戦艦竜ヴァイスメーヴェ

作者:さわま

●神奈川県相模湾沿岸
 穏やかな日差しの差し込む青い海原。
 風も弱く、波も穏やかなその海を一艘の漁船がゆったりと進む。
 その行く先に空を飛び交うカモメの群れが見える。
 ――クワァッ、クワァッー。
 特徴的な鳴き声を上げるカモメたち。
 その時であった。
 漁船の前方の海が盛り上がり海中から大きな白いものが浮き上がってくる。
 ――ドォオオオオンッ!
 突然、漁船が大きな爆発に包まれる。
 海中より姿を現す白い戦艦竜。
 その背中の砲塔の先からは砲撃の証である黒い煙がふき出していた。
 
●戦艦竜を攻略せよ
「勇敢なるケルベロスたちよ。狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)殿の調査で、城ヶ島の海を防衛していた『戦艦竜』が相模湾に出没している事が判明した」
 山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)が集ったケルベロスたちに緊張した面持ちで告げる。
「『戦艦竜』とはドラゴンの体に強力な砲塔や装甲を持った個体で、通常のドラゴンよりも高い戦闘能力を有している。先日の城ヶ島制圧戦で南岸からの上陸作戦が行われなかったのはこの『戦艦竜』たちの存在が大きかったのだ」
 そのような強力な存在が人々の生活圏である相模湾に出没しているというのだ。
「このままでは人々が相模湾を安全に航行する事ができなくなってしまう。強力かつ危険な相手ではあるが『戦艦竜』を攻略しなければならない。お願いできるだろつか?」
 臆する事無く頷くケルベロスたちにゴロウが笑顔を見せる。
「『戦艦竜』はその強力な戦闘能力と引き替えに『自力でダメージを回復する事が出来ない』。今回の作戦での撃破が不可能だとしても、何度か作戦とアタックを繰り返しダメージを積み重ねる事が出来れば撃破は可能なはすだ」
 つまり複数回に及ぶ作戦で1体の『戦艦竜』の攻略を狙っていく算段なのだ。
「今回はその始まりとなる最初のアタックを貴殿らにお願いしたい。相模湾まではクルーザーを利用して移動してもらう手筈がついている。厳しい戦いになると思うがよろしく頼む」
 
「貴殿らに相手をしてもらう個体はカモメの鳴き声に反応する性質があるようだ。その体色が白色である事もあり、便宜上『ヴァイスメーヴェ(白鴎)』と呼ぶ事にする」
 このカモメの鳴き声に反応する性質を利用すれば『ヴァイスメーヴェ』を誘き寄せる事ができる。また『戦艦竜』は攻撃してくるものを迎撃するような行動をとるために戦闘から撤退する事は無く、敵を深追いしないように行動もするためケルベロスたちが逃げる場合に追いかけてくる事は無いという。
「『ヴァイスメーヴェ』の装甲は非常に頑丈で背中の砲塔による砲撃は非常にダメージが高い。ただしこの砲塔は本来人間大の大きさの目標を攻撃するようには出来ていないので、命中率はそれほど高く無いだろう。また回避能力もその堅牢な装甲により犠牲になっているようだ」
 ズバ抜けて高いHPと攻撃力を誇るが、命中や回避能力はさほどではないとゴロウは説明する。
「今の所『ヴァイスメーヴェ』について分かっている情報はこれだけだ。砲塔以外にも何か攻撃方法があるだろうし、ひょっとすると弱点のようなものがあるのかもしれないが……」
 今回の戦闘で敵の攻撃能力は判明するだろうし、何か弱点のようなものを発見できるチャンスもあるかもしれない。
 敵に不明な点が多い以上、分かっている情報だけで全てを判断するのは危険だろう。様々な状況に対応できるバランスや柔軟性も重要だ。
 
 説明を終えたゴロウがペコリと頭を下げる。
「危険な任務ではあるが全員無事に帰って来てくれ。……気をつけてくだせぇ」


参加者
ドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)
ペテス・アイティオ(ぺてぺて・e01194)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
柊・おるすてっど(地球人のガンスリンガー・e03260)
ヴァイス・グラニート(餓竜・e04691)
ガイラ・ゼブ(紅玉の後継・e11373)
ヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864)

