赤い戦艦竜にリベンジを

■リプレイ

●海中での遭遇
　クルーザーに乗る８人のケルベロス達。
　彼らは、神奈川県南部、相模湾を目指していた。
「取り逃がしてしまった戦艦竜……、なんとかしなければなりませんね」
「今回で倒すことは不可能なので、ダメージを出来るだけ与えていくのです」
　リティア・エルフィウム（白花・e00971）は船上から、まだ見ぬ敵の打倒を目指す。だが、戦艦竜を１度の討伐で倒すのは難しいという。だからこそ、シンシア・ジェルヴァース（兇劍継承・e14715）は今回、できる限りのことをしたいと考えている。
「前の時には、そこまで苦戦した記憶ないけど……。今回はなんだか強いみたいだね」
　今回対する赤い戦艦竜に、フェクト・シュローダー（レッツゴッド・e00357）は強行調査の際、遭遇していた。戦力的には勝てそうではあったのだが、近場に戦艦竜の艦隊がいた為、やむなく引くことになってしまったのだった。
「本気出してなかっただけなのか、何か秘密があるのか知らないけど、３度目の正直なんてないんだからっ！　２度目の正直！」
　あの時の雪辱をここで。フェクトは今回倒してしまおうとすら考えている。今回倒すことは不可能と言われた状況ではあるが、果たして……。

　戦いの舞台となるのは、海中だ。
　水中では、意思疎通を図るのは難しい。現場海域に着くまでの間、ケルベロス達は水中でのハンドサインの確認をしていた。
　メンバー達が示し合わせたサインは３つ。
「攻める時は右手で敵を指す」
「撤退時は左手で水面を指す」
「敵に狙われている味方を右手で示し、防御回避を促す」
　ちなみに、サーヴァントを除き、半数が倒れた場合には撤退ということも決めていた。
　全員が作戦に備え、ハンドサインの確認を行う。
　さて、現場海域に到着した一行。敵、戦艦竜が現れるのは海中の為、水の中へと潜るのだが、冬場ということもあり、寒中水泳となる。
「水中……とっても寒そうですけど、頑張ります」
　そう意気込んでいたリティアだが、いざ、水の中へと入ると……。
「す、すすす、すっごく寒いです……。私、もう絶対に夏以外に水泳はしません……！」
　泳ぐことに可も不可もないリティアではあるのだが、寒さはどうしようもない様子。それでも、彼女は気丈に耐え、泳げない人がいないかどうかと気がけていたようだ。
　メンバーの中で、泳ぎがいまいち安定しないのは、ガド・モデスティア（隻角の金牛・e01142）だろうか。山育ちの彼女はカナヅチと言うほどではないが、泳ぎが苦手なようで、多少、水中で動きにくさを感じていたようだ。
「いや、気にせんといてや。問題ありませんから」
　ガドはやんわりと標準語まじりの関西弁で主張する。彼女は水面近くを泳ぐようにと意識して泳ぎ、逃走経路なども確認していたようだ。
「チョー寒い！　……カイリちゃんそんな薄着で平気なの？　だいじょぶ？」
　同じく、フェクトは冬の海の冷たさに、いつものテンションが２割減くらいになっている。
　一方、そのフェクトと同じアパートに住む知り合いである、蛇荷・カイリ（あの星に届くまで・e00608）は水着だけにも関わらず、余裕の表情をしている。
「鍛え方が違うのよ」
　寒さにとても強いカイリは、寒中水泳を特に苦とは感じていないようで、水温が低い中でも問題なく動き回っていた。
「フェクトちゃんは寒いのとか苦手そうだけど、倒れちゃったりしない？」
　寒がるフェクトを、カイリが気遣う。流石に戦闘中だと、寒さで動けなくなっても助けるのは難しそうだと。
「私は神様だから寒さとか全然平気だから！　ほんとほんと！」
