戦艦竜華蛇―先陣

作者:柊透胡

 冬の昼下がり、相模湾洋上――突如、海上に火柱が上がった。
 否応もなく巻き込まれたのは、漁船2隻。まるで、水中花火の如き孔雀の羽状に広がった火柱に呑まれ、船上の命も全て潰える。
 ――――。
 水中より火柱に消えた漁船を見上げるのは、極彩色のドラゴン。
 全長10m程の身に幾重もの硝子質の装甲を重ね、水晶柱の如き砲塔を数多に備え、長大なヒレを翻し水中を泳ぐ様の、何と艶やかな事よ。
 海中まで射し込む陽光に照り映え、その竜躯は、あたかも虹色の水中花の如く。
 ――――。
 午睡を妨げた漁船を海の藻屑として満足したのか、その戦艦竜は、優美に身を翻すと静かに海底へと戻っていった。

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 タブレットから顔を上げた都築・創(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達を静かに見回した。
「城ヶ島の南の海にいた『戦艦竜』が、相模湾で漁船を襲うなどの被害を出している事が判明しました」
 これは、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)による調査の成果と言えよう。
「補足の説明を致しますと……戦艦竜とは、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンで、ドラゴンの体に戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を誇ります」
 城ヶ島制圧戦で南側からの上陸作戦が行われなかったのは、この戦艦竜の存在が大きい。
「戦艦竜の数自体は、けして多くありません。しかし、それぞれが非常に強力で、このまま放置すれば、相模湾を安全に航行出来なくなるでしょう」
 生真面目な面持ちのまま、ヘリオライダーはケルベロス達の推測を肯定する。
「ヘリオンの演算により、1体の戦艦竜の潜伏地点を特定しています。この戦艦竜の撃退が、本件のミッションとなります」
 現地まではクルーザーを利用して移動、そして、海中戦となる。
「戦艦竜は、強敵です。その上、敵のフィールドで戦う事になりますから、1度の戦闘での撃破は不可能でしょう」
 しかし、戦艦竜には、強力な戦闘力と引き換えに、ダメージを自力で回復出来ないという特徴がある。波状攻撃でダメージを積み重ねていけば、きっと撃破も叶う筈。
「今回は第1戦。皆さんには先陣を切って戴く事になります。厳しい戦いが予想されますが……どうぞ宜しくお願い致します」
 相模湾の水深は1000m以上。特に平塚から小田原に掛けての海岸には大陸棚がほとんどなく、海岸から1000mの海底まで連続的に一気に深くなる。
「戦艦竜は、小田原沖の深部に潜んでいますが……相当に神経質な性質のようで、洋上が五月蠅くなれば浮上、襲い掛かってきます」
 単に通り掛かった漁船でさえ襲撃されている。現地でグラビティの数発でも海中へ撃ち込めば、覿面だろう。
「戦艦竜は全長約10m。その姿は……一言で例えれば『水中花』です」
 『戦艦』であるからには巨躯に装甲や砲塔があるが、総じて硝子質の装備で、陽光射し込む水中に在っては、虹色の煌く優美な様相。また、ふわふわとした半透明のヒレが幾重もその身を飾っており、正に水中に咲く巨大な花だ。
「その外見より、この戦艦竜は『華蛇(カダ)』と呼称する事にします」
 一方で、その戦闘能力は詳細が判然としていない。
「大凡、戦艦竜は生命力が高く攻撃のダメージが大きい一方で、攻撃の命中精度や回避性能はそれ程高くないようです。華蛇も、その傾向にあると推測されます」
 又、戦艦竜は、攻撃してくるものを迎撃する行動傾向にある。戦闘が始まれば、撤退する事はない。
「同時に、敵の深追いもしない為、ケルベロス側が撤退すれば、追撃の心配はなさそうです」
 戦艦竜は強敵だ。引き際の見極めも肝心となる。
「初戦は、華蛇の戦闘能力を測る威力偵察も兼ねています。正面から戦う海中戦となり、とても危険な任務となるでしょう」
 ケルベロス1人1人を見詰める眼鏡越しのアイスブルーの眼差しは、鋭い。
「重ねて断言します。この戦いで、華蛇の撃破は不可能です。しかし、次に繋がる戦果を残せるよう、頑張って下さい」


