シャイターン襲撃～待ち受けるは生か死か

■リプレイ

●多摩ニュータウン
　八王子市郊外の多摩ニュータウン。ケルベロス達はシャイターンの襲撃が予知されたこの地へとやってきた。自分達の目的はザイフリートを助ける事。
　事前の打ち合わせ通り、ヴァルキュリア達を助ける班とは別れ、残り約２４人のケルベロスがザイフリートを探し、戦場を駆ける。
「わぁああちょっと！　すでに戦いが始まってるよっ！」
　板餅・えにか（萌え群れの頭目・e07179）が声をあげる。ザイフリートを見つけたのはいいが、すでに１５体のシャイターンに囲まれ。戦闘状態となっていた。
　流石というべきか、今の所はシャイターン達を薙ぎ払い、距離を保っているようだ。
　しかし多勢に無勢であるのは明白であり、このままではザイフリートが押され始めるのも時間の問題だろう。
　助けに行かねば。そう思った瞬間、自分達とは違う班の２人が飛び出し、シャイターンへと奇襲を仕掛けた。
「……助けに来たって伝えて」
　館花・詩月（咲杜の巫女・e03451）がこちらを向いてそう呟くと、飛び出したケルベロス達に向かって走っていった。
　奇襲により数体のシャイターンがザイフリートから離れ、こちらへ向かってきているのだ。
　言葉を託されたという事は、彼女達はこのままシャイターンを引き付けてくれるという事だろう。
「必ず伝える」
　エレオノーラ・フラウ（贋作者・e14696）は応える。託された想いを背に更にザイフリートの元へと駆け寄っていく。
　ザイフリートの周りにはまだ多くのシャイターンが残っていた。このまま戦闘をしながらの説得か、あるいは１班が残りのシャイターンを引き受け、１班がザイフリートの説得へと集中するか。
　どう動くか判断しなければならない距離まで近づいた時、視界の隅を炎の弾が飛んでいき、続けて達人の一撃がシャイターンへと叩き付けられた。
　その攻撃によりザイフリートとシャイターンの間に空間が生まれる。
　つまりはもう１班がシャイターンの注意を引き付けるべく行動を起こしたという事。ならば自分達の成すべきことはザイフリートの説得のみ。
　横を抜け、ザイフリートの眼前へと向かう自分達にエピ・バラード（安全第一・e01793）が声をかけた。
「――任せますっ！」
「ああ、そっちは頼んだぜ」
　すれ違いざまではあったが、志藤・巌（壊し屋・e10136）が応えた。
　自分達を信じ、シャイターンを引き受けてくれた仲間達のためにも、必ず説得を成功させなければならない。
　仲間達によって説得に集中できる環境が整えられた。
　ザイフリートの眼前に立ったケルベロス達は手にしていた得物をしまい、各々の言葉を紡ぎ始める。

