ケルベロスハロウィン~布引ハーブ&メモリーフォト

作者:柊透胡

 アダム・カドモンとの最終決戦、ケルベロス・ウォーに勝利して4ヶ月――新型ピラーの開発は、順調に進んでいる。
「併せて、ダモクレスの本星マキナクロスに於ける、ケルベロスの居住区の建造も、形になってきました」
 まずは、現在の進捗状況を、粛々と報告する都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「このまま、予定通りであれば……今年のクリスマスの頃には、希望者を乗せて外宇宙に進出する事になるでしょう」
 この外宇宙への進出は「宇宙に異常を齎すデウスエクスのコギトエルゴスム化の撤廃」を遂げるべく、「新型ピラー」をまだ見ぬデウスエクスの惑星に広めに行くという、途方も無い旅となる。
「マキナクロスを本星としていたダモクレス達は当然、同行します」
 住居が動くのなら当然かもしれないが、『ケルベロスの意見を受け入れた強力な種族』として、オブザーバー的な立場もあるのだろう。
「更に、ケルベロス・ウォー以降、降伏したデウスエクスの内『地球を愛せず定命化できなかった者』も、共に地球を離れる予定です」
 旅立つ者にとって、地球での生活は後2ヶ月程と言えようか。
「それで……折角ですから、ケルベロスハロウィンの時に、外宇宙へ旅立つ船となるマキナクロスのお披露目も兼ねて、地球各地のお祭りに参加する事になりました」
 マキナクロスは地球の軌道上を高速で移動出来る上、もっと急ぐ時は魔空回廊も使える。どんなに離れた会場であろうと、複数梯子しても問題はないだろう。
「ハロウィンパレードは、現地の人々が多く参加しているイベントで、その土地ならではのイベントも多いそうです」
「ハロウィンは元々、ケルトのお祭りというお話だけれど……日本では、愉しい仮装パーティ♪ というニュアンスが強そうねぇ」
 クスリと微笑んだのは、貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)。
「御機嫌よう、皆さん。今回は、わたくしの地元のハロウィンイベントに、お誘いしようと思って」
 兵庫県神戸市――神戸布引ハーブ園は、約200種75000株の花やハーブが咲き誇る日本最大級のハーブ園だ。テーマの異なる12のガーデンを、四季折々、様々な花やハーブが彩っている。
「今は、ガーデンのあちこちに、素敵な『ハロウィンスポット』があるのですって」
 この標高400mから神戸の街や海を見下ろす優雅な天空庭園を、ケルベロスハロウィンの夜、仮装した人々がジャック・オ・ランタンを手にパレードするという。
「パレードは、夕方5時から夜7時まで。イルミネーションや夜景を愉しみながら、展望エリアからカフェラウンジまでねり歩くのよ」
 イベントのメインはハロウィンパレードだが、実はお楽しみは、朝から始まっている。
「フォトウェディングって、御存知かしら?」
 フォトウェディングとは、結婚式に代わる写真撮影の事。好きな婚礼衣装、好きなロケーションで撮影した写真を結婚の思い出とする。
「布引ハーブ園は、フォトウェディングやロケーションフォトの人気スポットなんですって」
 12のガーデンは、まるで絵本の世界に入り込んだよう。ドイツの古城のようなレストハウスやイングリッシュガーデン、ハーブ園で可憐な花々に囲まれて、甘い香り漂う中の撮影は、また格別だろう。
「婚礼衣装のレンタルは勿論、着付けも撮影も、プロの方にお任せ出来るわ」
 又『ハロウィン』なので、仮装しても大丈夫。いっそ、『モード』系の防具特徴を活用してもケルベロスらしいかもしれない。衣装や機材だけレンタルして、撮影は自分達でするのだってOKだ。
 ちなみに、各所のカフェやレストランではハロウィンメニューが充実しており、ハロウィンバージョンのピクニックバスケットも用意されている。思い出を写真に収めた後は、2人きりで秋のピクニックを満喫するのも楽しいだろう。
「最終決戦から4ヶ月……既に、各国の責任ある立場になったケルベロスも少なくないようです。新たな門出を迎えた方もいらっしゃるでしょう」
 少女めいて満面の笑みを浮かべる老淑女の隣で、あくまでも慇懃なヘリオライダーの言う通り――ケルベロスハロウィンは、旧交を温め合う、きっと良い機会だ。
「是非、秋の好日を、存分にお楽しみ下さい」


