外宇宙への出航~千景万色クリスマス

作者:波多蜜花

●聖なる夜を
「皆、よう集まってくれたねぇ」
 アダム・カドモンとの最終決戦、ケルベロス・ウォーに勝利して半年も経つなんて、まだ信じられへんくらいやけど、と信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)が集まってくれたケルベロス達に笑う。
「半年の間にな、新型ピラーの開発が成功して……ダモクレス本星マキナクロスにおける、ケルベロス達の居住区もとうとう完成したんやって」
 すぐにでも住める状態で――つまりは、降伏したデウスエクスと希望するケルベロスを乗せて外宇宙に進出する準備が出来上がったのだ。
「この旅はな、ちょっとばかり途方もない規模なんよ」
 何せ、宇宙に異常をもたらすデウスエクスのコギトエルゴスム化の撤廃を行う為に、新型ピラーをまだ見ぬデウスエクスの住む惑星に広めにいくのだから。
「でな、この出航を行う為には季節の魔法……そう、『クリスマスの魔力』を使用する事になったんよ!」
 このクリスマスの魔力量によって、マキナクロスの速度が変化する。多ければ、竜業合体のように光速を超える移動すら可能になるだろう。
「せやからな、うちらで出来るだけのクリスマスの魔力を届けたいんよ」
 それはきっと、最高の餞になるはず。

●最大限に楽しんで!
「というわけでな、クリスマスイベントのお誘いなんよ」
 場所は東京のとある有名なホテル、なんとこの日はホテルを丸々ひとつ借り切ってのクリスマスパーティとなる。ドレスコードは特になく、自分らしい恰好やクリスマスに相応しい恰好など、思うような衣装で訪れるといいだろう。
「外観もクリスマスだけの特別仕様、ホテルがクリスマスデコレーションされてるんやって」
 大きなリボンを掛けたプレゼントボックスの様なそれは、見ただけでテンションが上がる事間違いなしだ。
「まずは大ホールでクリスマスビュッフェが行われてるやろ」
 会場の中央には大きなクリスマスツリーが飾られ、ツリーの足元には沢山のクリスマスボックスが積まれている。中には本当に何かしらのプレゼントが入っているから、一人ひとつ開けてみるのも楽しいだろう。
 クリスマスツリーみたいなポテトサラダや、クリスマスリースを象った一口パイを始めとした前菜、ローストビーフに七面鳥を丸々焼いたローストチキンやフィレ肉のポワレ、エビとサーモンのパイ包み等のメイン、そしてクリスマスケーキは様々な種類が取り揃えられている。前菜からメイン、スイーツまでの全てに気合の入ったクリスマスビュッフェは大勢の人で賑わうはず。
「二人っきりでしっとりと……って人には、上階の方のレストランがオススメやね」
 ちょっと高級感溢れるレストランでは、窓際のテーブル席が人気。コース料理を頂いて、お酒を飲みながら夜景を眺めるのもいい思い出になるはずだ。
「ホテルの屋上も眺めは最高やろね」
 夜景を見るなら、少し寒くてもここだろう。東京のクリスマスイルミネーションが一望できるし、雰囲気だっていい。ちょっとしたワインやジュース、ケーキを持ち込んでプチパーティと洒落込むのもきっと素敵だ。
「ホテルのプールもクリスマス仕様になっとってな、ここでクリスマスを楽しむのも素敵なんちゃうやろか」
 クリスマスイルミネーションで彩られた屋内のナイトプールでは、外の景色も一望できる。ちょっとしたカクテルやノンアルコールカクテル、軽食などもあるので一風変わったクリスマスを堪能するならここもお勧めだ。
「あとは……そうそう、このホテルで結婚式も出来るんよ」
