新型ピラーの開発が成功し、ダモクレス本星マキナクロスにおける、ケルベロス達の居住区も完成。降伏したデウスエクスと、ケルベロスの希望者を乗せ、外宇宙に進出する準備が整いつつあった、ある日の事。
「みんな集まってくれてありがとー! マキナクロスが宇宙に出航できるようになってるのはもう聞いた? 実は、それについて相談があったんだけど……」
などと語る大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はサンタ衣装。何となく察する番犬もいる中で、話題は案の定。
「マキナクロスが出航するためには、物凄いエネルギーが必要なんだけど、そのために季節の魔法『クリスマスの魔力』を活用できないかなって事になってるの! 上手くいったら、竜業合体みたいに光速を超える事もできるかもしれないんだって!」
つまり、季節の魔力を燃料代わりにして外宇宙へ飛び立とうとしているらしい。ユキはそのクリスマスの魔力を最大限に高めるために、番犬達に地球各地のクリスマスイベントを斡旋しに来たのだ。
「クリスマスのイベントを大いに盛り上げる為、主要なクリスマス会場には『ケルベロスの為の結婚式場』も用意されています。人生の節目として、これを機に、というのもいいかもしれませんね」
補足する四夜・凶(泡沫の華・en0169)カメラのレンズを磨いている……どう見ても番犬達の式を見届ける構えである。
「クリスマスイベントに参加した後、希望者の結婚式を行い、最後にマキナクロスに搭乗する番犬達と最後の一時を過ごしてから、万能戦艦で月軌道までお見送りする流れを予定しています」
「で、肝心のクリスマスイベントだが……」
凶に続いて、トナカイ仮装のブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312)が地図をバサリ、広げて示したのは日本国内において人気も長所も無いとされている都道府県。番犬達がそこで何をするのだろう、と首を傾げていると。
「ここでお前達の過去を語ってほしい」
更に首を捻る番犬達にユキが苦笑して。
「ここ、自衛隊の駐屯地があるの。本来なら誰も入れないんだけど、特別に開放してもらえることになっててね。ずっと戦って来た皆だからこそ、バトルモードな場所で今までを振り返るのもいいかなって……」
「……奪って来た命を忘れないためにも、な」
生き残り組に相当する、『セントール』のブリジットが少しだけ目を逸らした。今までいくつもの種族と戦って来た。その中には、番犬が根絶させてしまったデウスエクスだっている。戦いが終わったからこそ、自分たちの足跡を振り返る意味でも、失ったモノを忘れないためにも、そして……共に戦って来た、去り行く同胞を心に刻むためにも、今一度語り合う場を設けたいということらしい。
「きっと、出航組の皆とは、これが最後になると思うの……絶ッッッ対、後悔しないお別れにしようね!!」
歪みそうになる微笑みを、目元の雫を拭って綺麗に整えて、白猫は番犬達へ最後の激励を飛ばすのだった。
「俺にとっての印象に残る戦い、ねぇ……」
開放された自衛隊駐屯地の喧騒の中、蒼眞が語る戦いは……。
「強いて挙げるならシスティーナとの戦い、かな……」
『あんたが戦わないというなら、あんたを殺して別のケルベロスに喧嘩売るけど?』
耳に焼き付いた、あのセリフ。
「結局戦い以外での語り合いは出来なかったな……地球に馴染めなかった奴でも、宇宙へ戻れる手段があると分かっていれば、無理にでも拘束して……」
しかし、彼女の覚悟が去来して、そっと首を振る。
「彼女は自分の意思で戦って死ぬ事を選んだんだし、俺が何かを言うのは野暮ってもんだな」
故に、蒼眞は虚空へグラスを掲げる。
「安らかにな、システィーナ……」
届く事のないトストを捧げ、来世を夢見て眠りについた彼女を送るのだ……。
「別の意味で印象に残っているのはやっぱりうにうに達だな……」
一杯で酔った!?何飲んだの!?
「ビジュアルが甘いスイーツな移動要塞でさぁ……」
誰か冷水もって来てー!!
