●怪物達の茶話会
お疲れさまです、と暮洲・チロル(夢翠のヘリオライダー・en0126)は軽く首を傾いだ。
最終決戦──ケルベロス・ウォーから4か月、とか。
外宇宙を目指す準備をしている……とか。
「外宇宙への船となるマキナクロスのお披露目を兼ねたハロウィンパレードだとか。色々、口実はありますけど」
そう言って、彼は宵色の三白眼を和らげて見せた。
「俺としては、普通にDear達とゆっくりできたら、と思っています」
「……派手なお祭りはきっと、他にもいっぱい開かれるだろうから」
チロルの背後に停まったヘリオンの操縦席の開いた扉から足をぷらぷらと揺らしてユノ・ハーヴィスト(隣人・en0173)も告げる。
「久し振りにゆっくりできる機会だから、ね」
そうして、ほんのちょっぴり、彼女は微笑んだ。
●時を刻む
既に各国の責任ある立場に着いた者もいるだろう。
あるいは新たなスタートを切った者もいるだろう。
「そういうお話でもいいし、他の話でもいいよ」
「でも折角だから、仮装はしましょう。たくさんクッキーを焼いておきますから」
チロルの言葉に、ユノが顔を上げる。その視線に察して、彼は苦笑する。
「ああ、いえ。場所は俺の家ではありませんよ。金木犀の香る夕暮れの庭です」
温かい紅茶も用意しておきます、と。彼は肯いた。
静かな金木犀に囲まれた庭で。
仮装をして、お茶会を。
トリックはなし、トリートだけの静かな時間になる。
「……そんな時間が嫌いでないひとは、良ければ、どうぞ」
「きみは、どんな仮装するの」
いつも通りの語尾の上がらない疑問文。チロルは『名も無き怪物』はやりましたからね、と思案顔。
「……角があると、なかなか難しいですよねぇ……仮装って」
「知らないけど」
「Dearは決めてます?」
「狼娘」
がおー、と両手を鉤爪にして変わらぬ顔で告げるユノに、チロルは微笑む。
「では、目的輸送地、ケルベロス──怪物たちの茶話会、以上。ただ静かな黄昏に、お招きさせてください」
●
金木犀の香る、秋の庭。
鮮やかな橙の花の木々並ぶ中に、香りの薄い秋薔薇もちらちらと覗く。さくり、とバニラのクッキーを口に運んで咀嚼しながら、和奏はずり落ちてくる魔女の大きな帽子をくいと持ち上げた。
テーブルの向かい側には、黒く大きな猫耳のフードをかぶったままティカップを口に運びひと息吐く弟──翼。
「ねえ、翼」
声を掛ければおんなじ半〈はした〉色の双眸が彼女を捉える。
「『絶対にあなたを死なせない』って約束……私、ちゃんと守れたわよ」
彼女の真摯な瞳に、翼はティカップを一旦置いて、その顔を正面からひたと見据えた。
「そうだな。……ありがとな、和奏」
追いつきたかった、憧れで、目標。……なんて、彼女に直接伝えることはしないけれど。なんとか隣に肩を並べることができたあの夜に、交わした誓いは確かに息衝いている。
眦和らげてそう応じた翼へ、けれど「だから」和奏は眸に力を籠めた。
「……翼も、約束を果たしてくれる?」
「え」
思わず彼は瞬いた。「いや、」動揺を隠すようにチョコチップクッキーをひとつ手に取る。
「でも、俺だってちゃんと約束は果たしただろ。『絶対お前を守る』って」
黒猫の言い訳のような言葉にも構わず、魔女はただじっと先を待った。
『今まで』のことがある。
『これから』のことも、ふたりで考えたい。
その想いは、ふたりとも同じだったのだろう。彼女の視線に翼も察する。
「……もしかして、俺の方の約束はまだ終わってない?」
つまり、『これから』も。
彼が改めて確認をすると、「いや、あの、告白とかそういうのじゃないから、他意はないから」言い訳じみて言いながら和奏はひょいパク、ひょいパク、とクッキーを口に放った。
そんな『憧れ』の姿に。こんなにも近付いた『目標』の姿に、弟は小さく笑った。
「それなら、お前の約束だって、まだ終わってないよな?」
これで終わりだなんて、誰が言った?
