●オランダでガーデンウェディング
アダム・カドモンとの最終決戦であったケルベロス・ウォーに勝利して半年。
「新型ピラーの開発が無事成功しまして、ダモクレス本星マキナクロスにおけるケルベロスたちの居住区も、すぐに暮らせる状況になったでありますよ!」
小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)は、ヘリポートへ集まったケルベロスたちへ嬉しそうに報告したものだ。
「これ即ち、降伏したデウスエクスと、ケルベロスの希望者をお乗せして外宇宙に進出する準備が整ったのであります!」
この外宇宙への進出は、『宇宙に異常をもたらすデウスエクスのコギトエルゴスム化の撤廃』を行うため、『新型ピラー』をまだ見ぬデウスエクスの住む惑星へ広めにいくという、途方も無い旅になる。
もともとのマキナクロス住人であるダモクレスたちは当然——ケルベロスの意見を受け入れた強力な種族として——同行してくれるが、最後のケルベロス・ウォーの後に降伏したデウスエクスのうち、『地球を愛せず定命化できなかった者』も、外宇宙へと旅立つという。
「それで、マキナクロスの出航に必要な膨大なエネルギーは、季節の魔法『クリスマスの魔力』を利用する予定なのでありますよ」
クリスマスの魔力を利用することで、なんと、竜業合体のように光速を超える移動すら可能になるそうな。
「というわけで……外宇宙に向かうケルベロスの皆さんと地球に残るケルベロスの皆さんは二度と会うことができなくなるかもしれませんから……外宇宙に向かう方々の壮行会も兼ねて、季節の魔法『クリスマスの魔力』を最大限に高めるべく、地球各地のクリスマスイベントに参加して盛り上げちゃってくださいませ!」
と、笑顔で皆を誘うかけら。
「さて、わたくしが案内したい会場は、オランダの歴史ある老舗バラ園であります」
その広大な薔薇園が、クリスマスイベントの企画として、興味深い結婚式プランを打ち出したらしい。
薔薇園での結婚式は、屋内を沢山の薔薇で飾りつけた荘厳なチャペルウェディングと、生垣や大きな花壇に咲き誇る薔薇を愛でられるガーデンウェディングの2種類から選べるそうな。
「薔薇って、大きな花びらがたくさん折り重なって鮮やかな赤やピンク色に咲く、とても華やかなお花だというイメージがあるかもしれませんが、実は薔薇とひと口に言っても数え切れないほど種類がありまして」
艶やかな大輪の薔薇の他にも、ころんと丸くて可愛らしいスプレーウィットや、花びらの形や燻んだ色彩がそれっぽい、優しい印象のテディベア。
花の形からして薔薇らしくなく、凛とした雰囲気のムーンライト、細く丸まった花弁が愛らしい多花性のスーパーフェアリー……。
「華美なものから清楚な雰囲気までまさに自由自在。様々な種類の薔薇をご自由にお好きなだけリクエストできますので、挙げたい結婚式のテイストに合わせて、飾りつけの方向性をお決めくださいね♪」
ちなみに結婚式場として使うチャペルやローズガーデンは複数ある上、参加者カップルそれぞれがバッティングしないようにスケジュール調整も万端なので、他の参加者の指揮の有無は気にせず、安心して結婚式を挙げて欲しい。
また、自身に結婚式の予定がなくても、世界中のバラが集まったオランダの薔薇園で、名産の切り薔薇や染め薔薇を買うのも良い思い出になるだろう。
加えて、新郎新婦の了承さえあれば、結婚式に参列してお祝いする側に回るのも良い。
ともあれ、世界中で行われる結婚式も含めた数々のクリスマスイベントを終えて、クリスマスの魔力を充填したマキナクロスは、いよいよ外宇宙へ出発することになる。
「おそらくマキナクロスは光速を超えて外宇宙へ向かうでありますから、出発した瞬間に姿が消えて、以後は観測もできなくなるでありましょう」
でも、とかけらが続ける。
「万能戦艦ケルベロスブレイドで月軌道までならお見送りに行けますので、月軌道上で最後のお別れを行うであります。そこで別れたら、もう二度と会えなくなるかもしれないであります。後悔の無いように別れを惜しんでくださいね」
