戦艦竜 氷霧と共に現れるもの

作者:紫堂空

●冷たき脅威
「霧……?」
 小型漁船を操るツネオは、辺りを霧が覆い始めるのに気付いた。
 急に冷えてきたな。そう感じてすぐの出来事である
「――うわっ!?」
 兎にも角にも港に戻ろうと考えたツネオだが、突如大きな揺れに襲われて狼狽する。
 なにか巨大なものが、背後から浮上してきたのだ。
「一体、なに……が……」
 潜水艦? まさか。
 訳が分からないまま振り返った彼は、眼前の光景に思わず言葉を失う。
 そこに在ったのは、巨大な竜。
 体を覆う透き通った薄青の鱗が、周囲に冷気を振りまいている。
 竜? だが、それはまるで――。
「グォオオオオオッ!!」
 鋼の装甲を纏い、背中に無数の砲塔を生やした異形の竜。
 後に『トウテツ』と名付けられる彼は咆哮と共に砲撃を行い、驚き戸惑うツネオを漁船ごと海の藻屑へと変える。
 そう――海の平和を脅かす存在が、また新たに現れたのだった。

●凍れる鉄の塊を打ち砕け!
「狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の調査により、城ヶ島の南の海にいたはずの『戦艦竜』が、相模湾で漁船などを襲っている事が判明しました」
 セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達へと説明を始める。
 戦艦竜とは、城ヶ島制圧戦で南側からの上陸作戦を阻んだ、ドラゴンの体に戦艦のような装甲と砲塔を取り付けた極めて強力な存在である。
「戦艦竜は数こそ多くないものの、相模湾の安全な航行を不可能とするだけの力を持っています。
 皆さんには、クルーザーで相模湾に移動し戦艦竜と戦っていただきたいのです」
 戦艦竜はその高い戦闘力の代償として、受けたダメージの自力回復ができないという特徴がある。
「そのため、何度かに分けて攻撃を加えて最終的に撃破する――という形になります」
 厳しい戦いになるでしょうが、よろしくお願いします。
 セリカは一同に頭を下げる。
「この戦艦竜は、全長約十mで、周囲に凍気を撒き散らす薄青の鱗に覆われています。
 その冷気により自身の装甲も凍りついているため、仮にトウテツと名付けましょう」
 トウテツの攻撃方法は、砲塔からの砲撃と――ドラゴンであるからにはブレス、それも氷属性のものを使うと思われるが、詳細は不明。
 その巨体と装甲により、耐久力が非常に高い。
 また、戦闘用に作られただけあって破壊力も折紙つきだ。
「とはいえ、巨体と装甲があだとなって、いささか機敏さに欠けるようです。
 攻撃の命中率や回避性能は、それほど高くないでしょう」
 問題の戦艦竜は海中にいるが、海上で大きな音を立てるものに襲い掛かってくるので、近くを航行するだけで釣りだすことが出来るだろう。
「また、向かってくるものを迎撃するように出来ているため、ひとたび戦闘になれば撤退することは無いでしょう。
 同時に、逃げる敵を深追いすることも無いので、危険だと感じた時点で撤退するようにしてください」
 一度の戦闘で倒し切ることの出来ないほどの強敵だが、第一陣が大きな痛手を与えればそれだけ撃破に近付くのだ。
 どこまで戦ってから撤退するのか、というのは重要な問題となるだろう。
「いくら強大な敵が相手でも、ボク達が逃げるわけにはいかないもんねっ!」
 共にセリカの説明を聞いていた夏川・舞は、そう言って武者震いをしてみせるのだった。


参加者
芥河・りぼん(刀魂リサイクル・e01034)
ミラン・アレイ(蒼竜・e01993)
ウィリアム・アシュフォード(螺旋迷宮・e03096)
井之原・雄一(快楽喰いの怪物・e05833)
白沢・瑞咲(博識無知な薬師・e07600)
氷月・銀花(氷鎖の監獄・e09416)
火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)
長船・影光(英雄惨禍・e14306)

