神奈川県相模原市。神奈川県と東京都の境にあるこの都市の上空に、魔空回廊が出現した。
そこから現れたのは、妖精の一種族であるシャイターンと、16体のヴァルキュリア。ヴァリキュリアたちは3体ずつに分かれ、それぞれの目的地へと向かう。
相模原市の住宅街に、大きな病院がある。市内でも屈指の規模を誇るこの病院の前で、惨劇が繰り広げられていた。
突如飛来した3体のヴァルキュリアが、周辺にいる人間を殺し始めたのだ。老人が腹部を槍で貫かれ、妊婦が背後から切り捨てられ、殺されていく。
病院にやってくる人の中には、思うように逃げられない者も多い。逃げ遅れた人々の血が、病院前の広場を染めていく。
無表情で人々を殺戮しながら、ヴァルキュリアは血の涙を流していた。2体は槍を手に、残り1体はソードを持っている。ソードを持ったヴァルキュリアは、小柄で手足も細い。漆黒の長い髪を振り乱し、人々を殺している。
ヴァルキュリアによる阿鼻叫喚の殺戮劇が、繰り広げられていた。
「たいへんです!」
笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003) が、息せき切ってケルベロスたちのもとにやってきた。
「城ヶ島のドラゴンとの戦いもたいへんなところですが、エインヘリアルにも大きな動きがあったみたいです。第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球に攻めてきます!」
エインヘリアルは、ザイフリート配下であったヴァルキュリアをなんらかの方法で強制的に従え、魔空回廊を利用して人間達を虐殺し、グラビティ・チェインを得ようと画策しているらしい。
「皆さんには、神奈川県の相模原市に行ってほしいのです。そこで、ヴァルキュリアがたくさんの人を殺そうとしています」
悲しげな声で、ねむは言う。
「ヴァルキュリアは、妖精八種族の一つシャイターンに従っているそうです。ヴァルキュリアに立ち向かいながら、シャイターンを倒さないといけません!」
ねむはそう言って、ケルベロスたちを見つめる。
「皆さんには、病院の前にやってくるヴァルキュリアと戦ってほしいのです。ヴァルキュリアはそこで、病院に来た人をねらっています」
ヴァルキュリアは住民を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとしているが、邪魔する者が出た場合は、その邪魔者の排除を優先して行うように命令されているらしい。
つまり、ケルベロスがヴァルキュリアに戦いを挑めば、ヴァルキュリアが住民を襲うことは無いだろう。
「でも、ヴァルキュリアはシャイターンに洗脳されているそうで、シャイターンがいるうちは、迷わずケルベロスを殺そうとするみたいです。シャイターンを別の班が倒してくれたら、隙ができるんでしょうか?」
そう言って首を傾げるねむ。確かなことは、今はわからない。
「ヴァルキュリアは操られているのでちょっとかわいそうですが、負けてしまうと、ヴァルキュリアが人を殺しちゃいます。そんなことがないように、心を鬼にしてヴァルキュリアを倒してください」
そう言って、ねむはヴァルキュリアの説明を始める。
「ヴァルキュリアは3体です。2体が槍、もう1体がソードを持っているみたいですね。ソードを持ってる人は小さいですけど、弱いわけじゃないみたいです。もしかしたら、もう1体援軍が来るかもしれないので、気をつけてください」
ねむはそう言って、立ち上がった。
「シャイターンの力は未知数ですが、ヴァルキュリアを使って人を殺すなんて、許してはいけません。ヴァルキュリアを倒して、相模原の人を助けてください!」
そう懇願するねむに、ケルベロスたちは力強く頷いた。
参加者 | |
