千影の誕生日~平和な世界で癒しの一時を

作者:森高兼

 習慣とは日頃のことゆえに、いざとなると止め時が分からないものだろうか。
 近々誕生日である綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)はいつもの森で敷物に正座して修行の瞑想を行っていた。でも……デウスエクスの侵攻が終わったという気持ちはやっぱりあって、ちゃんと集中できていない。
「決めました!」
 突如、千影にしては珍しい大きな声を上げたかと思えば、立ち上がって両拳を握り締める。
「全国の動物園などを巡りましょう!」
 企画の思案中で修行前から雑念一杯だった千影を見下ろしていた小鳥が、声には驚きながらも木の枝より飛び立たず不思議そうに首を傾げた。

『日本の古今東西にいる生き物と会おう』
 それはサーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)が興味を持ちそうなケルベロスを集めるために告知した宣伝文句だ。
 改まって気合いを入れるように両拳を握り締めてきた千影。
「今回は以前に訪問した施設などを中心に各地を順次巡ってゆきます。ご縁があった生き物と再会したり、その子孫に出会ったりできます。新たなご縁を希望されても構いません!」
 再会が可能なのは『千影の企画で会った生き物』に限る。その代わり……ほぼ野生の子であろうと地元の人々が特徴を参考に事前調査しておいてくれる。
 現代のケルベロスは侵略の歴史に比べれば、あまりに短期間で幾つもの壮絶な戦いを繰り広げてきた。地球をデウスエクスの脅威から解放してくれた立役者相手に、多少の手間は惜しむつもりがないのだろう。
「どうぞ……ごゆっくりと癒されてくださいっ」
 相変わらずとっても一生懸命に話してくるけど。一番癒しを求めて赴くべきなのは千影の方かもしれないのだった。


■リプレイ

●最高の朝
 本日は全国各地を巡る弾丸ツアー。企画を取り仕切る千影達はあちらこちらに行ったり来たりで忙しくなるだろう。
 早速、最初に向かう水族館に移動していった。
「綾小路さん。お誕生日おめで、とー!」
 緋色が自分の企画参加皆勤賞も祝福するように毎年の恒例で飛び跳ねる。
「これからの1年も素敵な年になりますよーに!」
「赤星さんの1年も素晴らしい年となりますよーにっ」
 あの内気な千影も飛び跳ねないながら……緋色のテンションに倣ってきた。これぞ平和テンションで、企画説明の時も割とテンション高めではあったか。
 ペンギンがいる動物園と水族館の全国制覇を狙う緋色が、今回やってきたのは関西のペンギン水族館だ。ゆくゆくは世界制覇を視野に入れていて、赤道直下に生息するガラパゴスペンギンに会いたいという願望もある。
 今日のところはイベントの目玉であるペンギン散歩体験に参加した。
「ごー!」
「転ばないようにお気をつけください。あっ……ペンギンさん、そちらは違います!」
 自由気ままなペンギンを激写していき、千影とペンギンのツーショットなどは見逃さない。
「写真はデータとプリントしたの、どっちがいいかな?」
「プリントしたものでお願いします」
 枚数が多いけれど、それは素敵な思い出が刻まれた結果だろう。
「また来年もその次も、色んな所に行けたらいいね」
「……はいっ」
 千影は真面目な顔になって、やっぱり両拳を握り締めて返事してきた。
 シカの親子と出会った森に赴いて、バラフィールが別行動の前に千影へと誕生日プレゼントを贈る。
「平和で良い1年になりますよう。そして素敵な想い出を重ねていけますように」
「ありがとうございます。小皿に描かれたシカの絵がとても可愛らしいですっ」
 3枚セットの小皿が千影の荷物に大事そうに仕舞われたところで一時解散だ。
 目的地に着くと、日陰になっている木の根元に腰を下ろして森の澄んだ空気を吸い込むバラフィール。
「懐かしい……この森の穏やかさは何年経っても変わらないのですね」
 ウイングキャット『カッツェ』は足を延ばしたバラフィールの傍で丸くなった。
 シカの親子との想い出にふけって、バラフィールがカッツェと共にぼんやりと過ごす。草が群生する陽光の差す場所がある方向から物音がして、シカと目が合った。
 片目を開けてシカを見たカッツェが、確証は無いけど……バラフィールにあの時の小鹿だと伝える風に尻尾をゆらして目を閉じる。
 バラフィールはシカを驚かせないために不動で食事風景を見届けた。動物の耳には聞こえちゃいそうな小声で呟いて微笑む。
「また、会えてよかったです」
 陽気に誘われてウトウトするバラフィールに対して、距離を詰めてこないながらも座り込んできたシカ。それはまるで彼女を労い見守っているかのようだった。
 ライオンと濃密な交流を求めて、リリエッタがルーシィドとやってきたのは特別な施設である。色々な動物園を見て回ってきた中で一番気になったのが百獣の王ライオンだった。希望はサファリパークのライオンだったけど……諸々の事情を察してほしい。
 この施設のライオン達は特に人馴れしているから、ケルベロスであれば万が一の事故もなく望みを叶えられる!
