戦艦竜『椿堂』

作者:質種剰

●謎の戦艦竜
 神奈川県。
 本ガツオの一本釣り漁船が、相模湾の漁場で目当ての魚群を追って全速前進している。
 探知機やソナーで捉えた群れを前にすれば、すぐに撒き餌の鰯を投げ入れた。
 放水で鰯達を海面に躍らせ、既に沈めた擬餌針の仕掛けへ本ガツオが寄ってくるのを待つ。
 さすれば、すぐに太い竿が次々と弧を描き、船員達は早合わせに注意しながら丁寧に巻き上げ、次々と本ガツオを釣り上げる――。
 その筈だった。
 バシャアアアアアアン!
 だが、船員達の前へ、宙を舞うカツオよりも先に現れた者がいる。
「うわああ!?」
 海面より顔を出したのは黒光りした鱗を持つ巨大なドラゴンで、海を不自由なく泳ぎ回れるような、鯉に近い姿をしている。
 しかし、鯉のフォルムよりも特徴的なのは、ドラゴンの頭部から角のように張り出している一対の砲台にあった。
 見ると、背中を伝って尻尾まで立派に連なっている大きな背ビレの一つ一つが、砲門を備えている。
 ドドドドドド……!!
 ドラゴンは大きくしならせた身体から何かを一斉に撃ち出して、漁船を瞬く間に沈めてしまった。


「狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)殿の調査により、城ヶ島の南の海にいた『戦艦竜』が、相模湾で漁船を襲うなどの被害を出していると判明したであります」
 小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)が、緊張した面持ちで説明を始める。
「戦艦竜は、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、ドラゴンの身体に戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を持つであります」
 城ヶ島制圧戦で、南側からの上陸作戦が行われなかったのは、この戦艦竜の存在が大きかったという。
「戦艦竜は数こそ多くありませんが、非常に強力で……このままでは相模湾の海を安心して航行できなくなるであります」
 眉を下げるかけら。
「そこで皆さんには、クルーザーを利用して相模湾へと赴き、戦艦竜の撃退をお願いしたいであります!」
 戦艦竜は、強力な戦闘力と引き換えに、ダメージを自力で回復する事ができないという特徴がある。
「海中での戦いとなることもあって、一度の戦いで戦艦竜を撃破するのは不可能でありますが、ダメージを積み重ねていけばきっと撃破できると思うでありますよ」
 厳しい戦いになるでありましょうが、皆さんのご活躍をお祈りするであります。
 かけらはそう言ってケルベロス達を激励した。
「皆さんに戦って頂く戦艦竜は1体であります。攻撃方法の詳細は掴めておりませんが、頭の角や背ビレの砲台による射撃が主かと推測するであります」
 また、戦艦竜は攻撃してくる者がいると必ず迎撃行動に移る為、戦闘が始まれば撤退する可能性はありません。
 同時に、敵を深追いしないという特性もあるので、ケルベロス側が撤退すれば、追いかけてくる事も無いようだ。
「戦艦竜と正面から戦うのは、とても危険な任務になるでありましょう……この戦いで撃破は不可能でも、次へ繋げられる戦果を残せるよう、頑張ってくださいね」
 かけらは改めてケルベロス達を鼓舞し、説明を締め括った。


参加者
アイリス・グランベール(烈風の戦姫・e00398)
クリス・クレール(盾・e01180)
天道・晶(髑髏の降魔拳士・e01892)
燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)
ヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)
