猛る戦艦竜

作者:朱乃天

 その日、相模湾は穏やかな日差しに満ちていた。
 今年の冬は例年よりも温かい日が続き、海で漁を行うには申し分のない気候だった。
 一隻の漁船が漁を終えて戻ろうとした時――突如、前方の海面が大きく隆起して、中から巨大な何かが姿を現した。
 赤々とした岩肌のような表皮はまるで山のようでいて。続けて付け根にあるモノが水上に浮かび上がった。
 ――ソレは、ドラゴンの頭だった。
 立派な赤い髭を生やしたそのドラゴンは、鎧のような鋼の装甲を纏い、無骨な砲塔を全身に備え、その姿はまるで戦艦のようだった。
 突如、竜の咆哮が海に響き渡った。砲撃音が轟き海上に水飛沫と火柱が派手に立ち上る。
 漁船は瞬く間に海の藻屑と化してしまい、船員達の血と船の残骸だけが海を漂っていた。

「城ヶ島の南の海にいた『戦艦竜』の居場所が判明したよ」
 玖堂・シュリ(レプリカントのヘリオライダー・en0079)が、集まったケルベロス達を前にして説明に入る。
 狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の調査の結果、相模湾で漁船が戦艦竜に襲われて被害が出ているという報告を受けた。
 戦艦竜とは、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、体に戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を持っている。
 城ヶ島制圧戦で南側からの上陸作戦が行われなかったのは、この戦艦竜の存在が大きかったからに他ならない。
 数こそ多くはないが、このままでは相模湾の海を安心して航行出来なくなってしまう。
「そこでキミ達には、クルーザーを利用して相模湾に向かってもらい、戦艦竜の撃退をお願いしたいんだ」
 非常に強大な力を誇る戦艦竜だが、その高い戦闘力と引き換えに、ダメージを自力で回復する事が出来ないという弱点がある。
 海中での戦闘となる以上、一度の戦いで戦艦竜を撃破する事は不可能ではあるが、幾度となく攻撃を繰り返しダメージを積み重ねていけば、何れは撃破する事も不可能ではない。
 つまり、複数回に分けて波状攻撃を仕掛けるという作戦だ。今回はその第一陣となる。
「今回キミ達が戦う戦艦竜だけど、『バルバロス』と名付けてみたよ」
 全長約十メートル。全身を燃え盛るような赤い鱗で覆われていて、身を守る鋼鉄の装甲もまた、血に塗れて赤く染まっている。更には赤い立派な髭が生えている。
 敵の戦闘能力は現時点では確認出来ておらず、詳細は不明だ。
 生命力と火力は見た目通り大きいが、その反面、命中率や回避性能はそれほど高くない。
「戦艦竜は攻撃してくるものを迎撃する性質だから、戦闘が始まれば撤退する事はないよ」
 同時に、敵を深追いするような事もしないので、ケルベロス達が撤退しても追撃される心配はない。つまり、撤退するタイミングは、ケルベロス側の判断に委ねられる。
「戦艦竜との戦いは、今回で終わりというわけではないからね。今回は、相手の戦闘能力を測る事が最優先だから。引き際の見極めは、全てキミ達に任せるよ」
 いつもと変わらない表情で作戦内容を伝えたシュリは、最後に一言だけ付け加えた。
「戦艦竜と正面から戦うのは、正直危険な任務だけど。大事なのは、次に繋げる事だから」
 その為にも、必ず無事に帰ってきてね――。そう言い終えた後、ケルベロス達を竜の待つ海へと送り届けるのだった。


参加者
フィオリナ・ブレイブハート(インフェルノガーディアン・e00077)
クロエ・アングルナージュ(エールシャッセール・e00595)
ガルディアン・ガーラウル(ドラゴンガンマン・e00800)
工藤・誠人(地球人の刀剣士・e04006)
芳賀沼・我奴間(探求者・e04330)
リーゼロッテ・アンジェリカ(漆黒の黒薔薇天使・e04567)
ナカ・ミミ(父は元デウスエクス忍軍・e10203)