■リプレイ

●出航前の指差し確認
「相模湾と言ったら! 地元です!
 猟師のおじさん大丈夫でしょうか!」
 メカニックらしく作業着で参加の芥河・りぼん(刀魂リサイクル・e01034)は、いつも通りの大きな声で地元民への心配を口にする。
 海の平和を脅かす戦艦竜。
 今日倒すことは出来なくても、次に繋げるために。
 気合十分のりぼんなのだ。
「舞さん! 今回も一緒に戦いましょう!」
「うん、よろしくねっ!」
 りぼんの言葉に、夏川・舞も応える。
 元気娘が二人並ぶと、大変賑やかである。
「トウテツ……僕の国では、魔を喰う怪物としてその名が伝わっているよ。
 凶兆の竜か、なるほどね」
 物知り顔で頷くのは、白沢・瑞咲(博識無知な薬師・e07600)。
「今回の作戦は、戦闘に勝利すること、目標を撃破することではないことを念頭に置いて欲しい。
 この8人、全員の力をつかっても倒すのは困難だろう。
 ある意味では撃退戦にもっとも近いものだ。
 だからこそ、僕らの力は連携という普段から培われたものでこそ発揮されると思う。
 だから……だから、無理せず頑張ろう。
 この次に繋げる為に。今の僕たちで出来ることを全てやろう」
「それには、撤退条件などの再確認をしておかないといけませんね!」
 瑞咲の激励に、りぼんが戦闘開始前に今一度の確認を提案する。
 事前に全員で決めた撤退条件は、以下の通りである。
 サーヴァントを含まない4人が戦闘不能になった時。
 ――ただし、次に挙げる条件に当てはまる場合は戦闘を継続する。
 1、成功条件を満たしていない
 2、メディックが1人でも残っている
 3、トウテツが列攻撃を有しており味方それぞれのHPが40%以上を維持している
「継続の結果、5人目が戦闘不能となった時点で撤退――ですね!」
 そして、戦闘中には各人が戦艦竜トウテツのことをしっかりと観察し、能力や行動パターン、弱点などの情報を可能な限り入手すること。
 やるべき事を再確認し、いっそう気が引き締まるケルベロス達だった。

●戦艦竜、浮上!
「ボクスドラゴンの箱って、ちょうどジャックやタカラバコさんと同じ大きさなんだよね。
 ……入るのかな?」
 ウィリアム・アシュフォード(螺旋迷宮・e03096)が、氷月・銀花(氷鎖の監獄・e09416)のボクスドラゴンを見ながら、ふと思いついたように言う。
 被害が出ている場所までは、まだ距離がある。
 ここまでの移動に出港準備にと時間がかかったこともあり、『ずっと緊張していては戦う前から疲れてしまう』という配慮だろうか。
「や、やめてくださいよ?」
 さすがに試してみようかという提案に乗る銀花ではなかったが、二人のやりとりで場が和んだのは確かである。
 そうして、さらに数分後。
「くしゅっ!」
 急激に下がる気温に、舞がクシャミをする。
 いつの間にか、冷たい霧が辺りを覆い――。
「出たっ!」
 クルーザーの前方。波を起こしながら海中より浮上する、巨大な生体兵器。
 戦艦竜トウテツである。
「うわードラゴンだ! でっかいねタカラバコちゃん!
 うわーうわー……あれ? でも戦艦なんだっけ?
 せんかん……? どらごん……?
 どっちでもいいや! 沈めちまおう!」
 趣味はミミックをデコることという、ヒナギク咲き誇るもこもこ髪がチャームポイントな火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)。
 ドラゴン戦艦が現れるまではのんびり口調だった彼女も、実際に強敵を前にすると気合が入る。
「むぅ氷のドラゴン、六花さんとかぶってます、負けない様にしないと。
 そうでなくとも十分すぎるほどの脅威、今回では排除できなくとも、その存在をいつか打ち倒すために頑張らないと……頑張りましょう、六花さん」
 ボクスドラゴンの六花は、主である銀花の言葉に、透き通った翼を広げ力強く頷く。
「戦艦にドラゴンかぁ。
 ロマンいっぱいだけど、こっちが使えないんじゃ脅威にしかなんないよな……。
 鹵獲とかできないかな、無理か」
 残念そうに言うのは、井之原・雄一(快楽喰いの怪物・e05833)。
 年上男性好きサキュバスの彼も、少年らしくデカくて強いモノへの憧れがあるのだ。
「大きいな……色々作戦は進んでいるみたいだけど、まだこんな大物が居るんだね。
 ……航行の邪魔だから早く帰ってくれると良いんだけど……無理だよね。
 仕方ない沈めますか。
 大丈夫。こう見えて壊すのも得意だよ!」
 ウィリアムも、意識を戦闘モードに切り替える。
「……随分と、大物だな。
 俺程度の力では、大した損害も与えられないだろうが……。
 これが何人、何十人ならば、どうだ。
 ……個人では決して辿り着けないケルベロスの力を、その身に刻むといい」
 周囲に滲み出るほどの暗いオーラを纏った男、長船・影光(英雄惨禍・e14306)は静かに呟き、斬霊刀を抜き放つ。
「夏川は、ポジションはスナイパー、攻撃はサイコフォースと螺旋掌を交互に。体力が3割減っている人に分身の術をお願い」
「サイ……? お、おっけー!」
 雄一の指示に、舞は戸惑いながらも頷く。
 持ち合わせの無い攻撃手段だが、『確か理力を使った技――なら、なんとかなる!』という思考の流れである。
「それじゃ、やってこー!」
 むっちりボディの人派ドラゴニアン娘のミラン・アレイ(蒼竜・e01993)が、景気づけに咆哮をひとつあげる。
 氷霧を切り裂くように轟く大音量に、トウテツの方も相手がただの五月蝿い羽虫の類ではなく、明確な敵意を持った存在だと認識したようだ。
 いきなり砲塔をこちらに向け、砲撃を行ってくる!
「わわっ!?」
 ひなみくが慌ててルーンアックスを構え、砲弾に向かい――角度を作って受け流す!
 ファインプレーである。
 とはいえ、通常の戦闘距離外からの攻撃だからこそ出来た芸当だ。
 戦いの中で、もう一度やれといわれても無理だろう。
 だが、戦艦竜の一撃を凌いだ事実は一同の士気を高める。
「少しでもあなたを知るために、見極めさせてもらいます」
 眼前のトウテツへ向かい、きっぱりと言い放つ銀花。
 さぁ、相模の海を荒らす破壊の化身を撃破する戦い……その第一幕のはじまりだ!