アルタ・リバース(穏心の放浪者・e05478)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
藤木・友(滓幻の総譜・e07404)

■リプレイ

●潜水
 相模湾。
「いいか? 目的を満たす前に戦闘不能者が5人に達した時点で即撤退な」
 まずは、クリス・クレール(盾・e01180)が撤退条件を再確認してから、涼しい顔で先陣を切ってクルーザーの甲板から足を離した。
 護り手【水泡】なるスクール水着で水中呼吸ができ、頭にはカメラ装着と準備万端な格好である。
 自身を盾と称するブレイズキャリバーで、自ら護衛や囮を買って出る戦術に長け、自分の命よりも戦友や一般人の命を尊重する自己犠牲の理念を持つクリス。
 それ故重傷になるのも厭わず、戦友や一般人へ必殺の一撃が見舞われると察した場合には喜んで我が身を投げ出し、庇おうとする性格のようだ。
「ぁ? 勝ちゃなんでもいんだよ」
 燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)もまた、さっぱりした風情で仲間へ答えるや、さっさと水中へ突入。
 仮面で顔を隠し、精悍な体躯を黒い全身鎧で包んだ姿は静かな迫力に満ちている。
(「感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」)
 過去に色々ありつつも今を自由に生きるオッサンは、戦闘で損をする思考を嫌い、ただただ目の前の戦いのみへ意識を傾けるのだった。
「死なない程度に頑張ろうね」
 不気味な静けさを湛える海面を見やって、ぐっと気合いを入れるのは、ヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)。
 透き通る銀髪を海風に靡かせた儚い雰囲気のレプリカントである彼女は、双眼鏡を紫水晶の瞳で覗き込み、椿堂の様子を探っている。
 だが、海中を泳ぐ椿堂の姿を海上から捉えるのは難しく、実際に戦うしか奴の性能を知る手立てはなさそうだ。
「尾の一薙ぎや砲の一発で、まさかに全員やられるなんて思いたくないけど……もしも列攻撃があれば気をつけたいわね」
 ヒルダも覚悟を決めて海へ飛び込んだ。
「城ヶ島の残党、と言うには聊か強大な相手ですが……ここは慎重に、撃破までの道を繋げて行きましょう」
 アルタ・リバース(穏心の放浪者・e05478)は、柔和そうな表情で仲間達へ声をかける。
 灰色の短髪と優しげな藍色の瞳、白いロングコートが清潔な印象の彼。
 今は黒鉄式追加用撮影デバイスで録画を始めてから、海へと入っていった。
 戦闘中の椿堂の様子を撮影し、攻撃方法などを記録する為だ。
「戦艦竜、これまでで最大級の相手だよね。この相手と戦い続けたら、もっと強くなれるだろうか?」
 と、抑揚のない声音で誰にともなく問いかけるのは、アイリス・グランベール(烈風の戦姫・e00398)。
 いつも無表情ながら澄んだ金の瞳と流れるような金髪を持つ美少女で、一見大人しそうに見えるも、その実鍛錬に日々明け暮れている。
 幼い頃デウスエクスによって故郷と両親を奪われて以来、誰より強くなると誓ったからだ。
(「先ずは前哨戦、少しでも多くの情報を集め、次に繋がるようにダメージを叩き込む――!」)
 強い意志でもって海中へ潜るアイリスは、防具特徴の水中呼吸のおかげで楽に潜水を続けた。
「前回の偵察任務では戦艦竜にしてやられましたからね……。今回の竜は直接会ったものとは違うかもしれませんが、何か情報を持ち帰りたいところです」
 藤木・友(滓幻の総譜・e07404)は、普段と変わらぬ温厚な物言いで呟くや、静かに海へ着水。
 それでも、かつて氷結戦艦竜に苦渋を舐めさせられた事が堪えたのだろう、地獄化した右眼からは真剣さが感じられる。
