●今年は特別
「皆さん、いよいよこの季節がやってきたでありますね!」
小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)がうきうきと楽しそうに説明する。
「そう、『ケルベロス大運動会』であります! 何と言っても今年はケルベロスの完全勝利を祝って、地球全土を舞台に開催するであります!!」
デウスエクスの脅威も無くなったため、この大運動会の収益は復興が遅れている地域の開発援助などに使用される予定だそうな。
「そんなワールドワイドな大会でありますから、ケルベロスの皆さんには万能戦艦ケルベロスブレイドで地球全土を巡り巡って、様々な競技に挑戦していただきます」
ぐっと拳を握るかけら。
「さて、わたくしがご紹介する競技はですね、その名も『ダイヤ争奪戦INサハラ砂漠』であります!」
それは、『藁山で針を探す』あるいは『砂漠で一粒の砂を探す』などという途方もない無理難題を指す慣用句がモチーフになったオリジナル競技。
どうせなら広大なサハラ砂漠全域を使って実際にダイヤを探してみようというコンセプトの、とてつもなく過酷なお遊びである。
「ルールは、制限時間内に見つけたダイヤモンドの合計カラット数によって、順位が決まるであります。長時間探し回って一粒も見つからないのでは流石にモチベーションを保てませんゆえ、ダイヤモンドは参加人数分の数倍を用意しますからご安心くださいね」
だがそれだけ沢山のダイヤであっても、サハラ砂漠のあちこちにばら撒かれたのでは、どのみち捜索は困難を極める。
相当念入りに探さなければ、やっぱり一粒も見つからない——という事態も充分に起こり得るだろう。
また、ルールの合計カラット数というのが曲者で、例え0.4カラットのダイヤを3個見つけたとしても、他の人がもし5カラットのダイヤを1個見つけていたとしたら順位で負けてしまうのだ。
「運もかなり絡むかもしれませんが、頑張ってくださいね! ダイヤの数を稼ぐべく必死に探すも良し、1個見つけた後はライバルの妨害に徹するも良し、であります」
注意事項は未成年者やドワーフの飲酒喫煙の禁止のみである。
「ではでは、ダイヤ争奪戦INサハラ砂漠、お気軽にご参加くださいね~♪」
焼けるように熱い砂を掻き分けて、ダイヤモンドというお宝を手にするべく、頑張ってほしい。
●
「……ばら撒いたダイヤの内、ケルベロスが見つけられなかった分は、どうやって回収するつもりなんだ……?」
ふと、純粋な疑問を口にするのは蒼眞。
「GPSかなにかで撒いた場所を控えておくにしても、ちょっと風でも吹けば地形ごと変わって行方不明になりかねないだろうに……」
とりあえず蒼眞は目視で探しつつ、アームドアーム・デバイスで砂を広く浅くかき集める。
そして、彼が周到なのは、表面上の砂を集め終わった辺りにわざわざ偽ダイヤ——それっぽく見えるガラス片——を適当に幾つも置いたこと。
このガラス片が後々どれだけのライバルを翻弄する罠になるか、蒼眞は知らない。
「カラットだのカッティングだの面倒ね。光輝くお宝は全て私のものだから関係ないわ!」
一方、ブランシュは自信満々で砂漠の空を飛んでいた。
元からライバルを出し抜こうという考えの彼女は、自らの動向を悟らせまいと隠密気流を纏って気配を殺したまま翼飛行。エナジープロテクションで酷暑に備えるのも忘れない。