「あーあー……こほん」
めぐみは巨大なスクリーンをバックにマイクテスト。
「歌って踊って屠殺もできる、新世代アイドルめぐみんです♪」
笑いと声援と視線を集めためぐみは資料を映し。
「めぐみからは、百三十九件もの事件に関わってきたある意味での宿敵……ビルシャナについてお話したいと思います」
えー……(カウント中)マジで百三十九件……!
「全ての始まりは、鎌倉争奪戦まで遡ります。この戦いをきっかけに、一般の人がビルシャナに変異するようになり、中には倒すことを躊躇われる教義を掲げるビルシャナもいました」
本当に色々いたよね……うん。
「最終的には衆合無ヴィローシャナとの会談の末、別次元の宇宙へと旅立っていきました……でも、忘れないであげてください。彼らは人を救おうとしたのだということを」
ビルシャナは自分達の思想を最善としながら、一人の少女の『怖い』という言葉を受け止めて、方針転換する柔軟性を有していた。
「皆も誰かと意見がぶつかった時、一度考えてみて欲しいんです。今、ビルシャナになっているんじゃないかって……」
そこまで語って、めぐみはにっこり。
「悪い子は、めぐみんが屠殺しちゃうんだからねッ!」
会場は万雷の笑い声と喝采に包まれるのだった。
「奪ってきた命か」
喧騒からやや離れた木陰、グラスを傾ける双吉が夜空を見上げる。
「螺旋の力をくれた恩人を手にかけて、その母星も破壊し、新しい螺旋を生み出そうとする男も返り討ちにし……戦って、壊してが多かった」
双吉の隣に腰を降ろした零は、視線だけを彼に向ける。
「そんな俺なのに、得たモノはデケェ。闘う力も、真っ当な道も、同好の士【めがねなかま】も、そして、心配してくれるダチも」
「……ダチ、か」
ぽつり、溢した零の目が番犬達のバカ騒ぎに向けられて。
「……思い出に残る戦いは、やはり……僕を助けてくれた時のが一層記憶に残るね」
感情の一つが質量化を果たした故に、存在を自覚させられるモノ……己の『心』を思い、そっと胸に触れる。
「……僕が暴走して行方不明になったのを、沢山の人が助けに来てくれた時とか……宿縁で襲われた時も助けに来てくれて」
――おかえりなさい。ホントにバカな、あたし達の団長さん……!!
「……不思議なものだよ」
「人ってなァそういうもんさ」
双吉の腕と心臓の螺旋。命を奪った相手が、自分に遺してくれたモノ。それは確かに、彼の中に息づいていた。
「……上野」
「……?」
夜空に向かって微笑む双吉に、零は微かに首を傾げる。
「俺ぁ宇宙に行ってよ、いつか螺旋の星を創り出すんだ」
「……星を創る、か……大きく出たね……」
漆黒を見上げた零。その表情はやはり、変わらないけれど。
「……螺旋の星……良いね、いつか行ってみたい」
彼なりに『微笑んで』いたのかもしれない。
「その内、ひょいと帰ってくるかもしれねぇし、そん時はまた宿の庭に寝転がりに行くからよ」
「……あぁ、僕は地球に残ってあの宿を続けるからさ、いつでもまた転がりに来ておくれ」
「そん時は俺ァ、美少女になってるかも知れねぇぜ?」
「……ホントになってたら、驚いちゃいそうだね?」
微かに目を見開く零へ、双吉は穏やかな微笑みを浮かべて拳を突き出す。
「そんじゃあ、行ってきまっさん!」
帰ってくるかどうかすら、分からない。それでも。
「……あぁ、行ってらっしゃい……気を付けてね」
再会を祈って、拳をぶつけ合うのだった。
