シャイターン襲撃~青と赤の序曲

作者:成瀬

●流れる血、流す赤
 今日あったものが、明日もあるとは限らない。愛する人の笑顔も手の温もりも、喪失はいつだって前触れもなくやって来る。
 稲城市に突如として現れた魔空回廊から降り立ったヴァルキュリアが、光の翼を広げ、3体ずつ分かれると4方向へ散って行った。虐げ殺し奪い取る。人々を虐殺する。ただそれだけの為に。
 そのうちの一方向、住宅街に3体のヴァルキュリアがふわりと舞い降りる。
 ちょうどのその時通りかかったのは一組の親子。母親はもう若くはない。年をとってからようやく授かったのだろう。子供の小さな手を、しっかりと繋いでいる。
「ねぇ、ママ。見て。すごいね。とってもきれい!」
 赤髪のヴァルキュリアが前に進み出て、静かに槍を構えた。
「何を……っ、駄目、止めて! この子は、この子だけは……!」
 青みがかった氷が槍を包み、容赦無く繰り出された一撃が母と子の身体を貫く。何が起こったのかも分からない様子で、子供は目を見開き倒れ込んだ。母親の絶叫、けれど幸いそれは長くは続かない。後ろに控えた二人のヴァルキュリアが長剣を振るいトドメをさすと、流れ出る血の海で、母も果てた。這いずりながら伸ばした手は、我が子には届かない。
 泣いているのだろうか。ヴァルキュリアの頬を涙が濡らしていく。しかしその色は、鮮やかな赤色。

●迫り来る新たな危機
「エインヘリアルに大きな動きがありました」
 城ヶ島のドラゴン勢力との戦いもまだ終わってはいないが、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が緊張した面持ちで話し始める。
「第一王子ザイフリートの失脚を受けて、新たな王子が地球へ侵攻してきたようです。エインヘリアルの目的はグラビティ・チェインを得ること。その為に、ザイフリート配下のヴァルキュリアを何らかの方法で強制的に従え、魔空回廊を使って人間達を虐殺しようとしている。……許されることではありません」
 戦いが始まればケルベロスたちも傷を負うことになるかもしれない。それでもこの地球を、人々を守って欲しいとセリカは強い意思を持って続けた。
「皆さんに向かって欲しいのは、東京都稲城市となります。ヴァルキュリアを従えているのはシャイターン、妖精八種族の一つです。都市で暴れるヴァルキュリアと戦いつつ、シャイターンを倒す必要があります」
 続いてセリカは集まったケルベロス達へ担当して欲しいことを伝える。
「今回はヴァルキュリアとの戦闘をお願いします。ヴァルキュリアは住民を虐殺しグラビティ・チェインを奪おうとしていますが、皆さんが戦いを仕掛ければ住人に刃が向くことはないでしょう。どうやら、邪魔者の排除を優先命令として受けているようです」
 ヴァルキュリアは完全に洗脳されており、都市に留まるシャイターンがいる限りケルベロス達を殺すことに何のためらいもない。だがシャイターンと戦う他のケルベロスがシャイターン撃破に成功したなら、その時はもしかしたら隙が生まれるかもしれない。今の時点で憶測に過ぎないけれどと口元に手を当ててセリカは説明する。
「操られ戦いを強制されているなんて可哀想だとは思います。でも、私達が黙って見ていたら……。すみません。皆さん思うところもあるでしょうが、戦う覚悟をもってヴァルキュリアを撃破してください」
 戦いに必要な情報をセリカは丁寧に話していく。ヴァルキュリアは全部で3体。赤髪は前に出て槍を使っての突撃、そして氷をまとった槍での攻撃は一人だけでなく傍にいる者も巻き込むだろう。それだけでなく、仲間を回復し鼓舞する力も備えている。他の2体はゾディアックソードを片手に持ち攻撃して来る。中でも銀髪の1体は狙いを定めるのを得意とし、金髪の1体は様々な効果を同時に与えられるよう位置取りするだろう。
「確かなことはいえませんが、状況次第では更にもう1体のヴァルキュリアが援軍として加わる可能性があります。注意してください」
 必要な情報を話し終え、セリカは胸の前でぎゅっと手を握りしめる。
「地球にまた新たな危機が迫っています。でも誰が来ようと関係ない。地球を彼らの好きにはさせません。……私は戦いに参加することは出来ませんが、此処で皆さんのお帰りをお待ちしています。待っていますから。だからどうか、ご無事で」


