ケルベロス大運動会~モンテカルロ・チェイスアート

作者:大丁

「みんなぁ! ケルベロスの完全勝利を祝って、地球全土を舞台とする『大運動会』を、ぱぁっと開催することになったよ!」
 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、ヘリポートに現れるが早いか、ぱぁっとレインコートを脱ぎ捨てた。
 長雨が過ぎて、晴天が来たように。
 ヘリオンのローター風にまかれて、コートは飛び去っていく。
 地球では、デウスエクスの脅威も消えた。
 今回の大運動会は、その収益を、復興が遅れている地域の開発援助などに使用される予定だという。
「ケルベロスのみんなには、『万能戦艦ケルベロスブレイド』で、地球全土を巡って様々な競技に挑戦してもらえるのぉ。世界中の人々を熱狂させるような、スーパープレイを見せてねぇ!」
 冬美は、担当する競技の説明を始めた。
「モナコ公国モンテカルロ市街地を出発して、山岳地帯を走破し、また市街地に戻ってきてゴールの、徒競走。名付けて、『モンテカルロ・チェイスアート』!」
 ……アート?
 と、疑問顔が並ぶ。
「ほら、靴型ヘリオンデバイスのチェイスアートのことよぉ。参加者は全員それを装着し、コースを先導する私のヘリオンを追って、加速するってわけ」
 なるほど、それならただのマラソンでなく、ケルベロスらしい競技になりそうだ。
「個人参加なのでビーム牽引はナシね。服装は靴以外は自由だけど……」
 言いつつ、冬美は足元のバッグをゴソゴソと探る。
 手にしたのは、円形や長方形に切り抜かれた数センチ大の薄いもの。
「ジャージや体操服だけじゃなく、水着なんかでもいいんだけど、大会の協賛企業が、ロゴ入りステッカーを用意していて、ぜひ身体に貼って参加してほしいとのこと。レーシングカーとかラリーカーとかみたいな感じぃ?」
 広告費がまた、復興資金になる、というわけだ。
 しかし、そんなお菓子のおまけみたいなシールで人々に見えるのだろうか、という新たな疑問。
「『小剣型艦載機群』にモバイルカメラを搭載するから大丈夫ぅ」
 今回は、この大運動会のために、現地のテレビ局スタッフなどの協力を得て、処女宮に、大運動会の特設ステージを設けている。
 ステージの映像は『空中映像投射装置』により、周辺の空間に立体映像としてリアルタイム投影される。
 競技エリアでは、多数の小剣型艦載機群カメラを配置することで、ケルベロスの活躍を特設ステージに送信、リアルタイムで放映することも可能なのだ。
「みんなの活躍といっしょに、ロゴをアップで映しちゃえるってわけ」
 なんなら、ケルベロスも、自分で伝えたいメッセージがあるなら、ステッカーにして貼ってもいい、とのことだった。
「万能戦艦ケルベロスブレイドに連れて行くから、まずはわたしのヘリオンに乗ってねぇ」
 コートがなくても跳ねるように、冬美はタラップを昇っていった。


■リプレイ

●ハイライトをお届け
 地中海から吹く、暑い南風にのって。
 万能戦艦ケルベロスブレイドが、モナコ公国の上空に巨体を現した。
 処女宮特設ステージのメインスクリーンには、現場レポーターの姿が映し出され、この地の種目、『モンテカルロ・チェイスアート』の紹介がなされる。
「……というわけで、レースはすでに終盤。参加ケルベロスの皆さまは、アルプスを下ってこのモンテカルロまで、今まさに戻ってきているところです!」
 先導するヘリオンだけが、遠くレンズに捉えられた。
「操縦席の軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)さんは、文字通り手が離せませんので、レース中にいただいた各選手についてのコメントをご紹介させていただきながら、ここまでのハイライトをお届けしたいと思います!」
 スタートラインに立つ面々の映像に切り替わった。
 リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)が、後ろに束ねた長い髪をなびかせている。
 シンプルなジーンズにインラインスケート。そこへ、ヘリオンからのエネルギー波が照射されてデバイス、チェイスアートが形成された。
 全員に装備がいきわたると、シグナルが順に点灯。
 合図とともにヘリオンが、高級リゾート地のホテル通りに沿って直進する。リュセフィーの蹴り出しが速かった。
 ホテルの窓から顔を出している人々、そして沿道の客たちも、いっせいに歓声をあげる。
 デバイスが親機をトレースしだした。
