シャイターン襲撃～落ちる滴は真紅の涙

■リプレイ

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「……やりたきゃ、てめえらで来いっての」
　一式・要（狂咬突破・e01362）は普段の柔らかい雰囲気とは全く違う悪態。それほどの気持ちだという事なのだろう。
　東京の各地に魔空回廊から現れたシャイターンがヴァルキュリアを無理矢理使役し、グラビティチェインを集めさせようとするのだ。
　そんな無理矢理使役させられているヴァルキュリアたちは血の涙を流しながらも、自身の意志とは無関係に戦わされるのだ。
「……」
　そんな要の悪態を聞きながらも、いつものように静かな上野・零（シルクハットの死焔魔術師・e05125）。しかし、その胸中では、同様にシャイターン達のやっていることに静かに激怒していた。
「シャイターンは潰す」
　そんな零とは対照的にシャイターンへの感情を表に出すのはククロイ・ファー（鋼鉄の襲撃者・e06955）。
「……だが、それよりも人々も涙する女も助けられずに何がケルベロスだッ！」
　今回の作戦はシャイターン撃破ではない。本人の意志とは無関係に操られているヴァルキュリアを救うためなのだ。
「そうです。絶対に助けてみせます」
　いつも以上に気合いの入っている清桜・シルト（清き桜の守護拳士・e04513）。その胸中は誰よりも気合いが入っている様子だ。
「チヒロさんと、今回こそあたし、きちんとお話したいんだ！」
　チヒロというのは、以前勇者を探していたヴァルキュリア。その時は勧誘に失敗し、その後ケルベロスたちと話だけをし、戦う事なく分かれたヴァルキュリアだ。
　花守・すみれ（菫舞・e15052） はその時の出会いが、愛想つかされたと思っているようだ。それが本当かどうかはチヒロ本人に聞かないと分からない。
　だけど、実際に対面したとき、どんな顔をすればいいのか……悩んだからこそ、すみれはヴァルキュリアの現状について猛勉強してきたのだ。
　そして、その胸中には他の人よりも一歩進んだ別の事を想っているのだった。
「待っててね、絶対助けるから……！」
　アシュレイ・ヘルブレイン（生まれたばかりの純心・e11722）の服装は、胸部中央のレプリカント的な特徴が見える衣装。その特徴的な箇所は胸部に結晶体。それが、アシュレイの信念を映し、熱い緋色を湛えていた……。
「……」
　昴・沙由華（見習ドキドキレプリカント天使・e01970）は、自分の過去を思い出しながら、ヴァルキュリアの涙に静かに共感をしていた。
　そんな様々な想いを重ねながら、ケルベロスたちは現場へ向かうのだった。