 和風の神前式や洋風の教会での式も可能で、本人達の望む式を執り行えるのだとか。
「アトリウムウェディングや、ガーデンウェディングなんかも可能なんよ。憧れのウェディング方式があれば、ホテルで出来そうなことやったら何でも協力してくれるんやって」
 ちなみに同性同士であったり、どんな関係性であっても参加者全員の同意があればどのような形でも挙式を上げられるのだとか。
 一生の記念に残るウェディングができるとええね、と撫子が笑う。
「このクリスマスイベントを楽しんだ後は……マキナクロスがいよいよ外宇宙に出発することになるんよ」
 ほんの少しだけ言葉のトーンを落として、撫子がケルベロス達を見遣る。
「見送る側の子らはな、万能戦艦ケルベロスブレイドで月軌道まで見送りに行く事が出来るよって、月軌道上で最後のお別れをすることになると思うんよ」
 マキナクロスと共に旅立つ者、この地球に残る者、選択はそれぞれだろうけれど。
「……ここで別れたら、もう二度と会う事ができやんかもしれんから」
 どうか、後悔のないようにと撫子が言葉を締め括る。
 最後のクリスマスを誰もが楽しんで過ごせるように――。
 そんな風に、撫子が微笑んだ。


■リプレイ

●いつも通りの君達へ
 料理が並ぶテーブルの前で皿を片手に唸っているのはチロ・リンデンバウムで、何故かと言えばソースの名前がちんぷんかんぷんだからだ。
「十七歳児にも解る言語で書いてくんねーかな……」
 ラヴィゴット、なんだよ錬金素材か? オランデーズにアメリケーヌ、きっと多分国名をイメージしているのはわかるけど、とチロがぐぬぬと唸る。
 国名だって解るだけ成長してるなんて思ってないったら。
「ぶっちゃけアメリカの味ってどんなんや? 牧草の味か?」
「アメリカって言ったらケチャップなんだよ、チロちゃん」
 チロの隣で同じくわからんちん、という顔をしたルル・サルティーナが暴言を吐いた。
「そうか、これケチャップか」
 色もそれっぽいもんな、とチロが頷く。全然違うけど。
「メニューに書かれてる文字が全くわかんねぇ……」
 英語なのかフランス語なのかもわからない、ここは日本だぞ、日本語で書けよとルルがメニューを睨む。
「ざ、ざばいお……おね? ずっぱ……何?」
「呪文か?」
「おてあら……いはこちら?」
 分からぬ、ルルには何ひとつ分からぬ。
 だけどここは超有名らしい一流ホテル、ということは美味しいものしかないはず。
「大丈夫! 美味しいものと美味しいものを合わせれば、クリスマスの魔法でもっと美味しいものが出来上がるんだよ!」
「お嬢ちゃん、そのもっと美味しくする理論で鍋に苺ぶち込んで、泣きながら食べる羽目になった事件を忘れたんか……」
「いちご山菜鍋? 何のことかさっぱりわからんな!」
 そう言いながら、ルルがあっちこっちの芋料理をお皿に盛りつけて。
「美味しそうなんだよ!」
「芋しかないけどな」
「そしてこっちとあっちとどっかのソースを掛ければ……じゃじゃーん! 『気まぐれドワーフのイモ畑』の完成です!」
「一気にヤバくなったんじゃが」
「おいしそー! じゃ、さっそく野良ちゃんに……」
 そう、この二人が野放しにされているわけがないのだ。
 すっかりお目付け役となったマリオン・フォーレもこの会場にいる、何故今二人だけで料理を取りに来ているかというと――。
 いつもお世話になってるお返しに、食事の準備は二人でするよ、と二人が言ったからだ。
「あの子達も随分と大きく成長し……いや、してねーぞ!?」
 しみじみしていたマリオンがカッと目を見開く。
 よく考えれば戦いがあろうが無かろうが、毎日好きなもの食って好きな場所で寝て、朝から晩まで歌ってるだけだった。
