ヴァオの誕生日~ウチアゲ・マスト・ゴー・オン

作者:土師三良

●ヴァオかく語りき
 七月某日。
 ヘリポートの一角でヘリオライダーの根占・音々子がケルベロスたちと談笑していると――、
「ねーねー! みんな、知ってるー?」
 ――ヴァオ・ヴァーミスラックスが話に加わってきた。
「今年の海の日は十九日なんだぜー。さて、十九日といえば? 十九日といえばー? 十九日と、い、え、ばぁー?」
「はいはいはいはい」
 と、音々子が面倒くさげに何度も頷いた。
「ヴァオさんの誕生日ですよね。で、またなにかイベントでもやるんですか?」
「そのとーり! 海の日と誕生日だけじゃなくて、長きに渡るデウスエクスとの戦いの終わりを祝う意味も込めて、知り合いのライブハウスで『トリプルめでたいライブ』ってのを三時間ぶっとおしでやっちゃうのさ。ぜひぜひぜひぜひ聴きにきてくれよ。あ? 聴くほうじゃなくて、演るほうで参加してくれてもいいのよー。飛び入り、大、歓、迎!」
 夏休みを迎えた子供のように楽しそうに笑いながら、手作り感溢れるフライヤーを皆に配るヴァオであった。

 そして、七月十九日。
『トリプルめでたいライブ』は盛況のうちに幕を閉じた。
「いやー! 良いライブでしたねー!」
 嬉々とした声を楽屋で響かせたのは音々子だ。彼女だけでなく、他のオーディエンスも楽屋に訪れ、出演者たちと笑顔を交わしていた。
 しかし、主催者のヴァオだけはなぜかテンションが低い。隅に置かれたスツールに腰掛けて深く項垂れている。
「あれれー?」
 ヴァオを見やる音々子。
「元気ありませんね、ヴァオさん。燃えつきちゃいました?」
「いや、燃え尽きる以前にそもそも燃える暇がなかったというか……なんか、肝心のライブのシーンが『盛況のうちに幕を閉じた』という定型文でばっさり省力されたかのような……」
「なにをわけの判らないことを言ってるんですか。それよりも――」
 音々子はヴァオの肩を叩き、これ以上はないというくらい良い音を出した。
「――さっさと始めましょー!」
「え? なにを?」
「ライブの後にやることといえば、打ち上げパーティーに決まってるじゃないですかー! ぶっちゃけ、私はヴァオさんなんぞのライブよりも打ち上げが目当てで来ましたからねー!」
「いや、ぶっちゃけすぎぃ!」
 涙目で叫ぶヴァオを無視して、音々子は皆を振り返った。
「はーい、打ち上げに参加したいかたは挙手ぅー!」

 こうして、『トリプルめでたいライブ』の打ち上げが始まった。


■リプレイ

●トリプルめでたい
「終戦と誕生日とライブの成功を祝って、せぇーの……乾杯!」
 星空の下のヘリポートでミリム・ウィアテストが乾杯の音頭を取った。
「かんぱーい!」
「乾杯!」
 パトリック・グッドフェローと神無月・佐祐理がグラスを合わせた。両者ともに今夜のライブで聴衆を大いに沸かしたバンドのメンバーである。パトリックはキーボード担当、佐祐理はギター担当。
「いやー、観客としてライブに参加したことは何度もあるけど、いざ自分が出るとなると、怖いもんだなぁ」
「でも、なかなか見事な演奏振りでしたよ」
 冷や汗を拭うジェスチェーをするパトリックと、それを見て微笑む佐祐理。
「いや、なんで飛び入り参加のおまえらがメイン・アクト張りの『やりきった感』を出してんの?」
 と、佐祐理たちのバンドに属してない某人物が半畳を入れた。
「モカのドラムもよかったぜ」
「ありがとう」
 パトリックに礼を述べたのは空国・モカ。その横には、お揃いのドレスを着た根占・音々子がいる。
「音々子さんと一緒に披露した歌も好評だったようでなによりだ」
「モカさんと私の脚線美に観客の目が釘付けでしたねー!」
 音々子がドレスのスリットから素足を覗かせた。逆セクハラである。
「いや、胸が慎ましやかだから、脚のほうに目がいっただけだろ」
 と、先程の某人物かがケチをつけた。
「あまりにも楽しかったので、私も思わず飛び入りして歌っちゃいましたよ」
 ステージに立った時のことを思い出し、満面に笑みをたたえるミリム。
「『カニ味噌バレンタイン♪』とか『花のパリそば♪』とかー」
「いや、ソラミミ系の歌詞はやめろって」
 と、某がすかさずツッコミを入れた。
「ねえねえ! 気付いてくれてた?」
 大弓・言葉が皆に問いかけた。