参加者
クオン・テンペスト(黒炎天使・e00165)
リシア・アルトカーシャ(オラトリオのウィッチドクター・e00500)
シェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122)
難駄芭・ナナコ(南国黄金果実体験・e02032)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)
ディートリンデ・アーヴェント(凶月のネヴァン・e16595)
徒雁・テスポカ(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e21458)

■リプレイ

●稲城市到着
 ケルベルスたち八人が向かうのは東京都稲城市。
 昨日そうだったようにいつもと変わらない日々が始まり過ぎていく。そのはずだった。しかし。今日は色が、違う。
 命令を受けた三体のヴァルキュリアたちは翼を広げそれぞれの武器を手にして住民を襲い、迷うことなく刃を振るう。殺す殺す、殺す。ただその為に。老いも若きも男も女も、目についた人間を区別無く差別無く平等に切り刻み命を奪っていく。流れる音は悲鳴に悲鳴、血の鮮やか過ぎる赤が添えられたとしても、音楽と呼ぶには品がない。戦乙女たちの瞳からは赤い雫が零れ落ちて頬を濡らしていた。意思に反して人を殺す。操られ戦いを強制されることへの抵抗か、それとも哀しみなのだろうか。
「気に入らんな……自分の意志で動けないものと戦う趣味はない」
「悪趣味ってのは全面的に同意するぜ、テンペスト。関係ねえ人たちにまで手を下そうってのは虫唾が走る」
 他のケルベロスたちと共に戦場に到着したクオン・テンペスト(黒炎天使・e00165)の呟きを外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)の耳が拾い上げ同感だと小さく頷く。
(「お家騒動に巻き込まれた感じがしねえでもねえが」)
 咒八は自分の肩に手を当て解すようにして軽く動かした。気怠げではあるが何処へ行け、誰と戦えと誰に強いられたわけでもない。今此処にいるのは他でもない咒八の意思だ。やれやれと零してみると、隣にいたリシア・アルトカーシャ(オラトリオのウィッチドクター・e00500)の青い瞳と視線が合う。リシアは少しも非難しなかった。一見するとやる気のなさそうなポーズであっても、芯にある咒八の意外な面倒見の良さを何となく感じ取ってのことかもしれない。
「無理矢理戦わされるのは可哀想なのです……」
 魔道書を持つ手に自然と力がこもる。リシアは思いを強く持ち、予め決めておいた位置についた。
「恐らくこれは防戦に重きをおいた長期戦になる。泥臭い戦いも覚悟しておかねば。しかし……」
 戦乙女たちよ、とシェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122)は重々しく口を開く。
「今迄何度も刃を交えてきたが、お前達が無意味に力無きものにその切っ先を向けてきたことは無かったはずだ。それこそが、お前達の誇りだったのだろう」
 それが何故と、苦々しい気持ちをシェリアクは息に乗せて吐き出す。
(「あー、足りない。足りなくなりそうだ。もしかしてもう足りないかもしれないぜ……」)
 一般人の保護と避難。大切な二つの事柄を考えながらも難駄芭・ナナコ(南国黄金果実体験・e02032)は喉の渇きにも似た、或いはそれ以上に苦しいものを感じていた。たった一つ、されど一つ。熟れて甘い匂いのするアレを、黄色くて艶やかな皮に包まれたアレを。そう、あの果実を。全て終わったらバナナでパーティーだ。バナナ。その短い単語を心の内で言うだけで力が溢れて来る気がした。
「あっちの方が片付くまでは、苛めすぎないようにしなくちゃね」
「あぁ。隙が出来れば、もしかしたら説得出来るかもしれない。無用な戦いは避けるべきだ」
 一つ、二つ、三つ。ディートリンデ・アーヴェント(凶月のネヴァン・e16595)が細い指を向けて数えるのは無機物ではなく、ディートリンデと同じように生きる者、ヴァルキュリアだ。作戦としてはシャイターン撃破までなるべくヴァルキュリアたちを倒さない、と決めている。仲間として同行した徒雁・テスポカ(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e21458)もそれは同じだ。助けられる命なら助けたい。
(「……頼むぞ」)
 声無き想いを放つよう空を見上げる。何があろうとも常に凪いだ心を。そうあるべきだと、テスポカは思う。しかし心が騒ぐ。そんな感覚に、そっと片手を持ち上げ胸元へ押し当てた。
 