■リプレイ


「先の戦いであらかたドラゴンは討伐したと思っておりましたが。このような個体が残っておりましたとは驚きですわ」
「まさか海で対艦戦闘が出来るとは、心躍りますね」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)の呟きにドロレス・ハインツ(純潔の城塞・e00922)が笑みを浮かべる。2人は海での戦いに備えウェットスーツに着替えている最中だ。
「こんな所で格差社会の現実を突きつけられるとは、です!」
 同じく着替え中のペテス・アイティオ(ぺてぺて・e01194)が自分の慎ましやかな胸と2人のたわわなそれを見比べて「ぐぬぬ」と唇を噛む。
 そんなペテスの様子にヴァルリシア・ゲルズ(シャドウエルフのウィッチドクター・e11864)が心配そうに声をかける。
「あのペテスさん?」
「くっ、ヴァルリシアさん、あなたもか! です!」
「えっ?」
「ヴァルリシアさんはこっち側の人間と思っていたのに……シスター服の下にそんなご立派なモノを隠しもっていたとは、です!」
「えええっ!?」
 ペテスの予想外の方向からの剣幕にあたふたするヴァルリシア。そこに着替えを終えた柊・おるすてっど(地球人のガンスリンガー・e03260)がやってくる。
「ここはこう言わせて貰おう。大きさの違いが、戦力の決定的差ではないッ!」
「むむっ。そういうあなたはどっち側の人間……です???」
 おるすてっどの独特の雰囲気に首をひねるペテス。貧乳とも巨乳とも普通とも異なる、いうなれば無属性。何物にも属さず故に何物にもなり得るような、トランプでいえばジョーカーのような雰囲気が彼女にはあった。

「今回の主目的は敵の能力の調査だ。能力が分からねば今後の対策も立て辛い故にな」
 船のデッキの上であぐらをかいたアスベル・エレティコス(残響・e03644)がその子供っぽい容姿に似合わない偉そうな口調で仲間に確認を促す。
「ああ。次に繋げる為にも出来る限りの情報を持ち帰りたいものだ」
 ヴァイス・グラニート(餓竜・e04691)がアスベルに頷く。
「俺としてもそういう堅実な作戦の方が性に合う。一か八かのギャンブルは苦手でな」
 そう肩をすくめたガイラ・ゼブ(紅玉の後継・e11373)が周囲の海に目を向ける。
「この辺なら戦場にいいんじゃないか」
 その言葉にその場の全員が頷いた。


「えいっ、です」
 ペテスがスピーカーとカメラを搭載したドローンを周囲に飛ばし、カモメの鳴き声を流させる。そののどかな鳴き声に反して、船の上に張り詰めた空気が漂う。
「海に落ちたら随分と寒そうだな」
「この辺の海は暖流の影響で比較的水温は高いんですよ」
 ゆらゆらと揺れる海を見て呟くガイラにドロレスがいう。すると2人の目が海中に巨大な白いものを捉える。その時であった。
 ――ドォオオン!
 突然、船が爆発に包まれて四散する。船の残額が音を立てて海面に落ちていく。
「いきなりの海中からの砲撃とは……抜かりました」
 咄嗟にサーフボードに飛び乗り脱出したドロレス。その横のウィングキャットのブラッキーが周囲をキョロキョロと見回す。
「皆様、大丈夫ですか!?」
 同じくサーフボードに乗ったミルフィが仲間に呼びかける。
「早速の寒中水泳とはな。確かにそんなに冷たく感じないけどよ」
「やってくれおったな、戦艦竜めが」
 海面から顔を出し毒付くガイラとアスベル。
「こちらも無事だ」
 翼を広げヴァルリシアを抱えたヴァイスが空中からミルフィに答える。
「こっちも大丈夫、です!」
 おるすてっどを両手でぶら下げパタパタと羽を動すペテスが続けて答える。
「全員無事で何よりです。……ッ!」
 安堵の表情を見せたドロレスだが、海中からの気配に右腕の縛霊手に付設したロケットエンジンを点火。その場から滑るように移動すると海面から砲弾が飛びだし空中で大きな音をあげ爆発する。
「水中から我輩らを嬲り殺すつもりか? 舐めおって」
 舌打ちをしたアスベルだがニヤリと笑みを浮かべる。
「ならば水中戦を挑むまでよ」
「まぁ、それしかないか。案外、水の上よりも戦い易い気がするぜ」
 ガイラがやれやれといった感じに海下に目を落とす。
 ケルベロスに窒息死の心配は無い。だから潜水具などを用意しなくても10分かそこらの水中戦闘など難なくこなす事ができる。
「せっかくの観測用ドローンが無駄になっちゃいました、です!」
「戦場とは常に予想外の事が起こるもの。我々はその場その場で配られたカードで最善を尽くすしか手が無いって事さ」
 残念そうなペテスの掴む手を解き、海面に飛び込んだおるすてっどが海中に姿を消す。
 ヴァルリシアが緊張した面持ちで海を覗きこむ。彼女はまだケルベロスになって日が浅い。窒息死の心配は無いと分かっていても、いざ実行に移すとなると恐怖を感じてしまう。
「大丈夫か?」
 背中からのヴァイスの声。
「大丈夫です。私も、やれます」
 脳裏に父の姿が浮かぶ。「見ていてくださいね」と呟いて海に向かい飛び込む。
「それじゃ戦闘開始と行こうか。全員無理はすんなよ?」
 ガイラがいうと戦艦竜に向け潜水を開始した。