●暁色の薔薇に囲まれたチャペル
「やっと、ここまで来たんだね」
オレンジ、紫、赤——3色の薔薇で華やかに彩られた式場を眺めて、神宮・翼(聖翼光震・e15906)が感慨深そうに呟く。
「ええ、遂に、結婚式ですか」
朝倉・くしな(鬼龍の求道者・e06286)も喜色満面な笑顔で頷いた。
「なんだかんだと3人一緒なままになりましたね」
2人は、フィッシュテールのウェディングドレスがモチーフとわかる蠱惑的な水着を身に纏っていた。
豊満な胸を飾るスカラップレース、きゅっと絞ったダブルフリルのリボンやサテンでできた白い薔薇が可愛らしい。
スカートの内布は翼が紫、くしなは赤でどちらも当人によく似合っていた。
(「オレが誰かを幸せに出来るかどうかはわからない」)
和やかに語り合う2人の花嫁を眺めて、ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は新たな門出の実感を噛み締めていた。
(「それでも、少なくともこの二人は幸せにしたい。……オレを幸せにしてくれた、翼とくしなは」)
と。
新郎1人、新婦2人のハーレム婚は、人前式らしく自由に誓いの言葉を述べる形にした。
「最初はウブなロディくんで遊んでいるつもりだった」
程よい緊張感が漂う中、最初に口を開いたのは翼だった。
「でも、それはあたしが自分の本気をごまかしてるだけだった……まっすぐで正義感の強いロディくんが好きだったんだ」
少し照れた風に視線を下げれば、自分の胸で手前へ押し出されている紫の薔薇のラウンドブーケが目に入る。
「それに気づいたのは、その手を離した後だった……あの時は死ぬほど悔やんだっけ」
上品な風情のスターリングシルバーは、翼の深い後悔を写しとったかのような寂しげなラベンダー色だ。
ところどころに混ぜられたトワイスインナブルームーンも同じ紫系統である。
「それからもう一度ロディくんの手を取って、くしなちゃんと一緒に今度は遠慮なく二人で『好き』をぶつけてたっけ」
だが、翼の瞳へ宿っていた陰はすぐに消えて、口元にも笑いが浮かぶ。
「ロディくんの困ってる顔、可愛かったな」
隣では、くしながしきりにうんうんと頷いていた。
「だけど、今日は三人とも笑顔でいたい。長い道のりだったけど、あたしはやっと幸せを掴んだんだから」
目の端に滲んだ涙へは気づかないふりで翼が言い切れば、その想いが伝わったかのように、ロディとくしなにも笑顔が広がった。
「別に最初はこういう感情を抱く事になるとも思っていませんでした」
次いで、おもむろに口を開くのはくしな。
「ただまあ……3人一緒にいるのは楽しくて、そして、いつしかこうなるようにしか考えられなくなったのですが」
赤いカーディナルの開き切った花びらを活かしたキャスケードブーケを弄びながら、何気なさを装って心情を吐露する。
「二人には振り回されっぱなしで、オレも困った顔ばっかしてたと思う」
ロディは翼とくしな、2人ともへ頷いてみせて、素直に来し方を振り返る。
「それでも、こんなオレと一緒にいてくれた事には感謝しているし、一緒にいて楽しかった。何より、二人がいたからオレも笑えるようになり、前に進めるようになった」
明るい髪色に馴染んだオレンジ色のタキシードがよく似合うロディ。
式場のチャペルの装花も、3色のうちオレンジ色の割合を多くして、まるで暁の空のような情趣で飾りつけてある。3人の結婚生活のスタートを祝福する意味を込めて。
「だから、オレは二人と結婚する。二人がオレにくれた幸せのいくつかでも返したいから」
とはいえ、ロディの童顔までもが朱に染まっているのは、決して会場に飾られたオレンジの薔薇の照り返しのせいだけではあるまい。
「ちゃんと二人とも幸せにして下さいね?」
そう微笑みかけてから、ふと翼と目線で頷き合うくしな。
翼は心得顔でロディを挟んだ反対側へと移動した。
「ああ。今までみたいに三人一緒に、同じ未来を目指したい」
ロディはそんな花嫁たちの可愛らしい目論見に気づいているのかいないのか、彼なりの誓いの言葉を誠心誠意伝えた。