●青き殺意
「いつ来るかわからないからね。用心はしておかなくちゃ」
 来る、来ない。今の時点で援軍については分からない。 しかし危機として可能性があるのなら、頭に留めておかなくては。アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)は辺りを警戒し、もしもの事態に備え対応出来るように心がけた。それが瞳に映るものを、大切なものを守ることに繋がるのかもしれないと。
 ケルベロスたちはそれぞれのポジションにつき、武器を構える。
「上等! 此処までは聞いてた通り。始まっちゃえばこっちのもんだぜ」 
 ヴァルキュリアたちは無表情で武器を振るうのを止め、住民を襲うのを止めた。襲撃よりも障害の排除を優先として受けている。事前に聞いている情報と違いない。ナナコも口角を上げて戦いに挑む。初手を取り敵味方含めて一番先に動くと、中衛に位置取り金の髪を持つヴァルキュリアに狙いを定める。
「よっと。……いっけー!」
 星辰の力を宿した長剣を素早く二度振るい、十字を描き斬撃を叩き込む。金糸の髪、その毛先が斬られて散り、ノイズが混じったようにヴァルキュリアの動きが鈍くなったのをナナコは感じた。
 戦場で翼を持つのはヴァルキュリアばかりではない。四対の翼を持つ天使は抑揚の少ない声で僅かに空気を震わせた。翼ばかりでなく腕も目も、左側だけ地獄化して漆黒の炎を吹き上げている。
「避けられるなら避けてみせろ……」
 両の手に持ったクオンの斬霊刀が八の方向に振るわれる。一度だけで終わりはしない。此処だというタイミングを見極めその通りに手に力を通すと、攻撃は自然と連撃となって戦乙女の体力を確実に奪った。刀を持ったまま、手の甲を左目に押し当てる。僅かに疼くように感じたのは、何かを求めているように感じたのは、単なる戦の高揚感ゆえか、――それとも。
 ヴァルキュリアからも容赦の無い攻撃が始まる。前に進み出た赤い髪の一体は細いながらも長い槍を構え、氷をまとってクオンへ突撃を仕掛ける。
「貴様らは戦いの意味も理由も持ってはいない。無駄で無意味で空虚な戦と、その身を持って知れ」
 少し後ろへ控えていた金髪のヴァルキュリアはその行動に次いで即座に攻撃に移り、剣先に星座のオーラを作り出しアニーへ飛ばした。
「そうだね。この戦い……やりたくてやってるわけじゃないんだ。そうでしょう? だったら助ける。助けたいんだ!」
 両腕で顔を庇い、痛みを堪えながらアニーが声を上げる。
「これで少しは楽になるといいんだけどな」
 戦いが進み仲間の何人かが身体に異常を感じるようになると、アニーは前衛を中心に回復効果を持った薬剤を辺りに降らせる。身体的な傷を癒し全てではないが異常状態の幾つかを取り除くことに成功した。
「私も助けたい。お願い、みんなを守ってっ!」
 回復役を担うのはもう一人の天使。四枚翼が少しくらい傷つこうとも、戦うを止めはしない。守りたいと願う心はそう簡単に折れはしないのだから。リシアの魔道書が風もないのに開かれ、クオンと咒八、アニーの傷を回復する。
「折角綺麗な顔してるのに血の涙なんて流しちゃってさー。どっかーーーん!!」
 弓を手にしたディートリンデが漆黒の巨大な矢を放った。
「戦乙女でしょ? もっと毅然としなよ」
 空気を切り裂き飛んで行った矢は狙い通り、金髪のヴァルキュリアに命中する。正確な狙いの為か、通常の一撃より傷は深いようだ。
 ケルベロスたちの悲痛な声はヴァルキュリアたちに届いているのかどうか。それは定かではないが、血の涙を流しながらも未だ一体も倒れる気配はなく攻撃は続けられている。
 不意に、殺意を込めた眼差しがナナコへ向けられた。後方から放たれた星座のオーラに襲われるが、ぐっとその場に踏み留まる。
「これが終わったら、アタイ……バナナでお祝いするんだ」
 一番後ろに陣取った銀髪のヴァルキュリアは地面に守護星座を描き、前衛の仲間の痛みを和らげ異常状態への耐性をつけた。
「回復で来るか。この程度は我も予想済みだ。しかしこちらは……喜ぶべき幸運といえる」
 赤髪のヴァルキュリアがくるりと自分の方へ顔を向け、ぴたりと視線を固定し攻撃対象として選ばれたのにシェリアクは気付く。同じくテスポカも気付いた様子だ。一度の攻撃では望む結果を得られなかったが、方針を変えず攻撃を続けていたのが良い方向へと導いたようだ。ちらとシェリアクが前方へ視線を向けると、咒八が赤髪の一体に付けられた耐性を打ち砕くべく身に宿したグラビティ・チェインを叩き込んでいた。
「ったく、めんどくせえ」
「そう言いながらも結果は出すんだろう。困ったものだ。褒め言葉は何と贈ろうか」
「……何か言ったか?」
「いいや。俺は何も」
 口元に片手を当てて、芝居がかった仕草でテスポカがそう応じた。

