「さてみんな、無事にはろうぃんも終わったな!」
リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が、集めたケルベロスたちに向かって叫んだ。
「やるの?」
「お、わかってるようだな!」
「そりゃあね。で、何を?」
知っているケルベロスとそう言ったやり取りをするリコス。ハロウィンの次の日のイベントと言えば、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)の誕生日なのである。それをここにいる全員が知っている。
「うむ。今回だがな、皆もそれぞれ違う道を選んだりとするわけだ……」
珍しく少し真剣な話をしだすリコス。だが、そういうものかもしれない。デウスエクスの脅威は去り、世界は平和になった。全員が集まってという事も、もうあまりないかもしれない。
「そこでだ、私は、絹と一緒にお好み焼きを食べたいと思っている!」
普段ならなんでやねん! と、突っ込みが入るかもしれないが、誰もそれをおかしいとは思わなかった。
全員が頷いた。
「場所は貸切っている。時間は18:00からとなるが、もちろん、準備を手伝ってくれる者が居たら、大歓迎だ。私は朝から店で準備をすることにするから、何かあったらこれで連絡して欲しい」
そう言って、新品であるが画面バキバキのスマホをケルベロス達に見せながら、場所を伝えた。
どうやら、店の厨房からすべてを貸切ったとのことだった。ならば準備も自分たちで行わなければならない。
「店にあるものは好きに使って良いそうだ。具材は持ち込みもOKになるな。当然、絹の特性ソースもスタンバイ済みだ。
具材じゃなくても、何か作ってきてくれてもいいぞ。
これからの事も語るも良し、何か余興をしてもらっても良い。お好み焼きを焼きながら、楽しくやろう!」
●静かな厨房の中で
トントントン……。
静かな厨房に、包丁がまな板にあたる音がリズムよく響いていた。BGMはそれだけだが、それだけで心地よかった。
「エトヴァさん、さすがです」
「お好み焼きのキャベツは、細かいほうが良いのデス」
「ここまで細かくというのは、なかなか難しいですね……」
そんな声が聞こえてきていた。
ここはこじんまりとしたお好み焼き店だった。時刻は昼から夕方になろうとしているだろうか。
豚肉を切り終わった九田葉・礼(心の律動・e87556)と、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が仕込みをしていたのだ。
「では、この海鮮の具材を斬っていただけますカ? 下ごしらえは済ませておりますのデ」
手際よく包丁を動かし、大きなボウルにキャベツを入れた後、エトヴァは礼にそう言った。
「それなら……」
礼は差し出された魚介類を見て、腕まくりをしながら作業に取り掛かった。すると、ひょこっと宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が顔を出した。
「なあ……うちも、なんかやる事ないかな?」
そう言う絹に、二人は首を振る。今日は彼女の誕生日なのだ。手伝わせるわけには行かないのだ。きっと絹がやったほうが早いのだが、そういった時間ではないのだ。
「わかった。ほな、みんなで待っとくな。ありがとう」
絹はそう微笑み、席へと戻っていく。
「できたものがあれば、運ぶがどうだ?」
黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)が絹と入れ替わり厨房に入っていく。
「では、こちらを……」
「了解した」
鋼は礼に渡された食材を持ち、運び始める。
のんびりとした時間だが、これもまた一つの思い出となるだろう。
●和やかな時
「んん! では、みんな良いな。せーの」
『お誕生日、おめでとーう!』
リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)の声と共に、お好み焼きパーティは始まった。
「みんな、ありがとう。ほんま、ありがとうな」
絹は少し泣きそうな表情をしている。彼女もヘリオライダーとしての仕事を全うし、まだまだ忙しい日々は続いているが、もはや人が不幸に死ぬ事はないのだ。そんな平和な時を感じたのかもしれない。
「これは、どうすればいいのかな?」
鉄板が埋め込まれた脇に、小さなボウルが並べられていた。そこにはキャベツと生地が入れられ、卵が割られて入れられていた。
「いつもここに来ているのだが、ここの店はこういうスタイルらしいぞ。ここから好きな具材を追加して入れて、混ぜて自分でやくのだ!」
リコスは少し得意げに言う。店員はいない。元々こういうスタイルの店らしいのだが、基本的には混ぜるところからセルフのようだった。
「どうやらそういう事だったようですのデ……絹殿、宜しけれバ、ご指南いただけますカ? 俺も、何度か焼いたことがあるくらいデ……」
エトヴァは、店主が残してくれていた準備のメモを理解して準備はしていたのだが、いかんせん焼きに関してはどうしようもなかった」
「絹。私も願いたい!」
「ちょっとリコス。今日は絹の誕生日よ」
リコスがいつも通りお願いをするため、思わず突っ込むリリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)。
ただ、失敗することも怖かった。せっかくの場だ。美味しく頂きたいじゃないか。
(「作り方は、ええと……ちゃんと覚えておくべきだったな」)
鋼がううむと唸る。
「まあ、特製ソースもあるし何とか……何とか……何とかしろレマルゴス!」