「あ、でも心配しなくても、私はロディさんと翼さんとこれからもずっと一緒にいられるだけでも、とても幸せですよ」
そして翼とくしなは、示し合わせてロディの左右に陣取るや、同時に両の頬へキスをした。
新郎と2人の花嫁に末永く幸あれ。
●蛍光グリーンの薔薇庭園
「本日はぽくたんの結婚式にお集まりいただき、ありがとうございますだにゃん!」
荘厳なチャペルの中、新郎のルイス・メルクリオ(キノコムシャムシャくん・e12907)が声高らかに宣言する。
「新郎は拙者、そしてこちらは新婦のマジカルナースウィッチ・野良ドリちゃんだにゃん!」
しーーん。
参列者たちに沈黙が落ちて、微妙な空気が流れた。
「……ほんとに拍手しなくて良いのでありますか?」
「無論じゃ。新郎自身が司会進行をやるのも、場が凍りつくのも新郎による由緒正しい二次元婚の痛演出のうちじゃ」
と、かけらとガイバーンがひそひそ囁いている。
(「拾った日から、はや6年……すくすくとやべー方向に成長しやがって、もはや更生不能の完全体じゃねーか……!!」)
そして、こちらも律儀に新郎の親族席で沈黙を守っているマリオン・フォーレ(野良オラトリオ・e01022)だが、やっぱり内心では青筋立ててガチギレていた。
ちなみに新婦のマジカルナースウィッチ・野良ドリちゃんとは、どこぞの暗黒街の帝王によく似て可愛らしい容姿をした、8分の1スケールフィギュアとのこと。
今までも重石がわりにされたり燃やされたりと何度も酷い目に遭っている不幸体質なお嫁さんだが、果たしてその度に代替わりしているのかルイスがメンテナンスをしっかりしているのかは不明。
「慎ましくも笑いの耐えない不愉快な家庭を築く所存」
「笑いは絶えないものであって、耐えないものじゃねーんだよ! お前の奇行に、こっちの腹筋が耐え難いわ!!」
ビキビキと青筋の収まりそうにないマリオンが、ついに声を荒げてブチギレるものの、やっぱりこれもルイスにとっては想定内のアドリブ姉弟漫才だったりする。
「外見も似てることだし、しれっとダモクレスの船に乗せて、宇宙に飛ばしちまおうかな……」
さらには勝手に弟夫婦の宇宙行きを決めそうなマリオン。
外見が似てるとはレプリカントとダモクレスのことか、はたまた新婦と自分の話か。新婦なら流石に1分の1スケールにでもしないとすぐバレそうだ。
「不法投棄じゃありませーん! 放流でーす!」
誰にともなく言い訳するマリオンだが、
「こらこら、ルイスが宇宙へ行ったら誰が桁を間違えた発注書を捌くんじゃ。姉弟総出でも死屍累々じゃったのがマリオン1人の負担になるんじゃぞ」
「そうそう、4人居てこそ……いや何人だったか……全員いてこそのララ乳だろう」
ガイバーンと衣に言われてしまった。衣が両手で6、7、8と指折り数えているのは謎。
「ん? なんかフィギュアから黒いオーラが出ている?」
そんなこんなで滞りなく進んでいた式だが、突然焦げ臭い匂いを醸し出した新婦へ新郎ルイスが気づく。
「おいおいHAHAHA……そんな訳ナッシン……ギャアアアアアア!」
ぶおおおお!!
「目からビーム出す回路が焼き切れて、火ぃ噴いたぁあああああ!」
そう。黒いオーラは何あろう、本物の黒煙だったらしい。
「おーおー、勝手に火だるまになっとるわ」
マリオンは新婦の火炎放射の餌食になった弟を見やって、余裕をぶっこいでいたが、
「処分する手間が省けて、僥倖僥倖……」
「ヘルプ!! 姉ちゃんヘルプゥウウウ!!」
その火だるまが自分の方へ突進してきたせいで、到底他人事ではなくなってしまった。
「って、お、おいバカこっち来んな!!」
ついに始まった姉弟の全力疾走追いかけっこ。
「こっちに来るんじゃねぇえええええええ!!」
流石にこれは誰もが想定外なトラブルだが、姉弟ともにケルベロスというだけで誰もが安心し笑いに変わるのだから、なかなか酷い業を背負っているといえよう。
とはいえ——幾ら焼死の心配がなくとも——マリオンとて火だるまの二の舞はごめんであろう。
幸いここは広大な薔薇園。薔薇で飾り立てられた噴水がそこかしこにある。
どぼーーーん!!