 行き先はリリエッタにお任せしていたルーシィドで、触れ合う動物の種類にびっくりしっぱなしだ。
 リリエッタは一先ず千影を祝うことにした。
「お誕生日おめでとう、千影。平和になってからのお誕生日っていいね」
「千影様、お誕生日おめでとうございます。今日はよろしくお願いいたしますわ」
 プレゼントのクッキーの詰め合わせを、ルーシィドが礼儀正しく千影に手渡す。
「ありがとうございます。許可は得ていますので存分に触れ合ってくださいっ」
 広い庭ではオスのライオンがリラックス状態で寝転がっていて、リリエッタがタテガミを撫でてみた。
「むぅ……たしかにタテガミがもふもふしててすごいね」
「リリちゃん、本当に大丈夫ですの?」
 そわそわしながらリリエッタとライオンの様子を窺うルーシィド。
「ほら、ルーも触ってみて」
「それでは、そっと……」
 覚悟を決めてライオンに触れると、あっさりと気を許してもらえた。
「……もふもふ力、すごいですわね」
 ライオンはブラシを持ってきていたルーシィドにブラッシングされて、気持ち良さそうに喉を鳴らしてくれた。
 ただ気まぐれなネコ科でもあって突然ご機嫌斜めになったのか、リリエッタがライオンに威嚇のように大口を開けられて、襲ってはこないライオンにさらなる関心を示す。
「こんなにかっこいいけど、ライオンも猫さんなんだよね」
 ルーシィドは手を止めてライオンに寄りかかっていた。
「……ムニャ」
 ルーシィドを起こそうと微苦笑したリリエッタが、完全にお昼寝しちゃいそうな彼女を揺さ振る。
「そんなところで寝たら食べられちゃうよ。かぷっ……ってね」

●最高の昼
 ウォーレンとリリウムは実に5年ぶりにシロクマがいる動物園に赴いた。
「シロクマさんは元気にしてるかな」
 堀が2つになっているため、ウォーレンが両方に目をやる。どちらの堀にも氷塊が置かれていた。氷塊内のリンゴを取り出してかじるシロクマに……子クマの面影を見てとる。
「あの貫禄のあるシロクマがそうかな?」
「シロクマさん……もしかして、もう、パパになってしまったのですか……?」
 リリウムはシロクマが小さくてかわいい子クマのままだと思って赴いていた。ちょっぴり残念そうに飼育員の解説に耳を傾ける。お嫁さんは募集中らしい。
 親離れした子供と別々に暮らすことになって、母クマが横の堀にいる。親子共に元気ではあるようだ。
 前回の教訓で持ち歩いたって溶けないドーナツを持参してきたウォーレン。
「お誕生日おめでとう。千影さんの分もあるよー」
「どーなつはおやつの王様なのです!」
「ドーナツは美味しいです」
 先にウォーレンから貰っていたドーナツを片手に、リリウムが千影に詰め寄っていく。
「千影さんもそう思いますか!? あっ! お誕生日おめでとうございます!」
 千影がついでのお祝いを気にせずにむしろ丁寧に一礼してくる。
「ありがとうございます。いただきます」
 ウォーレンは当時小学生だった来年には中学生のリリウムと顔を合わせた。
「子供の成長は早いね」
「ふふー」
 何故か、リリウムが自信満々に胸を張る。
「わたしもすっかりお姉さんですからね! もうちょっとで大人の仲間入りなのです」
 氷の一部が崩れると音が響いて、何事かと言わんばかりに一瞬ビビったシロクマ。小心者なのは相変わらずだ。
 ウォーレンがしみじみと思う。
「平和になって良かった」
「シロクマさんもこれから楽しくすごせるのです」
 懲りずに氷塊で納涼するシロクマを眺めながら、リリウムは子犬っぽいオーラを迸らせて満面の笑みを浮かべた。
 礼が鹿や熊などの普通はもふれない動物を刺繍したコースターを千影に贈る。
「綾小路さん、お誕生日おめでとうございます。よかったら普段使いにして下さい」
「湯呑を置く際に使わせていただきますね」
 よくお茶を飲む千影にとっての愛用品になりそうか。
 礼のお目当ての動物はロバだった。馬より体は小さくて耳の長いロバと触れ合える動物園にて、もふもふ……もふもふして人参をあげて語る。
「ロバは間抜けやノロマの代名詞にされたり不名誉な扱いを受けてるけど、本当は賢くて忍耐強くて、こちらが愛情をかければ応えてくれる生き物なの。昔にスペインの詩人も自分の銀色のロバを主人公にした詩集を出したんですよ」
「このロバは優しい目をしておられます」
 そもそもロバに残念な印象を抱いていなかった千影は、素直に特徴を褒めてきた。