●戦艦竜の脅威
「前衛のみなさん、ヒールドローンです!」
 攻撃役の影光、防御役のひなみくとミミックのタカラバコに、ウィリアムのミミックであるジャック・ワンダー。
 彼等を護るように、りぼんの放ったドローンが周囲を飛び回る。
 破壊力が高いと分かっているのだから、それに備えるのは大事である。
「デカブツと踊るのが最近のマイブームみたいでッ! いっくよー!」
 まずは一撃。
 舳先から勢いよく跳躍し、ひなみくが旋刃脚を叩き込むが――。
「っ!?」
 硬い。
 一番狙いやすかった首への蹴りは、装甲に阻まれて大した痛手を与えられない。
 続いてタカラバコが偽物の財宝をばら撒くが、お話の中のドラゴンと違い、光物への誘惑に耐えてみせる。
「何処が脆いか、観察させてもらうよ!」
 ジャック・ワンダーがエクトプラズムの武器で装甲に斬りつけるのに合わせ、ウィリアムもライトニングロッド二刀流で激しい雷を流し込む。
 どちらもダメージは通っているが、相手の頑丈さの前には微々たるものであり、また特に効果的という様子も無い。
 さらに、影光が達人の一撃を放つ。
 達人一歩手前の剣の腕を暗殺術で無理やり補った一撃が、予想外に機敏な動きを見せるドラゴンの体を覆う装甲を捉える。
 相手は氷に特化したドラゴンだが、グラビティによる氷は普通に通じるようだ。
 そうして仲間が次々と攻撃を加えている間に、雄一は射撃しやすい位置へと移動する。
 ――と、その動きが目に付いたのか、戦艦竜トウテツは背中の砲を雄一に向け。
 連携が途切れた瞬間に、砲撃を行ってくる!
「っ!?」
 これは躱せない。
 瞬間的にそう覚悟させるだけの攻撃が、容赦なく雄一に迫るが――寸前でジャック・ワンダーが割り込みをかけ、身代わりとなって砲弾の直撃を受ける。
 トウテツの放ったクリティカルで圧倒的な一撃が、ジャック・ワンダーの箱状の体を、周りのドローンごと粉々に粉砕する。
 庇う側、庇われる側の脆さが相乗効果を発揮したとはいえ、一発で沈められたという事実が戦慄させる。
「っ、治癒は受け持ちます、皆さんは攻め手をお願いします」
 気を取り直して、銀花は愛用するケルベロスチェイン『ウパシカンナカムイ』で前衛を守護する魔方陣を描く。
 その隙を狙われないように、ミランが炎のブレスを吐き、瑞咲が魔力を籠めた咆哮を放つが……。
 前者は威力に乏しく、後者はすんでのところで影響範囲から逃れられてしまう。
 と、ここで何人かのケルベロス達が小型船に乗って救援に駆けつける。
 この強大な敵に対して、少しでも力になれればという有志の勇士である。
「仕掛けるよっ!」
 舞が、ドラゴンの気脈を断つべく船の端を蹴り離して高々と跳躍。
「戦艦竜には恨みしかないのでね……さっさと沈んでください」
 合わせる様にトウテツへと跳びかかった鳴門・潮流は、ドラゴンが舞の攻撃を避ける先を読んで、渦潮を凝縮させた力を叩き付ける。
「でかい。……かっこいい。
 あ、いや……戦艦竜を見に来たわけじゃ、なくて。
 助太刀……しに来た。ひなみく、頑張って」
「ヴィンスは結構余裕ある感じみたいだし、連携も問題なく行けそうだな。
 少しでもひなたちの力になるよう、今は俺たちにできる事をしよう!」
 支援に駆けつけた二人――鏑木・郁は前衛へ向けてドローンを展開し、ヴィンセント・ヴォルフはひなみくへ光の盾を護りにつける。
 さらにガルフ・ウォールドも、前衛の守りを固めるべくグラビティを使用する。
 盾の効果は毎回発揮できるものではないが、これだけあれば一撃でディフェンダーが落とされるということはそうそう無いだろう。
 トウテツ撃破の瞬間を少しでも早めるために。
 そのための戦いは、まだ始まったばかりだ。