「なんなら退化してる説まである」
 そういえば、昨日も庭先で無意味に穴を掘ってた、ちゃんと埋めとけよ、クソキノコが落ちてたぞ。
「来年受験の奴も居るってのに……」
 そんな将来どうすんだ組が皿に芋を山盛りにして帰ってきましたよ。
「ほら言わんこっちゃない!! 気まぐれワンコに気まぐれドワーフを掛け合わせれば、ただの好き勝手だろ!!」
「うまいこというね、野良ちゃん!」
 はい! と開いた口の中にルルが芋を突っ込む。
「むぐ、む……美味しい」
 ほんとにもー、と思いつつも、もしかしたらこの芋のように何とかなるのかもしれないな、なんて。
 楽しそうな二人を見ていたら不覚にもそう思ってしまったので、マリオンは今日くらいはいいかと芋をもう一つ口に放り込む。
「いや、肉も食べたいわ」
 次は肉だー! と駆けて行った二人の後を今度は自分も一緒にと追いかけるのだった。

●家族の時間
 三人で作った手作りのアップルパイを手に、矢番・シイラがご機嫌な足取りで屋上へ向かう。ヨハン・バルトルトとディック・バルトルトも彼女を追う様に続く。
「ル・ル・ル♪ 今夜はいっぱい楽しもうね☆」
 ホットコーヒーの入った水筒をくるりと回し、シイラが東京の夜景を一望できる一番いい場所を陣取った。
 なんたって今日はシイラの旅立ちの日でクリスマス、従姉弟である彼女が旅立つ前に家族でパーティをしようと三人はここに来たのだ。
「うーん、やっぱりお母さんの家系に伝わるパイは素朴な味で我ながら上出来!」
 切り分けたパイを一口食べて、シイラが満足気な声を零す。シナモン等の香料を使わない、砂糖とリンゴ本来の風味を生かしたシンプルなキャラメル仕立てのアップルパイは何処にも引けを取らない味だ。
「こんな風に出掛けるのも久しぶりですね」
「アップルパイ作りも相当久しぶりだったぜ」
 ヨハンとディックもパイに舌鼓を打ちつつ、コーヒーを飲んで笑う。
「シイラは外宇宙に嫁入りだったか?」
「そ。シイラさんは運命のメンズに逢いに行くの。でもって大宇宙でお嫁さんになるのさっ♪」
 まだ見ぬ相手を求めて、外宇宙に向かうのだとシイラが明るく笑う。
「相手探しは止めませんが任務も忘れずに」
 釘を刺してはみるが、やはり遠くに行ってしまうのは寂しいものだと、ヨハンがいつもより苦く感じる珈琲を飲む。
「シイラだって覚悟は出来てんだろ、頑張れよ」
「勿論! 宇宙一の大恋愛しちゃうから、応援してね☆」
「しかも、兄弟も異種族のお嬢さん家に、お嫁に行っちまうんだよなぁ」
「ゴホッ、兄弟、僕はお嫁ではなくお婿に行くのです」
 しみじみと言うディックにヨハンがそう返せば、シイラがディック兄も寂しいんだ? 嬉しいなぁなんて笑って。
「……違ぇもん。寂しくなんかねぇもん」
 サングラスの奥で目尻を拭えば、シイラが彼に寄り添って同じ焔色の瞳を向けてウィンクをひとつ。
「いいさ、俺ぁ来年の夏で三児の父になるからよ」
「また甥か姪が?」
「ワォ! 新しいチビちゃん? 素敵☆」
 新しく紡がれる命も、彼らがこの地球を守った証だ。
 穏やかに過ぎる限られた時間の中、沢山の話をして、笑って。
 最後にディックが二人に向けて念を押す。
「いいか、これだけは忘れるな。どんなに離れても俺らは血を分けた家族だ。だから独りじゃぁねぇ、それとお前ら時々は連絡よこせよな」
 最後は寂しさが滲み出ていたけれど、シイラもヨハンも大きく頷く。
 親愛なる家族達に、それぞれの幸福と武運を祈って。
 心はいつまでも寄り添うから、さよならは言わないとシイラが笑った。

●ハッピーハーレムウェディング!
