シャイターン襲撃~戦乙女の涙

作者:東雲ゆう

 東京都町田市の上空。
 美しく広がる青空の一部が突然ぐにゃり、と形を歪めたかと思うと、その割れ目から現れたヴァルキュリアが、4方向に分かれて飛翔する。
 そのうちの3体が、しばらくして地上に人の群れを見つけ、ふわりと降り立つ。そこは、冬休みを前に特別講義で多くの学生が行き交う大学の構内だった。
 突然の来訪者に、群集からどよめきが起こる。すると突如として、槍を手にしたヴァルキュリアが氷を纏い、人の群れの中に突撃する。どよめきが悲鳴に変わる中、頭上からは光輝く斧が振り下ろされ、逃げようとするものは矢によって追尾される。瞬く間に、辺りは息絶えた者で埋め尽くされ、鉄に似た匂いが充満する凄惨な光景が広がった。
 ヴァルキュリアたちの頬を、赤い雫がつたう。一見、返り血に思われたそれは――彼女達が流した血の涙、であった。
 
「エインヘリアルに大きな動きがあります」
 城ヶ島のドラゴン勢力との戦いが佳境に入ったある日、集められたケルベロスたちを前に緊張した面持ちでセリカ・リュミエールが切り出す。
「鎌倉防衛戦で失脚した第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球への侵攻を開始したそうです」
 ぴん、と張り詰める空気の中、セリカは、エインヘリアルがザイフリート配下であったヴァルキュリアをなんらかの方法で強制的に従え、魔空回廊を利用して人間達を虐殺してグラビティ・チェインを得ようと画策しているらしい、ということを説明した。
「そのヴァルキュリアを従えている敵は、妖精八種族の一つ『シャイターン』です。彼らの侵攻から人々を守るには、都市内部で暴れるヴァルキュリアに対処しつつ、シャイターンを撃破する必要があります」
 新たな敵の出現。セリカの言葉にケルベロスたちが頷くと、彼女は説明を続ける。
「今回、みなさんには、町田市に出現するヴァルキュリアとの戦闘を担当していただきます」
 言うと、彼女は手元のタブレットに表示された地図を拡大する。そこには、ある大学が映し出されていた。
「ヴァルキュリアは、学生を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとしていますが、邪魔する者が出た場合は、その邪魔者の排除を優先して行うように命令されています」
 つまり、ケルベロスがヴァルキュリアに戦いを挑めば、ヴァルキュリアが学生を襲うことは無い――そのことを尋ねると、セリカは首肯したが、ただ、と苦い表情になる。
「都市内部にシャイターンがいる限り、ヴァルキュリアの洗脳は強固なままで、何の迷いもなく皆さんを殺しにかかる……と思われます」
 シャイターン撃破に向かったケルベロスがシャイターンを撃破した後ならばなんらかの隙ができるかもしれませんが、と彼女は付け加えたが、どうやら確かなことは言えないようだ。
「それと、皆さんが戦う3体のヴァルキュリアについてですが、1体目はヴァルキュリアの槍を装備した金色の髪のヴァルキュリア、2体目はルーンアックスを装備した銀色の髪のヴァルキュリア、そして3体目は妖精弓を装備した赤髪のヴァルキュリア、となります」
 特徴を頭に刻むケルベロスたちに、セリカはさらに言葉をつなげる。
「それと、心に留めていただきたいのですが、状況によってはさらに1体、ゾディアックソードを装備した黒髪のヴァルキュリアが援軍としてやってくる可能性があります。くれぐれも、注意を怠らないようにしてくださいね」
 3体ものヴァルキュリアを同時に相手しなければならないのに加え、援軍の可能性――厳しい戦いを想像するケルベロスたちにセリカが言葉をかける。
「操られているヴァルキュリアには同情の余地もあります。ただ、皆さんが負けてしまうと、ヴァルキュリアによって学生が虐殺されてしまいます。……酷なこととは承知していますが、心を鬼にしてヴァルキュリアを撃破していただきたいのです」
 どうか、よろしくお願いします――そう言ってセリカは、深く頭を下げた。