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「助けて！」
　地上ではヴァルキュリアたちが日本刀を降り上げ、無関係な一般人に襲いかかろうとしていた。
　ヘリオンから急降下して、助けに割り込むのはガロンド・エクシャメル（愚者の黄金・e09925）。同時に激しい咆哮を響かせる。
「……」
　その咆哮にたじろぐ様子すら見せずに、即座に攻撃対象を切り替える黄色リボンのヴァルキュリア。
「宝を狙う不届き者よ、そこで永遠に彷徨うがいい」
　そんなヴァルキュリアたちをガロンドと共に包み込むのはミミックのアドウィクスが発する煙。その煙と共に再び咆哮を上げ、同時にガロンドは黄金の鱗を持つ龍へ姿を変え、感覚や神経を狂わす咆哮を上げる。
「逃げて下さい！」
　その隣では、別のヴァルキュリアが全力で降り下ろされ刀をシルトが刀で受け止め一般人を守る。
「は、はい！」
　間一髪という言葉の通り、髪の毛一本の差で間に合ったケルベロスたち。
「ケルベロスよ、早く避難してね」
　同時に要が避難指示の声をあげる。
「た、助かった！」
　その声に従い逃げだす一般の人たち。そんな反応に対して、ヴァルキュリアは無視。即座に対象をケルベロスへと切り替え武器振るう。しかし、その行動に対して怒りなどは無い。
「あなた達の怒りも悲しみも全部、私が受けて耐えきってみせます」
　シルトが代弁するように答える。
「貴女の矜持を諦めないで下さい……抗って！」
　沙由華も叫ぶが、その声に反応は全く無い。ただ、血の涙を流しながら、武器を振るうだけ。
（「それでも、無駄かもしれないけど！」）
　そんな様子であっても、声をかけるのを止めない沙由華。それは、彼女が変身ヒロイン「エレクトラ」だからだ！
　そんな説得にも無反応なヴァルキュリアにこのまま殺される訳にはいかない。操られていても剣筋が鈍る事はなく、的確に急所を狙い斬撃を繰り出す。
「痛いけど、ごめんね……！」
　そんな彼女たちを無力化するために反撃に移るアシュレイ。胸部の結晶体の中央に緋色の灯りが収束したかと思うと、その収束した光が放たれる。
「導け、運命を切り拓く信念の灯火……スカーレットウィル！！」
　信念を熱線として放つアシュレイの一撃に、思わず足が止まるヴァルキュリア。
「顕現！」
　符を取り出しながら声を響かせるすみれ。
「いつまでも足掻く、羽根をもがれた籠の鳥」
　次の瞬間、すみれの放つ符がヴァルキュリアに向かって放たれる。
「……」
　その符を切り落とそうと一閃。しかし、その符は切り落とされる前に籠の姿に変わり、ヴァルキュリアを取り囲む。
「俺は仲間の命をぎゅっと繋ぎとめるとすっかァ！」
　ヴァルキュリアたちを拘束し時間を稼ぐ役目は仲間に任せ、ククロイは仲間の支援に回る。
「ドローンちゃん、出番だぜェ！」
　ククロイの操作するドローンが仲間たちの傷を癒す。そんな支援を受けながら、零はダークスライムを捕食モードへ変化させ、ヴァルキュリアを包み込み行動を阻害。さらに要は魂を揺さぶつ降魔の一撃でヴァルキュリアの心を揺らす。
「……」
　しかし、反応は薄く、ただ血涙を流すヴァルキュリアたち。
「もし目醒めなければ、私も貴女達と同じだったのかもしれません…だから今は貴女達の涙を信じます」
　聞こえていないかもしれない。それでも、自分の境遇を思い出しながら言葉を続ける沙由華。

　今、ケルベロスの別動体がシャイターンの撃破に動いているはずだ。シャイターンが撃破されれば、ヴァルキュリアたちに何か変化があるだろう。今は、そこまで時間を稼ぐ作戦。
　しかし、そんな作戦が厳しいのは承知の上。それでも、ヴァルキュリアを救いたい一心から全員で相談して決めた作戦だった。
　……しかし、そこには厳しい現実があった。

