年越しカウントダウンライブ!忍び寄るコンポの騒音

作者:水無月衛人

●行く年来る年
「もう年末ね。今年は色んな事があったけど、振り返ってみればあっという間だった気がするわ」
 年の瀬の空気も強まった街並みを眺めて、神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471)は今年一年の出来事をのんびりと振り返っていた。
 と、そんな彼女に路上でビラ配りをしていた青年が歩み寄り、チラシを一枚手渡す。
「大晦日にみんなでライブをやるので、良かったらお願いします」
 受け取ったチラシを見ると、郊外の野外イベント会場でプロアマ問わず大勢の音楽好きが集まっての年越しカウントダウンライブをするらしい。
「カウントダウンライブかぁ……」
 ライブと聞いて、にわかにララは色めき立つ。
「みんなで一緒に新年を祝うっていいわね。年越しの瞬間をステージ上で迎えられたら、きっと物凄く楽しいでしょうし……想像するだけでもわくわくしてきちゃうわ」
 カウントダウンライブ特有の熱気に思いを巡らせ、楽しげに微笑みを浮かべる。
「……でも、こういう時こそ気を引き締めないとね。デウスエクスもお祭り騒ぎがある時を狙って動く事が多いみたいだし。……ちょっと調べてもらおうかしら」
 そう言って少し真剣な表情をすると、ララはヘリオライダーの下へと向かった。
 
●カウントダウンライブと迫り来るコンポ
「ララさんの言っていたカウントダウンライブにダモクレスが現れる事が分かりました。山中に不法投棄されていたオーディオコンポがダモクレスとなって、自分の音を聞かせようとライブに乱入してくるようです」
 要請を受けて予知を行ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、早速結果を持ってケルベロスたちの前に現れた。
「皆さんにはライブ出演者としてステージ上から警戒に当たって頂きます。非常に多くの人が集まるライブ会場ですから、放っておくと被害が甚大なものになってしまいますので、出番でない時も異常がないか常に注意しておいてください。どうかダモクレスが観客や出演者の皆さんに手を出す前の撃破をお願いします!」
 そう言ってセリカは地図を広げる。
「場所は郊外にある野外イベント会場です。当日は混み合っていますが、周囲に何もない場所ですから、観客の避難については警備員の皆さんに任せてあまり気を遣わなくても問題はありません」
 指差したのは広い草原の真ん中。なるほど、敵が単独であるならば危険な範囲から待避するのは容易そうだ。
「敵はオーディオコンポのダモクレス一体です。コンポにまつわる攻撃を仕掛けてきますが、通常のダモクレスの使うグラビティと効果は変わりありません。使ってくるのは二種類。爆音を撒き散らす『クラッシュサウンド』は『マルチプルミサイル』、ディスク挿入口からCDを高速で飛ばす『ディスクカッター』は『スパイラルアーム』と同等のグラビティです。見た目の違いに惑わされないよう注意してください」
 依頼の説明を終えると、セリカは力強い視線をケルベロスたちに向けた。
「いよいよ年越し、今年一年の最後を飾るライブイベントです。そんな大事な瞬間を邪魔されるわけにはいきません。人々を恐怖に陥れるデウスエクスを倒して、気持ち良く新年を迎えましょう!」


参加者
神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
リリーナ・モーガン(グリッター家令嬢お世話役・e08841)
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)
滝・仁志(風まかせの空模様・e11759)
ルテリス・クリスティ(時護りの礎・e13440)
ミヤビ・ウェーバー(歌って踊りたい新米レポーター・e17237)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)