「リュセフィーさんからは、『ケルベロス大運動会で、モンテカルロの人達を盛り上げましょうね!』との言葉をいただいていたそうです。スタートから、実現しましたね」
 もちろん、このスクリーンの内容も、全世界に配信中だ。小剣型艦載機群は、建物の上からのアングルで、トップに追従する選手らを写している。
 ブカブカめの上着をマントのようにたなびかせている少女は、イリーナ・ハーロヴュー(ツンロシュ・e78664)。
「『しっかり勝ちに行く』と自信を見せていたそうです」
 ホテル通りは急こう配となり、坂を上りきると、ヨットハーバーまで見渡せる。海の煌めきとともに、快晴が広がっていた。
 その明るさに栄える白衣。
「彼女はレースドクターではありません。弓月・永凛(サキュバスのウィッチドクター・e26019)さんは、戦いの中で仲間を癒す、メディックを長く勤めてきました」
 コースは急な下りとなる。
 永凛の足元がふらついて、すらりとした脚が裾からのぞいた。
 内腿には、協賛企業のロゴ入りステッカー。
「……だからなのか、ジャマー用の靴型には不慣れなようで、序盤では速度を抑えていたようでした」
 ヘリオンは低空となり、ヨットハーバー脇の道に突き当たると、右へきれいに直角ターンする。
 黒スーツに灰色シャツのセット、シフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)は、ホテルのひとつを飛び越えてショートカットした。
「冬美さんによれば、戦闘時のいつもの格好なのだそうですよ。ただ、違うのは……」
 やはり、スーツにもステッカーが片端から貼り付けられているところだ。
 道はゆるくカーブしながら、トンネルに入る。冬美も抜群の操縦技術をみせる。
 再び日差しを受けたのち、コースはホテル通りにつながる。
「まずは市街地を一周し、コントロールラインを通過、競技の舞台は郊外へと移っていきます」
 映像が短く切り替わり、モナコからフランス側へ。
 建物もまばらになると、小剣型艦載機群も高度を落とし、各選手のクローズアップを捉えるようになった。
「リリエッタ・スノウ(未来へ踏み出す小さな一歩・e63102)さんは、ケルベロス大運動会ということで、水着でがんばってくれています!」
 チューブトップ型にペタペタと、体中ステッカーを貼っている。
 カメラに向かって手を振ってきて、そうしたステッカーも映り込むようにアピールしている。
「『リリなんかの水着でもいいのかな?』なんて、自身なさそうにしていたそうですが、どうしてなかなか可愛いですよね……あら?」
 胸元の一枚が剥がれそうになった。
 先導するヘリオンが、先頭集団に追いつかれないように速度をあげ、それにつれてチェイスアートも加速し、田舎の一本道にしては、けっこうな走りになっている。
 ラリーカーのボディと違って、布や肌に貼っただけでは、運動で浮いてしまうのだ。
 リリエッタが、企業ロゴを大事にするあまり、押さえようとした手が水着にかかった。
 チューブトップがずるりと上にずれる。
 小剣型艦載機が、それをアップにしていて。
 きゃっ、という悲鳴もマイクがひろった。
 けれども、間一髪セーフだ。水着の下にもステッカーが貼られていた。あまり揺れない、小さな膨らみを、別のロゴが隠している。
 大丈夫、とジェスチャーをカメラに送り、あまり恥ずかしがらずに落ち着いて水着を元に戻していった。
 冬美の音声がかぶさる。
「想定よりスピード出ていて、この後もとれちゃうケースが頻発したのよお。スポンサーさんごめんなさいねぇ。今のうちに謝っとくぅ」
「えー、それはそれで目立つのでオッケーと、お許しが出ているとのことです。また、ケルベロスさんたちでメッセージを送ることもなされました」
 ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、デバイス性能を理解し、空気抵抗の少ないサイクリングジャージ姿で参戦していた。
 その左隣りにぴったりとくっついて、朝倉・くしな(鬼龍の求道者・e06286)が、露出の多めの和風衣装で走っている。
 袖だけ振袖の腕を振り、ビキニの上下と同じ面積に結わえ付けた布が、バタバタとなびく。
 さらに、ロディの右隣りには、神宮・翼(聖翼光震・e15906)。
 白いフィルムスーツは薄手で、これはまた空気抵抗少な目だ。
 3人とも、企業ロゴを服に貼っているが、レポーターが紹介したとおり、個人的なメッセージも添えていた。
