●和の街の宴
今日は楽しい愉しい妖の日。
お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。高らかに語れば、甘味も饗しも思いの儘。
狐面に鬼面、天狗面。華麗に揺らめく浴衣や着物。
ふわふわの尻尾や飾った角。今宵を彩る装いを揺らして、街を練り歩くのは百鬼夜行。
瓦屋根には赤と橙の提灯が並び、おばけ南瓜の光が明滅する。ぴかぴか輝く南瓜の瞳に見送られ、百鬼夜行は進んでいく。
今夜限りの宴と夜行は楽しんだもの勝ち。
さあさ、飲めや歌え。踊れや騒げ。世界は今日も変わらず、廻ってゆくのだから。
●アヤカシハロウィンパーティー
外宇宙へ旅立つケルベロス達の船となるマキナクロス。
そのお披露目を兼ねて、世界各地でハロウィンパーティーがひらかれることになった。
最終決戦から四ヶ月。
あれから各国の責任のある立場になったケルベロスも多く、個人的にも新たな門出を迎えたものもいるだろう。久方振りに会う者同士も少なくないはずなので、こういった機会に旧交を温め合うのも良い。
今年のハロウィンはマキナクロスの試運転を兼ねて、様々な都市を巡ることが出来る。
パーティー会場のひとつが日本の石川県、金沢市。
ひがし茶屋街と呼ばれる和の町並みが広がる場所だ。雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は仲間達にハロウィンパーティーに参加しないかと誘い、会場のことを詳しく語っていく。
「加賀百万石といわれるほど栄えた金沢には、当時の街並みが残っています。そこで行われるのは、なんと――百鬼夜行の南瓜行列なのでございます!」
百鬼夜行のルールはたったひとつ。
和の仮装をすること。
主に妖怪の仮装が好まれており、猫又や化け狐、天狗などの格好をする者が多い。
和のテイストであれば何であっても歓迎されるので、普通の浴衣や着物姿で参加してみてもいいだろう。
「茶屋街では、お菓子も配っているみたいです。和のハロウィンだけあって和菓子がいーっぱいでしたよ!」
加賀百万石の伝統銘菓である柴舟。
栗蒸し羊羹に甘納豆、きんつばにあんころ餅、うさぎ饅頭。
美味しいお茶はもちろん、餡や和を感じさせるを材料を使った洋菓子もある。たとえば抹茶クッキーやチョコレート、ほうじ茶のカップケーキなど種類も様々だ。
「皆様も妖怪になったり、和装をしたりしてたくさんお菓子を貰ってくださいね」
地球に平穏が訪れてから最初のハロウィン。
この先に続いていく未来をよりよいものにするためにも、楽しいことは外せない。
変わらないこと。変わっていくこと。どれもが大切で、大事なことだから――これからを思い、特別な夜を楽しもう。
●幸福の甘さ
戦いが終わってもう数ヶ月。
平和が訪れた世界には、幸せをめいっぱい味わえる日々が巡っていた。
和やかな燈灯に照らされ、優しい百鬼夜行が始まる。
鳳琴とシル、さくらの三人は和のハロウィンパーティーを楽しんでいく。今日の装いはそれぞれに違う。鳳琴は棍棒を手にした可愛らしい鬼の恰好。続いたシルは着物とつけ尻尾を装着した猫又で、さくらは自前の翼を生かした天狗の仮装だ。
「お菓子をくれないと、あばれちゃうぞっ!」
「お菓子くれないといたずらしちゃうにゃんっ♪」
「なにやらとても恥ずかしいですがこんな感じでしょうかっ」
「鬼さんに猫さん、天狗さん妖怪っぽく、三人で楽しく行きましょっ♪」
鳳琴とシルは仲睦まじく笑いあう。