■リプレイ

●秋の香日
 ロープウェイで約10分。神戸の街並を一望出来る日本最大級のハーブの植物園――布引ハーブ園。
 風の丘中間駅を経て、終点はハーブ園山頂駅。小洒落たデザインのレストハウスは、ドイツや北欧のイメージか?
「うわー! すごいねぇ、ここ。ハーブが一杯!」
 歓声を上げる貴石・連の様子に、レベッカ・ハイドンは微笑ましそう。
「うん、景色が綺麗ですね。写真に収めるのも素敵ですねえ」
 2人共、撮影準備は万端だ。
「ベッカはどこがいい? あたしは風の丘フラワー園が興味あるな。秋風に揺れるハーブなんて素敵じゃない」
「レンが行きたい所、一通り行きましょうか」
 展望プラザから風の丘に至るまで、ほぼ全てのガーデンを辿る。のんびりと坂を下る2人。
「……ハーブの足湯もあるんだって。浸かっていこうか」
 途中のガーデンテラスに、ローズマリーが浮かぶハーブバスが。
「うん、足湯、気持ちいいですね」
 2人並んでほっこりタイム♪ 連とレベッカの肩が触れ合う。
「ベッカ、好きだよ」
「私も好きですよ。ずっと一緒にいましょうね」
 衒いなく想いを伝え合えば、心もぽかぽかと。
「往復しちゃうけど、食事は展望レストハウスにしない? 古いお城みたい!」
 ハロウィン限定のコース料理がいいと連が瞳を輝かせれば、レベッカも甘やかすように肯いて。
「食材に南瓜とか使っているようです。ハロウィンぽくていいですねえ」
 散策したばかりのハーブガーデンを遠くから眺めたり、ハロウィンパレードを見物するのも素敵だろう。

「ケルベロス活動が事実上無くなって、やっと家業の電気店に戻れる! と思ったのに」
 風戸・文香は大いにむくれている。
「いい加減身を固めるようにって両親や妹、親戚にも詰め寄られて。見合いまでするハメになって」
 現在必死に逃亡中――唇を尖らせる文香は、可愛く仮装した眼鏡少女だ。
「もうここまで来たら、寧ろ独りの方が気楽ってもんよね!」
「確かに、平和になったらさっさと結婚、は違うかも」
 愚痴に付き合う結城・美緒も、見た目は砂糖菓子のような少女であれば――傍から見れば、ガールズトーク。その実、どっちも成人しているドワーフマジックだ。
「というか……昔の衣装がそのまま着れる辺りが、もう!」
 10歳のままなのは、ドワーフだから仕方ない……と達観出来れば苦労はない。美緒もとーい目をしている。
 とは言え、愚痴るだけでは、秋の好日に勿体ない。
「これ、最近直したばっかりなのね」
 得意げに文香が見せたのは、クラシックカメラ。機構部分の修理は、ガジェッティアの面目躍如だ。
「折角だから、皆さん撮りたいなって」
 フィルム写真は現像必須だが、独特の味わいがある。きっと喜ばれるだろう。