 ちなみに友も戦水着【侍】を着込み、水中呼吸を可能にしていた。
 漆黒の髪と深い緑の瞳が理知的な印象を与える、実は可愛い物好きのミュージックファイターだ。
 その紳士的な装いからもそこはかとない色気が感じられるのは、彼がサキュバスだからだろうか。
「さてと、そいじゃ戦艦竜の退治と行きますかね!」
 一方、天道・晶(髑髏の降魔拳士・e01892)は、競泳水着で律儀に準備体操を終えてから、豪快にドボーンと飛び込んだ。
(「息継ぎはいらねえな」)
 意気揚々と水を掻く晶。
 旅好きなシャドウエルフで性格は豪放磊落、尊敬する両親を目標に精進を重ねる健やかな心根の持ち主だ。
 ワイルドな顔立ちと普段から高い露出度にも耐え得る引き締まった身体、どことなく爽やかな出で立ちの晶だから、水中を悠々と進むのも実に様になっている。
「うっ……」
 湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)は、いざ飛び込もうとしたところで、今着ている競泳水着のサイズが気になって肩紐に指をかけている。
「キツい……かも」
 今年の夏に買ったばかりの水着らしいが、もう胸がきつくなっているとは、流石成長期だ。
 ピンクのストレートヘアとあどけない表情が可愛らしいサキュバスで、快楽エネルギーを集める為に音楽活動へ精を出すミュージックファイターでもある。
 戦艦竜との戦いを録画せんとして、頭に防水仕様のビデオカメラをつけた風体で、海へ浸かり、椿堂の元へ潜っていく美緒。
 椿堂は、ケルベロス達の来襲を知らずに、海の中を泳いでいた。

●遭遇
 海中。
「おぅヤローども、殺っちまえ」
 亞狼は皆へ発破をかけると同時に、自分も椿堂へ近づく。
 椿堂が巨体と同様の大きな紅い瞳を、ギョロリとこちらに向けた気がした。
「ぁ? 文句あんのかよ」
 自らの背に強烈な黒い日輪を浮かべ、熱波を照射する亞狼。
 グラビティによる熱は水中でも損なわれず椿堂の鱗を焼いて、奴に奇妙な敵愾心を抱かせる。
「殺気に命じる。目標単体、欺け」
 クリスは自らのオーラ『殺気』に命ずると、椿堂をその殺気で包み込む。
 理力に満ちたダメージを与えると共に、椿堂が持つ自身への敵対感情を増幅させた。
 奴を怒らせて攻撃の手を自分へ向けさせる――それがディフェンダーたる亞狼やクリスの狙いなのだ。
(「誰よりも強くなりたい、自分はまだ、この戦艦竜と比べたら全然――」)
 一方アイリスはかような強い決意を、古代語を詠唱する声音に込めて、椿堂に死角が無いかと下へ滑り込む。
 そこから魔法の光線を放って、椿堂の巨軀が挙動を鈍らせた。
 すると。
「……ガァァァァァァ!」
 椿堂が大口を開いて威嚇すると同時に、背ビレの砲台から次々と砲弾が放たれた。
 ドドドドドド――!!
 水中を突き進んで着弾と同時に爆ぜたその姿は、殆ど一瞬の事ながら椿堂をそのまま縮ませたかのように見える。
 本物よりはずっと小さい戦艦竜が群れをなして襲って来る様――その威力の程を身をもって知れば、到底和む余裕などない。
「さて、戦うか……癒しと記録……それが私の任務だわ」
 ヒルダは前衛陣の背後にカラフルな爆発を起こす。
 爆風を背にした味方の士気を高めると同時に、砲弾による負傷も癒した――といってもディフェンダー以外の味方の傷は、全て塞ぐに至らない。
 それだけ、『子戦艦竜』なる砲弾の威力は大きかった。
「後続に繋ぐ前に、砲の1本でも破壊できたら良いのだけど……」
 ヒルダは呟きつつ、子戦艦竜が複数人に当たる事と威力の高さ、えも言われぬ威圧感を記憶に留めた。
(「悪い意味での想像通りですね……苛烈な攻撃です」)
 また、前衛陣が被弾した際に彼らの負傷度合いを見比べて、子戦艦竜の攻撃を見定めんとするのはアルタ。
 同じディフェンダーの亞狼とクリスではクリスの当たり所の方が悪いように思えた。