 チャームポイントをよく解っていると、礼が本当は内気女子同士の千影の手を思わず握る。
「私はそこが可愛いと思っています」
「はい、そう思いますっ」
 千影は照れずに礼の手を握り返してきて、両者とも今日のテンションが一味違った。
 大好物の人参を食べられて上機嫌そうなロバ。何だか笑っているような顔で2人のやりとりを見つめていた。
 『蔦屋敷』の3人組が足を運んだのは、2年前に訪問した古今東西の生き物が飼育されている施設だ。
 各エリアへと行く前に、アンセルム、環、エルムが千影に祝辞していく。
「誕生日おめでとう、綾小路。平和な世の中でお祝いもできて、しかも可愛い子達と再会できるって本当に素晴らしいことだよね」
「綾小路さん、お誕生日おめでとうございまーす。平和になってからもこうしてお祝いしたり、再会を果たせるのっていいですね……!」
「お誕生日おめでとうございます、綾小路さん。こうして平和な世界であの子達に会える日が来るとは思っていませんでした」
 千影は3人それぞれにお辞儀してきた。
「皆さん、ありがとうございました。どうぞお楽しみください」
 いざ、癒しのために突撃!
 ラグドール『ふわ』ちゃんが猫吸われ仲間のラグドールと夫婦になっていたと聞いて、いきなり驚かされる環。部屋に入っても座して動かぬ『もふ』くんには手を出さないで、ふわにお腹を向けられて遠慮なく顔を埋めた。
(「懐かしのダイナマイトボディと魅惑のもふもふ……」)
 平和になって心置きなく行う猫吸いは格別である。
 もふは環の頭に乗っかって彼女の猫耳をふみふみしてきた。彼女に怒っているわけでもふわに妬いているわけでもなく、ふみふみしたい気分なのだろう。
(「猫吸いしながらふみふみされるのって、もう無敵?」)
 にゃんこパワーが100パーセントを超えてチャージされていく……と、環はそんな気がした。
 顔を見合わせたアンセルムとエルムが、まさに猫まっしぐらの環に微苦笑する。
 次はロップイヤーと触れ合う番だ。
 ぺた耳女王様ウサギ『ロッピー』の記憶にあるかもしれない特徴を、アンセルムは故あって失っていた。
(「蔦も人形もいないけれど……ボクのこと、覚えててくれているかな? 2年も触ってなかったからむくれてる可能性もあるし、ご機嫌取りも考えておかないと」)
 ロッピーはあれから子供を産んでいたらしく、その中で王女様ウサギ『ホッピー』とも触れ合いたいと所望しておいた。
 ロッピーとホッピーが係員に連れてこられてきて、アンセルムが母子に人参スティックを与える。ホッピーの太々しいところはロッピーにそっくりだった。
「2代目女王様になりそうで将来有望だね」
 抱っこを要求するようにロッピーに見上げられると、拝命して任に就く。さらに向かい合う形で、ホッピーに膝の上へと乗られた。アンセルムという玉座に君臨する女王に跪く王女みたいな絵面で……ちょっとすごい。
 環とエルムが鳴いてきた母子を撫でもふするアンセルムに笑いかける。
「抱っこのお許しが出て、良かったですね!」
「楽しそうで何よりです」
「この様子なら、また覚えててくれるだろう」
 最後は『ズイ』くんと『イズ』ちゃんに再会することになって、エルムは2羽に思いを馳せた。
「ズイとイズは元気で過ごしているでしょうか」
「エルムさんはまたズイにツンデレされるかな」
 首を傾げた環が呼び起したのは2年前の強烈な記憶だ。
 エルムがマメルリハの飛び交う部屋に入室して指を構える。
「いつかまた、なんて思ってたら随分と時間が経ってしまっていました」
 エルムの近くに飛んでくるも、ズイは床に着地した。ツンの方向性を変えてきただけで、彼の指先が届く位置にはいたりする。素っ気ないと見せかけた独占欲も健在のため、低く下ろされた彼の指に止まりそうなイズや他の子に鳴いて威嚇していた。
 アンセルムが指に止まってきたイズにお約束のように突かれる。
「ツンデレカップルのエルムは大丈夫そうかな?」
「このツンデレが癖に……可愛いなぁ」
 独特のツンデレを気に入ったエルムは、ズイとの絶妙な距離感を満喫していた。
 ムーンウォークする鳥よりは器用じゃないものの、ズイがエルムに何食わぬ顔でにじり寄ってくる。彼の指まで到着すればツンとデレの感情がせめぎ合った挙句、そのままの体勢で硬直しちゃった。
 『ツンデレルマメルリハ』……もはや辞書に載っても良いのではないだろうか?
