シャイターン襲撃~距塞の紅涙

作者:内海涼来

●白き頬に伝うは……
 一年の終わりを目前にして、気忙しさの漂う十二月の世間。けれども郊外の住宅街の一角、サザンカが咲く公園で楽しげに遊ぶ子どもを見守る若い母親の笑顔や、気心知れた主婦仲間との立ち話に興じる主婦達のあかるい声は、大切な誰かと過ごす日常を享受している幸福感に満ちていた。
 しかしそこに突如現れた、3人のヴァルキュリア達。その光る翼を目にした人々が身構えるより先に、かなしいほど無造作に、彼女達の得物が襲いかかってきた。
 ――このような、こと。
 まっすぐな金の髪を揺らし、紅の鎧まとう乙女が無表情で繰り出す槍が若い母親を貫いた瞬間、その柄に落ちたのは、命絶えた母親のそれとは異なる血のひとしずく。
 ――わたし、達は……
 青き鎧に映える銀のゾディアックソードが一閃し、地に伏した主婦の色失せた頬を見下ろす乙女の、薄茶色の前髪の奥に滲んでいた赤。
 そして、惨劇の現場から逃げようとした子どもの背を追尾し、一本の矢が射抜く。
「おねえちゃん――どう、して……ないてる、の……?」
 頬にかかる銀の髪に添う滴りを拭うことも忘れたように、妖精弓をつがえたまま立ち尽くす黒鎧の乙女に問いかけた子どもの瞳から、光が失せる。
 無残な光景を瞬時に生み出していた、三人の乙女達。その頬を先刻から染め続けているのは――あざやかに過ぎる血の涙だった。

●操られし尖兵
「城ヶ島のドラゴン勢力との戦いも佳境ですが、エインヘリアルにも大きな動きがあったようです」
 集ったケルベロス達を見回し、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が話を切り出す。
 セリカは鎌倉防衛戦で失脚した第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球への侵攻を開始したこと、その際、ザイフリート配下であったヴァルキュリアを何らかの方法で強制的に従わせ、魔空回廊を利用して人間達を虐殺し、グラビティ・チェインを得ようと画策しているらしいことを説明し、
「彼女達を従えているのは、妖精八種族の一つであるシャイターンです。このため、都市内部で暴れるヴァルキュリアに対処しつつ、シャイターンを撃破する必要がありますが――皆さんには、東京都羽村市に向かい、ヴァルキュリアと戦っていただきたいのです」
 そう言を次いだあと、いつにも増して真摯な表情を浮かべていた。
 思案顔を浮かべたケルベロス達へと、セリカは改めてヴァルキュリアとの戦闘に専心して欲しい旨を告げ、さらに説明を続ける。
「彼女達は住民を虐殺し、グラビティ・チェインを奪おうとしていますが、それを阻むものが現れた際には、邪魔者の排除を優先して行うよう命令されているようです。
 つまり、ケルベロスがヴァルキュリアに戦いを挑めば、彼女達が住民を襲うことはないでしょう。
 ですが、都市内部にシャイターンがいる限り、ヴァルキュリアの洗脳は強固であり、何の迷いもなくケルベロスを殺しにきます。
 ここでシャイターン撃破に向かったケルベロスがかれを撃破した後ならば、何らかの隙ができるかもしれませんが……それも確かなものとはいえません。
 操られているヴァルキュリアには同情の余地もありますが、ここで皆さん達ケルベロスが敗北してしまうと、ヴァルキュリアによって何の罪もない住民が虐殺されてしまいます。
 ですから……ここは心を鬼にして、ヴァルキュリアを撃破する必要があります」
 ちらりと浮かんだ、少し悲しそうな表情のまま、セリカは前を向いた。
「皆さんと戦う3体のヴァルキュリアについてですが、紅色の鎧をまとい、槍を得物とする1体、青色の鎧をまとい、山羊座の星辰を宿したゾディアックソードを得物とする1体、黒色の鎧をまとい、妖精弓を得物とする1体です。彼女達は武器ひと振りのアビリティを駆使し、苛烈な戦いを仕掛けてきます。
 また状況によっては、さらに1体のヴァルキュリアが援軍としてやってくる場合もありますので、注意を怠らないようにしてください」
 彼女の話を聞くケルベロス達の、それぞれに何かをもの思う表情を見――セリカはそっと、口を開く。
「新たなエインヘリアルの王子と妖精八種族のシャイターン……そして、シャイターンに強制的に従わされ、人間の虐殺を命じられているヴァルキュリア。
 ――ヴァルキュリア達が罪を犯してしまう前にそれを阻止し、敵の出鼻を挫くことが、彼女達にとっても救いとなればよいのですが……それは、これから戦いに赴く皆さんの双肩にかかっています」
 頑張ってください、とつよい声音で言い添え、セリカは丁寧に頭を下げていた。


