水底の巨影、戦艦竜

作者:白石小梅

●水底の巨影
 真鶴岬の先端の灯台を見ながら、小さな釣り船がゆっくりと帰路に着いている。その日の乗客は五人ほど。
 乗り合わせたのは、釣り人に、湯治のついでの老夫婦、観光に訪れた若いカップル。
 相模湾の小さな波は夕日を反射して、きらきらと輝いている。釣りの成果に満足した人々は、その光景を声も無く見つめていた。
 穏やかな冬の日暮れ。何事も無く溶けていく、ほの温かな一日。
 そのはずだった。水面を切り裂いて、帆のような翼が現れ、船のエンジンをぶち抜くまでは。
 切り裂かれる鉄の絶叫。悲鳴を上げる乗客たち。エンジンは火花を散らし、黒煙が吹き上がる。
 背びれのような帆の下から、ゆらりと水面を隆起させる巨影。背後に夕日を背負い、灯台のシルエットを飲み込むように、水面へと伸び上がる。巻き起こった波が釣り船を打ち据え、その横腹が露になる。
 岬にいるものがいたならば、それを見ただろう。
 水底から現れた、木造の幽霊船を。いや、それを模した、戦艦竜を。
 海を見ずとも、聞こえただろう。
 岬に轟く咆哮と……巨砲が火を噴く爆音を。
 
●戦艦竜
 髪を短く切り詰めたサキュバスのヘリオライダーが一礼する。
「望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)と申します。ヘリオライダーとして、情報収集及び輸送任務を任せられております」
 挨拶の言葉も終わらぬ内に、小夜が資料を広げてみせる。
「狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)さんの調査により、例の『戦艦竜』の動向が判明しました。早急の対応が必要な事態です」
 城ヶ島奪還成功の後、相模湾を根城に民間の船を襲うなどの被害を出す予知が出たという。
「今一度説明します。戦艦竜は城ヶ島南海の守護を任務としていたドラゴンです。体長は10メートルほど。その体には戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を持っています。城ヶ島制圧戦でも、南岸からの上陸は断念せざるを得ませんでした」
 戦艦竜はその数こそ多くないが、最強のデウスエクス、ドラゴンの一角。このままでは相模湾の海は航行できない海域となってしまう。
「皆さんには、クルーザーを一隻手配いたしました。相模湾に移動し、戦艦竜に対する遊撃任務を務めていただきます」
 簡単な話ではない。この人数で撃破出来る相手なのか。という問いに、小夜は……なんと首を振った。
「一度の闘いでは、不可能です。ですが、戦艦竜は強力な戦闘力と引き換えに、ダメージを通常の手段で回復出来ない、という弱点があることが判明しました」
 つまり、拠点を失った今、彼らは傷を癒す手段を失ったということらしい。
「敵は海中。大規模な掃討作戦などは難しく、また皆さんだけで相手取るには強大すぎるデウスエクスです。ですが、回復手段を失った今は、討伐の千載一遇の好機。一度の闘いで戦艦竜を撃破するのは不可能でも、数度の闘いでダメージを重ねていけば、撃破も可能と判断出来ます」
 ゆえに、撃破ならぬ、遊撃任務。そういうわけか。
 
 具体的な敵は。そう問うと、小夜は一枚の写真を出してみせる。
 首の短い首長竜のような竜。前向きに生えた一本角に、翼は背びれのように上向き、木造の甲板を思わせる背には外向きに生えた棘……その姿は、大砲を積んだ古い帆船のよう。
「真鶴岬沖合いにて、撮影に成功しました。その容姿から、ガレオンと呼称しております」
 なるほど。古風な戦艦……一本角の竜顔が、そのまま船首像というわけだ。
「古びた形状ですが、その戦闘力は他の戦艦竜に劣らぬでしょう。油断なさらないでください」
 具体的な攻撃方法は、という問いには、小夜は表情を曇らせる。
「申し訳ないのですが、具体的なことはわかりませんでした。予知においては、甲板やわき腹に生えた棘……いえ、副砲による列砲撃を用いていました。分類するならば、遠列の攻撃グラビティかと。主砲に値する攻撃もあると予測されます。恐らくは口から吐くのでしょう。第三の攻撃方法もあると思われますが詳細は不明です」
 それが、いかなるものかは予測するしかない、という。
「ほとんどの戦艦竜は強靭な体力と非常に高い攻撃力を持つ反面、命中精度や回避能力に劣るようです。そういう種であるという前提で、対策を立ててください」
 また、戦艦竜はその習性として『攻撃者は迎撃し、撤退する敵は追わない』という行動を取るらしい。戦闘が始まれば、こちらが撤退しない限り逃げることはないし、逃げるならば追っては来ないという。
 今回の連戦は、その習性と状況を利用したヒットアンドアウェイとなるわけだ。
「皆さんは、これから始まる追撃戦の、緒戦の担い手なのです。皆さんとガレオンの闘いによってもたらされる情報が、次回の戦闘でも活きるはず。闘い、手傷を負わせ、無事に帰還する。以上が、皆さんの任務となります」
 