その様子を見ていたさくらも微笑み、道の先を指し示した。
「シルちゃんも鳳琴ちゃんも可愛い。さぁ、百鬼夜行に繰り出しましょ♪」
今回の目的は茶屋街で和菓子を貰いにいくこと。さくらに続いて鳳琴とシルも歩き出し、賑わう通りを見渡していく。
「んー、美味しい♪」
鳳琴は栗蒸し羊羹とお茶を貰い、ほくほくと双眸を細めた。シルはきんつばとほうじ茶を味わいながら、他のお菓子を気にしている。
「うさぎ饅頭とか、ちょっと気になるかも……」
「それじゃあ貰ってきましょ。とりっくおあとりーと、じゃなくて……コホン。ふっふっふ、この大天狗様に甘味を貢がねば悪戯してしまうぞよ?」
シルの希望に応えるため、さくらは精一杯の妖怪感を振り撒いていった。あんころ餅と一緒にうさぎ饅頭を手に入れたさくらは、二人にお裾分けをする。
シルと鳳琴も貰ってきた甘味をシェアしていき、三人は和気藹々とハロウィンストリートを進んでいった。
甘味女子会は本当に楽しくて皆が笑顔になる。
「さくらさん、旦那様と一緒にどこか行ったの? 幸せ全開なんでしょ?」
「ふたりはどう? 仲良くやってる……のは、当たり前よね」
「えへへ」
「ふふ、さくらさんこそ。旦那様と幸せめいっぱいじゃないですか」
シルとさくらが大切な人の話に花を咲かせている最中。鳳琴はそっと陰でシルと手を繋いだ。きっとこれはさくらにもお見通しだろう。
鳳琴の手を優しく握り返し、シルは明るい笑みを浮かべた。
日々変わっていく世界の中で、変わらない二人の幸せそうな笑顔。それはどんな甘味よりも甘いのだと感じながら、さくらは柔らかく微笑んだ。
そうして、妖怪甘味女子会は続いていく。
●咲花道中
からころと下駄を鳴らして、二人の天狗が通りを往く。
響く音が重なるのが何だか楽しく思えて、アラドファルは隣を歩む春乃を見つめた。
「――春乃」
「うん、アルさん」
名を呼び合った二人は自然に手を繋いだ。はぐれないように、転ばないように。愛しい君の手を引いて進む道は煌めいて見える。
彼女の浴衣姿は見たことがあっても、着物姿は初めて。
(俺が本当に妖怪だったら連れ去りたいぐらい可愛くて……あ、危ない)
見惚れ過ぎると転ぶと気付いたアラドファルは気を取り直した。どうしたの、と見上げてくる春乃はきょとんとしている。大丈夫だと微笑んだ彼は先を示す。
目を引くお菓子はたくさんある。
薄い雪を被ったような柴舟。抹茶クッキーやチョコに甘納豆。温かいお茶を振る舞っているところもあるらしく、通りはとても賑やかだ。
「春乃は何が気になっている?」
「わたしはねー、栗蒸し羊羹かな? あとうさぎさんのお饅頭も!」
「そうか、じゃあめいっぱい貰いに行こう。一緒に悪戯もしようか」
「賛成! たくさん気になるものがあるから色んなところに行こ!」
春乃はぐいぐいとアラドファルを引っ張り、配られている和菓子に目を輝かせた。素敵なものに囲まれて、隣には大好きな人がいる。
きっと、これが本当の幸せ。
「わあ、うさぎさんかわいい! 柴舟も食べよ食べよ!」
「今夜は遠慮なく頂いていいのだぞ」
はしゃぐ春乃の横で、アラドファルは普段を思う。いつも人に美味しいものを振る舞ってくれる君だから、と語る彼の瞳は優しい。
春乃は料理を振る舞うのが好きなので全く苦なんかではない。けれど、彼の思いがとても嬉しいと感じた。
「今日は、ちょっとだけ甘えよっかな!」
「それがいい」
春乃はアラドファルの腕にそっと掴まり、彼だけにしか見せない笑顔を浮かべた。