「んぅ、結婚式……シチュエーションはお任せ?」
 考え込む御足菜・蓮。今日は、いつかの結婚式の余興の予行と前撮りも兼ねた記念作り。
「私の憧憬……そうね、葡萄でも踏みながら式場を歩きましょうか」
 上手に渡れたら幸あり、転んでも文句言いっこなし。どっちにしろ笑い合おう。
「それが出来れば、十分やっていけそうよね」
「葡萄踏みのオリグラを持つ、蓮さんらしい結婚式だね」
 彼女の提案に、紺崎・英賀はいとおしそうに微笑む。
 蓮のディアンドルに合わせて、レダーホーゼを着る英賀。流石に今回は、蓮のオリジナルグラビティを利用する。
「神々に捧ぐは果実の甘露――」
 蓮は馴れたもの。具現化した盥一杯の葡萄を踏み、くるりくるりと愛らしく。
「これは、し、新感覚……転びそう……」
 一方、英賀はバランスを取るのも一苦労。
「あの……手を繋いでいい?」
 彼の情けない表情に、蓮はちょっとお冠。
「ホントにあなたって。スカートの中を見たり」
「誤解だって」
「人様を剥いだりして」
「模擬戦のアクシデントだよ!?」
「踏むわよ? なのに喜んだりして、ヘンタイよヘンタイ」
「うう……喜んだのはそう言いながら、告白OKしてくれたからだよ」
 誤解から始まった交友。思い出を振り返る蓮は容赦なくて、写真を撮るスタッフも、ずっと笑いを嚙み殺している。
(「でも、今は……触れられる」)
 ダンスの振り付けを装い抱き寄せて――葡萄の盥の中で、そっと頬に口付ける。
(「い、今はこれが精一杯……」)
 自分からサプライズを仕掛けながら赤面する英賀を、じっと見返す蓮。
「……ばか」
 不意打ちの仕返しは、脚ではなく。
「!!???」
 唇に柔らかな感触――絶好のシャッターチャンスを、プロが逃す筈も無く。
(「写真……前撮りと言わず、もうスマホに入れよ……」)

●白幸の誓い
 ロケーションフォトも楽しめる今回、園内の各エリアに更衣室が用意されている。
「うわぁ……すごい、綺麗」
 連れて来られたウォーレン・ホリィウッドは、トルソの花嫁衣裳に、思わず息を呑む。
 チュールとレースの上品なハイネック。ハートカットのデコルテラインと、プリンセスラインのドレスは王道だ。
「ついこないだ完成したとこや。丁度良かったな」
 美津羽・光流は得意そう。6月に発注したという。
「ヴェール、オレンジの花だね」
「要望通り完璧や。梓織先輩に聞いて正解やったな」
「うん、お礼言わないと……これ、僕が着ても良いのかな」
 憧れを前に緊張するウォーレンの肩を、光流は明るく叩く。
「ほな、完璧に着せたるからな。腕が鳴るわ!」
「えっ? 着付けはスタッフさんにお願いするよ」
 彼の器用さは知っている、けれど、綺麗な所を見て欲しい乙女心。
「……わかった。君の希望を尊重する」
 光流は少し残念そうだったけれど。
「ふふ、花婿さんになって待ってて」
 待ち合せはローズシンフォニーガーデン。一足早い光流の背後に、愛しい気配。
「レニ……思うた通り、最高に綺麗や」
「ミハルだって……完璧な花婿さんに見惚れちゃった。良く似合ってるよ」
「それは俺の台詞やろ?」
 照れ臭そうに、幸せそうに見つめ合う。
「何だか夢みたいで……嬉しくて泣きそう」
「夢やないよ。泣いて化粧が崩れてもちゃんと直したる。笑顔の時も泣いてる時も」
「うん……病める時も健やかなる時も、一緒にいようね」
 寄り添う2人の誓いを――カメラマンは1枚に封じ込めた。

