鋼鉄の砲口

作者:メロス

●海の鋼獣
 肺腑を揺らすような轟音と共に、海上に大きな水柱があがる。
 音と共に空へと放たれる砲弾が、水中へと飛び込み水を空へと弾き飛ばすのだ。
 その度に、漁船の船体は大きく揺らいだ。
 幾度目かの爆音の後、懸命に航行する漁船の前後に大きな水柱があがる。
 生まれた激しい波に翻弄され速度を落とした漁船に向かって、再び砲弾が放たれた。
 水中ではなく船体へと命中したそれは、そのまま抵抗も無く外殻を貫いて船内へと呑み込まれ……
 少し間を置いて、これまでとは違う爆発音が響いた。
 機関が停止し、続くように爆発音が連発して、船の内部から煙と炎があがり始める。
 そこに、更に多数の砲弾が撃ち込まれ……
 漁船は断末魔のような轟音を響かせながら形を失い、海面に重油を撒き散らしながら……海の底へと沈み始めた。
 
●戦いの海へ
「狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)さんの調査の結果、城ヶ島の偵察で確認されていた『戦艦竜』が、相模湾で漁船を襲う等の被害を出している事が判明しました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まっていたケルベロス達に説明した。
 戦艦竜は城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、戦艦のような装甲や砲塔を持ち非常に高い戦闘力を有している。
 城ヶ島制圧戦で南側からの上陸作戦が行われなかったのは、この戦艦竜の存在が大きかったといえるだろう。
「戦艦竜の数は決して多くはありませんが、その全てが高い戦闘能力を持っています」
 このままでは相模湾を安心して航行できなくなってしまう。

「そこで皆さんに、戦艦竜の撃破をお願いしたいんです」
 セリカはそう説明した。
 戦艦竜は高い戦闘力を持っているが、ダメージを自力で回復する事ができないという特徴があるようだ。
「一度の戦いで戦艦竜を撃破する事は不可能ですが、ダメージを積み重ねる事できっと撃破する事が出来ると思います」
 作戦としてはクルーザーを利用して相模湾に移動し、そのまま戦艦竜との戦闘に入るという形になる。
「海上、海中での戦闘です。厳しい戦いになるかと思いますが、可能な限り敵にダメージを与え、できるだけ敵の能力等を確認して頂ければ、早期の撃破が可能になると思います」
 そう言ってからセリカは、現時点で確認できている情報を話し始めた。
 
 戦艦竜は強い縄張り意識のようなものを持っているようで、縄張りに侵入すれば向こうから姿を現わして襲ってくるらしい。
 加えて戦闘が始まれば、撤退する事は無いようだ。
「ですが此方が撤退しても、深追いはしてきません。縄張りとしている海域から相手がいなくなれば、それで満足するようです」
 撤退時に素早く離れる事ができれば追撃の危険は無いという事だ。
 実際漁船が襲われた際、戦艦竜は船が沈没した時点で満足したのか、攻撃を止めて姿を消したらしい。
「それ以外の特徴等に関しては……現時点では、あまり判明していません」

 残念そうにそう言ってから、セリカは収集した情報を基に話し始めた。
 幸いと言うべきか、外見に関してはある程度の情報は集まっている。
「皆さんに戦って頂く戦艦竜の体長は10m程度。金属のような外皮を持ち、手足はヒレ状。背が甲板のようになっており、そこに砲台等を備えている……という外見をしています」
 口径の小さな砲か機銃らしき物も見えたらしいが、確証はないそうだ。
 また、背は艦状ではあっても水中から姿を現わしたように見えたそうだが、こちらもハッキリとした確証は無いらしい。
 攻撃の方も現時点では、甲板の砲台から砲撃を行うという以外の事は分からない。
「砲の射程は遠距離まで狙え、複数の目標を攻撃できるようです」
 攻撃力はかなり高いようだが、命中するまでに複数回の攻撃を行った事を考えると、精度の方は低いのかも知れない。
「攻撃は行っていませんので分かりませんが、高い耐久力を持っているのは間違いないでしょう」
 ただ、動きはやや鈍かったようだとヘリオライダーの少女は説明した。
 戦闘力は耐久力に特化しており、その分だけ機動性に乏しいという事なのかもしれない。
「……いえ、決めつけは危険ですよね? 今回の任務には情報収集という面もあります。可能な限りの情報を集めて頂ければと思います」
 集めた情報は続く戦いで、必ず力となる筈だ。
「あと、皆さんに相手をして頂く戦艦竜の呼称ですが……特徴等を見て皆さんに考えて頂ければ、特に問題が無ければ、次の作戦時からはそちらで呼ばせて頂こうと思います」
 