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
東名阪・綿菓子(求不得苦・e00417)
風藤・レギナエ(啼き喚く極楽鳥・e00650)
ルルゥ・ヴィルヴェール(竜の子守唄・e04047)
葉月・静夏(丈夫な無縫者・e04116)
嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)
池・千里子(総州十角流・e08609)
リディア・アマレット(蒼き月を見上げ・e13468)

■リプレイ

●先陣を切る
 天候は晴天、風やや強し――相模湾海上を切り裂くように白波立て、沖へと向かうクルーザー。
「洋上ってのは、寒いもんやなぁ」
 スカーフを口元まで覆い、身を竦める嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)に、ミミックのツァイスもピタリと寄り添う。些か荒っぽい揺れに身を任せるケルベロス達の間を、潮風がビョウビョウと吹き抜けていく。
「この辺りでしょうか。みんな準備は良いですか?」
 停泊させたクルーザーを自動操縦に切り替え、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は仲間の方へ振り返る。
「では、もう1度、今回の目的を確認します」
 今回の標的は、戦艦竜『華蛇』。戦艦竜は強大なデウスエクスだ。1度の戦闘で撃破は不可能と、ヘリオライダーからも明言されている。
「次に繋げる為に、敵の情報を集める事だね」
 武器の手入れに余念が無い葉月・静夏(丈夫な無縫者・e04116)は、如何にも楽しそうだ。来るスリルある戦いに、ワクワクしている様子。
「栄えある一番槍ね。でも、倒せないからといって単なる様子見じゃつまらないわ」
 11歳という年齢より大人びた表情で、肩を竦める東名阪・綿菓子(求不得苦・e00417)。
「華蛇さんとやらの全てを、暴き倒してあげるわ」
「そうですね。ここで倒せずとも、次に繋ぐ布石を打って無事に帰りましょう」
 対照的に柔らかく微笑むルルゥ・ヴィルヴェール(竜の子守唄・e04047)だが、秘めた決意は同じ。
(「年の瀬に寒中水泳をする羽目になるとは」)
 無愛想の胸の内で、溜息を吐く池・千里子(総州十角流・e08609)。
「今年の災禍は今年の内に祓っておきたかったが、仕方ない」
 出来る限りの事をやろう。それが明日へと繋がるのだから。
「地味なお仕事やけど『小さなことからコツコツと』と大阪の偉人も言うてはる!」
 翼は正に極楽鳥、囀るような声も高く、動作もいちいち派手な風藤・レギナエ(啼き喚く極楽鳥・e00650)は、やる気も一杯のようだ。
「それでは、威力偵察を開始しましょう」
 にこやかに開戦を宣言するリディア・アマレット(蒼き月を見上げ・e13468)。水着姿のケルベロス達の中で、水中用動力甲冑『FullMetal Undine』を着込んだ姿はよく目立つ。
「まあ、何とかしましょう。頑張りましょう!」
 リディアの掛け声に頷き合うケルベロス達。見下ろす紺青の海面には、まだ何ら影も見出せない。
「そしたら、よろしゅうな!」
 翼を広げ、逸早くクルーザーから飛び立つレギナエ。
(「あっちが水中花ならこっちは空を舞う極楽鳥花や、上から見下ろしたるわい!」)
 レギナエが十分高度を取るのを待って、まずは誘き寄せ。何人かは、船上からグラビティを撃ち込む心算でいたが。
「クルーザーが巻き込まれると困りませんか?」
 レオナルドの言葉も尤もだ。何せ、漁船をあっさり沈める敵だ。クルーザーとて例外でないだろう。
 元より海中戦の心算で水中呼吸の準備も万全。先にクルーザーから離れる事にして、次々と海へ飛び込むケルベロス達。
「臆病者の忠告、か?」
 飛び込む体勢のまま、ふと呟いた千里子に苦笑を浮かべるレオナルド。
「……あ、はい。震えてます。はは、戦う前から情けないですね、俺」
 デウスエクスと対峙する時は、いつもそうだ。恐い、怖い……。
「ですけど……後に繋がる大事な第1戦です。必ず成功させましょう!」
「そうだな」
 懸命に士気を奮い立たせようとする白獅子の様子に、千里子の眼差しが僅かに和らいだように見えた。
「行くぞ」
 すぐ海へ飛び込んでしまったので、その表情ははっきり見えなかったけれど。