また、ダイヤの僅かな光も見逃すまいとヒーリングパピヨンで感覚を研ぎ澄ませる念の入れようだ。
ともあれ、翼から聖なる光を放ち、広範囲の砂を一気に掘り返してダイヤを探すブランシュ。
蒼眞は蒼眞でかき集めた砂をいざ篩にかけるも、
「……石英か」
ガラス片を用意した筈の自分が、誰より早く偽物を掴まされる羽目になった。
何故なら、ブランシュもダイヤ以外の光り物や面白グッズを駆使して、ライバルを手玉に取ろうとしていたからだ。
悔しがる間もなく、蒼眞の足元で時空凍結弾が爆ぜる。
消音コンバットブーツを履いたブランシュが、音もなく近づいていたのだ。
「アッハハハ! 残念でした。本物のダイヤはこっち……きゃぁっ!?」
高笑いして余裕アピールするブランシュだが。
蒼眞は蒼眞で、それはもう躊躇いなく熾炎業炎砲をぷっ放し、彼女をダイヤごと燃え上がらせた。
「ちょっ、ダイヤがあるんだから奪いに来なさい! 何でいきなり燃やすのよ!」
「ダイヤは燃えるからねぇ……」
「くっ、こっちは気を遣って涼しい時空凍結弾にしたのに……オニ、アクマ!」
せっかくのダイヤを燃やされて意気消沈、隠密気流と光学迷彩でしおしおと消えるブランシュだった。
「とりあえずそれっぽいの見つけたら持ってこい。どうせ見ても分からんから、数集めようぜ?」
と、自らの分身たちへ指示を出すのは空牙。仕込影分身で人海戦術をとるようだ。
「正直、カットだのカラットだの言われても分かんねぇんだよなぁ。何ならダイヤかどうかも見てわかるか怪しいぜ」
「飲み物ヨシ、パラソル良し、それではゆっくり楽しみましょう空牙」
けらけら笑う空牙へ、アームドアーム・デバイスを装着したミリムが呼びかける。
クーラーボックスを持つ傍らでパラソルも掲げているのは、空牙を日陰に入れるためだ。
「競技といえど余裕持ちませんと楽しくありませんからね」
そう笑うミリム自身の空いた両手は、
「喉は乾いてませんか? 大丈夫です? 無理はしちゃだめですからね?」
「ありがとな。俺は大丈夫だ」
片手のタオルで空牙の汗を拭き拭きしつつ、もう一方で飲み物を差し出していた。
実に甲斐甲斐しく、用意周到である。荷物持ちにデバイスの巨大腕が活躍するわけだ。
「運良く見つけられたら大事にしましょうね」
「そうだな。ミリムはカラット数とか見てわかったりするか?」
「スマホで調べないことには何とも。余程大きいのなら1カラットは超えてるって……」
空牙と一緒に、スコップでその場を掘り掘りするミリム。
「……見つけた!!」
突如鋭く叫んで掘った穴を睨みつけたが、
「と思ったら硝子の欠片でした」
「いや、すぐにガラスって分かるだけ凄ぇよ」
気落ちするミリムを慰めつつ、素直に褒める空牙。
「ジルコニアとか混ざってたらまず分からんし、最悪よくできたガラス玉にも騙される気がする」
(「……仕込影分身の方は消えるとき爆発するから、他の人巻き込まないといいなぁ」)
苦無や手裏剣をばら撒かれて一番危険なのは、恐らく戦利品を回収する空牙自身だろう。
とはいえ、そんな分身と本体双方の苦労の甲斐あって、
「空牙、これはエメラルドカットのダイヤですよ。恐らく10カラットは超えてますね」
感激するミリムと2人して、戦利品に喜ぶことができた。
さて。ダイヤに見せかけた偽物ばら撒き戦法を、好意的に受け止める者もいた。
「……なるほど。つまりガーネットや石英が混じっているわけですね」