 最後にそう言って表情を引き締め直すと、セリカは集まったケルベロス達を見回した。
 詳細が不明な強敵を相手の戦闘。
 加えて戦場は、相手が全力を発揮できる場所だ。
「危険な任務ではありますが、次に繋がる戦果を残せるように……皆さん、よろしくお願いします」
 そう言ってヘリオライダーの少女は、集まった者たちに深々と頭を下げた。


参加者
ジヴェルハイゼン・エルメロッテ(芽吹かぬプロセルピナ・e00004)
大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)
神薙・焔(ガトリングガンブラスター・e00663)
桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)
マキナ・マギエル(機械仕掛けの魔術師・e04145)
神薙・灯(選ばれし術士・e05369)
神宮寺・結里花(銀狐のズドン巫女・e07405)
五十嵐・蘭丸(道化気質・e18571)

■リプレイ

●竜の海域
「うーみーやー!」
 冷たい潮風を浴びながらも上機嫌に、桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)が叫ぶ。
 船に乗るのが初めての彼にとっては、冬の海の冷たさもまた新鮮さに満ちた心地良いものなのかも知れない。
 もっとも、初めての体験に心躍らせてはいても、少年は任務について欠片も油断していなかった。
 撤退に備えて海域の再確認を済ませ、動けなくなった仲間を救助する為のロープ等も準備してある。
 ライトや遠眼鏡等も用意済みだ。
「次に繋がる情報を持って帰らないとね!」
 戦闘動画を記録しようとカメラまで用意した大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)は、元気よく拳を握りしめた。
 有益な情報を持ち帰ってやるんだとやる気満々の彼女に同意するように、マキナ・マギエル(機械仕掛けの魔術師・e04145)が頷いてみせる。
「孫子曰く『彼を知りて己を知らば、百戦して殆ふからず』と」
 未知とはそれだけで脅威なのだ。
「それ故、調査は重要な作戦行動の一つと言えるでしょう」
 次に活かす為に、次の次の戦いの為に。
「でも倒せたらラッキーなの」
 言葉は冗談めかして言った後、可愛らしいくしゃみをしてみせた。
「……それにしてもさっむぅ!」
 そう言ってボクスドラゴンのぶーちゃんを抱きしめる。
「大物相手は燃えるわね!」
 対照的に、その寒さを吹き飛ばすような様子で、神薙・焔(ガトリングガンブラスター・e00663)が口にした。
 強力で危険な相手であっても、それを恐れるような様子は彼女からは微塵も感じられない。
 むしろ強敵相手に闘志を燃やすように、少女は自信に溢れた表情で言葉を続けた。
「情報を持ち帰るためにも、頑張って粘りましょうか!」
「死なないていどに頑張ります」
 一つでもおおくの情報を得て帰ろうと考えながら、神薙・灯(選ばれし術士・e05369)は同意するように、静かに頷く。
(「10mの戦艦竜! ちーっとワクワクするけど、居てもらっちゃ困るのがこっちの事情なんだよね」)
「さて、されたら困る事を探しに! 行っくぜー!」
 歳相応と言うべきか、凄い兵器とかカッコイイ動物とかに憧れる少年という感じで。
 五十嵐・蘭丸(道化気質・e18571)は仲間たちに、嬉しそうに呼びかけた。
 戦艦竜への、ちょっとカッコイイかもという気持ちや好奇心が、ハッキリと分かるくらいにその態度に表れている。
 その蘭丸と話していた神宮寺・結里花(銀狐のズドン巫女・e07405)の方はというと、今は竜の討伐に向けて、粛々と準備を整えていた。
(「人々を脅かす龍を討つのは、神宮寺の使命」)
 先刻までの雰囲気は完全に姿を消し……凛とした落ち着きのある態度で、彼女は戦闘態勢を整える。

