恋する電流マシン~冬の桜にトキメイテ

作者:柊透胡

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 タブレットから顔を上げた都築・創(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達を静かに見回した。
「サンタクロースからの物騒な贈り物、とでも言いましょうか……12月24日に発見された新ダンジョンについてです」
 新たに発見されたダンジョン、それは、破壊された巨大ダモクレスで、体内に残霊発生源を内包している。
「このダンジョンは、ダモクレス勢力に協力している螺旋忍軍の一派によって隠蔽されていた為、今まで発見されませんでした」
 その実、新ダンジョンは、先頃の城ヶ島制圧戦における螺旋忍軍拠点から回収した秘密書類を解析した成果と言えよう。
「問題は、この巨大ダモクレスが現時点でも修復中である事です」
 修復には『つがいである2体の人間を同時に殺害して合成させた特殊な部品』が必要であり、その部品回収の為、日本各地に部品回収用ダモクレスが配置されているというのだ。
「この事件を起こしているダモクレスは、デートスポットとされる場所に潜伏しています。その場所を訪れるカップルの恋心を増幅させ、部品に相応しい精神状態にする電流を浴びせた後に殺害、部品としてしまうようです」
 何だか、通常の依頼とは毛色が変わった雲行きになりそうだが、ヘリオライダーのビジネスライクな口調も、お堅い表情も相変わらず。
「これ以上、部品化されるカップルが出ないよう、部品回収用ダモクレスを掃討するのが今回のミッションとなります」
 タブレットの画面をスクロールさせ、粛々と説明を続ける創。
「部品回収用ダモクレスの戦闘力は、さして高くありません。一方で、隠密性は高く、ダモクレスから電流を浴びせられない限り、発見は不可能です」
 つまり、部品回収用ダモクレスが『人間のつがい』であると判断するような関係性のある者達か、一時的にでも、そのような状態を演出出来るケルベロスが作戦に参加する必要がある。
 ――要するに、『カップルでの参戦』が必須な訳だ。
「尚、部品回収用ダモクレスは、その能力から『恋する電流マシン』と仮称する事とします」
 1箇所のデートスポットには、8体の『恋する電流マシン』が潜伏しているという。
「ですから、8組のカップル、或いはカップルに偽装したケルベロスが満遍なく捜索する事で、全ての『恋する電流マシン』を破壊出来る計算ですね」
 恋する電流マシンは『バスターライフル』のグラビティを使用する。強敵ではないが、ケルベロスも2人で戦う事になる訳で。
「ヘリオンの演算によれば、ダモクレス1対ケルベロス2の戦力は互角です。油断は禁物でしょう」
 続いて、創はケルベロス達にプリントを配る――東京都品川区にある、区立五反田ふれあい水辺広場及び目黒川沿道の簡易MAPだ。
「皆さんに向かって頂く地域の周辺地図です。ご参照下さい」
 そのデートスポットでは、知る人ぞ知るウインターイルミネーション『目黒川みんなのイルミネーション2015』が催されている。
「このデートスポットを『カップル』らしく散策すれば、ダモクレスが『恋する電流』を浴びせ掛けてくる筈です」
 後は、その電流の発生源を確認し、対決すれば良い。
「既に一般人は一時的に避難させています。つまり、ケルベロス以外は無人の状態ですので、必然的に16名のケルベロスのみが狙われる事になります」
 『目黒川みんなのイルミネーション2015』は今年で6回目を数え、街の景観資源を活かした冬の風物詩となっている。「みんなで街への愛着と誇りを育んでいきたい」という想いから始まり、イルミネーションの電力発電には、開催エリア周辺の家庭や飲食店から回収した使用済み食用油から精製するバイオディーゼル燃料のみを使用している。
「そのエコロジーな光景は……一言で例えるならば『冬咲きの桜並木』ですね」
 五反田ふれあい水辺広場を中心に、目黒川沿いの桜並木をオリジナルの桜色LEDで装飾、イルミネーションによる『冬の桜』を演出する。いっそシンプルな色使いながら、優しいピンクに染まったメルヘンの世界をそぞろ歩けば、癒される事請け合いだ。
「カップルを殺して部品にするなど許せない所業ですし、強大なダモクレスの修復は阻止すべき事案です。年の瀬の忙しい折ですが、どうぞ宜しくお願い致します」
 あくまでも生真面目に締め括るヘリオライダーを余所に、何処か楽しそうに手元の地図を眺めるケルベロス達だった。