参加者
クィル・リカ(星還・e00189)
セルディナ・ネイリヴォーム(紫閃黒翼の戦乙女・e01692)
星祭・祭莉(ムーンライダー・e02999)
凶月・陸井(我護る故に我在り・e04913)
天羽・舞音(力を求める騎士・e09469)
浦戸・希里笑(ぬるぽのガッ・e13064)
ソル・ログナー(紫電の勇士・e14612)
笑天宮・命(笑う門に不審者・e14806)

■リプレイ

●キャンパスに降り立つ3つの影
 東京都町田市。良く晴れた青空の下、多くの学生が行き来している。
 その中を、8人のケルベロスたちが注意深く歩いていく。事前に地図を確認していた凶月・陸井(我護る故に我在り・e04913)の案内で、少し早いタイミングで到着したようだ。
 携帯電話を即時通話可能に設定する彼の隣で、誰ともなしに笑天宮・命(笑う門に不審者・e14806)がつぶやいた。
「やりたくないことやらされるって、どんなブラックな組織ッスか。敵とはいえ助けてやりたいッスねぇ……」
 仮面に隠れてはいるが、その口調からヴァルキュリアを心配している様子が伝わってくる。横で天羽・舞音(力を求める騎士・e09469)も同意する。
「ヴァルキュリア……出来ることなら、やはり助けたいですね。撃破してほしいとは言われましたけど……ねぇ?」
 その言葉に、クィル・リカ(星還・e00189)が反応する。銀色の髪が日の光を浴びて輝いているが、浮かべている表情はそれとは対照的な、少し苦いものだった。
「はい、ただしそれは一般人に被害が無ければ、の話です。命を刈られる者も刈る者も、どちらも出してはならないですね」
 例えそれが望まぬ虐殺だったとしても、手がけた時点で『罪』となる。だからこそ、罪を犯す前に止めなければならない。
「うん、ヴァルキュリアは翼仲間。出来る限りのヴァルキュリアを救済し、できれば仲間に加えたいんだよ」
 でも、説得に応じない場合は、残念だけど倒すしかないんだよ、と小さく呟きながら、ウィングキャットのデルタさんと共に、ツインテールを揺らしながら星祭・祭莉(ムーンライダー・e02999)が歩く。そのやや後ろから、長いマフラーをぐるぐる巻きにした浦戸・希里笑(ぬるぽのガッ・e13064)が続く。
「別に、ヴァルキュリアを助ける、義理はないけど……戦いを強いられて、無理やり私達に、対峙させられる。これで倒したら、後味悪い。――シャイターン、気に入らないね」
 『シャイターン』――妖精8種族の一種族。今回の事件の元凶であるが、実のところその実態はあまりよく分かっていない。
「今回の依頼、同じ妖精族として許せるはずがない」
 自身もシャドウエルフであり、事件を起こしたのが同じ妖精族であることに怒りを露にするセルディナ・ネイリヴォーム(紫閃黒翼の戦乙女・e01692)が表情を険しくする。
「絶対に、シャイターンなんかの思い通りにはさせない!」
 敵の蹂躙から、そしてそれ以上にヴァルキュリアたちに救済をと心に強く秘めた陸井の言葉に力がこもる。
「ああ。泣いてるヤツを利用するクソったれに、一泡噴かせる!」
 ソル・ログナー(紫電の勇士・e14612)が力強く拳を握り、答える。
 そんな時、ふと、8人の横を歩いていたある学生が立ち止まり空を見上げた。そこには、3つの動く影。最初は鳥のように思われたそれは徐々に高度を下げ、次第に「翼を持った人」であることが見て取れるまでに影を大きくしていった。
 あっけに取られて立ち尽くす学生達の中心に、金髪、銀髪、赤髪の3体のヴァルキュリアが降り立つ。3人とも青い瞳だったが、その視線は虚ろであるにも関わらず、非常に殺気立っている。
「俺があのデカイ武器のヤツと戦る!」
 ルーンアクスを振り下ろそうとする銀の髪のヴァルキュリアに、果敢にも真っ向からソルが勝負を挑んでいく。彼に気付き、攻撃しようとした金髪のヴァルキュリアの槍を受け止めたのは、希里笑だった。彼女に続いて、セルディナと舞音も攻撃に加わる。
「……今、解放してやるからな」
 一方、陸井は妖精弓で学生を狙っていた赤髪のヴァルキュリアに斬霊刀で斬りかかる。――本来の狙いは槍の敵だが、学生の避難が終わるまでは、何としても注意を引きつけなければならない。
「みなさん、こちらです!」
 学生達の頭一つ抜けた高さを飛びながらクィルが指示をする。祭莉とデルタさんも飛行しながら学生達を誘導し、なかなか動けない学生たちには、命がラブフェロモンを使いつつ、割り込みヴォイスで避難の呼びかけをしていた。
 ほどなくして、近くから学生がいなくなったことを確認したセルディナは殺界形成を発動する。その横で、舞音は変身ベルトのキーに指をかける。小さな機械音が鳴ったその瞬間、
「変身……!」
 そこに現われた舞音は、黒い光沢に包まれたバトルスーツに身を包み、アーマードケルベロスへと変化していた。
 避難誘導をしていた3名も加わり、改めてケルベロスたちはヴァルキュリアたちと対峙する。