マリオンは火を移される前にと思い切って薔薇噴水にダイブした。
「……これで全部終わりかぁ……」
「冬のオランダで寒中水泳とか、イベントの趣旨、変わってね?」
火だるまルイスもこれ幸いと薔薇噴水へ飛び込んで鎮火したが、寒さにがたがた震えている。
「まぁ、趣旨変えてんのは自分達だけどさ……」
何せ贅を尽くした白タキシードとカラードレスだ。それらがどれだけ冬の冷水を吸い込み重くなって体温を奪いにかかっているかは、お察しである。
「でも、ま、楽しかったよな……」
「ま、なんだかんだで楽しかったですよね」
姉弟がふと空を見上げると、一瞬宇宙へ吸い込まれるようにして消えゆくマキナクロスが見えた……気がした。
「「……ぶぇーっくし!!」」
さて、そんな姉弟漫才を見守る先輩夫婦がいた。
レッヘルン・ドク(診察から棺桶まで・e43326)と愛篠・桃恵(愛しの投影・e27956)のご両人である。
「おー結婚式だね。お2人ともお幸せに~!」
「桃恵、大丈夫ですか? 転ばないように気をつけてくださいね」
普段は露出した肌を蠱惑的に魅せる大胆な衣装を纏う桃恵だが、この日はお腹を冷やさないような暖かそうなアウターを纏って、寄り添うレッヘルンから支えられるようにして気遣われていた。その理由は推して知るべし。
「新郎さんも新婦さんも初々しいね♪ ふふ可愛い♪」
「初々しい方々、落ち着いた方々、新婚夫婦の形はそれぞれですが……どれも幸せそうでとてもよいものです」
どうやら火だるま追いかけっこをしていたルイスとマリオンを新郎新婦と勘違いしてのほのぼのした感想らしいが、敢えて訂正する者もいない。
わざわざ新婦は8分の1スケールフィギュアですなどと教えて、ドク夫妻の夢を壊す必要もなかろう——というのが同じ参列者であるガイバーンたちの総意であった。
「僕達のときもあんな感じだったのかな?」
「さあ、どうでしょうか……少なくとも、あんなにアクティブに庭を走り回ってはいなかったと思いますが」
桃恵へ優しく答える傍ら、噴水から上がって謎のガッツポーズを取る件の新郎たちにも、しっかりと手を振るレッヘルン。
「先輩として暖かく見守ってあげよう。なんてね」
その様をにこにこと笑顔で眺めている桃恵。ちなみに2人は結婚2年目なので、こちらも充分新婚さんと言えるかもしれない。
実際、2人が作る熱々でラブラブな空気感は、どこの新婚カップルにも引けを取らない。
「みんな幸せそう……自分のことみたいに嬉しいな……ね♪」
今もレッヘルンの腕にギュッと抱きつく桃恵は満面の笑みを浮かべていて、とても幸せそうだ。
「さあ、次はどなたが誰かとの門出をするのでしょうね?」
折しも結婚式のプログラムはブーケトスに移っていて、綺麗な薔薇のブーケが宙を舞っている。
ブーケの中央で新婦らしき人形が目から火を噴いているのは多分気のせいだ。
それはそれでブーケの薔薇が赤々と照らされて綺麗ではある。防炎加工された造花なのだろう。
「それにしても薔薇に囲まれた結婚式、ですか」
薔薇は贈る色、本数で様々な意味を持つ花だから、とレッヘルンが思案に耽る。
「私が桃恵に贈るならば……999本『何度生まれ変わってもあなたを愛する』でしょうかね……」
「ドク……!」
「おやおや、そんなに喜んでくれるなら、用意、してみましょうか」
その後、薔薇園の切り花屋に大口の注文が入ったそうな。
999本もあれば、色んな形や趣向のブーケが楽しめそうである。
●ピンクの薔薇庭園
「薔薇に囲まれてのクリスマスって、何だかお洒落でいいわね~」
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、薔薇園の植え込みをのんびりと眺めて回っていた。
薔薇園だからいかにも薔薇らしい花弁の品種も多いのだが、そんな中でパッと目につくのは、薔薇っぽくない品種の数々。
花弁がたった5枚で星型をしたハンシート。雄蕊が目立つ一重咲きのヴェスヴィアスなどなど。
「種類がいっぱいあるのは知ってたけど、一見して薔薇とは思えないのもあるのね……」