●士は己を知る者の為に死す
　ザイフリートは猛攻により荒れた呼吸を整えながら、ケルベロス達に向け槍を構え直す。しかし、こちらの様子を窺うものの、ザイフリートからは仕掛けてこない。
　一通り様子を窺った後、ザイフリートは口を開いた。
「敵討ちか？」
　先の鎌倉での戦争の敵討ちのために来た。まず浮かんだ理由はそれだ。しかしだとすればシャイターン達を引き離し、武器も構えず目の前に立っている理由がわからない。ヴァルキュリア達とも離されている今、討つのであれば絶好の機会ではないのだろうか。
「いや、あんたと今戦う気はない、まずは話を聞いてくれ」
　戦場ヶ原・将（フューチャライザージェネ・e00743）は真っ直ぐザイフリートを見ながら手を軽くあげる。武器を構える気はない、言葉だけでなく行動でも示すためのジェスチャーだ。
「ならば何用だ」
　顔の大半は鎧で覆われており、口元や声色からしか表情を確認する術はないが、緊張しているのが伝わってくる。おそらくケルベロスがここに現れる事は一切想定されてなかったのだろう。こちらの様子を慎重に窺い続ける。
「多勢に無勢、こういう奴らはぶっ飛ばさなくちゃ気が済まねェんだ」
　にっかりと笑いかける。強敵との決闘を欲する将にとって、弱い者いじめをするようなやり方はとにかく気に入らない。とはいえ、いずれは強い相手であるザイフリートに決闘を申し込みたいので死なれては困るというのが将の一番の本音ではあったが、先の言葉も一切嘘ではない。
「将様がおっしゃるように、誰かを無理矢理支配下に置く、という行為が私も少々気に入らないものでして。それに、今までのヴァルキュリア達の様子を見るに、貴方は彼女らにずいぶんと慕われて居られるよう。でしたらどちらの味方をしたくなるか、言わずもがなでしょう？」
　礼服を着こなし、すらりとした姿勢で前に出たのは秋草・零斗（螺旋執事・e00439）だ。執事としての教養がある零斗にとって、部下に慕われている主の立場であるザイフリートは信頼するに足る人物だと判断しているのだ。
　続けて２人がここへ来た理由を述べるも、ザイフリートはまだ槍を構え、こちらを窺っている。
「確かに私は今、多勢に押されていた。またヴァルキュリア達が私の事を慕っているのも事実かもしれない。だがあの戦いを忘れたわけではあるまい」
　引っかかるは鎌倉での戦争。双方ともに甚大な被害が出た。そもそも仕掛けたのはザイフリートからであり、理由は今目の前に居るケルベロスを滅ぼすためだった。
「ヴァルキュリア達の方も助けるために味方が向かった。そして俺達はお前を助けにきたんだ。信じられないかもしれないが、事実だ」
　エレオノーラは言う。助けに来たという事をまず分かってもらいたい。心を少しでも開いてもらわねば、どんな説得でも相手の心に届く事はないのだから。
　ザイフリートはその言葉に、引き離されたヴァルキュリア達のほうを確認する。
　ヴァルキュリア救援に向かった者達が彼女達を守るように戦っている。ヴァルキュリア達は洗脳状態から復帰したばかりで弱っていた……ケルベロス達の助けが無ければ今頃どうなっていただろうか。
　敵対するために来たわけではない事が伝わったのか、ヴァルキュリア達の無事が確認できたからか、こちらに向けられていた槍がゆっくりと降ろされる。
　その様子を見て御陰・陽（アホ毛龍・e00492）はさらに言葉をかけた。
「ボクたちケルベロスと君たちは確かにぶつかり合った存在だよ。けど、今だけでもいいんだ、同じ方向を向くことはできないかな？　ボクたちにも、君にもやらなければならないことがあるんじゃないのかな」
　打算的かもしれないが、協力するメリットがあると伝える。ザイフリートにはヴァルキュリア達の解放と自身の暗殺の回避のため。ケルベロス達には住民の、ひいては地球の防衛のためシャイターン排除といった共通の目的があるのだ。
「もしこのまま放っておいたら、奴らは街の住人を皆殺しにするだろう。私たちは罪のない力なき人々を守るためにここに来た。この場限りでもいいので共闘してほしい。この通りだ」
　柿崎・維月（そのフラグを折りに来た・e00600）は陽の言葉をさらにフォローし、そしてザイフリートに向かい頭をさげる。
　ザイフリートはその様子を見て思う。助けに来たと恩を得るわけでもなく、ただ協力して欲しいためだけに真摯に頭をさげる彼らには一体何があるというのだろうか。
「話が通じて、分かり合えるのなら、ザイフリート王子やヴァルキュリアさん達とも良い関係になれると、私は思うのですよ！」
　群れで生活し、互いに支えあえば命が繋がる可能性が高まる。それは森で過ごしてきた板餅・えにか（萌え群れの頭目・e07179）にとってごく当たり前の自然の摂理。尻尾をパタパタと振る姿は好意を抱いている証拠だ。
　ザイフリートが口を開こうとした途端、突如零斗の声が響く。
「ザイフリート！　下がってください！」
「むっ！」
　ザイフリートを押しのけた零斗の体が灼熱の炎に包まれる。
　会話に気を取られ、敵の接近に気付くのが遅れたのだ。死角から飛び出してきたシャイターンの攻撃を間一髪のところで零斗が気づき、身を挺して防がれた。
　敵襲。武器を構えようししたケルベロス達よりも早く、ザイフリートが動いた。
　零斗のすぐ横を槍が掠める。胸に槍が深く突き刺さり、シャイターンは断末魔を上げながらコギトエルゴスムへと化した。
　シャイターンが飛び出してきた方を見れば、２班とも精鋭部隊のシャイターン達に押され、攻めあぐねている。
　このままでは劣勢に傾いていくだろう。助けに行かなくては。
「ザイフリート、私からはこう言うぜ。生きたいなら私達と一緒に敵を倒す。死にたいなら勝手にしろってな。私でも冗談も言うが、今は至って大真面目だぜ」
　天之空・ミーナ（ヒーローネームは魔法幼女・e01529）は説得が苦手だという自負があった。だからこそ、言葉や目に、この想いを込めて、真剣なんだと想いを伝える。
「この状況、一人で切り抜けられたか？　今、お前の瞳にはどんな未来が見えている」
　巌はザイフリートにどうするのか、決断を迫る言葉を投げかける。
　一拍置いた後、ザイフリートが口を開いた。
「……私は何を迷っていたのか。答えならすぐ目の前にあったというのに」
　身を挺し自分を庇った者、シャイターン達を引き付け、防衛してる者達。
「彼らの戦う姿こそ、私が信じる根拠と成り得た。戦場において彼らの戦う姿を信じる事ができねば、私はこれから先、何も信じる事ができないだろう」
　敵であった者を仲間が説得してくれると信じ、背を向け戦う姿。またヴァルキュリアを救おうと戦う者達の姿が。ザイフリートの目に映る。
「私が信じる仲間。ならば、助けに行かねばなるまい」
　ザイフリートは距離が離れている詩月達の班を見て、槍を握り直す。
「よし、なら僕たちは向こうを助けに行こう！」
　ケルベロス達はエピ達のほうを指し、互いに頷きあう。
　駆けつけよう、信じてくれた仲間達の元へ。