 3人組のいる万能動物園的な施設にて、千影がミリムと合流する。
 ミリムはモルモットの『モモ漢』くんと『モモ美』ちゃん、その子供である『モモ太郎』くん、ジャパニーズ・ホワイトの『ゆき』ちゃんに再会と出会いを望んでいた。ウサギについては同行する千影が選んだ相手でもある子だ。
「……モモ漢とモモ美、それにゆきちゃんは今も元気にしてるでしょうか?」
 2年前のもふもふ愛溢れる千影の言葉を思い返しながら、再会に胸を躍らせて尻尾を揺らす。
 モモ漢とモモ美は年齢も相まって大人しくなっていた。でも、モモ太郎はミリムの尻尾に興味津々で父親似のやんちゃさんかも?
「パパママになって、しかも素敵な子を連れる家族になるなんて……凄いですよ、モモ美、モモ漢!」
 もっふるもふった3匹を優しく抱えるミリム。腕に収めたモモ太郎には案外じたばたされていない。
「千影さんが抱っこしているゆきちゃんもスッカリ大きくなりましたね」
 人見知りを克服したゆきを、千影は当然の事のように抱っこできていた。
「ゆきさんはミリムさんにも抱っこされたいようです。モモ美さんとモモ漢さん、モモ太郎さんを預かりますね」
 ミリムが立派に成長した良い子のゆきを千影から受け渡される。
「……温かくて重たいです」
 抱っこをねだってきたゆきにも命の息吹を感じて心を癒されていった。

●最高の夕
 旅団の『日進月歩』で参加した者の内、半数はサーヴァントを連れ立っている。動物園が久々という者も半数いて、現在は触れ合いコーナーを目指して歩を進めているところだ。
(「動物園なんて行った記憶ないくらい来てねェな……まァ、皆とワイワイやる分には楽しめそうか」)
 そう思って歩きながら、ヒスイはパンフレットを眺めていた。
「ほぉん、触れ合いねぇ……」
 楓が皆で触れ合う予定の動物はちゃんといることを確認して種類の豊富さに感心する。
「ウサギからモルモットから、ヤギとかも触れんだな!」
「カメラを持ってきてるし、可愛い写真を沢山撮りたいな」
 奈津美は触れ合いに際して足早となっている皆を準備万端のカメラに収めておいた。
 ナノナノ『白いの』と最後尾にいるのは旅団仲間の引率役を担う宝。大所帯だと何か起こりそうな予感である。大雑把な性格の彼だけど、妙なところで神経質なのに大丈夫だろうか?
