北九州市門司区。
福岡の最北端に当たる門司港レトロはその名の通りレトロな雰囲気の街並みが広がっている場所だった。
しかし今はデウスエクスの襲撃を受けて無残な姿となっている。
襲撃をされた時、人々は無事に避難をし終えて人的被害は出ていないので、そこは不幸中の幸いだろう。
だが命が無事だったとは言え、これからの生活のこともある。
襲撃を受けた時、目立っていたからかはわからないがデウスエクスに壊された建物の多くは観光客を相手にした店舗だった。
壊れていては営業が出来ず、その間の給料は発生しない。
はっきり言って働いている人々にとっては死活問題だ。
ケルベロスたちにそう告げたのは千々和・尚樹(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0132)だ。
「もうすぐクリスマスです。そしてその後は年末年始。観光業としてはかき入れ時です。ぜひヒールをお願いします」
さくさくっとヒールをした後は、店舗の方々がお昼ご飯をごちそうしてくれるらしい。
「焼きカレーが有名な所ですので、それをごちそうしてくださるそうです」
ほっかほかのご飯にカレーが乗っているだけでも食欲をそそると言うのにそれにチーズを乗せて焼いたものだという。
基本的な焼きカレーは白ごはんとカレーとチーズらしいが、店によってその味は様々。
普通の白ごはんか、バターライスか、はたまたドライカレーか。
そしてかけるカレーも野菜系、シーフード系、通常のビーフ系。
トッピングはチーズに玉子が定番とのことだが野菜カレーにエビフライ、ビーフ系のカレーに素揚げした野菜や名物のふぐ……地元ではふく、と呼ぶらしい……を乗せたりとそれぞれの好みで注文できるらしい。
「注文票がありますので、そちらに記入してお店の方に渡せば作ってくださいます」
通常の焼きカレーを食べてもいいだろうし、自分で考えたオリジナルトッピングを試してみるのも楽しそうだ。
お替りも自由らしいので何杯か食べてもいいだろうし、一人ではきついというなら仲間と注文してシェアするのもいいだろう。
「お礼ということですので、遠慮せずに食べましょう。その方がお店の方々も喜ばれます。もちろん、ヒールした街の散策も楽しめますよ」
では出発いたしましょうか、そう言って尚樹は笑みを浮かべた。
●ヒールの後は焼きカレー。
(「定番のビーフにチーズか、それともサフランライスにシーフード……ふくのトッピングもよさそうだし、雑穀米に野菜カレーのヘルシー路線?」)
どの焼きカレーもクライアスを誘惑して決められない。
「むむっ、あっちも面白そうな気配がする……!」
色々見てから決めても、きっと遅くない。
メイザースが選んだのは白ご飯にシーフードカレー、トッピングはチーズと来年も福の多い年になるようにと祈りを込めたふく。
「カレーもここまで来るともう日本食と言えそうだね」
日本の食にかける情熱や探究心には敬服するしかない。
「それでは、福を丸ごと。いただきます」
労働の後の焼きカレーを頬張った水香は、思わず目を輝かせていた。
「チーズと卵でまろやかになって美味しいです! ……しかし少し辛さが足りないですね……今度は別のトッピングにしましょう」
ぶつぶつと次のトッピングを考えながら皿を空にした水香は、自分好みの焼きカレーを開拓すべく席を立った。
正法の一皿目はサフランライスに豚肉たっぷりきーまカレーを乗せてパン粉を振りかけたドリア風。
「美味い!」
もぐもぐと咀嚼しながら正法は周りの皿をちらりと覗く。
個性豊かな焼きカレーに次の焼きカレーの組み合わせを考え始める。
一皿目をぺろりと平らげ、正法は次の注文へと向かったのだった。
●あなたと2人で焼きカレー。
「いやぁ、つき合わせて悪いね。そんな格好までさせて」
そう言うロメオの隣に居るのは友人の女子制服を着た十百千。
申し訳なさそうな彼に十百千はにっこりと笑顔を浮かべて、
「大丈夫気にしないで♪ ロメオの頼みだもん♪」
頑張って演技をしてみるがそれは自分へのダメージとなり、十百千はがくりと頭を垂れた。
「いや……やっぱコレ無理あるって……」
声もいつも通りに戻った彼にロメオは笑う。正直、思いのほか似合っていて驚いているのだ。
「いや、よく似合ってるよ。これは緊張感のある予行練習になりそうだ」