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ルナ・リトルバーン(見敵必殺・e00429) |
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552) |
立花・恵(カゼの如く・e01060) |
古海・公子(地球人のウィッチドクター・e03253) |
真夏月・牙羅(ドラゴニアンの巫術士・e04910) |
丸口・真澄(おーいすみマル・e08277) |
八神・楓(烈火のガッ・e10139) |
志臥・静(生は難し・e13388) |
●戦乙女
神奈川県相模原市の上空を、へリオンが行く。搭乗しているのは、8人のケルベロスたち。
「病院を襲わせるというのも、倒す理由には充分過ぎますが……」
古海・公子(地球人のウィッチドクター・e03253)の言葉には、怒気が入り混じる。
「その上に、魔力だかなんだかで、望まぬ殺戮を強いるというのは、全くもって気に入りませんね!」
日頃の柔和な表情には似つかわしくない、激しい口調。その言葉に、丸口・真澄(おーいすみマル・e08277)が頷く。
「血の涙を流すとか穏やかじゃねーな」
ルナ・リトルバーン(見敵必殺・e00429)が呟く横では、真夏月・牙羅(ドラゴニアンの巫術士・e04910)が厳しい表情を浮かべていた。
やがてへリオンは、目的地に到着。ケルベロスは次々と降下していく。
そのとき、病院前の広場では、惨劇が起きようとしていた。逃げ遅れた妊婦に、ヴァルキュリアが血の涙を流しながら槍を伸ばす。その矛先が妊婦を捉えようとしたその時、割って入る1人の影。
「殺戮劇なんて起こさせません! 私たちが相手です!」
大きく手を広げ、妊婦の前に立ちはだかったのは倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)。その勢いに気圧され、ヴァルキュリアの槍が止まる。まっすぐな柚子の視線と、無表情で空虚なヴァルキュリアの視線がぶつかった。
八神・楓(烈火のガッ・e10139)もまた、ヴァルキュリアたちから逃げる病人を守りに入る。行動妨害と宣戦布告。明確な敵対行動に、ヴァルキュリアたちはケルベロスへと向き直る。その中には、剣を構え漆黒の髪をまとめた小柄なヴァルキュリアの姿もあった。
「無駄な殺し合いはしない奴だと思うんだが、シャイターンの仕業かねぇ?」
ルナがケルベロスコートを脱ぎ捨てると、その下から現れたのは侍姿。
「あん時はもっと可愛いげがあったってのに、今や見る影もねぇや。許せねぇ」
因縁あるヴァルキュリアとの再会は、幸せな形ではなく。 立花・恵(カゼの如く・e01060)は苛立ち混じりの声を上げる。
「また地球に来やがったからには……分かってんだろな?」
同じように因縁を持つ志臥・静(生は難し・e13388)は、日本刀を構えヴァルキュリアを見据える。視線の先のヴァルキュリアは、何の感情も見せない虚ろな表情。血の涙の跡が、異様な雰囲気を増幅させている。
注意がそれ、病人たちは逃げる時間を得ることができた。警察も到着し、避難が進む。
「さぁて、行きますか!」
公子が張り上げる声には、緊張の色が感じられる。戦闘の準備は整った。しかし、これから始まるのは、単に相手を倒す戦闘ではない。ヴァルキュリアを説得し、殺さずに勝つ。困難な道に、ケルベロスたちは踏み出そうとしていた。
まず動いたのは真澄。攻撃を繰り出そうとするヴァルキュリアの機先を制し、爆竹を投じた。
「あんたはそこで、止まってて」
命中した爆竹は、爆発し派手な音を立てる。その音と振動が、ヴァルキュリアの動きを封じた。制圧投擲-阻害が、見事にその効果を発揮したのだ。
「まだ回復の必要はないですね」
柚子は確認すると、縛霊手を突きだす。掌から飛び出す光弾が、ヴァルキュリアの体を捉えた。