●ブレスの洗礼
 最初にケルベロスが落とされたのは二巡目だった。
 他の面々に続き光の剣で斬りつけた影光は、戦艦竜の装甲を蹴って船に戻ろうとする。
「がっ!?」
 その瞬前、トウテツの纏う凍気が無数の鋭い棘と化して、影光の体を滅多刺しにする。
 相手の動きに気をつけていたものの、攻撃直後に予備動作無しという悪条件が重なった。
 なす術なく反撃を受けた影光は、意識を失いそのまま海へと落下する。
「アタシがカバーするわ! 皆は作戦通りに、やっちゃって!」
 競泳水着着用のリリー・リーゼンフェルトが海に飛び込む。
 彼女が戦闘不能者の回収を行ってくれる為、そこに気を配る必要が無いのはありがたい。
「沈めッ!」
 そうして三順目。
 一番に跳び出したひなみくは、噛み付きにかかるタカラバコで相手の注意を引きつつ、上空からルーンアックスごと落下して強烈な一撃を叩き込む。
「一撃でも多く叩き込むよ!」
 倒れるにしても、少しでも多くダメージを与えてから。
 ひなみくと入れ替わるようにドラゴンへ跳びかかったウィリアムは、跳躍の勢いに重力を載せた蹴りをお見舞いする。
「今度こそ……!」
 一発目は外したものの、諦めること無くトウテツの主砲へと狙い撃つ雄一。
 リボルバーから放たれた弾丸は途中で竜の幻影となり、炎を吐いて攻撃を行う。
 三度目ならぬ、二度目の正直。
 見事に一際大きく長い黒筒を炙った――ものの、効果的かといえばそうでもないようだ。
 攻撃を重ねれば砲身を歪めて命中を下げたり、破壊して撃てなくも出来るだろう。
 が、この頑丈さと当て難さを考えれば、普通にダメージを与えた方が手っ取り早い。
「グォオオオオオッ!!」
 何度も攻撃を加えられて怒ったのか、トウテツは咆哮を上げると勢いよく息を吸い込み――氷のブレスとして後衛へと解き放つ!
「いけないっ!」
 回復役が倒れては戦線が崩壊する。
 ひなみくは銀花を、タカラバコはりぼんを慌てて庇い、冷気を防ぐ盾となる。
「ここは私が受けるです。皆さんは攻撃を……!」
 同じく割り込んでウィリアムへのブレスを受け止めた機理原・真理は、火炎放射と焼夷弾によってトウテツへ反撃を行う。
「こ、これは……」
 氷の嵐が止んだ後には、惨状と呼ぶしか無い光景が広がったいた。
 ケルベロスを狙った氷のブレス。その余波を受けただけでクルーザーが半壊する。
 美浦・百合水仙がドローンでの修復を行ってくれているのですぐに沈むわけではないが、あくまで応急処置に過ぎない。
 もう一度は、到底耐えられないだろう。
 そして、甲板に倒れる舞。
 銀花のボクスドラゴンである六花も、消滅してしまっている。
 対象の多さにより威力がいくらか分散したのだが、それでも耐えられない者が出るほどの威力だったのだ。
 ミランと、自身を盾としたひなみくとタカラバコの傷も相当なものだし、雄一に至ってはギリギリで踏み止まっているという状態だ。
 受ける人数が減ったため、次のブレスは今のものよりも威力が高いだろう。
「ひなみくさん、回復します!」
 りぼんが『慈愛の右斜め45度』により、盾役の回復を行う。
 続いて銀花は、傷の深い雄一の脳細胞を異常強化して、不自然な自然治癒を促す。
「お返しさせてもらうんだよ!」
 轟雷竜吼。
 ミランの口から収束した雷が青白い閃光となって放たれ、戦艦竜の体を焼いていく。
「君にこれが耐えられますか?」
 続く瑞咲は、凶悪なまでの破壊力を有するトウテツの動きを抑えにかかる。
 壱眼「一万一千五百二十の怪」。
 冬の海上での肝試し。
 伝来の書物に記された魑魅魍魎を具現化して、百鬼夜行の如く走らせるのだ。
「グォオオオッ……」
 唸りを上げる戦艦竜。効いている……のか?
 どちらにせよ、トウテツの受けたダメージは未だ軽微。
 ここからもう一踏ん張りすることが出来るか、正念場である。