死んだ魚のような目をしていた十百千に、ロメオは声を上げて笑ったのだった。
「私はバターライスにポークカレー、トッピングにふくで。2つ目はドライカレーに野菜カレー、トッピングに鶏の唐揚げと温泉卵」
「じゃあ俺は、バターライスにビーフカレー、トッピングはエビフライとチーズと刻みスルメでいくぜ!」
出された焼きカレーとカフィをカメラで撮影し、スプーンで早速一口。
その美味しさに舌鼓を打ちつつお互いの皿を交換すれば、また違った味わいが楽しめる。
「お互いのカレーを食べれるっていいな! ふぐ、初めだ!」
「焼きカレーも良いな。また食べに来てもいいかも」
キラキラと目を輝かせるイェリンをカフィがこっそり撮影していたと知るのはもう少し先の話。
「フグは味は淡泊らしいですが……お刺身じゃないんですよね」
「揚げてあるみたいぜ」
一輝がスマホの画面を見せればルチルはなるほどと頷いた。
「俺は牛……って言いたいけどせっかくだしフグにするぜ」
出てきた焼きカレーを一口含み一輝は唸る。
美味しいのだが、育ちざかりの男子としては少し物足りない。
「鶏肉なら多めに入れてもらいましたけど、分けましょうか?」
まだ手を付けてませんし、と言うルチルに一輝は目を輝かせ、
「え、くれんの!?」
もちろんですよ、と笑えば一輝ははっと顔を背けて、
「だーかーら、弟扱いするんじゃねーっての」
ぷいとそっぽを向いた彼の頭をルチルはよしよしと撫でたのだった。
事前にオリジナルルーまで考えてきた果乃は、想像通りの焼きカレーに目を輝かせていた。
「わー! おいしそう! チーズもとろけてる~」
角煮、鶏モモ肉、ラム肉が入っているそれは一つの皿で別々の味わいと歯ごたえが味わえる。
その隣ではマグルも蕩けたチーズをくるくるとスプーンで巻き取ってぱくりと口に入れていた。
「あ、マグルちゃんのもちょっといいかな?」
「ん、食べてみますか?どうぞどうぞ」
用意していた小皿を渡し好きなだけとってもらう。
「食事後に街並みを散策してみるのはどうでしょうか?」
お冷を注ぎつつマグルが誘えば果乃は笑顔で頷いたのだった。
トッピングにパインとバナナを乗せたアインはエリオットを振り返る。
彼が乗せているのは海老フライと板チョコ。
「焼チョコってあるし、カレーの隠し味にチョコ入れる話もよく聞くぜ。折角だし試してみようってな」
そうして焼き上がったチョコは形はあるがとろとろで、隣の海老フライに甘いアクセントをつけていた。
若干落ち込んでいる様子のエリオットを横目で見つつ、アインは優雅に紅茶を口に運ぶ。
「何にでも紅茶つけるんだなお前……」
「リーオさん、甘いものに紅茶は必須ですわよ?」
揺るぎねぇなと思いながら、エリオットは予想以上に甘い焼きカレーを口に運んだのだった。
善哉はある意味使命感に駆られ、小豆の缶詰を持参していた。
「どーせなら、ぜんざいトッピングしたらどーじゃ」
焼きカレーを前にドミニクがそう冗談を飛ばせば、善哉はこれはデザートにとそそくさと鞄に片付けた。
普通にうまそうじゃがのォ、と言いながらドミニクは注文した焼きカレーをスプーンですくう。
「しかしドミニクさんなんかカレー似合うな。色黒だから?」
「それ言うたら、世ン中の色黒全員カレー似合うじゃろーが。だいたい、お前も似合っとるでな」
「オレ?」
「黄色いからかのォ!」
「髪の毛かよ!」
美味しい食事で会話も弾み、2人は胃袋の限界への挑戦を開始したのだった。
「雫のも美味しそうだな、どれ一口……」
そう言う幼馴染、ヤムの口に雫は焼きカレーを持って行く。
ヤム君のも味見させてねという彼女の声に頷きながら咀嚼して、美味との感想を漏らした後、ヤムはあることに気が付いて。
「……あ」
「ん?」
首を傾げる雫の手には先ほど自分が口を付けたスプーン。
間接キスになると気が付いたヤムの顔には赤みが差し、それに気付いた雫も慌ててぱたぱたと腕を振る。
「まだ使ってないスプーンだよ!」
照れながらここは食べていいからねと区切りを入れればヤムは曖昧に返事を返し、先ほど食べたいと言っていた自分の焼きカレーを雫の前に差し出した。
綺麗な焦げ目、そしてじゅわりと出てくるチーズの油。
カチョカヴァロを持ちこんだ陣内とあかりは最後の一つの焼きカレーを前に顔を見合わせていた。