●仲間の元へ
　救援へと駆けつけると一人、今まさに攻撃を受けようとしている者が居た。
「願いと祈りを心に宿し！ 未来の扉を今開け！ ライズアップ！」
　それを見た将は、走りながらカードを掲げる。カードに描かれた騎士のユニットを自身にグラビティチェインによって再現するのだ。降臨させた光の剣で、ケルベロスに肉薄していたシャイターンを薙ぎ払い、消滅させた。
「カタナ！」
　将に続き零斗の声が響くと、ライドキャリバーのカタナが激しいスピンでシャイターン２体を横へと吹き飛ばした。あっさりと攻撃を防御したのを見ると、彼らは両方ともディフェンダーとして立ち振る舞っているようだ。
「仲間のフラグ、守りに来た！」
　維月がセレナ達に向かい、救援に来た旨を伝える。吹き飛ばされたシャイターン２体に加え、さらに１体、こちらへと標的を移した。これでここらに居るシャイターンの半分。向こうの様子を見ると、残り半分はそのまま抑えてくれそうだ。
「うちのシマである地球で好き勝手に暴れるんは、ケルベロスが許さんのじゃー！」
　興奮状態にあるのか尻尾をブンブン振りながら、えにかは天空より無数の刀剣を召還し、死天剣戟陣を繰り出し攻撃を仕掛ける。
「ちぃ、邪魔な奴らめ！」
　シャイターンの一人が砂嵐を巻き起こす。その砂嵐は視界を歪め、幻覚を見せ始めた。他のシャイターンも攻撃や仲間の回復に動く。敵は３体。とはいえ、さすがはザイフリートを暗殺すべく派遣された精鋭部隊。幾度か攻撃の攻防が続くも、弱る様子が見えない。
　しかしザイフリートの信頼を得る事ができたのだ。あとはシャイターンを倒すのみ。ケルベロス達の士気は上がっている。
「好きにはさせない」
　維月はグラビティで小型治療無人機を作り出し、砂嵐を受けた面々へと放つ。今は回復役としての能力が高まっている。本来護衛をさせる事が主なグラビティだが、傷を大きく癒し、幻覚も治療する。
「一人ずつ、だ、なっ！」
　敵へは着実にダメージを与えている。自分たちの力を信じ、攻撃を続ければいい。
　シャイターンが掌に炎を灯し、攻撃準備に入っていたのも構わず、巌は一番ダメージの蓄積が多いシャイターンへと肉薄し、闇の右手で力強く殴りつけた。
「うぐぅ！雑魚のくせに生意気だぜぇ！？」
　至近距離で炎が放たれ、爆風で体が飛ばされる。しかし熱風を感じただけで痛みはなく、そのまま地面へと着地した。爆風が収まるとそこに居たのはエレオノーラのサーヴァント、ミミックのもっさんだった。その小柄な容姿を生かし、巌とシャイターンの間に体を滑り込ませたのだ。
「良くやった」
　エレオノーラはもっさんを褒めた後、贋作・世界樹の伊吹を発動させた。前衛に立つ者達の耐性を高める。未知数の敵ではあったが、味方のサポート体制は万全だ。
「懐が隙だらけだぜ」
　熱い熱風の中弓を構えるのはミーナだ。混戦になった際、その中でも確実に倒すため、今回はホーミングするグラビティを選択した。
　どれだけ熱風や砂嵐が吹こうとも、ミーナには関係のない事だ。ニッ、と笑い矢を放てば、シャイターン２体の間を縫い、後方にて一度っていたシャイターンへと突き刺さる。その矢を受けたシャイターンは糸の切れた傀儡人形のようにその場に崩れ落ちた。
　弱る様子こそ見せなかったが、ケルベロス達の攻撃はしっかりと蓄積され、敵を追い詰めていたのだ。
「よし、後はキミ達だけっ！」
　残るは前衛で防衛をしていたシャイターン２体。陽の小柄な体格が前方へと躍りでる。終わりは近い。そう感じ取れば一層力が入る。その体から繰り出されたとは思えないほど早く、重い蹴りを放てば、続けてもう一体、撃破に成功した。
「らぁあ！！」
　残り一体となったシャイターンは半ば自暴自棄に近くに来た陽に攻撃を仕掛けようとする。
「運命の剣！」
　陽とシャイターンの間に巨大な剣が生成される。その剣の一振りはシャイターンを追撃し、粉砕した。トドメはミーナのグラビティで勝利を収めた。
「ルナティックミスト！」
　えにかは赤い霧を発生させ、傷を受けている者達を包み込む。引きつけた３体のシャイターンは撃破したが、まだ救援が必要なところがあるかもしれない。そう思い回復グラビティをかけたのだ。しかしそれは全くの杞憂であった。
「ふっ、無事、フラグが守られたらしい」
　維月は髪をかき揚げる。辺りを見渡せばほぼ戦闘は終わり、ケルベロス達が勝利を収めていた。ザイフリートも、ヴァルキュリアも、街の住民も、皆助ける事ができたのだ。
　この戦いはケルベロス達の勝利だ。

作者：鬼騎	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月24日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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