参加者
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
星野・優輝(新米提督の喫茶店マスター・e02256)
クラウス・アナスン(性悪の即興詩人・e03466)
ヴォルフ・シュヴァルツ(黒牙は影を縫う・e03804)
タマコ・ヴェストドルフ(少女迷宮・e04402)
杉崎・真奈美(沼エルフ・e04560)
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)
烏丸・鵺(ライディーンクロウ・e14649)

■リプレイ

●目黒川みんなのイルミネーション2015
 聖夜に咲き誇る冬の桜――『目黒川みんなのイルミネーション2015』は、知る人ぞ知るウインター・イルミネーションの1つ。
 「みんなで街への愛着と誇りを育んでいきたい」という想いから始まり、五反田ふれあい水辺広場を中心に、目黒川沿いの桜並木をオリジナルの桜色LEDで装飾。イルミネーションの電力発電には、開催エリア周辺の家庭や飲食店から回収した使用済み食用油から精製するバイオディーゼル燃料のみを使用している。
 ――とまあ、そんな開催の趣旨とかエコロジーな事情とかは、この際、恋人達にも、ダモクレスにも、あんまり関係なかったりするのだけど。

●鵺とデジルの場合
 ふれあい広場に彩なす柔らかなピンクの桜と黄金の芝生のイルミネーションは、優しく温かく、訪れるカップルに照り映える。
「きゃー♪ 見て見て鵺くん、桜みたいな光が凄く綺麗♪」
 長身の烏丸・鵺(ライディーンクロウ・e14649)の腕に細身をすり寄せるように抱き付き、デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)は歓声を上げた。
「攻撃を食らうといちゃらぶ度アップでやすか……あっしとデジルには必要ないかもでやすねぇ」
「そうかもねー。でもまあ、それならいつも通りでいいじゃない♪」
 最初は手を繋ぐ心算だった鵺だけど、顔を会わせればハグするのも常ならば、スキンシップは大歓迎。
(「こう、電流だけ平和利用できれば少子化対策にもなりそうでやすが……」)
 だが、相手はダモクレス。人の恋路を邪魔するならば、きっちり始末をつけてやろう。
「あっしとデジルのいちゃらぶ戦法に括目するざんすよ」
「んふふふ♪ せっかくのステキな夜だもの。部品化なんてさせないわ」
 囁くような会話自体はケルベロスらしい剣呑を帯びているが、傍から見れば、紛う事無きいちゃらぶカップル。
「あ、ほら。あそこのLED、桜の形してるでやすよ」
 もっともっと、温もりを求めてぴったり寄り添えば――唐突に走った『何か』の衝動のまま、鵺はグイッとデジルの腰を引き寄せる。
「ハグとキスだけじゃ足りなくなってきたかもしれやせんねぇ」
 囁く声は、熱い吐息混じり。そのまま、甘やかに小さな耳朶を噛む。
「……その、なんでやすか。ゆるゆるカップルから、一歩進んでみやせんか?」
「あら、いいの?」
 やはり身体に走った刺激に、微笑するデジル。その艶美はサキュバスならではか。
「私、欲望第一主義だから色んな男の人を誘惑したりするけど」
 絡みつくように鵺の首に腕を回し、吐息入り混じるまで顔を寄せ合う。
「それでもいいなら……いいわよ♪」
 私の欲望、『貴方とずっと一緒にいたい』を貴方に――人目憚らぬ深い深いキス。
 ……まあ、見ていたのは恋する電流マシンと。奔るバスタービームから相棒を庇ったビハインドのジサマだけだけど。
(「まあ、何ともはや。襲われた当人達にとっては嬉し恥ずかし、そして地獄への直行便……というお相手でやんすねぇ」)
 デジルと唇を重ねたまま、リボルバー銃を抜く鵺。無造作に引かれるトリガー――よもや、地面を抉った跳弾が敵を貫こうとは。
「私達の欲望まで曝け出しちゃったわね、鵺くん♪」
 名残惜しげに、恋人から離れたデジルのエアシューズが唸りを上げる。
 身構えるジサマの肩越しに弾幕を張れれば良かったけれど、活性化していないものは仕方ない。代わりにグラインドファイアを敢行する鵺に続き、今しも受けたばかりの恋する電流までもその身に取り込み、バチバチと放電するデジル。
「我が取り込みし魂の残滓よ、刹那に我に宿り力をよこしなさい?」
 息の合った連携に、恋する電流マシンは冷や水ならぬフロストレーザーで対抗するが……ジサマの盾がそれを許さず。
 交錯した鵺のレゾナンスグリードとデジルの旋刃脚が、鋼の機構を完膚なきまでに叩き潰した。

