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「せっかく世界も平和になったことじゃし、今年の誕生日はみんなでひとつのことに挑戦してみたいんじゃが、どうじゃ?」
ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)が、集まったケルベロスたちに説明する。
「とは言っても、全員でひとつの共同制作を! などでは無いから安心して欲しいのじゃ。みんな、各々で好きな物を『ひたすら磨いてみる』のはどうかと思ってのう」
そう言って、ガイバーンがよいしょと持ち上げたのは、小さな庭石であった。
「例えば、この庭石じゃ。石というのは、磨けば磨くだけ味や深みが出るもんじゃからなぁ」
やっぱり、多少イメチェンしたところで、人間の中身はそうそう変わる物では無いらしい。
「他にもあるぞ。宝石の原石を研磨して綺麗なルース(裸石)へと仕上げるのも磨く作業に変わりはない。最近流行りのシーグラスもそうじゃな」
色のついたガラス瓶の破片を、ヤスリで丁寧に磨いて角を取れば、シーグラス風のアクセサリー素材になることだろう。
「後は……磨くからは多少外れてしまうが、丸めたアルミ箔を槌で叩いて綺麗な鏡面に艶出しするのも、研磨作業の一種のような気がするのう」
他にも、流木を綺麗に磨き上げてオブジェにするとか、長時間磨き続ける作業を楽しめるなら何でも大歓迎だ。
「では、みんなの参加を楽しみにしておるのじゃ。磨くための道具はわしの方で用意しておくが、持ち込みも勿論OKじゃよ」
注意事項は、未成年者やドワーフの飲酒喫煙の禁止である。
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「……なるほど、磨いて光らせる」
不穏さ漂う声で呟くと、じーっとガイバーンの頭を見るのはミリア。
「とはいえ、とうは……はげあた……石磨きは他の方もやってそうですし、ボールでも磨きましょうかね」
「……わしの頭髪はまだ自前の毛じゃからな?」
そんなガイバーンからのツッコミも右から左で、ミリアは猫用おもちゃを何個も取り出して水拭きを始めた。
どれも引っ掻き傷や泥汚れが多く、磨いたように綺麗にするのは大変そうだ。
「……猫さんが誤って食べても大丈夫なワックス、となると……蜜蝋あたりですかね?」
愛猫家らしく、ワックスを塗る最たる目的の光沢を二の次にして考えるミリア。
「ボールも一通り磨き終えたことだし、猫語でも磨きましょうかね……」
また、ミリアが猫耳カチューシャを構え、ガイバーンに狙いを定める一幕もあった。
「わしが猫耳など似合うと思うか!? 小檻、ここはわしの代わりに」
困った3人が素早くアイコンタクトを交わした結果、
「……」
哀れ、猫耳カチューシャの犠牲は御衣櫃と決まったようだ。
「にゃー? にゃー、にゃぁ?」
そんなこんなで猫耳を装着した御衣櫃に対して、ミリアは律儀に猫語で話しかける。
御衣櫃も身振り手振りで何やらリアクションを返した。
「にゃ? にゃーぅ、にゃぁ?」
ちなみにミリア曰く『物理的に磨くだけが全てじゃないですよ?』と猫語で返答したらしい。
確かにお説ごもっとも。
「お疲れさん、ガイバーン」
「いらっしゃいディークス。よく来てくれたのう」
「ああ。いつも師団で顔を見る相手の誘いなら応えたくなるからな」
言いつつ、ガイバーンの準備した研磨道具に視線をやって、思わず目が点になるディークス。
「よくこれだけ揃え切れたな……」
「磨く道具に拘り始めたら際限がなくなってのう」
説明するガイバーンの横で、原石を磨くためのダイヤモンド鑢や粗さの違う紙鑢を手にする。
「……ガイバーンはどれが良い? 大概の原石はあるぞ?」
と手持ちの原石を広げるディークスもまた、ガイバーンに勝る蒐集家、あるいは用意周到な性質だろう。
