『覇竜の神座』眠る水神

作者:陸野蛍

●蛟
 その日、相模湾で一隻の漁船が沈没した。
 幸いにも漁師達は全員、無事救助されたが、漁師達はただ脅えるばかりだった。
 彼らは言った。
 突如、海面に大渦が出来、巨大な生き物が現れたのだと。
 水神の怒りを受けたと言う者もいた。
 だが、破壊され、沖に流れ着いた漁船の残骸は、明らかに物理的な攻撃を受けて破壊されていた。
 漁師の一人が言った。
 その生き物は、船が沈んだと同時に、また渦の中に消えて行ったと。
 その姿はまるで、『蛟』だったと。
 その水神の名を冠した生き物は、海底深くで眠っており、眠りを妨げる船は水神の怒りに触れ、沈められるのだと……。

●次に繋げる為の依頼
「かなり大変なお仕事なんだけど、頼めるかな?」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)は、ケルベロス達にそう切り出した。
「えっとだな、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の調査で、城ヶ島の南海にいた『戦艦竜』が、相模湾で漁船を襲ったりして、被害を出している事が分かったんだ」
 戦艦竜とは、城ヶ島の南の海を守護していたドラゴンだ。
 ドラゴンの体に戦艦のような装甲や砲塔があり、非常に高い戦闘力を誇っている。
 城ヶ島制圧戦で、南側からの上陸作戦が行われなかったのは、この戦艦竜の存在が大きい。
「戦艦竜は数こそ多くないけど、とてつもなく強くてだな、このままだと相模湾の海を安心して航行出来ないって訳なんだ」
 城ヶ島制圧戦では、回避を選んだがこのまま放置しておく訳にもいかないと言うことだ。
「クルーザーを手配してあるから、皆には、相模湾に移動してもらって、海上での戦闘を行ってもらいたい」
 海上での戦闘と言う不利な条件に、ケルベロス達がざわつきだす。
「皆、最後まで聞いてくれな。海上での戦いと言うこともあって、一度の戦闘で撃破するのは、いくら皆でも不可能だと思う。だけど、戦艦竜は、強力な戦闘力と引き換えに、ダメージを自力で回復出来ないと言う特徴がある」
『つまりだな』と雄大は、人差し指を立てる。
「ダメージを蓄積させることで撃破することが可能になるはずなんだ。正直、厳しい戦いになると思う。それでも、皆なら何とか出来るって俺は信じてるから」
 信頼の瞳でケルベロス達に笑顔を見せる雄大。
「俺から、撃破をお願いしたい戦艦竜は、漁師達に『蛟』として恐れられるようになった、ドラゴンだ」
 蛟とは、中国において水を治める竜神のことだ。
「いわゆる、東洋竜と言われる蛇のように長い身体のドラゴンで、青銀の鱗はかなりの硬度だと思う。その身体の、あちこちに砲門や装甲が付いてるみたいなんだけど、攻撃力と耐久力が高いと言うことが分かっているだけで、攻撃手段については、分からない部分が多いんだ」
 ドラゴンの特徴として何かしらのブレスがあることと、砲門がある以上、砲撃系の能力があるのは間違いないんだけどと、頭を掻きながら雄大が言う。
「だからだな、今回は、戦艦竜にダメージを与えることより、次以降のチームが有利になるよう、戦艦竜の攻撃パターンや特徴を探ってくることに重点を置いて、戦って来てほしいんだ」
 情報が無い状態では、対策のしようもなければ、倒すことも難しいからだ。
「戦艦竜は、攻撃してくる相手を迎撃するような行動をするから、戦闘が始まれば撤退する事はないけど、同時に、敵を深追いもしないみたいなんだ。だから皆が撤退すれば、追ってくることも無い。つまり、引き際を見極めて戦闘してほしい」
 戦艦竜には、ダメージが残る為、二陣以降で撃破出来れば十分と言うことだ。
「戦艦竜は厄介な敵だから、今回の戦闘で撃破は不可能でも、次に繋がる戦いをして来てほしい……」
 雄大はそこで言葉を区切ると。
「だけど! 必ず戻って来てほしい。無茶な真似だけはしないでくれな! 戦艦竜を倒すのは最終目標でいいから! 絶対、皆揃って無事に戻って来てくれよな!」
 雄大は、ケルベロス達に必死に言い、最後に笑った。


