色とりどりのイルミネーションに彩られた街の中、一人の男性がとぼとぼと歩いていた。
「ったく、どいつもこいつも、気楽なもんでいいよな……」
吐き捨てるような口調とは裏腹に、男性はどこか肩身が狭そうだった。それもそのはず、今日はクリスマス。独り身の彼にとって赤と緑と白の装飾は眩しいばかりだ。それどころか独り身であることを責められているような気分にさえなってきていた。自然、足取りは街の明かりから遠ざかる。
「あたっ!?」
男性が人通りのない路地を曲がったとき、何かにぶつかった。男性が顔をさすりながら見上げると、そこには赤い実を付けた大きなモミの木が立っていた。こんなところにもクリスマスの魔の手が伸びていることにうんざりしつつ男性がモミの木を見ていると、
「え?」
突如として幹がぱっくりと開き、その中から現れた触手に瞬く間に絡め取られる。
「だ、誰か……!」
男性は助けを呼ぼうとしたが、すぐさまその口も塞がれ、
「ーーーー」
モミの木の中へと呑み込まれた。
そして、不気味に幹を脈打たせながらモミの木は夜の街へ枝を広げ始めた。
一同が到着したとき、皆を出迎えたのは金髪の少年ーーヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)だった。
「やあ、皆よく来てくれたね。早速で悪いんだけれど、本題に入らせてもらうよ。皆はデウスエクスの功性植物は知ってるよね? どうもその一種であるモミの木型の一体がクリスマスに乗じて神戸の街に現れるみたいなんだ。このままだとせっかくのクリスマスが台無しになってしまう。だから、被害が出る前になんとしても功性植物を倒したいんだ」
そこまでヴィットリオが話すと、遅れて現れたセリカが申し訳なさそうに一同の元へと駆け寄ってきた。
「皆さんすいません、遅れました。ヴィットリオさんの説明を補足しますと、この功性植物は宿主となる男性と一体化しており、普通に倒すとこの男性も死亡してしまいます。ですが、ヒールをかけながら戦うことでこの男性を救出することが可能です。この方法を採ると、かなりのヒール不可ダメージを蓄積しなければ功性植物を倒すことが出来ないので、決して無理はしないで下さい」
言いながら、セリカの顔が憂慮に陰る。自分でも難しいことを言っていると自覚しているのだろう。言葉の端々からもどかしさが伝わってきた。
「それで功性植物の攻撃方法ですが、身体を蔓草のように変えてこちらを絡め取ってきたり、光を集めて破壊光線を放ってきたりして攻撃してくるようです。他にも自らの実を取り込んで回復を計ってくるみたいです。この実は異常を防ぐ効果があるので、状態異常を中心に攻める場合は注意した方が良いですね」
そこまで説明を終えると、セリカが迷ったような表情で皆を見回す。
「あの……難しいとは判っているのですが、可能であれば宿主の方も救出してあげて下さい。それではどうか皆さん、よろしくお願いします」
躊躇いがちに告げ、セリカは皆へと一礼した。
参加者 | |
---|---|
ジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183) |
雨月・シセキ(霊幻探偵・e02989) |
海老名・サクラ(オンオフ激しい出張自宅警備員・e05154) |
山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625) |
淡雪・螢(双焔之巨腕たる淡雪・e06488) |
響・澪(神魔滅殺・e07629) |
ラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745) |
エルナ・エルメリア(小さなお姉ちゃん・e20882) |
●おめでたくないツリー
神戸・北野坂。
「……見つけた。アレで間違いなそうだね」
響・澪(神魔滅殺・e07629)が闇の中で蠢くそれを発見し、皆へと合図を送った。
澪が指し示した方向、オフィスビルの陰。
鋭く天を突くシルエットに、奇妙なほど人間じみた動きで歩くモミの木ーー功性植物の姿があった。
「うわあ、ホントに木が歩いてるよっ! なんか不思議な感じがするねえ~」
「アレがそうか……人を飲み込んで歩くとは、ずいぶんと器用な話だな」