■リプレイ

●盛り上がる観衆を前に
 寒さの強まる深夜の会場は、吹き抜ける冷風をものともしない熱に包まれていた。
 日没後から始まったカウントダウンライブは時間の経過を忘れるほどの盛り上げを見せ、気が付けばあと一時間ほどで年越しが迫る時刻になっていた。
「さあ、そろそろ年が変わる瞬間が近づいて来ましたが、続いてはケルベロスの皆さんが登場です! なんと今回は二チームに分かれての上演、まずはゆく年チーム!」
 司会が高らかに紹介すると、舞台袖から先行となる四人が客席に手を振りながら現れた。
「すごい歓声ですわね。……みんなが作ってくれたこの空気、しっかりと次に繋ぎたいですわ」
 喝采を上げる観客の迫力にリリーナ・モーガン(グリッター家令嬢お世話役・e08841)はやや表情を引き締める。
「大丈夫だよ。ボクたちは敵に邪魔されないように会場を守って、後はこのステージを全力で楽しむだけさ」
 対照的にニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)は自信を持った様子でリリーナに視線を送った。
「……そうですわね。折角の年越しなんですから、余計な心配をしては損ですわ。精一杯、出来る事をやり通しましょう」
 ニュニルの言葉に、リリーナは一つ大きく息を吐くと改めて沸き立つ観客に視線を向けた。
「さあ、行くわよ。鞠緒、準備はいいかしら?」
「いつでも行けます! お客さんの記憶に残るようなステージを見せてあげましょう!」
 神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471)は遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)と視線を交わして微笑み合うと、フリルのドレスを翻してステージの前方へと歩み出る。
 そして、小さく観客に手を上げてから弾むようなリズムでギターを鳴らし始めた。
 曲がスタートすると同時に、客席からは一段と大きな歓声が上がる。
「雰囲気は最高、遠慮なく最初から飛ばしていくわ! みんな、盛り上がっていきましょう!」
 ララが煽ると客席からは威勢の良い返事。ララと鞠緒は、その轟音のような声すらも伴奏として取り込んでしまうほどの伸びやかな歌声でハーモニーを響かせ始めた。
 同時にニュニルを先頭にしたリリーナとサーヴァントたちのバックダンサー組もステージ上に大きく展開し、それぞれが曲に合わせて踊りで二人の歌に花を添える。
 佳境を迎えたカウントダウンライブは、年越しの瞬間に向けていよいよ最高潮の空気に達しようとしていた。

●ゆく年、そして招かれざる敵
「ふふ、楽しいねマルコ。やっぱり、歌や踊りはみんなで一緒に盛り上がってこそだよ」
 間奏の最中、ステージの前方に出たニュニルは腕に抱いたぬいぐるみのマルコと共に優雅な踊りを披露していた。
 軽やかなステップでひらひらと壇上を舞うと、その度に客席が沸き立つ。
 ニュニルを囲むように陣取ったクスト、ヴェクサシオン、スクァーノの三体のサーヴァントも懸命なダンスで観客からの注目を集めていた。
「見事にバラバラのダンスだけど……案外見栄えするわね。それぞれが一生懸命にやっているからかしら?」
 少し下がった位置でオルトロスのアーサーと踊っていたリリーナは、四人のダンスを眺めながらクスリと笑った。
 ダンサー陣のパフォーマンスは各々が得意とするステップを自由に踊るというものになっていたが、意外にも不統一な感じはせずしっかりと場を盛り上げていた。
 それというのもリリーナの言う通り、思い思いながらも一人一人がこのステージを楽しんでいるのが伝わってくるダンスだったからだろう。
 ララの奏でるギターのリズムと鞠緒のコーラスもそれを後押しするように明るく弾んでいた。
「……と、ダンスに夢中になりすぎて目的を見失ってはいけないわね。……あら?」 ふと、リリーナがステージの隅に目をやって怪訝な表情を浮かべた。
 足りない伴奏を補うためにステージ奥に並べられた複数のオーディオコンポの端に、一つだけ見た目の異なるものがあるのに気付いたからだ。
 ステージの装飾に合わせて飾り付けられたオーディオ機器の中で、唯一手付かずで綺麗なままのコンポがいつの間にかそこに置かれていた。
 その正体に勘付いたリリーナは、ギター演奏に集中していたララにそれとなく近付いて耳打ちした。
「怪しいコンポを見付けましたわ。動く気配は……まだないようですけど、戦える準備をお願いいたしますわ」
「了解よ。……鞠緒」
 話を聞いたララは隣で歌う鞠緒に目配せをすると、視線に気付いた鞠緒は小さく頷いた。
 ステージ脇を見ると、他のメンバーも異変に気付いたらしく戦闘態勢を整えて待機していた。
「向こうが様子見をするって言うのなら、こっちも最後まで歌わせてもらうわ。敵が動いたらすぐに対応するからよろしくね」
 そう言って、ララは鞠緒と共にステージ前方へと再び歩み出る。
 最後のサビに入り、曲はクライマックス。会場のボルテージも最高の状態に変わる。
 同時にステージ上の電飾が一斉に点灯し、会場中に敵の発見と避難態勢の準備を知らせた。
「いつの間にかあんな所にこそこそと潜んでいたとは。でも、潜入が上手くても潜伏はあまり得意ではないみたいだな」
 ルテリス・クリスティ(時護りの礎・e13440)は、手が届きそうで届かない距離にあるコンポをもどかしそうに見つめる。
「……もう少しだね。このまま歌い切らせてあげて欲しいな」
 一方で、滝・仁志(風まかせの空模様・e11759)はステージ上のパフォーマンスと該当のオーディコンポを交互に見ながら自分の事のように心配そうな顔をしていた。
「敵は自分の音を聴かせたいようですから、この大音量の中を邪魔しようとは思わないでしょう。曲の終わった後が一番危険かもしれません」
「そうですね。……でもそれなら、こっちも入れ替わりのタイミングを使って全員で対応できます」
 篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)とミヤビ・ウェーバー(歌って踊りたい新米レポーター・e17237)が、未だ微動だにしない敵の様子を注視して考察した。
 そうこうしている間に曲はフィナーレを迎える。
「……そろそろ動きがありそうな頃合いだね。皆、準備はいいかい?」
 出られる体勢を取って仁志が確認を取る。
 と、曲が終わって一瞬の静寂が訪れたタイミングで、会場内に激しい重低音の騒音が鳴り響いた。