「ではお言葉に甘えてヘマタイトを頼むのじゃ」
「了解だ」
これぞ一心不乱とばかりに、ディークスはひたすら研磨の時を楽しむ。
「平和になった今だからこそか、殊更時間がゆっくりと経つように感じるな」
経験に裏打ちされた本人の腕の良さもあってか、本人の自覚よりはずっと早くヘマタイトを磨き終わった。
「誕生日おめでとう」
かくて、ディークスは綺麗なカボションカットに仕上げたヘマタイトを、ガイバーンへプレゼントした。
「ありがとさん。台座に飾って大切にしよう」
「今日からオレは、ネイルガチ勢力カッコにわかカッコ閉じ、だ!」
そう豪語するキサナが頑張って磨くのは爪。
「今までも爪の手入れはしてきたが、主にケア的な意味が強かったんだよな」
「なるほど、爪磨きとは考えたのう」
ガイバーンもつけ髭を撫で撫で感心した。
「ほら、地裂撃とかで大地パカーンってやると、爪も割れそうだろ? 割れないけど」
「ああ~確かに……まさか手刀で大地パカーンを?」
「いや流石に拳握ってるけどそれでも衝撃がな」
ドワーフ同士、地裂撃の大地の割り方で盛り上がる2人。
ともあれ、そんな懸念もあってキサナは普段から爪を保護するマニキュアとかはやっていたそうな。
「それを今回は、あくまでKAWAIIのためにやる! つまり……デコる!」
元気に宣言したキサナがばばーんと取り出したるは、ネイル用のスティック鑢、甘皮を取る用具、マニキュアのベースコートにトップコート、ネイルポリッシュ。
各色揃ったラメ、半球パール、デコ用のラインストーンなどなど。
「デコネイルのためには本体を美しく磨く、磨く! 磨き抜くんだキサナ・ドゥ!」
キサナは持ちうる女子力を総動員して、それこそ文字通りピカピカに爪を磨き上げるのだった。
その後、活発な彼女らしい爽やかで明るい赤系統のデコネイルも無事完成。
「あ、ついでにペディキュアもやっとくか。うおー死ねオレの足の裏の角質!」
お次は足の踵をつるつるになるまで磨き抜くことにした。
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「ガイバーン誕生日おめでとな。俺からはこれ」
理弥が差し出したのは、何と枯山水のジグソーパズル。
「ああああああ!!?」
一昨年から見果てぬ夢を見ていたガイバーンと小檻が驚愕と歓喜の叫びを上げる。
「磨いた石とか置くのもいいんじゃね?」
「それは名案じゃ! ありがたく使わせてもらおう」
早速うきうきと枯山水ジグソーを組み立てるガイバーン。
「ガイバーン、ハウオリ・ラ・ハナウ!」
続いてマヒナがガイバーンの首へかけたのは、あえて塗装していないナチュラルなククイレイ。
「ワタシ、来月結婚式挙げるんだ。よかったらそれつけて結婚式来てくれたら嬉しいな」
眩しい笑顔で告げるマヒナへ、つられてガイバーンも表情が綻ぶ。
「ほう、それはめでたいのう! 謹んで参列させていただくのじゃ。レイもありがとうな」
「カケラやコロモもぜひ来てね!」
マヒナが3人へ招待状を渡すと、小檻も衣も口々にお祝いした。
「ご結婚おめでとうございますマヒナ殿。お式楽しみにしてるであります!」
「おめでとうマヒナ。お幸せにな」
さて、マヒナが腰を据えて磨くのは黒いククイレイ。
夫と出会うきっかけになった大切なものだそうな。
「ククイレイはもともとツヤツヤしてキレイだけど、天然の実を使ってるからニホンの気候だと痛みやすいし、お手入れは必須なんだよね」
ちなみにククイという単語には、光という意味もあるそうな。
もし列席者全員がククイレイをかけるようならば、それこそ光の溢れる結婚式になって縁起も良さそうだ。
あらかじめ用意していた乾いた柔らかい布を使って、ククイを一粒ずつ丁寧に拭き上げていくマヒナ。
「時間なくて今までちゃんと磨いてなかったけど、靴磨きセットも買ったし今日はピカピカにするぜ!」