参加者
イェロ・カナン(赫・e00116)
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
千桜・桃花(真紅の桜のオラトリオ・e00397)
ルーナ・バウムフラウセン(レプリカントの鎧装騎兵・e00623)
安詮院・薊(空虚の・e10680)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
ピヤーニツァ・プーシカ(シャドウエルフのブレイズキャリバー・e14785)
夜輝宮・鏡花(シャドウエルフの螺旋忍者・e21257)

■リプレイ

●止めるべきは
 東京都羽村市の一角、師走を彩るサザンカ咲く公園には、忙しなき日々のなか、束の間の憩いを楽しむ親子連れや主婦達の姿がある。そんな彼らをケルベロスが視界の端にとどめたと同時に、ささやかな幸せを積み重ねることを阻む、光の翼がはためくのが真っ向から見えた。
「ここは危ない、早く逃げろ!」
 公園に駈け込むなり、イェロ・カナン(赫・e00116)が声をかける。
 突然現れた光の翼持つ乙女達――ヴァルキュリアとケルベロスを見比べていた市民達の眼前を横切り、千桜・桃花(真紅の桜のオラトリオ・e00397)が前線へと駈け出せば、三体のヴァルキュリアは、グラビティ・チェインの収奪を阻止せんと現れたケルベロス達に視線をあらためて向けてきた。
「……そう。戦う相手は僕等っすよ」
 武骨な鉄塊剣を見せ、敵を引きつけるゼレフ・スティガル(雲・e00179)は白いコートの背越しに、市民達に語る――この通り、危ないから早く逃げてね、と。
「こっちよ、急いで!」
 手を懸命に上げ、ルーナ・バウムフラウセン(レプリカントの鎧装騎兵・e00623)が避難を促せば、三々五々、親子連れと主婦達が駆け寄ってきた。金の瞳に映ったそのさまに、束の間ホッと彼女は息をつくけれど。
(「新たなデウスエクスにヴァルキュリアの洗脳。 敵もなりふり構わなくなってきてるわね」)
 だからこそ油断は禁物、と気を引き締める。
 一般人の虐殺を阻む者が現れたなら、邪魔者の排除が先。
 そう見定めたヴァルキュリア達は、それぞれの得物を手に身構える。しかし、戦闘を前に、やはりどうにも目についてしかたないのは。
「泣いてる女の子を観るのは嫌いじゃないけれど、無理矢理泣かされてるのを見てるとイラつくね、なかなか」
 斜に構えてそっぽを向きつつも、安詮院・薊(空虚の・e10680)が呟きざまに、双振一対の刃をかざせば、
「ん~、ヴァルキュリアね~」
 後方で、酒にまみれた声があがる。
「でも~、洗脳されても~、涙は流せるんだから~あ~、全てを~、支配されてるわけじゃ~、ないのかな~?」
 ヴァルキュリア達の白皙の頬に流れる紅涙をちら、と見、ピヤーニツァ・プーシカ(シャドウエルフのブレイズキャリバー・e14785)が独りごちたそのとき、彼女の不健康そうな漆黒の瞳の奥、かすかにかぎろうものがあった。
「だからこそ……このような方法で隷従させられるのはさぞ辛いでしょう。解放致します」 
 鈴を転がすような声を淡々とかけ、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)はそっと、ケルベロスチェインを握り締めていた。
「やっぱり、出来る限り助けてあげたいですよね」
 偽らざる本音をちらりと零し、夜輝宮・鏡花(シャドウエルフの螺旋忍者・e21257)は身体から殺気を放つ――罪なき人々を巻き添えにしないように、そして、操られているヴァルキュリア達の手が、その思いを踏みにじって命じられた殺戮の鮮血に染まらぬように、と。
 そんなケルベロス達を、行く手を阻む邪魔者と認識したのか、黒い鎧のヴァルキュリアが妖精弓を鳴らしていた。

