シャイターン襲撃~ヴァルキュリアの悲槍

作者:舎里八

 住宅街は阿鼻叫喚の巷と化していた。
 突如、魔空回廊から現れたヴァルキュリア達。彼女らは3体ずつ4方向にわかれ、住民を襲い始めたのだ。
 逃げ惑う住民達を、躊躇することなく背中から槍で一突きにするヴァルキュリア。命乞いする者達へも容赦なくその槍は振るわれる。老いも若きも、男も女も区別なく。
 足元で絶命してゆく人間達に対し、一片の感情も持ち合わせていないような冷酷な行為。
 しかし、命を奪う槍を握るヴァルキュリア達の瞳からは血の涙がとめどなく溢れているのだった──。
 
 呼び集められたケルベロス達を前に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が口を開いた。
「城ヶ島のドラゴン達との戦いも佳境となっていますが、エインヘリアルにも大きな動きがあった模様です。ザイフリート──鎌倉防衛戦で失脚した第一王子の後任として、新たな王子が地球への侵攻を開始したらしいのです」
 彼女が言うには、エインヘリアルは、ザイフリート配下であったヴァルキュリアをなんらかの方法で強制的に従え、魔空回廊を利用して人間達を虐殺してグラビティ・チェインを得ようとしているらしい。
「皆さんに向かってほしいのは、東京都立川市の住宅街です。ヴァルキュリアを従えている敵は、妖精八種族の一つシャイターンです」
 今回の作戦は、住宅街で暴れるヴァルキュリアの相手をしつつ、シャイターンを撃破するというものだ。
「そこで、皆さんにはヴァルキュリアとの戦闘を担当してもらいたいのです」
 ヴァルキュリアは、住民を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとしているが、邪魔する者が現れれば、その者の排除を優先して行うように命じられているとのことだ。つまり、住民への攻撃を防ぐにはケルベロスがヴァルキュリアに戦いを挑めば良い。
 ただし、シャイターンが健在な限り、ヴァルキュリアの洗脳は強固なままだ。何の迷いもなくケルベロスを殺しにくるだろう。シャイターン撃破に向かったケルベロスが目的を果たした後ならば、なんらかの隙ができるかもしれないが、確かなことはわからない。
「操られているヴァルキュリアを憐れむ気持ちがあるかもしれませんが、皆さんの敗北即ち住民虐殺となってしまいますので、心して事に当たってください」
 敵となるヴァルキュリアは3体で、全て槍を装備している。その槍を用いて光を宿した一撃や、氷を纏った突撃を繰り出してくるとのことだ。さらに、仲間を鼓舞し傷を癒したりもするらしい。
 また、状況によってはもう1体のヴァルキュリアが増援としてやってくる可能性があるので、注意を怠ってはならないとのことだ。
「意図しない虐殺を強制させられているヴァルキュリア。彼女達が罪を重ねる前に倒す事も情けなのかもしれません……が……」
 目を伏せ、しばし沈黙するセリカ。
 やがて顔を上げた彼女は、
「皆さんの活躍に期待しています」
 そう言ってケルベロス達を送り出すのだった。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374)
千島・累(砂の薔薇・e02065)
バルタザール・エヴァルト(若作りなおっさん・e03725)
工藤・誠人(地球人の刀剣士・e04006)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
アイリス・メイリディア(果てない夜を駆ける少女・e18476)
稲栄・大輔(地球人のガンスリンガー・e20110)