「、……そうね!」
翼の回答に、和奏も笑った。
●
甘いのは花の香? あるいは、紅茶の?
ぴりりとスパイスの利いたクッキーを口にして、トーマは鉤尻尾をゆらりと揺らし、黄金から赤橙へ移り変わる空を見上げた。
「子供のときは、夕陽が苦手だったな」
静けさの中で想起したのは、幼い頃の思い出。
彼女の特徴だった“大きな帽子”が彼の頭の上にあるのを見上げて、ロゼットもぴこりと耳を動かした。頭の上の縞模様の猫耳ではなく、自身の耳を。
「ほら、外で遊んでたらさ、暗くなる前に帰らないといけないじゃん?」
まだ遊びたくってさ。そうおどけてみせる。
気遣わしげな、少し寂しそうな満月の双眸のいろに躊躇う気持ちがないわけではなかったけれど、渦巻く過去が蝕んで、止まらなかった。
当時抱いていた愛する家族への不信感。信じたいのに信じられず、帰りたく、なかった。
じっと彼を見つめていたロゼットが、「へ? なんで立ち上がって……」すいと彼の傍に寄り添うと、ぎゅうと彼を抱き締めた。
彼女に彼の言葉の奥の過去など、知る由もない。
ただ、わかる気がしたのだ。
──闇が深くなっていく様は、寂しいもの。
きっと彼を取り巻く光が褪せていくような感覚があったのだろう。なら、もしも見えなくなってもこの体温を伝え続けるよ。
「……隣にいるよ」
「あー。心配かけちゃったか」
ぎゅうぎゅう抱き締める縞模様の猫さんの背に、ぽんぽんと手を添えてトーマは困ったように笑う。
「今は苦手じゃないよ。帰る所はロゼの処だし」
ただ言ってもいいと感じた。聞いてくれると信じた。信じることができた。それだけ。
「苦手じゃなくなって良かった」
ごめんなと告げる彼に首を振り、彼女は傍らの椅子に腰を下ろしなおして彼女はにっこり微笑んだ。
「こんなお茶会があってもいいよね。おすすめのものはなに、帽子屋さん?」
折角だから食べさせてと、チェシャ猫は帽子屋へと甘えて見せる。
「あーん?」
甘えん坊な猫さんの口に、帽子屋はいっとう好きなレモンクッキーを差し出した。
終らないお茶会は、今日も、まだ。
●
「チロル、ユノ、久しぶり! 二人とも仮装、よく似合ってるぜ!」
「素敵な場所へのお招きありがとうございます」
いつも通りの晴れやかな声で告げたラルバの服装は僵尸仕様。もちろん符は顔の前では邪魔だから、角にぺたりと貼ってある。
彼の後ろから軽く会釈する礼の服装は十五世紀のタペストリー、『一角獣を連れた貴婦人』風の、赤く長い裾に広がった袖のドレスと、帽子。金糸の髪がよく映えた。
チロルはふたりを既にユノが着くテーブルへと招いた。
紅茶が届くまで、ふたりはテーブルから周囲を見渡す。鮮やかな緑の中に目立つオレンジの花。整えられた庭。そして眩いばかりの赤橙。
「すげぇ、夕陽も金木犀もキレイだ、いい場所だぜ」
「ええ。それに金木犀がいい香り……」
甘く香るのは特徴的な、惹かれる香り。けれど、甘く香ばしい香りはテーブルに置かれた大皿からも。種々のクッキーがきちんと配されている。
「どうぞ、お好きなのを」
ポットを運んできたチロルが言って席に着くのに、ラルバは尾を跳ねさせた。
「迷うな。とりあえずプレーンとー……いろいろもらっていいか?」
礼も「美味しい」いくつかを選びゆっくり楽しみながら、紅茶でほぅとひと息。
「地球を離れる前に、素敵な時間を得られました」
そのひと言に、ラルバもチロルも彼女を見た。礼は微笑む。
「ちょっと前まで定命化前の記憶がなかったけれど、昔私が選定したエインヘリアルと再会して色々思い出しました」
仲間を失い絶望していた彼へ、参じた仲間が提案した。プラブータでの延命を。そしてこの機会に蘇生したのだと礼は言う。
「彼と共に、アスガルド復興へ旅立つ予定です」
罪の償いと魂の救いの為に。それがÀ mon seul désir〈我が唯一つの望み〉なのだろう。
