●8月28日、朝
カーテンを開くと、まばゆい夏の陽光が目を差し。
眩しさに瞳を細めたレプス・リエヴルラパン(レポリスヘリオライダー・en0131)は窓に背を向けてから、電子カレンダーの予定を確認する。
本日の予定欄には自動的に登録されているケーキのスタンプと、レプス・リエヴルラパン37歳の誕生日の文字。
此処最近はお祝いパーティをする年齢でもないと誕生日には予定を入れない事にしているもので、例年通り今日は一日暇な日だ。
「……くあ」
レプスは大きなあくびを噛み殺すと、ぐうっと伸びを一つ。
余ったバゲットでフレンチトーストを仕込んでいたはずだ。
牛乳たっぷりのカフェオレと、シーザーサラダが最近はお気に入り。
それに目玉焼きと残しておいた分厚いベーコンを添えれば、立派な朝食になってくれるだろう。
「さー、飯だ、飯」
レプスはパキポキと首を回して音を立ててから、キッチンへと向かって歩みだした。
●夏の日差し
セミたちの必死な合唱の声が響く街。
じゃれて駆けあう子どもたちの横をすり抜け、犬の散歩をするお姉さんに会釈を一つ。
本日の予報は晴れ、今日も例年通り暑くなるらしい。
――ケルベロスたちが戦いの末に手に入れた、呆れるくらい平和な夏の日。
なんでもない土曜日。
かけがえのない土曜日。
きっとこんな土曜日だって、いつもの土曜日になってゆく。
さて、今年もまた、何も無い一日を楽しむとしようか。
●
剪定も終え樹形の整えられた、木香薔薇の向こう側。
――絵を描く事を諦めた時に屋根裏に閉じ込めたのは、夢の残り滓と捻れた自尊心。
もう開く事も無いだろうと思っていたのに。
不思議な縁もあるもので、陣内にはまたカンバスと向き合う時間が生まれていた。
古い洋風の民家を改装したアトリエに並ぶ、いくつかの作品。
大運動会の度に発表してきた絵が物好きの目に留まり、『ケルベロスの絵』として価値を得た。そう、『ケルベロスの描いた絵』だ。
若い頃の陣内ならば、実力で売れた訳では無いと言う事に腹を立てて悔しがっただろう。
しかし今は、陣内の描くものに価値を見出す者がいる、欲しいと思う者がいる。
それでいいと思えるようになった。
それは充分な価値だと、思えた。
「……そろそろ一休みするかな」
ふ、と鼻を鳴らして、陣内は大きな伸び。
丁度扉の方から漂ってきた珈琲の香りに、彼は眦を和らげた。
今日はバケットを使って、サンドイッチにいたしましょう。
具はサーモンとクリームチーズに野菜もたっぷり。
付け合せにはサラダとスープ。珈琲だって忘れずに。
「……今日は洋風だな」
机の上に並べられた料理を見下ろしながら、蓮は腰掛け。
「ええ、偶には洋風も良いですよね」
初めは志苑が蓮は食事を抜きがちだからと、気を使って時々食事を持ってきてくれていた。
――そりゃあ蓮としては来てもらう事は嬉しいけれど、申し訳ない気持ちだってある。
でも、二人にとって。
休日ごとに蓮の自宅の台所で志苑が立っている事も、二人で顔をあわせて食べる食事も。
すでに当たり前の、二人の休日の過ごし方になってきていた。
「そう言えば、今日は試作品も用意してきました」
「ああ、頂こう」
それは彼女が此処に訪れている、もう一つの目的。
白い箱の中には、志苑の茶屋でも出している茶菓子がいくつか入っている。
それは近い将来古書堂を改装して、読書と茶が出来る書店カフェにしようと言う計画の一貫だ。
「流石、老舗の茶屋だけあるな」
「お気に召して頂けたようで良かったです」
ほうと蓮がその見事な細工に瞳を細めると、志苑は口元を抑えて淡く笑った。
それは平和になったからこそ、想像のできる未来のお話。
志苑は大学を出たら、此処へ身を寄せようと思っている。