　強がる彼女だが、ものすごく鼻水を垂らしてしまっていた。そんな彼女を、カイリは微笑ましそうに見つめていた。
　他のメンバー達も寒中水泳に備え、準備を行っている。
「海の中はお魚いっぱいにゃん！」
　女性と見まごう容姿のディアス・シャドウキャット（蒼き月の夜に佇む山猫・e02887）だが、れっきとした男の子である。ディアスはダイバー服を用意しており、防寒対策を万全に行っていた。
　シンシアも水中呼吸ができる防具を持ってきている。
「寒中水泳は初めてですが、泳ぐことには変わりないのです」
　海軍士官の母を持つシンシアは、３歳の頃から水泳を教わっており、泳法はその身に刻み込まれている。着衣水泳もお手の物なのだそうだ。
　そんなケルベロス一行は、水中へと潜って程なく、目的の魚影……戦艦竜を発見する。全長１０メートルという巨大な相手。船体は赤ということで、やや薄暗い海中では確認が難しいところがあったが、それでも、近づいて来るそれはすぐに確認できた。
（「大きいですね～、戦艦竜って。ちょっと背中に乗ってみたいと思ってしまいました」）
　シンシアはそんな楽しそうな想像をしつつも、恐ろしさも感じる。
（「でも、こんなのが他にも報告されているというのは、怖いですね」）
　この巨大な相手が複数で集まり、艦隊を組まれたら非常に厄介だ。制圧戦の際も攻略対象から外していたことも、致し方ないと納得してしまう。
（「此れだけの大型竜……。討伐が無理でも、出来る限りダメージを与えてやる」）
　中性的な見た目の天導・十六夜（境界を越えた天を導く妖月・e00609）だが、このメンバーの中では一番男性的に見える。十六夜は近づいて来る相手に自身の刀術を見舞おうと、鞘に手を掛けた。
（「戦艦竜の力の程、見定めさせて貰うとしよう」）
　未だ己の道を究めし最中のファン・バオロン（煌爆龍・e01390）。ドラゴニアン、龍形態の彼女は敵に向けて言い放つ。
「真武館拳士、ファン・バオロン。真武道源流・真武活殺法にて、一芸披露仕る！」
　メンバー達は敵、赤い戦艦竜へと右手で指差し、一斉に攻撃を仕掛けていくのである。

●戦艦竜との対決
　こちらへと近づく巨大な赤い戦艦竜。敵は早速、ジェット噴射と共に突撃を繰り出してくる。
　仲間の盾となるべく、前に出たのはカイリだ。彼女は水中に紙兵を散布しつつ、その突撃に備え、身を屈める。だが、あまりに大きなその船体を正面から食らった彼女は、足止めを受けてしまう。
「めっちゃ凄い神様の力、今度こそ見せてあげるよっ！」
　神様になりたがっているフェクト。戦いに臨む彼女は寒い海中でもなんとか普段のテンションを取り戻し、敵へと叫びかける。そして、彼女は自身の優先順位と命中率を考え、杖の先から迸る雷を浴びせかけた。
「私は私教絶対唯一の神様！　フェクト・シュローダー！　ドラゴンくんも私を崇めるなら今のうちだよ？」
　例え、体格が圧倒的に違う相手でも、神様の前にはひれ伏せと仁王立ちすらするフェクトである。
　仲間達もそれに続く。
　ガドはやや不慣れながらも水中で自らの位置を維持しつつ、仲間の後方にカラフルな爆発を巻き起こす。それは、敵に放った攻撃ではない。仲間を鼓舞する為のものだ。
　続くファンは、もともとドラゴニアンということもあり、前後左右に加え、上下も加味して三次元戦闘を試みる。まずは敵の足止めをと重力を宿した蹴りを食らわせようとするが、敵はジェット噴射でそれを避けて見せた。巨体の割になんともスムーズに動く敵。ファンは多少驚いてはいたが、冷静に敵を見定め、次なる攻撃を仕掛ける。
　ともあれ、敵の行動を阻害せねばならない。
　十六夜も二刀一対の長刀、妖刀『十六夜』へと雷の霊力を宿し、その刀で迅速の突きを繰り出す。