「過去、ですか。思い浮かぶのは『お母様』の事だけですね」
シフカの脳裏に過ったモノは、金色の毛並みと白銀の鎖。
「たった一年ですが、私はお母様に様々な事を教わりました。何よりも……親の愛を」
シフカは故郷の穏やかな日々を打ち砕かれた末に、兄、ヘイドレクが瀕死の重傷を負う事となる。その命と苦痛を断ち切った事が、シフカの始まり。
「お母様は、私がそれまで受けた事も知る事もなかった凡ゆるモノを与えてくれました。そんなお母様を失った時は、とても悲しかったし、手にかけた番犬を数瞬ながら本気で恨みました」
シフカにとって、再会すれば敵として戦うという約束は、『もう一度会いたい』という願いでもあったのかもしれない。
「……例え地球を愛せなくても、人を愛する事はできたデウスエクスがいたという事を、私は決して忘れません……」
「ん?」
「どうしました?」
「あぁ、いやなんでも無い」
通りすがった民間人が、目を擦り去っていく。
「……?」
首を傾げるシフカの後ろで、腕に鎖を巻いたスーツの男と、黄金の狐獣人が微笑んでいた……。
「……かつて私自身の手で最愛の貴方の命を奪わなければならなくなった時、貴方は言ったわね」
薔薇の象嵌が施された黒鉄の銃を見つめるアウレリアに、アルベルトが首を傾げる。
「銃の引き金を引く意味を、命を奪う事の重さを、決して忘れないで欲しい、と」
Thanatosと銘打たれたその銃は、元々は生前のアルベルトが使っていた物。
「数多の戦いを駆け抜けてきたけれど、初めて引き金を引いた日を、その重さと託された願いを忘れた事はひと時たりとも無かったわ」
そっと、アルベルトが後ろから抱きしめる。その腕に込められた力は痛みすら伴う程強く、伝わる想いにアウレリアは手を重ねて。
「謝らないで。全ては私の選択だもの。貴方と共に在るために、貴方の願いを繋ぐために、私は引金に指をかけたのだもの」
目蓋を降ろせば蘇る、撃ち込んできた『死』の瞬間。その全てを、彼女はきっと忘れない。
「この指先で数えきれない引き金を引いてきた……貴方が願っていた、この銃口の後ろにいる多くの人々の愛おしい日々を守る為に……」
抱擁を解き、向き合う二人。人々の喧騒に隠されて、二人の影が重なった。
「みなさーん、今日は私のライブに来てくださって、どうもありがとうございます!」
テティスだぁあああ!?
「もう、そんなに喜ばなくていいんですよっ!」
喜んでねぇ!ていうか呼んでねぇ!!
「私がこうしてここに立っているのも、プロデューサーさんやライブを応援してくださったファンの皆さんのおかげです!今日は結婚式を祝う歌を歌わせていただきますね!」
誰だ音響機材なんか持ち込んだ奴!今すぐ撤収させろ!大惨事になるぞ!!
「私には地球の人々をアイドルとして元気づけるという使命があるので宇宙には旅立てませんが、宇宙船には私の歌のデータを無理やり送りつけ……」
もはやテロじゃねぇか!至急通信を繋げ!地球から送り込まれたデータを検閲、削除するように要請するんだ!
「こほん、宇宙に広めるために歌のデータを乗せてもらいました。私は今日から、超時空シンデレラのテティスちゃんと名乗ろうと思います!」
手遅れ……だと……!?
「ところで、前々から気になっていたのですが……」
こちらの危機などつゆ知らず、テティスがきょとん。
「……でうすえくす、って何ですか?」
ぶっ飛ばすぞテメェ!?