 そこまで語り終え、小夜は一息ついて資料を閉じる。
「これは、戦艦竜ガレオンとの緒戦となります。強大な相手を前に、敵戦力は詳細不明……危険な任務ですが、今を逃して討伐の機を失うわけにはいきません」
 出撃準備を、お願いいたします。小夜は頭を下げて、そう結んだ。


参加者
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
黛・繭紗(アウル・e01004)
梅林寺・マロン(インフィニティポッシビリティ・e01890)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
リーゼン・トラ(さすらいのヤンキードクター・e03420)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
雨水・朧(己を知らぬ剣鬼・e15388)
リー・ペア(ペインクリニック・e20474)

■リプレイ

●初撃
 海に反射する夕日が、波間に黄金の光を戯れさせている。そこに走る、一条の閃光。バスタービームが、巨大な影に当たる。
 次の瞬間、雄叫びと共に、水柱が吹き上がる。飛沫を上げて腹を水面に打ち付けたのは、戦艦竜ガレオン。
「うわあ……十メートルってやっぱり大きいね……狩りがいがありそう」
 バスタービームの主、梅林寺・マロン(インフィニティポッシビリティ・e01890)は試作水着を身につけ、水中で呟きを落とす。
「大型バスとほぼ同じ巨大さですから。全体的なフォルムは、魚竜にも近いですね」
 リー・ペア(ペインクリニック・e20474)がアイズフォンを通して得た情報を語る。彼女やマロンは水中呼吸のおかげで、水中会話にも支障はない。
(「奴め、何が起こったのかわかってねえみたいだぜ! 畳み掛けるぞ!」)
 リーゼン・トラ(さすらいのヤンキードクター・e03420)は、ゴーグルやフィンを調達してきた。会話するのは難しいながら、合図を出して、その巨体に蹴り掛かる。
「竜殺しならぬ戦艦潰し、ってとこか。行くぜ!」
 雨水・朧(己を知らぬ剣鬼・e15388)もまた、水中呼吸で気を吐いて、斬りかかる。
(「初手の攻撃は皆さんに任せて……まずは、前衛を援護します」)
 合わせるようにレベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)のヒールドローンが飛び出し、水上ではドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)が戦艦竜の首元に風を巻き込んで蹴りを放つ。
「攻撃されるまでこちらを無視とは……気にも留めてもおらんかったか? カッカッカ、奇襲し放題じゃ!」
 ガレオンは周囲を泳ぎ回る小さな影が敵であるとは全く考えていなかったようだ。その油断のおかげで、外観は観察済み。
「朧さんが懸念してた出入り口は……見当たらない。中に入り込むことは出来ないみたい」
 淡々とわかった事項を反芻しながら、黛・繭紗(アウル・e01004)も水上に顔を出してトラウマボールを放っている。
 回復の必要性がない二体のテレビウム、笹木さんとスー・ペアも攻撃に加わり、手に持った凶器でガレオンを叩く。
 新条・あかり(点灯夫・e04291)のドラゴニックミラージュが、その最後の締めとして、巨体の横腹に爆炎を散らした。
 だが、彼女は知っている。
「まだだよね……ドラゴンは、こんな程度じゃない」
 ガレオンは、多少の傷など意に介さぬように周囲に散らばる敵を順に見定める。見た目は木造船だが、魔術的防御による堅固さは、並ではない。
 ゆっくりと人数を計り、力を量り、そして方針を定めるように鼻を鳴らし……咆哮する。
 その巨体が水に沈む。
 リーゼンが浮かび上がって水面の面子に声を掛ける。
「流石はドラゴンって所か? 何度も攻めて弱らせないと潰せないほどのタフさとは恐れ入るぜ。追うぜ……!」
 闘いは、今や戦艦竜ガレオンの領域と化した海の中へ。