●赤き想い
 気を引かれた赤髪のヴァルキュリアはテスポカやシェリアクへ攻撃を仕掛けようと、他のケルベロスには目もくれず槍を構え直す。槍が光で包まれるが、二人へは距離があるせいで攻撃はそちらまで届かない。
「作戦が役に立ったな。無駄ではなかった」
「無駄どころか、これが解放に至る一手となる。束縛という業から解き放ってやるとしよう」
 安堵してテスポカが言うと、傍にいたシェリアクの黒椿が小さく主に合わせ揺れる。
「ディートリンデさん、いま回復しますね。ちょっとだけ待っててください……!」
 後方からの回復支援にまわっていたリシアはディートリンデに声をかけ、ウィッチオペレーションで傷を大幅に回復させる。
「あれ、ほんとだ。あんまり痛くなくなっちゃったよー」
「えっと、すみません。大丈夫でしたか」
「大丈夫大丈夫。まだ動けるなーって。それだけ。ははっ、ありがとうってことだよ。……うん?」
 大きく腕を振ってディートリンデが答える。何か異変に気付いたようだ。
「見て見て。仲間と遊んじゃってる。飽きちゃったのかな。何か顔色も悪いねー」
 あははっとディートリンデは高い笑い声を響かせるが、他の仲間もヴァルキュリアたちの様子がおかしいことに気付いた。時々ではあるが自分を攻撃したり、敵であるケルベロスたちの傷を癒している。
「声が聞こえてるのかな。うん、誰だって人殺しなんかしたくないんだ。ねぇ、もう止めて。……お願い」
 目の奥がつんと痛くなって、アニーの視界が急速にぼやけてくる。洗脳され命令され、人の命を奪う為だけに力を使うヴァルキュリアの気持ちを思うと、悲しくて痛くて苦しい。今にも溢れそうになる涙を堪えるが、声が震えてうまく言えない。
「アタイたちはアンタたちを助けに来たんだぜ!」
 ナナコも大きく声をかけて説得にまわる。長剣とエアシューズを飾るバナナがきらりと光る。大好きなバナナのデコレーションをしたナナコの特注品だ。触れるとそれだけで気分が高揚する。
 どうやら今回は新しい増援はなさそうだ。ずっと警戒していたアニーはそれを仲間たちにも伝える。
 壁役となっていたテスポカのサーヴァントがクオンとヴァルキュリアの間に素早く入り、代わりに攻撃を受け止めた。
「私達はこんなことを望んでなどいない……!」
「目を覚ませ。この痛みは現実だ。もうこんな戦いはやめなくては!」
 封じられていた意識を取り戻したヴァルキュリアはしっかりとした声で仲間に叫び、戦いを何とか止めさせようとするが一分もすればまた元の無表情に戻り武器をとって戦いに戻ってしまう。洗脳は根深く強固なようだ。
「貴様らはザイフリートの為に動いていたのだろう?」
「お前らの主は本当にそのシャイターンとやらか? ザイフリートのことを忘れてていいのかよ」
「そうそう。王子サマだってどっかで救助されてるだろうし。ねぇ、わかってる? 君達も保護対象なんだよ」
 一人では小さな声も、束ねれば力となる。咒八とディートリンデ、クオンもザイフリートの名前を出してヴァルキュリアたちを説得する。
「一般人を虐殺させるわけにはいかん。それが真の望みでないのなら尚更、ここで止めさせてもらうぞ……」
 確実に揺れている。強く捕らわれていた意識が取り戻されようとしていると、クオンは感じた。
「抗うのだ」
 低く重みのある声が、シェリアクの口から短く発せられる。
「誇りを汚そうとする者たちがいるのなら、抗うのだ。それが相対するものとして、我らがお前達に望む意思だ」
 黒色の髪に隠れていた深い紫色の瞳が、ほんの一瞬だけヴァルキュリアたちを静かに射抜く。
「投降するんだな、戦乙女たちよ。自らの間違いに気付いたんだろう。今ならまだ間に合う。こんな戦いを続けたって得るものはない。お互い辛いだけだ」
 気持ちのこもったケルベロスたちの説得を受けて、三体のヴァルキュリアたちは混乱する。もはやそれは、脅威とは呼べない。
 テスポカは正論を掲げて軸とし、懸命に説得を続けた。何かに気付いたように青い眼を細めると、右手をそっと持ち上げ、誰かの目元を拭うよう指先を揺らす。
「だから――もう、泣くな」