「まてまて鋼。私は料理が出来ない事に関しては、織り込み済みだろう!」
「さっき説明していただろう! 無責任だと思え! あとスマホ買い替えろ! カバーも買え!」
「ふふっ。カバーならもう試したんだ! 軟弱この上ない!」
そんな会話がまた、場を和ませる。ある意味漫才のようで、そんな簡単なことで心の底から笑えるのだ。
「絹さん。実は私も……教えていただけないでしょうか?」
すると、礼がそう切り出した。
「もう……しゃあないな!」
絹はそう言われると、ぱあっと明るく笑い、ボウルを取り出した。料理を振る舞う事も大好きだが、興味を持ってくれる事もまた大好きなのだ。
「ほな、好きな具材選び。まずそこからやな……」
要領を得たエトヴァが先陣を切って動き始めた。
「ふふ、海鮮増し増しで焼きまショウ。焼きそばも載せますカ?」
「そうですね。是非!」
礼はどの海鮮をいれようか迷った。実は彼女はこの後、地球を立つつもりだったからだ。出来るだけ堪能しておきたかった。
「ここに入れればいいのかな?」
並べられた具材を見て、リリエッタが絹に聞く。
「せや。分量とか気にせんでええ。食べたいもんも食べたいだけ、入れる」
「なるほど!」
するとリコスがどんどんとボウルに入れていく。するとその片手に収まるくらいのボウルから具材がはみ出して盛られていく。
「リコスちゃん。確かにうちは食べたいだけ入れるっちゅうたけどな。それはやりすぎ」
瞬く間に笑いが起こる。
「リコスさすがにそれは多いって……」
と言いつつリリエッタも、しっかりとボリューム満点の具材を選び出していくのだった。
「そんでな、しっかりまぜるんや……そうそう。で、これを鉄板の上に……」
絹がそう言って指南していくと、店には音と共に湯気があふれた。
香ばしい匂いと、暖かい温度が店を包んでいった。
●それぞれの未来へ
「宇宙でも、美味しいもの食べられるといいですネ」
エトヴァが焼けたお好み焼きを礼と、絹へと差し出した。
綺麗な焼き加減に感動しながら、礼はソースをかける。
「はい。ありがとうございます。……そうですね」
礼はそう言って少し俯いた。決意をしているとはいえ、寂しくないわけではないのだ。
「礼ちゃんは宇宙に?」
「はい。実はあの後状況が変わって、年末にアスガルド復興へ行きます。彼と共にです」
礼はそう言って、店の片隅でじっとしているエインヘリアルのほうを見た。
「そうか……。うん、うん」
絹は何度も頷く。それぞれが未来に向かって歩いていくのだ。その選択は尊重する以外にない。もちろん、絹もまた寂しくないわけがない。だから、応援する。そう決めていた。
「そうか、じゃあ、今日美味しいモン、いっぱい食べてこ!」
「ありがとうございます。あ、そうだ。よろしかったら……」
礼はそう言って一つの箱を取り出した。
「え、うちに?」
礼はうなずいた。開けるとそこには、一つのコサージュが入っていた。
「可愛い!」
小振りなアケビのコサージュで、そのピンクが絹に似合った。早速そのコサージュを着けると、ぎゅっと礼を抱きしめた。
「ありがとう……。がんばってな」
「はい」
少しの時間のあと、エトヴァがグラスを差し出した。
「では、礼殿の旅の無事を祈り、乾杯」
「さすがにおなかがいっぱいだ」
「おっと、もうダメなのか?」
リコスがリリエッタに言う。
「絹に手伝ってもらったから、とってもおいしく出来たんだけどね。ボリュームがねえ」
リリエッタのお好み焼きのトドメは、入れられていた餅だ。
絹のソースを塗ると、それでも美味しく食べる事ができてしまうから恐ろしい。ただ、まだ具材はたくさん用意してしまった。
そこでリリエッタは、焼いたお好み焼きを何枚も重ねて、リコスに差し出していた。
当然リコスはそれをぺろりと平らげる訳だが……。
するとそこに絹がやってきた。
「リリエッタちゃん大丈夫か?」
「だいじょう……ぶ。あ、そうだ」
リリエッタは思い出したかのように一つの袋を取り出した。
「ありがとう。……なんやろな」
絹はそう言って袋を開ける。
「ヘラ??」
絹が取り出したのは、お好み焼きのヘラだった。
「うん。オリジナル。お好み焼きに使って……がくり」
なんと、オリジナルだった。すると絹は嬉しそうに礼を言ったのだった。
「かわいいやん。ありがとう。大事に使わせてもらうな」
「宮元、誕生日おめでとう! よく食べ、よく笑うと良い!」
お好み焼きを食べ終わった鋼が絹に言う。ただ、少し聞きたいこともあった。
「ところで、宮元は地球に残るのか?」
すると他のメンバーも絹に向いた。
「ヘリオライダーでもレプリカント、ダモクレスの傍系なら帰還も選択肢だと思うが」
「ううん。うちはここにいる。ここにいるんや」
静かに、そしてはっきりと応える。
「どこにも行かない、と?」
鋼が確認するかの様に尋ねた。
「そう。いつもの場所。いつものヘリオン。いつものうちの作業場に、な」
すると絹は、すっと立ち上がってみんなを見渡した。
「うちは、ずっと待ってる。みんなの帰る場所で待つ。みんながどこに行っても、例えばいい場所を見つけて永住する事になっても。ここがみんなの故郷」
その表情は晴れやかだった。
「皆が帰りたくなった時。そこでうちは待つ」
そして笑顔でこう言うのだ。
「美味しい料理、作って待ってるから!」
と。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年11月16日
難度:易しい
参加:4人
結果:成功!
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