狂いし怒りを起こす魚

作者:幾夜緋琉

●狂いし怒りを起こす魚
 大阪府は寝屋川市、その市街地の一角。
 時刻は夜、陽の光もすっかり落ちて、点在する街灯だけが、道を照らす。
 そんな薄暗い市街地の、とある交差点。
 人気の無い中、そこに現われたのは……体長2m程の、浮遊する怪魚。
 そこがまるで海かの様に、ゆらゆらと怪魚は交差点を、青白く発光しながら泳ぎ回る。
 ……そして、その怪魚の泳いだ、青白い軌跡は、まるで魔法陣の様に空中に浮かび上がる。
 すると、その中心に現われるのは、オーク。
 しかしその姿は、今まで見てきたオークとは違い、その目に潜むは狂気、そして背中に映えた触手はうねうねと、うごめいている。
 そして、オークは怪魚と共に、夜の街中を、うごめき始めた。
 
「みんな、集まってくれたみたいだね? それじゃ説明を始めるね!」
 笹島・ねむが、元気良く挨拶をしながら、今回の事件についての説明を始める。
「今回皆に向かってもらうのは、大阪府は寝屋川市。ここで死神の活動が確認されたんだよ!」
「死神とは言っても、これはかなり下級の死神の様で、浮遊する怪魚の様な姿をした、知性を持たないタイプの死神なんだ」
「で、この怪魚型死神は、第二次侵略期以前に、地球で死亡したデウスエクスを変異強化した上でサルベージ、そして戦力として持ち帰ろうとしているみたいなんだ。これはデウスエクスをサルベージする事で戦力を増やそうとしているのかもね?」
「でも、それを見逃す事なんて出来ない。だからそれを防ぐ為に、彼等の出現ポイントへと急いで欲しいんだよ!」
 そこまで言うと、ねむは続けて詳細な状況説明へ。
「皆が相手にするのは、怪魚が三匹、そしてオークが一匹の計四匹。でも特にこのオークは、完全に知性を失い、視界の中に映る怪魚以外の者を全て敵だとして、攻撃してくるみたい」
「オーク自身の攻撃手段はやっぱりその触手をぶんぶんと振り回しての攻撃だね。その攻撃力は、かなり高いので注意して欲しい」
「又、それ以外に周りに居る怪魚達は、近づいて噛み付いての攻撃を行うみたいなんだ。個々の戦闘能力はそこまで高くは無いんだけど、数が三体居るから、ちょっと面倒な相手だね」
「ちなみに、彼等が現われるのは交差点。幸い周りには避難勧告が出ているので、一般人に被害が及ぶことは無いと思う。でも市街地だから、周りの家々に被害が無い様にしてね?」
 そして、ねむは。
「死んだデウスエクスを復活させて、更なる悪事を働かせようとする死神の戦略、許せないよね! みんなの力で、怪魚達とオークをしっかりと倒してきてね!」
 と、皆を送り出すのであった。


参加者
リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)
ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)
上月・紫緒(狂愛葬奏・e01167)
五代・士(砕く拳と薙ぎ撃つ銃・e04333)
天野・司(陽炎・e11511)
アシュレイ・クラウディ(朱の瞳に刻まれた追憶の咎・e12781)
紅・風虎(魔拳・e16663)