「……ぜってぇ解放してやるからな。ちょっと痛いけど、我慢しろよ?」
恵の口調は荒々しいが、その言葉には優しさがある。銃弾に闘気を込めると、高々と跳躍した。
「彗星の光を……刻み込め!」
スターダンス・コメットスパーク。放たれた銃弾が、黒髪のヴァルキュリアに命中し、動きを奪っていく。
「本当にてめぇらに意思ってもんがあるなら」
楓の掌から飛び出すのは竜の幻影。炎が、ヴァルキュリアたちを巻き込んでいく。
「操られてねぇで自分の意思を取り戻しやがれ」
猛々しい説得の言葉を吐き、楓は微かに自嘲したように笑う。かつて、自分の意思も持てず戦っていた者として、今のヴァルキュリアの姿に何も感じないはずはない。
「前に会った奴だと思うが、操られたその姿」
ルナの言葉には、哀れみがこもる。
「流石に見るに忍びん……」
電光石火の蹴りを叩きこみながら、悲しげな視線を黒髪のヴァルキュリアに向けた。
静の日本刀は、月のような弧を描いてヴァルキュリアを切り裂く。
「きよし、俺が手加減してる敵は攻撃禁止だぞ!」
その指示に、テレビウムのきよしは頷いて、目映いフラッシュの光を向ける。ヴァルキュリアが怯んだその瞬間、動いたのは公子だった。
「虐殺を止めに来ました!」
ボタンを押すと、ヴァルキュリアの鎧につけられた見えない爆弾が一斉に炸裂する。
「夜に聞こえる、不気味な声よ、恐怖を与え、具現化せよ、正体不明の怪物よ!」
牙羅が呼び出すのは、顔は猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾は蛇の怪物。放つ電撃が、ヴァルキュリアに命中する。
ケルベロスたちの流れるような攻撃。しかし、ヴァルキュリアとてやられているばかりではない。槍を持ったヴァルキュリアが、柚子と楓に突撃する。
「うぐっ……」
思わず苦しげな息を漏らした柚子。楓も歯を食いしばって耐えるが、その息は荒くなる。
そして黒髪のヴァルキュリアは、ソードの斬撃をルナへ。勢いをつけたその一撃を、ルナはすかさず抜いた日本刀で受け止めた。
「よぉ、久しぶりだな。こんな状況で再会することになるとは思わなかったぜ」
ソードを受け止め、全力でこらえながら、ルナはヴァルキュリアに語りかける。戦乙女は反応を見せない。それでも構わず、ルナは言葉を繋ぐ。
幾度もの斬り合いが繰り返される。数と連携に勝るケルベロスではあるが、ヴァルキュリアは強敵。操られているとはいえ侮ることはできない。加えて、ケルベロスたちはヴァルキュリアを殺さないよう、追い詰めたときには手加減することを決めていた。全力を出すことができない状態で、苦しい戦いは続く。
その最中、静の持つ携帯電話がなり出した。その音を聞いて、静はチッと舌打ちをする。事前に申し合わせていた、仲間からの知らせだった。
「援軍が来るぞ! 気を抜くなよ!」
鋭い警告の言葉に、ケルベロスたちは身構える。程なくして、ヴァルキュリアがさらに1体飛来してきた。手にはソード。病院前に着陸し、戦闘態勢を整える。
戦いは、更に激しさを増していった。
●激戦と
ヴァルキュリアの繰り出す槍が、楓を狙った。
「うおっと!」
かわそうとした楓だが、避けきれない。槍は強化軍服を破り、楓の脇腹に突き刺さる。
「大丈夫か」
すかさず牙羅が小型治療無人機を飛ばし、その傷を癒やす。柚子のウイングキャット、カイロもまた、その翼の羽ばたきで傷を癒やしていく。
戦いは激しく、長い。4体のヴァルキュリアは、とても余裕を持って対峙できる相手ではない。ケルベロスたちの体には傷が刻まれていく。公子が治療に奔走し、柚子や楓も癒やしの力をフル回転させて、それでも回復しきれないダメージは蓄積されていく。
しかし一方のケルベロスも、手をこまねいていたわけではない。ケルベロスたちの攻撃の大半は、槍のヴァルキュリアの一方に集中させていた。早期に数を減らし、戦闘を有利に進めようとする冷静な動き。それは、操られてただ戦うだけのヴァルキュリアにはできない的確な戦術だ。攻撃を受け続けたヴァルキュリアもまた傷だらけとなる。