「私も……話したいことはいっぱいあるかな……」
山盛りの料理を頬張る天音は、一旦口元を拭ってから。
「姉さんとの戦いは一番つらかったかな……それから熊本での戦い……守れなかった人は多い……」
歴戦の番犬達だが、取りこぼした命は多い。その中には、番犬の縁者も……。
「姉さん……」
彼女は二度、自分の姉を蹴り殺している。一度目は弩級兵装回収作戦の時。全てを裏切って逃げ出した天音を姉――ソラネは、憎悪の眼差しで見つめながら燃え上がり、灰燼と帰した。
「私は……姉さんを救えたのかな……」
二度目は七夕ピラー改修作戦の余波を受けた、宿縁転移。その時の姉は、焼け落ちた肉体【機体】を覆う包帯に、傷口から噴き荒れる地獄。炎とも氷ともつかぬ物に身を侵された痛々しい姿であった。
「私はいろんな敵との戦いを忘れない。もしかしたらわかり合えたかもしれない。もっと早くピラーが直せていたら、和解できていたかもしれない人たちのことを……」
そっと目を閉じた天音の耳に、セレモニーの音楽が届く。
「私もいずれ結婚するかな……きっと……」
少しだけ熱を持った頬にそっと触れるのだった。
「色々あったよね」
「そうだね……」
エヴァリーナの食いっぷりに、ユキが若干引きつつ相槌を返す。
「鳥さんにごはん貰いに行ったり、美味しい物食べがてら鳥さん〆たり、食べ放題な無敵進化を遂げたダモさまの元に伺候したり、美味しそうなのに泣く程マズい敵さんもいたなぁ……」
食ってばっかじゃねぇか!
「そんなコトないよ!ドラゴン追っかけたり戦艦防衛したりとか、戦艦の自動料理製造機でモグモグしてたらエマージェンシーで……」
「逆に聞くね?食べてなかった時ってあるの?」
「……」
純粋無垢なユキの視線がエヴァリーナの心を抉る!
「どんなお仕事でも。そこに私達が奪った命がある。でもね、それは日々食べてるごはんも同じで、私達はいつだって命を奪って頂いて、そしてそれ以上の命を生きて生かしてここにいる」
「あ、ごまかした」
シリアスに巻いて逃げるつもりだな?
「だからユキちゃん……!」
ここでガッとユキの肩を掴み。
「サンタコス写真をSNSにアップさせて!私に広告費【食費】という名の命をちょーだい……!」
「自分で稼ぎなさーい!!」
ユキのツッコミが夜空に響いていった……。
「一度ウェディングドレスを着てみたくて、参加しました!」
溌剌とした声から急に、文香は長い溜息と共に虚ろ目になって。
「……いよいよ親戚からの『身を固めろ』プレッシャーが厳しくなってしまいまして、マキナクロスで逃亡しようか、とも思ったのですが、電気屋を捨てるわけにもいきませんし……と、いうわけで、地球に残留します」
プレッシャーに晒され続けるんですね、分かります。
「言わないでくださいよ……!」
晴れ衣装なのにどんよりする文香。普段は作業着な彼女だが、本日はボディラインを際立たせる清楚なドレス姿。最近見た目に気を使い始めたらしいし、今後に期待?
「さて、今回は最大の戦いのお話ですよね……」
で、どんな激戦かと思いきや。
「ライドロイドが欲しくなってしまったことでしょうか。『直せない機械や電化製品は、あまり無い!』が信条のこの私でも、未だに作れる自信がありません!あれを作る事が、今の私の望みですね」
あれ?お前、乗ってなかった?
「……夢、だったんです。手に入れたのが夢オチだったんですよ……!」
文香はさめざめと泣き始めてしまった……。
「どうも、凶さーん。ご無沙汰してますー」
「おや、いらっしゃいま……せぇ!?」
凶に真白が声をかければ、驚愕のあまり強面が固まってしまう。
「あはは……いきなり大勢ですみません」
などと小熊が謝罪を述べた理由が……大量の子ども達である。髪色や瞳の色彩こそ違えど、真白・小熊夫妻(?)を母と呼び、二人と揃いの深い藍色の羽織りをしている辺り、関係者のようだが……。
「この子たち、日本各地から探してきた孤児達なんです。うちで引き取って育てよう、って少なくとも私がずっと前から決めてて」
決めていた、でやれるほど容易い話ではない。
「真白ちゃんの夢を応援したいっていう思いももちろんありましたが、何より私も、熊ノ湯を今まで以上に皆が安心して帰って来れる場所にしたいって思ってましたので」
「だからいっそのこと、全員纏めて引き取ってしまえば、この子達も保護施設でできたお友達と離れ離れにならなくて済むんですって、役所の人に話を通してしまったんです」
微笑みながら、近くにいた子の頭を撫でる真白だが、それを公的な場で押し通すには、相応の根拠を要求される。
「……ふふ、素晴らしい発想ですね」
故に、口にはしない真白の奮闘と、それを支える小熊の献身。その二つがあって、目の前の大所帯が成り立ったのだと、凶は微笑みを返す。
「今日は私達が交際するに至るまでの葛藤との戦いのお話を……」
「是非」
「あの、凶さん?子ども達が泣いちゃうから……」
真白の話に、唐突に真顔になった凶に子ども達が一斉に怯えて、小熊がなだめてから二人の足跡を辿る談笑が始まる……。
「今はこの子達と旅館を大きくするのが夢なんです」
語り終えた真白が、未来に向けた話をしたところで、小熊が両手を握り、ドヤッ!