●海戦
 ケルベロスの能力を持ってすれば、一戦闘の間くらい息継ぎをせずとも闘える。眼力も正常。敵を見失うことはない。
「戦艦竜、相手にとって不足はねえ……俺の剣がどこまで通用するのか、試させてもらおう」
 構えた朧が、水中で巨体とすれ違う。その剣撃は、水の中でさえ音の速さの如く閃く。全身全霊を込めた無命・六花仙が、ガレオンの横腹に華を描いた。
「……一通りこの目で見たが、関係ねえ! どの技だって当たる! 回避が低いって話は、本当だ!」
 あかりが頷きながら、レゾナンスグリードでその首に喰らい付く。
(「次は重要項目の一つ、攻撃属性に対する弱点だけど……」)
 その巨大な船尾を狙って、繭紗のナイフ『緒の鍵』が突き刺さる。心さえ抉る呪いを身に受けながらも、ガレオンはぎゅっと加速して繭紗を引き離した。
(「首、横腹、船尾……さっきから攻撃は当たっているけれど、特に弱点属性や部位はない……のかしら?」)
 回避は鈍い。代わりに堅い。すさまじいほどに。
(「なるほどな。開幕の奇襲にも揺るがねえわけだ。さて、ここで攻守交替か。俺の出番だぜ」)
 ぐるりと身を捻ったガレオンが、その横腹を向ける。その時にはリーゼンのサークリットチェインが発動し、前衛たちに守護の魔法陣が展開していた。
 並ぶ副砲が、水中に爆音を轟かせる。飛び込んだ砲弾は、水中に紫電を散らして炸裂した。リーゼンの防御がなければ、その一撃だけで前衛は一気に乱れたろう。
 後方から援護に回るリーが、その威力を分析する。
「高い攻撃力。パラライズ付与。集中的なヒールでしか対応できないレベルですね。痛みに耐えておいて、正解でした。始めますよ」
 スー・ペアに回復の合図を出すと同時に、己もまたウィッチオペレーションの姿勢に入る。
「高速治療術式展開……完了。目前治療対象の完全治癒までの間、能力使用。身体構造、最適化済み。ウィッチオペレーションを開始します」
 彼女は初陣。己とスーは前線での戦力にならぬと判断し、冷静に戦況を分析している。戦闘の開幕に、己の肉体を回復のために組み替えてある。強引な施術には痛みが伴うが、癒しに専念する限りでは、歴戦のケルベロスにも劣らない。
 その効果を眺めるのは、レベッカ。
(「直撃を受けたのにドルフィンさんが無事……破壊属性、ですね」)
 ケルベロスたちは防具の性能を散らすことで、敵のグラビティの分析を図っている。攻撃を身に受けることもまた、彼らの任務の一つなのだ。
「潜水攻撃がないなら、水中戦が有効かと思ってたけど……多分こいつは水中にいることで不利になる点なんか何もない。さすがにドラゴン、かな。でも、思うようにはさせないよ」
 身体ほどの長さのライフルを背負い直してそう語るのは、マロン。その両手の間に、エネルギーが収束する。
「黄昏よりも紅き月、禍時よりも藍き蒼穹、大気に漂う月の波動……我が両手に集いて、栄華の世を仇なすモノに、等しき罰を与えんことを」
 彼の放った竜形の衝撃波が、その胸元を捉える。目に見える傷は小さくとも、その魔術的防御が貫かれ、薄まっていく。
「やっぱり、防御を下げるのは有効だね。逃がさない……!」
 そう言うマロンと共に水面に上がったのは、繭紗。ガレオンは、彼女が警戒していたマスト状の翼を、ついに広げる。
(「飛ぶ、の? ……いや、違う」)
 それは、攻撃だった。海面に浮上してくる前衛の面々に向けて、身を跳ね上げたガレオンが巨体ごと突っ込んでくる。
「みんな逃げて……! 笹木さん、ドルフィンさんを……!」
 海原を断ち割って、ガレオンが水中に再び潜り込む。その翼は、輝く切断のエネルギーを放ち、すれ違いざまに前衛を切り裂いた。攻撃の要であるドルフィンを庇って、笹木さんがくるくると波にもまれる。
(「ガレオン船の主砲副砲以外の攻撃って何かありましたっけ……と、思っていたけど。船員がわらわらと乗り移って来たりしないだけ、マシと思うべきなんでしょうか」)
 水の中に、鈍い爆音が響く。ガレオンの腹部に直撃したのは、レベッカのフォートレスキャノン。良い当たりだったようだ。ガレオンは鈍い声をあげて、反応した。
「闘い始めて……四分目。情報は大体明らかになってきた……けど」
 あかりの言葉の端にまとわりつくのは、微かな不安。
 敵の戦略は、如何なるものか。最後の札に、何かあるのか。