功性植物の姿を見て淡雪・螢(双焔之巨腕たる淡雪・e06488)とジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183)がそれぞれ感想を漏らす。
「でも、どうして功性植物って人間を襲うのかな? ただ仲間を増やすだけで、いまいち目的がわからないよね?」
首を傾げながら、ふと疑問を口にしたのはラティエル・シュルツ(星詠みの蒼きリコリス・e15745)だった。
「飲み込まれた男と同じく1人で寂しかったんじゃないのか? ……あの姿じゃ、この星ではどこにも行き場なんてないだろうからな」
「うーん、そう聞くと可哀想な気もするけど……」
ジョージの答えに、ラティエルは功性植物に何ともいえない視線を向ける。その枝葉は獲物を求めるように蠢き、貪欲に伸びた根は触手のごとくアスファルトを這いずり回っていた。どう見ても意志の疎通すらとれそうにない。ラティエルがジョージに向き直ると、彼は皮肉げな笑みを浮かべ肩を竦めるばかりだった。
「さて、それじゃあ戦闘に入る前に作戦のおさらいをしておこうか。まず、被害者を助けることで全員が一致している。これはいいね? それと、なるべく功性植物をこの場に止めておいた方がよさそうかな? このあたりはオフィス街で今の時間に人通りはほとんどないけど、県庁も近いし、南に行けば三宮や元町の駅に出てしまうからね」
場を仕切り直すように、雨月・シセキ(霊幻探偵・e02989)が作戦概要を皆へと説明する。
「そ、それって責任重大じゃないですか! ただでさえ失敗したら被害者のヒトが死ぬかもしれないのに……うぅぅ、お腹痛いです引きこもりたいです頑張りますけど頑張りますけどあうあうあうぅ~」
シセキの説明を聞き、海老名・サクラ(オンオフ激しい出張自宅警備員・e05154)がガクガクしながら携帯コタツに手をかけ潜り込みかけては這い出してを繰り返す。そんな彼女に明るい声がかけられる。
「大丈夫ですよ、サクラさん! 確かに功性植物に取り込まれた人を助けるのは簡単なことじゃないですけど、決して不可能ではないんです! 今回もきっと助けられる! 絶対に何とかなりますよ!」
励ますようにそう告げたのは、山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)だ。同様の作戦を成功させた彼の言葉にサクラも幾分気が楽になったのか、こたつの中からもぞもぞと顔を出す。
「そうだよ、サクラさん。困ったときはこのエルエルお姉ちゃんがなんとかとかしてあげるから! ほら、これを食べて元気を出すんだよ~」
そう言ってエルナ・エルメリア(小さなお姉ちゃん・e20882)がサクラにレモンの蜂蜜漬けを差し出す。サクラはしばらくレモンを見つめていたが、ぱくりと食いつきはむはむごくんと飲み込むと、
「ふ、ふつつかモノですがよろしくお願いします……」
と皆へと頭を下げた。
「それじゃあ、さくっと取り込まれたヒトを助けて、モミの木さんにはたいじょーしてもらおうかな? みんな、準備はいい?」
螢が両腕の義骸装甲を外しながら皆を見回すと、一同は頷き、一斉に動き出した。
●ツリーを片づける
空気が動く気配を察知した功性植物だったが、気づいたときには遅かった。
「ちょっと痛いかもしれないですけど、我慢してください……!」
「取り込んだヒトは返してもらうよ!」
功性植物が空を仰ぐように幹を反らした時、サクラとラティエルの流星のごとき蹴りがすでに迫っていた。
「!?」
交差するような星の軌跡に切り裂かれ、功性植物が枝葉を揺らす。そこへ斧を振り上げたビートが肉薄する。
「絶対に助けてみせる!」
叫びとともに竹を割るように真っ直ぐ振り下ろしたビートの斧がモミの木を激しく打ち据えた。
「……!」
功性植物がたたらを踏むように根を這い回らせる。よろめいた功性植物は防衛本能に従って黄金の実と光る花を次々と生み出し迎撃態勢をとる。そして、黄金の実と花が一斉に光り出した。
「エルシア、お願い♪」
「ニャオ!」
花から照射された光を、やれやれとでも言いたげに主の呼びかけに応じたエルシアが翼を広げ防ぐ。そしてその光を気にすることなくジョージが功性植物の懐に飛び込んだ。
「そう来たか……だが、それも想定済みだ」
シニカルな笑みを功性植物に向け、ジョージが音速の拳を叩き込む。
「!」
