――かつては、高い所が苦手だった。今は……空が好き。
秋分を過ぎて、秋の夜長は着実に。一方で、黄昏の空は何処か、秋という季節に似つかわしい気がする。
「確カ……秋は夕暮レ?」
何の引用だったかと、小首を傾げるエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)。ウイングキャットのエトセテラと目が合ったが、ふわふわと翼を羽ばたかせるのみだ。
時計師としてエトヴァが訪れたのは、時計塔のある学園。創立以来、時を刻み続けているという巨大な古時計のメンテナンスは、滞りなく終わった。
時計塔がある校舎の屋上で、一息つく。高台にある学園なので、屋上からの見晴らしも格別だ。直に、高台の裾に広がる町並みも灯り出すだろう。今日もきっと、昨日と同じ平穏な光景。願わくば、明日も――ケルベロスとして戦い抜き、この光景を護り切った事は、エトヴァの誇りの1つだ。
「……そろそろお暇しましょうカ、エトセテラ。教頭先生にご挨拶ヲ――?」
陽が翳れば、吹き抜ける風がいっそ肌寒い。職員室に向かおうと、踵を返したエトヴァの足がピタリと止まる。
(「アレ、は……?」)
黄昏の橙の空に黒ずんで見えた。銀の双眸を眇めてよくよく見れば……飛行機とするには、余りに小さな――恐らくは人間大の、影。
『センサー感知。熱源探知。対象数2。識別照合……エラー』
硬質な女性の音声であったが、そのシャープなシルエットは、所謂ロボットそのもの。空と雲の色を思わせる2色のカラーリングで、どんなテクノロジーの賜物か。駆動音も無くホバリングしている。
(「……やはり、ダモクレス?」)
『再照合……エラー……エラー……』
「アノ……」
何らかのトライ&エラーを繰り返しているダモクレスに、エトヴァは思わず声を掛ける。
――――!!
その返答が、よもや――槍にも見える長柄の武装に具えられた、砲塔からの光線の発射とは。
咄嗟に、サイドステップで回避した。今しがた、エトヴァが立っていた場所は、丸く穿たれて焦げている。うっすらと、煙が立ち上る。
『エラーの規定回数超過により、ターゲットを同胞でないと判断。セーフティ解除、これより当機は戦闘モードに移行する』
「!?」
甚だとばっちりのような気がするのは……決して、エトヴァの気の所為では無いだろう。
「ダモクレスの襲撃、というより、不運な遭遇でしょうか」
小さく溜息を吐いた都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達を見回す。
「彼の停戦より4ヶ月が経とうとしていますが……ダモクレスの中には、未だに己が職分を見失ったままの機体もあるのでしょう」
T-Freja――タイプ・フレイヤもその1機。
「優れた飛翔能力を誇るダモクレスですが、地球侵略という戦場を喪った事で、生存の目的も見失ってしまったようです」
停戦後も人知れず、空中戦闘能力を磨き続けてきたようだが、単身飛翔していた所、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)と遭遇してしまった。
「エトヴァさんと、連絡が取れません。大至急、合流して下さい」
場所は、とある学園の校舎屋上。ヘリオンからの直接降下には、時計塔が目印となるだろう。日没も近い夕刻であるが、まだ戦闘に支障のない明るさだ。
「屋上にいるのはエトヴァさんと彼のサーヴァントのみ。既に完全下校の時刻は過ぎていますので、校内に残っているのは、数名の教師と用務員のみです。『屋上』で事を済ませる分には、特段、避難誘導は必要ないと考えます」
少々、校舎が破壊されたとして、戦闘後にヒーリングすれば問題ない。
「ダモクレスは、槍と砲が一体化した武装を具えています。ゲシュタルトグレイブとバスターライフルに酷似したグラビティを使うと推測されます」
元より戦闘機体であるようで、敵を前にすれば、むやみやたらと『飛行』状態で飛び回る事は無さそうだ。
「『戦闘』という存在意義を得た事で、ダモクレスは皆さんが加勢されても、逃亡せずに戦い続けます。彼女……女性体のようですね。このダモクレスとの『対話』を望むのでしたら、まず、1度は地に膝を突かせる必要があるでしょう。其処からどう対処するかは……皆さんにお任せします」
ともあれ、まずはエトヴァの救援を優先するべきだろう。
「どうぞご武運を。宜しくお願い致します」
参加者 | |
---|---|
青葉・幽(ロットアウト・e00321) |
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784) |
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
ジェミ・ニア(星喰・e23256) |
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629) |
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731) |
九田葉・礼(心の律動・e87556) |
●空へ誘う
――セーフティ解除、これより当機は戦闘モードに移行する。
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)を無情にも見下ろし、ダモクレスは銃口を向ける。
フゥゥゥッ!