軽く首を傾げ、彼女は瞳を輝かせた。
「生活基盤をしっかりさせたら、服飾や工芸関係の仕事をしたいですね。アスガルド女性が自信や誇りを持てる物を作るのが目標です」
「……みんなやりたい事とか決めてるんだな」
はー、と感嘆の息を零し、ラルバは金色の瞳を瞬いた。
「オレは一般人の頃みたいに学生生活してるけど、これからの進路とか、まだ決められなくてさ」
くしゃと破顔する彼は「……まあ、」ふいに眉尻を少しだけ下げた。気になってるのはあるんだけど、と。
視線を受けて、ラルバは肯いた。
「ヒールできないケガとか、治せるようになりたいなーって。ほら、これからも誰かがケガすることはあるだろうし、……お師匠様、治せない病気だったからさ」
険しく困難な道になるだろう。それはラルバも充分理解している。
「オレ、そんな頭良くないからな。何にしても、やるならこれから頑張らなきゃだ」
「応援していますよ」
チロルが言い、礼もユノも肯く。ラルバは照れたように笑ってまたクッキーを頬張った。
●
白い手袋重ねて駆け出す、黄昏咲き降る庭。
白金の髪の、夜が明けない国の夜の王様は宵空色の衣装を纏い。
黒い髪の、陽が沈まない国の朝の王様は東雲色の衣装に身を包み。
狭間の黄昏だけが逢瀬の時間だと──笑い合って。
漂う金木犀の香に負けないくらい、抓んだクッキーの蜂蜜の香りも濃厚で。口に含んだ途端ほろほろと崩れるそれに、ラウルは眦を和らげた。
「コレも美味しいよ!」
カリカリとリスのようにオレンジピールの刻み込まれたクッキーを齧るシズネの口許に差し出したなら彼はきょとんと目を丸くして、それから、にっ、と笑った。
「こんなとこにも咲いてるな」
差し出されたクッキーを口で受け取り、シズネが手を伸ばす先は白金の髪を彩る、黄昏色の星。逢瀬の象徴と思えばつい頬が緩んだ。
そんな彼の笑顔に、ラウルの胸にも優しい温もりが燈る。
──此の歓びは独りでは感じられないもの。
だから手を伸ばす。さらりとした黒髪に触れる。彼の愛しい瞳を覗き込む。
「君にも橙の星が舞い落ちてるよ」
いつかもこうして、笑い合ったね。
ひとつ、髪から散ってテーブルに落ちた花を、シズネは確認することもできない。目の前の薄縹色の瞳はどの星よりも煌めいて、目が離せなかったから。
そのまま掌を頬へ滑らせ「ねえ……シズネ」ラウルは言う。
「ふたりで初めて金木犀を見た日を憶えてる?」
「ああ、憶えてるさ」
当たり前だろうとちょっぴり眉を寄せたのも、瞬時だけ。すぐ表情を和らげ、シズネは頬に添えられる掌に己のそれを重ねた。
「おめぇと見た彩りはなんだって憶えてる」
──それにその時のおめぇの横顔も、……なんて。
そっと胸に仕舞い込んだ言葉は知る由もないけれど。安堵したような、あるいは確信していたようないろの瞳で受け止め、ラウルは肯いた。
「あの日から巡る季節の彩を一緒に集めてきたけど、これからも優しい色を重ねていこうね」
聞きたい事も伝えたい事も、まだまだ沢山あるから。
囁く彼に、シズネはもう一度当然と握る指に力を籠めた。
「まだ集め足りねぇもんな」
夜と朝の物語は続く。
逢瀬の刻が止まる、ずっと先のそのときまで。
●
「今回のも美味いな。トリックを心配しなくていいから安心だ」
言いつつもココアクッキーを口に運ぶ狩衣姿のグレインの耳が緊張で立つ。チロルは返す。発起人がそんな悪戯しませんよ。
そうかと緩む彼の耳の横には黒い狐面。それには──視覚えがあった。
視線に気付いたグレインが「これか?」と面に指先を当てる。
「死者の霊が帰る日らしいし、こうして想ってもいいかってな」
グレインは蒼穹の双眸を緩めた。懐かしく、大切な記憶だ。
「サシだと強かったり、振り回された事もあったり……あと表情に出にくいというか、読めない人だったな」
「いつかの川辺でも教えてくれましたね」