■リプレイ


 ――かの海域に、荒ぶる赤竜の姿あり。
 鋼鉄の装甲と複数の砲塔を身に纏い、全身兵器と化した巨大な竜を討ち倒すべく、招集に応じて集った八人のケルベロス達。
 戦艦竜はその巨体さゆえ、複数回の出撃による波状攻撃でダメージを積み重ねる事が必要だ。今回の作戦は、その為の第一陣となる。
「ドラゴンに関しては嫌な話も聞きますし、まずは情報を集めないといけませんわね」
 艶やかな黒い翼をはためかせ、黒薔薇咲く髪を潮風に靡かせながら、リーゼロッテ・アンジェリカ(漆黒の黒薔薇天使・e04567)が上空から戦艦竜を捜索する。
 山間での生活が長かった彼女にとって、実はこれが初めて見る海だ。そのせいか、ここが母なる海ね……などと陶酔気味に口走ったりしてはしゃいでいた。
「まさか真冬の海に潜る事になるとはな。まあ、戦いになれば関係ないか」
 海上を走るクルーザーに乗りながら、フィオリナ・ブレイブハート(インフェルノガーディアン・e00077)が海を眺めてポツリと漏らす。
 気温は例年よりも高いとはいえ、吹きつける風は冬の寒さを感じずにはいられない。今は風も静まっていて、水面も波が立たず穏やかな様子だったが――。 
 突如として波がクルーザーに打ち寄せてきて、海面から巨大な影が浮かび上がってきた。
「現れたな、戦艦竜『バルバロス』。その姿と技……私達はそれを見極めに来たのだ」
 海底から迫り上がってくる鋼鉄の塊を前にして、ナカ・ミミ(父は元デウスエクス忍軍・e10203)は表情一つ崩さず、真剣な眼差しでそれを見つめる。
 海一面に広がる鮮やかな翡翠色。その中に一点だけ、決して周りに染まる事のない深紅の竜が、圧倒的な存在感を誇示していた。 
「戦艦竜のぅ。色々と言いたい事はあるが、一つだけ言わせてもらうのじゃ」
 上空を飛行しながら偵察していた芳賀沼・我奴間(探求者・e04330)が、海中へと降りながら戦艦竜を凝視する。
「髭ならわしの髭の方が立派じゃ! 赤など品が無いのじゃ」
 竜派のドラゴニアンである我奴間には白い髭が生えている。どこか品性を漂わせるその髭は、彼自身の誇りでもあったのだろう。だからこそ、戦艦竜の野蛮な印象すらある赤い髭に対抗心を燃やすのであった。
 赤い髭が特徴的な事から『バルバロス』と命名された戦艦竜。相手にとって不足はない。
「それはそうとして、ここは倒すくらいの意気込みで頑張りましょう」
 小柄なアニマリア・スノーフレーク(ミリア・e16108)は、巨大な強敵が相手とあって、いつにも増して真剣味を帯びた表情だ。
 その心に決して慢心はない。必要な情報を得て、引くべき時は引く。その為にも、出来る限りの最善を尽くすつもりだ。
 今回の戦いに赴く前に、半数が戦闘不能になったら撤退すると条件を事前に決めていた。裏を返せば、それまでは戦闘を継続するという覚悟でもある。
「ひゃあ! 流石に冬の海は冷たいであるな! しかし、目的はしっかり果たすであるよ」
 愉快なインディアン風の衣装が見た目にも寒そうなガルディアン・ガーラウル(ドラゴンガンマン・e00800)が、海に着水すると同時にその冷たさに身を震わせる。
 しかしそこは陽気なノリで乗り越えて、戦艦竜を迎え撃つ為に気合を滾らせるのだった。
 近付く者の気配に気付いたか、戦艦竜が巨体をクルーザーの方へと旋回させる。ガルディアンは縛霊手からいち早く紙兵を散布して、敵の攻撃に備えて守りを固める。
「戦艦竜……か。確かにそう呼ぶだけの外観と威圧感ですね」
 工藤・誠人(地球人の刀剣士・e04006)は、強大な敵を前にして震えが止まらずにいた。それは高揚感から来る武者震いであり、早く戦いを楽しみたいという気持ちの表れだった。
 例え水中戦だろうとケルベロスにとって支障をきたす事はない。まずは先手とばかりに、誠人は刃の如く鋭い蹴りを繰り出した。
 その巨体通り、戦艦竜は回避能力が低く誠人の旋刃脚も命中はしたものの――厚い装甲に阻まれて、思ったほどの手応えは得られなかった。
「これは……想像以上に硬いですね。どうにかして、耐性を見極めなければ」
 やはり一筋縄ではいかない相手だと、誠人は苦笑いを浮かべながら次の手を考えていた。


