7メートルの進軍

作者:水城みつき


 最初はドン、という震動だった。
 地震かと思われたその揺れはゆっくりと定期的に続く。
 誰かが窓から外を見て、悲鳴を上げた。
 道を歩いていた者は上を見上げて叫んだ。
 それは、7メートルはあろうかという巨大なロボ型ダモクレス。
 大きな足で家を踏み、人を潰し、まっすぐに街の中心部へと向かう。さらなる殺戮を行うために。
 何故そんなものがいるのかはわからない。理由よりも今必要なのは。
「助けて……!」
 その悲鳴に応える何者か、だ。
 

「大変っす! 千葉県の市原市で、先の大戦末期にオラトリオによって封印されたはずの巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすっす!」
 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテは息を切らし走ってきて、話し始めた。
「復活したばかりの巨大ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインが枯渇してるっすから、戦闘力は大きく低下してるっす。
 でも、放っておくと人が多くいる場所へ移動し、多くの人間を殺戮して、グラビティ・チェインを補給してしまうっす!
 巨大ロボ型ダモクレスは力を取り戻すと、更に多くのグラビティ・チェインを略奪、体内にあるダモクレス向上でロボ型やアンドロイド型のダモクレスを量産しはじめるっす! そんなことは許せないっす!」
 ダンテの話をまとめるとこうだ。
 巨大ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインの枯渇により全体的な性能や攻撃力が減少しているが、戦闘中に1度だけ、フルパワーの攻撃を行うことができるらしい。ただ、このフルパワーの攻撃を行うと、巨大ロボ型ダモクレスも、大きなダメージを被るそうだ。
 市民には避難勧告が出されており、街は破壊されてもヒールで治せるため、ある程度街が破壊されてもいいので、確実に巨大ロボ型ダモクレスを撃破する方向で動いてほしいとのこと。
 なにせ、7メートルもある敵だ。少々街を使ってでも工夫して戦うことが必要になるかもしれない。
 ダンテの話を頷いて聞いていたユリア・フランチェスカは顎に指を当てて、微笑んだ。
「大丈夫。私たちならきっと倒せるわ。みんな、頑張りましょうね」


参加者
後藤・昌幸(鎧装騎兵・e00847)
ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)
クラウス・ロードディア(無頼剣客チンピラ系・e01920)
ゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)
桂木・京(復讐者・e03102)
灯火・ヴェルフクス(レプリカントの鎧装騎兵・e04355)
リーゼロッテ・アンジェリカ(漆黒の黒薔薇天使・e04567)
エア・イミテーション(レプリカント騎兵・e04985)