●優輝と真奈美の場合
「……1体撃破したようだな」
 今しも、片目を瞑っていた星野・優輝(新米提督の喫茶店マスター・e02256)の言葉に、杉崎・真奈美(沼エルフ・e04560)は笑顔で愛しい彼を見上げた。
「私達も頑張ろうねっ!」
 そうして、手を繋いで歩き出す2人。
 目黒川沿いの遊歩道を彩る冬の桜並木を、揺らぐ水面が眩く映す。
「綺麗だな……」
 冬に咲く満開の光桜は、レプリカントの青年にとって初めての光景。素直な感嘆が零れ出る。
「……あ、もちろん。真奈美が1番だけどねっ」
 キャラメルダッフルコートの下は白のVネックニットセーター、黒のスキニーパンツと冬のコーデもばっちりの優輝。はにかんだ笑顔は……反則。
「えへへ。私もね……」
 寒い筈なのに、頬が酷く熱い。思わず両頬を赤いマフラーに埋める真奈美だけど、繋いだ手はしっかり指を絡め合う恋人繋ぎに。
「何が飲みたい?」
「いっこでいーよ。飲み合いっこしよ♪」
 自販機に立ち寄り、もう1本と財布を探る優輝を止め、真奈美は全く自然な素振りで彼の缶コーヒーを一口――確信犯的間接キス。
 積極的攻勢に出ようとする余り、真奈美は若干、本来の目的を忘れ掛けていた。だから、咄嗟の反応も遅れた。
「危ない!」
「だ、大丈夫!?」
 真奈美を庇った優輝が、文字通り電撃を浴びて硬直する。たたらを踏むのも束の間――心配そうな黒の瞳を真っ向から覗き込み、ふふっと含み笑う。
「え? ど、どしたの、優輝……?」
 思わず1歩後ずさる真奈美を、何時になく強引に抱き寄せる。
「俺が飲ませてあげる」
「ゆーき! ゆ――っ!? んくっ!」
 缶コーヒーを取り上げ一口呷る。優輝から口移しで流し込まれたコーヒーは、灼け付くように甘い。
「真奈美……大好きだよ」
 囁くような至言に、驚愕に見開く瞳が見る見る蕩ける。
「わ、私も……」
 苦くも極甘なキスを夢中で貪る2人――こうなってしまえば、ダモクレスの目論見通りだ。
 2人がケルベロスでなければ。
「キャッ!?」
 恋する電流マシンより奔ったゼログラビトンは、お姫様抱っこで一緒に回避。すかさず気咬弾を放つ優輝をギュッと抱き返し、真奈美のシャドウリッパーが縦横無尽に走る。
「真奈美、もう離さない……ッ!」
 庇う度に恋人を抱き寄せ、或いは抱き上げて――シャウトでハタと正気に戻った優輝の顔が、忽ち真っ赤になる。
(「……俺、何をやった? 何て言った?」)
 それは、目黒川へ思い切り視線を逸らす真奈美も同様で……以降、八つ当たり染みた攻撃がダモクレスをぼっこぼこにしたのは言うまでも無い。