「どうやら分析と牽制に徹した方が良さそうね。まさか本業での出番とはね……」
 かつて軍事系企業の教導隊員をしていたクロエ・アングルナージュ(エールシャッセール・e00595)にとっては、今回の任務はある意味お手の物なのかもしれない。
「記録開始。性能指標――予測命中率――」
 眼力によって自身の命中率を測定して、確実に攻撃を当てていく。能力には個人差や様々な要素が絡む為、算出した数値が他人にも同様に当て嵌まるとは一概には言えないが。
 少なくとも、スナイパーとして命中精度を高めたクロエにとっては、回避の低い戦艦竜を狙い撃つのは造作もない事だった。
 ゴーグルから覗く視線が標的を捉えて、バスターライフルを肩に担いで一筋の眩い光線が発射される。光の帯はバルバロスの肩を撃ち抜くが、痛がる素振りを微塵も見せていない。
「確かに命中したはずなのに……。生命力はかなりのモノみたいね」
 攻撃は当てやすい、なら次は何が効果的なのか。クロエは得られた情報を整理しながら、あらゆる方法で戦艦竜の解析を試みようとしていた。
 バルバロスもこのまま黙って攻撃を受けているつもりはない。太い首を持ち上げて、獲物を見定めるようにケルベロス達をひと睨みする。
 大きく裂かれた口が開かれて、ケルベロスを喰らおうと襲いかかってくる。陣形の中心にいたリーゼロッテが標的とされ、竜の頭部が迫って来るが、テレビウムのたまが間に入ってリーゼロッテを戦艦竜の凶刃から守る。
 しかし口腔内に生える無数の牙がたまに突き刺さり、たまはそのまま粉々に噛み砕かれてしまう。剣や刀とは違う、暴力的な破壊力。その威力の凄まじさを、ケルベロス達の眼前でまざまざと見せつけるのだった。
「……よくもたまを。終末の黒薔薇天使たる我の力、思い知るがいい!」
 リーゼロッテが怒りに打ち震える手で、ガトリングガンに爆炎の魔力を込めて乱射する。
 弾丸は着弾すると爆発し、炎の幕がバルバロスを包み込む。すると一瞬だけだが、バルバロスの表情が歪んだように見えた。
「炎が効かないというわけじゃなさそうだな。だったらこいつはどうだ?」
 フィオリナが地獄の猛火で鍛え上げた紅蓮の剣を掲げ、バルバロスに豪快に斬りつけた。卓越した剣技から放たれた一撃は、装甲を傷つけ凍気を浸食させていく。
「今のうちに色々試すであるな。我がガルド流散弾術、見せるであるよ!」
 ガルディアンがブラックスライムを黒い槍へと変形させて、鋭利な刃でバルバロスの胴体を貫いた。傷口からは毒が汚染して、その部分は黒く変色していった。
「さてさて、炎や痺れが絶望的に悪化すれば倒せそうなモノですが……」
 炎などにも一定の効果があると分かって、アニマリアは思わず口角が上擦ってしまうが、今は作戦に集中しようと気を引き締め直す。
「どこまで削れるか試させてもらいましょう――参ります」
 アニマリアは駆動させたチェーンソー剣を振り回し、傷口を狙って斬り広げようとする。のこぎり状の刃は激しい音を立てながら、バルバロスの傷を更に抉っていく。