「私もウェディングドレス……着てみたい」
 そう、赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)が呟いた。
 クリスマスパーティーを楽しむ為に訪れたホテルで、丁度結婚式が行われているのが見えたから、ぽろりと口から零れ出たのだ。
 それを聞いていたのは、共に訪れていたクノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)と高坂・綾音(小さな花嫁・e10792)、そして舞鶴・雫(オニユリ・e53265)の三人で、お嬢様の願いならばとあっという間に結婚式を行うことに決定したのだった。
「しかも、私が皆を娶るハーレム形式!?」
「ええ、ご主人様がメイドの皆を娶るハーレム婚です♪ 本当の結婚式ではないのですし、細かいことはお気になさらず……ね?」
 クノーヴレットが着飾ったいちごを見て満足そうに微笑みながら言うと、綾音も雫もうんうんと頷く。
 本来であればいちごがタキシード姿になるところなのだろうけれど、彼は女子として育った心からのお嬢様。一番似合うウェディングドレスを着るのは当然の事。
「結婚式……私は既に済ませた身ですが、いちごさんの為とあれば吝かではありません」
 綾音が皆と同じようにドレスに身を包み、いちごに微笑む。
「お嬢様の願いですもの、叶えるのは当然です」
 桜色のドレスに着替えた雫が、ほんのりと頬を染めて頷く。
「まぁ、遊びみたいなものですしね……」
 なんて言うけれど、いちごだってウェディングドレスには胸がときめくし、皆のドレス姿に綺麗だと笑みを浮かべる。
「さあ、それでは式を始めましょう!」
 お遊びといえど折角ですし、本当の結婚式のつもりで参ります、とクノーヴレットがウィンクを一つ。
 四人並んでバージンロードを進み、誓いの言葉を囁き合う。それから、誓いのキスだって。
「いちごさん、今日だけはあなたのお嫁さんですよ」
 綾音が微笑んで、いちごを背中から抱き締める。どうか幸せになってくださいと、願いを込めて。
「愛しております、ご主人様」
 クノーヴレットがベールを持ち上げて、いちごに口付け。
「……わたしは惑星プラブータ出身、既に故郷も家族もありません。そんなわたしでも、お側に置いてくれた大事なお嬢様……愛、してます……おじょうさまぁあぁぁ……!」
 感極まって嬉し泣きをしつつ、雫が正面から抱きついて、誓いのキスを。
「ありがとう、私も……皆の事、大好きです!」
 三人三様の愛の形にいちごが大輪の花のように微笑んだ。
 熱烈なウェディングの後に待っているのは、旅立ち。それを知っているからこそ、四人は迷うことなく思うままに今を楽しんで――。

●Chambre la fraise
「とうとうお別れですね」
 綾音が三人に向け、僅かな寂しさを滲ませながら言う。
「私は夫と共に地球に残りますが……いつまでもいちごさんのことを思っています」
「ありがとう、私も忘れません」
 外宇宙に旅立つことを決めたいちごは、迷いない笑みを浮かべて綾音を筆頭とした見送りのメイド達に手を振る。
「私達がしっかりお世話します、心配は要りませんよ」
「はい! わたし、料理レシピを引き継がせて頂きました。皆の分まで精一杯尽くします……!」
 穏やかに微笑むクノーヴレットと、ぐっと拳を握って胸を張る雫がいちごの両脇に立つ。
「いつかまた……会いましょう」
 いちごが最後の瞬間を笑顔で締め括る。
 涙を見せる者、笑顔で見送る者、それぞれ表情は違うけれど、皆いつかまた、その日を信じている。
「主よ、お嬢様をお守りください」
 旅立つ彼らの行く末が幸せなものであるように、そう願って綾音はマキナクロスが見えなくなるまで祈っていた。

●空を舞う羽のように
 楽しげな声を上げて、クリスマスらしい飾り付けがされたプールで楽しんでいるのは旅団『-Feather-』の仲間達。
「わ、素敵なツリーです!」
 ウェディングドレスのような白い水着を纏った幸・鳳琴がプールサイドに飾られたツリーに小さな歓声を上げる。
「すごいな!」
「クリスマスらしいライトアップも綺麗よね」
 彼女と一緒になってツリーを見上げるのはスポーティな黒ビキニで快活そうに笑うクレア・ヴァルターと白いフリルが可愛らしいビキニ姿のジェミ・フロートだ。
 そんな三人を見守る様に笑っているのは赤と黒の水着姿のステラ・ハートに黒いビキニにパレオを巻いたリビィ・アークウィンド、ラベンダー色のオフショルダー風ビキニ姿の赤松・アンジェラと黒地に赤いラインの入ったサーフパンツを粋に着こなしたトライリゥト・リヴィンズ、そして青を基調としたボーイッシュな水着に身を包んだアンゼリカ・アーベントロート。
 それぞれが、それぞれの思い出を胸にこのプールへ集まっていた。
「鳳琴さん達は宇宙へ行くのですね」
 しみじみとアンジェラが言うと、鳳琴とジェミ、クレアが頷きながら皆の元へやってくる。
「私はさらなる強敵を求め宇宙へ行くことに決めてるんだ」
 クレアらしい理由に皆が笑って、頑張ってと声を掛ける。