「今年の春には足湯も完成しましてね!これからもどんどん設備拡張しちゃいますよ!!」
「子ども達の第二の実家となれるよう、頑張ってくださいね?」
凶はそっと微笑み、祝福と激励を贈るのだった。
「ユキさんにもお世話になったね。でもこれで最後かぁ……」
璃音とユキが並んで星空を見上げれば。
「担当官さんシリアスよりネタが好きでしょ?料理との戦いを……宿敵話の方が良い?そっかー」
Why……!?
「うん、あのドラゴンいなかったら私は今日まで戦ってこなかったし……ユキさんとも会わなかったし皆にも会えなかった」
璃音はユキに向かって、不器用な笑顔を浮かべると。
「でも、あいつには憎悪ばっかり感じちゃって。一時期ユキさんのヘリオン乗りまくってたのは、その憎悪をごまかしてた節もあったんだよね。だからはっちゃけたというか……」
「私の所に来る人って、大体はっちゃけた人だからね」
すっと、どこか遠くを見つめるユキに、璃音は逆に声を上げて笑ってしまい。
「あ、調理場ってどっちかな?」
「え、なんで?どこ行くの!?」
歩いていく璃音を、ユキが大慌てで追いかけていくのだった。
「この時がとうとう来ちゃったな」
恵は深呼吸をするとグラスを掲げ。
「そんな日に結婚式まで……まさしく門出って感じだ」
彼の所属する師団の面々も共にグラスを掲げれば。
『計都に蛍子!結婚おめでとう!!ヒャッハー!!』
「笑って送り出そう、とは言いましたけど………!」
和奏がぐむむ……しかし!
「あれ、止める理由がないのでは……?」
「いや止めないのかよ」
半眼の翼に、和奏は少しだけ寂しそうに。
「集まってバカ騒ぎできるのも最後かもしれないですし」
「……まあ、そうだな。最後くらい、罰は当たんないよ。というわけで和奏のアームドフォートで花火を……」
などと、冗談をかました翼を、ポムる人影。
「和奏ってライトアーマーだったよな?」
「衣装も揃えないとだよね?」
あー、恵と和に捕まったか。
「じょ、冗談です、はい」
そっと離れようとする翼を両サイドからガシィ!引きずられていく翼が肩越しに叫ぶ。その相手は……。
「お姉ちゃん助けて!?」
「こんな時だけお姉ちゃん呼びしても知りませーん」
姉こと和奏は笑顔で見送るのだった。
「賑やかな喧騒こそが緋色蜂の醍醐味!ようし今日はヒャッハー納めだ!」
計都……お前までカオスになるなよ?
「ちゃんと強敵の話をしますよ。やはり、阿修羅クワガタさんの話でしょうか。その角は今なおこんなに鋭く……あ、後でケーキカットに使いますので」
やめたげてよぉ!?