●剣戟、相交わし
「いいようには……させません……っ!」
 矢が放たれる前に、桃花の手にしたケルベロスチェインが勢いよく伸び、黒い鎧に夜を重ねるように縛り上げる。
「敵とはいえ、意思を奪われ無理矢理従わされている姿は痛ましいものね」
 その隙を逃すまいと、ルーナがライトニングロットをかざすが、迸った雷を意にも介さぬように疾駆する紅の鎧のヴァルキュリア。
「熱い突撃と裏腹の冷たい一撃、だけど」
 かざされた槍が纏う氷を一瞥し、ほんの一瞬、イェロは笑む。しかし、軟派な表情のなかのラズベリー色の瞳にすぐさま真摯な色を漂わせ、
「女の子が泣いてるの、ほっとけないもんな」
 アームドフォートの主砲を一斉発射していた。
「痛める心がある証が、その紅涙なら……望まぬ戦いを強いるとは、本当に、残酷なことをするもんだね」
 呼応したゼレフが、ライトニングロッドから追撃の雷を放てば、瑛華もケルベロスチェインを地に展開し、味方を守護する魔法陣を描く。
 だが、ヴァルキュリア達の真っ向に立つ仲間達の護りを破壊するように、青い鎧のヴァルキュリアが、長剣に宿した山羊座のオーラを飛ばしてきた。
 それと同時にヴァルキュリア達の眼からこぼれる、赤い涙のひとしずく。その色は血に重なると見るほどに。
「哀れな奴だ、引導を渡してやろう――と行きたいところだけれど、泣いている奴を殺すのは趣味じゃないし」
 その矢が誰かを射抜かないように、と他の二体をかいくぐるように駆けていた薊が、亡者の怨念秘めた刃を黒い鎧のヴァルキュリアへと振り下ろせば、
「この先には、絶対に行かせてあげません」
 両の手の螺旋手裏剣を鏡花が高速回転させ、生み出された大竜巻が間髪入れずに襲いかかる。
 彼女の持つ妖精弓を脅威と見なし、各個撃破の先手に狙うケルベロス達の意図に、此方もそうやすやすと思い通りになってなるか、と紅、青の鎧まとうヴァルキュリア達が突撃してきた――が。
「ん~、単なる宴会芸だと~、油断したら~、大火傷するよ~」
 複数の銘柄の酒を口に含んだピヤーニツァが、それらを霧状に噴射した後に点火すれば、豪快な火炎が青の鎧をその内に隠す。そして炎の勢いと――それ以上に辺りに充満する度数の強い酒の残り香に一瞬躊躇ったように、紅の鎧のヴァルキュリアが息を呑んだ。
「こちらにも……思う所がありますからね……っ。兎も角……ひと踏ん張りしてみましょうか……っ」
 狂戦士の如き高揚をもたらすルーンが彫られた無骨な斧を手に、高々と跳びあがった桃花が頭上から紅の鎧を叩き割ろうとした後に、瑛華は魔法の木の葉をまとわせていた。
 それを見た黒い鎧のヴァルキュリアはひとつ、おおきく息をつきながらも、邪魔者を排除するまで膝をつくわけにはいかない、と妖精の祝福を宿した矢を仲間へと放つ。
 双方、その進を譲れずとも――操られた敵の信ずべきものは目隠しされている戦い。
 だからこそ退くことはできないと、ケルベロス達は戦意を奮わせていた。

