●終末の巨人スルト決戦
「ケルベロスさんたち、七夕は色々とお疲れ様」
無事に七夕の魔力を集める事ができ、破壊されたゲートの修復、そしてゲートのピラー化の実現が可能になったよと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は告げる。
そして、この修復したピラーを通じ、再び宇宙にグラビティ・チェインが拡散される事で、グラビティ・チェインの枯渇によってコギトエルゴスム化していたデウスエクス達も再び活動できるようになるだろうとイチは言葉を続ける。
「それから、修復される新ピラーは、デウスエクスのコギトエルゴスム化を阻害する力もあるから、デスバレスみたいな歪みを発生させる事もないよ」
だからこれで、宇宙は完全なる平和を得ることが出来るはずとイチは紡ぐ。
が、これで終わりというわけではない。まだやらねばいけない事があるのだ。
「ゲートを修復するドラゴニア、アスガルド、ユグドラシルのデウスエクス本星は全てのデウスエクスがコギトエルゴスム化しているんだけど……例外もあるんだ」
それは、ユグドラシルにとどまっているレプリゼンタ――終末の巨人スルト。
スルトはコギトエルゴスム化することなくそこにいる。
そしてイチは、このスルトへの対処をお願いしたいのだとケルベロスたちへと話を続ける。
●レプリゼンタ・スルト
「まずケルベロスさんたちに伝えるのはレプリゼンタ・スルトについて」
レプリゼンタ・スルトは『宇宙に存在するありとあらゆる病魔』に冒されており、その病魔を取り込む事で、あの巨大な体を維持していたのだ。
これは日本防衛戦で奪取した双児宮「ギンヌンガガプ」の巨人製造工場の解析・研究から得た情報を元に、ケルベロスブレイドで強化された予知によって導き出された情報。
そして、ケルベロスにより『地球の病魔の多くが根絶』された事は、スルトにも影響を与えており、大きな苦しみを与えているようなのだ。
「だから、レプリゼンタ・スルトを滅ぼす方法は、その体より『全ての病魔を駆逐し、宇宙から病魔を根絶する』事なんだ」
つまり、修復したゲートからユグドラシルへ。そして苦悶の叫びをあげているスルトの元に向かい、病魔を引きはがし根絶するのが今回やること。
「すべての病魔を根絶する事ができれば、この宇宙から病魔は消え去って、スルトもレプリゼンタの力を無くすと思うんだ。そうすれば、撃破も可能になる」
スルトがその身に宿す病魔は、この地球で根絶されていない病気や、地球には存在しない病気など多岐にわたる。例えば、花がその身に咲く病や、羽根を吐く病など、様々なものがあるだろう。
そして今は大きな姿だけれども、すべての力を失えば巨人の力を失って小さくなり、レプリゼンタとしての性質も無くなる。
そうなれば――新たな道もあるのかもしれないけどとイチは言う。
「ケルベロスさんたちの意思によっては撃破しないって選択肢もあるかもしれないけど、それは病魔をはがしてからじゃないとわかんないしね」
その判断はその場に赴くケルベロスたち次第でもあるのだろう。
そしてそうそう、とイチは補足する。
ヘリオンデバイスはもちろん使用可能なので、病魔との戦いは有利になるはずだよと。
「このまま、スルトが直接地球に害を与えるかどうかはわからないけど。でも、唯一残っているレプリゼンタを放置するのは危険かもしれないし」
けれど、病魔を根絶しレプリゼンタの不死性を失わせれば、他のデウスエクスとは何ら違いはない。だから交渉の余地もあるかもしれないと言葉は続く。
その場合、どういう条件でなら生存を許すか、許せるか――思う所がある人は提案してほしいとイチは紡いだ。
なんにせよ、レプリゼンタ・スルトと対する必要はある。
あとは任せたよといって、イチはケルベロス達を送り出すのだった。
●病魔との戦い
「ウィッチドクターであることは、僕の存在意義……だったけど」
今は、それに縋る必要もないと春日・いぶきは小さく零す。
「けじめを、果たしましょうか」
ウィッチドクターたちがその力をふるい、スルトの身より現れる病魔達。
「ドクターとして頑張ってきましたん……あらゆる病魔を根絶するために、ボクは戦うよ」
八千草・保もその力をふるい援護をして回るつもりだった。
病魔たちの姿に長期戦になりそうじゃと端境・括は状況を確認し、遊撃へと走る。
「病魔が全て無くなったら、お医者さんも不要になるんでしょうか?」
それは勿論良い事だけど、志す職が消える事でもあると思いながらスズナ・スエヒロは走る。