■リプレイ

●死に向かう
 大阪府寝屋川市、日の光もすっかり墜ちた深夜の刻。
 街灯のみが路を照らす、市街地の交差点において、体長2m程の浮揚する怪魚が、形作るオーク。
 狂いしオークが、周囲の市民や、町並みを暴れてぶち壊しにしてしまうという話……ねむから聞いたケルベロス達は、そんな深夜の寝屋川市のとある交差点へと向かっていた。
「しかし……全く、厄介な話であるな」
「そうだね。わざわざ大阪くんだりまで脚運ばせやがって……海の女としちゃあ気に入らないね。この魚もどきどもはさ」
 アスベル・エレティコス(残響・e03644)とリスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)が吐き捨てる言葉。
 しかしながら、このオーク達は通常のオークとは違う。
 怪魚に呼び起こされ、狂気に陥り、そして暴れ回っているのだ。
「このオーク……って、普通のオークとはちょっと違うのかな?」
 と、上月・紫緒(狂愛葬奏・e01167)が首を傾げると、五代・士(砕く拳と薙ぎ撃つ銃・e04333)、紅・風虎(魔拳・e16663)が。
「……そういや確かに。いつものオークだと、女性達をその触手で捕まえる、というのが一般的だからな」
「そうじゃな。とはいえ、そうだとしてもこのまま放置しておいても、百害あって一利もないじゃろう」
 そんな二人に、紫緒は。
「そうね。オークは女の子を襲うって聞いてたし、前の戦争の時にも見かけたけど……今回は狂気に陥ってるから、無差別と考えた方がいいかもね」
 そして天野・司(陽炎・e11511)が。
「まぁこのオークだって、生きたい望みがあって、死んで逝ったんじゃないかと思うと、なんだか可哀想になっちまう……そんな連中を玩具にするような魚野郎は気にくわねぇな……」
 と言うと共に、拳をぐっと握りしめる。そしてアシュレイ・クラウディ(朱の瞳に刻まれた追憶の咎・e12781)も加わり。
「確かにそうですね。死神の依頼は前に参加させて戴きましたが、今回は魚のような姿をしているんですね。幻想的な姿……でも、それで油断してはいけません。オークも出現している所から、なんとしても食い止めなければ……」
「ああ。デウスエクスだって、俺たちと同じで死ぬ恐怖をどっかに抱えながら襲って来るんだよな。どいつもこいつも、本音はただ生きたかっただけかもしれない。だから、戦いで加減はしなくても、貶める様な真似はしたくない。だから……コソコソと望みが断たれた連中を玩具にする死神は許せない。んでもってあのオークにも、これ以上余計な思いはさせねぇ!!」
 強い言葉を吐く司……そしてそれにアスベル、風虎も。
「そうであるな。これ以上復活させられても問題だ。早々に片付けてしまおう」
「まぁ、いつも通り片付けようか。住宅街に被害が出ないようにな」
 そんな二人の言葉に、リスティが
「ああ……ただじゃ済まさないよ!!
 と拳を振り上げる。
 そして、ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)が。
「うっしゃ、大阪やし喰い倒れた後の腹ごなしにいくでー!!」
 ガドの気合いの入った叫びと共に、ケルベロス達は、深夜の交差点へたどり着いた。