 クラッシャーの2人のダメージは、アイリスの方が軽いように感じる。
(「戦艦竜は豊富な敏捷性を活かして砲弾を撃っている? そして今の砲弾は破壊力が高い……」)
 ケルベロス達の耐性が上手くバラけていたおかげで、ある程度の推測を立てられたようだ。
「この杖……初めて使いますが何とも不安です」
 アルタはちょっと太り気味の鳩をファミリアロッドに戻して、杖の先端から魔法の矢を放つ。
 命中率が同じで能力値の違うグラビティを3種活性化させ、実際の当たり易さの差から椿堂の能力値の大小を割り出すつもりでいるのだ。
 彼の眼力によると、マジックミサイルのみ他2つに比べて命中率が高い。それは椿堂の能力において理力が一番低い事を示していた。
 実際、アルタが狙い済ませたマジックミサイルは見事着弾、確かなダメージを与えたものだ。
「さぁて、お手並み拝見。と行きますか……ここに居座られるとあと後面倒なのでね、まずはあなたの動き、覚えさせて貰います」
 友も仲間同様に弱点を見定めるべく、まずは惨殺ナイフの刀身へ、椿堂が忘れたいと思っているトラウマを映し出す。
 一体どんな鏡像を具現化したのかは、グラビティを受けた椿堂にしか判らないが、椿堂は精神的に幾許か疲弊したと看て良い。
 頭の角から赤い戦艦竜のミサイルを虚空へと撃ち出したからだ。
「これでどう出る?」
 晶はブラックスライムを槍のように鋭く伸ばし、間合いを取っての一撃を見舞う。
 ――ズブッ!
 黒い槍は椿堂の分厚い鱗を貫いて、その傷口から毒を注ぎ込んだ。
 ダメージはやはり少なく見えるが、元々一戦で倒しきれない体力の相手と考えれば仕方ないやもしれない。
「歌うだけじゃありません!」
 バイオレンスギターを速弾きして、起こした衝撃波で攻撃するのは美緒。
 ビビビビビビビッ!!
 グラビティの威力に比例してか、ギターの弦が次々と切れる為、一度繰り出せば張り替え不可避だという。

●分析
「よぅこっちも付き合えよ」
 次いで亞狼が仕掛けるのは、ケルベロスチェインによる猟犬縛鎖。
 ――ガチィッ!
 精神操作によって伸ばした鎖を椿堂の太い胴体をぐるりと巻きつけ、ギリギリと締めつけて苦痛をもたらした。
「背中から撃ってくる弾は、複数攻撃な上に射程も長い……厄介だな」
 クリスは巨大な鉄塊剣を軽々と操り、単純かつ重厚無比な一撃を見舞う。
 ドゴォッ!!
 叩き潰す勢いで椿堂へ命中させれば、体表にダメージを乗せるだけでなく、椿堂の意識を更にクリスへと向けさせる事ができた。
 じわじわと怒りが降り積もっていく。
「吹き荒れよ、烈風」
 こちらは、限界を超えた先の極限まで高めし風の魔法を白煌に集めて、椿堂へ斬りかかるアイリス。
 ブォォォォッ!
 エリアス・マキシアの威力は大きく、椿堂の体力を着実に削った。
 蛇の如き胴体にも痺れが残ったようだ。
 だが、椿堂も負けじと太い角を上下に振りかざして、両の砲台から赤ミサイルを発射してくる。
 戦艦竜そっくりな二対のミサイルが、友へ吸い込まれるように向かうも。
 ズガァァァァン!
「この程度で盾を砕けると思わない事だな」
 すんでのところでクリスが彼を庇い、代わりに大怪我を負った。
「私は後衛だから観察に適している筈なの」
 じっと椿堂の挙動を注視していたヒルダは、爆発による火傷が尾を引く前にと小型治療無人機の群れを射出。
 クリスを警護すると共に、彼の深手を癒した。
「――当てて行きます」
 アルタは、肘部の内部機構――Counter gear:Answererを腕が伸びきる直前に駆動、瞬間的に拳を加速させた拳打を放つ。
 拳速のずれによって相手の判断を一瞬遅らせ、速さで上回る椿堂へも拳をぶち当てた。
「奏でろ、絶叫のウタを」
 広範囲に響く雷撃を浴びせるのは友だ。
 ピシャァァアアン!