 海中を下に下にと進むケルベロス。やがてその先に見える白い影が大きくなっていくと、こちらに向かい次々と飛んでくる黒い砲弾が目に入る。
(「この程度、躱すのは容易いですわ!」)
 砲弾の合間をぬい、ミルフィが竜の白い巨体がくっきりと見える位置まで接近する。
(「『アームドクロックワークス』モードUSW、起動」)
 『時計仕掛けの兵装』が対潜仕様に変形し、発射された対艦魚雷が竜に命中する。
(「まずは弱点を探ります、です! バッテリーパージ」)
 ペテスの背中のバカでかいスマホのバッテリーがぱかっと外れる。
(「すべてを焼き尽くす電子の力よ、燃え上がれ! 『リチウなんとかイオンバスター』」
 くるくると回転しながら飛んでいく巨大なバッテリーがゴンと竜にぶち当る。
 ――チュドーンッ!
 そして大爆発を起こすバッテリー。良い子のみんなはバッテリーを水に浸けたり、人にぶつけたりするととっても危険だから絶対に真似しないでね。ペテスちゃんとのお約束だよ!
 さらに竜の右舷から姿をあらわしたおるすてっどが黒鎖を撃ち出す。
(「敵を知り己を知ればケルベロスに勝てない敵はないのだ、ってな。弱点があるかどうかしらみ潰しに試させてもらうぜ」)
 魔力の篭った鎖が装甲板に突き刺さるも手応えは浅い。
(「こちらも出し惜しみ無しだ。だが――」)
(「貴様も手の内全てを曝して貰うぞ」)
 その隙に接敵したガイラのチェーンソー剣が装甲にぶつかり火花を散らし、アスベルが装甲板の上をエアシューズで駆け抜け炎の跡をつける。
(「これまで人々を殺めてきた貴方の罪。今、ここで向き合ってもらいます――『月天使(サリエル)の鏡』」)
 ヴァルリシアが杖を掲げると竜の眼前に大きな鏡が出現。中から漏れ出した光が竜を照らし出し、苦しそうな呻き声があがる。
(「ひと通りの攻撃手段は試したが。特に効くっていう攻撃は無いようだな」)
 仲間たちの一連の攻撃を含めて冷静に観察していたガイラがそう分析する。
(「あとは弱点部位か……それとも別の何かがあるのか?」)
 ――ドンッ!
 突如、ガイラや竜に近づいた仲間たちの側で小さな爆発が起こる。
(「これは……機雷ですか」)
 ドロレスが目を凝らすと、無数の小型の機雷が周囲を漂っている事に気づく。
(「敵の手による物なのは間違い無いでしょうね」)
 船を一撃で沈める砲撃に比べればダメージも大した事は無さそうだが数が多い。
 機雷に思案を巡らせるドロレスの目が驚きで見開かれる。炎の翼をはためかせたヴァイスが機雷を紙一重で躱しつつ……否、躱し切れずに爆発するのも構わずに一直線に竜に突撃する光景が目に入ったからだ。
(「貴様を喰らい尽くすッ! 『竜牙』」)
 狂気の色を帯びたヴァイスの瞳が竜を捉え、その長い首に己の牙を突き立てる。硬い装甲板に牙がぶつかるも、荒々しい衝動に圧されるままに顎に力を込める。するとバキバキと装甲板が砕けちり、露わになった竜の素肌を食いちぎる。
(「まるで獣ね……」)
 竜の返り血を浴び海中に赤い筋を残して離脱するヴァイスを見てドロレスが呟いた。