「……喝ッ!」
ルナの秘伝・藪睨み。発せられた凄まじい程の殺気が、ヴァルキュリアの判断力を奪い取った。動きが鈍くなったヴァルキュリアに、好機を逃さず、ケルベロスの波状攻撃が浴びせられる。
「この試験管に干渉できるは、この世の理と私、のみ!」
公子は高らかに宣言し、化学反応の最中にある試験管を投じた。Explosion in vitro。発生した爆発が、ヴァルキュリアの鎧を弾き飛ばす。
真澄が電光石火の蹴りを叩き込み、静は音速を超える拳。目にもとまらぬ攻撃を食らいながら、ヴァルキュリアはなおも抗おうと、槍を構えた。柚子へ向けて突進。その攻撃を柚子は受け止める。
「もういい、頼む、止めるんだ、正気を取り戻してくれ」
説得しながら、牙羅は御業を動かす。ヴァルキュリアを鷲づかみにし、呼び込むのは恵の攻撃。愛用の銃のグリップでヴァルキュリアを殴打すると、ヴァルキュリアはほぼ意識を失った状態で、フラフラと飛び去っていく。
追いかけようとする動きは、残る3体に阻まれた。無理に追いかけることもできない。捕縛には失敗したが、ともかくもヴァルキュリアを殺すことなく、数を減らしたのは大きな戦果だった。
「これが私の万能薬です」
柚子は、サキュバスミストを濃厚にした恋愛色塗料を口にし、自らの傷を癒やしていく。傷が消えたのを確認し、ソードのヴァルキュリアへと向き直った。
1体を削ったのは大きいが、それで一気に戦況が変わるほど、ヴァルキュリアも簡単な相手ではない。牙羅に、星座の力を宿した斬撃が叩き込まれ、牙羅はたまらず膝をついた。
「契約の下……白き雪の精霊達よ団結せよ、汝等に乞うは優しき癒しの祈り」
楓がリトルスノウ・ガーディアンズを呼び出す呪文を詠唱すると、雪だるまの精霊が現れる。
「その身で我が仲間を癒せ、清め、そして護れ、その命の限り全うせよ」
白く冷たい体が、牙羅の傷を癒やしていく。
「助かった!」
そう言って戦線に復帰する牙羅だが、癒やし切れぬ傷の存在は見た目にも明らかだ。
それでも、ケルベロスは止まらない。援軍として現れたソードのヴァルキュリアに、ルナがグラビティの力をこめた日本刀を叩きつける。柚子が強烈な回し蹴りを見舞うと、周囲に暴風が巻き起こった。恵は、天空から無数の剣を呼び出す。多数の剣の内、一般を選んで切りつけると、使った剣は虚空へ。斬撃は強烈で、ヴァルキュリアの体が揺れる。
好機と、牙羅がヴァルキュリアに向かう。その攻撃は鋭いが、倒すことを意図はしていない。命を救うコントロールされた一撃。
しかし、牙羅が攻撃を繰り出したのと同じ瞬間、ヴァルキュリアもまた星座のオーラを打ち出していた。交差する両者の攻撃。一瞬の閃光のあと、倒れていたのは牙羅だった。牙羅の攻撃は、僅かにヴァルキュリアに届かない。
ケルベロス側にも戦闘不能者が出たことで、戦況は一気に混沌を増す。双方の攻撃が繰り出され、さらなる傷が蓄積されていく。真澄が倒れ、ダメージを受け続けた柚子も限界を迎える。静も強烈な一撃を受け、膝をつきかけたそのとき、携帯電話が鳴った。
「遅えよ」
静は憎まれ口を叩きながら、僅かに笑う。彼が、橙色の髪のウェアライダーを思い浮かべたとき、ヴァルキュリアに異変が起こった。
●説得の行方
槍を手に、静にとどめを刺そうと歩み寄るヴァルキュリア。その背中が、突然斬られた。
「やめなさい! こんな戦いは……間違っています!」
言ったのは、黒髪のヴァルキュリアだった。斬られた槍のヴァルキュリアは、突然のことに呆然としていたが、その瞳に光が戻り、そして自らの腹を槍で突く。明らかに混乱している様子だ。
「漸くお目覚めか、黒髪! 俺はお前の答えを聞きに来た。殺してやりたいのは、誰だ?」