フローネ・グラネットも自由に動いて、戦う者達の助けになるように動き始めていた。
「あらゆる病魔という事は攻性植物への病気の病魔も取り込んでるで御座るかな?」
フォート・ディサンテリィは攻性植物の病魔も取り込んで御座るかな? とその姿を眺めていた。
スルトを見上げて村崎・優も想い抱く。
優にはその姿はただ哀れにしか見えなかった。
苦悶の叫びはただ無力故に悲鳴にしか聞こえない――倒すべきなんかじゃないと、優は思う。
「僕は、スルトを……救いたい!」
そう思い、拒絶結症の病魔を向き合う。
斬撃重ね、一点突破で決勝を打ち破り本体を倒すべく攻撃を重ねた。
霧島・絶奈は敗血症の病魔と、テレビウムと共に向き合っていた。そして巨大な『槍』の様にも見える"輝ける物体"を模造し、その一部を召喚し攻撃をかけた。
終わりを迎える病魔。けれどまだすべての病魔がほろんだわけではないと踵を返す。
エレナ・アンセリオスも連絡を取り合いながらスルトから病魔を引きはがす。
びしゃりと水音と共に現れたの『エラの近くから空気が湧き出て呼吸困難になる病』だ。
呻きながら向かってくる魚のような病魔へと制圧射撃を仕掛け、確実にダメージを与えていく。
その中へと相馬・泰地は飛び込んだ。広がる戦線、ケルベロスの戦力が少ない方へと動きながら攻撃をかけていく。
裂帛の気合を重力震動波として敵群へと泰地は放っていた。
チャル・ドミネは周囲の様子を見、今ならと病魔を召喚した。
大量に召喚し、処理しきれないなんてことがないように。
お手伝いお願いできますかと周囲のケルベロスに頼めばもちろんと変える。
召喚した病魔は、楽園症候群だ。
眠りを誘う術を使い、石化を齎す病魔たち。それに耐性を得る術もある。
だが、どう戦うのかを知っていればチャルも、他のケルベロス達も余裕をもって戦える。
そして倒せば、他の班へと情報を共有し確認していくのだ。
そしてひとつ、戦い終えてチャルはスルトを見上げる。
まだまだ、巨大なその体からは恨みの声を吐き出していた。
「スルト……哀れなものです。ですが助けられるなら助けたいですね」
その道は、この戦いの先にあるはずと新たな病魔へと向かう。
ユグゴト・ツァンは随分病んでいる巨人(こ)だと見上げ――目の前に落ちた病魔を見つめる。
「これほど私を嘲笑するものはない」
それは脳蝕――脳を蝕むとは赦し難いとユグゴトは思うのだ。
おいで、理解してあげると手招いて。ユグゴトが攻撃かけるのに合わせたのはチェシャ・シュレディンガーだ。
「ユグちゃんがアンタの事を解りたいって。言ってるんでね。ついでに少しオレとも遊ぼうか」
チェシャも脳蝕へと向かう。
「形の無い者同士の同族嫌悪ってやつかも知れないけどなんだか無性に腹が立つんだよね」
だからこれはある種、八つ当たりでもあるのかな!! とチェシャが攻撃かけ、ユグゴトのミミックであるエイクリィも続く。
「冒涜的な病魔が在ったものだ。抱き難い劣化だな。『生きているもの』は腐らねばいけない」
ユグゴトはその言葉とともに脳蝕を終わりへと導いた。
フィスト・フィズムはスルトを見上げていた。
「スルトか……こうしてあいまみえるのは、初めてだがしかしなんていう威容さか。だがお前を放っておくわけにもいかないのでな!」
そしてフィストの前にいるのは翼圧症の病魔だ。
お前たちは何者だ? と問い掛けながら戦いに踏み込む。
「翼圧症の発症も巻き戻しの影響なのでしょうか……」
エロヒムさんは知らないんでしたねとイリス・フルーリアは零しながら向かい合う。
「ともあれ私もオラトリオ、この病気は根絶しないわけには行きません!」
イリスも確実に一体ずつ撃破をかける。
アンジェリカ・ディマンシュはエイズの病魔と向き合っていた。流星のごとき蹴りを放ち、その後は己の思うままに、攻撃の流れに注意して着実にその動きの精度を落としていく。
しかし一体ではなく、多くのものが並べば――多数を一気に攻撃できる術を放って、戦いやすくしていた。
グラビティの枯渇に苦しんでいたデウスエクス達だからこそ、逆にグラビティチェインが供給され出すことによって、縁のなかった病にかかるかもしれない――七宝・瑪璃瑠はそう考えて動いていた。
それが、責任の取り方なのだと。
宇宙は広いなとグレイン・シュリーフェは駆ける。
様々な病魔がいるが、地球に来る前に倒せてなによりだと。
鋭い一撃で凍らせたその身を砕いていく。グレインは確実に一体ずつ、地球――いや、宇宙の人々がこの先侵され傷つく心配がないように、守る為に戦っていた。
錆び塗れの病魔が現れ、霧崎・天音は対する。