■リプレイ


 東京都立川市、閑静な住宅街。血臭漂うこの地を、ケルベロス達は足早に進んでいた。
「これは……酷いな……」
 少年のように見える顔をしかめ、バルタザール・エヴァルト(若作りなおっさん・e03725)が吐き捨てるように呟いた。
 彼等の周囲には、思わず目を背けたくなるような光景が広がっている。
 ヴァルキュリアの姿はまだ見えない。
「住民の皆さんは、落ち着いて速やかに避難して下さい!」
 工藤・誠人(地球人の刀剣士・e04006)が声を張り上げ、生存者に避難を呼びかける。
 すると、身を潜めていた人々が次々に家屋から姿を現した。
 しかし、ケルベロス達の声が届いたのであろうか、血に濡れた槍を引っ提げた3体のヴァルキュリアもまた住宅街の一角から姿を現すのだった。
「ここは俺達が食い止めます! 向こうなら安全です! さぁ、急いで!」
 結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)の呼びかけを受け、人々は彼が指差す方へと駆け出すのだった。
「そう、それで良い」
 鋭い殺気を放ちながら、千島・累(砂の薔薇・e02065)が銃に手を伸ばす。一般人を遠ざけ、戦いの準備は整った。
「それでは皆さん、手筈通りに。くれぐれも油断は禁物です」
 誠人の声に皆が頷き、改めてヴァルキュリア達に向き直る。
 ヴァルキュリア達は槍を中段に構え、じりじりとこちらに迫ってくる。
 稲栄・大輔(地球人のガンスリンガー・e20110)がかぶりを振って、
「せっかくの美人が台無しだよ、お嬢さんがた」
 向かってくるヴァルキュリアは、3体とも端正な顔立ちだ。しかし、その瞳から頬にかけては血の涙が伝っている。
 更に、手にした槍のみならず、その防具もまた返り血で赤く染まっていた。
 そんなヴァルキュリアに、アイリス・メイリディア(果てない夜を駆ける少女・e18476)は無言のまま、刺すような視線を送っている。その胸中には複雑な思いが渦巻いていたが、今は個人的な感情は封じている。
「これが本当に貴方達のしたいことなんですか! 目を覚まして下さい!」
 レオナルドが呼びかけてみたものの、返事をするヴァルキュリアはおらず、そのまま戦いへと突入するのだった。
 

 口火を切ったのは、松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374)による精霊の力を弾丸に乗せた銃技。
「力づくで悪いが、止めさせてもらうぜ。これで、大人しくしてな!」
 1体のヴァルキュリアが、体に入り込んだ精気により体の自由を奪われる。
 続けて、レオナルドが恐れからくる震えを堪えながら拳を握りしめ、
「……震えてる場合じゃないだろ俺!」
 己を叱咤し、重い一撃をヴァルキュリアの腹に叩き込み、幾らかのダメージを与えた。
 ケルベロス達はその後も果敢に攻め立てるが、ヴァルキュリア達も黙ってはいない。
「ハァッ!」
 最も長身のヴァルキュリアが槍を手に突撃を仕掛ける。氷を纏った突撃を受け、前衛のケルベロス達は浅からぬ傷を負ってしまった。
 間髪入れず、小柄なヴァルキュリアが光を宿した槍の一撃をアイリスに放つ。
「くっ……」
 やはり、手強い。僅かな時間で一同は相手がかなりの手練れだと悟らされるのだった。
「難しいかもしれませんが、なんとか1体ずつ確実に……」
 仕留めましょう、とう言葉を呑み込む誠人。彼がヴァルキュリアに向ける視線には、どことなくやりきれなさが含まれていた。しかし、その太刀筋が緩むことは全くない。それは、幼き頃からの修練の賜物だった。
「そうはさせない!」
 秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)が身を挺してバルタザールへの攻撃を防いだ。槍の一撃を肩口に受けてしまったが、まだ戦える。
(「僕にはこの状況を打破する力はないかもしれないけど……その力を持つ皆を守るだけのことはできる!」)
「その悲しみから救ってあげましょうか?」
 血涙を流し続けるヴァルキュリアの顔に己の顔をぐっと近づけ、アイリスが言った。
 直後、後方に飛び退きながら敵の首筋めがけて鎌を振り下ろす。ヴァルキュリアの首筋から血がしぶき、よろめいた。
 その先には白炎の獅子の幻影を纏ったレオナルドが待ち受けており、猛々しい獣声とともに獣王斬を放つのだった。
「そろそろ大人しくなりなっ」
 立て続けの攻撃に晒されて明らかに消耗しているヴァルキュリアに、バルタザールが追い打ちをかける。手心を加えた一撃だ。
 これを受けた長身のヴァルキュリアは戦意を失い、地を蹴ってふらふらと空に舞い上がると、そのまま北の方角へと撤退してしまうのだった。
「これで戦況はこちらに傾きそうだ」
 丈志の言葉を受け、ケルベロス達の間に幾らかの余裕が生じた。
 だが。
 一同が次なる攻撃を仕掛けようとしたところで、バルタザールの携帯電話が鳴った。
 コールは1回。シャイターン撃破に向ったチームからの合図だ。1回なら敵援軍派遣。2回なら撃破成功。3回なら……撃破失敗。
「1回鳴ったってことは……皆、気をつけろよ! 新手が来やがるぞ!」