■リプレイ


 ここに来るまでに聴いていたクラシックのメロディを口ずさみながら、桂木・京(復讐者・e03102)は地上で7メートルの巨体を見上げた。
(「大人しく腐るまで封印されていればいいものを、わざわざスクラップされに這い出てくるとわな」)
 両手のリボルバー銃を確認しながら、京は仲間のケルベロスたちを見回した。
 今回の作戦は地上と高所からの二箇所からの攻撃を想定している。ビルや住宅を障害物として利用しながら、都度バッドステータスを付与していく予定だ。二箇所からの攻撃のため、レプリカントの3人はアイズフォンで仲間との連携をとることになっている。
 灯火・ヴェルフクス(レプリカントの鎧装騎兵・e04355)はアイズフォンを確認しながら、ネットで調べておいた建物の密集箇所を頭に描く。
(「居座られて前進拠点作られるまえに、早々に退場して頂きましょう……」)
「ふむぅ、なかなか斬り甲斐のある大物で御座るな」
 ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)が腕組みをして地上から感心したように呟く。
「こりゃ堅そうだなァおい。まァびびるこたァねえ、此処で片付けるぞ」
 クラウス・ロードディア(無頼剣客チンピラ系・e01920)は眼光鋭く睨みつけると、すらりと刀を抜いた。ディバイドもうむ、と頷くと刀を抜く。
 高所から迎撃をするのは後藤・昌幸(鎧装騎兵・e00847)とエア・イミテーション(レプリカント騎兵・e04985)。それを手伝うのはリーゼロッテ・アンジェリカ(漆黒の黒薔薇天使・e04567)とゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)だ。
 リーゼロッテは初任務ということで心中穏やかではないが、表情はいたって冷静だ。
「できれば、あのダモクレスの背後にまわりたい」
 昌幸の言葉にリーゼロッテはテレビウムのたまと一緒に頷いた。
「かしこまりましたわ」
 漆黒の翼を広げ、ダモクレスに気付かれぬようリーゼロッテは昌幸を運び始める。
 エアは逆にダモクレスを迎撃する位置を希望する。おう、と気軽な返事でゼルガディスはアームドフォートをがっしりつけたエアを高所へと運ぶ。
 7メートルの巨体は足元のケルベロスたちに気づいた様子もない。ただ破壊を行うために進軍し続ける。
 世界が逃げ遅れた一般人を探して走り回る。ユリア・フランチェスカ(オラトリオのウィッチドクター・en0009)がそんな世界を気遣うように声をかけた。
「広井さん、大丈夫?」
「へへ、こっちは大丈夫! 回復手伝うぜー」
「そうらやって来たで御座るよ! 皆の衆、覚悟は良いかな?」
 ディバイドの声に慌てたのはゼルガディスだ。
「まだ道に油まいてないぞ!」
 ゼルガディスは道に油を撒いてダモクレスが滑りやすくなるのを狙っていたのだが、どうやら間に合わないようだ。ちなみにバナナの皮では小さすぎる。残念だ。
 ヴェルフクスがバレットタイムで己の感覚を増幅する。京がクイックドロウでダモクレスの脚部に弾丸を放った。
 足元の異変にダモクレスが足元を見る。
「7時の方向へ、移動させてください」
 ヴェルフクスがハンドサインとアイズフォンを使って、脳裏にある地図と見比べながら指示を出す。
「こっちだ、デグの坊!」
 クラウスの挑発に乗るようにダモクレスは作戦通りビルや住宅の多い方向へと歩を進める。
 同時に昌幸とリーゼロッテはダモクレスの背後に無事陣取ることができた。
(「市街地での戦闘は久しぶりだな……後片付けが面倒だし、できるだけ建物に被害が出る前に叩き潰さんとな」)
 ミラーシェードのサングラスをすこし直すと昌幸は狙いを定める。
 先にダモクレスの頭部に向かってエアがバスタービームを放った。ダモクレスの脚が止まる。
「前方、注意を……」
 ヴェルフクスが指摘するも間に合わない。
 ダモクレスの胸部が変形展開した。出現した発射口がエアを狙う。
 アラクネのように腰部から繋がる、後方に大きな胴体と多脚足を持ち大量の銃火器を積んだエアのアームドフォートはかなり重い。飛び跳ねて移動しようとするところをダモクレスのビームに捕まった。
 吹き飛ばされ、転がるエアのまわりに漆黒の羽が舞い散る。
「我が翼の力とくと見よ! 黒翼の癒し!」
 リーゼロッテの回復が飛んだ。それだけでは足りないと見たリーゼロッテはたまにも回復を指示する。
 エアは起き上がると、アームドフォートを確認して再び構える。
 巨大な相手だ。ダメージも大きくなる。
 エアへさらに陣内からの満月にも似た光球のヒールが飛んだ。
「玉榮さん、ありがとうございます」
 これ以上の回復は必要ないと踏んだユリアが微笑みかけると、陣内は目を逸らした。
(「……オラトリオは少し苦手だ。あんなに綺麗な種族が、血や泥に塗れて戦うこともないだろうに」)
 どこか憧憬にも似た感覚。それを噛み殺し、陣内は戦場を見据える。
「……上等だ」
 エアは不敵に笑った。