●主砲
 敵の攻撃は苛烈を極めた。前、中衛は火砲と斬撃に晒され、強大な列攻撃の前に、回復は追いつかない。
 中衛に、その砲撃が飛び込む。テレビウムの笹木さんはリーゼンを庇い、ついに光と融けて消える。
「ここまで、だね……」
 中衛に飛び込んだ砲弾が炸裂し、マロンもついに限界を迎えた。
「でも、敵の防御は……破ったよ。行って……!」
「無論じゃ。今こそ機よ。その仕事、無駄にはせん」
「行く気ですね? 援護しますが、無理しないでください」
 水面に飛び出したガレオンに向けて、レベッカのブレイジングバーストが弾け飛ぶ。その脇を跳躍するのは、ドルフィン。
「カッカ! 人の言葉は喋れぬか! ならば、この破壊こそ言語じゃ!」
 雄叫びと共に、竜人の極技がその背に破壊のオーラを叩き込む。ついにその甲殻を貫いて、赤黒い血が吹きあがった。マロンのジャミングによって、ついに頑強な防御は貫かれたのだ。
 首がぐるりと回転し、怒りの唸りと共にガレオンの口元から炎があふれ出る。その炎熱は周囲の冬海に伝わるほどに、熱い。
「ふん、ただの炎のブレスか。竜の息吹など見飽きたわ! 来てみよ! わし一人焼いたとて、次の者がお前を屠る!」
 その言葉は、良くも悪くも虚勢ではない。撤退条件は戦闘不能四人。この一撃で、自分はそこに名を連ねることになるだろう。代わりに、主砲の性質は暴かれ、持ち帰れる。
「いや……違う!」
 水中から援護していた朧が、呟く。
 ガレオンの口から周囲に広がっていた熱が、急速に引いていく。その口の中に炎が収束し、一発の砲弾として濃縮する。
「遠距離、単独、最大威力の……主砲。当たれば、死ぬ、か?」
 朧の呟きが、現実味を帯びる。
「とっておきの……隠し玉じゃったか」
 背筋の冷えを感じながら、ドルフィンの口の端が吊り上がる。この威力……試して、みるか?
「馬鹿野郎! 避けろ!」
 リーゼンの叫びが、ドルフィンの正気をぎりぎりで引き戻した。
 放たれた光弾は身を翻したその鼻先を掠め……海が、断ち割れる。巨大な水柱が、遅れて響いてきた爆音と共にケルベロスらを巻き込んだ。
 波にもまれながら、あかりが思う。
(「これ、は……当たったら戦闘不能じゃすまない。考えなきゃ。努めて、冷静に……」)
 ガレオンは追撃はしないが、戦闘領域を出て行かない限り、闘いは続く。前線は、すでに限界。次の攻撃で、崩壊するだろう。踏みとどまれば、敵には追撃の一打を撃つ余裕が生まれる。それが、あの主砲だったら……?
(「僕は……城ヶ島調査の時、暴走して行方不明になって、色々な人に心配を掛けた。もう、誰にもあんな想いはさせたくない……絶対に皆無事で帰る。必要なことは、勝つことじゃなくて、負けないこと」)
 浮かび上がったあかりは、決断する。
「撤退しよう! 十分だよ! みんな、クルーザーへ!」
 あかりの指示で、ガレオンとの激烈な闘いに引きずり込まれていたケルベロスらが、我に返る。
 だが撤退するとなれば、それに最もてこずるのは、ガレオンの周囲に喰い込んでいた、前衛。
 指示に従って身を翻したドルフィンの下方。鮫の背びれのように斬撃を纏った翼が伸び上がる。
「ふん……! お返しもせずに逃すわけにはいかんというわけか……」
 皮肉な笑みを浮かべた男の体が、斬撃と、それがもたらす渦に巻き込まれて、水面に消える。
「ドルフィンさん!」
 その翼は、そのままあかりに迫る。避けられない……。
「あかりちゃん……もう、置いていかないよ」
 割り込んで、それを庇ったのは、繭紗。
「……!」
 斬撃の渦が二人を飲み込み、水中に鮮血が広がる。渦の中をもまれ、どうにか浮かび上がる二人。
「こんどは……みんなで、かえろ。ドルフィンさんも、探して……みん、なで……」
 その言葉を最期に、繭紗の意識が閉じる。力の抜けた体を必死に引きずろうとするも、波は激しい。
 沈みかけたその身体を、ぐいと引き揚げたのは力強い腕。むせたあかりの目の前には、ぐったりとしたドルフィンを抱える人影。
「繭紗も任せろ! 早く泳げ! 俺の装備ならどうにか二人引きずっていける!」
 それはリーゼン。彼はたった一人、水中での移動を考えて装備を用意していた。
 戦闘不能者を抱えて泳ぐ二人の前に、クルーザーが飛び込んでくる。引き返した面々が、エンジンを起動させて戻ってきたのだ。
「マロンさんは回収しました。掴まってください」
「相手の情報を持って『帰る』のが任務です。朧さん、出してください……!」
 手を伸ばして、あかりとリーゼンの手を掴んだのはリー。戦闘不能の二人を掴んだのは、レベッカ。乗り込む時間はない。水面下にはこちらに顔を向ける戦艦竜の影。そして海中にあってすら、一番星のように輝く主砲……。
「十分だ! 出すぜ! しっかり掴まれよ!」
 一瞬前までいた場所に、閃光と共に水柱が吹き上がる。それを尻目に、クルーザーは戦闘海域を飛び出していった……。