かぐらも、ピンクドリフトやオールアトゥウィッターを気に入って、取り混ぜたブーケにしてもらった。
「切り花を長持ちさせる方法、あるいは生花に限らず薔薇を長く楽しめるような加工の方法はありますか?」
ブーケを作ってくれた店員さんにそう尋ねれば、生花を長持ちさせる液体状栄養剤や、プリザーブドフラワーやドライフラワーについても説明してくれた。
「生花の見た目と質感を殆ど損なわずに加工できるプリザーブドフラワーは、数年に渡ってお花を楽しめます。生花やドライフラワーは手を加えない自然のままの姿が魅力的ですが、丹精次第で長生きさせられるといってもやはり限界がありますね」
とのことだ。
どうせならそれぞれを同時に世話してみようと、かぐらはブーケの薔薇に加えてプリザーブドフラワーとドライフラワーも買うことにした。
「あ、それと、こっちの花束は小檻さんへ」
「えっ、いただいてもよろしいのでありますか」
そして、一緒に買っていたらしい薔薇の花束をかけらへプレゼントするかぐら。
「はっきりとした色がいいかなって思ったのだけど、どうかしら?」
シティオブバーミンガムやカウンティフェア、ハンデルなど、どれも彩り鮮やかな品種ばかりだ。
「わぁ、ありがとうございます! 赤とピンクのコントラストが綺麗♪」
「今までいろんな依頼に連れて行ってくれてありがとね。わたしは残る組だから会えなくなるって訳じゃないけど、一応区切りとしてね」
「こちらこそ、沢山の依頼にご参加くださってありがとうございました~。ええ、またいつでも会えますとも」
「石英にも今までお疲れさまって伝えたいわ」
「万能戦艦の中にいますよ。会ってくれたら石英も喜ぶであります♪」
なんならクリスマスを楽しんだ帰りは石英でゆっくりと帰るのも良いかも——楽しそうに帰りの計画を立てる2人であった。
「どんな状況だろうと、俺は俺でしかないんだしな」
と、いつなんどきでもかけらへおっぱいダイブを敢行し、蹴落とされているのは日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)。
当人曰く、結婚式の予定なんて欠片程も無いそうな。
「取り合えず今回は、色気より食い気という事で……世界中の薔薇を集めた薔薇園なら、食用のものも無いのか?」
「ありますよ~こちらなどいかがでしょう。
かけらが土産物屋で見つけたのは、ダマスクローズ系統の食用薔薇であった。
「店員さんによると花びらの付け根が甘くて、柔らかい食感だとか」
「そうか。薔薇のジャムやお茶なんかはよく聞くけど、食用薔薇を使った料理も色々あるらしいからな」
蒼眞はその食用ダマスクローズとベルローズの購入を決めると、薔薇のレシピ全集なる本も手に取る。
「花をまるごと素揚げとかはできるのでしょうかね。ほら、紅葉の天ぷらみたいに」
「薔薇の花びらの砂糖漬け、炭酸ジュース……へえ、薔薇のドレッシングなんてあるのか」
「ビネガーに薔薇の匂いを移して作る……わぁ、美味しそうでありますね♪」
あれこれ言いながら、薔薇ゼリーや薔薇ジャム入りクッキー、薔薇ジャム入り紅茶を楽しむ2人。
その後、蒼眞はひとりでのんびりと薔薇園の散策に繰り出した。
実際、蒼眞の期待通りの本格的な薔薇園、世界中から集められた薔薇の数々は、彼の目を楽しませる。
青みがかった紫色のアプローズ、黒みがかった赤色のブラックバカラなどなど。
海外作出の品種の素晴らしさもさることながら、驚いたのは日本産の薔薇の種類もそれらに負けないぐらい多く、どれも美しいことであった。
薔薇園の一隅。
「小檻様、最後と聞いて遊びに来たぞ」
ユグゴト・ツァン(オブリビオン・e23397)は、気の置けない友人であるかけらに会っていた。
「ようこそおいでくださいました。ふふー、お久しぶりでありますねぇ」
「色々と騒々しい争いだったが、現、我が仔等は平穏への道を辿る事が出来たのだ」
ちなみにユグゴトの言う我が仔とは自分以外の全生命を指すらしい。
「うんうん、世界中の人々が今の平和を喜んでくださってるでありましょう」