●
　響いたのは、薄氷が割れる音。その音と共に翅の様に舞い落ちて消えたのは、要が形成した薄い水の盾。その盾を打ち抜いたのは、チヒロの刀。
「……ごめんなさい」
　その一撃で膝を付いたまま、要は立ち上がれなかった。そんな要に止めの一撃が迫っていた。
　要とチヒロには縁があった。以前に出会ったときに『貴方が勇者かもしれませんね』と告げた対象が要だった。
「させません！」
　そこへ割り込むのはシルト。
「っく！」
　身を呈して庇うが、それも限界がある。チヒロは再び刀を降り上げる。
「……」
　その要を見る瞳は静かに、血涙を湛えるもその手が緩む事はない。誰もが終わりかと思った瞬間……。
　まるで、時が止まったかのうような一瞬。
　音が消え、風が消え、そして光が消えたかのような刹那に……希望は訪れた。
「ゆ、勇者様……」
　その降り上げた刀が降り下ろされる事は無かった。
「連絡が来ました、シャイターン撃破です！」
　同時に声を上げたのはアシュレイ。
「ググ……あぁ……！」
　シャイターン撃破と同時に、ヴァルキュリアたちの動きがおかしくなる。さきほどまでの美麗な動きから、下手な演舞のような動きになり……次の瞬間には元のようにケルベロスに攻撃を仕掛けたりするようになった。
「……ここは……何が……貴方は……勇者様……」
　そんな状態のまま、要を認識したようでチヒロは朦朧としながらも、状況を把握しようとしている。
　そんなチヒロに声をかけるすみれ。
「チヒロさん、久しぶり。覚えてる？」
「……お、ぼえてます」
　途切れ途切れの声ですみれの声に答えるチヒロ。しかし、身体は戦うのを完全には止められない
「諦めないで、必ず助けます」
　シルトの声にすがるように声を出すチヒロ。
「私を……止めて……ください」
　自由にならない体は、再び抜刀の構え。
「もう……いや……」
　溢れる涙は鮮血ではなかった。溢れるのは希望かそれとも介錯への懇願か。
「うん、分かった」
「絶対に助けるから」
　そんな言葉と同時に、望まぬヴァルキュリアたちの戦いを終わらせるために、動き出すケルベロスたち。しかし、多少攻撃の手が緩んだとはいえ、こちらも戦力は低下している。
「今、貴方達の……この悪夢を終わらせます！」
　沙由華の声と同時に、最後の力を振り絞る。
「絶対に助けるんだからっ！」
　誰の命も散らせない覚悟を決めた最後の戦いが始まった。

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「素晴らしい武人なればこそ、戦場は選べ」
「た、頼む。ならば、主の手で介錯を……」
「気が早いんだよ！」
　そんなヴァルキュリアに手加減しながらの行動不能を狙うガロンド。その一撃で膝を付き……そして呪縛から解放されたようだった。
「感謝する……」
　そして、そのままガロンドに肩を借り、もたれかかるのだった。

「その涙の真意……伝わりました」
「こ、こんなのイヤ……」
　涙を流しながらも、ケルベロスたちへの攻撃を完全に止める事が出来ないヴァルキュリアの悲しみを感じながら、だからこそ止めるために戦うアシュレイの心から哀しみが溢れ、目のような結晶体の周囲から血が滴る。
「……お願いします」
　その滴る血を見て、ヴァルキュリアの動きが止まり、大きな隙が生まれる……いや、隙を作り出す。
　その隙へ、慈愛の心を込めた一撃。
「ありがとう……」
　その一撃で、まるで糸の切れた操り人形のように動きを止めた……。

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「お願いし、ま……す……」
「うん！」
　チヒロの動きを止めたのはすみれだった。厳しい戦いで大半の者が戦う力を失っていた。それほどの厳しい戦いであったが、ヴァルキュリアは全員が無事だった。しかし、ケルベロスたちに被害は多く、特に怪我が酷いのがシルトだったが、本人はとても満足そうだった。
「みんなの声、聞こえてた？」
「ごめんなさい、全然……ただ、気が付いたときに勇者様の顔があって……」
　足を引きずりながら、チヒロの無事を喜ぶ要。そんな言葉に申し訳なさそうな声で答えるチヒロ。
　むしろ、意識が無くて良かったのかもしれない。ただ、それほど強力な力で操られていたのかもしれないと考えると、恐ろしくもなるのだが。
「お家に帰れないなら、しばらく地球にいてみたら？」
　そんなチヒロに優しい言葉をかける要。
「本当、勇者様は心がお広い……」
　チヒロは嬉しそうな顔で答えるが、他のヴァルキュリアたちは複雑な表情だった。
「お前達を傷つけたが、戦闘中だったんでな。悪く思わんでくれよ」
「いえ、感謝する事はあれど、悪く思うなどありえませぬ」
　少し古風な口調の黄色リボンのヴァルキュリア。
「無抵抗な者を手にかける事もなく済み、感謝の極み」
　ククロイとガロンドに改めて礼をする。しかし、その動きには敵に対する敬意に近い様子があった。
「せっかくだし、しばらくお話させてくれないかしら」
　そんな様子であっても全員が無事だったから、少し言葉を交わすケルベロスとヴァルキュリア。
　零はヴァルキュリアたちへ、自分の意志をはっきりと告げる。
「僕はこんなシャイターンのやり方は嫌いだ。だから、僕は君らの力になりたい」
　ここで言葉を切り、そしてチヒロ達ヴァルキュリアの瞳を自身の燃え盛る右眼と只の左目で、真剣に見つめて言う。
「……僕じゃ力不足と思うかもしれない。……それでも、少しでも君らの力になれるなら、僕らは君達、ヴァルキュリアのもとに駆け付けよう……」
　そんな零の言葉に同意するように首を縦に振るアシュレイ。
「一人の男として、ケルベロスとして、この約束は絶対に守る……」
（「これが僕なりのワガママな考えだ」）
　そうはっきりと言い切る零。
「共に戦いましょう、殺戮と涙を強いる元凶と」
　アシュレイも自分の言葉を重ねる。そんな言葉が偽りや生半可な覚悟での言葉でないのは、そのヴァルキュリアによって受けた傷の量から、はっきりと分かった。
　しかし、それでもチヒロ以外のヴァルキュリアにとっては初対面の相手であるからどうしても困惑してしまうのだった。