 結婚してそろそろ5年。勿論、式は上げたし記念写真もあるけれど、折角の機会だ。
「フォトウェディングにも参加したいわ」
 色とりどりの香り高い秋の草花に囲まれたドイツ風のロケーションで、お姫様みたいなドレスを着て。
「2人で過ごすのも……いいえ、今は『3人』ね」
 そっと押さえたチェレスタ・ロスヴァイセのお腹は、まだ平らだけれど。
(「分かるの。私とあなたの愛の結晶……互いの魂を受け継いだ、新しい命の存在を」)
「勿論だ。望み通り、お前の好きなドレスを着ておいで」
 優しい笑顔で、最愛の妻を見送ったリューディガー・ヴァルトラウテだが、まだ8週と母子共に不安定な時期であれば、心配が勝る。
(「無理をさせてはいけない」)
 クラシカルなタキシードに袖を通しながら、撮影スタッフとの打合せに余念ない。
 そうして、秋の思い出を写真に収める2人。
「チェレスタ……ずっと考えていたんだ」
 使命を果たした今、故郷のドイツに帰るか、今後も神戸に住むか。
「長い戦いの日々の中、この国に愛着が出来た。沢山の友と思い出を得た……戦いが終わっても、俺は大切に守り続けたい」
 夫の言葉に、チェレスタはにっこりと笑む。
「私、この街が、この国が好きよ。やっと平和を取り戻したんですもの。これからもずっと、家族で仲良く暮らしたいわ」
「ああ、幸せな家庭を、築いてゆこう」

●ヒーリング・ガーデン
 宇宙へ旅立つ前に、綺麗な場所を見せたいと思った。
「お待たせしました」
 ヘリオライダーや知己のケルベロスと挨拶して、九田葉・礼は風の丘フラワー園に立ち尽くす大きな人影に駆け寄る。
「ピクニック、しませんか?」
「ああ……」
 エインヘリアルの騎士フェデリーグ・カスティルは、礼が両手で抱える大きなバスケットをヒョイと片手で取り上げる。
 一面に広がる秋のハーブが、爽やかな風にそよぐ。遠くに神戸の風景を望める絶好のロケーションだ。
「綺麗ですね」
「……そうだな」
 礼が話題を振らない限り、フェデリーグは口を開かない。だが、話せば返事をくれるのが、礼は嬉しい。
(「私に、付き合ってくれているんですよね……」)
 デウスエクスは食事を必要としない。だが、フェデリーグは拒まなかった――ケルベロスハロウィンの誘いも。年末、マキナクロスでアスガルドの復興に旅立つ事も。
 彼は地球を愛さないと、礼はよくよく思い知っている。
(「愛せなくても、嫌わないで欲しい。選定前のあなたや、あなたの仲間の子孫が生きてる可能性もあるのですから」)
 翻って、ヴァルキュリアである礼が定命化出来たのは、ケルベロス達の好意と努力だけでなく、『選定』で地球人の魂に触れたからか。
「あの、これだけは……あなたの仲間の魂は、あなたの幸せを願っています」
「そうか……」
「否定、しないんですね」
「看取りの妖精の言葉だからな」
 その口ぶりに皮肉は無く、礼の頬が緩む。
 或いは、秋の綺麗な花々やハーブの香りが、彼の心を幾許かでも癒したのかもしれない。