「こ、こうなったらあっち向いてホイで勝負……」
あかりの声で最高の焼きカレーをかけて熱い戦いが幕を開けると思いきや、陣内はジャンケンに勝った隙に素早く焼きカレーにスプーンを入れる。
「あ、タマちゃんズルいっ大人げないっ」
「大人げ? そんなも、あっつ!」
「……タマちゃん、僕よりチーズを取るんだね」
よよよ、と泣き崩れるフリをしつつお冷を差し出してくれるあかりに、陣内は帰ったら同じものを作ってやろうと決めたのだった。
「熱い! でもおいしい! 幸せ!」
ぱくぱくと食べ進めているサイファの横で、灯乃はしっかりと焼きカレーを冷ましてから口に運ぶ。
「あ、おいし」
溶けたチーズって幸せやねぇと呟く灯乃に全力で頷きつつ、彼の皿の中身を確認すれば食べる?と差し出され、2個入れてもらったというふくを有難くいただく。
「ふぐか。初めて食べるかも。うん、美味し……って辛!」
ごくごくと水を飲んでいるサイファの皿から灯乃もひょいっと一口貰えば、それは予想以上にまろやかな味で。
店員のスパイス入れ忘れだと主張するサイファに、灯乃はアイデンティティー的にそれはどうなのかと感想を漏らしていた。
目の前の皿にスプーンを入れながら、東西南北はぽそりと誘ってくれた愛畄へ感謝を告げる。
「そんな、俺はただ仲のいいシホーとカレーを食べたり色んな所に行きたいなって我儘言っているだけだから気にしないでよ」
そう言われるが、引っ張り出してくれなければ、引きこもりがちの自分は美味しいカレーも味わえなかった
「本当ありがとうございます。付喪神さ……じゃない、愛畄くん。……この呼び方なんだかむず痒いですね、あはは」
「愛畄くんか確かにちょっとくすぐったいかも、でも嬉しいよ」
照れ隠しにトッピングの鶏肉をお裾分け。
もぐもぐと口を動かしながら、カレー作りに誘ってみようと心に決めたのだった。
●仲間と共に焼きカレー。
「カレー♪ カレー♪」
るんるんで焼きカレーを待っているのは炯介。
大好物のカレーが食べられるのだからテンションが上がらないわけがない。
その隣に座る蒼獅が誘ってくれた礼を言えば、むしろ遊びに連れて行ってあげられなくてごめん、と逆に謝られてしまう。
「……今度、別のところにも行ってみようか」
「はい。今日は海まで見れて、とっても楽しいです♪」
そんな会話をしているうちに運ばれてきた焼きカレーを見て、2人の動きはピタリと止まる。
その視線の先には真名誇の注文した真っ赤な焼きカレーの皿。
ビーフカレーに辛子明太子と唐辛子ペーストをこれでもかと言うほど入れて作られたそれはマグマの如き赤さで、唐辛子の香りが涙線を刺激する。
「……なんや二人とも、俺のカレーがそんなに気になるか?」
気になる。それはもう。
「美味そうに見えるからってそんな眩しそうな顔すんなや! ちょっとぐらい食べさせたるで!」
にっと笑う真名誇に炯介と蒼獅は全力で首を振ったのだった。
焼きカレーの上に何をトッピングするかをくじで決めてきたのは【しろんち】の3人。
かくして彼らが引き当てた食材は……クレムはサーターアンダギー、夕雨はピザまん、常葉はふく。
「この展開、芸人としておいしいかと聞かれたら否よな!?」
選択肢にはチキンライスまであったと言うのに全員揃ってこれはない。
そう叫んだ常葉にチキンライスは案外普通、と言いかけてクレムは口を閉じる。
ここ芸人集団だったかな、でも否定できない悔しい。
「そう言えばクレムさん、ウーパールーパーって食べれるらしいですよ。突然ですが、ちょっとうーちゃんを抱っこしてもいいですか?」
「まて、うーちゃんは食わせんぞ」
やり取りをしている2人を横目に常葉がこっそりとランダムで選んだ食材を取り出せば、それは蜂蜜。
「堪忍な……俺には笑いの運命力が足りへんかった……。ところでその流れなら俺は残ったクレムちゃん抱っこせえへんとな」
真顔で抱っこさせてくださいと言う常葉にクルムは全力で突っ込みを入れたのだった。
今日は思う存分カレーを食べましょう、というセティーリアの声に、【楽しいラシィル一家】の面々は頷きを返す。
「ビーフにポーク、シーフードにシチュー! そしてトッピングにはチーズに卵、揚げ野菜にシチュー!」
「……何故シチューを頼みかけてるんですロディさん」