「まあ、師匠曰く案外判りやすかったらしいが」
俺にはさっぱりだったな、と肩を竦める彼は、あんたはどうなんだと薔薇園で聞いた話を思い返す。先代の“夢翠”。ああ、とチロルは首を傾いだ。
「先代は、俺の祖母です。大建造期のハガネの元の主で……、おばあちゃん子だったので。大好きでしたよ」
照れますねと眉を寄せて笑う。これをくれたのも先代ですとチロルは傍らの幻想帯びた拡声器をぽんと叩いた。
「ヒールしたのは、親友ですけど」
これも川辺でした、昔話。そしてチロルはグレインを見た。
「これからDearはどうするんですか?」
「外宇宙も気にはなるが……、これからは地に足つけてって気持ちもあるんだよな」
それは、想定内の質問だった。
「土地を守る、環境保全や林業に当たるか?」
「森で武芸を教えたりするのも似合いそうですけどね」
「はは。どっちにしろ、知らなかったものに触れるっていうのは楽しいからな。地球も宇宙も、お菓子作りも」
「宇宙とお菓子が同列かあ」
笑うチロルへ、「それに」グレインも笑った。
「あんたの事もな」
「お高いですよ? なんてね」
●
「とりっく・おあ・とりーと!」
ばぁ、と両手(と大口)広げて飛び出した『ツギハギ怪獣ぶらざーず』!
もといベーゼとミクリさんだ。目をまんまるにしたユノは負けじと、
「がおー」
「へへ、がおー! 可愛いっすね!」
「その鞄もかわいいよ」
パッチワークでツギハギになった鞄と衣装。くまも「でしょう!」と胸を張った。
金木犀香るテーブルに着いたら、早速さくさくもぐもぐ。
「ミクリさんも、あ~……あっダメっすぅ!」
皿ごといこうとするミクリさんを止めつつ「ユノのは何味っす?」「杏ジャム入り」。
「それも美味しそうだなあ」
「美味しいよ。はい」
ぐいとベーゼの口に押し込めば白黒する目に、ユノは小さく微笑んだ。「トリック・アンド・トリート」と。「やられたっすねぇ」なんて。
それからほろほろのハニークッキー楽しんで、ミルクティをひと口。
ひと息つき──すこうしだけ真面目なカオで。
「……おれ、行こうと思ってるんだ。──宇宙に」
「!」
かちゃとティカップの底がソーサーに触れた。ペリドットが零れんばかりに見開きベーゼは困ったように笑った。
「ユノはこうしたいって思うコト、あるっす?」
「僕、は……」
ありありと伝わって来る動揺。くまはしばらく待ったけれども返ってくる言葉はなさそうだ。だから。
「じゃ、一緒に行こうって言ったら?」
「……っ、」
見据える視線にユノは揺らぐ。彼女は地球を愛した。罪を受け容れ、この星で笑って生きたいと願った。でもついさっき聴いた。罪を償うための旅もあると。
半分本気で、半分冗談。それ以上望まぬようにしたベーゼは、へらと笑って見せた。
「だから、今年は誕生日の我侭、とびきりのヤツをきかせてほしいんだ!」
「……さいご、だから……?」
震える声音の“疑問文”。
くまは、応えなかった。
●
こうして顔を合わせるのも何度目だろう。
向かい側のもこもこの毛皮おばけ──サイガを見遣る。
「紅茶にブランデーを垂らすのをしたい」
寒いなら酒精のある方が温まるだろうとティアンが彼の仮装に言えば、彼も彼女の仮装──ふかふかの首許に垂れた白い翅、特徴的な触角の羽化した蚕の姿に「蚕のクセに飲み食いすんのか」小さく笑う。
「二年半位前のサイガが、未成年のティアンに合わせてジュースでお揃いにしてくれたのを憶えてる」
「そのちっせぇ頭のどこにンな記憶領域があるって? 昔は急に舞い込みやがるオシゴトに備えて控えてただけだし」
「今日のサイガは好きに飲んで大丈夫だぞ。ティアンも大人なので」
「……まいーや。今はただの暇人だ」
相変わらず聴いているんだかいないんだか判らない彼女の相手を諦め、サイガも運ばれてきた紅茶にビタースボトルを傾けた。
漂うのは金木犀の甘い香。