●不殺を掲げ
(「シャイターンに向かった仲間達からの連絡はないわね」)
 戦いが刻々と続くなか、ルーナのアイズフォンに届くメールはない――だがそれは、敵援軍は別の戦場へと向かい、仲間達がより一層の奮戦を余儀なくされているのと同義かもしれない。
「ロック。ロック。ロック。すでに狙いはついてるわ。……プログラム解放。喰らいつけ捕縛の牙!」
 とはいえここは、眼前の敵の戦力を低下させることが先決と、ルーナは黒い鎧のヴァルキュリアの動きを阻害するプログラムを叩き込む。
 重なる攻撃に体力を削られてきたのか、弓を構えることさえ辛そうな彼女を、紅い鎧のヴァルキュリアは槍をかざして鼓舞すれば、
「……っ!」
 心を貫くエネルギーの矢が、瑛華を穿つ。それと同時に、青い鎧のヴァルキュリアが己へとゾディアックソードを向けてきたのに気づいた瞬間、その手は反射的に武装白衣の内に潜む銃へと伸ばされる――けれど。
「いけませんね、わたしの仕事は、今は違います」
 仲間の回復を担う己の役割を全うするまで、と彼女はマインドリングをかざし、浮遊する光の盾を具現化させていた。
「おっと」
 死角となるすべり台の陰まで回り込もうとしたゼレフの足が、サザンカに触れる。震えた花片が、それでも地に落ちることなかったのを横目で見遣り、
「――花を散らすのは可哀想だからね」
 光透かせの雲に似た色の髪ひとすじと乱さずに、紅い鎧のヴァルキュリアへと達人の一撃をお見舞いしていた。
「サザンカの花言葉なんだっけ――ああ、そう、俺達は」
 青い鎧のヴァルキュリアへと、イェロが黒色の魔力弾を撃ち出したあと、
「その紅い涙を拭うことができるように、心から尽力するまで。だから」
 困難に打ち勝ってね、とウインクしてみせていた。
 だがその言葉が、強固な命令に囚われている彼女達には届いていないことを証するように、星辰を宿す長剣から放たれる重い斬撃。
 行く手を阻むものはあくまでねじ伏せる、そんなヴァルキュリア達の戦いぶりだが――
「洗脳されただけで~、心まで壊れた訳じゃないみたいだし~?」
 正気の光のひとかけらを、辛うじて漆黒の瞳に留めているようなピヤーニツァの視線は、絶えず流れ続ける紅涙を注視している。
「ちょっとだけ~、死なない程度に~」
 力を削がせてもらおうかしら、とピヤーニツァがヴァルキュリア達を無数のレーザーで攻撃すれば、続けざまに鏡花も、敵を侵食する影の弾丸を放つ。
 しかし次の瞬間、ケルベロス達に抗う槍の一撃が前衛を穿ってきた。
「敵とはいえ……やりにくいものですね……っ」
 黒い鎧のヴァルキュリアを庇うように、他の二体が立ちはだかる。仲間の内から戦闘不能者は出していないものの、本気で戦いにきている敵に、手加減ができるような状況にはなっていない。
 前に立つ桃花は、覚悟を決めたように深呼吸した。
「座標固定……っ! 押し貫きます……っ!」
 一条の閃光が、戦場を貫いた。真紅の熱帯びた兵装の余波を受け、桜の花弁にも似た光が舞い散るなか、紅い鎧のヴァルキュリアが深々と息を吐き出せば、はたりと落ちる紅涙がある。
「その涙を拭いてあげるとするか」
 薊は惨劇の鏡像で敵へと肉迫し――まったく気にくわない奴だ、シャイターンってのは、とひそかに囁く。
「できれば、正気の時に勝負してみたかったな」
 涙しながらなおも戦うヴァルキュリア達に、ライトニングボルトを手にしたゼレフが呟く声が沈む。
 ――能うなら、叶うなら、ヴァルキュリア達の命まで奪う戦いにならねばよいと、ケルベロス達は祈る思いを秘めて戦場に立つ。