●虚ろな瞳の凶手
 ケルベロスたちの目の前には、前衛に槍を持つ金髪のヴァルキュリアと斧を持つ銀髪のヴァルキュリア、そしてやや控えるように後方に弓を構える赤髪のヴァルキュリアがいる。
 全員が揃ったことを確認すると、祭莉とクィルが詠唱し、敵に近い場所にいる仲間たちに守りを与える。アルティメットモードに変身したソルは、最初と同じく銀髪のヴァルキュリアを狙って重い飛び蹴りを喰らわせていたが、その他のメンバーは事前の打ち合わせ通り、槍装備の金髪の戦乙女に攻撃を集中させていた。
「紫焔の加護を我らに……行くぞ!」
 攻撃の口火を切ったのは、セルディナだった。剣に宿った魔の力と彼女の血が融合した魔力は女神の雷槌と姿を変え、戦乙女たちに襲いかかる。
 赤髪のヴァルキュリアが弓で反撃するが、それをものともせず命は刀を構える。それが緩やかな弧を描いたかと思うと、金髪の戦乙女の腱を斬り裂いた。ほぼ同時に舞音の掌から巨大な光弾が発射され、軽くよろめく金髪のヴァルキュリアに、さらに希里笑が斬りつけた。
「……俺達が来た。安心しろ。シャイターンの束縛から、今、お前達を救い出す!」
 語りかけながら、陸井は一閃弐ノ型:雷獣を繰り出す。ケルベロスたちの怒涛の攻撃により、金髪のヴァルキュリアは膝をつく。
「……ぐっ……」
 残りの体力が少ないと見て取ったケルベロスたちは目配せし、攻撃を手加減攻撃に切り替える。優勢に攻撃を加え、戦いから4分が経過した時、不意に陸井の携帯電話が振動する。
(「……!」)
 コール音だけで途切れたが、その着信メロディーから、発信者はシャイターンの迎撃に向かった相棒の葛城・時人であると分かる。陸井はすぐさま、前衛の皆に向かって叫ぶ。
「シャイターン迎撃班から着信あり! 増援の可能性あり、注意しろ!」
 すかさず、希里笑も振り返って大声を上げる。
「後方の皆も気を付けて! 増援が来るかもしれない!」
 その声に反応して攻撃を仕掛けようとした金髪のヴァルキュリアだったが、突如として地面に崩れ落ちる。その背後に立っていたのは、セルディナだった。
「――安心しろ、命までは取らない」
 傷つけないよう手刀打ちではあったものの、磨き上げられたその技は相手を戦闘不能に追い込む決め手となった。
「ちょっと申し訳ないっすけど、縛らせてもらうッス……って、え?!」
 命がロープを持って近づいた瞬間、ゆらり、と金髪の戦乙女が体を起こしたかと思うと、ばさり、と羽をはばたかせ、ケルベロスたちから離れるように逃げていく。
 そして、それとすれ違うように、ゾディアックソードを手にした黒髪のヴァルキュリアが飛来し、銀髪のヴァルキュリアの横に降り立つ。まるで仲間を庇うかのように剣を抜き攻撃体勢をとるが、しかし、その青い瞳もまたどこか虚ろで表情はない。
「……援軍、だね」
 茉莉がごく、とつばを飲み込み、緊張した面持ちでつぶやく。可能性は予見されていたものの、再び振り出しに戻ったという現実に直面する8名に緊張が走る。
 ――戦闘開始から5分。ケルベロスたちの前には再び、3体のヴァルキュリアがいる。