今までは自身には決められた道以外ないと、自主的に将来の話なんて考えた事すらなかったけれど。そのために必要な沢山の勉強や準備も、今の彼女にとっては苦では無い事だ。
「それでは」
「「いただきます」」
――こうやって。
二人のなんでも無い特別な休日は近い将来、なんでも無い特別な毎日へと成ってゆくのだろう。
本に囲まれて。大好きなお茶と大切な人と一緒に過ごす、近い未来のお話。
そんなただの当たり前の日常が訪れる事が、今はとても幸せで、待ち遠しい。
本屋の自動ドアが開き、出てきたのは沢山の本を抱えた天音であった。
「どうも、こんにちは……」
そこで丁度レプスと目があった彼女は、そのまま頭を下げ。
「よーう。沢山買ったんだな」
「ん。戦いが終わったあとのことを、ずっと考えてて……」
「うん」
「私は2015年にレプリカントになったばかり……だから世の中のことは全然知らない」
何となく歩調を合わせてレプスと並んで歩みだし、天音は零すように言葉を紡ぐ。
「これからは……世の中のことをもっと知って……もっと人のことを知っていきたいと思ってる」
レプリカントとしては先達となるであろうレプスを天音は見上げて。
「それでもっと感情を覚えて……教えられるくらいになってみたいかな」
「おう、じゃ俺は応援させて貰うか」
「……ありがと。そういえば、今日が誕生日なんだね、おめでとう」
そう言って彼を見上げた天音は、自然に微笑んでいるように見えた。
ランチの客も捌けて落ち着いてきた昼下がり、時計を見れば針は既に二時を差していた。
カウンター奥のダイニングキッチンの窓辺では、太陽の光を浴びた三毛猫が大あくび。
「ジェミ、お疲れさま。そろそろ、お昼にしまショウカ?」
ここは家族で経営している喫茶店。
エトヴァが空色の髪をさらりと流して首を傾ぐと、ジェミは何処か子犬めいた表情で笑って。
「うなー、それじゃあ、僕がぱぱっと作っちゃうです!」
腕を上げてエトヴァに宣言したジェミはキッチンに向かうと、鍋に湯を張ってコンロに火を点し。
豚肉に素麺、昆布茶で味を整えて。薬味にネギと梅干し、半熟卵も載せちゃおう。
それに夏野菜をさっと炒めて、ジェミ特製南蛮だれで和えてもう一品。
今日のまかない飯は、茹で汁ごと食べるホット素麺に、夏野菜の南蛮だれ。
「デザートはオレンジなのです!」
「わあ、嬉しイ。素敵ですネ」
ジェミがテーブルに並べたまかない飯に、エトヴァはぴかぴかと光を輝かせ。
二人がテーブルに腰掛けると、その様子に気づいたみけ太郎も二人の足元に寄ってきた。
「みけ太郎のご飯もちゃんとありますよ」
ジェミが眦を下げてご飯を置き。
「それじゃ、いただきマス」
「はい、いただきまーす!」
猫もうなーと一声、両手をあわせて家族皆でいただきます。
「ンー、美味しイ」
「麦茶もいるー?」
「ハイ、いただきマス」
昆布茶出汁の優しい味、少しピリリとした甘くて辛くて酸っぱい野菜。
夏の昼下がりにぴったりのメニューたち。
「ハイ、ジェミも元気回復いたしまショウ」
「はーい!」
エトヴァがオレンジを差し出すと、ジェミはぱくりと頬張って。
「まかないのお礼に、俺はカフェオレを淹れますネ」
働き者の君に、元気を。頑張り者の君に、一杯を。
互いに思い合う気持ちは、優しい時間を生む。
――次の来客まで、のんびりと家族で過ごしましょう。
賑々しく人の行き交うショッピングモール、そんな中に光流とウォーレンの姿。
「一緒に出かけるんは、なんや久しぶりやな」
「ふふ、ごめん」
平和になったとは言え事後処理はなんだかんだであるもの、ウォーレンの謝罪に光流はかぶりを振って。
「責めてるんとちゃうで、俺は君のそういう一生懸命なとこが好きやから」
「ありがとうー、今日はゆっくりしようね」
ケルベロス達が掴んだ平和は、彼らに休日も齎した。