「私、舞台をさりげなく盛り上げてたのよ。ブレイブマインでスモークを出したり、オラトリオヴェールできらきらにしたり、オリジナルなグラビティでお花を飛ばしたりー」
「うん。思いっ切り気付いたよ」
 エマ・ブランが苦笑した。
「だって、ぜっんぜん『さりげなく』なかったから。演者より目立ってる時もあったよね?」
「てへぺろっ♪」
 言葉は体を妙な具合に捻り、自分の頭をこづいてみせた。
「いや、リアルでてへぺろすんなっての」
 と、某がまた横槍を入れた。
「そうえいば、礼さんもブレイブマインをやってたね」
「はい。すいません」
 エマに話を振られて、九田葉・礼が縮こまるようにして頭を下げた。
「まさか、加減を間違えて小火になりかけるとは……」
「ドンマイ、ドンマイ」
「ブレイブマインの件だけではありません。自作のグッズを販売して盛り上げようと思ったのですが、さっぱり売れず……本当に申し訳ありません」
 ちなみに礼が用意したグッズは、ヴァオをフィーチャーしたゴシック系やビジュアル系の代物。
「いや、なぜにゴジック系? なぜにビジュアル系?」
 と、某が(略)。
「それにしても、音々子さんの今日の装いは艶やかでオトナの女って感じがするよね」
 エマが話の流れをまた変えた。
「もしかして、アレかな? なにかおめでたい報告とかあったりするのかな?」
「鋭いですね、エマちゃん。実はそうなんですよ」
 頬を赤く染める音々子。
 そして、こほんと咳払いをした後、『おめでたい報告』とやらを皆に伝えた。
「この前、うちの猫ちゃんが子猫を産んだんですよー。男の子と女の子が二匹ずつです。トイレトレーニングが済んだら里子に出そうと思っておりますので、里親になりたいかたは連……」
「いや、そんな話、どぉーでもいーわぁ!」
 某が……いや、ヴァオ・ヴァーミスラックスが怒りを爆発させて、音々子の話しを遮った。
「本日の主役である俺様を蔑ろにして盛り上がってんじゃねーよ!」
「蔑ろになんかしてないわよ」
 自分を主役だと思い込んでいる哀れな男を五嶋・奈津美が宥めた。優しい笑顔を見せ、心尽くしの手料理をテーブルに並べながら。
「手毬寿司とかピンチョスとか一口サイズのキッシュとか、摘まみやすい料理を作ってきたの」
「私もオードブルやスイーツや烏龍茶を用意してきました」
 奈津美と一緒に料理を並べ出す礼。
 そこにシルディ・ガードも加わった。
「僕はひんやりさっぱりのアイスケーキを持ってきたんだ。この暑さだからねー。もっとも、今夜は暑いだけじゃなくて――」
 目をきらきらと輝かせて、シルディはヴァオを見た。
「――とても熱かったよね! そう、ヴァオさんのロックな演奏が! 大音量にびっくりしたし、おっきなスピーカーを倒すパフォーマンスにはもっとびっくりしたけど、とっても楽しかったよ!」
 ちなみにヴァオはスピーカーを意図的に倒したのではない。滑って転んだ先にスピーカーがあっただけだ。
「ステージに乱入したりして悪かったな。でも、楽しかったぜ」
「機会があったら、うちのバンドと対バンをお願いします」
 シルディに続いて、パトリックと佐祐理が改めて話しかけると――、
「まあ、そんなに言うなら、対バンでもなんでもやってやるけどぉ」
 ――ヴァオは三秒で機嫌を直した。悲しいまでに単純な男なのである。
 その単純な男をモカも持ち上げた。奈津美の料理を貪りながら。
「ヴァオさんの歌声は……もぐもぐ……実にエクセレントで……もぐもぐ……私の心を震わせ……」
「いや、食うか喋るかどっちかにしろー!」
「あ、そうだ。ヴァオさんへのプレゼントもあるんですよ」
 機嫌を直した直後に大声でツッコみを入れて……と、色々と忙しいヴァオに礼が一幅のタペストリーを手渡した。そこに織り込まれているのはオルトロスのイヌマルの姿。
「がおー」
「私からもプレゼントー!」
 イヌマルの喜びの雄叫びが響く中、言葉がヴァオに花束を渡した。その頭の上ではボクスドラゴンのぶーちゃんが胸を反らし気味にして、『その花、自分も一緒に選んだっス!』と主張している。
「あと、いつぞやの思い出の一品――エビマヨおにぎりも持ってきたのー」
 女子力を盛り込んだおにぎりを差し出しつつ、言葉は感慨にふけった。
「それにしてもヴァオくんたちとも長い付き合いになったわねぇ。思い返せば、いろんなことがあったわ……」