 ロディの左胸には、揃いのハートマークで『くしなLOVE』。
 右胸には、『翼LOVE』。
 カメラが写したのに気が付いたのだろう。ロディは、顔を真っ赤にしている。
 そして、くしなの右胸には、『LOVEロディさん♪』とある。
 同じく、翼の左胸には『ロディくんLOVE♪』だ。
 4つ並んだハートで全世界に、3人のラブラブアピールなのである。
 くしなと翼のふたりともが、婚約指輪をはめているのもカメラに見せつけてきた。
 ロディが、ちょっと申し訳なさそうに首を縮めつつ、自分の指のものも差し出して、まぁそういうことになりました、と報告。
 布とフィルムの胸を、うんと揺らして、ステッカーを目立たせると、結びがほどけて、薄地がピリッと裂けた。
 とたんに、ロディはグイと両手をひろげ、男前な気っ風でカバーリングに入る。
 何かあれば、こうして2人を守って戦ってきたのだと、知れた。
 くしなは、裸になってもケタケタ笑って、胸をロディに押しつけるが、翼は手で左の乳房をおさえようとしていた。
 隠してるんじゃなくて、ロゴを守ってたのかもしれないが。
 欧州の古道が、石組みの建物の並ぶ村を通り抜けるような場所に差し掛かっている。
 沿道の見物客たちも近い。
 露出した肌に、ひゃっほうと祝いの声も上がる。
 エル・ネフェル(ラストレスラスト・e30475)はもう、そうした沿道の観客に愛敬を振りまいていた。
「まあ、ガチにレースで競うのは他の方に任せると致しまして」
 フィギュアスケートの様な演技をしてみせる。
 3本のリボンだけなのがトレードマークだったが、今はもうそれも身に着けていない。
 映像にレポーターが言葉を添えた。
「個人的な体験なのですが……」
 日本の地方局でお天気お姉さんをしていたとき、ロケ中にダモクレス事件に出くわしたのだという。
 服がピンチになる依頼であっても、エルたちケルベロスは勇敢だった、と。
「ちょっと、過激な映像が続くかもしれませんが、それも彼らの勇気の証。称えてあげてください!」
 艦載機群カメラが複数寄る。
「スポンサー契約したところのでしょうかね?」
 エルは、ロゴが見えやすいように順番にポーズをとった。
 上腕と鎖骨下には、有料放送チャンネル。
 これは、エルが普段から自分の姿を流してもらってるところだ。
 腰骨と仙骨上、内股辺りに、世話になってる温泉宿。
 当然、いっしょに肉体の箇所も大写しになる。
「ゆるゆる楽しくいきましょう、はい」
 ちょっと、置いてかれ気味だが、それもあり。
 レースは中盤にはいる。

●インシデント連発?
 山岳地帯コースは、登るにつれて険しくなり、沿道のギャラリーもまばらになっていく。
 舗装された道路がついているものの、泥や砂利に覆われていた。
 カメラもロングショットになりがちだ。ヘリオンもコースをずれないように気を遣っている。
 やがて、選手たちしかいなくなった映像の中で、5人の一団がピックアップされた。
「今回は、『メイドハウス』のチーム名で参加されています、アイドルとしても著名な、赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)さんたちです!」
 アイドル衣装風の水着姿に、スポンサーのステッカーをあしらっている。先行する3人と、随伴する1人は、メイド服のアレンジで泥道を走っていた。
 もちろん、そのメイド服にも、ロゴステッカー。
 コースの険しさと、靴に強制的に走らされるペースに、チームの誰もが苦しそうだった。
 特に随伴の、クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)は、ここまでいちごを庇いながら、障害物への注意喚起や、ジャンプにコーナリングと助けてきたので、代わりに負ったダメージが蓄積されてきていた。
 メイド服への。
 そんな同僚と主人が気になり、先導の瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)が待ったをかける。
「ちょっ!? 思った以上にコースと速度がキツイんだけど!」
 ヘッドドレスの代わりにカウボーイハットの、ピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)も頷き、様子をみようと振り返る。
「マスター、みんな、だいじょ……きゃぁっ!?」
 慣れないブーツに躓き、転倒してしまった。
「ピアさん?! あ、あぶないっ」