「ツリーハウスで相談持ち掛けたのが懐かしい。……あの頃、周囲に子供扱いされてばかりで、それが嫌で。でもそこに甘んじるのが普通になっていたティアンに取り違えるなって、対等だって言ってくれたのが、サイガ」
「言ったっけかなぁ」
聴いているんだかいないんだか判らないのはお互い様。かりしゅわのメレンゲクッキーを放り込み、噛み砕いてはジンジャーが効いたティークッキーをひょいパク。
そんな彼にティアンは、す、と視線を据えた。
「──だからずっと面白くなかった。君が誰かに叱られるからって手加減してきたの」
首筋に据える、冷たい言葉。きみを縛るのは、
「誰?」
「は。今となっちゃわかんねーわ」
口角を上げ、興味もなさそうに告げる。「わかんねぇが」漆黒の目が、毛布の隙間から刺し返す。彼女の“変わった”様を。
「案外自分の意思で、美味いモンは後に回しただけかもな」
「自分の意思なら“叱られる”は言葉が違うぞ」
食い下がるティアンをサイガは欠伸ひとつでいなす。
「んで? まだ死にてぇの?」
なんでもないことのように投げた問いに、
「ん。予定はある」
なんでもないことのように返った言葉。
──予定が、ね。
「なぁんだツマンネ」
一粒避けておいた、いっとう美味しそうなイチゴ味のクッキーを、ぞんざいに口へ投げ入れた。
●
ピュアダージリンのカップを傾けエトヴァが金木犀の香りを胸に吸い込んだとき。
「……私、宇宙へ行くわ」
悲壮感など一切なくアレクシアが言ったから、彼はカップを手にしたまま固まった。
「……本当に?」
「ええ」
疑うつもりはなくとも問わずに居られなかった。蘇芳の瞳を細めてアレクシアはアプリコットのクッキーを抓み、淀みなく告げる。
「この星以上の絶景に出会えるかはわからないけれど、デウスエクスの文化研究のチャンスだものね。それに興味が惹かれるのよ、どうしようもなくね」
「……あなたなラ、そう仰るような気はしていましたガ……」
優雅に焼き菓子を口にする彼女につられ、エトヴァも手許のハイデザントクッキーを咀嚼する。名の通り砂の如く崩れた。
「……俺は少し、あなたが羨ましイ」
迷いのないまっすぐな瞳。興味の向くまま在れること。
「……寂しくなりますネ」
「そうね」
唇に笑みを刷き、次はチェリー風味の菓子を抓む。
「貴方と暫く共演できなくなるのは寂しいわ。……でもね、きっと楽しいわ」
不思議よね。と、やっとアレクシアはエトヴァを正面から見据えた。
「きっと飽く事がないのよ。手始めに、ダモクレス達から話を集めたいわね」
エトヴァ、貴方はどうするの?
揃いの紅茶で喉を潤し、彼女は首を傾げた。
「……ちょうど今、悩んでおりましテ。したい事は沢山ありますかラ」
迷うように、探すように、金木犀へと視線を逃がす。漂う甘い香は変わらない。
「記録と伝承を、語り伝えること。世界にはきっと、宇宙と連絡をとる新たな組織も必要でショウ……」
そして顔を上げた。
「……でも、俺は音楽が好き。どこかで歌っていたい、歌っているのだと思いマス」
惑いつつも揺らがぬ彼の様子に、アレクシアはふ、と小さく噴き出す。
「知っているわ。貴方、歌っている時いい顔してるもの」
その感想に、エトヴァも微笑みを浮かべた。そうして茶会を楽しんだのち、「ねえ」彼女が言った。
「私の創っていた歌物語。あなたに預けて行っていいかしら」
『暫く』。『預けて』。
彼女にとって宇宙すら『旅行』なのだろうと察せられ、肩の力の抜ける心地がするから。
「ハイ」
彼も迷いなく応じた。
作者:朱凪 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2021年10月31日
難度:易しい
参加:14人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|