すっかり毒されているロディの目を覚まさせた後もう一人の同行者アキレアに視線を移せば、彼は笑顔でカレーの上にシチューをトッピングしている所であった。
慌てて2人がアキレアに何をしているのかと詰め寄るが彼は至って真面目な顔で。
「カレーもシチューも大好きで美味しい料理です。つまり、両方を合体させれば最高の料理になるはずです!!」
ぐっとこぶしを握り締める彼に外に出てまで危険物製造しないでください!とツッコミが入るが彼はキラキラ笑顔のままそれを店員へと手渡していた。
「仕方ありませんね……。あ、店員さん、トッピング全種、一皿ずつ持ってきてください。全制覇しますので」
その笑顔が激しい戦いの始まりだと、店員はまだ気付いてなかった。
街並みをヒールし終えた【ガネーシャ】の面々は、お世話になっている人々に挨拶をし終えると焼きカレー作りに取りかかっていた。
「目移りしちゃうな」
「私は野菜カレーにします」
そう言ったカーリーの横では、ターャジスが用意して来たナンをカレー皿に千切り入れている。
焼いたカレーなど初めてで、今から楽しみだと笑うターャジスの向こう側ではすでに注文を終えたらしいガラムがボクスドラゴンのマンダーと共に焼く工程をじっくりと観察している。
ちなみに彼女はバターライスにポークカレー、トッピングはたまごとシンプルな焼きカレーを選択している。
参加したメンバー唯一の小梢丸を見れば、彼は真顔で究極のカレーについて語っていた。
「いつか夢見たカレーonカレー……ドライカレーの上にカレーをかけるなんて、なんて贅沢なんだ……!」
それに特産品のふくを乗せてチーズをかけていく。
それぞれのカレーを確認し、カーリーが選んだのは豪華海鮮焼きカレー。
美味しそうな焼け目が付いた焼きカレーが完成すれば、待ちきれないとばかりに小梢丸は両手を合わせる。
「ああ、もう辛抱たまらん! いただきます!」
仲間と食べる焼きカレーはとても美味しく、4人はそれをぺろりと平らげ……何だか少し物足りない。
「食べ歩き、しましょうか」
ターャジスの言葉に、一同は移動を開始したのだった。
カレー旅団【オウマ荘】としては見逃せなかった焼きカレー。
一体どんなものなのか、初めての焼きカレーということで、泰地は基本の焼きカレーを注文していた。
「美味いな」
どちらにせよ仲間内で交換するのだ。基準となる味がある方が楽しめるだろう。
そのカレー旅団のカレーを焼きカレーにも応用しようと、達也はオウマ式海軍カレーを持ちこんでいた。
商店から貰った天かすはくちの中でさくさくとした食感を楽しめて、中々に面白い。
「ん」
泰地が用意して来た皿に取り分け、達也は隣の焔に手渡す。
「雪村さんのは……うちのカレーを焼いたのね、いつもの味と違う感覚で新鮮な気持ちになれるわ」
いつものカレーも焼いてみるとまた違う発見がある。
そんな焔が拘ったのはトッピング。
「焼きカレーに、ふく? 河豚とは贅沢ね、野菜もヘルシーで、海老もぷりぷりで嬉しいわ」
通常のカレーにもカツや海老フライを乗せたりするが、河豚という選択肢はあまりない。
同じように地元の食材を使用してみたのは瀬理。
門司区からほど近い小倉で育てられている小倉牛のサイコロステーキは読み通り最高の仕上がりで、瀬理は隣に座って他の焼きカレーを堪能しているピアニスにスプーンを差し出す。
「こっちもうまいで、ほら、あーんしてみー」
じゅわ、と出てくる肉汁がさっぱりめの野菜カレーとマッチする。
「ん、美味いな。ふふ、ほれ。瀬理もあーんじゃ」
お返しじゃ、と言われて差し出されたのはぎっちりとチーズが敷き詰められた焼きカレー。
バターライスと肉、そしてチーズの組み合わせは、美味しくないはずがない。
一通りそれぞれのカレーを堪能し終えたメンバーたちは、さらなる高みを目指して意見交換を開始したのだった。
作者:りん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月29日
難度:易しい
参加:42人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 12
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