●主砲一斉掃射
(「……水泳帽、忘れていたわ」)
 海中で長い灰髪がふわりと広がる。髪を引っ張られる感覚に、綿菓子が顔を顰めるのも束の間。
 レオナルドのガトリング連射、炎酒のクイックドロウ、リディアのロックオンレーザーが、次々と海中に火花を咲かせる。空中からも、レギナエが時空凍結弾を叩き込んだ。
(「貴方に癒えぬ傷を与えましょう。今は小さくとも何れ貴方を倒す傷を」)
 硝子質というその装甲をいつか壊す、小さな亀裂を入れるべく――その為に、地獄の猟犬は来たのだから。
 ルルゥのケイオスランサーから程なく――深海より黒々とした影が、猛烈な勢いで浮上する。
(「……ッ!」)
 咄嗟に回避した千里子と静夏の間を割るように、花弁の如き何かが閃いた。
 これこそ、戦艦竜『華蛇』――小田原沖の深海を縄張りとした脅威。巨大なるケルベロスの獲物だ。
「うっひゃ~! めっちゃ綺麗や!」
 空より華蛇の全貌を見下ろし、いっそ無邪気に歓声を上げるレギナエ。
「こんなんうちの店に並べられたらサイコーやのになぁ!」
 海面下十数mまで浮上した戦艦竜は、正に水中花。全身を半透明のヒレが幾重も飾り、無数に突き出す砲塔は総じて硝子質。冬の陽光射す海中に在って、虹色に煌いている。
 その優美に歓声を上げる一方で、レギナエの観察眼は初撃を分析している。
「ヒレ、やんな?」
 数多の半透明のヒレの先が、花弁散るように切り離され、それぞれが縦横無尽に敵を切り裂く。
「せやな……『華竜の比礼』、とでも名付けよか」
 発動の瞬間、全身が淡く虹色に輝いた。ほんの刹那だが、回避の標とはなるだろう。
 レギナエの考察の間にも、ケルベロスの攻撃は巨影に殺到する。
「来よったねー。さて、お相手勤めさせてもらおかね」
 水中呼吸出来ても、潜る前にはつい大きく息を吸い込んでしまう。一気に潜水した炎酒のエアシューズが、海水との摩擦で炎を纏う。その勢いのまま、激しい蹴撃が硝子質の装甲を穿つ。
(「恐くない、怖くない……狩るのは、俺だ!」)
 地獄化した心臓より畏怖の白炎が溢れ出る。獅子の幻影を纏うレオナルドの姿は、正に獲物を狩る獣。
(「……覚悟を」)
 ケルベロスならば、水中戦とて通常と動きは何ら変わり無い。瞬速で華蛇の間合い深く入り込み、その速力と膂力を拳一点に集中した千里子は総州十角流『千天咆』を炸裂。その衝撃がビリビりと四方八方に伝播する。
(「空即是色!」)
 白い繊手が蒼い短刀を掴む。一気に接近し、綿菓子は無我夢中で刃を振り回した。ヒレと思しき柔和を切り裂く感触が、何とも心地好い。
 海面スレスレまで滑空したレギナエが絶空斬を繰り出した次の瞬間、鈍い駆動音が海水を震わせる。煌く硝子質の砲塔が向けられたのは周囲のケルベロス、ならぬ上方。
 ――――!!
 主砲より一斉に迸った光条は、文字通りの光速で海面を突き破る。その衝撃に逆巻く波濤。水中泡立ち、刹那ケルベロスらの視界を塞ぐ。
「な……ッ!」
 逃れる暇もなく、呑まれた。
 戦場での『飛行』状態は、遠距離攻撃の前に呈の良い的だ。或いは、独り空飛ぶ様が目立ち過ぎたか。
 殺傷ダメージの想定など生温い――光条失せるや、海へと真っ逆さまに墜落するレギナエ。
(「レギナエさん!」)
 ドボーンッ! と派手に水柱が上がった。オラトリオの青年は完全に意識を失っている。咄嗟に泳ぎ寄ったルルゥは、ともすれば力なく沈んでいく長身を必死に引き寄せる。
 レギナエを掴んだまま、ヒールグラビティを編もうとしたルルゥの動きが止まる。
(「私は、メディックは、何をすれば……」)
 華蛇の主砲一斉掃射は、無傷であったレギナエをたった一撃で落とした。或いは、追撃などが発生したかも知れないが、一撃必殺の威力の前に、ルルゥ渾身の回復も無力に等しくさえ思えてくる。
 戦艦竜は、強い――実感が、恐怖を伴い背筋を這い登る。
 それでも。ルルゥには、仲間がいる。ルルゥには、癒す為の力がある。
(「力不足であろうと、私は私に出来る事をするだけです!」)
 少女のマインドリングが、光の盾を具現化する。
「なるほど。今までにはない強敵だね。でも、楽しまないとね!」
 マインドシールドは、今しもデストロイブレイドを叩き込んで華蛇を挑発した静夏へ。ケルベロス達が用意してきたグラビティで唯一の『盾』のエンチャント技だ。対象が単体であるのがもどかしい。
「射線確保。さあ、狙い撃ちますよ……!」
 華蛇の側面に位置取り、ガトリングガンを構えるリディア。その巨体に反して、竜の目は小さく、ヒラヒラとしたヒレにも邪魔されて命中は中々厳しそうだ。それでも臆さず、狙い撃つ。炎酒のミミックも又、スナイパーの位置取りで、やはりヒレに覆われた腹に喰らい付いた。