●新手
「てめぇの相手は、俺だ!」
 真っ先に黒髪のヴァルキュリアの前に躍り出たのは、ソルだった。しかし、その体は先ほどまで一人で銀髪の戦乙女を食い止めていたこともあり、切り傷があちこちにある。
 ヴァルキュリアの剣とソルの剣がぶつかり、キィィン、と甲高い音が立つ。ぐぐぐ、と押し返されつつあったその時、突如として圧力が弱まる。
 ソルが振り返ると、光線を発射したマスドライバーライフルを構え直す希里笑がいた。
「――ソル、私も一緒だ」
 口調はそっけないが、そのまなざしは優しい。そんな二人の横を駆け抜ける人影がある。命だ。
「そうっす、水臭いッスよ。時には自分も頼りにして欲しいッス。――赤熱閃光刃!」
 一刀入魂の気合いが込められたその刃は、地獄の炎をまとい、その斬り筋は閃光のように瞬く。ふざけたようにも見えるその見た目とは裏腹に、ヒットアンドアウェイで手堅く攻める。それに舞音が旋刃脚で続き、陸井も絶空斬で追撃する。
 しかし、敵もやられっぱなしではない。見ると、銀髪と赤髪のヴァルキュリアが黒髪のヴァルキュリアを回復している。どうやら、攻撃役と回復役を分担する作戦のようだ。
「雷槌の女神ヨルズよ! かの者達に破砕の塵雷を与えよ!」
 セルディナの放った女神の雷槌がヴァルキュリアたちを砕くように叩きつける。その攻撃は命中したが、反撃に転じた黒髪のヴァルキュリアの斬撃がセルディナに直撃する。
「セルディナさん!」
 クィルが、手にしたロッドをかざす。雪華・雪白――彼が集中すると、杖は白い光のオーラと冷気を纏い、それを振りかざした瞬間、澄んだ冷気が相手を包み、傷を癒す。同時に、デルタさんも皆の間を羽ばたいて邪気を払う。

 戦いは持久戦の様相を呈していた。
 こちら側はディフェンターの黒髪のヴァルキュリアに攻撃を集中させているが、ダメージを与えるたびに他の2体のヴァルキュリアが回復させる。それは、「ヴァルキュリアは殺さず助けたい」と思っている8人にとっては好都合ではあったが、徐々に疲れが見え始めているのもまた事実であった。
 と、その時、黒髪のヴァルキュリアが剣に氷を纏わせ、ぶううん、と大きく振るった。それは敵の近くにいるメンバーに直撃し、何とか耐えているものの苦痛の表情が浮かんでいる。
「みんな!」
 茉莉が静かに目をつぶる。ふわり、と背中の羽が広がり、オーロラのような柔らかな光が仲間たちに降り注ぐ。地面には、クィルが描いた魔法陣が展開されていく。
「シャイターンの好きには、させない……!」
 シャイターン迎撃班の作戦成功も強く願う希里笑がフォートレスキャノンを発射し、舞音も足止めを狙って御霊殲滅砲を放つ。
「てめェは、あのザイフリートの仲間だろうが! クソ野郎の洗脳風情に負けるな!」
 陸井が抜刀術で攻撃する側から、ソルが魂の叫びと共に拳をゾディアックソードに叩き込むが、横から斧を振り上げたヴァルキュリアが距離を詰めて来ていた。
 だめだ、回避できない――。
 致命傷を覚悟して防御態勢を取ったソルと陸井。だが、不思議なことに、しばらくしても攻撃は来ない。
「――?」
 恐る恐る目を開いた2人は、そこで信じられない光景を目にする。
「――やめろ、私たちはこんな戦いをすべきではない!」
 その聞き覚えのない声は、黒髪のヴァルキュリアのもの。なんと、彼女は仲間であるはずの銀髪のヴァルキュリアと激しい打ち合いをしている。さらに、ケルベロスたちは、彼女の青い瞳から、はらりと紅の雫がこぼれ落ちるのを見た。――その心が、意にそぐわぬ命令と良心との間で揺れていることは、誰の目にも明らかだった。
(「……時人たちが、やったのか……?」)
 陸井は同じ町田市のどこかでシャイターンと対峙する相棒を想う。
 ――戦闘開始から10分。ヴァルキュリアたちの混乱が始まっていた。