一方、理弥も説明書片手に、ダークブラウンの革靴をせっせと磨いていた。
成人式のスーツに合わせて買ったそうだが、何せずっと大人に見られたかった理弥だから、成人式へかける熱意も人一倍なのかもしれない。
「まずは馬毛ブラシでゴミ払ってー、クリーナーと布で細かい汚れをふき取って、乳化性クリーム塗って……」
それだけに、最初こそ億劫がっていた作業も次第に集中して黙々とこなしていく。
「やり始めると無心になれて楽しいなこれ」
最後は布で全体を綺麗に磨き上げれば完成である。
マヒナも靴磨きの工程の多さから密かに理弥を心配していたが、
(「うんうん、リヤも楽しそうで何より」)
理弥の没頭ぶりを目の当たりにして、クスリと笑みを洩らした。
「おー艶々になった! せっかくだし、結婚式にもこれ履いて出るぞ!」
だが、理弥が晴れやかな面持ちでそう宣言すれば内心慌てて、
「えっと、頑張って靴磨きしてくれたとこ悪いんだけど、結婚式のドレスコードアロハスタイルなの……」
と、申し訳なさそうに教えるのだった。
「……って、ドレスコードアロハシャツかよ!? 早く言ってくれよ!」
「何も考えることなく、無心で磨くなんてことが許されるのは、世界が平和になった証とも言うべきなんだろうね、かけら君?」
「ええ、ほんとそう思うでありま……」
小檻は声をかけてきた人物へ笑顔で振り返ろうとして、ぴたりと硬直した。
「どちら様でありますか!?」
何故なら、コントはいつもの怪しい服でなく、ピシッとスーツ姿で決めていたからだ。トレードマークの仮面も着けず、代わりにスクエアフレームの眼鏡で知的な印象を高めている。
「おや、この格好を見せたことは無かったかね? 我輩だよ」
「……ああっ、伯爵!! 久しぶりにお目にかかるから、一瞬誰かわかんなかったであります」
ともあれ、コントが持参したのは日長石の原石。
それをひたすらにごしごし磨いていると、ふと感じる視線。
「我輩の顔に何かついているかね?」
問われた小檻はいえいえと微笑んで、
「そのお姿、お嬢様に参観日以外でも見せて差し上げたらよろしいのに、と思うであります。なんて仰るかしら」
「さあ、どうだろうねぇ」
「でも、お嬢様は伯爵のことをきっと尊敬なさっていらっしゃるから、もしかしたらがっかりされる可能性も」
「何っ、あの子が我輩を父親として尊敬……!?」
「いやいや、錬金術師として、でありますよぅ♪」
「……そうか……まあ、嬉しくないわけじゃ無いがね?」
がっくり肩を落とすコントの手の中で、磨いた日長石がまるで励ますかのように柔らかい光を放っている。
●
「ヒャッハー! 泥団子祭りじゃー!
と、いつになくテンション爆上がりなのはチロ。
「イエヤッフゥー!!」
どうやら、チロは泥団子を磨くつもりらしい。
「なるほど、泥団子も丹念に磨くと綺麗に光を反射して輝くからな。良いアイデアだな」
衣が静かに感心した。
「まずはこちらに、目の細かいふるいを用意します……そして、土」
講義を聞いている衣と御衣櫃に向かって、篩を掲げるチロは大変イイ笑顔である。
「粘土質でさらさらしたものが最適ですが、無ければその辺に穴掘って、粘土質層を掘り当てます」
早速1m程度掘るつもりで、地面の砂を掻き出し始めたチロ。
ズバババババ!!
「ヒャッハー! 砂! 砂めっちゃ楽し―!」
ズバババババ!
御衣櫃もチロの見様見真似で穴を掘っていく。
「土を確保したらふるいにかけ、石などを取り除きます」
あっと言う間に粘土層へ辿り着いたチロは、戦利品を零さないよう気をつけて篩にかけた。そして御衣櫃の代わりに衣が篩を支えている。
「あとは水を含ませてぎゅぎゅぎゅっと丸めたら」
ぎゅぎゅと丸めた球体の表面を滑らかにすべく、ぺちぺちぺちと叩く1人と1体。
「紙やすりで磨く磨く磨く……ヒャッハー! 泥団子磨き、めっちゃ楽し―!」
キュキュキュキュキュ!