●水中花舞う
 ――――!!
 再び、主砲が火を噴いた。咄嗟に庇ったレギナエ諸共に、ルルゥが光条に呑まれる。
「っと、さすがに一筋縄ってわけにゃいかんか」
 その一手前に撒かれたのは硝子の機雷。触れれば爆ぜる牽制に阻まれ、動けずにいた炎酒は忸怩たる思いで唇を噛む。
 華蛇が、周囲をうろつく前衛4名を鬱陶しく感じているのは確かなようだ。硝子機雷と華竜の比礼を前衛に振り撒き、その動きを牽制する。
 前衛に繰り出される技は広範囲に渡って厄を撒くが、その分、威力はやや低めのようだ。一撃必殺で無い分、まだヒールの余地はあろうが、殺傷ダメージを撤退条件と出来る程ではなさそうか。何より既にメディック不在。早々に無理出来ない戦況に陥っている。
 そして、主砲一斉掃射は――あくまで打たれ弱い中後衛を狙う。当たれば拙いというのは、2人落とされた事で明白。
 千里子が放つ指天殺がヒレを幾許が石化するも、石化したヒレごと剥離した数多の虹の欠片が、海中に渦を巻く。
「!」
 レオナルドの眼前まで迫る華竜の比礼を、庇った人影が真っ向から受けた。
「まだまだよ!」
 既に水着はズタズタに切り裂かれている。2人分の攻撃を被れば、これ以上は危険。やむを得ずシャウトする静夏。
(「グラビティ・チェイン集束、出力変換――」)
 尚も戦艦竜より離れた後方より、狙いを付けるリディアはアームドフォートに接続した二対四枚の集束翼を展開する。
(「励起点算出完了。R-2、Ready!」)
 UML System R-2――周囲のグラビティ・チェインを集束圧縮、雷撃エネルギーに変換した一撃が奔った。拡散した光撃は、ヒレの間から並び突き出す複数の砲塔を砕く。
(「よし!」)
 快哉も束の間――その一撃に敬意を表したのか否か。華蛇の主砲が動くや、リディアへと向けられる。
 ――――!!
 ディフェンダーがいつも庇えるとは限らない。集中砲火を浴び、リディアも又沈黙する。ぐらりと傾いだリディアの偽翼『Sylphide Dance』を、同じく後衛にいたミミックの細脚が辛うじて掴む。
 レギナエ、ルルゥ、リディア――これで、戦線離脱は3名。
「この辺りが潮時ですね、撤退を!」
「残念だな。もうちょい遊びたかったかね」
 海上に顔を出し、レオナルドは叫ぶ。炎酒が嘯く間に次々と浮上、ディフェンダーが中心に青息吐息の仲間を援けながらクルーザーへと泳ぎ始める。
 だが、撤退する、とは敵に背を向けるという事。華蛇の最後の一撃に無防備という事だ。
 ――――!!
 悠々と向けられた、主砲の標的は――綿菓子、ならぬ静夏。
「ぐ、ああっ――!」
 静夏が射線に飛び込んだのが先か、或いは『怒り』が華蛇の標的を土壇場で変えさせたのか。何れにしろ、メディックを失ってからも硝子機雷と華竜の比礼に晒されてきた身に、最後の一撃は耐え切れず。
(「被弾上等、なんだよ……」)
 唇に笑みさえ浮かべて沈み掛けた静夏の腕を、綿菓子が咄嗟に掴む。
「波の下にも都のさぶろうぞ、とは云えね……」
 このまま都入りなんて、御免被りたい所。
 ともあれ、捨て身の盾となった静夏のお陰で、ケルベロス達は無事、華蛇の海域から撤退する。
 季節外れの五月蝿を追い払って満足したのか、華蛇は優美に身を翻すと海底へと戻っていった。