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
ティアン・バ(喉首を握る・e00040)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
武田・由美(風の拳客・e02934)
ソフィア・エルダナーダ(ドラゴニアンの降魔拳士・e03146)
字魅・嵐(ぬるぽの勇士・e04820)
天月・光太郎(月夜を翔ける黒騎・e04889)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)

■リプレイ

●水神からの警告
「海は広くて大きいなー!」
 クルーザーの船主に立ち、海の雄大さを体で感じながら、天月・光太郎(月夜を翔ける黒騎・e04889)がハイテンションに叫ぶ。
 しかし、ここは、師走の海風が吹きすさぶ相模湾の海上である。
 テンションが高かろうが、寒いものは寒いのである。
 すぐに、光太郎は歯をガチガチ鳴らしながら毛布にくるまる。
「光太郎、大丈夫?」
 赤い髪を風でたなびかせながら、ソフィア・エルダナーダ(ドラゴニアンの降魔拳士・e03146)が、心配そうに尋ねると、光太郎は毛布にくるまった状態のまま。
「ああ、大丈夫だ。少し冷静になった」
 と言いつつ、震えている。
「それにしても、これまた重要な任務が来たね。少しでも後続の為にダメージを与えておきたいよね」
 ソフィア自身にも震えが来るが、それが寒さからなのか、これから対峙する相手の所為なのか自分でもよく分からない。
「城ケ島制圧戦があったから、いずれ来るだろうと思っていたが……、もう年の瀬って言う、この時期に大変な依頼が来たものだ」
 灰色の髪を右手で抑えながら、静かに、字魅・嵐(ぬるぽの勇士・e04820)が呟く。
「戦艦竜か……。気を引き締めて行かないとな」
 まだ見ぬ敵を思い、自分に言い聞かせる嵐。
「前回は完敗だったっすけど、今度は準備万端っす! 今回だけでは無理でも、絶対倒してやるっす!」
 既に実際、この相模湾で戦艦竜と相対している、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)が、拳を握り気合いを入れる。
 楓は戦艦竜と初めて相対した城ケ島調査以降も、戦艦竜に関しての情報収集を継続していた為、戦艦竜に対しての危機感そして、討伐しなければならないという思いも人一倍強いと言ってもいい。
 相手の強大さが分かった上でこの依頼を引き受けたのだから。
「主な目的は情報収集だけど、今後の為に、戦艦竜の体力も削っておかないと勿体ないよな!」
 はっきりとした口調で、鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)が口にする。
 今回は、情報を集めることに重点を置いてくれて構わないと言われてはいるが、後々の討伐を考えれば、ダメージを与えられるだけ与えておいて損は無いと、ヒノトは考えていた。
 そんな、ヒノトを心配するように相棒であるファミリア、ネズミのアカがヒノトの頬をぺろりと舐める。
 その時、クルーザーが大きく揺らいだ。
「みんな、見てー! あの海面! 渦を巻いてる!」
 武田・由美(風の拳客・e02934)が揺れる甲板をしっかり踏みしめ、指差す先。
 前方の海上が渦を巻いている。
 すぐにクルーザーを停止させると、前方の大渦から、ゆっくりと寒気を感じる青銀の鱗を煌めかせたドラゴンが現れる。
 その身体にはいくつもの無骨な砲門を装備し、その長い身体の先端、竜の瞳がクルーザー上のケルベロス達を睨みつける。
「我が守地で騒がしいぞ、人間。死にたくなければすぐに消えるがよい。貴様等程度のグラビティ・チェイン、今すぐ消えれば見逃してやろう」
 腹に響く低音で『蛟』と恐れられる戦艦竜はケルベロス達に言い放った。