ウイングキャットのエトセテラが、尻尾を膨らませて威嚇する。
「ありがとウ、エティ」
懸命なサーヴァントの背を撫で、だが、エトヴァは微笑んでダモクレスを見上げる。
「俺ハ、エトヴァ・ヒンメルブラウエ。人の心を得テ、レプリカントに変形したモノ」
武装したデウスエクスを前に、エトヴァの『心』に湧いたのは、何故か恐怖や怒りではなく――懐かしさ。
「俺トハ……初めテ、ですカ?」
『肯定。当機に、レプリカント化したダモクレスのデータは無い。心と呼称するバグは、本体諸共破壊すべきである』
このダモクレスのかつての任務と、襲撃の理由が、見えた気がした。
「そちらの名前……伺ってモ?」
『了承。認識コード――T-Freja。固有認識コード――未設定』
ダモクレス――タイプ・フレイヤは、澱みなく即答する。
「デハ、フレイヤ殿……貴方ハ、空が好きですカ?」
『回答保留――否定。当機に、好悪の設定はない』
木で鼻をくくったような反応は、確かにダモクレスだと実感する。
「ナラ、どうしテ、ひとり飛び続けているのですカ? 俺も空が好きデス」
『回答……拒否。レプリカントは、同胞に非ず』
――――!!
問答無用の光線が、エトヴァの身体を凍らせていく。
すぐさま、浄化の翼を羽ばたかせるエトセテラ。流石に顔を顰めたものの、エトヴァは引っ掛かりを覚える。
(「答えるのヲ、躊躇シタ?」)
ダモクレスはこれ以上、取り合う気はなさそうだ。
コミュニケーションも生き延びてこそ。止むを得ず、エトヴァも身構えたその時。
「エトヴァさん!」
エトヴァとダモクレスの間に降り立った紫の影が、アメジストの如く輝く光の盾を掲げる。同時、宙に描かれた蛇の文様が、牙剥きダモクレスへ襲い掛かった。
「フローネ殿、ジェミ……?」
「……」
戦いはもう終わった。そう考えていた。
(「だから、もう心配いらないって……エトヴァが戦いで傷ついたり、命を落とす事はないって。思ってたのに……お願い、僕の大切な家族を奪わないで」)
無言でダモクレスを見据えながら、ジェミ・ニア(星喰・e23256)が今にも泣き出しそうに見えるのは、きっとエトヴァの気の所為では無いだろう。
「無事かの、エトヴァ」
校舎の屋上に飛び降り駆け寄った端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)は、半ば凍り付いた右肩を見て息を呑む。だが、アメジスト・シールドを掲げたフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が彼に気力を注いでいるのも確認して、ホッと肩の力を抜いた。
「まぁ、エトヴァの事じゃ。心配はしておらなんだけど……」
――嘘だ。喩え彼の方が歴戦でも、友を案じる『心』は理屈でないのだ。
「……学園の一般人は全員、校舎内。『短期決戦』なら大丈夫かしら」
ゴッドサイト・デバイスで周辺を確認した青葉・幽(ロットアウト・e00321)は、エトヴァとT-Frejaを見比べ、溜息を吐く。
(「もう、ケルベロスとデウスエクスが殺し合う必要は無くなったのだもの」)
双方の無事を願うのは――幽の胸中に、看取った『彼女』の面影が未だに在るからかもしれない。
『センサー感知。熱源探知。対象数7。識別照合……エラー』
「待って下さい! 私達はケルベロスです。エトヴァさんの、仲間です!」
やはりエトヴァを庇い、九田葉・礼(心の律動・e87556)は声を張る。