「最初の私はアンゼリカさんの真似から始まったんだ」
「私の?」
 ジェミがアンゼリカを見てこくりと頷く。
「でもね、私の本当にやりたいことってなんだろうって考えた時にケルベロスとして変われたんだと思う」
 だから、その可能性を胸に宇宙に行くのだとジェミが笑った。
「そうか、私も宇宙に興味がないわけではないが、最愛の人と結婚も控えているからね」
「皆さんにも色々あったんですよね、私も、虐殺する私を助けていただいてから覚醒して……大切な戦友であり……家族とも思える皆さんがいたからここまで来れたのだと思います」
 ジェミとアンゼリカの話を聞いて、リビィが流れた月日を思いながらしみじみとそう言って頷く。
「リビィさんのいう通り、私達は大切な戦友であり、家族というような……不思議な絆があった気がします」
 六年という長い戦いの中で、ケルベロスの活動が出来なくなった仲間もいた。けれど、その思い出は私達の心を温め、力としてくれたのだとアンジェラが胸の中に灯る想いに微笑んだ。
「これからは平和なんじゃな」
 戦ってきた記憶を思い出し、ステラが平和という言葉を噛み締める。
「今までもじゃったが、今まで以上に勉学に励んで植物学の研究をしたいのう」
「いいな、やりたいことをやりたいようにできるんだ。平和になって行きたいとこも増えたしな」
 トライリゥトがそう言って、笑顔で話しを聞いていた鳳琴を見遣る。
「鳳琴ちゃんが団長だった-Feather-は俺やアンゼリカちゃん、それに今ここには居ない仲間達で留守をしっかり守るぜ」
 だから安心して旅立っていいと、彼が笑う。
「ああ、地球の事は私達でうまくやっておくから、悔いのないように宇宙での務めを果たしてくるといい」
「はい! 道場の事はトライさん達にお任せすれば間違いないですから、宇宙ではジェミさん達を……そしてまだ見ぬ誰かをライバルとして己を伸ばしてきます!」
 ぐっと意気込む鳳琴にトライリゥトが唇の端を持ち上げて、鳳琴とジェミを見遣る。
「宇宙組はこれからも大事な人が傍にいるのが力になるんだろ? 鳳琴ちゃんは勿論だが、ジェミちゃんもいい人、いるよな?」
「それは、えっと、はい!」
「いい人って……あの人は、友達、だしっ」
 ほんのり頬を染める鳳琴と真っ赤になるジェミの姿が微笑ましい、とリビィが笑って。
「私にもそういう方が現れてくれたらいいのですが」
「おぬしにだって必ず見つかるのじゃ」
「そうですわ、ステラさんの言う通りです」
 ステラとアンジェラが太鼓判を押すように、大きく頷く。
「な、別れの時間まではまだあるだろ?」
 クレアがウズウズとした様子で皆の顔を見ると、パッと明るく笑ってプールを指さす。
「ビーチバレーで遊ばないか?」
「いいですね、ビーチバレーやりましょっか!」
 楽しい思い出になる様にと鳳琴が立ち上がり、プールへと飛び込む。
 それに続くように、皆もプールへと飛び込んだ。
 別れの時間が来るまでたっぷりとパーティを楽しんで――。

●-Feather-
「ここまで見送りに来てくれて、ありがとうございます」
 鳳琴が改めて見送りに来てくれた仲間に、ぺこりと頭を下げる。
「離れても……私達はひとつ、だから」
 さよならは、また会う為の約束として。
「はい、私達は其々の物語はありますけれど『羽』の名の下、ひとつですわ。だから、これは今生の別れとは思いません」
「離れていても……そうですね心は一つです」
 鳳琴の言葉に、アンジェラとリビィが笑みを浮かべて頷く。
「心はひとつ、うん、いい言葉じゃ!」
「俺達は何処に居たって-Feather-の仲間だからな」
 ステラとトライリゥトが顔を見合わせ、旅立つ三人に向けて笑う。
「ケルベロスは、一度の敗北も許されない――その言葉を何度も口にし、戦い抜けたのはきっと仲間達に恵まれたからだろうね」
 アンゼリカが果てなき宇宙を見遣って、三人に視線を戻す。
「宇宙と地球、別れる私達だが-Feather-で戦った日々はけして色あせることはない」
 今までも、これからも、とアンゼリカが三人に微笑んで。
「そうだぞ、私達はひとつ! またどっかで一緒に戦えるといいな!」
 クレアが彼女らしい言葉で、皆の気持ちを受け止める。
「心はひとつ……うん、ありがとう、沢山の感謝を胸に、私……いってきます!」
 ジェミがダモクレスの妹と再会し、共に生きる未来を手に入れられたのも、きっと今まで出会った全てのお陰なのだと感謝の言葉を口にして。
「はい! またいつか……私達の心の翼で、共に駆けましょう!」
 晴れやかな笑みを浮かべた鳳琴が、いつかの未来でと手を振る。
 だからこれは、今生の別れではないのだと、見送る五人も手を振って。
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃい」
「またな!」
「行ってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいじゃ!」
 想いを受け止め、ジェミが、クレアが、鳳琴が声を揃えて仲間へと叫んだ。
「「「いってきます!」」」
 いつか、また会う日まで!