●クラウスとタマコの場合
「デウスエクスも偶には役に立つ物を作りますね」
 タマコ・ヴェストドルフ(少女迷宮・e04402)は上機嫌だった。
「ここにクラウスを連れて来た時点で勝ったようなものです」
「役に立つ? 余計な物の間違いだろうが!」
 浮き浮きした本音が駄々漏れるぐらいに。してやられたクラウス・アナスン(性悪の即興詩人・e03466)は、げんなり溜息を吐いている。
 クラウスとタマコは幼馴染。取り敢えず、恋人同士ではない。断じて、恋人同士ではない!(とても大事なので2回言いました)
(「寧ろ保護者代わりだな。タマコを叱るのって俺だけだし」)
 非常に業腹だが、少しでも早く自立して欲しいクラウスとしては、珍しくケルベロス業にやる気のタマコを置いて逃げるのも憚られる。こうなったら恋人のフリしてでも、忌々しい仕事はさっさと終わらせるに限る。
「クラウス、腕を組んで歩いた方がカップルっぽく見えると思います!」
「こら、くっつくな。歩き難い……」
 作戦という大義名分を大いに利用して、ぴったりとクラウスに寄り添うタマコは黒髪の下でほくそ笑む。
(「憧れのデートスポットで2人きりですし、人払いされているのも最高ですね。正に私の為に用意されたような依頼ですよ!」)
 ちなみに、武器や防具を隠せるのはケルベロスカードならぬコートの方なので、タマコのミミックは少し離れた所から2人を見守っている。
「ほら、桜色のイルミネーションが綺麗です」
(「早く来い、さっさと来い」)
 一方、クラウスにしてみれば、変にリアクションするだけで負けた気分になるし、景色を気にする余裕など勿論ない。
 何と言うか……色んな意味で息詰まる時間はゆっくりと過ぎてゆく。大崎センタービルから歩き出した2人が、ゲートシティ大崎の前まで辿り着いた時。
「あ……っ!」
「はぁ、やっとか……」
 唐突に走る衝撃に、揃って身を震わせる。
「うふふふ」
 幼馴染の白い三つ編みを手に取り、愛しげに頬ずりするタマコ。客観的に見ても、恋する電流状態と素の状態に大差はない。
「クラウス、私の黒髪も一緒に編み込んで良いですか? きっと綺麗です」
「……止めろ、戦い難くなる」
 辛うじて、頭を振ったクラウスだけど……しゅんと寂しげな様子に、思わず彼女の表情を隠す黒髪をワシワシと。何だかんだで、最終的には自分が一番タマコに甘い事に気付いていない。
「まぁ、目的はともかく……真面目に仕事に取り組むのは良い事だな」
「……ッ!!」
 自分からの積極的アプローチやスキンシップなら際限なく出来る。だけど、ちょっとクラウスから頭を撫でられただけで……嬉しさの余り、タマコの顔は真っ赤になってしまう程。
(「クラウスが素面だろうが、恋する電流状態だろうが、どちらにしても役得です!」)
「クラウス、まずは動きを止めますよ!」
 だから、率先して真面目に戦う事で、クラウスにキュアさせないように企んだのだけど。
「馬鹿め! 俺は作戦の成功より体面を重んじるぞォーッ!!」
 心底のシャウトが、夜の静寂に轟く。
 やれやれと言いたげな素振りで、ミミックの小クラウスは主達の盾となるべく、恋する電流マシンへ飛び掛った。

●エーゼットと勇華の場合
(「ダモクレスを倒すためなら仕方ない……いちゃいちゃしなきゃ!」)
 一大決心のようで、何だかスキップしそうな足取りはもうノリノリのエーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)。
「勇華は今日もかわいいね」
 ボクスドラゴンのシンシアが羽をパタパタさせて見上げているのも構わず、恋人の頬をツンツンしたり、ぎゅうっと腕を組んで寄り添ったり。
 ダモクレスを誘き出すという大義名分があるのだから、ここは心置きなく。佐竹・勇華も聖夜のデートを楽しんでいる。
 初々しいスキンシップも微笑ましい15歳と14歳のカップル。だけど、あんまりに自然体過ぎて、ダモクレスも判断を迷ったのかもしれない。
 2人にビリリと衝撃が走ったのは――3体の撃破の報があって、随分と時間が経ってから。
「あ……」
 内心で少し焦っていたから、ホッとしたのも束の間。安堵という柔らかな感情を、忽ち熱情が塗り潰す。
「エーくん、ラブだよ大好きだよ!」
「勇華! 僕だって!」
 飛びついてきた彼女をぎゅうっと強く抱き締めるエーゼット。そのまま、お姫様抱っこでくるくる回れば、少女越しに見える冬の桜も光の尾を引きまるで万華鏡の中にいるよう。
(「本当に、綺麗だ」)
 すりすりしてくる勇華のほっぺたは本当に柔らかくて、桜色に染まる初々しさに胸が締め付けられるよう。だけど、大好き以上に大事にしたいと思っているから、恋する電流に冒されていても、怖がらせるような事は絶対にしない。
「……いた!」
 だからこそ、熱に浮かされず冷静に、桜のイルミネーションに紛れて枝にぶら下がるダモクレスをすぐに発見できた。
「行こう、勇華! シンシア!」
 エーゼットの妖精弓より、時空凍結弾が迸る。その名に違わず、勇ましく華々しく、グラビティを繰り出す勇華。ダモクレスの反撃は、封印箱ごと体当たりしたシンシアが阻んだ。
「咲き誇れ……花弁よ、舞い踊れ……淑女のように」
 エーゼットの茶髪にランタナが咲き乱れるや、舞うように恋する電流マシンへ殺到する。
「届けぇぇぇぇ!!! 勇者ぁぁぁパァァァァンチ!!!」
 視界を阻まれ棒立ちとなる敵影を見逃さず、一気に肉迫する勇華――捻りを加えて放たれる抉るような一撃は突き穿つ勇者の拳。全てを貫く必中の拳は、確実に重力の鎖を恋する電流マシンに叩き込んでいた。