 準備を終えると一行は、クルーザーを更に進ませた。
 ここからは敵の領海である。
 いつ戦闘が始まっても不思議ではない。
「5時の方向や! 皆の者出逢え出逢えー!」
 屋根から遠眼鏡で周囲を警戒していたナギは、すぐに白波を立てて近付いてくる何かを発見した。
「でっかいなー、クジラよりでっかいんとちゃう?」
 少年のそんな無邪気な呟きを確認するかのように、ジヴェルハイゼン・エルメロッテ(芽吹かぬプロセルピナ・e00004)も船縁を掴みながら目を凝らす。
(「ドラゴンはどれだけの戦力を持ってるんだろう……」)
「こんなのを大量に持ってると思うと果てしないな」
 ため息と共に零れた言葉を打ち消すように、彼女は直ぐに首を振った。
「……なんて、考えるのは後か。今は仕事を熟(こな)さなくちゃ」
 波頭が砕けて白く見える波でしかなかったそれは、近付くにつれて徐々に浮上し……水上に何かを見せ始めている。
 アームドフォートを稼働させ、ガトリングガンを構えながら。
 焔は不敵に、少し冗談めかした調子で呟いた。
「情報を得て撤退、だけど、倒してしまってもいいんでしょう?」

●未知との戦い
「神宮寺流戦巫女 結里花参ります!」
 それは、神話を基にした己への儀式。
 甘酒を入れた朱の盃を傾けると、結里花は海へと飛び込んだ。
 そのまま戦闘距離まで近づくと……彼女は大量の、己を模した小さな式神を召喚する。
「さあ、行きなさい! 小さな私!! 百なる呪の華を咲かせよ! 急急如律令!!!」
 召喚された式神たちは戦艦竜を囲むように展開すると、一斉にドラゴンへと襲い掛かった。
 包囲を破ろうとするかのように戦艦竜は巨大な四肢のヒレと尾鰭を操って荒々しい波を生み出しながら潜水するが、式神たちはそれに追い縋り攻撃を開始する。
 美しい呪いの撫子の花が、海の中で咲き誇った。
 続くように船上組も、戦艦竜の位置を確認しながら攻撃を開始する。
 先ずはと水面下の竜の大きさを確認しながら、ジヴェルハイゼンが攻撃を仕掛けた。
 召喚された氷河期の精霊は、水など存在しないかのように吹雪を生み出し、竜の全身を冷気で包み込む。
 物質の時間を凍結する弾丸を精製した言葉が、それに続くように動いた。
 放たれた時空凍結弾が戦艦竜に命中し、体表の一部を凍結させる。
 そして3人の攻撃の効果を更に拡大させるように、ぶーちゃんがブレスを放射する。
 ナギもデッキ上に素早く守護の星座を描くと、その輝きで前衛たちを包み込んだ。
 焔も船縁からガトリングガンを水中へと向け、海の中の戦艦竜に向けてトリガーを引き絞る。
 海中へと飛び込んだ無数の銃弾は海水など存在しないかのように高速で突き進み、竜の体に次々と命中した。
 ためらいなく船から身を躍らせた灯は、そのまま戦艦竜へと距離を詰めながら……金属のような外皮を観察する。
 甲板上の背の中央には縦に砲塔らしきものが複数並び、端にはそれと比べると小型の……銃座のようなものが、やはり縦に並んでいた。
 砲塔は1つの台座に3本の砲身が備え付けられた三連装型で、銃座の方も2門が取付けられた連装型のように見える。
(「これを壊せれば、今後の危険が減るんだよなぁ」)
 そんな事を考えつつ銃座の一部を掴むようにして身を固定すると、灯は敵の外皮を打ち破る強烈な一撃を戦艦竜へと叩き込んだ。
 攻撃を受けた竜は体を揺らしヒレで水を掻くことで激しい水流を生み出し、身を固定し続けようとした少年を弾き飛ばす。
 その様子を目を凝らすようにして船上から観察しながら、蘭丸も攻撃を開始した。
 ライドキャリバーのアシが内蔵したガトリング砲で敵を威圧するように銃撃を浴びせ、攻撃の直後を狙うようにして少年は捕食モードへと変形させたブラックスライムを戦艦竜へと取り付かせる。
(「みんなの命が懸かってるんだ」)
 彼が気にするのは、依頼の成否よりも仲間たちの身体である。
 だからこそ……先程までとは打って変わって、蘭丸の表情は真剣そのものだ。
 マキナも格納していたミサイルポッドを大腿部から展開すると、皆に続くように攻撃を開始した。
 発射された大量のミサイルは、狙いを誤ることなく戦艦竜へと命中する。
 自分や仲間たちの攻撃で確認したが、命中箇所によってダメージの蓄積が異なるという事はなさそうだ。
 そんな分析を行いつつ敵の動きを観察していたマキナは、大きく旋回した戦艦竜の背で、砲塔が同時に動き出したのを確認した。
 四基十二門の砲が、速くは無いものの無駄のない動きで一点へと向けられる。
 直後、落雷のような轟音と共に周囲の海水が揺すぶられた。
 放たれた多数の砲弾を、結里花は文字通り流れるような動きで回避する。
 直撃すれば決して耐えられないと推測できる、強烈な一撃。
 だが、少なくともその初撃を避ける事には成功したのである。
 何より敵の攻撃の1つを確認したのだ。
 ケルベロス達は警戒しつつ、更に攻撃を続けてゆく。