　手を差し出しながらすみれはチヒロに告げる。
「……友だちになれないかな？」
「どうして、貴方はそんな事を、すごい覚悟で言えるのですか……」
　チヒロの返事を待ちながらも、差し出した手を引こうとしないすみれ。そんな彼女の手は激しい激戦で、汚れていたが……とても綺麗だった。
「……」
　根負けしたかのように、そっとすみれのの手を取ろう手を伸ばす。しかし、その手をもう一度引いてしまう。
「ごめんなさ……」
　友達になろうと差し出された手を握ろうとした、チヒロの手は、そんな彼女たちの返り血で汚れているという、悲しい事実に、手を取るのをためらってしまう。
「……ね」
　だから、その手をそっと取ったのはすみれ。その手から込められた想いと共に伝わるのは、優しい温もり。その温もりが、ゆっくりとチヒロの心を溶かしていく。
　チヒロの手がすみれの手を握り返すまで、それほどの時間は必要無かった。
　そんなチヒロの様子に安心して話しかけたのはシルト。
「私はふさわしくないと、言ってましたね。それでもいいです。ただ、チヒロさん、私はあなたを助けることができた。それだけで十分なのです」
　シルトは優しく微笑みながら自分の気持ちを伝える。そんな言葉に、一瞬だけ後悔の混じった複雑な表情の後、自分の日本刀を抜き、シルトに手渡す。
「いいえ、それは間違いだったのかもしれません。貴方こそ、勇者にふさわしいのかもしれません」
　以前に出会った時の返礼のように自ら武装解除をするチヒロ。
「私はこの方々に保護していただきます」
「分かりました」
「貴方も無事で……」
　チヒロを見送りながら、二人のヴァルキュリアは去っていく。しかし、初対面の彼女らにチヒロのようにケルベロスたちを信用する事は出来なのは、仕方ないだろう。
「よかったら、これを持っていってくないかい？」
　そんな去っていくヴァルキュリアたちに零はケルベロスカードを差し出す。
「……いただきます」
　黄色リボンのヴァルキュリアが２枚受け取り、そのまま去っていく。

　チヒロの手を握ったままのすみれ。
「それじゃ、行きましょうか」
「はい……」
（「暖かい……」）
　静かに呟いた言葉。それはすみれと交わした温もりの欠片。その温もりを胸に、チヒロはケルベロスたちに保護されるのだった。
　これがどういう転機になるかは、今は分からない。ただ、一つ、ヴァルキュリアとケルベロスがゆっくりと話をする機会が生まれたのだ。それが好転に繋がる、そんな気がするのだった。

作者：雪見進	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 9
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