●帰還
 金の髪を持つヴァルキュリアは説得によって自我を取り戻し、それ以上ケルベロスたちを傷つけることなく武器を収めた。傷付いた身体のままで妖精の翼を使い、戦いから離脱し飛び去ってしまう。
 残る二体も長くは戦わず、まるで別な命令を受けたように空の一点へ顔を向け沈黙する。かと思えば突如として翼を広げて舞い上がり、無言で何処かへ撤退してしまった。けれど、金髪のヴァルキュリアが飛び去った方向とは方向が違う。
 三体のヴァルキュリアの姿が完全に見えなくなってしまうと、誰かの溜息が一つ、二つ。仲間は皆傷付いてはいるが、自力で帰還が難しいほど重傷を負った者はいないようだ。クオンはそれを確認すると、自分の役目は果たされたと靴音も静かに戦場から立ち去る。
「皆さん、お疲れ様でした。傷の具合はどうですか」
 共に戦った仲間へ敬意を込めてリシアはぺこりと頭を下げ、怪我の具合を確かめ皆を気遣う。
「よーっし! ここは大成功だな! バナナでお祝いだぜぇ!」
「バナナパーティーですか。それは楽しそうですね。何だかボクも食べたくなってきました」
 控え目にしていたバナナ力を思う存分発揮してナナコはぐっと拳を握りしめた。戦いで緊張していたリシアも肩の力を抜き、ふふと柔らかく笑う。
 危うい場面もあったが依頼は無事成功し、出発した時と同じく誰が欠けることもなく帰還を迎えることが出来た。
「その赤い涙は戦士には似合うまい、その手で拭えるようにするが良い。助力が必要だというなら求めよ」 
 皆が戦場から去り一人最後に振り返ったのはシェリアク。ここにはいない戦乙女へ、例え届かなくても手向けの言葉を。
(「……はて我はなんでこんな英雄じみたことをしているのか」)
 言ってしまってから、首を傾いだ。おかしい、こんなはずでは。
 しかしながらこれもまた確かに、一つの英雄譚。

作者:成瀬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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