ケースを大量に用意したミリアである。モース硬度別に保管するつもりだろう。
「採ってきました、何個かは色で区別できたんですが、石英かダイヤかわからないものが結構あって~」
だからか、係へ戦利品を見せに来た時もその表情は明るい。
「という訳で、優勝賞品のガイバーン猫さんをください」
「えっ、ガイバーン殿を賞品に?」
「……あれ? 優勝賞品は猫さんですよね?」
小檻がダイヤとそれ以外を仕分ける間にも、ガイバーンへ猫耳カチューシャを嵌めるべくにじり寄るミリア。
「大丈夫です、愛の前に種族なんて些細な問題です」
どうやら思い込みや先入観なるものはスタート直後すぐに投げ捨てて、今や猫愛のみで暴走している模様。
「いやいやいや待て待て待て。何でわしが猫耳なんじゃ。いくらイメチェンで元の童顔になったとはいえ、猫耳までつけることは無かろう!?」
「大丈夫です。痛くしませんから。ねっ猫さん、怖くなーい、怖くなーい」
「ぎぃゃぁあああああ!!?」
合掌。
●
「よーし! ダイヤを一杯集めるぞー!」
気合充分で砂漠へ繰り出した果乃は、ウイングキャットのたまと協力してダイヤを探す。
「色んなダイヤがあるなー」
フレンチカットやバゲットカットなど0.4カラットレベルがザクザク出てきて、合わせて5カラットにはなろうかという大収穫。
ちなみにたまが見つけてきたブリオレットカットは、涙型のルースをファセットで囲うように加工した形のことだ。
「ん?」
ふと、果乃は不自然なほど平らな砂地に気づいた。
もはや音すら聞こえぬ超高速回転で掘り進めると、そこには。
「あ、とってもおっきいのが出たー!」
明らかに巨大なカボションカットのダイヤが埋もれていた。
「ほら見てー!」
果乃がガッと掴んで、優勝カップのごとく小剣艦載機へ堂々と掲げた瞬間、艦載機からも立体映像を投影、丁度競技時間の終了を教えてくれた。
後に計測したところ、そのカポションカットは驚異の360カラットを叩き出したとか何とか。
その日、アンジェリカは単身ジープを駆って砂漠を捜索していた。
「流石に、対策万全整えても暑いですわね……」
常にペットボトルの飲み物は切らさず、音響魔法陣で冷気を吹きつけて体を冷やしていても、砂漠の酷暑はどうにもならない。
もっとも、古き良き体操服とブルマ+黒ニーソという正統派運動会スタイルに拘ったアンジェリカのポリシーゆえの自業自得感も無いでは無いが。
「第二次侵略大戦期以前の日本では、この服装が運動会の正装と聞きましたわ」
とはいえ、何かと自主規制を強いられる昨今のご時世に、キッツキツの体操服に身を包み、妙に光沢のあるブルマを穿いたアンジェリカの攻めた姿勢は、観客たちから大好評を博した。
ともあれ、音響魔法陣とゴッドサイト・デバイスを併用して、地形の判別とライバルの位置の把握を進めるアンジェリカ。
エコーロケーション——反響の僅かな違いによって砂に埋もれたダイヤの位置を割り出し、努めて大きいカラットのダイヤから掘り出していった。
「プロイネン、いいですか? 青いダイヤを探すのです。ローには内緒で探すのです……」
と、オイナスがプロイネンへ微笑ましいお願い事を言い含めている一方で。
(「よし! これできっと誰も近づかないわね……!」)
当のローレライは、殺界形成を張るべく精神統一していた。
「シュテルネもプロイネンと探しておいで!!」
明るく声をかける笑顔の裏には、勝負事に勝ちたいという闘争本能が案外燃えたぎっているのかもしれない。