 昼も下がって、パレードのスタートまで後数時間。
「パレードの前に、写真を撮りましょう」
 カメラを手に、勢い込んでいるのはエルム・ウィスタリア。
「四季の庭のガーデンシェッド、すごく写真映えするんです!」
 四季の庭『よろこびの庭』は段々畑で、ハーブや花々が育てられている。ガーデンシェッドは農機具や収穫したハーブを乾燥保存する為の小屋で、『ハロウィンスポット』の1つだ。
「グラスハウスもおすすめです! 『愛の像』があって、2人の良い思い出になると思うんですよ。僕はお構いなく!」
 ちらと目配せし合うアンセルム・ビドーと朱藤・環。確かに『ザ・ハロウィン!』な場所は気になるけれど、カップル同士が肩を寄せ合う場所を選ぶなら、わざわざ3人で来ない訳で。
「何処が2人に似合うかな……え?」
 エルムの両腕を左右からホールド。有無を言わせず連行したのは、同じ四季の庭でも『くつろぎの庭』の方だ。ハーブに囲まれたコテージのウッドデッキに、3人で座れるベンチがある。
「すごくいい景色ですね。でも、カップルだとちょっと雰囲気が……」
「エルムさん、その気持ちはものすごーく嬉しいですが! 私はエルムさんとアンちゃん、3人の写真が欲しいです!」
「あの、僕カメラマンで……」
「カメラマンは呼んであるから大丈夫だよ。今日は3人の写真を撮りに来たんだから、キミがいないと始まらないんだよ」
 ホールドしたまま、エルムを挟んで強引に座る。
「何で僕が真ん中なんですか?」
「私とアンちゃんの間は特等席ですよ!」
「ほらほら、笑って笑って!」
 どうせならもうちょっと詰めちゃおうと、ギュウッとくっついて。
「に、逃がす気ないですよね!?」
 思わず抗議の声を上げたエルムだが、ほっこり感じたのは、きっと2人の体温の所為ばかりでは無い。
(「そりゃぁ……嬉しいですけど!」)
 素敵な思い出の1枚が、撮影された。

●ハロウィンナイトパレード
 遠き山に陽は落ちて――展望プラザはまるで幻想的な「光の森」。いよいよ小路を辿ってカフェラウンジまでのハロウィンパレードの始まりだ。
「折角のハロウィンデスし、キミの分もご用意したデスが、どーでしょーか!」
 日没後も快活なシィカ・セィカの仮装は、曰く『ロックなメイド服』。
「……遠慮する」
 対する機界魔導士ゲンドゥルの返答は素っ気なかったが、その装いからして「メカニックな魔導士」だ。ハロウィンパレードにそのまま混じっても、違和感は無いだろう。
「じゃあ、せめてこっちを持ってくださーい!」
 つれなく断られても、シィカのテンションは変わらない。ジャック・オ・ランタンを差し出せば、暫しの沈黙の後、ゲンドゥルは徐に受け取った。
 ――――♪
 橙色の灯揺れる中、ご機嫌でロックなハロウィンソングをギター演奏するシィカ。
(「これで盛り上がること間違いなしデス!」)
 足取りも軽く、ゲンドゥルの方を見やれば、パレードを眺める横顔は沈着そのもの。ダモクレスならではか。
(「だけど、不思議なシンパシーを感じるお相手なのデスよ」)
 だから、シィカはケルベロスハロウィンに、彼女を誘った。その実、これまで戦った事は無く、ジュモー最終決戦でニアミスしたくらいか。
「そう言えば……どうして、誘いに応じてくれたんデスカ?」
「……我らダモクレスは、所詮は敗残兵だからな」
 シィカの演奏をBGMに、ゲンドゥルの声音は淡々と。
「これから、どうするべきか。今後の為に、ケルベロスの性格データの採取しようと考えただけだ」
 初めてゲンドゥルは、シィカを真っ向から見返す。
「お前は……変だ」
「アハハハ、ユニークは誉め言葉デスネー!」
 明け透けな言葉に、シィカは屈託なく笑う。
「こーゆー風に、宇宙の皆と仲良くなれたらいいなーというのが、ボクの夢ってヤツデスねー!」
「仲良く、な……」
 呆れた様子を滲ませながらも、ゲンドゥルはシィカの足元を照らし続ける。それが何だか嬉しくて、シィカは相好を崩した。