(「エトヴァさんとエトセテラちゃんには、お世話になったなんて一言じゃすまない」)
あの時――駆け付けてくれたケルベロスの誰が欠けても、礼が望んだ結果は得られなかっただろう。
(「これはその恩返し……ううん。エトヴァさん達を心配する人は大勢いる」)
今、この場にいない者の分も頑張ろう――礼の言葉は酷く勢い込んで、黄昏の空に響く。
「私達は、あなたに空中戦を挑みます!」
『……』
何とも言えない、沈黙が落ちた。
「えっと……?」
『処理落ち修正――完了』
ダモクレスはフリーズした模様。
「あ、動き出した☆ ……あのね、あなたには後悔しない選択をして欲しいのです。お互いのために」
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)の言葉に、T-Frejaはにべもない。
『意図不明』
1対8(+ウイングキャット)という圧倒的な数的優位でありながら、空中戦を申し出てきたケルベロス達の態度は、ダモクレスの理解の外であったようだ。
「僕達は、あなたを尊重したいと考えています」
初対面で以心伝心は有り得ない。カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は言葉を惜しまず、ケルベロス側の意思を伝える。
「あなたの特性は知っています。だから、空中戦での決着を提案しました。これ以上、地上の破壊や、一般人の殺戮を認められないからでもあります。僕達はケルベロスだから、この点は譲れません」
『……』
暫時の沈黙。思考しているのか、T-Frejaの頭部がチカチカと瞬く。
『――空中戦の提案、了承』
『心』持たぬダモクレスには、情に訴えるより理で説く方が効果的だったか。エトヴァは無意識に詰めていた息を吐く。
「デハ、正々堂々、空でお手合わせヲ」
T-Frejaは無言で上昇する。黄昏の空の中、槍と砲が一体化した長柄を構えた。
●空を翔る刻
ジェットパック・デバイスのスペックは最高時速30km、最高高度50m――だが、圧倒的な数の差に加え、ヘリオンデバイスによる戦力の増強、更にジェットパック・デバイスによる飛翔は、本来のポジションと「飛行中」両方の特性を具える。
もし、ダモクレスがヘリオンデバイスの性能を知っていれば――幸いにして、T-Frejaの与り知らぬ所であった模様。真っ向からケルベロスと対峙し、光線で迎撃する。
「いくたま。たるたま。たまとまるたま。むすび括るは我が磐境。これより先に、黄泉路の手引を通しはせぬよ」
禊言葉と共に乱れ撃つ弾丸を要石と成し、守護の神域を展開する括。
「エンジン全開! アフターバーナー点火! ……最大戦速で突っ込むわよ!」
高機動型装備に換装し、幽は一撃離脱を繰り返す。T-Frejaの飛翔スペックは、ジェットパック・デバイスを凌駕する。なればこそ、スナイパーの精密さを以て動作の起点を制し、イニシアティブの奪取に専念する。ジェミもダモクレスの機動力を削がんと、宙に『拘束するモノ』を描き、或いは重力宿る蹴打を放つ。
――今羽ばたくの二人手を繋いで。まだ見ぬ明日は不安じゃない希望だ。
唄い続けるミライと息を合わせ、フローネも攻め手に守り手に、縦横無尽に天翔ける。
「聖王女の加護を受けし者の魂は、今、私と共に!」
礼の意識が、かつて看取ったオラトリオの記憶とシンクロする。シャイニングレイと似て非なる光撃がジグザグに閃いた。
――――!