「あのデグの坊の攻撃は可能な限り『斬り捨てて』やる。加減無用だ、全力でぶっ潰せ!」
 クラウスの派手な声がけに全員がタイミングをあわせる。
 某旅行記の巨人みたいに捕縛できれば、とゼルガディスが放った黒き鎖は軸足には絡みつくものの倒れるまでには至らない。それでも動きを幾らかは束縛できたようだ。
「さぁて……人型戦車は関節と後ろからってのがセオリーだが、こいつは効くかな?」
 昌幸はにやりと口の端を歪めると目の前にあるダモクレスの後頭部に向かって特注品の愛銃を目にも留まらぬ速さで撃ちこむ。部位狙いが確実にできるのはスナイパーの特権だ。
 ダモクレスの体が前へと傾ぎ、背後を向こうとする。
「こっちだ!」
 そこへクラウスが雷をまとった刀で斬りかかる。ディバイドが魂を食らう斬りを見舞う。
「リーゼロッテ、頼む」
「かしこまりましたわ、私のこの終末の天使の羽にお任せを!」
 ダモクレスの注意が外れたところで、昌幸を別のビルへ運ぶためリーゼロッテが再び空を飛ぶ。
 京が両手のリボルバー銃を構えたところで、ふと声が聞こえた。
「京さん、お手伝いさせてください!」
 いつも愛銃の手入れで京とは顔見知りの千枝だ。千枝は握りしめたリボルバーを緊張した面持ちで構える。京は微かに笑って簡単なサインを送った。千枝は頷く。
(「巨大な相手でも……隙のある場所に火力を集中すれば……!」)
 千枝が狙うのはその『隙を作る』ことだ。京より僅かに早いタイミングで別角度からリボルバー銃の引金を引く。ダモクレスの注意が千枝へと逸れる。
 すかさず京が弾丸をばらまくように撃ち込んだ。
 その音を合図にさらにエアの巨大なバスターライフルがアームドフォースを揺らす勢いでバスタービームを放つ。
「Ja」
 ヴェルフクスも了解の意を示すとダモクレスが足を嵌るような地形のほうへと移動する。そして引きつけるようにアームドフォートから主砲を一斉に発射させた。
 ダモクレスはヴェルフクスを追うように一歩、また建物で混み合う位置へと踏み込むと、太ももにあるミサイルポッドから一斉にミサイルを放つ。
 クラウスは、はっと軽く笑うと一気にミサイルを『斬り払う』。もちろん、ダメージは身にのしかかるが、半分になったミサイルはなかなか壮観だ。ディバイドは二発のミサイルを身に受け、後ずさるもにやりと笑う。
「ふっふぅ、どうで御座るかな。拙者のこの堅牢にして強靭なるメタルボディは!」
 ユリアとたまからの癒やしが降る。ゼルガディスの鎖は空の霊力を得、ダモクレスの傷をなぞり、広げていく。
(「巨大ロボとか、お約束というか夢があるな! ま、夢は夢のまま、盛大に散ってもらうがな」)
 ゼルガディスはドラゴンの大きな口で笑ってみせた。
 リーゼロッテはようやく昌幸を別のビルへと移す。移動は意外と時間がかかることを実感すると、昌幸は再び狙いを定める。
 ダモクレスの歩く震動でビルが揺れ、リーゼロッテの黒いゴスロリが翻る。かわいがっているたまが傍に来ると、リーゼロッテは緑の髪をかきあげた。
「あのような身の程知らず、我が力の前には無力。人類に怯えながら死んでいけばよろしいのです」
 たまが何か言いたそうにリーゼロッテを見るが、リーゼロッテは自分の世界に浸っていた。
 ――そのとき。
 不意にダモクレスが足場を探すように中腰になった。それは力を溜めるような動き。ゼルガディスが予想したとおりだ。
「来るぞ!」
 ゼルガディスの声が響く。
 京は千枝とともに全力でその範囲から距離を取り、ヴェルフクスはビルの陰へと身を潜める。
「移動します」
 端的にアイズフォンで連絡をすると、頭上のエアにハンドサインを送る。
 当たらなければどうということはない、と思っていたエアもそういうわけにはいかないことを実感していた。一気にアームドフォースを気にせずビルから飛び降り、身を隠す。
 兆候を前にして不敵に笑うのはディバイドとクラウス。
 クラウスはテンション高く笑う。
「あァ、こりゃいい獲物だぁ……」
「まったくで御座るな」
 ディバイドも不敵に笑って同意する。
 ダモクレスは肩のミサイルポッドから大量のミサイルを降り注がせた。
「――斬らせて、もらうぜぇぇぇぇ!」
 翻した刀が、光を反射した。
 爆音。周囲の建物を巻き込んで、壊して、ミサイルの雨が降る。