●わたし達らしいクリスマス
 せっかくのクリスマスだし、おいしいものを食べよーっ♪ そう言って、旅団――幻想武装博物館の仲間へ声を掛けたのは団長であるシル・ウィンディアだった。
 彼女の声に集った団員達が、ホテルのビュッフェ会場へ続々と姿を見せる。
「わあ、本当に豪華だね!」
 金色の髪をふわりと靡かせて、アストラ・デュアプリズムがずらりと並んだ料理を見回す。プレゼント箱のように華やかにデコレーションされた相棒のミミックであるボックスナイトも、今日ばかりは彼女のお目付け役を返上中だ。
 腕を組んでやってきたのは結婚したばかりの新婚カップルでもある夢見星・璃音と青沢・屏で、仲睦まじい姿に二人を知る者達は思わず笑みを浮かべてしまうほど。
 ビュッフェのスイーツスペースに目を釘付けにしているのはパティシエ志望のミオリ・ノウムカストゥルムで、その飾り付けの美しさに感嘆の溜息を零している。
「このプリンの装飾、芸術的ですね……」
「どっかで見たことあるようなプリン、な気がするよ」
 ミオリの横で、プリンに手を伸ばす安藤・優がぽつりと呟いた。
 並ぶ料理を少しずつ取って、円城・キアリがその味を確かめるように吟味する。
「これと、これ……それから、これも」
 美味しいと思った料理を幾つか皿に取って、うんと頷く。美味しいものを皆と分かち合いたいのだと、真剣な表情だ。その隣では、日柳・蒼眞が適当に取ったカクテルにぱちりと目を瞬かせている。
「ん、このカクテルいい味してるな」
 吹き抜ける風の様な爽やかな味わいに、思わず目を細めて笑みを浮かべた。
「食べたいものがいっぱいだな」
 むう、と悩みながらも新城・恭平がしっかりとお皿に料理を盛り、皆の集まる方へと移動していく。
 既に料理とドリンクを手にしたアンジェリカ・ディマンシュが、続々と集まる仲間を眺めて感慨深げに吐息を零す。
「もうすぐ全てが終わり、全てが始まるのですね……」
 その為のクリスマスパーティ、今までの思い出を振り返る様にアンジェリカが仲間の輪に入る為に一歩を踏み出した。
「みんな、揃ったー?」
「シル殿、パトリック殿がまだデス」
 シルに向かって、人数を確認したエトヴァ・ヒンメルブラウエがそう伝えた瞬間に、会場の入り口からこちらへ向かってやってきたのはサンタ風ワンピースを着こんだパトリック・グッドフェローであった。
「よし間に合ったな! すまなかった! 保育園のイベント終わって着替える間もなくすっ飛んできたぜ」
「わあ、サンタサン素敵デス」
 そうか? とサービスとばかりに裾を翻してパトリックがターンを決める。
「これで全員ね? みんな飲み物を持ってね!」
 シルがそう号令を掛けると、全員が手にしたグラスを掲げてみせた。
 こほん、と小さく咳払いをして、シルが皆の顔をひとりひとりしっかりと順に見回しながら言葉を紡ぐ。
「宇宙と地球……こういう形でお別れがくるなんて思ってもなかったね」
 でも、とシルが笑みを浮かべて。
「湿っぽいのは苦手だから!」
 その笑顔は彼女がいつも浮かべる、見るものを安心させるような笑顔で団員達も思わず笑みを浮かべる。
「めいっぱい楽しく、明るく、わたし達らしくでっ!」
 グラスを掲げれば、それに倣う様に全員がグラスを掲げて。
「それじゃ、乾杯っ!」
 グラスの縁を隣り合う仲間のグラスに軽く当てる、仲間の門出を祝うような硝子の音が響き渡る。口々に乾杯、と声を響かせて杯を飲み干した。
 さて、ここからは無礼講。それぞれがクリスマスの夜を楽しむべく、ビュッフェの料理が載ったお皿を片手に会場の中をあちらこちらへ歩きまわる。
 豪華な料理、美味しそうなケーキにワインにカクテル、何より幻想武装博物館に属する彼らの目を惹くのは――プリンだ。