●撤退までが任務です!
「ここが退きどころ、ですね!」
 周囲を見回し、りぼんが状況判断を行う。
 ブレス後の砲撃により、ただ一人で中衛を担っていた瑞咲が倒れ。
 続いてひなみくも、近接攻撃後に凍気による反撃を受け沈められた。
(「あの、凍気の棘……」)
 二人の様子を見ていた銀花は、あの攻撃は相手が纏った守護の力を破壊する効果も有していると推測する。
 次に生かせるだろう情報は色々と集めることが出来たし、全員の奮戦によってそれなりの傷も負わせることが出来た。
 だが、ここまでで既に四人が倒れている。
 加えて、ブレスを放った後に一時的に減少していた、ドラゴンから漏れ出る凍気が元に戻っている。
 銀花の見立てでは、そろそろ次のブレスを放ってきてもおかしくない。
 二度目の氷のブレスが来れば、足場であるクルーザーも破壊される。
 ケルベロスであれば、何の準備も無くとも息を止めつつの海中戦闘や、クルーザーの残骸を足場にしつつの海上戦闘が可能なので、問題となるわけではない。
 が、後衛組に再びブレスを吐かれれば銀花と雄一は間違いなく、傷の残っているミランもおそらくは戦闘不能に追い込まれるだろう。
 後一歩で倒せるというのでもないのだ、ムリをする必要は無い。
 継続条件の3は直前のりぼんの回復で一応クリアしているが、それで耐えられない者が複数いる以上、固執するのは危険だ。
『成功条件を満たしていない』かは不明なものの、今までの戦いで三割前後は削れたはずなので多分大丈夫だろう。
「撤退です!」
 仲間達に加え、周囲のサポート人員にも聞こえるように、りぼんが声を上げる。
「デウスエクス・ドラゴニア! わたし達の仲間が必ず倒します!」
 ずびしっ! と指差し宣言したりぼんは、急いで戦線の離脱を図る。
 クルーザーはいつバラバラになってもおかしくない状態だが、健気にも頑張ってくれている。
 このままヒールをかけつつだましだまし走らせ、安全になったところでしっかり直せばいいだろう。
 こうして、戦艦竜トウテツとの第一戦は終わりを迎える。
 ケルベロス達は多くの戦闘不能者を出しはしたものの、いくらかの痛手を与えると共に、多数の情報を持ち帰ることに成功したのだった。

作者:紫堂空 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。