 いちごは、とっさに支えようとするも、ピアディーナは翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602)も巻き込み、ゴロゴロと坂道を転がってくる。
 水咲もチェイスアートには慣れず、ひとたびターゲットを失って制御不能になると、もう歯止めがきかなかった。
 そんな2人を留める力を、いちごは持たない。
「お嬢様、ここは私が!」
「クノンさんっ」
 またしても、クノーヴレットが庇おうとするも、すでにビリビリに破れていたメイド服があだになって足をもつれさせ、彼女も転倒。
「って、あぁー! やっぱり駄目じゃん!」
 玲子は、ひとり多重事故を免れて、引き返してきた。
「うぅ、ピアさん……クノンさん、むちゅ」
「あいたた……っ、なにか、お尻に……んぅっ!?」
「マスター、ご無事で、はあん」
 どうしてこうなった。
 いちごは、ピアディーナの尻とクノーヴレットの胸に顔を挟まれ、首を傾けるたびに、それらを舐める姿勢になっていた。
「い、いちごさん!? だめですぅー!」
 水咲も、アイドル水着がズレたいちごのナニかを隠そうと慌てたために、パンツのない自分の下半身を、胸と尻に挟まれたいちごの顔へ、さらに載せることになる。
「ちゅうちゅう」
 サキュバスの本能が疼いたか、途中から自分の意志で吸っていたようだが、このトラブルに玲子は呆れた声を出す。
「そんな、いちごちゃんの教育に悪いラッキースケベは止めて、早く競技に復帰して! これ放送されてるって分かってるの!?」
 などという音声も、ハイライト映像には映っている。
 チームごとストップしたために、モバイルカメラが寄ってきていたのだ。
「あー、もう、ほら、いちごちゃん。手を出して……って、きゃぁ!?」
 引っ張ろうとしてバランスを崩し。
 結局は玲子もいちごと口づけを交わしてしまう一部始終まで、しっかりと。
「以上、メイドハウスの皆さんでした!」
 折り返し後の郊外になってくると、復路のほうが沿道の見物人は多かった。
 ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)の、スタート時の姿が比較に入りながら、特設ステージのメインスクリーンには、現在より少し前の、郊外コースの様子が浮かび上がる。
「水着に、生地が見えないほどのロゴを重ね貼りしているのかと思われたのですが……」
 レポーターが、苦笑い。
 ミスラのステッカーは、区間を通過する毎に、風圧と謎の湿り気で剥がれて徐々に肌が露わになり、ここにくるまでに辛うじて秘所が隠れる程度にまでなっていた。
「えー。全裸に直接、貼ってらしたようです」
 沿道のギャラリーにも、おそらくは立体映像を鑑賞している世界の人々の中にも、妙な期待感を煽られている者が少なからずいただろう。
 いや、明らかにミスラ本人は、そうした痴態が放映されているのを想像していた。
 噴いた液体に、最後の1枚がペロっと流されていたから。
 興奮した客がコースにはみ出しかけた。
 幸い、レースは中断せずに済んだ、ようだけれど、続いて矢島・塗絵(ネ申絵師・e44161)も、全裸ステッカーで走ってきた。
 準備の時には、胸と股間に一枚ずつの計三枚。
 横や後ろから見ると何も着けてなくて寂しいと思ったのか、腕と足と背中にも何枚か貼って、もうこれで完成。
 スタートしてからは、やはりケルベロスペースの速さによって、ステッカーは捲れる。
 胸だって、かなりゆさゆさとなる。
「塗絵さんの場合、大事なところから剥がれるので、別の場所から貼り直していたようです」
 1枚、また1枚と、つけてはとれ。
 貼り直せば、そのぶん粘着力がさがるのは当然とはいえ。
 ついには、塗絵も郊外コースの途中で、枚数はゼロになった。
 どうやら中継されたまま、ゴールまで何も付けずに走ることになりそうだ。
「ご覧のように、えらいことになっています。こちらも……まず、花屋敷・蕣(汲彩ペリドット・e22521)さんのレース前コメントを紹介します」
「こういう依頼は初めてだけれど……ずっと興味はあったの。今日はハメを……ううん、タガを外しちゃうんだから」
 超極薄の白いピチピチしたハイレグレオタードだった。
 ステッカーは腕や脚に貼って体幹は隠していない。
 それが、レースも終盤にさしかかるころには、只でさえ透け透けなのに、かいた汗でもう、殆ど透明と変わらない。
 サイズも小さかったようだ。走るほど段々食い込んできていて、擦れ過ぎた布は、完全に破れてしまう。
 小剣もそれには気が付いていた。