●一挙一動
 味方はまだ無傷だった。
 だから言葉は観察を続けながら、戦艦竜への攻撃を続けていった。
 攻撃の精度と比べると、敵の回避能力は決して低くはない。
 攻撃を回避するという事は殆どないが、結里花やマキナ以外の攻撃が本来以上の効果を発揮するという事も少ないのだ。
 動きの方も機敏ではないが無駄が無いように見える。
 ナギも情報収集の為、攻撃を行いながら敵の動きやこちらの攻撃への対応を観察していた。
 ジヴェルハイゼンの方は先程の攻撃を参照にして、混沌なる緑色の粘菌を呼び寄せ、竜の体に侵食させる。
 焔はアームドフォートによるレーザー射撃を絡めることで、敵に攻撃を見切らせぬようにと注意しながらクルーザーからの遠隔射撃を行っていった。
 逆に灯は可能な限り戦艦竜へと接近して様々な攻撃を繰り出し、その効果を計ろうと試みる。

 戦いながら皆が観察を続ける中、再び戦艦竜は背の砲塔を回転させた。
 全ての砲が別の目標へと向けられ……再び落雷のような轟音が響き渡る。
 周囲を薙ぎ払うように無数の砲弾が放たれ、結里花に、そして船上のマキナに、言葉やナギらに襲いかかる。
 一瞬の出来事だった。
 言葉を庇ったぶーちゃんは、すごく痛そうな様子で……でも、無事な言葉を見て、少しホッとしたような表情を浮かべ……その姿を消滅させる。
 少女が手を伸ばしてその名を呼ぼうとした次の瞬間……それを遮るように爆発音が響いた。
 船上の者たちを狙って放たれた砲弾の1つが船体を貫いて内部で爆発したのだろう。
 クルーザーの機関は完全に停止し、船は惰性で海上を彷徨う漂流物と化した。
 他の場所も破損したらしく、吹き飛ばされた外装の一部が残骸となって近くに浮かんでいる。
 悔しそうな表情を浮かべつつ、焔は周囲を確認した。
 何とか船体へのダメージを減らせないかと考えていたが、残念ながら船を守る事は出来なかった。
 とはいえこれも、次の戦いへと繋がる重要な情報の1つである。
 蘭丸は即座にアシと共に海へと飛び込み、戦艦竜へと距離を詰めた。
 元々水中呼吸の準備もしてある以上、海中での行動に不便は無い。
 そのままドラゴンへと接近すると、少年は動きの鈍そうな箇所を狙って高速の蹴りを繰り出した。
 同じく海へと飛び込んだマキナも、戦艦竜が海面に近付く瞬間を利用して距離を詰める。
 敵は水中を激しく動き回ってはいるが、接近は決して難しくは無さそうだ。
 指先まで真っ直ぐに伸ばした腕で、彼は敵に鋭い貫手を放った。
 内蔵されたモーターによって回転し威力を増した突きが、竜の外皮を傷付ける。
 敵の限界がどれほどなのかは分からない。
 だが、どれだけ強靭であろうとも回復できない状態でダメージを与え続ければ撃破できる筈だ。
 今すぐには無理でも……いずれ、必ず。