●戦乙女の血の涙
 対峙する戦乙女たちの変化を察知した8名は、攻撃を手加減攻撃に切り替え、相手にトドメをささないよう、注意深く打ち込むその一打一打に、ヴァルキュリアへの想いを込める。
 ヴァルキュリアは正気に戻ったり、攻撃してきたり、の混乱状態にあったが、しかし、少しずつ変化が生じていた。
 すかさず、陸井が黒髪の戦乙女との間合いを詰める。
「本当は殺したくなんてないんだろう! 俺達に任せて、武器を収めてくれ!」
 だが、彼女のゾディアックソードはケルベロスたちに向かって振り下ろされる。しかし、その攻撃に当初の威力はない。
「真っ赤な涙流して、……悔しいよな。――だが、諦めるな」
 傷つこうとも何度も何度も向き合い、ソルが相手に呼びかける。
「貴方達はどうして泣いているの? 意に沿わない命令に抗えないからなのかな?」
 祭莉が優しく語りかける。
「だったらボク達、貴方達をそのくびきから解放してあげるんだよ」
 その言葉に反応したかのように、赤髪のヴァルキュリアが銀髪の仲間に向かって弓を引く。
「……もう、やめ、て……!」
 苦しむ黒髪の戦乙女の剣を、セルディナが受け止める。
「洗脳されていた貴女達を止めただけ。戦う理由はもう無いぞ」
 セルディナの赤い瞳とヴァルキュリアの青い瞳が交錯する。さらに一滴、赤いものがヴァルキュリアの頬を伝う。
「その涙は悔恨の涙だと、自分は思うッス。もうシャイターンはいない。これ以上争いあう必要はないと思うッスけど?」
 命の説得にクィルも続く。
「はい、僕たちは望まぬ戦闘を続けるつもりはありません。虐殺があなた達の意思でないというなら武器を収めてください。戦闘は無意味だと思います」
 ――その時だった。
 不意に、ケルベロスたちはふ、と場の空気が変わるのを感じた。
 見ると、武器を構える銀髪と赤髪のヴァルキュリア達を制するように黒髪のヴァルキュリアが立ちはだかると、ゾディアックソードを収めた。
 その様子を見守るケルベロスたちの前で、黒髪のヴァルキュリアは短く、しかしはっきりと言い放った。
「……撤退、する」
 その言葉につられて、残りの2人も構えを解く。すると、背中の羽を大きく広げ、ふわり、と空中へ浮かび、飛び立とうとする。その背中に祭莉が問いかける。
「あの、仲間に――なってくれる、かな?」
 しかし、ヴァルキュリアたちは祭莉の言葉には答えず、ほんの一瞬8人を振り返ると、数分前に金髪のヴァルキュリアが撤退した方向へと飛び去っていった。

「行ってしまいましたね……」
 しばらく空を見つめたのち、クィルが口を開く。
「できれば、向こう側の事情やヴァナディースについても知りたかったが」
 漆黒の髪を風に揺らしながら、セルディナが答える。情報収集については今後に期待するほかなさそうだ。
「また操られるようなことが無いと良いのですけれど」
 変身を解き、口調もいつも通りに戻った舞音がつぶやく。それは、そこにいる皆の気持ちでもあった。
 見上げた先。そこでは、夕方の近づいた空が少しずつ赤く染まっていっている。
 それはまるで、戦乙女の青い瞳に赤い雫がにじむようでもあった。

作者:東雲ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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