(「……いやこれ見つけたとしても勝手にプレゼントとかまずいですよね?」)
ローレライへのプレゼントについて思い悩むオイナスとは、とても良いコンビである。
(「でもなんだかローっぽい色のがあるなら見つけてみたいのです」)
実際、見つけたダイヤは自分の物にして構わないのだが。
「あ、オイナスさん! 向こうで見つけたわ!」
それ故に奪い合いも苛烈になるし、ダイヤを発見したローレライの喜びも一入である。
「ほら、10カラットのスターカットのダイヤよ!」
「うわぁ、ローのダイヤ大きいですね。ローはやっぱりすごいのです!」
我が事のように喜ぶ優しいオイナス。
「オイナスさんは?」
「ボクは1カラットの甲州切子のダイヤを見つけたのです」
中央に星型の切れ込みが入っている凝った細工だ。
「大きさは普通ですけど、中に星が入ってるみたいで素敵なのですー」
「ふふ、そしたら向こうのカメラに向かって……ブイ!!」
小剣艦載機が、仲睦まじい恋人たちと戦利品をしっかり画面に収める。
「……んー。ブルーダイヤとかグリーンダイヤとかあるわけないわよね?」
ふと洩らしたローレライの疑問に、オイナスはハッとした。
(「ローもボクと同じ事を考えてくれてたのです……!?」)
「シュテルネ、ちゃんと見つけられたかな? あ、小さめだけどブリリアントカットのダイヤモンドね!」
その以心伝心が嬉しくて、シュテルネと戦果を喜び合うローレライに聞こえないよう、そっとプロイネンを呼び寄せる。
オイナスがローレライのこの日一番の笑顔を見るまで、後少し。
●
「私、金色夜叉に出てくる金持ちが見せびらかしてたような、大きな金剛石が欲しいわ!」
と、欲望全開な梢子は暑さ対策に笠を被った、いわばザ・日本スタイル。
葉介もお揃いの笠を被せられているのが可愛らしい。
「沢山見つかったら質屋にでも出してお小遣いにしようかしら」
そんな野望を糧に梢子は砂地を探し回るも、全く見つからず。
「あ、これは!? ……って硝子玉じゃない!」
終いには蒼眞の被害者第5号と成り果てた。
「あーあ、喉乾いちゃった……ガイバーンさんお茶を頂戴な~」
「うむうむ。おかわりは何杯でもあるからのう。遠慮は無用じゃ」
「勝手に金剛石集まってきてくれないかしら……そうだわマネーギャザ使えば周囲の金剛石集まってきたりしない!?」
「ダイヤを貨幣代わりに使う組織でもあればのう」
一方、葉介はずぼら全開の梢子を尻目に、暑さに耐えながら探していた。
そんな彼の地道な努力が実り、ようやく0.6カラットのダイヤを発見。
大喜びで梢子に渡したまでは良いが。
「あー! ガイバーンさんこっちにもお茶ー!」
哀れ葉介、ついに力尽きてばたりと倒れ込むのだった。
「比類なく可憐な美貌の聖女様が、何が哀しゅうて、砂漠で砂掘りせにゃあかんねん……」
マリオンは盛大な溜息をつきながらシャベルを振るう。
「まぁ? 地上の至宝と呼ばれるダイヤモンドがお姉ちゃんに相応しいというのは分かりますが……」
と、自画自賛で良い気分になったのも束の間。
「……うぉぉぉおい! 誰だテメー!! 『地下組織による資金源確保』とか変なフリップ置いた奴!!!』
すぐにシャベルは立て札をバリーンと叩き割る凶器と化した。
「姐さん、今日も資金源確保お疲れさまでーす」
立て札の犯人は当然、ビーチパラソルの下で悠々とお茶を飲むルイスだ。
ゴスッ!