「ほら、アルさん。百鬼夜行の旅、連れていって?」
「勿論だとも」
――妖しの世界へようこそ。
心ゆくまで味わい尽くそう。からん、ころんと鳴る下駄の音は高らかに、百鬼夜行の世界に仲良く響き渡っていく。
●願う縁
黒の着物に南瓜の面を被り、ランタンを掲げて歩く。
スバルは道中で貰ったお団子を口にしながら、綺羅びやかな飾りや賑わう通りを眺めていった。今までケルベロスとして大切な人と一緒に色んな所に行った。
「けど、これからは普通に色んな所に行っても良いんだよなぁ」
そう考えたことで、これからがもっと楽しみになっていく。スバルは立ち止まり、仮装行列が続いていく光景を眺めた。
其処には猫又の仮装をしたアヤと一緒に楽しげに歩いているゼーとリィーンリィーンの姿がある。他にも、狐の嫁入りの仮装をしている梢子達の姿もあった。皆の仲睦まじい様子を見つめたスバルはそっと願う。
来年も、再来年も、これからも――大切な人の傍にいられますように。
賑わう通りの最中、梢子は赤い和傘をくるりと回した。
黒の引き振袖姿の彼女の隣に控えているのはビハインドの葉介。彼は黒紋付羽織袴姿で梢子と同じ狐面を付けている。
二人が揃えば見事な狐の嫁入り仮装。或いは正装となる。
「結局、葉介とは生前祝言を挙げられなかったからね」
ずっと着れずにいた花嫁衣裳を引っ張り出してきたけれど、何だか恥ずかしい。されど狐面で顔を隠しているから照れは周囲に伝わっていない。
気を取り直した梢子は葉介を連れ、思いっきり催しを巡ることにした。
「これはあくまで仮装だしいいわよね!」
ハロウィンといえばやはり南瓜。橙色の餡が印象的な大福を頬張り、次は栗きんとんを貰いに向かい、美味しいと舌鼓を打つ梢子。
菓子を堪能していく梢子は、賑わう通りを見つめてぽつりと呟く。
「……ま、最後に祝言気分が味わえてよかったかも」
その姿を葉介が静かに見守っている。灯る明かりはそんな二人を優しく照らしていた。
●分け合う甘さ
並んで歩いていく二人。
その仮装は文車妖妃と山伏姿の天狗。
側頭部に付けた面を被り直した竜は、十二単めいた着物姿のクリスタに目を向ける。
手に巻物や書物を抱え、角を携えた仮装に身を包む彼女は可愛らしい。こうして百鬼夜行の一員になった二人は、今夜をめいっぱい楽しむ気持ちを抱いていた。
「さぁ行きましょう。和菓子を楽しみたいんですー」
クリスタは竜の手を引き、楽しげに茶屋街へ向かった。
栗蒸し羊羹に甘納豆。
きんつばにあんころ餅、うさぎ饅頭。他にも洋風の菓子が用意されているが、今日の彼女の目的は和菓子の数々。
「そんな慌てなくても、なくなったりしないよ」
そういってクリスタに呼びかける竜だったが、彼もまた和菓子を楽しみにしていた。
西洋の菓子のように強く自己主張してるわけではないが、しっかりと感じる優しい甘さに口の中に広がっていく。
貰った菓子を食べる手は止まらず、自然と口元に笑みが宿った。
クリスタも色々と和菓子を楽しみ、和のハロウィンを満喫している。しかしもちろんお約束も忘れていない。
「竜さん、あーんしてくださいなー」
「ああ、頂くよ」
「おいしかったですー?」
「美味しい」
驚きつつも差し出されたうさぎ饅頭を味わった竜は、お返しに羊羹をあーんし返した。するとクリスタは少しだけ恥ずかしくなってしまったらしい。赤くなりつつ、お返しを受け取った彼女はふわりと笑った。
甘くて幸せな、不思議なひととき。
二人で過ごす夜はまだまだ、此処からも続いていく。