●死より生きる
 そして、到着した深夜の交差点。
 時間的というところが在るとは思うが……何処かわびしい、寂しいといった言葉がそぐう空間。
 いや、既に避難勧告が行われており、周囲の住民達もその場には居ない。
 一応アシュレイが、誰も居ないかを改めて確認……何処にも灯が付いていない事を確認しえとり、つまり今、ここはゴーストタウンにとほぼ同等。
 更に周囲の確認をした後は、できる限り街に被害がない様に、戦っても問題なさそうな所を一応目星を付ける為に、歩き回る。
 ……でも、やはりここは市街地……それにぴったりとそぐうような場所は中々見つかない。
「……難しい様だな」
 とアスベルの言葉に、アシュレイが。
「そうですね……でも、自分が慣れ親しんだ街や家が破壊されるのはとてもつらい事だと思います。出来れば……戦闘をする場所を公園や校庭などの広い場所に移動出来れば良かったのですが。公園や校庭であれば、壊れてしまってヒールをしたとしても、ちょっと変って逆に楽しめる場所になるのではないか、と考えて居たんですが……」
「うむ。まぁ仕方ないであろう。場所がないのであれば、できる限り被害を生じさせぬ様、こちらで尽力するしかないな」
 とアスベルに頷き、そして……闇の中に身を潜める。
 そして……数分後。
 ふわぁ、と闇の中に姿を現す怪魚。
 3体の怪魚は空中を遊泳し、そして……オークの姿形を闇の中に描き出すと、その闇の中の光から、オークの姿が具現化。
 具現化したオークはすぐさま。
『ウ、ウォォォ……!!』
 と、咆哮を上げて、身を伸ばす。
 そんなオークの登場と共に、ケルベロス達も、オークと怪魚を包囲するように、姿を現す。
 と、ケルベロス達の動きに、怪魚は……何か反応を返すという事も無い。
 ただただ空中に浮かび、オーク達の一歩後ろでふわふわと浮かんでいるがのみ……一方オークは。
『グゥ、ウォォオ……!!』
 と、呻き声を上げて、すぐさま前に出てきて、突撃、攻撃を仕掛けてくる。
 そんなオークの目は血走り、正気ではない事は明らか……前に前に出て、その触手をウネウネさせながら、殴打、鞭打ち、捕縛……様々な攻撃を、無差別に繰り出してくる。
 そんなオークの鋭く、素早い攻撃をディフェンダーの紫緒、司、アシュレイと彼のオルトロス、シキが、仲間達の前に立ち、ディフェンダー陣でカバーリング。
 更に後方から来る怪魚の攻撃も、確実にカバーリングするように動き回る。
 そしてオークと怪魚の攻撃が一巡すれば、ケルベロス達の攻撃開始。
「良し。んじゃ頑張っていくで!」
 と、ガドがルナティックヒールで、士にまず壊アップを付与すると、士は軽く一礼してから。
「さぁ……喰らえ」
 と履き捨て、オークに向けて左腕の改造ガトリングガンを放つ。
 その体は蜂の巣にされるが……全く堪えてなんかいない。
 そんなオークに、更にアスベル、風虎の二人も。
「さぁ、手痛い一撃をお見舞いしよう」
 と言いながら、地裂撃、マジックミサイルで後衛の怪魚たちに連携し、攻撃。
 そしてリスティは、攻撃を受けた仲間達に。
「さぁ、援護は任せな! とっとと畳んじまうよ!!」
 と、高らかな凱歌で後衛から仲間をヒーリングし、戦線維持。
 そして、ディフェンダーの紫緒、司、アシュレイ、シキが、次に動く。
「ふふ。こっちを見て。私が愛をあげるから♪」
 と、妖艶に微笑みながら支援が狂愛葬奏を怪魚の列に投げ込むと、アシュレイが斬霊斬、シキは地獄の瘴気で、怪魚へ攻撃。
 一方、司はオークの注意を惹きつけるために、デストロイブレイドで怒りを付与。
 ……そして、次のターン。
 とは言っても、オーク、怪魚の行動が何か変るという訳でもない。
 オークはともかく、無差別に触手を伸ばして攻撃、一方怪魚はヒットアンドアウェイ的に、ケルベロス達に近づいては噛みつく攻撃を繰り返すがのみ。
 とはいえ、オークは完全に正気を失っており、その攻撃は力をセーブしているというわけでもないので、強力な攻撃が続く。
 オークの攻撃は、司がメインで引き受けて、怪魚の攻撃は紫緒、アシュレイ、シキが分散して受けていく。
 そして、仲間達の回復は、一手にリスティが引き受け、常に高らかな凱歌で体力を維持。
 ……そして、残る風虎、アスベルに士の四人が、まずは死神を討伐するために攻撃していく。
 また、ガドもルナティックヒールでアスベルに壊アップを付与した後は、黄金の角槍と、マインドソードで攻撃を続けて行く。
 三体居る怪魚……感情もなく、ただ噛みついてくるだけの怪魚の攻撃は、不気味な事、この上ない。それは何処か、人形の様でもある。
 しかしながら、怪魚を生かしておくと、何が起こるかも判らない、不気味な存在でもある。
 ケルベロス達の作戦は、怪魚を先に倒し、次にオークを倒す事であり、その作戦を遂行する。
「本当、面倒な相手だ……」
「うむ。だが、怪魚を生かしておくと、何が起こるやもしれんしな」
 と士とアスベルが言葉を交わしつつ、怪魚を一閃。
 五分ほどで、やっと一匹目の怪魚を倒し、更に3分程の後二匹目。
 戦闘開始し、10分程で、全ての怪魚をたたき落すと……残るオークを、ケルベロス達で一気に包囲。
 周りを取り囲まれたオークは、ウグゥウウウ、と呻き声を上げて威嚇するも……とれる手段は、触手を振り回して攻撃するがのみ。
 それが一部、周囲の建物にも被害を与えるのだが……それを止めるのは、中々難しい。
 つまり、理性的な行動はしてこない……狂気に、狂っているから。
「ふふ……オークも死神も、デウスエクスも何もかも、私の愛を受け止めて♪」
 と微笑みながら、狂愛葬奏でオークを燃やし、ガドがクラッシャー効果での螺旋氷縛波で大ダメージを叩き込む。
 ……そんなケルベロス達の猛攻……オークは、一対多に耐えきれるわけもなく、程なく……たたき潰されていくのであった。

●忘失の未来
 ……そして、怪魚、オークが消えた後。
 完全なる静寂がその場を包み、残るは硝煙や、炎のこげた臭い。
「……終わった様ですね。被害も……何とか最小限に抑えられた……のでしょうか?」
 アシュレイが首を傾げる……まぁ、二、三軒の家のブロック塀が壊れてしまってるのは、十分許容範囲といえるだろう。
「まぁ壊れても、ヒールでファンシーながらも治せる訳だし……今の時期だから、クリスマスっぽい形で直ってくれるんじゃないかな?」
 とにっこり微笑む紫緒。
 そして壊れたところを治して、避難していた一般人達にも声をかけて、家に戻ってもらう。
 全て終わった頃には、もう朝日が昇り始める頃……。
 流石に……皆お腹も空いた。
「よっし! 働いたあとのメシはきっと美味いで! 焼肉でも焼き魚でも、なんでも食いに行こうや!!」
 ぐっと拳を握り締めるガド。
 ……大阪は食い倒れの町。
 という訳で、ケルベロス達は、朝焼けの中、繁華街へと繰り出していくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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