ジョージの拳が功性植物を捉え、黄金の光が弱まる。更にそこへ音もなく功性植物に接近した澪が、グラビティチェインを込めた拳を繰り出す。
「響流古流武術、響・澪、号・神魔滅殺ーー参ります!」
「!?」
立て続けに二度の攻撃を受け、黄金の光はもはや微かに感じられるほどしか残っていなかった。
「螢さん、僕があの光を消した隙に、可能な限り強い攻撃を叩き込んで欲しいんだ」
「任せて! あのモミの木におっきな穴を作ってあげるよ!!」
螢が頷いたのを確認し、シセキが前へと出る。その手に御業を宿し、緊縛の力を解き放つ。
「……!」
視えざる縄に締め上げられ、ついに黄金の光が完全に失せた。すかさずその隙を螢が突く。両腕から吹き上げた地獄の炎は彼女の武装に飲み込まれるように収束し、
「地獄の焔に願い奉らん! 貪欲な炎! 捕食の火! 啄め、啄木鳥!」
叫びとともに膨大な熱量を孕んだ杭状の炎が、モミの木の本体を次々と穿ち、縫い止めた。そして、
「うぐっ……!?」
焦がされた幹の下から男性の呻き声が上がる。
「次の作戦に移行するよ! 皆、取り込まれた人の体力に気をつけて!」
変化にいち早く気づいたシセキが眼鏡のブリッジを持ち上げ、皆に指示を飛ばす。同時、功性植物が枝葉を広げ、根を伸ばし、幹を膨らませ、
「……!!」
猛り狂うかのように怒りの声を上げた。
●開け、ミキ
功性植物は蔓のように伸びた枝を振り乱し、光る花から熱線を絶えず放出していた。
「キュー!」
「PiPiPi!」
飛び回るシャティエルとビーが盾となり、功性植物の攻撃を防ぐ。それでも、攻撃は苛烈さを増し、味方の被害も徐々に増えていた。
そんな中、全ての攻撃を引き受けるようにジョージが前に踏み出す。
「いいぜ。その調子だ……! もっとだ……もっと、俺に……!」
どこか虚ろな狂熱を瞳に宿らせ、熱線に身体を焼かれながらもジョージが手にした惨殺ナイフを閃かせる。
「……!」
ジグザグに切り刻まれた功性植物が押し返され、一際大きく幹が動いた。が、功性植物はそれを押さえ込むように幹を脈打たすと、再び蔓状になった枝を振るい始める。それをかい潜り、ビートが功性植物へと接近した。
「必ず助ける! だから今は耐えてくれ!」
ビートが霊力を宿した手をかざし、幹の僅かに膨らんだ部分へと差し出す。
「傷付き癒しを求めるものに、等しく救いを与えん事を!」
ビートの手から柔らかい光が広がり、
「う……」
触れた幹の部分から苦痛の声が和らぎ、もがくような動きが収まった。しかし、男性の動きと反比例するように功性植物の動きが活性化する。
「させない!」
功性植物の動きを察知した澪が飛び出し、左手を前へと突き出す。その聖なる力を宿した左手で功性植物を引き寄せ、
「……!?」
漆黒の力を宿した右の拳を叩きつけた。更に螢が飛び込み、今度は枝に向かって鋭く切り込む。
「ちょっと、せんてーしてあげるんだよ! さっぱりするね!!」
「!!」
螢が振るったナイフが功性植物の枝葉を次々に落としていく。功性植物は即座に黄金の実の光を浴び、枝を蔓状に伸ばし始める。だが、その枝には葉がついておらず目に見えて再生力も落ちていた。そのことに敵も気づいたのか、枝を総動員し、更には黄金の実を逆回しのように光る花へと変えていく。
「……!!」
おびただしいほどの枝が空を覆い、光る花から放たれた熱線が夜闇を吹き飛ばした。
『くっ……!』
功性植物の猛攻は次々と味方を襲い、苦悶の声が重なる。
「前衛は戦線の維持を! 回復はこちらに任せて!」
指示を飛ばすと同時、シセキが慈雨を呼び、回復を促す。完全に塞がらない傷もちらほらと見受けられたが、前衛のメンバーは敵の攻撃によく耐えていた。
「わ、私も、本気出さないと……。おじ……お兄さん! 死なないで下さい頑張って! 私も本気で頑張りますから!!」
仲間の姿に鼓舞され、サクラが内なる本気を解放する。
「!?」
突如として足下から吹き上がった溶岩が功性植物に直撃し、ガクガクと全身を震わせ始めた。
「そろそろ中の人を返してもらうよ!」
ついに限界を迎えた功性植物に、桜色の髪を揺らしながらラティエルが滑るように疾走する。しかし、
「……!」
功性植物は突如として幹を開き、中の人間を露出させた。このままだとどう攻撃しても取り込まれた人間に直撃してしまう。だが、その最後の抵抗は意外な形で破られてしまう。
「そんなときはこれが一番! エルナ特製レモンだよ! さぁ、めーしあーがれっ♪」