「いやぁ、これはとんでもない一撃でござるなぁ、いやたまげたたまげた、はっはっはぁ」
 ディバイドはその身を盾として攻撃を受け止め、しかと大地に立つ。
 多くのミサイルを斬り払ったクラウスも満身創痍ながら、未だ倒れてはいない。
「加減無用だ、派手にやれや! 剣魔憑依・斬滅陣!」
 クラウスの剣気と殺気が自分とディバイドの刃に乗る。ディバイドは魔人降臨で回復をはかり、エアがクラウスへと照準を合わせ、ナノマシンを収束させていく。
「たとえ真実は一つでも、それが変わらぬとは限るまい? さぁ、目の前を見ろ! 虚飾現実オーバーライト(イリテュム・リアルオーバーライト)!」
 クラウスの傷は時間を巻き戻すかのように治っていく。
 そこへ黒き羽が舞い、リーゼロッテの黒翼の癒しが施され、陣内が、世界が、ユリアが回復を重ねていく。
 一方のダモクレスはガシャン!と大きな音をたて、膝をついた。フルパワー攻撃後にダモクレス自身がダメージを被るという情報どおりだ。
 この機会を見逃すケルベロスではない。
「大型兵器ほど歩兵にとっては隙間が大きいものですよ?」
 ヴェルフクスがフォートレスキャノンを放つと、京が愛用のリボルバー銃でクイックドロウを見舞う。そして上体が揺れたダモクレスへと昌幸の碗部ランチャーがダモクレスの後頭部へ狙いを定めた。
「相変わらずこいつは狙い難いな……そこだっ! ハープーンランチャー!」
 打ち出されるは対装甲銛。
「いい加減に……倒れろやっ!」
 ぐい、と銛を引いたときにダモクレスの上体が揺れた。
 ドォン! と音をたて、ビルを壊しながらダモクレスは仰向けに倒れる。
 土煙が盛大に上がった。
 だが、まだ『倒れた』だけだ、止めをさせてはいない。
 死を与えてこそのケルベロス。ならば、その存在に『死』を。
 起き上がろうと足掻くダモクレスへとエアが飛び跳ねるように近づき、破鎧衝を叩き込む。ヴェルフクスがジグザグの刃をしたナイフで回復しづらい形に切り刻めば、ポニーテールの髪が揺れた。
 クラウスが雷を刃に宿し切り払い、袋叩きにうきうきしているゼルガディスは黒き鎖で起き上がれぬように足を縛る。昌幸は上空から関節部を狙ってクイックドロウを見舞った。
 ここまでメディックとして頑張ってきたリーゼロッテも掌からドラゴンの幻影を放った。
「人類を脅かす不埒なる獣よ……我が浄化の力で死という無を与えられるがよい!」
 たまが何か言いたそうに見ているが残虐ファイトしちゃうあたり、とても仲の良い主人とサーヴァントだ。
 ダモクレスは反撃しようとして、動きを止めた。かけ続けていたバッドステータスが効いたのだ。麻痺して攻撃のチャンスを逃す。
「しからば御免」
 ディバイドが刀を収め、目を伏せる。
「纏うは流水、放つは一刀、ご覧にいれよう金剛破斬!」
 ディバイドが独自に編み出した機人剣技、金剛破斬剣・流水裂破。流水を纏わせて放つ居合斬りはダモクレスを上下に切断する。
 そして、念には念を入れて。
「地獄へ落ちろ、このブリキ野郎」
 京のリボルバー銃がダモクレスの額を打ち抜き、そして、ダモクレスは動きを止めた。
 ガタン、とあっけない音がして、ダモクレスから煙が上がる。
 ちょっとだけ期待しながらゼルガディスが聞いた。
「爆破スイッチでロボの残骸をドカーンってやってみていいかねぇ」
「ふふっ。片付けが大変になっちゃいますよ」
 ユリアが微笑んでやんわりと止める。昌幸も頷いた。
「さて……それじゃ修復に入ろうか。片付けまでやって作戦成功だぞ」
 ビルの屋上から見るとそれなりの建物が被害にあっているのがわかる。
 クラウスもあたりを見渡し、苦笑した。
「まァ結局、最後に勝ってりゃ問題はねェ。多少の負傷なんざ必要経費だ」
「うむ、これにて一件落着! で御座るな」
 ディバイドも腕を組み大きく頷く。
 皆が疲れた体を引きずって動き出したとき、ユリアがぽん、と手を叩いた。
「そういえば、伊上さんから野菜サンドイッチを預かってるんですよ。お肉と野菜をパンに挟んだ美味しそうなサンドイッチです」
 皆は現地に行く前に全員を鼓舞して忙しそうに走っていった流を思い出す。
「こういう声援的なものもきっと大事だと思うんです!」と笑顔で言っていた流。
「片付けが終わったらいただきましょうね」
 ユリアの言葉に各自が武器を収め、片付けを始める。ヴェルフクスがデータに残っている壊れる前の建物を思い出せば、復旧は早かった。

 ダモクレスの倒れた体から立ち上る煙が、青空へと溶けていく。
 ひとつの戦いが終わり、これから長い戦いが始まろうとしていた――。

作者:水城みつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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