 それは、敵の悲鳴(オンガク)を聞く為、ただただ己が欲望の為に続々と落としていく。
「ググ…………!」
 椿堂の洩らす地響きに似た唸りが果たして悲鳴なのかどうかはともかく、豪雷が奴の体力を奪って身体の痺れを強めたのは確かだ。
「やっぱり只者じゃねえなコイツ……兎に角無茶はしねえ。隙を狙い続けるだけだ」
 晶は、椿堂の挙動に注意しながらバトルガントレットに内蔵されたジェットエンジンで急加速。
 ――ボコォッ!!
 接近したところで高速の重拳撃をぶちかまし、椿堂へダメージをもたらした。
「まだまだ行きますよ!」
 半透明の『御業』をけしかけて、椿堂の胴を鷲掴みにする美緒。
 禁縄禁縛呪の効果は上々、やはり敏捷性に優れたグラビティだとダメージが通り易いのかもしれない。
 椿堂が放ってくる砲弾群は、ディフェンダーで半減しても決して油断できないダメージを与えてくるので、気の抜けない戦いが続く。
「ぁ? なもんどーでもいんだよ」
 亞狼は、回復の手が間に合いそうにない時に限り自らシャウトで回復。
 なるべくは攻撃の手を緩めずに、椿堂がどの属性攻撃に弱いのか見定めようと努めた。
「目標単体、欺け」
 クリスも、もう3度目かの黒の誘惑を発動させながら、椿堂の攻撃の際の挙動を見逃がすまいと目を凝らしている。
 どうやら、背ビレを波打たせる風に胴体を横へくねらせた時は子戦艦竜、頭を上下させて角を振った時は、赤ミサイルを射出するようだ。
(「こんなに強い相手と、少しでも長く戦いたい……」)
 アイリスは斬霊斬やグラビティブレイクを駆使して果敢に立ち向かうも、心眼覚醒での回復を決して怠らず、椿堂の激しい砲撃へ持ち堪えんとした。
「正義、執行します」
 ヒルダは回復の合間にも閃光と共に拳を繰り出して、紅蓮に光る衝撃波を迸らせる。
 灼熱の炎は十字架の痕跡を椿堂の脇腹に刻み込み、少なくないダメージを与えた。
「さて、この情報で城ヶ島に関わる一連の決着が着けば良いのですが……」
 自分のロングコートを一瞥してから、先程のグラビティに加えてグラインドファイアを交えて攻勢に出るのはアルタ。
 椿堂が破壊斬撃魔法のどれに対して耐性を持つのか、またもしも弱点があるならどれなのかを推測したいという。
 数分戦った結果、Counter gear:Answererを覗いた3種ではエアシューズによる蹴りが効きづらく、与えられるダメージががくりと落ちる気がした。正確に狙い易いだけ残念だが、どうやらこの椿堂、斬撃に耐性があるらしい。
 すぐにアルタが仲間に伝えれば、友もそれに答えるかのように自ら観察した結果を口に出す。
「なるほど……私は攻撃に規則性が無いか見ていましたが、背ビレからの複数射撃と角の砲撃、この2つを使う順番は気分次第というか、今のところ何の法則も感じられませんね」
 ヒルダも頷いて。
「弱点と言える程通り易い攻撃は無かったわ……きっと、根気よく削り続けなければならないのね」
「沢山の事が解りましたね」
 美緒が疲弊の中で感嘆する。戦闘開始から10分を持ち堪えた彼らだが、蓄積された殺傷ダメージは大きく、体力的に限界が近い。
「おぅ退くぜ、すぐだっ」
 亞狼が的確な判断で退き際を見極めた時、晶が叫んだ。
「来るぞっ!」
 椿堂が尾ビレから緑の子戦艦竜ともいうべき弾を乱射。
 ケルベロス達は、この毒の弾を背中に受けながら、海面へと撤退して行ったのだった。
「貴方は後に続くケルベロスが必ず倒します。出来ればその時、再び相見えたいものです」
 椿堂から離れようと水を掻きつつ、アルタは小さく呟いた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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