「……」
 ヴァオは無言。言葉と同じく感慨にふけっている……わけではない。喋りたくとも喋れないのだ。
 なぜなら、ウイングキャットのバロンがヴァオの口に次から次へと料理を放り込み、あるいは投げ込み、あるいは押し込んでいるから。それはもう楽しそうに。
「もう! ダメよ、バロン!」
 奈津美が苦笑を浮かべてバロンを止め、ヴァオに問いかけた。
「大丈夫、ヴァオ?」
「……」
 ヴァオはまだ喋れなかった。
 なぜなら、バロンに代わって、ぶーちゃんがおにぎりを口に放り込んでいたから。
「よぉーし! もう何曲かアンコールライブしましょう! ええ、今すぐ!」
 酒に酔ったのか、あるいは打ち上げ独特の空気に酔ったのか、ミリムが声を張り上げた。
「へい、スタッフ! マイク、楽器、アンプ、スピーカー、カモーン! さあ、ヴァオさんもギター持って!」
 ヴァオはギターを持つどころではなかった。
 なぜなら、ぶーちゃんに代わって――、
「溶けないうちにどーぞ!」
 ――シルディがアイスケーキを口に放り込んでいたから。

●とってもめでたい
 ヴァオは飽食地獄からなんとか逃げ出し、ミリムのライブに加わった。

 そして、アンコールライブは盛況のうちに幕を閉じた。
「また『盛況のうちに』かよ!」
「いやー、凄かったね」
 わけの判らないことを叫んでいるヴァオに佐藤・非正規雇用が近寄り、感想を述べた。
「とくに歯でギターを弾くパフォーマンスはシビれたなぁ」
「そんなのやってねーし!」
「なにぃ!? じゃあ、今ここでやれ! やれ、オラ!」
「やらねーよ!」
「俺も一緒にやるから!」
「やらんでいいわ!」
 ヴァオの声を無視して、佐藤は自分の歯をギターの弦に擦り合わせ、奇っ怪な旋律を奏でた。
 その旋律に興が乗ったのか――、
「めでタイですねー!」
 ――ペテス・アイティオが飛び跳ねるようにして踊り出した。
 だが、踊っているつもりなのは本人だけ。傍目には、釣り上げられた魚がぴちぴちと跳ね回っているように見える。
 ペテスは鯛の着ぐるみに身を包んでいるのだから。
 カオスである。
「ヴァオ殿、誕生日おめでとうございマス」
 と、エトヴァ・ヒンメルブラウエがヴァオに微笑みかけ、カオスな空気を浄化した。
「ライブは盛り上がりましたネ。俺もギター兼ボーカルで飛び入り参加させてもらいましたが、音楽の力というものを感じ取ることができまシタ」
「ヴァオさんもエトヴァさんもカッコよかったですよー!」
 と、話に加わったのは華輪・灯。『ルール無用』と記されたTシャツを着て、ヴァオとお揃いの赤いバンダナでポニーテールを結っている。彼女なりのロックなファッション。
「私、あの『おまえんちの庭がたとえ密林でも、ゴリラごと愛してやるぜ』っていう歌が一番好きです」
 題名から判断する限り、まともな楽曲ではない。それでも灯の心が震えたのはヴァオの歌唱と演奏の賜物か。あるいは灯の感受性の問題か。
「僕は『牛丼マイムマイム 地獄の紅生姜バージョン』が印象に残ってます」
 灯の隣でカルナ・ロッシュも感想を述べた……が、心の中ではライブの思い出とは関係のないことを叫んでいた。
(「ポニーテールの灯さん、すんごぉーく可愛いぃぃぃーっ!」)
 心の叫びであるにもかかわらず、あまりにも声量が大きいので、少し鈍い灯を除く全員の耳に届いている。
 だが、小車・ひさぎはなにも聞こえない振りをして、ヴァオに語りかけた。
「アリアデバイス曲のバイオレンスギターアレンジメドレーは新鮮でしたー。あと、いつの間にかDJバトルになってたのはアツかったんよ」
 彼女は口ばかりでなく、手も動かしていた。その手元からは、香ばしい匂いを含んだ煙が立ちのぼっている。
 そう、バーベキューの肉を焼いているのだ。
 その横では作務衣姿の巽・清士朗も肉を焼いていた。DJバトルならぬBBQバトル。焼き上げて皿に乗せていくスピードはひさぎが勝っているが、食材の多彩さと料理の懲りようは清士朗のほうが上だ。
「頼むぞ、志苑」
「はい、兄様」
 清士朗が焼いた料理を蓮水・志苑が皆に配り始める。
 琴宮・淡雪もそれを手伝った。
 志苑と淡雪――ともに微笑を浮かべててきぱきと働いているが、前者のほうがなにやら輝きを帯びているような印象を受けるのは、清士朗との固い絆の故か?