水分を含んだ粘土特有の、細かい粒の摩擦や軋みが、小気味良い音を立てている。
そして、チロはひとしきり泥団子を磨いたら、新たなる粘土層を求めて穴掘りを再開した。
一方。
「……テスト丸めて、球でも作ると思ったか?」
ルルは、誰にともなくやさぐれた語調で言うなり、盛大な溜め息をついた。
「……残念、今はデジタル採点で、覚悟過程……じゃなく、各ご家庭に直接結果が届くんだよ……」
まさしく小説などでよく見る表現、苦虫噛み潰したような顔をして。実際に苦虫を噛んだ人がいるのかは不明。
「へー、デジタル採点でありますか。模範解答のちっちゃい紙好きでありましたから、ちょっと残念」
「ルルよ。せめて毎度のテスト返却で覚悟完了しなくて良いように、普段からもう少し授業の復習だけでもじゃなぁ」
小檻が驚く横で、思わずツッコむガイバーン。
「んー……流石にこのままじゃやっべぇわと思って、ごりごりドリルやってるんだけど……」
「えっ、ドリルでごりごり?」
「いや、穴掘る道具じゃなくて、教材の方……アレやな。もう、何が分からないのかも分からんわ」
瞳孔の開いた目で虚ろに洩らすルル。
「ほう、ドリルに取り組み始めただけでも大したもんじゃ。偉いのう」
ガイバーンが安心したように相好を崩す。
「はぁ……ドリルで石でも磨いて、心を休ませるか……」
「あら、問題解けないからってドリル破いたら勿体ない……」
「いや、教材じゃなく、工具の方……」
「ああ、そっちでありましたか……」
「「「……ややこしいわ!」」」
思わず3人の声が重なった。
「鶴は千年、亀は万年、石の上にも三万年……」
ともあれ、ルルは勉強の休憩がてら、持ってきていた庭石をドリルで磨き始める。
「ひとつ積んでは、ルルのため……ふたつ積んでも、ルルのため……」
「三途の川の石積みか。よう知ってるのう。ルルは博識じゃな」
「みっ……」
ズバババババ!!
突然、ドリルとは別の不穏な音を聞いた気がして、思わず石積みもとい石磨きの手が止まるルル。
「ギャアアアアアアア!! 隣の穴掘り犬が砂掛けてきたぁああああああ!!」
頭から砂塗れになって嘆くルルを尻目に、当のチロはモグラ叩きのように穴から顔を出して、
「ガイバーンお誕生日おめでとじゃよー」
「おうおう、ありがとさんじゃよー」
呑気にガイバーンの誕生日を祝っていた。
「あ、ガイバーンさん、お誕生日おめでとうございます~」
「うむ、暗黒街の帝王もいつもかたじけないのう」
他方、マリオンもガイバーンを見つけて律儀に挨拶していた。
「誰が暗黒街の帝王じゃ!! ……バカ犬はあっちで穴掘ってるし、ちびっこは念仏唱えながら石積んでるし、何このカオス……」
その側で繰り広げられているララ乳面子のいつもの光景に、頭痛と目眩を覚えるのも毎度のことだ。
ともあれ、マリオンは気を取り直してその辺の漬物石を拾い上げる。
「お届け物でーす」
ゴスッ!!
明るい声とともに思いっきりぶち当てるのは、キノコもといルイスの後頭部。
「大いなる流れに身を任せ、角が取れることで丸みを帯び、円熟に至る……」
そして石で殴られたルイス当人はというと、落ち着き払った風情でボーリングの球ぐらいの黒色溶岩石を磨いていた。
「人も岩も、みな同じ……」
彼にとっては、自分の頭より苔テラリウムの土台の方が大事らしい。
「……マジかよこいつ、動じてねぇ……」
これには流石にマリオンもドン引いていたが、
「キノコさーん! ハンコ下さいキノコさーん!」
ゴンゴン!