●その声は……
「……あなた達も、きっと、痛いんでしょうね」
 彼女達の心を支配しているシャイターンへの嫌悪に瑛華は眉をひそめつつ、サークリットチェインで仲間達の守護につとめる。
 体力もおおかた削られているように見えるヴァルキュリア達だが――そう、ケルベロス達が推量をはじめた、その時だった。
「だめ、です……こんな、戦いは」
 一番手傷を負っている黒い鎧のヴァルキュリアが、癒しに満ちた矢をケルベロス達へと放ってきたのは。
「えっ?!」
 傷を思いがけず癒されて、とまどうイェロだったが――いちかばちか、の内心はつとめて押し隠し、
「近くに、おいで。……そして、俺達と一緒に来てくれない?」
 鈍色の銃口をヴァルキュリアの胸へと押し当てながら、あまく真剣な声で囁く。
 それが耳に届いた、とも思えぬ速さで、紅い鎧のヴァルキュリアが繰りだした槍。だが、その返す手へと振るわれていたのは、青の鎧のヴァルキュリアが持つゾディアックソードだった。
「止めるんだ、もう……」
 しかし次の瞬間、彼女はケルベロスへの敵意を隠さず、長剣を向けてくる。
 あきらかに混乱し始めている様子のヴァルキュリアへと、急所を外しながら拳を繰り出し、
「大丈夫、助けるよ。君達も負けないで欲しい――それに、君達の手は穢れちゃいない」
 ゼレフが優しく声をかける。
「……わたし、は……」
 困惑する紅い鎧のヴァルキュリアは、次の瞬間その槍を、長剣を振り下ろそうとした同胞に向けていた。
「大人しくしてもらえないかしら、悪いようにはしないわ」
 その命脈を奪わないように、と放ったルーナの一撃の後、
(「……チャンス!」)
 鏡花があわよくば何らかの情報を入手できたら、と螺旋手裏剣を手に迫る。しかし、未だ心が定まりきらぬヴァルキュリアは、報復の一撃を放ってきた。
 ここからどうなるか分からなくても、ここで落ちるわけにはいかないと、桃花は黒の鎧のヴァルキュリアを、やわらかい手刀にも似た一撃で戦線から離脱させる。
「壊れることなく~、ハッピーエンドに終われば良いよね~」
 戦場で破壊された精神を酔いに紛らわせ、正気を辛うじて保っているアタシのように苦しまずに済めば。
 地獄化した心の奥底に思いは潜め、ピヤーニツァが動きを牽制するように、アームドフォートの主砲を向ける。その硝煙がさめやらぬ間に、薊がヴァルキュリア達に声をかけた。
「君たちもこんなことは望んでない、そうじゃないのかい? 望んでないのはぼく達もでね、そう悪いことは言わない、手を組まないか?」
 ――ああ、救うことは殺すことより難しいのも識っている。そんな自分はこの単語を、けして好んでいるわけではないけれど。
 それでもここで、貫くのは自分の正義。だから。
 黙したままのヴァルキュリア達を前にして、薊はもう一度、口を開いた。
「ひょっとしたら君達が望む勇者なのかもしれないよ、ぼく達が」
 覚悟を籠めたその単語に、何らかの反応が返されるより前に――ヴァルキュリア達は、何か別の指令を受け取ったような面持ちを見せると、そのままケルベロス達から視線を外す。
 しかし。
「……わたし達の望む勇者があなた達かどうか、それを見定めきれたとは言えない、けれど」
「この命を奪わずにいてくれた、そのことには謝意を」
 二人の言葉の後、負傷した身体で精一杯に、黒い鎧のヴァルキュリアが会釈したのをしおに、彼女達は戦場を後にしていた。
 ――いつか、この恩は返そう。
 そんな決意を背に、にじませて。
「こんなトコでまでフラれなきゃ良いなぁ……って思っていたんだけど」
 肩をすくめたイェロの視線が、公園の端のサザンカで止まる。
 ――困難に打ち勝ったのは、果たして。
 光の翼の軌跡を追い、戦い終えたケルベロス達は視線をさまよわせずにはいられなかった。

作者:内海涼来 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
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