「この戦は勝つ為ではなく負けぬ為の戦いじゃ。気負わず平常心を保つのが大事じゃぞ!」
 今回は出来る限り戦艦竜の情報を収集する事が目的である。その為にも、戦闘を継続させなければならないという重圧が、回復役の我奴間に圧し掛かる。
 だがそれが返って心地良い。己の責務を全うする強い思いが、重圧を力へと変えていく。
 我奴間は戦艦竜の火力の高さを把握して、それに耐えうるようにと九股の鞭を展開させて魔法陣を描き、守護の力を仲間達に付与させる。
「ああ。その為にも……皆が無事で帰れる事、それを優先としよう」
 我奴間の言葉を受けて、ナカが落ち着いた口調で自らに言い聞かせる。
 決して気負わず、成すべき事をする。ナカは漆黒の鎖に念を込めて操って、バルバロスの赤い体躯に巻きつけていく。
 鎖で締め上げ捕縛して動きを封じ、仲間達が攻撃する隙を作ろうとするが――。
 バルバロスが、背中の翼を不意に広げ始める。大きく広がっていく翼は、まるで船が出航しようと帆を張るようでもあった。
「まさか……そのまま飛ぶのですか!?」
 戦艦竜の予期せぬ動作に、誠人は険しい顔つきで翼を見上げながら警戒心を強める。
 バルバロスが禍々しい竜の翼を羽ばたかせると、大気が唸って突風が吹き荒れる。それは風の渦となり、風圧から生じた斬撃が前衛陣を巻き込んでいく。
 風の渦は誠人とガルディアン、フィオリナの三人を吸い上げて全身を次々に斬り刻む。嵐に煽られ海原が揺れ、ケルベロス達は荒波に飲み込まれてしまう。
「こんのぉ! ドラゴンか戦艦、どっちかになさいよ!」
 先ほどまでクールに振舞っていたクロエだが、実は想定外の事に意外と弱くて熱くなりやすい性格だった。戦艦竜の動きに惑わされ、普段の冷静さを欠いたクロエがそこにいた。
 それでも動揺を押し殺してアームドフォートの主砲にパワーを充填し、砲台から一斉に光線を発射する。しかしバルバロスに命中こそすれ、痛手を負わすには至っていない。
「本当に馬鹿みたいに硬いな。けどこの装甲さえ何とかすれば!」
 幾度か攻撃を繰り出しているが、戦艦竜の肉体を覆う装甲が鎧となって阻まれてしまう。それなら装甲ごと破壊しようと、フィオリナは継ぎ目部分に狙いを絞って剣を叩き込む。
 すると装甲がひび割れて、そこに隙間が生まれる。これで少しはダメージが通りやすくなるだろう。
 しかしバルバロスもそうはさせじと、全身の砲塔をケルベロス達に向ける。高く上がった角度は飛距離を出す為だろうか。そして号砲と共に集中砲火が始まった。
 炎を纏った燃え盛る大量の砲弾が、後衛陣目掛けて隕石のように降り注ぐ。
「おっと、そう簡単にはやらせないであるよ!」
 ガルディアンが咄嗟に水中に潜って、泳ぎながら後方へ回り込む。再び水上に現れた後、回避が遅れたナカに覆い被さるようにして、身を挺して彼女を砲弾から庇うのだった。
 バルバロスの攻撃を立て続けに浴びたガルディアンは砲弾の炎で身体を灼き焦がされて、数多の水柱が立ち上る中――奮闘虚しく力尽きてしまった。