「僕が結婚かぁ、実感ないけどこれが、時間が経つ……ということなんだよね」
プリンセスラインのドレスに身を包んだ蛍子が、計都に寄り添う。
「この七年間、お付き合いを始めてから色んな話をして、色んな思い出をもらって今に至るけど、感謝してもしきれない。適当な性格な僕だけど、それでも飽きずに付き合ってくれてありがとう、これからもよろしくね」
「蛍子……」
そっと花嫁を抱き寄せる計都は師団の面々へと向き直ると。
「全てを失って戦うしか脳のなかった俺に、こうして家族が増える日が来るなんて想像も出来ませんでした。蛍子、クロウ、それにサーヴァントの皆。本当に、ありがとう」
「本番はここからだからね!?」
クロウが真っ白なワンピース姿で、ワカクサを頭に乗せてツッコミ。黒執事が恭しく一礼すると、整えられた赤絨毯を示す。
「皆様、式の準備が整いましたよ」
ディッセンバー、何故いる?
「師団は違えど、人手が必要そうでしたので」
この執事どこにでもいる気がするな……てか、自分が主役でもいいのよ?
「あまり他の方のような誇れる活躍はしていないのですが……デウスエクス堕ちした義妹を返り討ちにして殺したくらいですかね?大した事はないでしょう?」
本人はくすくす笑ってるが、物騒だなオイ!?
「ささ、そんな事より、フラワーガールが通りますよ」
などとディッセンバーが一礼して引っ込めば、ワカクサと花びらを撒きながら練り歩くクロウ。新郎新婦が共に歩む先には、牧師姿のラギッドが待ち構えており、こほん。
「愛の誓をここに捧げよ!!」
「!?」
計都が面食らっていると、蛍子が小さく囁く。
「けーくん大好きだよ、今もこれからもずっとずっと……」
振り向いた計都へ、クスリと微笑んだ蛍子が目蓋を降ろす。
「誓います!」
背を押されるように、計都は蛍子の体を横抱きに抱き上げて。
「北條・計都は、蛍子を妻とし一生添い遂げることを誓います!」
会場から拍手と祝福を贈られるのだった……。
「それでは、結婚指輪と……計都様にはこれも。夜に飲んで下さいね」
受け取った小瓶には『紅蜂ビン☆ビン』の文字と緋色蜂の紋章。
「なんで!?」
「なんでって……ふっ」
困惑する計都へ、ラギッドは実に、実に穏やかな微笑みを浮かべていたという。
「いや、本当にここで挙式するとは。普段からスーツで良かった」
グリムは『ラギッド特製九段式巨大ウェディングケーキにナイフで挑む新婚夫婦』という光景を眺め、おどけるように両手を広げた。
「北條家および結ばれた皆に平穏あれ……派手なパフォーマンス?そんな事私がやるわけないじゃあないかHAHAHA」
その後頭部から伸びる触手で絡めとったサンドイッチはなんですかね?
「私は液体金属だからね、頭から腕が生えることだってあるさ」
触手じゃなくて腕なんや……。
「師団では色々あったが、忘れられない出会いと笑いの場所だった。しかし最後だと言うのに、あの嘴がいない。ま、これも三銃士らしいか?」
「結局こんな土壇場でも三人揃わないのが私たちなんだなあ。ドットール殿も元気してるだろ、多分」
グリムが笑えば鋼がため息を溢し、人々に語り始めたのは……。
「先日のケルベロス・ウォー……語り継いでいく君たちにこそ聞いて欲しい」
最後の戦争だった。
「アダム・カドモン様と多数のダモクレスが犠牲になった戦いだ。引き換えに得たのは、ダモクレスがダモクレスとして生き続け、しかし最も生きていて欲しかった方がいない世界……」
鋼はそっと頭を垂れて。
「忘れないでくれ。確かに生きていた、機械の神達を」
彼の生きざまを示す言の葉は、確かに人々の心へ届いていた。
「どうせ最後に見せるなら笑顔の方がいいし、僕らに涙は似合わない。盛大に馬鹿騒ぎしてやろうか」
鋼の話を聞いていたあすかは、そっと目元を擦る。
「みんなで思い出を振り返ろうぜ!!」
巨大なスクリーンに投影されるのは、緋色蜂師団の映像記録。
「奇襲でヒャッハーしてソファーが飛んできて宿敵倒して奇襲でヒャッハーして鳥オバケしばいて……アレ?ロクな思い出ねえな?楽しかったからいいけど」
新手の蛮族かな?