「フレイヤサン、再会できて嬉しいデス」
 白の正装に花冠、愛弓を背に『射手座』に扮したエトヴァ・ヒンメルブラウエの笑顔に、ダモクレスであるT-Frejaは小首を傾げる。
「嬉しい?」
「うむ、わしらは一緒にフレイヤと、夜のパレェドを楽しみたいのじゃ」
 もふもふと『大熊座』なる端境・括の言葉にも、T-Frejaは不思議そうだ。
「ぱれぇど……」
「地球のお祭りは楽しいデスヨ」
「世界って知らない事だらけで。私達はあなたと飛ぶパレードを、まだ知らないから」
 エトヴァに続き、『獅子座』的にもふもふな愛柳・ミライは「教えて欲しい」とT-Frejaを見上げる。
「勿論代わりに、教えてあげるのです。約束しましたものね。飛び方は1つじゃないって!」
 獅子だけどオラトリオの翼を広げ、がおーっと手招き。
「勿論、フレイヤの仮装も用意したのじゃよ。夜空に映える、乙女座風じゃ」
「……」
 括の両腕に、希臘の女神のような衣裳がひらひらと。だが、T-Frejaは頭を振る。
「皆さんの配慮と判断しました。感謝します。しかし、飛行機能に影響を及ぼします」
「気球もNGでしたね」
 『牡羊座』なるもこもこ羊なフローネ・グラネットも思案顔だ。神戸でも気球が乗れる施設はあるが、山上のハーブ園ではケルベロスをしても許可は下りなかった。フローネのアメジスト・ドローンも、流石に人は乗せられない。
 チカチカとT-Frejaの頭部が点滅する。
「飛行時、1人なら運べます」
 スピードも高度も半減するが、ナイトパレードの一環なら、問題はあるまい。
「私も、フローネさんならいけるかな?」
「デハ、お言葉に甘えて……俺達と一緒に飛んでみませんカ? 新しい景色を見まショウ」
 いよいよパレードが始まり、エトヴァはT-Frejaと、フローネはミライと一緒に夜空へ。
「わしは歩きながら、皆をカメラに収めるのじゃよ」
 定命の者は一時の輝きを残す為に写真という記録媒体を使う。
「これもまた『楽しい』じゃ!」
 満面の笑みを浮かべて、ポラロイドカメラを構える括。
「そう言えば、ヒトの食べ物は……不要? 『とりっくおあとりーと』も伝授したかったんじゃが」
「不要ですが、不可能ではありません」
 という訳で、ハーブの飴は「甘くて美味しい」と学習出来た模様。
「1つずつ、覚えていくが宜しかろう」
 自由の使い道は楽しいを知る処から。今夜のパレェドは、きっと打って付け。
「……お疲れ様デシタ」
 ――パレード上空を飛行するケルベロスとダモクレスは、確かによく目立った。
 降り注ぐヒールの輝きは美しく、幾度となく歓声が上がった。
 エトヴァやフローネも夜景に見惚れ、地上の人々に手を振り、括の写真に笑顔で収まった。
「皆さんの声が、笑顔が、聞こえましたか?」
 それは、ミライにとって素敵で……ちょっとだけ、期待が重い。それでも、その先の景色を見たかったから――もっと飛びたいと思えたのだ。
「それが、自由、なのかなって」
「まだ空の事、自由の事で大変でしょうけれど……もし疲れた時がきたなら、どうか地上も頼って下さい」
 フローネは地を守る者。空を、宇宙を翔ける者達が戻る場所を守りたいと。
「もし地球の空をもっと知りたいと思ったら……プラブータにも顔を出して下さい」
 デウスエクスが定命化しないでも、地球の人々と友となれる場所を作るのが、フローネが進みたい道だから。
「あなたには、どんな景色が見えるでショウ?」
 エトヴァも地上にいると、決めている。その心に煌めきが燈るように。
「あなたも、共に歩きまセンカ」
「……」
 ケルベロス達に囲まれて、彼らの言葉を聞いて。T-Freja――生まれて間もないダモクレスは逡巡する。
「皆さんの言葉は、事実でしょう。しかし、私の実体験ではありません」
 地球を知るからこそ愛せない者がいれば、知らないからこそ愛せない者もいる。
「私は、宇宙という『空』を知りません」
 T-Frejaにも優先順位がある。だが、それは『現状』に於いてだ。
「いつか、地球に戻ります。『自由』と、『愛』を知る為に」

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年10月31日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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