「あんなのをまた食らってしまっては、ちと厳しいやもしれぬ。とにかく、何とか持たせてみせるのじゃ。銀髭は……赤髭に負けてはおらぬのじゃ!」
 我奴間が困難を乗り越える象徴たる『彦星の太刀』を振るい、海面に守護を授ける星座を描いて、負傷している仲間に治癒を施す。
 その後もリーゼロッテがガトリングガンを撃ち続け、アニマリアが傷口を広げていくが、バルバロスの反撃もあってケルベロス達の体力は著しく消耗していた。
「……そろそろ覚悟を決めなければいけませんね。この一振りに、全てを賭けます!」
 敵の攻撃手段はおおよそ見極めた。ならば後は少しでも傷を残すだけだと、誠人は気持ちを切り替えてバルバロスに斬り込んでいく。
 迷いのない渾身の一太刀を浴びて、バルバロスの顔が苦痛で歪む。もう遊びはお終いだとばかりに、バルバロスの目は獰猛な獣の光を帯びていく。
 翼を広げて突風の斬撃を放とうとする瞬間、誠人は隣に並ぶフィオリナを巻き込ませまいと、彼女を思いきり押して突き飛ばした。
 そして風の刃は誠人だけを斬り刻み、彼もまたここで倒れ伏してしまう。
「おのれバルバロス……。神界の炎、その身で味わうが良い! Celestial Feuer!」
 フィオリナは剣に騎士の誓いと王女の祈りを捧げ、神界の炎を刃に宿す。戦艦竜の巨体を足場代わりに高く跳躍し、持てる力を注いで全力で振り下ろす。
 赤く煌めく刃は装甲を断ち斬って、激しい爆炎が起こると同時に肉体をも斬り裂いた。
「ここは一気に攻めましょう! アーバレストモード、イグニション。CDS、フルドライブ――そのまま海に沈みなさいッ!」
 クロエが巨大な結晶の矢を精製し、狙いを定めて射出する。矢は流れ星のように鮮やかな軌跡を描き、バルバロスの身体を一直線に貫き一矢を報いた。
 例え仲間が力尽きようと、ケルベロス達は諦めずに攻撃を集中させて戦艦竜にダメージを積み重ねていく。
 一体どれほどの損傷を与えたのだろう。手応えは徐々に感じてきたが、バルバロスは未だ微動だにせず、ケルベロス達の前に大きく立ちはだかっている。
 ――戦艦竜のつんざくような咆哮が空に轟く。
 バルバロスの殺気に満ちた深紅の双眸には、アニマリアの姿が映り込む。
 竜に見初められた少女は必死の形相で最後まで抗うが、守り手二名が倒された今、彼女の盾となるべき者は存在しない。
 バルバロスの残酷無比な牙の群れが、息を荒げながらアニマリアに喰らいつく。
「くっ……!? もはやここま――」
 言葉を言い終えるより前に、アニマリアの視界が闇に閉ざされる。
 海面には傷付き意識を失ったアニマリアが横たわり、バルバロスの口からは鮮血が滴り落ちて、装甲を赤く染め上げていた。
 これで戦闘不能者は三名となった。決めた撤退条件からすればまだ継戦は可能だったが。もし砲撃が来れば、後衛陣は一溜まりもなく纏めて戦闘不能に陥る危険性が高かった。
「……これ以上は危険だ。無理をする必要はないから、一旦退却しよう」
「死んだら調査の意味がないわね……。分かったわ」
 フィオリナの提言にクロエが奥歯を噛み締めながら頷いて、残りの仲間達も同意する。
 この作戦における当面の目的は既に果たした。それなら後は次に続く者達に託すのみだ。
 撤退するにあたって、ナカが最後にバルバロスの足止めを試みる。これ以上傷付く者がないように、全員揃って避難出来るように。
「……冥界に棲まうは銀の姿、染まりしは鎖の意思……嗚呼……常世に現し我に従え!」
 トランプのジョーカーに仕込んだ巫術。投げたカードは冥界より銀の鎖を召喚し、戦艦竜を海の底へと縛りつける。その隙にケルベロス達は撤退を開始した。
 リーゼロッテはアニマリアを、我奴間はガルディアンを抱えながら飛行して。フィオリナとクロエは誠人を肩に担いで泳ぎながらそれぞれ戦域を離脱する。
 そうしてクルーザーに辿り着いた一行は、全員の搭乗と戦艦竜が追撃して来ない事を確認すると、急いで相模湾を後にした。
 誰もいなくなった海では、戦艦竜の咆哮だけが静寂の中に響き渡っていた。

 ――去り際に、リーゼロッテは遠くなっていく海を眺めながら再戦を誓うのだった。
「人類の海を脅かす海賊の如き戦艦竜よ……。この黒薔薇の天使リーゼロッテが死への航海に導くから、覚悟しておく事ね」

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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