●水神に背きし者達
 その青銀のドラゴンを見ながら、ティアン・バ(喉首を握る・e00040)は、深い思考の中に居た。
(「ティアンに記憶はない。記憶はないが……。ドラゴンはとてもざわざわする。嫌な感じがする」)
 ティアンは無意識にゆっくりと、右手を戦艦竜に向けていた。
(「きらいだ……。しね」)
 その灰の瞳にただ、ドラゴンを映し、漆黒の槍を戦艦竜に打ち込む。
 それが合図となった。
 ケルベロス達が戦闘態勢に入る。
「鎧装天使エーデルワイス! 行っきまーす!」
 羽織っていたケルベロスコートを風の吹くままに脱ぎ捨てると、フィルムスーツを纏った、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)が、海上すれすれを滑空し、強烈な一撃を戦艦竜の装甲に撃ちつける。
「これだけ、大きいってことは技もかけ放題だし、殴り放題? 色々やってみますか」
 にこやかな笑みを湛えながら、由美が勢いを増した拳で殴るも、装甲の硬さに飛び退く。
「かったー。殴った拳が痺れちゃうよ」
「一つでも多くの情報が欲しいからな。その装甲の厚さのチェックからさせてもらうな」
 その拳を獣のそれに変えヒノトが一撃を加えるも、硬化した爪も普段の切れ味を示さない。
 同じく獣撃拳を加えていた、楓もその硬さで身体ごと跳ね返されるが、その身軽さでくるりと回転しながら甲板に着地する。
「硬いっすね。強いっすね。楓さんとっても楽しくなっちゃうっすよ!」
 口調は軽いが楓の思考は冴えていた。
(「これだけの図体っすから、プレッシャーの入りは悪いみたいっすね」)
「捕縛の方はどうだ?」
 嵐がブラックスライムを御食形態にし、解き放つ。
 しかし、海上に出ている身体ですら、このドラゴンの半分にも満たないであろう事が見て取れる。
 わずかなダメージこそ与えられるものの、狙った効果は期待できない。「あたしの炎を纏った蹴りなら!」
 ローラーの摩擦熱を炎に変え頭部に燃え盛る蹴りをお見舞するソフィア。
 その炎は消えず燃え続けている。
「炎系の攻撃は効果ありかな?」
 着地し、燃える戦艦竜を見ながら祖父いあが呟く横で、いくつものドローンが展開されていく。
「たっぷり時間稼いで情報貰わないとな! こっちの態勢を整えるのも重要ってな!」
 ヒールドローンを操りながら光太郎の瞳は真っ直ぐに戦艦竜の一挙一動を見逃さないようにしている。
 ケルベロス達の怒涛の攻撃で海上には水しぶきが上がり、戦艦竜の頭部もソフィアの放った炎が燃えている為、表情は窺いしれない。
「時すら止める凍結の一撃いっきますよー!……キャー!」
 ジューンが時空凍結弾を放とうとした時、ドラゴンの頭部がゆらりと動きクルーザー自体を呑みこむ程の冷気のブレスを放射してきた。
 前列に居たものがその攻撃をかわすことは難しく、凍えるような冷気の刃で身体をズタズタにされる。
 ティアンは顔色こそ変えなかったがすぐさま、癒しの祈りを天へと捧げる。
「……祈りの門は閉さるとも、涙の門は閉されず」
 その祈りは、天井に続くと言う涙の門を開き慈愛の癒しを仲間達に与える。
「人間よ。我は忠告した。今すぐ消えれば見逃そうと……。その返事が、今の攻撃ならば、神の領域に踏み込んだことを後悔して死ぬがよい」
 戦艦竜は、首の周りにぐるりと巻いたいくつもの小型方から一斉に鉛の玉をクルーザーに向かって撃ちこんでくる。
 ケルベロス達は少しでもダメージを防ごうと防御態勢を取ろうとするが、武器で防ごうとした者の武器がダメージを受けて行くのが目に見えて分かる。
「……謳えよ、生命。……栄えよ、生命」
 戦場にソフィアの美しい歌声が響くと、仲間達の傷も癒えて行く。
 しかし……。
「思っていた以上に火力が大きくない? 流石、戦艦竜って言った所なんだろうけど。それなら、こっちだって。この一撃に耐えられる?」
 由美は右の手の指の先端にオーラを集中させると、戦艦竜の気脈を乱す一撃を放つ。
 その一撃は、戦艦竜の動きそのものに変化は見せなかったが、良く見てみると部分的に青銀の鱗の輝きが鈍くなっている。
「対艦巨砲主義はロマンではあるけど、近代においてはコンパクト&ハイパワーで一撃離脱が主流なのさ!」
 ジューンは、エーデルワイスとしてかつて憧れたヒーローたちの技を具現化しようと思考し、それを体現する。
「最強の一撃を創造する、あの英雄たちの様に!」
 長大なオーラの刃を出現させると、ジューンは一気に戦艦竜の首元を切り落としに行く。
『ガギィーン!』
 響く金属音。
 ジューンの一撃は確かに戦艦竜の装甲を打ち破った……しかし、その下の青銀の鱗を切り裂くまでには至らない。
「対艦巨砲主義と言ったか? 人間? それならば、身をもって味わうがよい」
 戦艦竜に装備された中でも特に大きな主砲とも言える砲門がジューンに照準を定めると、無慈悲に爆音と共に放たれた。