●華蛇考察
「やっぱり冬の海なんて来るもんじゃないわ。寒くて死んじゃいそうよ……早く帰って、温かいスープを飲んで寝たい」
 海上を渡る潮風は酷く冷たい。船上でカタカタと震える綿菓子に、湯気立つお椀が差し出される。
「船室で一息つくといい」
 人数分のお椀に、豚汁をよそっていく千里子。レギナエと静夏はそれぞれソファに横たわっているが、幸い命に別状はない。程なく、2人共意識を取り戻したが、相当に辛そうだ。暫くは絶対安静だろう。
「寒い時のココアは、身体に染みますね……」
 ふらつきながらココアを振舞おうとしたリディアは、レオナルドに押し止められた。今はルルゥと並んで毛布に包まり、舌が焼けそうに熱い一杯を啜っている。
「部位狙いを検証する余裕もなかったですね……」
 炎酒もミミックに部位狙いをさせていたが……リディアが想定していた部位狙いの標的箇所は非常に多い。更に命中と攻撃属性の違うグラビティで比較しようとしていた訳だが、全てを試すなら長期戦は必至。その割に、エンチャントと回復はメディック1人任せ、撒くバッドステータスに優先順位は殆ど無く、調査内容の詳細さに反して肝心の戦術は大雑把だった。継戦能力が不足していたと言わざるを得ない。
 結果、後衛の打たれ弱い所から狙い撃ちされ、早々にメディックを失った。初戦は部位狙いによるミスもあって、削れたのは精々2割といった所か。戦艦竜の火力を侮っていたかもしれない。
「戦艦竜って、攻撃の命中精度は低いんだっけ? その割に……結構当ててきたわよね」
 不満げに唇を尖らせる綿菓子の言葉に、ルルゥは考え込む仕草。
「スナイパーでしょうか?」
 ポジションは戦闘毎に変更は利く。それでも、華蛇の戦闘傾向を知る情報の1つとなるだろう。
「能力に突出は無かったように思う。弱点は……無かった感じか」
 言葉少なに戦闘を振り返る千里子。或いは、弱点を見付け出すに至らなかったのかもしれない。次回はもっと長く戦えるようにしたい所だ。
「攻撃属性も、万遍無い感触だったやねー。あ、少なくとも主砲は遠距離ぽいな。後衛も要注意って事で」
「そう言えば……」
 リディアに代わって、ココアを配って回っていたレオナルドは、炎酒の言葉にふと小首を傾げた。
「ヘリオライダーの予知で漁船を沈めた攻撃って、今回のとはちょっと違う気がするんですが」
 今回の華蛇の攻撃は、『硝子機雷』による牽制、敵の装甲を切り裂く『華竜の比礼』、そして、大ダメージの『主砲一斉掃射』――1番似ているのは主砲一斉掃射だろうが、予知で1度に沈められた漁船は2隻だ。
「隠し玉があると見て良さそうかね? 面白い相手やねー、戦艦竜ってのも」
 温かいもので人心地ついたのか、軽口を叩く炎酒。
 豚汁の椀で両手を暖めながら、千里子は船窓越しに相模湾を振り返る。
「敵に背中を見せるのは歯痒いが、これで奴が少しの間でも大人しくなる事を祈ろう」
 紺青の海底に咲く水中花を散らすには、まだ暫く時間が掛かりそうだった。

作者:柊透胡 重傷:風藤・レギナエ(啼き喚く極楽鳥・e00650) 葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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