殺到するグラビティ。それでも、屋上のウイングキャットを標的にしないのは、T-Frejaの矜持だろうか。射出した榴弾が分裂し、空中のケルベロス達へ雨霰と降り注ぐ。
「素晴らしい技量ですネ。ですガ……その力は何のタメ?」
白銀の翼を広げ、弓引くエトヴァ。
「俺モ、力の使い方がわからなかっタ。デモ、俺は護るためニ、戦うと決めマシタ」
戦場を駆け抜けてきた今、此処に平和が在ると、胸を張って言える。
(「俺は幸運デス……信頼する仲間たちに囲まレ、戦いの日々を経テ、得た『縁』こそガ、俺の宝物。貴女モ、きっと」)
「生きる目的を失った事は同情しますが……ただ彷徨って無意味な殺戮を繰り返す、貴方はそれで良いのですか!?」
槍持て鎖を手繰り、変幻自在の青き得物を顕しながら、カロンも主張する。優れた飛翔能力は、高所作業に適する。その戦闘能力は、未知の脅威の抑止力になり得るだろう。
「……もう一度聞きます。これが貴方の望んだ答えなのですか!?」
返答は、無い。やはり、クールダウンが必要か。
「今この時、悔い残す事なきように。本気の全力、戦神楽じゃ!」
括の掛け声も威勢良く。ケルベロス達は、T-Frejaがエネルギー光弾を出し尽くした瞬間を狙う。
(「戦いなんてあんなに嫌いだったのに。こんなにも、ドキドキしてる」)
それは『これから』が、楽しみだから! ――ミライは歌う。此処は、あなたと私達の為だけの空だから。
(「そう、お互い最後の景色かもしれないから」)
ミライの歌声に、視界がよりクリアとなる。
「この一矢に賭けテ」
エトヴァと愛弓が共鳴する。充填するエネルギーは空色。番えた5本の矢が螺旋状に収束する。
(「……俺もかつては空を翔けていタ。アア、今なら思い出せる気がしマス」)
惑う心に封じた翼。墜ちて命拾いし――再び得たのは、心の翼。今は語らい、護り、未来を切り拓く力に。
――――!
フルパワーで放射する。その軌跡を追い、エトセテラのキャットリングが、幽の、フローネの、ジェミの、カロンの、礼の一撃が殺到する。
『――ッ!?』
回避も防御も叶わず、T-Frejaは錐揉み状に墜落した。
●空を降りる刻
勝敗が決し、ケルベロス達も、次々と屋上へ。
『――再起動』
ありったけのヒールをダモクレスと屋上に施せば――細身の機体が、徐に起き上がった。
「調子、如何ですカ?」
「問題ありません。最後は手加減していたでしょう……貴方達の意図は、不明ですが」
「あの……話し方、変わりました?」
不思議そうなミライの言う通り、T-Frejaの口調は、戦闘前と比べて随分滑らかだ。
「学習しました」
「……もしかして、フレイヤさん、若い?」
「私がロールアウトしたのは、半年前です」
だが、戦場に投入されず、決戦も待機を命じられ、アダム・カドモンの『遺言』は地球の秘密基地で聞いたという。
「規定通り秘密基地を廃棄した後、私は、命じられた『自由』を遂行しました」
「飛び続ける事が、自由?」
「他は知りませんので」
「そっか……他を知らない侭でもいられるでしょうけど、それは……飛ぶのを諦めるのと、同義だと思います」
「意味が判りません」
飛び方は1つじゃない、とミライは微笑む。
「あなただって、私達の知らない空を識っている筈だから……教えて欲しいのです」
「貴女がずっと磨き上げてきた力は、戦争後でも活用する場所は沢山あります」
気合インストールしながら、フローネは力説する。レプリカントとしてアダム・カドモンを敬愛しているし、ダモクレスと人類の協調の道を歩みたい、と。
指折り数えたのはエトヴァだ――宇宙開発や高速輸送、パフォーマンスを地球の人々に魅せるのもありだろう。
「もしも、道に迷ったなら……私達に相談して下さい。戦いが終われば全て終わりじゃ無い。この先も独りで悩まないで、人を頼って良いのです」
「悩む……?」
カクリと首を傾げる様は、人形めいて。或いは、フローネの言葉にピンと来ていないのか。