静が問いかける。先ほどの音は、シャイターン撃退の知らせ。操る者がいなくなり、ヴァルキュリアの状況に変化が生じたのは明らかだ。
「おまえの勇者は見つかったか? 見つかるまであきらめるんじゃねーぞ」
ルナが声をかける。説得は、このタイミングをおいて他にない。
「気付いているでしょうけれど、もう貴女達に指示を出していたシャイターンは倒れました」
柚子が言葉を紡ぐ。
「貴女達は何のために今ここで戦っているのですか?」
その問いかけに、黒髪のヴァルキュリアは再びソードを振り上げる。表情も無表情に戻った。どうやら、完全に洗脳が解けたわけではないようだ。
斬りかかってくるヴァルキュリアに、楓が割って入る。その剣を体でうけとめ、そして、ヴァルキュリアを抱きしめた。
「楓!」
無茶な行動に、ルナが思わず叫んだ。
「俺はおめぇさん等がどうなろうとどうでもいいが、ね……他は、あんた等護りたいんだとさ、話位聞いてやってくれよ」
そう言って、仲間たちの方を見る。
「どうせ戦うなら本当のあんた等とがいいし、ね」
放された黒髪のヴァルキュリアは、再び理性ある瞳を取り戻していた。
「貴方たちは、シャイターンに操られていました。私たち、ケルベロスはただ一方的な敵ではありません」
公子は熱く説明する。
「本当の目的を思い出してくれ。勇者を探す役目は、こんなことじゃあ達せないんじゃないのか?」
恵は優しく語りかけた。
「あん時呟いたお前の言葉、俺は覚えてる」
しっかりと視線を合わせる。ヴァルキュリアの瞳が、迷いに揺れているのが見てとれた。
「ザイフリートは、いまなお存命です!」
「他の仲間が救出に向かっている」
公子の言葉に、ルナが付け加える。
「まだお前の口から、ここの言葉を聞いてないぜ。誰の為でもいい、お前の意志を言葉にしろ」
静はそう言いながら、胸を親指で叩く。胸を叩く音が、心を叩く音が聞こえた気がした。
「どの道も地獄なら、自分の意志で戦う未知を選べ。お前達にとっては尊かろう、全てを捧げても本望だろう、その存在はお前達の意志まで奪うのか?」
「私、は……」
ヴァルキュリアは頭を押さえる。困惑、混乱、動揺。それらが混じり合った仕草だ。恵は、ヴァルキュリアに手を差し伸べた。
「もしなれるんなら、俺が、あんたらの勇者になってやる!」
ヴァルキュリアはその言葉に、恵の方に歩み出て、右手を伸ばし。
恵の手を取りかけたその手を、そっと元に戻した。
「……ごめんなさい、あなたたちの所には、行けません」
その言葉には、それまでとは違う決断の響きがあった。
説得することはできなかった。足りなかったのは、戦略か、説得か、運か、それともその全てか。確かに言えることは、ケルベロスたちの説得はヴァルキュリアを動かすのに、僅かに届かなかったということだ。
黒髪のヴァルキュリアは、踵を返す。生き残ったヴァルキュリアもそれにならい、戦場と化した病院前を去って行く。
「帰る前に、とりあえず名前を聞かせてくれよ」
ルナのその言葉に、ヴァルキュリアは歩を止め。
「……ミリアス」
消え入りそうな声で、そう答えた。
●戦後
戦いは終わった。幸い戦闘不能者も回復は可能で、民間人も含め、犠牲者は出なかった。公子は安堵の息を漏らす。恵はヴァルキュリアの消えていった空を、じっと見ていた。
「無駄足だったな、とっと帰るか」
そう言って帰って行った静の心境は、誰も知らない。
「しかし今度からはシャイターンとやり合わなければならんのか」
ルナは呟いて、憂鬱そうな表情になる。
苦い思いを抱きつつも、ケルベロスたちは病院と街を守ったのだった。
作者:佐枝和人 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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