「竜気の海へ沈め、天導流……竜雷穿」
　平突きの後、十六夜は柄から掌底を打ちこむ。船体に走る雷と衝撃。戦艦竜の身体に小さなヒビが所々へと走る。
　シンシアは、その敵の状況を逐一確認していた。
（「倒せない上に、攻撃手段も一部判明していないんですよね……」）
　敵が怪しげな行動を起こしたら、事前に示し合わせていたサインを。シンシアはそう考えながら、妖精弓を使って矢をバラ撒くように射て、戦艦竜の足止めを図っていた。
　とはいえ、巨大な敵がそう簡単に侵攻を止めるわけもない。リティアは水中にゾディアックソードを突き出すような仕草をし、守護星座によって仲間の守護を行う。ボクスドラゴンのエルレはリティアの指示もあり、前に立ちながら、仲間１人１人に自らの属性を付与して耐える力を与えていく。
（「一度の攻撃では無理って何にゃん！　とことんやってみないと分からないにゃん！」）
　ディアスも、この１回で敵艦を沈めようと積極的に攻撃を行う。だが、無理はしないようにとも考えていた。
　そんなディアスの戦法は、一点集中攻撃。エアシューズに空の霊力をこめた彼は、すでに仲間が与えた傷を抉るようにして蹴りつけていく。
（「……海の中だから、お魚を使って攻撃すればいいにゃん！」）
　ディアスはそう考え、撒き餌を行う。これでドラゴンが誘導できないかと考えたのだ。
　しかしながら、敵はそれに興味を持つ様子はなく。ケルベロス達へと火炎放射を行ってくるのだった。

●敵の秘密兵器とは……
　水中で続く戦い。
　戦艦竜は突撃と火炎での攻撃を行ってきていたが、時折、腕を出して高速で手近な相手へと振るってくる攻撃が見られた。ケルベロス達は、情報にない攻撃だとそれを認識し、カイリやガドらディフェンダー勢が受け止め、耐えて見せる。
　１人も見捨てはしない。必ず全員で帰る。そういう心づもりで、カイリは仲間を庇っていた。
　負担がカイリへ集中しないようにと、リティアはエルレにも盾役を頼み、リティア自身は光の盾を張ってカイリを守っていたようだ。
　敵の攻撃の隙を見て、ケルベロスは攻め続ける。
　フェクトは握りしめた杖での一撃で赤い船体の一部を氷に包み、ファンは電光石火の蹴りで戦艦竜の機関部と思われる場所を貫かんとする。破壊とまでは行かなかったが、航行に多少の異常が起こる程度のダメージは与えたようだ。
「綺麗な華を咲き散らせ……天導流、桜華一閃」
　十六夜は一度納刀し、敵の気配を感じとる。そして、彼は居合でその巨体を斬り伏せんと刃を振るう。海上から注がれる光がその刃を煌めかせ、幻想の桜吹雪が舞い散ったかのように見えた。
　そこへ、ディアスが戦艦竜へと突撃していく。
「まぐろミサイル、ブリ爆弾にゃん！」
　彼は獣化した手足に重力を宿して殴りかかるのだが。冷たい水の中では効果がいまいちと感じてしまっていたようだ。
「やっぱ、イルカアタックやくじらショットも出さないとダメかにゃん？」
　そこで、またもケルベロス達へと浴びせかけられる火炎放射。先程ディアスが巻いた撒き餌につられてやってきた魚達が瞬時に焼き魚へと化していく。
（「……焼き魚いっぱい。まて、それが狙いか！」）
　彼はなにやら、自身で納得したように頷いていた。もしかすると、戦艦竜はこうして食料を確保していたのだろうか。
　それはそれとして。
「もろたで、食らいなさい！」
　ガドは敵の炎に耐えつつ、愛用の朽ちた槍で氷結の螺旋を描きつつ、攻撃を仕掛けた。斬撃を浴びる敵は体を凍り付かせる。
　ただ、ガドはシンシアが動くのも計算していた。ジャマ―のシンシアもまた的確に狙いを定めた一矢を戦艦竜の体に突き刺し、その箇所を凍り付かせていたのだ。