●犠牲と成果
 ケルベロス達は敵を観察しながら、攻撃を続けていった。
 グラビティによる氷結効果によって、与えるダメージは増加している。
 効果は絶対ではないが、ただ攻撃を加え続けるだけよりもダメージは確実に増加していた。
 そして戦艦竜の攻撃にも変化が現れていた。
 纏わり付くように戦い始めた者たちに対し、竜は機銃を用いての迎撃も、砲撃の間に織り交ぜ始めたのである。
 こちらは砲に比べると命中率は高かったが、攻撃力の方は低かった。
 射程の方も短いらしく、前衛として接近している者にしか攻撃してこない。
 それでも無視できない威力を持っていて、言葉とナギは仲間たちの回復に専念する形となっていた。
 壊れたクルーザーへのヒールも試してみたが、こちらは自分たちへの回復のようにはいかない。
 完全に壊れた物でも回復していくものの、その速度は遅かった。
 戦闘中に回復させて撤退というは不可能だろう。
 とはいえ足場としてならば多少は役立つ。
 海面よりは少し高い位置から皆の位置を確認し、ナギが前衛たちに癒しの力を揮う。
「哀(アイ)より重く、怨(エン)より深く――僕と同じところへ落ちろ」
 『死者』の妄想とデウスエクスへの怨嗟を、数多の黒い人影と大きな棺として具現化させると……ジヴェルハイゼンは戦艦竜を、その巨大な棺へと閉じ込めた。
 自身の体が既に死体であるという強い妄想から生み出された憎しみと収奪の念が、竜の魂へと喰らいつく。
 その力を振り払うようにして、戦艦竜は傷付きながらも棺の束縛を打ち砕いた。
 海中へと飛び込み距離を詰めていた焔が、そのタイミングで攻撃を仕掛ける。
「水中で打つのは初めてだけど、大物狩用の技なのよね!」
 対戦車猟兵術(パンツァーイェーガー・クンスト)
 一人で大型の敵を狩るために彼女が戦車猟兵の戦術を応用し編み出したグラビティだ。
 水中呼吸を活用して竜の腹下まで潜りこんでいた焔は、そこから渾身の一撃を叩き込んだ。
 怒りの咆哮と共に戦艦竜がヒレ状の四肢と尾鰭を伸ばす。
 巨大なヒレが水中に渦を生み出すような勢いで振るわれ、前衛たちを薙ぎ払う。
 これで……全ての攻撃を確認できただろうか?
 身を裂かれるような衝撃と圧力に耐え、敵の動きを目に焼き付けるようにして。
 手段は異なっていても、動きは薙ぎ払う砲撃に似た部分があるかも知れない。
 そんな事を考えながら……焔は意識を失った。

●作戦終了
 意識を失った焔が残骸の上へと引き上げられた後も戦いは続いた。
 ケルベロス達は戦意を失うことなく攻撃を続け、戦艦竜へとダメージを蓄積させてゆく。
 そして……マキナとナギが砲撃に倒れ、竜の身や残骸を足場にして、纏わり付くように粘り強く戦い続けた灯も……尾鰭の一撃によって戦闘不能となった事で、ケルベロス達は撤退を決断した。
 4人がそれぞれ動けなくなった者たちに手を貸して、一行は海域の脱出を試みる。
 だが、全員がそれぞれ戦闘不能者を抱えた状態での撤退は、迅速に……という訳にはいかなかった。
 距離を取ろうとするケルベロス達に向けて、戦艦竜の砲撃が放たれる。
 狙われたのは結里花だった。
 死すらも予感させる圧倒的な破壊の力が、焔を抱えた少女へと降り注ぐ。
 その進路を遮るように、ジヴェルハイゼンは飛び出した。
 彼女は躊躇いなく砲弾の雨へと身を晒し、背後の仲間を守り抜く。
 そのまま沈もうとする彼女を、蘭丸は何とかアシの上へと引き上げた。
 傷を負い意識を失っているものの、幸い命に別状はない。
 そして、砲撃に続く追撃は……無かった。
 代わりにというべきか、漂流物と化していたクルーザーが爆音と共に完全に破壊される。
「楔は打ち込みました、次は仕留めます」
 小さく呟いた結里花が、仲間を抱えるようにして戦艦竜へと背を向けた。

 こうしてケルベロス達の戦いは一旦幕を閉じる。
 この戦いによって、一行は複数の情報を得る事に成功した。
 受けたダメージですら、貴重な情報源となるのだ。
 得られた情報は今後の戦いで役立つ事になるだろう。
 そして……
 今回の戦艦竜は調査を行った者たちによって、以後こう呼称される事になった。

 戦艦竜『ペレスヴェート』と。

作者:メロス 重傷:桜狩・ナギ(メタル原付・e00855) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年1月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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