●水神の怒り
 それは時間にすれば一瞬の出来事だった。
 だがケルベロス達にはジューンが吹き飛ばされていくのがスローモーションに映った。
 ジューンは甲板に打ちつけられ、ピクリとも動かない。
 ディフェンダーだったならばあるいは耐えられたかもしれない、だがクラッシャーであった、ジューンに戦艦竜の主砲の直撃を防ぐ術はなかった。
 四人のディフェンダーは視線を交わすと瞬時に、戦艦竜に各々攻撃を加えて行く。
「ジューンの回復を急いで! 次の攻撃が来る前に!」
 ヒノトが攻撃の手を止めず、メディックであるティアンとソフィアに指示する。
「装甲の薄い者からから、撃ち落とすのが貴様の流儀か?」
 嵐が黒き槍を戦艦竜に放ちながら、問う。
「敵ならば無防備なモノを攻撃しても問題あるまい。人間とて各個撃破を好むであろう? だが我とてドラゴンとして貴様らにこれ以上好き勝手されるのも気に入らんな」
 戦艦竜はそう言うと、海中に沈んでいた尻尾を浮上させると、ディフェンダー四人を一揆に薙ぎ払った。
 その狙いは正確かつ、不意を突かれた為、四人が四人共、骨に響くような衝撃を受ける。
「楓さんのナイフの切れ味ならどうっすか?」
 楓の凶悪な歯並びの刃は、戦艦竜の鱗すらも傷つけるのに成功した。
 しかし、戦艦竜から離れ態勢を整えようとしたその時、戦艦竜の口が大きく開く。
(「ブレス、来ちゃうっすか!!」)
 楓が身構えた所に、由美と光太郎が盾となる為、割入る。
 戦艦竜のブレスは由美と光太郎を凍えあがらせる。
「これくらいの強さ覚悟してたけど、あたしの誇りにかけて砕いて見せる!」
 由美が勢いよく戦艦竜の身体を駆けあがるとその顔面に、無数の拳を撃ちこむ。
「ぐぬう! 我が神聖な顔に人間が傷を付けるでないわー!」
 再び、戦艦竜の砲門が火を噴くと由美の身体が衝撃と共に吹き飛ぶ。
「その砲門は、反則級だな! 叩っ切らせてもらうぜ!」
 光太郎は四つの砲門の一つに狙いを定めると、右手にグラビティを収束させていく。
「さって、こう言うもんにどれだけ通じたもんかは、分かんないけども、極力データは頂かせて頂きますかね! 重力刃精製、加圧完了! 悪いがコイツは、ちっと重いぞ!」
 グラビティの刃を砲門に突き刺すと、砲門が爆ぜる。
 だが、砲門を破壊することに成功した光太郎も、砲門に装填してあった爆薬の爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。
「光太郎さん! あの砲門を破壊するのは、可能なんっすね。おそらく、あれが最大火力っすから、あれをすべて破壊することが出来れば……」
 楓の分析の途中で、ヒノトと嵐が動いた。
「嵐! 狙うのは、砲門だ!」
「承知している」
 ヒノトと嵐はそれぞれ砲門に狙いを定めると、グラビティ・チェインを高めて行く。
「修行の成果を見せてやるぜ!」
 ヒノトの右手に紫電を纏った長槍が現れると、ヒノトは躊躇わず砲門に刺し貫いた。
「地に敷き眠る鉄爬の王……血潮の炎を捧げ奉る……来たれよ……汝が裔たる我が髄へ……猛き誇りは我が装い……震え揺るがす龍の王……いと高く叫びたれ!」
 嵐は地獄の炎を右腕に纏うとその巨大な竜腕を砲門に叩きつけ切り裂いた。
 そして起こる二つの爆発。
 衝撃と共に、嵐とヒノトは、海中に沈んでいく。
「二人を助けないと!」
 ソフィアが、二人が落ちた海中に向かって飛びこむ。
「ティアンさん! ジューンさんと光太郎さんの回復はどうっすか?」
 楓が二人の回復に集中しているティアンに尋ねる」
「そろそろ撤退を考えた方がいいっすかね……」
 その時、戦艦竜の響く様な声が聞こえてくる。
「我が武の誇りを……。人間とはどれほど愚かな……。神の怒りと知るがよい!」
 戦艦竜は一度、身体の半分以上を水面に出したかと思うと、一気に頭から沈みこんだ。
『ズガァーーーーーーン!」
 クルーザーに響く立っていられない程の衝撃。
 爆発音の響くクルーザー。
「戦艦竜がクルーザーの底を貫いたみたい……」
(「ドラゴン……うみ……なぜ……」)
 ティアンは自分でも知らずのうちに涙をこぼしていた。
「皆を抱えて離脱しよう」
 ティアンはこぼれる涙を拭わずに、沈みゆくクルーザーの上でまだ意識の戻っていない、ジューンと由美に肩を貸す。
「そうっすね。ここは一旦退避して情報を整理するとするっす」
 楓も背中に光太郎を担ぐ。
「こっちの二人も大丈夫だよー! 急いで逃げよう!」
 ソフィアもヒノトと嵐を救い出せたようで海面から顔を出し、声をかけてくる。
 その時、海面が一際揺れ、戦艦竜が顔を出す。
「逃げるか人間よ、それもよかろう。……二度と我の前に姿を見せるな。この痛みを覚えておけ」
 そう言って戦艦竜は、冷気のブレスを嵐、そして背中に担いだ由美とジェーンに浴びせる。
 海面すらもうっすらと氷を張ってしまう程の冷気。
 海中に戻っていく戦艦竜を見ながら、ティアンは意識を失った。
(「もう、だれも、うしなうものか……」)
 意識を失う寸前嵐は強くそう思った。
 ……何故だかは分からないけど。

