、世界も変わって見えるよ。私たちはいつだって、世界を変えられるんだ』
彼女の歌声で力を得た物九郎ともものオルトロス・スサノオも、技を次々に繰り出す。そしてついに、
「ブチ壊してやりまさァ! ブチネコだけに!」
確変1.0――物九郎の秘奥義が敵にトドメを刺した。
報告メールを送り終えた物九郎は改めてももに向き直る。
「戦いが終わったら、折角ですしこのままそのヘン見物してきましょうわ!」
「おうよ、クロちゃん!」
2人は再び腕を組み、賑やかに歩いていく。
●
「さあ、姫君。お手をどうぞ」
光のバラ園では、男装したセレナ・アデュラリアが恭しくお辞儀をしながら、阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)に手を差し出す。その手を取りながら、真尋は目の前の人物をしげしげと見つめる。
セレナは黒のトレンチコートで体型を隠し、少しヒールが高めのブーツを履いて凛々しい騎士となっている。一方の真尋は、女性らしく上品な感じのネイビーのコートに白いニットとスカート。歌を生業としている彼女はさながら歌姫といった風情である。
(「騎士と歌姫……今回の依頼にぴったりの組み合わせ、じゃないかしら?」)
そんなことを考えながら一緒にイルミネーションを眺めていると、ふ、とセレナが微笑む。首を傾げる真尋にセレナは優しく語りかける。
「いえ、夢中になっている姿があまりにも可愛らしかったもので、つい」
「可愛いだなんて……そんな風に褒めてもらえて私は幸せ者ね」
真尋もにっこりと笑顔で答える。すると、セレナはさらに言葉を重ねる。
「どの光の花も美しいですが、真尋嬢の方が綺麗ですよ」
臆面もなく賛辞を囁くセレナに呆れつつも、真尋は満更でもない様子で照れている。
その時、だった。バラの茂みから強力な電流が2人に襲い掛かる。真尋は瞬時にその発信源を追跡し、敵を発見する。すぐさまセレナが剣を抜いた。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
凛とした声が彼女にかかっていたバッドステータスをも吹き飛ばす。その間に真尋とライドキャリバー・ダジリタは迎撃体勢を整え、真尋が一気に集中力を高めると、敵を中心に爆破が起こった。
2人に銃口を向ける敵にセレナが氷を纏った剣で斬りかかる。その後も攻撃するセレナをサポートしながら、チャンスがあれば真尋とダジリタも追撃することしばし、ついに真尋の渾身の一撃が敵の息の根を止めた。
仲間に撃破の報告のメールを送ると、真尋はセレナに微笑む。
「……お疲れ様。全部の敵を倒したら、もう少し園内を見て回るのもいいわね」
セレナも笑顔で頷き返した。
●
光のピラミッドのエリアには、腕を組みながら恋人のフリをする眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)と鶸・翡翠がいた。
「マスター、今は眞山さんって呼んでも構いませんか?」
「ああ、良いぜ」
軽い調子で答えるが、すぐにばつの悪そうな表情で続ける。
「なかなか一緒に居られなくて悪いな」
翡翠は苦笑しながら答える。
「いえ……今こうして一緒に居れるだけで嬉しいですから」
「そうだな。こうやって一緒に過ごす時を大切にしたい」
腕を組んでいるせいで、囁くような声でも息遣いまで感じられる。
「……ずるいですよ。そんな風に言われたら……」
恥ずかしそうに俯く翡翠の横で、弘幸は敵が現われないことに焦りを感じていた。
すると彼は一つ息をつき、翡翠を抱き寄せる。
「……作戦とはいえ、すまんな」
「……気にしないで下さい、眞山さん……」
翡翠はそっと目を閉じる。しばらく経った時、2人を白い閃光が襲う。は、と顔を上げると、視線の先には敵がいた。
「さっさと出て来い、待ちくたびれただろうが」
一気に表情を険しくした弘幸の拳が炎に包まれる。
「さ、やりますかね」
翡翠が静かに武器を一振りすると、2人に癒しの雨が降り注ぐ。
その後は2人で協力して堅実にダメージを積み重ねていき、みるみるうちに相手は弱っていった。
「避けられるもんなら避けてみな」
地獄の業火を纏った弘幸の左足が敵を叩き伏せる。それがトドメとなった。
弘幸がアプリを確認すると、既に7通の完了メールが届いていた。
「どうやら俺達が最後だったようだな」
メールを送信した弘幸に、翡翠はそれとなく話しかける。
「マスター、折角ですからよければ一緒に見て回りませんか?」
「そうだな、回るか。――手を繋いでな」
呼び方が元に戻っている翡翠を見て、弘幸は悪戯心を垣間見せる。翡翠は驚き、赤い顔を背けた。
「……繋ぐのは構いませんが、バッドステータス、回復してませんでしたか?」
くくく、と弘幸は目を細める。
「クリスマスには心を惑わす魔法があるんだろうさ」
繋いだ手と手。水面に映る2人の影は、さざ波でゆらゆらと一つに溶け合って行く。
●
8体の恋する電流マシンを無事に撃破したケルベロスたちは、思い思いに園内を散策していた。
ルコとアンナは手を繋ぎ、スターライトマジックのエリアを歩く。数多の星を模した光の流れが水面にも映り、その煌きはますます増して幻想的な光景となっている。
「アンナ! 見てみて。イルミネーション、綺麗だよ!」
いつもは生意気なルコも素直に気持ちを口にしている。
「僕んちのほうじゃ、こんなの見れなかったし……君と見れて良かったな」
その言葉に、アンナはいつもの無表情を少しだけ解く。
「……きれい」
そう呟くと微笑み、つないだ手をちょっぴりぎゅ、と強くした。
「さっきは勝手に手を握っちゃって、本当にごめんなさい!」
大藤の下ですみれが頭を下げるが、一方の冬也も自分の台詞に頭を抱えていた。
「い、いや、その……とりあえず、顔を上げてください、ね?」
2人の視線が交錯する。
「ここに来たかったからつい依頼受けちゃったけど、一緒に見られて嬉しかったよ……ありがとね、青泉さん」
「こちらこそ、素敵な場所に誘ってくれてありがとうございます」
どちらも照れているその雰囲気がくすぐったくて、すみれは元気な声を出す。
「あ、甘いものでも食べて帰ろっか!」
「いいですね、折角ですから奢りますよ?」
歩いていく二人の距離は、最初より少しだけ近づいていた。
ぴん、と張り詰めた冷たい空の下、無数の光が足利の花の庭で瞬く。
来年もまた、一緒にこの景色を見られますように――その密やかな願いを映し出すように、水面が静かに揺れていた。
作者:東雲ゆう |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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