「アタシは、超速型ダモクレスにされかけて、孤児になった来歴が出てきたのが、一番驚愕でした」
あすかの隣でフロッシュは、自分の脚をぺちぺち。
「【超克した品】は、人の身のまま超速の力を得た事を、指していたんですね」
かつて、フロッシュに背を見せた女がいた。走る先は彼女が育った孤児院。孤児院を守るために、フロッシュは装備のリミッターを吹っ飛ばし、その際に到達した虚無の領域……なお、制御できずに孤児院に突っ込んだのはご愛嬌。
「失敗談を晒すのは卑怯じゃないですか!?」
まぁ気を取り直して将来の話をしようや。
「将来……か。因縁に決着を付けられたのも、孤児院の為に働く未来を掴めたのも、皆さんのお陰……恩返しや、北條夫婦の結婚祝いや、旅立つ方々への餞別として、魔改造道具をプレゼントしましょう!」
あっれー?
「これは五十通りに合体しますし、こっちは二十二段変形して……えっ、そんな物騒なものいらない?」
魔改造した武装なんか困るやろ!?
「ならせめて祝砲を……!」
などと、花火を連射する機関砲を構えるフロッシュだが。
「祝砲なら一緒にやろうぜぇ……」
地を這うような声と共に、和奏コスの翼が現れた!
「なんで女装……?」
「俺が聞きたいよこん畜生……!」
半泣きの翼の傍ら、クロウが蛍子を見つめて。
「蛍子が戸籍上自分のお母さんに……母さんはもう一人いるから、ママって呼んでいい?」
「大変だけーくん、僕結婚したばっかりなのに自分よりおっきな娘ができちゃったよ!」
北條家をやや遠めに見つめ、豊は静かに微笑む。
「仲睦まじい姿はずっと師団で見ていたが、こうして一つの帰結を見るのは感慨深いね。私?まあ、今日は私の事はいいじゃないか」
いやいや、ここは将来を語る流れでしょう?
「将来ねぇ……」
顎を揉んでいた豊はそっと空を見つめ。
「行ったことのない宇宙を見てみたい気はするけどね、和平交渉では派手な戦争も期待できないし、地球で猟でもしながら穏やかに暮らすさ」
どっかの縁側でお茶でも啜ってるのかと思いきや。
「次はヒグマでも相手にしようかと思って、免許を取ってみたんだ」
などと狩猟免許片手にいつも通りの笑顔を浮かべる豊……穏やかとは一体……。
「宇宙進出に結婚式に、お祝い事が続きますね~盆と正月という感じでしょうか~クリスマスですけども!」
緋色蜂ムービーを眺めていたノアルは、目を閉じて。
「思い返せば色々なことが……はっ、四夜さんとのことばかりです!」
「私?」
「ひゃぁあ!?」
隣に凶が座るとノアルが悲鳴を上げて、和が手をぶんぶん。
「ここからは先ほどの結婚式の様子を流しまーす」
撮影していた動画を放映し始める和の前、蛍子がとことこ。
「ブーケトス、いっくよー」
「ブーケ!?」
ノアルは翼と尾を展開。空へ……飛ぶの!?