幽は、T-Frejaを「誇り高く、己の技量を研鑽し続けた空の騎士」と思っていた。だが、もっと真っ新だと知る。T-Frejaは『他の道』を知る前に『自由』を得てしまった。とはいえ、幽が勧める『道』は変わりない。
「私はその力、次の世代の為に活かしてほしいわ」
無暗に喧嘩を売って死に急ぐべきではないと。
「デウスエクスとケルベロスの戦いは一先ずの終わりを迎えたけど……今後、新たな脅威が現れないとも限らない」
平和を維持する為に、戦う力を持たない人々を護る武力も必要となろう。
「私達と肩を並べてくれたら、本当に心強いわ」
「うむ、グラビティ・チェインの争奪は最早起こらぬ。先の戦争は、それが原因と断言出来るのじゃ」
括も同様の意見だろうか。
「それでも、戦う力はあってよいと思う」
不要なのは、奪い侵略する力だけだ。
「誰かの為、何かの為、護る為に戦って欲しい。これがわしの願いじゃ」
そして、ふと思う。
「今のおぬしは、何を望み願うじゃろか?」
「……」
T-Frejaは答えない。否、答えられないのだろう。
「もう、誰も君に命令するモノはない。自分が何者でどうしたいか、自分で決めたら良いんだよ」
ジェミは空を仰いで尋ねる。
「君は、空を飛ぶのが好きなの?」
――エトヴァのように?
「僕も空、好きだよ。特に真っ青な空が好き」
――エトヴァの髪の色みたいだから。
「地球の空はどう? 広くて青くて、時には橙で紫、紺……どこまでも自由に飛んで、たまには地面を歩いてみるのも良い。見上げた空も、綺麗だから」
天翔ける者が、常に空にいる必要はない。空を降りてこそ、その素晴らしさも知れよう。
「もし、定命化に抵抗があるなら……プラブータで延命する手もあります」
宝物を見せるように、礼は他の可能性を告げる。
「私はデウスエクスに大切な人がいて……助けに来てくれた方が提案してくれたんです」
フローネも請け合った通り、迷えば誰かがきっと力になってくれる。
「貴女には、体と魂の両方に翼があるんですから」
アダム・カダモンは、創造物の魂の自由を認めて逝った。そんな創造主を持ったダモクレスが、礼には羨ましい。
「過去の命令に拘らず自由に飛べば、貴女の翼はより輝くと思います」
(「もう、大丈夫そう」)
T-Frejaの姿は遭遇時と寸分違わぬ。ダモクレスが『心』を得てレプリカントとなるのは、そう易々といかないだろう。
――ただ彷徨って無意味な殺戮を繰り返す、貴方はそれで良いのですか!?
戦闘の時、カロンの問いに返答はなかった。今のT-Frejaに同じ事を尋ねれば、どんな答えが返って来るだろうか?
(「フレイヤがエトヴァに目を付けたのは、1つの幸運であったやもしれぬ」)
今こうして、エトヴァだけでなく、駆け付けたケルベロス達も、T-Frejaの『これから』を真剣に考えているのだから。
(「何れ、ひょっとするとひょっとして、となるかもしれん」)
もう直、夜の帳が下りてくる。今も律儀に、ケルベロス達の話から『学習中』のダモクレスを見やり、括は微笑ましげに翠眼を細める。
「結局、悩んでも答えなんて出ないのに、自分で決めなきゃなのです。見つけるのには時間がかかりますが……日も暮れちゃいましたし」
――『また明日』って、素敵だと思いませんか?
「……そうかも、しれません」
ミライの言葉にぽつりと零れた返答に、エトヴァは思わず頬を緩める。
「世界は変わル。これからハ、貴女が決めること……デモ、1人で飛ぶ時とは違う景色が見られマス。今の俺のように」
差し出した手を、T-Frejaは取らない。不思議そうに、見詰めるのみ。
今はまだそれで良い。
縁あって、見出せたその力が輝くように。そして、未来を創れるように――共に在りたいと、思った。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年10月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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