●水神と戦いし後
 由美が目を覚ました時、そこは海岸だった。
「みんな! 戦艦竜は?」
「僕達が意識を失っていた間に、海中へ戻って行ったそうだよ」
 ケルベロスコートを羽織った、ジューンが答える。
 その隣には、横たわったティアンがいる。
「ティアンさん! 大丈夫なの?」
「ヒールをかけているけど、まだ目を覚まさないの。幸い命に別状はないけど。最後に戦艦竜のブレスが直撃したみたいで……」
 ソフィアが額に汗を掻きながらヒールをかけ続けている。
「じゃあ、少し。整理するっす」
 満身創痍とは言え、今回の戦況を纏めようと楓が声をかける。
「高威力で脅威だったのは四つの砲門だな。そのうち三つは、破壊。修復不可能って事で問題無いだろうな……残り一つも、破壊しておきたかったな」
 光太郎が言ったことは、その威力から考えれば当然かもしれない。
「奴は、頭は切れると言っていいな。優先攻撃対象は、自分にダメージを高確率で与えそうな者、そしてダメージを与えて戦闘不能に出来そうなものを優先すると考えていいだろう」
 嵐が厳しい表情で言う。
「俺、戦闘中にカメラで戦艦竜を撮影しておいたから主武装の解析も出来ると思うよ」
 ヒノトが小型カメラを差し出す。
「戦艦竜の攻撃の種類も全てではないかもしれないっすけど、確認出来たっすし。あとは、帰って、有効だった攻撃を検証してみればいいと思うっす」
 楓が、言うと、まだ目を覚まさないティアンを光太郎が背負う。
「ま、今回で情報自体は取れたんだ……次、会った時は、絶対にこっちが勝ってやる」
 光太郎は強くそう心に誓った。
 ……戦艦竜『蛟』、彼はまだ相模湾の海底深くに居るのだから。

作者:陸野蛍 重傷:ティアン・バ(灼き跡・e00040) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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