「無理をせず、全員で無事に帰ってきましょう♪」
　シンシアはそう仲間達へと訴える。こんなところで、誰一人、欠けることがあってはならないのだ。
　だが、そこで、戦艦竜が妙な動きを始める。船体前方の砲門を一斉に広げ始めたのだ。火炎放射は所々の砲門から出していただけだったが、これは危険だとシンシアは判断する。
　それは他のメンバー達も感じていたようだ。事前に打ち合わせしたサインで、狙われている仲間へと右手で指差す。
　その狙いは……ガドだ。
　もちろん、ガドも仲間へと警告すべく、注意を行ってはいた。
　ディフェンダーとして立ち回る彼女だったが、自らにそれが来ることをあまり想定してはいなかった。危険な攻撃にあらかじめ備えていれば……。
　ガド目がけ、全砲門から光が迸る。火炎をも上回る高熱が浴びせかけられ、ガドは意識を失ってしまう。
　カイリ、ボクスドラゴンのエルレもガドを守ろうと動いたが、間に合わなかった。
　だが、まだケルベロス達のほとんどが動くことができる。
　最後まで、人として戦う為に。カイリはうな垂れるガドを気にかけつつ、エアシューズに灯した炎と共に蹴りを戦艦竜へと叩きつける。
「さぁ、綺麗な華を咲かせてくれ」
　十六夜は二刀一対の長刀を同時に抜き、居合で敵の船体へと幾度も斬りかかる。
　敵はなかなかに動きを止めない。敵はすぐに体勢を整え、巨体な船体でケルベロス達へと突撃を行う。ケルベロス達の脳裏に、事前に言われていた通り、この場で沈めるのは困難かとの考えが過ぎる。
「焦りは禁物です。落ち着いていきましょう……」
　リティアが全力で光の盾を展開し、回復に当たる中、シンシアは２つの妖精弓を束ね、漆黒の巨大矢を投じる。
　それを受けた敵の身体に電撃のようなものが走り、戦艦竜の動きが刹那止まった。
　ファンはここぞと、螺旋状にチェーンを配置した、ガントレット型のチェーンソー剣、鋸劫廻を構える。慎重にタイミングを見計らっていたファンは、大胆に戦艦竜の正面から切り込み、敵の身体を切りつける。
　フェクトも合わせるように、ファミリアロッドを小動物に戻し、魔力と共に解き放つ。それはファンの傷つけた場所へと潜り込むように入っていき、その傷口を広げた。
　それに痛みを覚えたのか、戦艦竜は耳をつんざくような咆哮を行う。水中を揺るがすほどの叫びに、ケルベロス達は思わず耳を塞ぐ。その間に、戦艦竜はこの場から離れていってしまったのだった。

●撃退はしたものの……
　この場を離れていく戦艦竜。その影はすでに遠く。
「シンシア達、勝った、ですか……？」
　仲間達へとそう確認するシンシア。少なくとも、撃退できたことは間違いないようだ。
「冗談じゃないよ、ここで沈めるよ、絶対！」
　フェクトなどは深追いも考えていたようだが、近場には別の戦艦竜がいる可能性も高い。ガドの容態が気になることもあり、この辺りが引き際だとほとんどの仲間達は判断していた。
「お疲れ様」
　水中へと顔を出したメンバー達へ、十六夜がそう声を掛ける。しかし、十六夜は静かに、撃退した戦艦竜に対して殺意を高めていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：ガド・モデスティア（隻角の金牛・e01142）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 11／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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