「えへへ、取っちゃいました……」
帰ってきたノアルは凶と並んで座り、再び新婚夫婦を見つめる。
「お二人とも素敵です~剣崎さんも……あっ、もう北條さんでしたね~わたしもいつかあんな風にドレスを着て四夜さんの隣に立ちたいですね~」
「おや、私が仲人ですか?」
「……」
凶のきょとん顔に、ノアルはゆっくりと頬を膨らませて。
「わざとですか?わざとですよね?ねぇ!?四夜さんのいじわ」
そこから先は紡がれない。目の前にあった顔が離れていき、唇に残される感触と温もり。ノアルは口元に触れて、震える瞳で凶を見れば。
「イジワルしてみました。あなたが勇気を持てる日を、待ってますよ」
「……ほぇ!?」
「よっす、隣空いてる?」
式を見ていたユキの隣に、永代が腰かけて。
「サンタ服似合ってるじゃん、可愛いよん。そうやって着替えるのも色々とあったよねん、懐かしいや」
「……ありがと」
照れてむくれるユキの傍ら、永代は遠くを見る。
「思い出深い戦いってなると、カイトの宿敵だけど……他には、ヴァルキュリアの解放戦かな?そこは本当に感謝してるよん」
永代は蠢くケーキの犠牲になった和と、彼を救出しようと引っ張るラギッドの鬼鋼、黒薙を眺めながら。
「俺もリア充爆破とかやってたけど、今ぐらいは素直に祝福だねん」
などとくつろいでいると、ユキが手を伸ばす。
「ん」
「え、何……?」
ややあって、気づいた。ユキは左手を押し付けていることに。
「俺の方はー……これからじゃない?まあ、皆みたいに素敵な式あげたり出来るように頑張るよん。俺は、これからも側に居るからさ」
微笑めば、ユキは半眼で。
「責任取らなきゃ許さないから……」
「どういう事!?」
慌てる永代へ、回り込んだユキがそっと顔を近づける。
「……へ?」
「今はこれで許してあげる!」
口元を隠して固まった永代へ、ユキは小さく舌を出しながら笑うのだった。
「えー、宴も酣ではございますがー、記念に集合写真はいかがでしょうか!」
和がマイクを握り、会場全体へ声を響かせた。乗り込む艦が違う以上、ここで事実上のお別れとなる。
「今までありがとう……そして、ごめんなさい、色んな無茶を言って」
「そんな、気にしなくていいのに!」
めぐみはお手製のブッシュドノエルをユキに手渡して。
「あっちでも、元気でね!」
「うん、ユキちゃんこそお元気で!」
淡いハグを交わすのだった。
「おっと、ちょっと失礼するよ」
「あ、私も今のうちに……」
豊が兄弟達へ最後の挨拶に行くと、天音もグリムドヴァルキリーズの下へ。ラギッドは家電製品をドン。
「こちら、ダイスがリモコンになるエアコンです。マイナス百度とか出すと楽しいですよきっと」
「俺が選んでブレンドしたコーヒー豆用意したから、俺のこと思い出したくなったら飲んでみてくれよな!」
「恵のコーヒー豆だけもらおうか」
機能がおかしい家電を回避するくらいには鋼は冷静だった。
「さよならじゃなくてまたねで見送ろう!マキナクロスの技術があれば、光速間通信だってその内開発できるだろうし!だからちゃんと笑顔で……」
クロウの言葉が震える。視界が歪んで、目元を拭って。
「ち、違うもん!これは涙じゃなくて洗浄液だもん!」
言い訳していると、鋼がドン、と胸を叩く。
「地球だろうと宇宙の果てだろうと、どこであれ、俺達は緋色蜂師団員……この心は、共にある」
「きみも達者で。手紙くらいはやりとりを出来る様になるといいが、まあ二度と会うまい。我々がまた揃うとしたら、十中八九何かよくない事だろうから」
ひらり、手を振るグリム。宇宙の果てに至ろうする出立組と再会するということは、それだけで大事件である。あすかは一つ、深い呼吸をして。
「最後に句を一つ送ろう」
――ともがらに ただ幸あれと 乞い願い 雲の彼方に 船ぞ旅立つ
「……っ、離れてたって、仲間、だからな!」
詠み終えれば、和が機材をチェック。
「四夜んにユキちゃん、ブリジットちゃんもいますねー?特に四夜んはホールドしといて!」
「はい!」
ノアルが凶の腕をとり、和は微笑んで。
「よし、タイマーセット!それじゃー、笑ってー、笑ってー……」
和も最前列に滑り込んだところで、パシャリ。番犬達の物語の結末を彩る、一枚の写真が残された。
作者:久澄零太 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年12月24日
難度:易しい
参加:29人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 5
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あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
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シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
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