●相模湾上
 クルーザーの上に、八人は座り込んでいる。全員が疲労困憊。限界ぎりぎりまで、戦い抜いた。
「……強かったのう! カッカッカ! いつか、勝ちたいものよ! ところで、ヒールはまだか?」
 ドルフィンは、身に走る痛みに耐えながら笑う。
「サーヴァント一体に加え、ケルベロス三名の戦闘不能。現在、ヒールの手が足りておりません。もうしばらく我慢をしてください。少々、乱暴な施術になりますからね」
 リーの言葉に、そりゃたまらん、と、ドルフィンの顔は僅かに苦笑いになって。
「……今回はかなり前のめりだったな。医者の端くれとしちゃあ、もうちっと身体を大事にしてもらいてえ。退路をもっと気にかけた方がよかったんじゃねえか?」
 そう語るリーゼンの治療を受けながら、マロンが頷きつつ言う。
「ただダメージは、相当与えたと思いますよ。敵の守備を下げて、攻撃を通す……有効なパターンをつかめたのは、収穫でしたね。あ、狭いから、兎になりますね」
「弱点部位や属性はないみたいだけど、良い当たりは出しやすいですね。ただまあ、部位破壊は……現実的ではないかな」
 そう語るのは、レベッカ。繭紗が、その先を続ける。
「……グラビティは、副砲と、翼の斬撃と……主砲。問題は、主砲の攻撃属性が、まだわからないこと、ね」
 そう。主砲。あれに関しては、当たった者がいない。他の攻撃は、属性も含めて分析できるだろう。だが、敵の最大攻撃の詳細情報は、手に入らなかった。
「俺が無事だったのは、上手いこと攻撃を回避できたからだ。当たれば死ぬ攻撃でも、当たらなけりゃいい。だが俺にあたらねえと見たら、他の奴を狙うだろうしな……」
 朧の言葉に、一瞬、沈黙が広がる。
 それを破ったのは、あかり。
「戦闘の後半で誰か一人でもあれに当たっていたら……ディフェンダーでも、無傷の後衛でも、今頃は重傷者の救助を要請していたと思う。ううん。そもそも、逃げ切れなくて、全滅していたかもしれない。あいつは、きっと奥の手の主砲を見せるつもりはなかった。僕たちを全力で討ち払うべきだと判断したから、あの主砲を使ったんだ」
 持ち帰った情報と、与えたダメージは、任務成功と表現するのに十二分。彼女は、そう締めくくった。
 それを引き継ぐのは、第二陣の物語となる。
 大きな収穫を得て、ケルベロスらは帰路に着く。
 やがて訪れる戦艦竜との決戦の時に備え、今はその心身を休めるために。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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