「さすがにここのスイーツはひと味違うね、中でもやっぱりこの……プリン!」
 アストラが手にしたのはプリンが綺麗に飾られた、そう、プリンアラモード! バナナに苺、飾り切りされたリンゴに生クリーム、そしてプリンの上に飾られるのは一粒のチョコレート。
「やっぱり見たことあるような……」
 優が呟けば、パトリックも頷きながらプリンの皿を二つ手に取る。
「ディターニアの分も貰うぜ、しかし、うん。うにうに……もとい、プリン」
 ボクスゴラゴンのティターニアの分も、と取った皿をまじまじと見る。
「ハロウィンの時によく見たような、だな」
 蒼眞がクリスマス仕様のプリンが載った皿を手に、はは、と笑った。
「ぐ、偶然よ! 偶然! うにうになんかじゃないんだからねっ!」
 シルも思わずプリンアラモードのお皿と睨めっこをしてしまったけれど、ほら! と一匙掬ってぱくんと食べた。
「美味しい!」
「ええ、とっても美味しいですわ」
 上品な所作でアンジェリカがプリンを口に運び、その味を褒める。
「あ、それも美味しそうですネ」
 ローストビーフを食べていたエトヴァがプリンアラモードに惹かれてやってくると、キアリがお勧めの一皿を渡す。
「これ美味しかったわよ、食べて食べて」
 他の仲間にも勧めつつ、シルにこれも、あれも、と勧めていく。
「ん~、どれも美味しいわ!」
「でしょう? 特にこのローストビーフは絶品ね!」
 嬉しそうに食べる彼女を見て、宇宙ではもう食べられなくなるかもしれないし、という想いは隠してキアリも嬉しそうに笑う。たくさん食べて、笑って、元気に旅立ってほしい。寂しくないとは言わないけれど、湿っぽく見送りたくはないという、彼女の最大限のできること、だった。
「私も、いずれはきちんと勉強してこういったスイーツをお出しできるようになりたいですね」
 ミオリが将来の夢を口にして、プリンを一口。
「そういえば、クリスマスはいつもぼんやりと過ごしてた気がするけど……こうやって楽しく騒ぐのはいつ以来だろうか? これが、本当に平和になった証拠なのかもしれないね」
 しみじみと優が口にすれば、エトヴァも戦いが終わった瞬間を思い出す。
「デウスエクスと手を携える未来が来たのですネ」
 噛み締めるように言葉を紡ぎ、ならばこの先も皆がこうやって笑い合える世界であるように、自分も頑張らねばと決意も新たにプリンの上に乗っていたチョコを口に放り込んだ。
 そこから少し離れた場所で、皆を見つめて少し寂し気な顔をするのは璃音だ。
「璃音」
「うん、わかってるよ」
 でも、と璃音が屏を見上げる。
「こうしてみんなで楽しめるのもこれが最後なのかって思うと……」
 楽しいはずなのに、どこか物悲しくて。自分は夫である屏と共に地球に残り、光をもたらし続けることを決めたけれど。博物館の皆がいなければ、きっと今の私はいなかったと璃音が零す。
「今になってわかるよ、ここは私にとってかけがえない場所だったんだって」
 ぽたり、と零れた涙を屏が静かに拭う。
「璃音の気持ち、わかります」
 けれど、これは仲間を見送る前の最後の祭りだと屏が微笑んで、彼女を諭す。
「私も雰囲気を悲しませるのが好きではありません」
 でも、だからこそと屏が璃音の手を取って、仲間達の方へと歩き出す。
「やはり私たちのずっとのように、笑って、騒いで、行こ!」
「屏、うん、そう、そうだね」
 涙はどうしたって堪え切れないけれど、それでもと璃音が顔を上げる。
 向かう先には自分達を笑って迎えてくれる仲間が居て、自然と笑みが零れた。
 旅立つ仲間、残る仲間、全員が揃うのは最後かもしれないし、また再び笑って顔を合わせる日がくるかもしれない。