●歪んでしまった音
 突然の耳障りな大音響に会場は一気に静まり返り、それから一気に悲鳴に包まれた。
「くぅっ……! その場からいきなり仕掛けてくるとは……」
 直近にいたケルベロスたちは騒音の影響を直接受け、出足を挫かれてしまう。
 が、それでも事前に敵が動く事を予想していたため、無防備での被弾とはならずにすぐさま行動を再開する。
 観客も小さな混乱を幾つか見せただけで、速やかに会場から離れていく。
 機械の手足を生やしたコンポ型のダモクレスは、逃げていく観客に向けて第二撃を繰り出そうとする。しかし、それを側面からリリーナが阻止した。
「あなたの相手はこっちよ」
 伸ばした鎖で敵を絡め捕ると、ギリギリと締め上げて自分たちの方を向かせる。
「ギギギギ……! 音ヲ……モット俺ノ音ヲ聞ケェ……!」
 オーディオコンポは鎖から抜け出すと、客席側に飛び降りて再び騒音を撒き散らした。
「もう……そんな壊れた音を聞かせてどうしようってのよ!」
 ステージの縁まで躍り出たミヤビが、迫り来る音波の衝撃にマルチプルミサイルで対抗する。
 交錯した攻撃はそれぞれ互いに命中し、双方とも大きく後退った。
「今よ! クスト、ヴェクサシオン、お願い!」
 ララの求めに応じて、クストとヴェクサシオンのウイングキャットコンビがキャットリングで追い討ちを掛ける。
 続けて、ニュニルが射出された二つのリングを追い掛けるように飛び込んでいった。
「キミのような三流コンポじゃこの舞台に相応しくないんだ。悪いけどお引取り願うよ。……さぁ、可愛いニュニルとマルコの年越しライブ、楽しんでいってよ!」
 舞い踊るような動きでよろめくコンポの背後を取ると、脆弱な背面パネルを素早い回し蹴りで打ち抜いた。
「ヌガァッ!? 音ガ……ソンナ事ヲシタラ俺ノ音ガ歪ンデシマウ!」
 ガチャガチャと音を立てながら、コンポはひしゃげた背面を庇うようにして距離を取る。
「ウググ……俺ハ一人デモ多クノ人ニ、コノ音ノ素晴ラシサヲ……!」
 振り返って恨めしそうに身体を震わせると、ディスクトレイから光ディスクを勢い良く射出した。
 ディスクは高速回転によってチャクラムのように鋭い刃となり、弧を描いてニュニルへと向かっていく。
 しかし、その攻撃は仁志が横から身体を入れて弾き飛ばした。
「いい加減に認めなよ。君の音はもう人に聞かせられるようなものじゃないってさ」
 仁志はそのままの位置で地面を擦るように蹴り上げて炎を巻き上げた。
 一直線に伸びた炎はコンポを包み、その表面を溶かして黒煙を吹かせる。
「ヌオオッ……! 音ガ……音ガ消エテイク……!」
「……もうこれ以上は無意味です。あなたが本当に伝えたかったもの、思い出して……これはあなたの歌。懐い、覚えよ……」
 身悶える敵の前に立った鞠緒が『淵源の書』を開き、歌を紡ぐ。
 それは、このオーディオコンポがダモクレスとなるよりも前の事。普通のコンポとして人々の耳を楽しませていた頃の記憶を呼び覚ます。
「ウググ、俺ハ……シ、シカシ、モウ戻レハシナイノダ……!」
 掘り返される記憶を振り払うように、身を激しく震わせる。
 が、ダメージ以上にその戦意は確実に削げ落ちていた。
「人に音を聴かせたい……その本義を履き違えて、目的だけを誤って抱き続ける哀れな輩よ。せめて、苦しまないように逝かせてあげよう」
 ふらふらとするだけのコンポを、猛る炎で身を包んだ佐久弥が巨大な炎弾で焼き尽くす。
 後に残ったのは残骸のような焼け焦げた姿。後はもう、トドメを刺すだけだった。
「……遥かな星の調べ、愛し恋し時護り。編みて紡ぎて責務を繋ぎ、唄い語りて永遠を断つ──残念だが、貴殿のような者はお呼びでないのでな。そろそろおやすみの時間だ」
 わずかに火花を散らすだけでもはや言葉を発する事もなくなったコンポに向かって、ルテリスが歌を奏でる。
 歌によって湧き出た水は無数の鋭い刃となり、最後に残ったわずかなコンポの身体をバラバラに切り裂いた。
 戦いが終わり、地面に転がったコギトエルゴスムを見てララが息を吐く。
「……終わったわね。傷の手当てをするからみんな集まって。年明けまで時間がないから、後始末を急ぎましょう」
 彼女の言葉にケルベロスたちは一様に頷いた。