 髪よりも濃い色の、褐色の毛がハミ出している様子が大写しになる。
 そこへ蕣の指が入り込んできた。
 直すのかと思いきや、ピラピラと身体の前で跳ねまわるのを邪魔と感じたのか、掴んで千切り捨ててしまった。
「汚い、……を、丸出しで走っちゃう、はあん」
 吐息まじりの語が、マイクにかすかに通った。
 慌てて、レポーターがコメントを重ねる。
「ええと、安尻・咲笑(跳惑ガーネット・e30371)さんは、いつも褌姿で戦っていたそうで、今回の大運動会も『1年間未洗濯の白かった汚褌』で参加とのことです。市街地直前の映像がありますから見てみましょう……!」
 スクリーンの中央でロゴステッカーが上下に揺れている。
 カメラがひくと、それは大きなお尻に貼り付けられているものだとわかった。
「咲笑さんの、でしょうか? 前は判りませんが、このぶんだとおっぱい丸出し、なの? えと、脇と、それから下の前後から、あれは、はみ出ているのは、濃い……げぶ、げふん」
 動揺し映像だけでむせるレポーター。
「み、未確認情報ですが、3ヶ月入浴してないとか、しゅ、修行のためですよね?」
 しかし、喋りながら巨大スクリーンに見入っていた。
 おりしも、咲笑の両手がフレームインしてきて、褌を緩め、ステッカーを目立たすように、尻タブを掴んで左右にひらく。
 指を中央に届かせると、限界まで広げて、全世界に響くであろう猛烈な音と共に。
「ああ、信じられません! 走りながら大量に、大量に!」
 画面は、咲笑の表情に切り替わっていた。
 想像とちがって、普通に恥ずかしそうにしていた。
 レポーターは、自分だけが見たナニか、だったのかと咳払いをひとつしてから、居住まいを正した。
「以上、モンテカルロ・チェイスのハイライトでした。このあとは、ゴールまで生中継でお送りします!」

●ファイナルラップ生中継
 リュセフィーが、さっそうとモンテカルロへと走ってくる。
「山岳地帯に比べると、楽ちんですね!」
 スタートから、調子のよかった彼女だが、今は4番手。
 残り3キロメートルの、市街地コースをもう一周し、ゴールはその先にある。
 その前をはしるのは、水着のシフカ。
 ここに出てくるまでに何があったのやら、スーツとシャツは無くなっている。
 まあ、ハイライトを見た後ならば、推して知るべし。
(「流石にテレビ中継されているので全裸まではなりませんが、肌を大きく露出できるのは、楽しいですね……!」)
 永凛が、トップと競っていた。
「ラストスパート、冬美さんに倣ってアルティメットモードで!」
 トンネルの中で白衣をガバと脱ぎ捨てる。
 出口の直後に、クランク上のコーナーがあり、大きく脚を開いてのジャンプでまたぎ越した。
 靴だけはいた素っ裸が、長い滞空時間のあいだ、夏の地中海気候にギラギラと照らし出される。
 永凛は、股の真下に小剣型艦載機のレンズが来ているのを、見下ろした。
 イリーナは、そこでオーバーテイクをされたかと、焦ったが、意地でトップを守りぬく。
 一番気合が入る服装できたのだ。
 皆に一番、注目してもらえるのは、自分だ。
「完全に丸出しだけど! 気にしないわ!」
 マントの下は、彼女も全裸だった。
 全速力で走ればはためいて、やや幼いかんじの体型が露わになっている。
 同じく、小剣は並走するほど近くにいた。
「ゴール……!」
 ラインを越えるまで、ポジションはキープされた。
 チェイスアートが煙をあげているかのようだ。
「イリーナちゃん、おめでとぅ!」
 操縦席で祝福する冬美の全身が、一瞬だけ映る。もう、レインコートは必要ない。
「ありがとう、ありがとーう!」
 普段はツンのはずのイリーナが、表彰台ではすなおに感謝をみなに伝えていた。
 マントも脱ぎ捨てて、2位の永凛と裸で抱き合う。
「あ、全然、スポンサーのアピールをしてなかったわ。うっかりステッカーを内腿に貼っちゃったから」
「ふふ、私もなんです。いっしょに……ね」
「よく見えるようにガニ股にならないとね!」
 2人でポーズをとったら。
(「んっ……ちょっと給水所で飲み過ぎたかしら。ヤバ、漏れっ……!」)
 立体映像が示す、大盛り上がりの中、勝利の虹が描かれたのだった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年8月8日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
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