●目指す星
「おーい、遊星! よかった、また会えた!」
「理弥か。少し振りだな……と、お前も天狗の仮装なんだな」
偶然に通りで出会った二人の装いは、これまた偶然に同じ物だった。ダイチは山伏風の様相で、理弥は地元の浜松の天狗伝説を元にした仮装だ。
一本足の高下駄は歩き難いが、おかげで少し背が高くなった。そんな風に笑う理弥の隣で、ダイチも楽しげに笑む。
「確か理弥は甘いものが苦手だったな」
「これ、柴舟? 俺でも食えそうだ」
二人は通りのベンチに腰掛け、将来の話を語っていく。理弥は大学を出たら警察学校に入り、警察官を目指すという。
「特技を活かして似顔絵捜査官を目指してもいいかなって……」
「成程、俺はその練習だったと?」
「いや遊星を犯罪者扱いしてるわけじゃないぞ!」
「はは、分かってるぜ」
語り合う二人は、ケルベロス業を離れても其々に人助けの仕事に就く。頑張ろうな、と鼓舞しあうドワーフ達は軽く拳を重ねた。
●和揃い甘味
リリエッタとルーシィドの二人が向かったのは貸衣装屋。
今回の約束は相手に着てほしい仮装を決めて、それに従うというもの。
様々な衣装が並べられている中で、リリエッタは一生懸命にルーシィドの仮装は何が良いかと考えていく。
「んっ、ルーはもふもふの妖狐さんとかがいいんじゃないかな?」
選んだ理由は綺麗な髪はふわふわ狐耳ともこもこの尻尾が似合うから。
対するルーシィドもリリエッタと衣装を交互に見比べ、あれでもないこれでもないと迷っていた。そして、彼女が決めた衣装は山伏風の天狗。
「じゃあさっそく着替えてきましょう」
お互いに渡された仮装を手に取り、二人は着替えていく。
そして――。
ポンポンつきの天狗袈裟に、カラコロと楽しい音を奏でる下駄に大きな団扇。リリエッタの天狗衣装を見たルーシィドは上機嫌に微笑む。
「うふふ、リリちゃんはイメージ通り、かっこいい&かわいい小さい天狗様ですね」
「ルーもとっても似合ってる。思わずもふもふしたくなっちゃうね!」
リリエッタも大親友を褒め、にこにこと笑った。
それぞれにふわふわがワンポイントの仮装はとても可愛らしい。二人は頷きを重ね、のんびりと茶屋街を見て回ることを決めた。
柴舟に栗蒸し羊羹、あんころ餅やうさぎ饅頭。
銘菓を片手に、甘味を味わうリリエッタはからんころんと下駄を鳴らした。ルーシィドも饅頭を頬張って甘さを味わい、穏やかな思いを抱く。
「これからもこんな風にルーとのんびり過ごせるといいね」
「まだまだ楽しいことはありますわ。次はクリスマスでしょうか?」
和菓子を食べ比べしながら、次の催しについて考えるルーシィドはとても嬉しそうだ。そんな中、二人は和の面を売っている店を見つけた。
「ルー、あれはどう?」
「良いですわね。さいごに今日の思い出に、お揃いで持って帰りましょう」
天狗の面と狐の面。
お土産を手にした二人には、楽しい気持ちが満ちていた。
●繋ぐ気持ち
大正浪漫な女学生と書生。
それが今宵の詩織と瑛士が身に纏う装い。袴とマントが夜風に揺らめき、二人は視線を重ね合った。思えば特別な関係になってから、こうして和装するのは初めてだ。
「……少し緊張しますが、すごく嬉しいです」
「初めてこの仮装したときに出会えたのは、偶然、だったからね」
以前と違うのは白い狐面を持ってきているところ。瑛士が笑むと詩織も目を細めた。
「偶然も勿論嬉しいですが、今は確実、ですから」
――Trick or treat?