「馬鹿言ってないで働け!」
そんな義弟をキレたマリオンが傘の下から蹴り出すのも、これまた当然の帰結である。
「温熱適応ついてても、暑いものは暑いんだよ! 暗黒街を統べる者なら、日陰に生きる者の気持ちを少しは考えろ!」
「誰も統べとらんわ!!」
「あーマがつく自由業の人でしたっけ。プークスクス」
ブーブー文句を垂れつつ、レガリアスサイクロンで軽く周囲の砂を吹き飛ばし、残った石の粒から良質なダイヤを探すルイス。
「アメジストやローズクォーツならカボションカットが好きですが、ダイヤと来ればやはり永遠の輝き……そう、ラウンドのブリリアントカットですね!」
一方マリオンは掘った砂を篩にかけ、そこそこデカいダイヤのルースを確保、いざ研磨に挑む。
「見ろこの眩いばかりの煌めきを! お姉ちゃんに勝るとも劣らぬ、高貴の輝き!」
プリンセス黒酢もとい冷茶の休憩を挟みつつ丁寧に仕上げたダイヤを、義弟へ自慢するマリオンだが。
「これ、自力で作った方が早いんじゃねぇの? なになに? まずは炭素を用意し、100万気圧……気圧はともかく、炭素かぁ」
当のルイスは、姉を完全スルーしてダイヤの作り方を検索中。
「……なんか周囲が焦げ臭い?」
結果、姉の手によって頭から黒い煙を出す羽目になった。
「へー姐さんも人毛でダイヤが作れるの知ってたんすね。偉い偉い」
かくて、息をするように姉を馬鹿にするルイスだから、姉弟漫才のどつきあいは延々と続く。
「リリ、レスキュードローンって初めて使うけど大丈夫かな?」
そう不思議そうに首を傾げるのはリリエッタ。
砂漠の暑さ対策として温熱適応をフル活用しているのは勿論、
「お水もいっぱい持って行った方がいいよね」
と、水分補給の準備にも余念はない。
そんな彼女は、依頼で相当役立った経験を踏まえてか、移動手段をレスキュードローン・デバイスに頼るつもりであり、自身での操縦は初めてなのか興味津々。
「……お手!」
リリエッタが恐る恐る差し出した手へ、鼻先もとい降着装置を触れ合わせるレスキュードローン。
当然、1人と1機の微笑ましい様子を小剣艦載機が見逃すはずもなく、しっかり会場へ中継されてたりする。
無事意思疎通ができて満足したのか、レスキュードローンに乗って砂漠を飛び回るリリエッタ。
「太陽の光が反射して、落ちてるダイヤを探せないかな?」
低空飛行させたドローンの上から地面を覗き込んで探すも、なかなか見つからない。
「あっ、向こうでキラって光ったよ」
結果、10カラットのダイヤを見つけたのは制限時間ぎりぎりだったが、本人は収穫があって一安心したようだ。
●
「砂漠ってマジで広くて砂だらけだな。壮観!」
「壮観ではありますが、なかなか骨が折れそうですね」
興奮するロアの傍らで、半ば遠い目をして頷くのは和真。
「この中にダイヤ眠ってんの? 眠り深すぎない?」
「……この酷暑で安眠という意味でなら、まあ確かに」
空想力豊かな主人の発言へ感心していると、
「さーて、どうやって探そうか……もういっそバーンて巻き上げたら見つからないかな」
「え? バーンと?」
次いで飛び出した大胆な発想に、思わず和真は目を丸くした。
「……これだけ広大なら思い切りよく行くのも、手かもしれないですね」
「お、カズも乗り気? そんじゃいっちょやってみようか」
「え」
「太陽に照らされて、ダイヤがキラキラ俺たちを呼んでくれそうだし……そんじゃいっくぜぇ!」
和真の思案を勝手に了承と取るや、ロアは返事も待たずに黒き炎翼を広げた。
剣嵐劫火……思いっきり伸ばした翼で羽ばたき、大空を舞うロア。
起こした竜巻が飛翔する自身を追うように、一面の砂とダイヤをも巻き上げた。
「おー、あちこち輝いてる。カズ、任せたー!」
苦笑が洩れる和真だが、こんな主人の無茶振りには慣れたもので。
降り注ぐ砂粒の中、ロアの声と太陽の光を反射した輝きを目印に、次々とダイヤを回収していった。
暫くして、和真は頭を振って浴びた砂を振り落としてから、握っていた両手を開く。
「すげー取れてるじゃん!」
一つ一つは小粒でも、全部合わせれば20カラットは優に超えているだろうか。想像以上の大収穫に興奮するロア。
「ロア様のご期待に応えられたでしょうか?」
「もちろん! これは一番狙えるんじゃないか?」