(「あっちもこっちも機雷だらけ。よくも撒き散らしたもんだ」)
 戦闘を開始してから数分が経過していた。前方に新たな機雷を発見したガイラが舌打ちしつつ足を止める。
(「危ないですわ!」)
 少し後方から様子を伺っていたミルフィがガイラに迫る砲弾に気がつき注意を促す。
(「なっ、敵の狙いはこれか!?」)
 機雷により行動範囲を狭め足止した所を強力な砲撃で狙い撃つ。咄嗟に回避行動をとるガイラだが運悪く気づくのが遅れ間に合いそうにない。
 ――ドォオオン!
 爆発の中からガイラを庇ったヴァイスが姿をあらわす。
(「間一髪だったな」)
(「助かったぜ、ヴァイス」)
 盾役であり防具もしっかりと対策を施していたヴァイスが即戦闘不能になる程では無いがその一撃のダメージはかなりのものだ。
(「今すぐ回復します」)
 後方からヴァルリシアとブラッキーがヴァイスをヒールで癒す。
(「確かに恐るべき攻撃であるが。貴様の力、この程度ではあるまい」)
 竜を睨むアスベル。自らの眼前に紅い光を放つ魔力を凝縮させていく。
(「全てを曝け出すまで追い詰める――『霄壤の血髄(マグヌム・カリブンクルス)』」)
 凝縮された魔力が心臓の様に脈打つと今度は一気に膨張し、血のような真っ赤な霧となり戦場を包み込み仲間に力を与える。
(「そろそろ頃合いですかしら。では『巨大戦』と参りますわ――『ナイトオブホワイト』起動……!」)
 赤い霧の中から白銀の光を放つ巨大な機動鎧が出現。竜に白兵戦を挑む。
(「稼働限界まで残りカウント60、59……今の内に!」)
 ミルフィからの合図に頷くガイラとドロレス。
 2体の『巨大戦』の合間をぬってガイラが竜に接近。
(「現状オレができる最大火力でどのくらい通るか確認させて貰うぜ」)
 左手の傷口をじっと見つめて精神を集中させる。
 一方のドロレスが右手の縛霊手を上に掲げロケットエンジンを点火。ドンっと身体が海面に向かって浮上。その勢いのまま空中に飛び出し縛霊手をパージ。空中から海面下に映る2つの白い影を見据え、口で右手の親指を噛む。
(「30、29、28……」)
(「赤より紅き朱の王 緋色に染まる虚構の刃よ――」)
 ガイラの左手の傷口から緋色の光が溢れる。
「血よりも紅き緋色の銃弾よ――」
 ドロレスが右手を銃のように構え、血の流れ出る指先を海面に向ける。
(「今こそ誓いの声を聞き、汝が力を我に与えん、我が身を食い現れよ――」)
 ガイラが右手で緋色の光を掴み一気に引き抜く。
「古の盟約に従い我が心の撃鉄を受け、立ちふさがる敵を滅ぼせ――」
 ドロレスの指先に緋色の光が灯り、落下を始めたドロレスの身体が海中に着水。竜の巨体が一気に近づいてくる。
(「……2、1、0。離脱しますわ!」)
 機動鎧が竜から素早く離脱。そしてガイラが緋色の刃を振り下ろし、ドロレスの緋色の指先が竜の装甲にコツンと触れた瞬間。
「『血滅斬(ブラッディ・ブレイド)』」
「『Guns N' ROSIER(ガンズ・アンド・ロージア)』」
 ――ドォォンンンッ!!
 竜に緋色の光が炸裂し、海面までもを緋く照らし出した。