 わからないけれど、今は笑ってこのクリスマスのひと時を楽しもうと皆が笑みを浮かべ、記念撮影に勤しんだ。

●幻想武装博物館
「これが今生の別れとなるとは信じんぞ、きっとまた会う事ができるだろう」
 旅立つ仲間を見送るその瞬間に、恭平がそう言った。
 それから、すっと背筋を伸ばして。
「シル団長さん、そして旅立つ皆」
 今までの一瞬一瞬が永遠のようにすら思える、けれど。
「この先、光さえ届かぬ無限の距離が皆と地球の我らを隔てたとしても。我らの縁は途切れることはない」
 だから別れは言わない、どうか皆の未来に祝福をと、襟を正して恭平が柔らかく微笑んだ。
「うん、今までありがとう。行ってらっしゃいだね」
 これからどうしたいか、ボクはまだ決めていないけれど。皆に胸を張れるように進んでいけたらと、アストラが今ここで、心の中で誓う。
「オレは保育所の子達が幸せになる手伝いがしたいからさ、居残るけど」
 それでも、この旅路が長旅になると聞けば寂しくなる。けれど、辛気臭い顔を宇宙へ向かうシルや仲間達の記憶に残るのは癪だから。
「オレはさ、オレ達は復興のため精一杯頑張るからな!」
 パトリックがそう意気込んで。
「これは始まりの終わりであると同時に、次なる物語の始まりですわ」
 穏やかな笑みを浮かべ、アンジェリカがシルの手を取る。
「シル、もしもまた新たなる敵が現れて地球の人々やデウスエクスが危機に陥った時……貴方は理屈を超えて彼らの元へと駆けつけるのでしょうね」
 それは今、ここに並び立つケルベロスたる皆も、勿論わたくしもそうだとアンジェリカが微笑んだ。
「うん、その通りだよ」
 だからどうか、いつまでも元気で。そして、叶う事はないかもしれないけれど。
「また、いつかね!」
 キアリがそう微笑んで、でも聖夜なのだから、そんな奇跡を願っても良いわよね、と寂しさを隠して笑顔を浮かべた。
「長い旅かもしれないけれど、みんながいつか帰るところは、ちゃんと思い出の中にあるからね」
 ここにさ、と胸をとん、と叩いて優が頷く。
「だから、いつか何処かで、また会おう」
 さよならは言わない、それが約束の証。
「だめだな、やっぱ私は感情を堪えることができないみたいだ」
「璃音、分かち合った幸せが、私たちの再会の道標になる……覚えてる? だから、ちゃんと笑って見送らなきゃいけないんだよ?」
 屏が彼女の肩を抱いて、そっと囁く。その言葉に璃音が頷いて、今できる精一杯の笑顔を浮かべる。
「何があっても、あなた方なら大丈夫」
 いつだって輝く笑顔を浮かべていた、あなた方なら。
「行ってらっしゃイ――また会える日まで」
 大丈夫、覚えていますとエトヴァが微笑む。
「それじゃ、またな」
 いつものように、蒼眞が笑う。
「もし、もう会えないとしても、一緒に過ごした思い出はここにあるから……なんてな」
 柄でもないけれど、そう信じているから。
「旅立つ皆さんの行く先は希望で溢れています。ここに残る皆さんの未来が幸せに満ちています」
 そうに決まっていると、力強くミオリが頷いて。
「ありがとう! 皆と過ごした六年の時間を胸に……わたしは行くよ」
 シルがいつもと変わらぬ笑みを浮かべる。
 さよならは不要だ、またいつか会えると信じているのだから。
 いってきます、ありがとう――。
「またねっ!」

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年12月24日
難度:易しい
参加:30人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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