どこからか取り出したレモンの蜂蜜漬けをエルナが男性に向かって投げつける。
「むぐっ!? ん……オレはいったい……?」
半開きの口に入ったレモンを無意識のうちに飲み込み、男性が目を覚ました。
「危ないよ! 避けて!」
「え? わわわ!?」
「……!!」
シューズのローラーから火を吹き上げさせ迫るラティエル、幹の中で身体を捻る男性、再び幹を閉じようとする功性植物。三者の影が重なる。そして、
「ふう、間一髪だったよう。おじさん、大丈夫?」
「あ、ああ……」
炎の軌跡に焼かれた功性植物だけが崩れ落ち、塵となって消えていった。
●各々、かく語る
「あ、おとなしくしてて下さい。いま治療しますから」
戦闘が終わると、シセキが男性の具合を確認し、治療を始めた。手にしたカードから治癒の力が溢れ、見る見るうちに男性の身体に力が戻る。
「すいません、ケルベロスの皆さん。オレなんかのためにお手を煩わせてしまって……」
治療が終わると、男性は皆へと頭を下げた。しかし、どことなく精彩に欠け、立つ気力もないようだった。そんな彼にサクラがとっさに口を開く。
「あの『なんか』じゃ、ありません」
「え?」
男性が目をぱちくりさせる。サクラは更に言葉を続け、
「私は、貴方が生きててくれてとてもうれしかったですっ! これ、私からのクリスマスプレゼントです! これからの1年、貴方に良い事がありますようにっ!」
男性に星色金平糖を渡した。
「え、これ、オレに? あの、むぐっ!?」
突然のプレゼントに何か言おうとした男性だったが、その間もなく顔を抱きしめられた。
「痛かったよね……怖かったよね……もう大丈夫だからねー、よしよし」
ぎゅっと抱きしめながらエルナが男性の頭を撫でる。エルナはしばらくそうした後、
「さてさて……元気出す為にも、これ。食べといてね!」
レモンの蜂蜜漬け入りのタッパを差し出した。
男性は何が起こっているのか理解できていない様子で二人から受け取った品を交互に見つめる。そこへ今度はラティエルが男性の前まで歩み持ってきた。
「確かに今年は災難だったけど、きっと来年はいいことあるよ。底まで行ったらあとは上がるだけなんだから。これで痛むところがあったら病院に行って、美味しい物でも食べて元気出して?」
そう言ってラティエルがKCを男性の胸ポケットに差し込む。そのときになってようやく男性は状況を把握できたようで、貰った品を小脇に抱え直し、目頭を押さえた。
「まさか、こんな形でクリスマスプレゼントを貰うなんて……はははっ、本当に人生って何が起こるか判らないな!」
感極まった声で男性が呟く。そんな男性に螢がにっこりと微笑みかけた。
「うん、確かにいきなりアンハッピーな目にあうこともあるけど、ハッピーなことだっていきなりやって来るからね。前向きなのが大事なんだと思うよ!」
「そうですね、俺も色々ありましたけど今は充実してます。人生常にこれからですよ!」
螢に同意を示しながら、ビートも自分なりの言葉で男性を励ました。
そうして皆に力づけられた男性は、まさに憑き物が落ちたかのように清々しい顔になっていた。
「うん、その様子なら大丈夫そうだね。よかったよ、おじさん」
澪が無邪気に微笑み、その言葉に男性は苦笑を浮かべる。
「一応、自分ではまだお兄さんのつもりなんだけどなあ……まあいいか。それじゃあ皆さん、本当にありがとうございました! オレはもう大丈夫です!」
すっと立ち上がり、再び男性が頭を下げた。
「とか言って街でカップルを見てまたへこむとかは止めてくれよ? 言っておくがクリスマスに恋人と過ごすのは日本くらいだ。何も知らない連中が好き勝手に騒いでるぐらいに思って適当に流しておけ」
「それはいい方法ですね! 今から使わせていただきます。では皆さん、お元気で!」
忠告のような皮肉のようなジョージの言葉に朗らかに返し、男性が意気揚々と街へと消えて行く。ジョージはそのまま街の灯りを見つめ、
「皆、神の祝福を受けているようだな……俺とは大違いだ」
そう呟きながらもずっと目を離すことはできなかった。
作者:長針 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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