 戦闘開始から10分以上が経過。盾役の多さも相まり、ダメージの蓄積はあるもののケルベロスの中に1人として戦いから離脱する者は出ていない。ここまで互角の、いやそれ以上の勢いで竜を攻め立てていた。
(「ん、何だ? 装甲が開いて中からプロペラみてーのが出てきてるじゃねーの」)
 竜の背面に周り込み一撃を加えようとしたおるすてっどが最初にその異変に気づく。竜の背後や側面の装甲が展開され、無数のファンが出現しているのが見える。
(「なんだかわかんねーけど調べてみねーとな!」)
 手にした大鎌の刃で勢いよく竜を斬り裂くと今までに無い手ごたえがその手に伝わる。
(「ビンゴッ! 今のこいつは斬撃に無防備みたいだぜ」)
 素早く仲間に合図を送り、それに気づいた仲間たちが次々と斬撃を繰り出す。苦しそうに呻く竜だが、無数のファンが一斉に回転を始め、周囲の水を巻き込み始める。
(「な、何ですかこれは!?」)
 さらに竜自体もコマのように回転を開始、水が竜に向かい一斉に流れ込み水中に巨大な竜巻が発生するのを見てペテスが驚きの声を上げる。
(「前衛のみなさんが!?」)
 その竜巻に飲み込まれた前衛陣が木の葉のように上下左右にもみくちゃにされる光景にヴァルリシアが思わず息を漏らす。
(「でもこの程度の攻撃でしたら……ッ、そんな!?」)
 驚愕の表情を見せるミルフィの視線の先に竜巻に吸い込まれていく機雷が。それも1つや2つでは無い。これまでばら撒かれた大量の機雷が続々と竜巻の中に消えていく。
 やがて竜巻の内部から眩い光が発せられ轟音が鳴り響いた。


 ズドンと巨大な水の壁が海上から吹き上がり、滝のように再び海に降り注ぐ。
「ブハァ!? 無茶苦茶すぎです」
 海面からペテスの顔が飛び出す。爆発の余波で海上まで押し流されてしまったのだ。
「これが、戦艦竜の切り札でしたのね」
 同じくミルフィとヴァルリシアも姿をあらわす。
「前衛のみなさんは!?」
「無事、とは言い難いかもしれんが生きておるよ」
 その叫びに応えるかのようにアスベルが気を失ったドロレスを抱えて姿をあらわす。
「他の皆さんは!?」
「無事なはずじゃ、気を失って海中を漂っておるかもしれんが……。十分な情報も入手できた。ここが引き時じゃな」
 淡々とアスベルが撤退を告げる。
「私が敵を引きつけている間に皆さんを救助して撤退してください。……ミルフィさん、お父さんに御免なさいって伝えておいてくれますか?」
 ヴァルリシアが決意の表情で海中の竜を見る。
「やめておけ。この広い海で連中を探す当ても無い上にそもそも救助の必要は無い」
「必要無いって……じゃあ、皆さんは!」
「目を覚ませば自力で帰還するじゃろう。それでも行って無駄に親父さんを悲しませるつもりなら我輩は知らんよ」
 そういってヴァルリシアに背を向けて撤退を始めるアスベル。複雑な面持ちで海下に目をやったヴァルリシアもやがてそれに続く。
「あーばよーとっつぁーんです! 絶対にいつか倒しますから……みんなの力で、です」
 ドロレスを抱き抱えたペテスが去っていく海中の白い影をちらりと見ていった。

 今作戦の損害は小型クルーザー1艘のみ。8人のケルベロスは全員自力で帰還した。
 最後に、彼らがもたらした情報は次回以降の本作戦において我々に大きなアドバンテージを与えるであろう事を報告させて頂く。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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