●ヴォルフと未来の場合
 さて、何処に行こうか? ピンクと黄金の彩りが可愛らしい水辺広場の近くをイチャイチャしながら歩こうか。橋を渡って、向こう岸の桜並木のイルミネーションを手を繋ぎながら見るのもきっと悪くない。
「もうキスまでしちゃおうか!」
 いっそ天真爛漫な風空・未来の言葉に、ヴォルフ・シュヴァルツ(黒牙は影を縫う・e03804)は思わず笑みを浮かべた。
「そうだな……依頼とはいえ、折角のデートだ。楽しもうか」
 勿論、大切な大切な彼女を、けして傷つけないようにしっかり守る決意を秘めて。
 固く固く手を繋いで、互いに触れ合う温もりもくすぐったい幸せで。
「綺麗だな……」
 誰がとも何がとも言わない。ただ、うっすらと頬を染めて頷く未来を、万感の想いを込めて優しく抱き寄せる。先程までと打って変わったはにかんだ表情が初々しく、愛おしい。
 鮮やかな冬の桜の下、1つに重なり合う影。『イチャイチャ』という語感は何とも熱を帯びて冬の寒さも吹き飛ばしそうだけれど……行動の内容自体はそれこそ千差万別。ヴォルフと未来の場合も、ちょっと個性が乏しかったかもしれない――恋する電流が飛んできたのは、キスを何度も繰り返して漸くの事。
「カップルといったらこれだよね」
 昂ぶる衝動のまま、小柄な彼女を軽々とお姫様抱っこするヴォルフ。素早く首を巡らせ、果たして、茂みの中からこちらを窺う機械体を発見する。
 未来は庇う。彼女を守るのが彼氏の役目だから――身構えた手足が獣化するや、一気に肉迫。重量ある一撃を繰り出すヴォルフ。
「ガンスリンガーじゃなくても、できる!」
 頼もしい盾越しに、スコープ付きのハンドガンを召還する未来が狙い撃てば、悲鳴のような雑音を上げた恋する電流マシンは、少女目掛けて凍結光線を発射する。
「……っ!」
 だが、すかさずその射線を遮るヴォルフ。ケルベロスコートを覆う氷を見て取り、未来も護殻装殻術を編み上げる。
 フレイムグリード、ブレイズクラッシュを次々と叩き付けるヴォルフに続き、獄炎業炎砲で狙い撃つ未来。肩を並べる2人の攻防に、ダモクレスが付け入る死角は無かった。

●冬の桜夜はまだこれから
 ――いちゃいちゃらぶらぶと撃破された恋する電流マシンは数えて、5体。
 目黒川周辺に潜んでいるのは8体だから、まだ3体残っている計算になる。
「デジル、まだ寒くないっすか。もっと近くに……」
「もー、鵺くんったら大好きー♪」
「真奈美……何度でも言うよ。大好きだ」
「えへへ。ゆーき、私もね……う、んく……」
「クラウス、これは私から……クリスマスプレゼントです」
「あー、まあ、一応礼は言っとく、って……おい、タマコ。婚姻届だろ、これ!?」
 ……まあ、余力ありまくりの面々が、恋する電流パワー全開でぼたくりこかしたよーだから、戦闘模様は以下割愛。
「エーくん、ヒールしてるの?」
「うん。ほら、桜が……勇華みたいに綺麗だから、ちゃんと直さないとね」
 祝福の矢を番えるエーゼットのはにかんだ笑顔に、思わずぎゅーっと抱きつく勇華。
「終わったようだな」
「じゃあ、デート再開だね♪」
 満面の笑みを浮かべて、未来はヴォルフの手を引く。その柔らかな手を握り直し、青年は少女をしっかりと抱き寄せる。
「未来、大好き。愛してるよ」
 再び1つに重なる2つの影を、桜花に綻ぶピンクのイルミネーションが優しく照らしていた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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