詩織は悪戯っぽく微笑み、瑛士を軽く見上げる。お決まりの言葉を言われてたじろぐ瑛士はお菓子を持っていなかった。
「詩織さんが悪戯って何するの?」
「えっと、そうですね……そうしたら、手を繋がせてください」
「え?」
すると瑛士が緊張した面持ちで後ずさった。その理由は、手を繋ぐことがとても緊張することだからだ。気恥ずかしさもあり、瑛士は狐面で顔を隠す。
「嫌がっても駄目ですよ。だって『Trick』ですからね」
詩織はくすりと笑った。彼の耳が赤いのに、その顔が見られないのは少し残念。なんてことを囁いた詩織は手を伸ばす。
瑛士にとって狐面はこういうときのためのもの。照れていることはもう悟られているが、手を取られて繋ぐのが嫌なわけなんて、ない。
瑛士は詩織の手をそっと握り返し、並んで歩いていった。
互いの手の熱は何だか心地よい。
「そういえば、瑛士さんは何か食べたいものはありますか?」
自分は抹茶が飲めれば、と静かに主張した詩織は周囲を見渡していった。
「うさぎ饅頭があるらしいからそれを見つけて、抹茶飲みにいかない?」
「では、うさぎを一緒に探しましょう」
詩織と瑛士は微笑みを交わし、うさぎ探しの旅に出た。彼となら、彼女となら、どんな世界だって――どんな道だって進んでいける。
大切でかけがえのない気持ちを抱きながら、二人は夜の雰囲気を満喫した。
●思い出はいつまでも
二人の今宵の様相は和のおばけ達。
骨鯨のお面と浴衣を纏うティアン。そして、虹蛇の被り物を頭に付けた哭。
哭の角はくるりとそのままで、尻尾にゆらりと蜘蛛の巣を引っ掛けている。その姿を眺めた後、ティアンは自分の浴衣を見遣った。
「どうだろう、上手く着れているだろうか」
「ふへ、へ、ティアンもお化けだ! うん、ちゃんと混じれそう」
「哭の虹蛇、蜘蛛の巣がハロウィンらしくていいな」
良かった、と言葉にしたティアンは哭の装いも似合っていると話した。そうして、二人は大きな南瓜型の菓子入れを手にした。
たくさんの和菓子をめいっぱいに詰め込む準備をして、いざ出発。
芋羊羹に抹茶どら焼き、お団子。
栗最中や柴舟など、ティアンは受け取る度に味見をしていた。だが――。
「……哭。大変な事に気付いた」
その場で食べると菓子入れに仕舞い辛い。どうしたものかとティアンが思案していると、哭がいろとりどりのお菓子からひとつを摘まんで示す。
「そしたら、そしたら、一つを二人で味見しても一つはしまったら解決、っすよ」
「! なるほど」
今しがた貰ったばかりの饅頭を割った哭は骨面の前へ差し出した。
ありがとう、と饅頭を受け取ったティアンはもくもくと味わっていく。おいしいと声が出たのは、きっと同じものを二人で分け合ったから。
「――ね!」
哭は頷きを返し、こっちの頬も落ちてしまいそうだと笑った。
貰ったお菓子をぎゅっと詰め込んだ後は、二人一緒の記念写真撮影の時間。並んで写るように撮ると一緒に行った感じがしていい。ティアンにそう教えてくれたのは哭だ。
「これも印刷したら、また哭にあげる」
「へへ、これでいつだって見返せる。楽しみにしてる!」
ティアンはレンズを見つめ、哭は満面の笑みを浮かべる。
骨鯨と虹蛇。今宵の百鬼夜行を共に歩いて楽しんだ大事な仲間。二人を写すシャッターの音は、夜の最中に快く響いていった。
●未来に光を
百鬼夜行の一員となったのは雪女と雪だるま。
きらきらと光る雪模様が美しい真白の着物を身に纏うのはキカ。その腕の中にいるのは、まっしろなまんまるになった玩具ロボのキキ。
「あっちもこっちも妖怪だらけ! みんな不思議でかわいいね」
石川県も雪国と呼ばれるうちのひとつ。ぐっと冷え込み始める季節でもあり、雪女と雪だるまはとても似合いの仮装だ。
今も残り、修復されて現存している古い日本の街並み。
どこも素敵だね、とキキに語りかけたキカのもう片腕に下げられた箱には、たくさんのお菓子が収まっている。
柴舟に羊羹、あんころ餅。どら焼きにはおばけカボチャが描かれていた。
「わ、うさぎ饅頭だって! かわいい……!」
嬉しさを抱きながら、ほうじ茶のカップケーキをぱくりと頬張ったキカは淡く笑む。しかし、ふと気になったのはこんなに貰って良いのかということ。
「きぃもなにか……お礼……んと、えっと……う、歌い、ます!」
キカが歌うのはヘリオライト。
遠い未来へ届くように。
君の未来へ届くように。
強く、光を放てたら。
キカは心を込めて歌い続けた。
お礼には足りないかもしれないけれど、素敵な夜を用意してくれた街の人へ。
そして、今までずうっと長いあいだ。自分達のことを、ケルベロスを信じてくれた世界中の人達へ。ありがとうの思いを込めて。
掲げた理想と光は今、ここにある。想像した世界は、きっと運命を超えて――。
「未来に、届いたよ」
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年10月31日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
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