こちらはこちらで、めげずに弟の頭をシバき続ける。
「盆栽にも通じる則天去私の境地を、庭に置かれた石にも見出すとは……いやはや、ガイバーンの発想には毎回驚かされることよ……」
同好の士ガイバーンの催しが気に入ったらしく、ひたすら溶岩石を磨いてご満悦のルイス。
(「宝石も研磨出来ますよと言われておるのに、何故に路傍の石を必死に丸めとるのか……」)
反面、弟の奇行に冷たい視線を注ぐマリオン。
「まぁお前、何考えてるのかよう分からん変人やしな……」
「ひと3人くらい殺ってそうな小娘には、理解出来ぬ真理かの……」
今日も姉弟漫才は新たにすれ違いネタも取り入れ、ますます隆盛である。
「って、勝手に姉を凶悪犯みたいに言うな!!! ただの岩を丸めるぐらいなら、もういっそ頭も丸めとけ!!!」
マリオンの怒声もどこ吹く風で、ルイスは丸めた岩を数個並べて、いよいよ苔を着生させる。
「ただの岩? フォフォフォ……FXで全財産溶かしたとか抜かしよるその日暮らしの若造には理解出来ぬかの」
「誰がだ! 全財産なんか溶かしとらんわ!!」
「この岩は年を経て、苔が生え揃って完成となる」
名づけて『まりもの心』——としみじみ語るルイス。
「目に青葉が優しい、まさに、和の心じゃよ……」
「ルイスも苔石を始めたんじゃな。盆栽ともども仲間ができて嬉しいのう」
「……なんか俺、人生のエンドロールに入ってね?」
ガイバーンが無邪気に喜ぶ傍ら、いくら何でも歳に似合わず老成し過ぎでは……と我に返らなくもないのだった。
「私? 磨くものと言っても、この美貌くらいしか思いつきませんので」
そんな弟と対照的に、マリオンは身も心も若々しいと自負して、可愛くドヤ顔を決めている。
「はい、紙やすり。仕方ないから苔落とし用の予備を貸してやろう」
「いやいやいやこんなサンドペーパーそでどうやって美貌磨くんだよ! 怖いわ! サイコパスか!」
そのドヤ顔を血に染めたいとばかりにルイスは紙やすりを渡して、やっぱりしこたまツッコミを入れられるのだった。
「磨く日、か……。俺は労いの気持ちも込めて、店長が背負ってるボールでも磨こうかな」
と、殊勝な様子で宣言するのは非正規雇用。
店長とはオルトロスの名前で、クリームを添えたプリンのような色の体毛や、背中に乗ったさくらんぼみたいな赤い球体が可愛らしい。
「もう、戦いに使うこともないだろう……お疲れ様、店長」
優しく労わる非正規雇用だが、店長のボールをきゅっきゅっと磨いている布の正体は、実は着古したTシャツだったりする。
それを見守る店長は、もうちょっと綺麗な布で磨いてくれと言わんばかりの不満げな表情だ。
「ガイバーンは何を磨いてるんだ? やっぱり庭石か?」
「うむ。綺麗に磨いた庭石には、どんな風に苔を生やすかを見守る楽しみがあるのじゃよ」
苔を石に着生させてその緑色の広がりを楽しみ、次第に伸びてきたらトリミングして長さを整える——苔石には盆栽と同じ奥深さがあるとガイバーンは語った。
「へえ、庭石ってそうやって楽しむのか。そうそう、石といえば……」
と、非正規雇用がおもむろに差し出したのは、いつの間にか磨いていたらしい立派な虎目石。
「はい、誕生日プレゼント。プリンみたいな色してるけど、食べちゃダメだぞ」
「ほう、これは見事な虎目石じゃな……ははは、言われてみれば似てるのじゃ」
店長の色なら、なおさら大切にせんとのう——と嬉しそうなガイバーン。
「ありがとうな佐藤。 お守りにして持ち歩くとしよう」
「誕生日おめでとう! ふふふんふん、ふんふーん」
非正規雇用も上機嫌に鼻歌を歌いつつケーキを持って来た。
だが。
「あっ!?」
うっかり段差に躓いてケーキを落とし、クリームを盛大に飛び散らせた結果、床をごしごし磨く羽目になるのだった。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年10月14日
難度:易しい
参加:11人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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