そう豪語するロアの笑顔は、ダイヤに負けないぐらい明るく輝いていた。
「ははっ、カズ砂だらけ……俺もか」
ロアも髪の砂を落とし、互いの姿に自然と笑みが溢れる。
「最後に水浴びして帰ろっか。さっき上からオアシス見えたんだ」
「……オアシスですか? 良いですね、是非」
「よっし、それまでは大暴れだ!」
「ではもうひと頑張りといきましょう」
主従の息の合ったダイヤ捜索はまだまだ続きそうだ。
「……きらきら」
ぽつりと口の中で呟くあおは無表情だが、瞳に確かなやる気が宿っている。
(「……少し、興味、ある、です。一生懸命、探す、です」)
大きさに拘るつもりはなく、ひとつでも見つかったら御の字という謙虚な気持ちで探し始めるあお。
縛霊手でごっそり掬った砂を、自分用に最適化させたアームドアーム・デバイスで篩にかける。
(「熱中症は、怖いと、聞きました、ので……」)
勿論、砂漠の気温はシャレにならないので、温熱適応の恩恵もしっかり受けていた。
さかさか、じゃりじゃり。
(「こういう、地道な、作業、好き、です……」)
砂を掻き出す単調な繰り返しを楽しむあお。
篩の細かな網の上に残った粒は、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。
タイガーアイやシトリン、大地が生み出した美の結晶。
そして、明らかな異物ではありながらも、やはり比類なき煌めきを放つペアシェイプカットの5カラットダイヤ。
「……きれい、です、ね」
それらが、ずっと黙々と作業に没頭していたあおへ、珍しく感嘆の声を上げさせたのだった。
「どうせならできるだけたくさん見つけたいよね」
マヒナは、初めての砂漠ではしゃぐアロアロを見失わないよう目で追いながら考え込む。
「ちょっと考えた作戦があるんだけど、聞いてくれる?」
「作戦ってなんだい?」
ピジョンも興奮しているマギーをうちわで扇いでやりつつ応じる。
「バケツに砂をすくってきて、その砂をふるいにかけるの。砂の中に埋まってるダイヤも見つけやすくなると思うんだけど、どうかな?」
「ふむ、砂をふるうのは堅実そうだね!」
恋人の案に一も二もなく賛成するピジョン。
「なら、さらに確実にするなら……じゃん。紐を結んだ棒!」
と、彼が差し出したのは十数本もの長い棒。どれも先端の穴に鮮やかな色の紐を通して結んである。
「これを刺して、探した場所と探してない所の目印にしよう」
「探した場所の目印か、わかりやすくていいね!」
マヒナも笑顔で頷いた。
「カラーダイヤも見つかったらいいよね。アロアロもバケツに砂すくってくるのお手伝いしてね! お城作ってないで!」
「マギーも砂を振るって探すの手伝って……って、砂浴びしてる!?」
主たちが念入りに作戦を詰める一方、サーヴァントたちはいち早く砂漠をエンジョイしていた。
「あ、それ小さいけどダイヤじゃない?」
それでも、アロアロが手にした獲物をマヒナへ報告するのは早かった。
広大な砂漠に人の数もまばらなのが、臆病なアロアロにとっては却って伸び伸び行動できたのかもしれない。
「ん?」
マギーもくいくいとピジョンの袖を引っ張る。
「あっ、小ぶりだけどブリリアントカットだ」
2人と2体が見つけたダイヤを全て黒い布に並べると、かなりの数になった。
「……わぁ、マカリイみたいにキラキラしてる」
「本当。小さくてキラキラしててとても綺麗だ……」
マカリイとはハワイ語で『小さな目』。転じてプレアデス星団をそう呼ぶ。
「ダイヤは皆で分け合ったらどうかな?」
全員へ均等に分配しようと相談する傍ら、マヒナはローズカットのダイヤは優先してピジョンにあげようと密かに考える。
ピジョンはピジョンで、大ぶりのハートシェイプのダイヤはマヒナが欲しがっていたものだと気づいて自ずと笑みが零れた。
いつでも互いに互いを想い合っている2人である。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年8月8日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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