それに何より、彼が忙しくしている理由を光流は知っている。
旅行の為に仕事を前倒すなんて、なんていじらしくて可愛い嫁や……。
「ね、ミハル……疲れてない?」
「ん」
尋ねるウォーレンの視線は、カフェの限定メニューの看板。光流は察したように、肩を上げて眦を下げて。
「せやな、一休みしよか」
「うん、休みながら買い物計画について話そうー」
そうして二人は、マスカットのフラッペと桃のパフェを手に席へと腰掛ける。
「冷たーい。……ロシアの風も冷たいかな?」
「流石にそこまで寒ないはずやけど、現地で服は買おか」
「いいね、新婚旅行っぽい事できるかなー」
旅行先での計画を話しながら。
「……ミハル、パフェ食べないの?」
何となく光流が手をつけ忘れていたパフェに気づいたウォーレンは、首を傾ぐ。
「ああ……」
君と居るだけ幸せでお腹いっぱいなんて。
そんな恥ずかしい言葉、光流にはとても言えないけれど。
「ふふ、じゃあ食べさせてあげる」
「ほな頼むわ」
コレは直前に引っ込めて自分が食べるパターンか、乗ってやろう、と。光流は口を開いて。
ウォーレンの手にしたスプーンが、口内へとパフェを運んでくれる。
「おいしい?」
「……!!? ほんまに!?」
必要以上に驚いた光流は瞳を見開き、唇に手のひらを寄せて。
「……甘いな、これ」
「え、どうしたの?」
――ウォーレンはそんな彼の様子に、首を傾ぐのであった。
昼下がりの公園を、肩を並べて歩む男女の姿。
大きな木陰で足を止めた鬼灯は、カグヤを見やって。
「まずは一方的に別れを告げた事を、黙って受け止めてくれた事に改めてありがとうと言わせて下さい」
「いいえ、良いのですわよ」
鬼灯とカグヤは付き合っていた。
しかし突然理由も告げずに、鬼灯はカグヤから離れたのだ。
それからずっと姿も見ていなかったが……今回お出かけしたいと彼から声を掛けられた。
――久しぶりに見た彼は意外と元気そうで、どこかスッキリした顔をしていたものだから。
カグヤは今回の誘いを、了承したのであった。
「……あの時僕は、地獄化したこの心で。誰かを好きになっていいのか、分からなくなっていたのです」
まっすぐにカグヤを見据る、鬼灯は言葉を選ぶよう。
「成程」
「自分の心に向き合う事も無く、迷いを断たずにカグヤさんとお付き合いしているのは、不誠実だと思ったのです」
甘やかに笑ったカグヤは、全てを受け入れるように。
「……それで鬼灯さんが今の自分自身を好きと言えるのであれば、必要で、正しい決断だったのでしょう」
その優しさに鬼灯は、拳をきゅっと握りしめて。
「……僕は僕と向かい合った結果、カグヤさんの事を……以前と変わらず、大切な人だと思ってます」
きっと彼女と出会わなければ。
今後も地獄化した心と向き合おうなんて、思う事も無かっただろう。
今の鬼灯があるのは、全てカグヤのおかげなのだ。
だから、だから。
「これからもずっと、カグヤさんは僕の大切な人です」
「……少し背が伸びたかしら?」
真っ直ぐに告げた彼の頭のてっぺんからつま先まで改めて見たカグヤは、ふ、と笑って。
「ほほほ。ありがとうございます。でも、鬼灯さんがわたくしの大切な人になれるかはこれから次第ですわね」
それからカグヤは、鬼灯へと手を差し伸べ。
「さあ、行きましょう?」
綺麗に笑った。
●
空の色は茜色。
図書館閉館の歌を背に、本を抱えたヴォワは自動ドアを潜る。
ヴォワは最近レプリカントと成ったばかりだ。
地球に潜入して情報収集を担っていた彼女は、ある出来事で『迷う心』を知った。
その結果。彼女はケルベロスのレプリカントとして、此処に居る。
収集して学習していた事も、『心』を得て知れば全く違って見えた。
「データ不足も甚だしいな」
藍の瞳を細めた彼女は、細く息を吐く。