「否、此処からが本番と説いても間違いではない」
「左様でありますね。それこそまさに、結婚はゴールでなくスタートみたいな。平和も勝ち取って終わりでなく、ずっと守っていくのが大切であります」
ユグゴトの言い回しは相変わらず難解だが、流石に付き合いの長さゆえか、問題なく意思疎通できるかけらだ。
「幾等か繰り返した眼振も嘔気も、ある意味では大切な経験と言えよう」
「あはは、どんな趣味でも大切にするのは良いことでありますよ。2人して師団のゲロインの座に並び立ったのが懐かしいでありますね~」
共に思い返すのは、日頃の師団やら超会議時のユグゴトの旅団で、縦に横にとあらゆる手段で高速回転したこと。もちろん吐くまでやめなかった。
「嗚呼――私自身は既婚の身故、此度は祝う側で存在すべきか」
「ご主人にもよろしくお伝えくださいな」
「皆に祝福を。悉くの脳髄に幸福を」
「ありがとうございます。またお目にかかれるかわからないし、先にお祝いされておくのも良いかもしれませんね」
2人の話は尽きることがなかったが、ふと、ユグゴトが本題を切り出した。
「ところで私の故郷は如何成ったのか、勿論、今更の話で外宇宙(ひろ)さには敵わないがな」
私は外宇宙に行く予定、だと。
「たくさんの子供達、可能で在れば彼も一緒に向かうのだよ。刹那の挨拶——サヨウナラ——だが、良質な思い出は決して失せない」
「ええ。今までありがとうございました。お元気で、お幸せに」
友人との別れはかけらとて覚悟していたことなので、落ち着いた様子で頭を下げる。
「……これは私の我儘、母親としての悪質性だが」
すると、珍しく歯切れの悪い物言いになるユグゴト。
「はい?」
「我が仔よ、来ないか?」
かけらが驚いて顔を上げれば、酩酊していない真っ直ぐな視線とかち合った。
そして、月軌道上。
「伏見殿もユグゴト殿のお見送りでありますか」
万能戦艦ケルベロスブレイドの中でかけらが声をかけた相手は、伏見・万(万獣の檻・e02075)。
「ああ。あいつが宇宙に行くと聞いたんでな」
万はユグゴトと呑み友達の間柄らしい。
「決めた事なら止めやしねェ。そこに口出しするほどガキじゃねェ」
いつもぐでんぐでんに酔っ払っているユグゴトと、『酒は動くために必要な燃料だ』と言い切るぐらい大酒飲みの万。
「ただ、飲んだくれ仲間として見送りぐれェはしようと思ってな」
そんな2人のサシ飲みは、様々な茸やら何やらを肴に、今日のクリスマス寸前まで続いていたようだ。
「伏見殿ご自身は、宇宙へは?」
「宇宙か――俺には、何にせよ向いてねェよ。行きたい奴に任せるさ」
さて。いよいよマキナクロス出航という段階になっても、ユグゴトはいつも通り飄々としていた。
「今年できた、いい酒をとっておく。おめェが戻って来る頃にはイイ年代モンになってるだろうから、飲みに来い」
本当なら『その時は一緒に飲もう』と言うつもりが、心に反して口が勝手に動いていた。
「達者でな」
それもまた自分らしいかと思い直して、万はさらっと別れの挨拶を述べる。
「嗚呼。伏見様と小檻様も。総ての私よりも先に逝くな。それだけ頼む」
「いってらっしゃいませ。ユグゴト殿、またいつか」
万能戦艦より巨大だったはずのマキナクロスが、出航したら最後、まるで瞬間移動でもしたかのように視界から消え失せたのは、理屈ではわかっていても不思議なものだ。
(「……まァ、正直あんまり実感はねェな」)
ひとりでスキットルから酒を呷りつつ、万は思う。
(「これで明日ひょっこり姿を見せても、別に驚かねェ気がするからだな」)
余韻も何もないあっという間の別離だからこそそう思えるなら——もっとも、彼の感慨はユグゴトがユグゴト足り得るからであろうが——マキナクロスの航行スピードのメリットかもしれない。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年12月24日
難度:易しい
参加:11人
結果:成功!
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