 バルタザールの警告からおよそ1分が経過した頃、妖精弓を携えたヴァルキュリアが1体飛来した。
 新手のヴァルキュリアは矢をつがえ、大輔に狙いを定める。それに気づいた大輔は矢が射られる前に駆け出したものの、追尾する矢によって背中に傷を負ってしまう。
「これで振り出しに戻ったか。いや、こちらの疲労も含めれば分が悪いかもしれないな」
 惨殺ナイフに手をかけながら累が呟いた。 
 ケルベロス達は粘り強く戦いを続けるが、それはヴァルキュリア達とて同じことだった。仲間を鼓舞し、傷を癒しながら反撃を続けている。
「仲間の命と貴様等の命、天秤にかけるつもりはないのでね。もしもの時は、恨まないでおくれよ」
 累のナイフの刀身にヴァルキュリアのトラウマが映し出され、具現化されたトラウマがヴァルキュリアを苦しめる。
(「今回の虐殺も新たなトラウマになるかと思えば、ヴァルキュリア達も哀れなものだな」)
 戦いが続く中、丈志は仲間達の消耗の度合を見極めながら的確な治療を心がけている。
「恵みの雨、降り注がせるぜ」
 薬液の雨が戦場に降り注ぎ、アイリスと誠人の傷が癒えてゆく。
 仲間達の感謝の声に手を上げて応えながらも、注意深く戦況を見守り続ける。
 そして、気づいてしまった。戦況を覆す決定打がないまま持久戦になれば、詰んでしまうということに。だが、皆に伝えて動揺させるわけにはいかない──。
 そんな丈志の顔色を見て、矢傷の癒えた大輔は戦況が芳しくないことを察した。
「さて、たまにはオジサンのいいところも見せつけてやらんとな……!」
「ほう、だったら俺も便乗させてもらおうかね」
 バルタザールと二人して、中年勢がいっそうの奮闘をみせる。
「ピカッとピリッと、してみるかい?」
 大輔から投げつけられた小さな発光球が色とりどりに展開し、ヴァルキュリア達を痺れさせれば、バルタザールは死角から足を狙った斬撃を見舞い、その足取りを鈍らせる。
 それでもなお、彼我の戦力差を覆すには至らないのだった。
 刻々と押されてゆくケルベロス達。
 前衛の一角に立つ彼方は満身創痍で意識が朦朧としていた。左手のガントレットの宝石から具現化した全身鎧を纏ってなお、疲労は濃い。思わず仰向けに倒れそうになった背中を、力強く支える者があった。それは、レオナルドだった。
「まだです! まだ、倒れちゃ駄目ですよ!」
 彼方は振り向いて無言で頷き返す。味方の内、誰か一人でも戦闘不能に陥れば、ヴァルキュリアは即座に殲滅の対象となる。そういう取り決めだ。
(「そうだ! 最後までこの戦場で立ち続けることが勝利に繋がるんだ……!」)
 力を振り絞り、両の足に力を籠める。
 しかし、霞む視界には槍を構えて突進してくるヴァルキュリアの姿が映るのだった。
 彼方に殺到するヴァルキュリアの姿を見て、アイリスの鎌が鈍く光る。アイリスは皆で決めた方針には従うつもりだが、もしも味方が重大な危機に陥れば、その身を捨てでも敵を駆逐する覚悟でこの戦いに臨んでいる。
 ヴァルキュリアが渾身の槍を突き出す寸前、そしてアイリスが容赦なく鎌を振り下ろす寸前。
 バルタザールの携帯電話が2回鳴った。シャイターン班が敵の撃破に成功した報せだ。
 直後、ヴァルキュリア達の動きが一瞬止まり、その隙を逃さず、誠人の斬霊刀の切先から一点集中したグラビティチェインが放たれた。
「貫け、獅子王葬破!」
 直撃を受けてよろめくヴァルキュリア達を後目に、大輔が声を上げる。
「さあ、今のうちに彼方を癒してやってくれ!」
 その声に応じ、彼方の士気を鼓舞し、傷を癒したのは──なんと今しがた攻撃を仕掛けてきたヴァルキュリアであった。