全ては巡り合わせ。
平和と成った地球で、ケルベロスと成った事も。
調査対象以上の価値など無かった此処で、戦わずして暮らしてゆく事も。
耳を澄ませば、風が葉を揺らす音。蝉の声。人々のさざめく声。
頭上には、茜が夜に飲み込まれ、溶けるような空。
「……なんて、美しいのだろう」
呟いていた。
ああ、ならば。『私』 は。
「……この力を、何かに役立ててみよう」
きっとそれも、巡り合わせなのだろう。
茜色の空の下で黄色い花達は目一杯に花弁を開いて、空を見つめていた。
ひまわりで作られた迷路は、ティアンや勿論、サイガよりも背が高い。
置いていかれるのも、はぐれるのも、忘れられるのもイヤだ。むっとした濃い緑の匂いに包まれて、逸れぬようにティアンは彼の横を歩む。
「幾つまで、摘んで良かった?」
「抱えられるくらいまでだろ」
適当な相槌を打つサイガは、左右に別れた道を見て。
ここでの戦闘はさぞやり辛いだろう、と脳の何処かが勝手に考えていた。
決戦が訪れる前の常在戦場であった日常、――決戦を終えた後のクソほど平和な日常。
「サイガ?」
「これからは、こっちが日常とかな」
「……」
サイガが思わず零した言葉に、ティアンは耳をぴっと立てる。
――溺れて死にたかったあの日。葬送の火のあとに残ったのは、煙と灰。
結局全てが片付くほどに、ティアンは永らえてしまった。
そうして熾の籠る瞳は、彼を真っ直ぐに見上げ。
「君が何を日常と呼べるかは、知らない。でも、荒事も結構一緒したろう」
「……」
そうだ。ティアンと過ごすサイガは変わらない。それは今も、前も、同じ。
日常なんて、元よりこんなものだったのかもしれない。
しげしげと彼女を見たサイガは唇に笑み宿し、ひときわ大きなひまわりを手折ってティアンに押し付けた。
「ふはは、溺れかけてやんの」
「大きいな」
「そういや聞いたか。こん真っ黄色の海の中に一本だけ激レア個体が生えてるって噂だ」
「なるほど、それを探す訳か」
「そうそ」
勿論口からでまかせ。それでも彼女はいつだって素直に信じて、頷くのだ。
「サイガはひまわりの向こう、見える?」
「俺に見えっかはアンタの努力次第だぞ」
「全て手折って抱えるには、すこし多いな」
「期待してるぞ」
――暮れた影が、地に落ちる。
ひまわりの横顔も、君の表情も。
ただ流れていく、平和な時間。
昼の炙ったフライパンのような暑さも夕方には少し収まった。
眸と広喜は散歩がてら寄ったレンタルビデオ屋で、棚の前に二人並んで立っていた。
「眸、眸、これすげえ、サメがいろんなもんと合体してるぜ」
「やはり夏ダと『鮫モノ』が見たくなルよな」
夏だ! 鮫だ! と書かれたポップの立てられた鮫映画ばかり集められた特集コーナーから、いかにもB級のかおりがするDVDを手にした広喜が笑って眸へと差し出すと、眸はウンウンと頷いて。
「実は『鮫モノ』の大定番も、見たイなと思っていルのだ。何だかんだ、見そびれてしまっていルしな」
「大定番ってこれか? 定番は定番でやっぱり面白そうだよなー」
名作と名高い鮫映画を手にした広喜は、ううんと悩む。
今選んでいるのは、今夜二人で見る映画だ。
一本を厳選して借りてゆこうという話をしている手前、よくよく悩んでしまうのも仕方が無い事だろう。
そんな広喜の迷いの雰囲気を感じ取ったのか、眸は鮫コーナーの横のホラー特集にも視線を送り。
「とにかく怖さを追求しテ、久しぶりに邦画もいいな」
「お、それもいいな。……あ! 眸、眸! これ、こないだ見たすげえのと同じ個体が監督だ」
「おお……、これまた属性が山盛りダな……」
二人は和気あいあい。肩を寄せ合い、今日という日の夜にぴったりなホラーを一本選り抜く。
それから会計を済ませ、足取り弾ませた広喜はへにゃっと笑って。