 小料理屋を営む若夫婦のごとき雰囲気を醸している志苑と清士朗を淡雪は見やった。
 そして、口元の微笑を一ミリも崩すことなく――、
「……ちっ」
 ――小さく舌打ちして、毒心者の冥い感情を吐き出した。
 ふと視線を横にやると、別の二人組が目に入った。
「ピザとコーラというロックなメニューで一汁一菜に対する反逆を楽しみましょうか。あ? でも、カルナさんは炭酸系が苦手でしたよね」
「はい。まあ、コーラは程々にしつつ、ピザをロックにいただきますよー」
 灯とカルナだ。『きゃっきゃうふふ』という書き文字を頭上に浮かべて、仲睦まじくピザを食べている。
「……ちっ」
 微笑をキープしたまま、二度目の舌打ち。
 すると、音々子がそっと近寄り、優しく肩を叩いた。『判ります、判りますよぉ』とでも言うように。
 同類の慰めによって、淡雪はなんとか気を取り直し、自分より不幸な者に語りかけた。
「それにしても、元・奥様たちの件は残念でしたたね、ヴァオ様」
 淡雪は気を利かせて(?)、ヴァオの元・妻や二人の娘にライブの招待状を送ったのだ。
 だが、元・妻たちは来なかった。
 来なかった。
「べ、べつに気にしてねーし……」
「そんなに落ち込まないでくださいな」
 涙目で強がるヴァオを淡雪は励ました。
「元・奥様たちは来られませんでしたが、その代わり、こうして沢山のお友達がお祝いをしてくれているのですから。たとえば、晟様とか」
「は?」
 と、名前を出されて眉を潜めたのは神崎・晟だ。
「べつに祝うつもりはないぞ。そもそも、今日がヴァオ大先生の誕生日だということも知らなかったからな」
「ひでーな、おい!」
「……というのは冗談だ」
 ヴァオの怒声を軽く受け流して、晟は真実を告げた。
「実は誕生日プレゼントをちゃんと用意してきた。ヴァオ大先生のかつての教え子たちの寄せ書きだ」
「マジで!? ちょーだい、ちょーだい!」
「もう渡しただろう。ほら、そこにある」
「いや、渡されてねーよ! そこってどこだよ!」
「そこだ、そこ」
 そんな具合にヴァオが晟に翻弄されていると――、
「ほらほら! ヴァオたん、箸が止まってるんよー」
 ――肉が山盛りになった皿をひさぎが押しつけてきた。
「明日の胃もたれなんか怖がらず、たんとお食べー」
「よろしかったら、こちらもどうゾ」
 エトヴァがおにぎりや手作りのケーキを差し出した。
「俺からもプレゼント!」
 佐藤が突き出したのは、オレンジ色の液体で満たされた大きなグラス。
「名古屋の有名店のかき氷『辛口マンゴースペシャル』だ。名古屋から帰ってくる間に溶けちゃったけどな」
「ただの氷水じゃん! てゆーか、『辛口』と『マンゴー』が両立してなーい!」
「いいから、食え! 食え、オラ!」
 ヴァオの口にかき氷(だったもの)を流し込む佐藤。
 そして、二度目の飽食地獄が終わると、フォーマルな衣装に身を包んだ玉榮・陣内と比嘉・アガサが現れた。
「トリプルめでたいライブの成功おめでとう」
 ヴァオに花束を手渡すアガサ。目が潤んでいる。
「素晴ラシイ演奏ダッタ。音楽ハ素人ナアタシダケド、思ワズ涙ガアフレテキタヨ」
「めっちゃ棒読みやないかーい!」
「でも、この涙は本物だから」
 と、アガサが言った傍から陣内が目薬をさして潤みを補充。
「目薬じゃねーか!」
「せっかくだから、アンコールしてもいいかな? パガニーニの二十四の奇想曲をお願い」
 ツッコミを無視して無茶振りをするアガサ。
 陣内がヴァオにバイオリンをさっと差し出して、そっと囁いた。
「来る途中、『ヴァイオリンのクソ難しい曲』ってのをスマホでずっと検索してたんだぜ、このじゃじゃ馬」