 げっ歯類との触れ合いコーナーには何事も無く辿り着いた。ヒスイのみが隣接する山羊エリアに移る。
 宝はウサギに近づこうとすると、白いのにインターセプトされてしまった。反対に回り込もうとしても……たぶん、また遮られるに違いない。
「はいはい、お前が一番かわいいよ……」
 これから動物と戯れる皆を羨ましく思いつつも、右耳に引っかけているリングを器用に回して構ってアピールする白いのを仕方なく撫でてやっていく。
 触れ合いたいウサギをウイングキャット『バロン』と探していると、奈津美がある1羽に思わず目を引かれる。
「あら? この子はバロンの模様とよく似てるわ」
 手足や首回りと髭のような模様も白いバロンは、ウサギの全身を確かめるために低く飛び回った。
 天音がウサギにエサやりすると瞬く間に囲まれる。ウサギという幸福に包まれたのだ。
「……ウサギ大好き」
 その天音を気にかけた上で、雅也はウサギやモルモットの柔らかさに癒されてもふもふを堪能していった。
 雨弓が一緒に過ごすナノナノ『だいふく』に声をかける。
「あら、なんだかあのウサギさんは模様がハートに見えますね。まるでナノナノみたいです!」
 固い絆にて結ばれた雨弓に言われて、だいふくはウサギの隣で浮遊してみせた。彼女に時間を忘れてウサギごと存分に愛でられていく。
 ヒスイもエサのおかげでヤギ達に群がられて大人気だった。
「食欲旺盛だな。こうやってるとなかなか可愛い……イッテぇ!」
 ヤギ達に翡翠色の長髪にしつこく食いつかれて慌て出す。紙などを食べるのは、一説によればエサである草の香りがするせいらしいけど。エサを持った手で髪に触った覚えは一切無い。
「それは草じゃねぇ、オレの髪……ひっぱるなやめろ! 腹壊すぞ!」
 エサはエサで区別しないで髪を食べられそうになって避難する。
(「はァ……とんだ目にあった……。意外と力強ェのなあいつら……オレもウサギをモフるか」)
「ウサギ、ウサギ……あぁ、いい事考えた」
 ヒスイを発見すると、楓は柵の側でウサギを抱えてわるーい顔をした。
「おーい! ヒスイ! ちょっとこっち来いよ」
 お戯れで疲れていて無警戒に応じるヒスイ。
 ウサギのウェアライダーの彼女がいるヒスイを、楓が男子高校生のようなノリでからかう。
「お前にぴったりな、かわいーーい子連れてきてやったぜ! ほら、かわいウサギちゃんだ……かわいいよな? んん? ウサギ好きだもんな?」
「おい……コラ!」
 笑っていた雅也はヒスイにちょっかい出した楓の頭にモルモットをちょこんと乗せてやった。
「わぁ、楓くん、きゃわゆぅい!」
「って……雅也てめぇ、モルモット乗せてんじゃねぇよ!」
 オラトリオの楓ゆえに、モルモットが彼の頭を彩る花をはむはむしてくる。
「頭の花食ってんじゃねぇか! おいコラ、動けねぇだろ畜生!」
 ケタケタと笑う雅也は……柵から顔を出してきた一頭のヤギにマフラーを噛まれていた。しっかりとバチが当たったのだ。
 宝がトリオのコントを笑いながらも雅也にツッコミする。
「おい、雅也……お前のマフラーがヤギにかじられてるぞ」
「待て待て、コレは食いもんじゃないから!」
 どうにか離してもらったものの、雅也のマフラーはすっかりくたびれてしまった。
 雨弓がやや天然で微妙にズレた解釈に至る。
「あちらの皆さんもとっても楽しそう……なんだか色々かじられてるみたいですけど」
 男性陣がてんやわんやの姿はシャッターチャンスの宝庫で、奈津美はバッチリと全部撮っていた。
 特定の部分を涎まみれにさせた3人に呆れ顔をした宝が、ウェットティッシュを投げ渡す。
 当コーナーでは、お客さんが騒がしいのは日常茶飯事のようで全く怒られなかった。
 ふざけ過ぎてちょっと反省する雅也。知っているウサギと似た子を見かけて、気を取り直してもふる。
「お前……諭吉に似てるな!」
 ようやく落ち着いて引率することができそうで、宝は女性陣の微笑ましい様子に心を穏やかにさせていった。
 奈津美がバロンに促す。
「バロン、ちょっとこの子と並んで……はい、チーズ」
 シャッターが切られる瞬間にウサギが飛びついてきて、臆病なバロンは猫の魅力に満ちたびっくり顔を披露した。
「ふふ、可愛い写真が撮れたわ」
 雨弓が最もナノナノっぽいウサギと対面する。
「だいふく、見てください……あら? ふふふ……ウサギさんと一緒に寝ちゃったんですね」
 ウサギと身を寄せ合うだいふくは、絵になる光景で仲良く眠っていた。奈津美にカメラを借りた雨弓に、こっそりと記録されていく。
 猫エリアに来ると、天音が無表情のまま悲しげな雰囲気を放った。
「あの黒い猫さん……ちょっと姉さんに似てるかもしれない……」
 すり寄って優しく慰めてくれた黒猫とボール遊びして、お互いに充分楽しんでから皆に告げる。
「みんなで写真撮影する……」
 天音の提案で集合写真を残すことになった。大勢いれば誰かしら面白い顔になっちゃう場合もあって何度か撮り直したけど、無事に納得の一枚が撮影される。
「みんなありがとう……」
「写真が沢山撮れたわ。いい思い出ができたわね」
 奈津美は思い出が詰まったカメラを無くさないように鞄へと厳重に保管するのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年9月12日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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