「映画を見ながらスイーツを食べるの、楽しみだなっ」
「ああ」
「飲み物は何にする? あのスイーツなら酒もコーヒーも合いそうだ」
「なら、今日はコーヒーのお酒にしようか?」
「やったー!」
ふたりの手に揺れるレンタルビデオ屋の貸し出し袋と、コンビニで買ったスイーツの入ったビニール袋。
逆の掌は、彼と結んで。
眸と広喜は、肩を寄せ合い、ふたり並んで家路を往く。
「ねえシズネ、今日の晩御飯はどうしよっか」
ラウルが尋ねる。
「うーん、そうだなあ。お肉だったらいいなあ~」
シズネはゆるく笑って答える。
「じゃあ、君の好きなハンバーグにする?」
「おお、いいな!」
二人で買い出しの帰り道。大きく膨らんだ買い物袋はいかにも重そうで、うっすらと汗をかきながら歩むシズネをラウルは何となく見やり――。
「……あれ? シズネ、ちょっとお腹ぷにっとしてない?」
なんて、彼の脇腹をつついた。
「……!!?」
ぎくっと肩を大きく跳ねたシズネは、瞳をまん丸くすると瞬きを重ねて。
「そ、そそそ、んなことねぇからな?」
そりゃあ、戦いが殆どなくなって少し身体が鈍ってるとか。ラウルの作るご飯が美味しくて、前より茶碗一杯、いや二杯、三杯……えっと、まあ、多く食べてるとか。
少し位は心当たりはあるのだけれども。
いや心当たりなんて無い。ぶるぶるっと左右に首を振ったシズネの焦りっぷりに、ラウルからふは、と笑いが溢れた。
「ソレ、日本では幸せ太りって言うんだっけ?」
「!?」
「今日はお野菜沢山と、豆腐ハンバーグにしようね」
「ううっ……」
ラウルの慈悲に溢れた言葉に、シズネは呻くばかり。
「今日から、筋トレ増やす」
「そう?」
「……いや、明日から」
だってラウルがシズネの為に作ってくれるご飯は、たらふく食べたいのだ。
「そっかあ」
相槌を打ったラウルがまた笑うと、シズネはまたバツが悪そうにかぶりを振って。
それから人差し指をそっと伸ばすと、ラウルの指と絡めた。
「……」
――前は当然のように手を繋いでいたのに。
気持ちを伝えてからは、少しぎこちない。それでもその掌のあたたかさは、幸せのあたたかさ。
「さあ、帰ろうぜ」
「うん」
それは変化した関係の現れのようで。ラウルからも指を絡めながら、その面映ゆさに眦を和らげた。
嬉しくて、愉しくて。
――大好き。
「さて、カッツェもお疲れさまでした」
肩に黒翼猫を乗せたバラフィールの手には診療鞄。ドクターとしての仕事、往診の帰り道。
「貴女のおかげで、皆さんの表情も和らいでいましたよ」
指先で撫でてカッツェをねぎらうと、にゃあと一声。バラフィールは小さく笑い。
「そうですね……どこかで涼んで行きましょうか?」
なんて、カフェに足を運ぶのであった。
「お?」
「まあ、お疲れ様です」
そこでパフェを食べているレプスが居たものだから、バラフィールは会釈を一つ。
そのままレプスに誘われるが侭に、相席をする事と相成った。
「仕事帰りか?」
「はい、冷たいもので一息、と思いまして」
「おー、ならかき氷のパフェがオススメだ」
「ひんやりしそうですね」
そこでバラフィールはメニューから顔を上げ。
「そう言えば、今日は誕生日なのですよね?」
お祝いにご馳走をしたい、と眦を下げると。
「ン、ありがとな」
レプスは嬉しそうに笑った。
それはなんてことない、平和な夏の夕暮れの事。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年8月29日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
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