●くる年は爽やかな気分で
「お待たせしました、年越しカウントダウンライブ再開です! 皆さん、2016年を一緒に迎えましょう!」
 周囲に避難していた観客の人々に向けて、ミヤビがマイク越しに大声で呼び掛ける。
 と、直後に仁志のギターが鳴り始めた。
 まだ無人の客席に、目前に迫った新年を祝うかのようなアップテンポのイントロが響く。
 同時にミヤビと佐久弥、そして二体のテレビウムが踊り出すと、それに煽られたのか曲を聞き付けて集まりだした客が大急ぎで客席へと戻りだした。
「行くよルテリス。一緒に楽しんで、このステージを盛り上げよう」
 仁志が並べたマイクの一方に着き、隣に立ったルテリスに声を掛ける。
 ルテリスはそれに応え、柔らかい笑みを浮かべてみせた。
「一年の最後を飾る舞台を任されたんだ。お客と共に最高の年越しにしてみせるさ」
 そして始まる二人の歌。
 男性二人のツインボーカルはゆく年組とはまた異なる力強さを見せ、希望と幸せを願う歌は聴く者の心を呑み込み、やがて弾ませていく。
 バックのダンサー組も息がピッタリ合ったキレのあるミヤビと佐久弥、それを挟んでやはり息の合ったテレビウムたちの懸命な踊りが見る者を惹き付ける。
 最初のサビを迎える頃には客席もほぼ満員の状態にまで達しており、ライブの熱気はすっかり元通りとなっていた。
「……無事に年越しが出来そうね。大事な瞬間だもの、無事に間に合って良かったわ」
 会場の状況が戻った事に、リリーナが安堵して息を漏らす。
 と、その一方で別の意味で吐息を漏らす者たちがいた。
「あぁ……端正で凜々しいだけじゃなく、気丈夫に歌を紡ぐ姿も素敵ね……」
「ね! 煌びやかなステージで堂々とした振る舞い、まるで王子様みたい!」
 ステージ上で歌うルテリスの姿に騒いでいたのはララと鞠緒。
 曲が始まってからずっとこんな調子で、リリーナも声を掛け辛そうにしていた。
 それを少し呆れ顔で見ていたニュニルが、時計を確認して時が来た事を告げる。
「ほら、そろそろ年が明けるよ。曲もちょうど終わる所みたいだね」
 見ると、歌はラストのサビが終わろうとしている所だった。
 寒さを感じさせない熱の入った歌唱を披露するボーカル二人と、それに負けじと客と一体になって踊るダンサーたち。
 一年の最後の一瞬を楽しもうという気持ちが、会場中を満たしていた。
「さあクライマックスです! 戦いの後ですが、最後まで全力を出し切りましょう!」
 ミヤビが笑顔で声を掛けると、佐久弥もまた疲れを感じさせない様子でそれに答えた。
「ええ。俺たちレプリカントならではのダンス、余す所なく見ていってもらいましょう」
 やがて曲が終わりに差し掛かり、客席から自然とカウントダウンの声が上がり始める。その声に気付いたケルベロスたちも、合わせて年越しのカウントダウンを開始した。
 新しい年は熱気と高揚感、そして最高の一体感の中で盛大にその時を刻み始めた。

作者:水無月衛人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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