「余計なこと言うな!」
『じゃじゃ馬』ことアガサの蹴りが陣内の尻に炸裂した。
 一方、ヴァイオリンを渡されたヴァオは『ヴァイオリンのクソ難しい曲』に臆する様子を見せなかった。
「楽勝、楽勝。こう見えても、ガキンチョの頃は数々のバイオリン・コンクールで何度もベスト5に入ってんのよー」
 なんともビミョーな自慢をしながら、バイオリンを弾き始める。
 しかし、『楽勝』と言い切るだけあって、見事な演奏だった(どんなにダメな人間でも、なにかしら取り柄はあるものだ)。
 その激しくも美しい旋律にまた興が乗ったのか、ペテスが再び踊り始めた。今度は二人の青年とともに。
 一人は、ペテスの恋人のりゅーくん。もう一人は、ペテスに想いを寄せて三角関係の一角を担っているショウくん。
 だが、傍目には一人で踊っているようにしか見えないだろう。
 彼らはペテスの妄想の産物なのだから。
「あーん。こんなにラブラブかつドロドロな空気を出してたら、淡雪さんに舌打ちされちゃうかもしれませんね。し、れ、ま、せ、ん、ねー」
 非実在性恋人たちと踊りつつ、淡雪をちらちらと見るペテス。
「……」
 淡雪は無言で目を逸らした。それ以外になにができよう?
「いやー、たいしたもんだ」
 ヴォアが演奏を終えると、陣内が拍手をした。ニヤニヤと笑いながら。
「バイオリンってのは、子供の頃からやらないとモノにならないんだろ? もしかして、ヴァオは意外とお育ちがいいのかね」
「まあ、うちの一族は地元では名家で通ってるよ。でも、血筋ってのは自力で手に入れたもんじゃないだから、なんの自慢にもなりゃしねえ」
 めずらしくシリアスな顔をしてプライドの一端を覗かせるヴァオ。
 そんな彼にエトヴァが色紙を差し出した。
「素晴らしい演奏でシタ。ご迷惑でなかったら、サインを頂けますカ?」
「まあ、いいけどさー。あんまり人に見せびらかしたりすんなよー」
 ヴォはひったくるようにして色紙を受け取り、嬉々として名前を書き込んだ。繰り返すが、悲しいまでに単純な男なのである。
「ところで、ヴァオさんは――」
 単純な男に清士朗が声をかけた。
「――なにか先々の夢などありますか?」
「そうさな。ケルベロスブレイドがまた地球から飛び立つようなことがあれば、それに便乗させてもらって、宇宙中のデウスエクスに俺様のロックを聴かせたいな。名付けて『銀河ドサ回りツアー』だ!」
「ふふっ……」
 希有壮大(?)な夢を聞いて、志苑が笑みを漏らした。もちろん、それは嘲笑の類ではない。
(「楽しいと感じることはこれまでに幾度もありましたが――」)
『夢に乾杯!』とジョッキをかかげる清士朗に寄り添って、志苑は仲間たちを見回した。
 優しい目で。
(「――今夜は特別にそう感じています」)
「がおー!」
 志苑の心の声に同意するかのように、ヴァオの後方でイヌマルが鳴いた。
「よしよし」
 ひさぎが腰を屈め、イヌマルを撫でて撫でて撫でまくる。
 そして、なにげなくヴァオを見上げ、口元を綻ばせた。
 彼の革ジャンの背中に色紙が張り付けられていたからだ。
 教え子たちの寄せ書きである。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年8月4日
難度:易しい
参加:21人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 1
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