 突然のヴァルキュリアの行為に虚を突かれた一同は顔を見合わせ、首を捻る。
「一体……どういうつもりだ!?」
「和解したい、ということでしょうか?」
 レオナルドが慎重に距離を詰めながら呼びかける。
 すると、先程のヴァルキュリアは態度を一変させて槍を突き出したので一同は応戦せざるをえない。
 幾度か攻撃を繰り返すうちに、またもや様子のおかしくなるヴァルキュリアが現れた。
「このような戦いは……恥辱……」
 そう言って喉元を差し出すヴァルキュリア。
「馬ッ鹿野郎……そんなことされたって、はいそうですか、と喉元掻ッ切れるわけないだろう」
「頼……む……」
 懇願の声に舌打ちしつつ退くバルタザール。
「まったく、やりにくいったらありゃしないぜ……あっ、今度は味方に矢を放ちやがったぞ!」
 時折ヴァルキュリア達は正気に戻るようであったが、混乱が生じているのは間違いない。
 仲間同士で傷つけあうヴァルキュリア。その凄惨な有り様を見かねた彼方は、意を決して声を張りあげた。
「聞いてくれ! たしかに……君達のしたことは許されるものじゃない。でも、君達だって虐殺なんて望んでないんだろ?」
 ヴァルキュリア達の動きが止まる。明らかに殺気が薄れてゆくのが見て取れた。
「こちらにつけとまでは言わない。非力な僕が言っても通じないのかもしれない。でも……せめて、ここは退いてほしい」
「……」
 鎌を握り直し、注意深く成り行きを見守るアイリス。
 暫くの沈黙を経て。
 ヴァルキュリア達は互いに頷き合った。彼方の真摯な説得が受け入れられたのだ。
 小柄なヴァルキュリアが進み出て一同に何か語りかけようとしたが、かぶりを振って口を噤んだ。
 そして、ヴァルキュリア達は先の1体とは別の方向へと飛び去っていき、戦闘は全てのヴァルキュリアの撤退という形で終結するのだった。
 遠ざかってゆくヴァルキュリア達を見つめながら、丈志と誠人はその行く末を案じた。
「あいつら、これからどうするつもりなんだろうな……」
「成すべきことを見出してくれれば良いのですが……」
 寒風が一同の間を吹き抜け、戦いの余熱を冷ましてゆく。
 彼方はレオナルドに改めて礼を述べ、もっと強くなることを心に誓うのだった。
「次はもっとまともな戦場で遭えることを願うよ……」
 累がぽつりと呟いた。ヴァルキュリア達の姿はもう見えない。周りに目をやれば、人的被害は最小限に抑えられたものの、住宅街には半壊した家屋が点在している。
「さて、壊れた箇所のヒールに取り掛かるか」
「だったら俺も手伝いますよ」
 レオナルドが累の背中を追い、他の仲間達も続いて戦場を後にするのだった。

作者:舎里八 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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