苦しみをなるべく消すことができたら、私もそうしたいと。
ダモクレスやレプリカントに関する病魔だろうか。ミサイルを放ち、天音は病魔を倒していく。
リティ・ニクソンは次々と病魔を召喚していた。変な病気のとりのこしが無いように。
「あとあと……勉強しようとすると眠くなる病気や、にゃんこがかあいすぎて、にゃんこの奴隷になっちゃう病気」
と、次々と思いつく限り唱えて。
「そして、人類の宿敵。不治の病……金欠病」
それは、現れない。どうやらこれは、根絶は無理なようだ。
「どんどん行きますねー」
クリスタ・ステラニクスは竜墜症候群を病魔としてスルトの身から次々と引っ張りだしていく。
その様子を土方・竜は気にかけつつ目の前の敵へと集中する。
病魔――戦ったことはないが、気を引き締めて。相手が何であれ、見くびったりはしないと。
「弱いものから狙う。大自然では当たり前のことだけど、気づかれて残念だったね」
忍びは現実主義者だからねと竜は螺旋手裏剣で死角から攻めていた。
「ウルフクラウド・ハウスで見たイヤーな感じのする奴デス!」
シィカ・セィカはその存在を指さして、愛用のギターを弾き唄う。
「みんな、ノリノリで聞いてくださいデース! イェーイ!!」
シィカの歌はその身を蝕もうとする悪意を遠ざけるために響く。
「滅ぼせる時に、打ち砕くッ!」
幸・鳳琴は走りこみ、流星の如き蹴りを叩きこむ。
その傍らには、信頼する仲間たちがいる。
鳳琴の動きに合わせて、続けてもう一撃。シル・ウィンディアの一蹴が叩き込まれた。
「ここからは、前のめりに行くだけ! 後ろは任せるよっ!!」
その言葉に鳳琴は頷いてその後ろの敵を蹴り上げた。
病魔の一体が凍り付く。リビィ・アークウィンドの放った氷結輪が敵を切り裂くとともに凍てつかせたのだ。
しかし次々と現れる病魔たち。
葛城・かごめは飛び回り殲滅をかけていく。
リュセフィー・オルソンは如意棒伸ばし攻撃を。そしてこの場にまだ巨大なままあるスルトを説得してみせるのだと強く思っていた。
大弓・言葉は竜墜症候群から攻撃を受けた仲間から、癒していく。
七星・さくらも攻撃を使い分け攻撃しつつ、癒しをかけるが続く時間は疲れを生み出す。
その一瞬の隙に飛び掛かる病魔に気付いたが攻撃よりも早く、さくらの身は引き寄せられ、敵は燃え上がる。
「夫として、妻のピンチには飛んでいくものだろう?」
さくらへと笑いかけヴァルカン・ソルは紡ぐ。
そして新たに向かってくる敵へと炎の吐息を向けた。
ウォーレン・ホリィウッド達は遊撃として様々な場所へと向かう。
救護拠点を作り、そして戦いを続けていくのだ。
ウォーレンは敵の目に入りやすいように正面に立って、状況知らせながら戦い続ける。
ウォーレンは、次はあっちからくると方角を示し、敵についてを告げる。
「地球で出会った人たちの顔を思い出す……俺にも救いたい人たちがいマス」
協力しまショウとエトヴァ・ヒンメルブラウエは倒すべき病魔へと負荷をかける。
そしてエティは耐えず羽搏いて、皆を支えつつ助けをしていた。
御業と共に舞う巫術士とは世を忍ぶ仮の姿、実は心霊治療士と適当を言い、櫟・千梨はいつも通り気負わず行こうかと戦う。
「とんがり耳が丸くなる病気とかあったらどうしよう。別に良いか……」
敵に攻撃駆けその足を鈍らせる千梨はそんなことも言いながら。
各個撃破、一体ずつ確実にと美津羽・光流も意識を巡らせる。無理な連戦はしないようにして他の皆を気遣って。
次はあちらと戦っている者達を支えるために。
「皆、大丈夫? もう一息、頑張ろうね!」
目の前の病魔を倒しジェミ・ニアはくるりと視線を向ける。
皆を庇いながら戦い、己の傷も皆の傷もジェミは癒していた。
そしてあらかたいなくなったところで、紺崎・英賀は新たに病魔を喚ぶ。
黒衣を着て、久しぶりにドクターらしい事をする。この生活が終わってしまうなんて、少し寂しいのも本音だけれどもこれは麻痺だ。
「これを最後にやったのはいつの日か……これが本当に最後だね?」
これが最後になることを願って、新たな病魔をここに。
次は、と蘇芳・深緋も行く先を問う。
目の前に現れた病魔を蹴り上げて、一方的に攻撃をかけていった。
しかし攻撃を受けぬわけではなく、その傷をジェミが癒し、支えてくれた。
「ラフィとカッツェも同じ戦場にいたような気がするなー? ま、大丈夫っしょ」
戦場は広い。共に戦う時が巡れば、その時は共にと。
どうしても。
倒しておきたい病魔とメイザース・リドルテイカーは向き合う。そしてその病を見つけた。
アムネジア――人の大事な記憶や知識を少しずつ食らう病魔だ。
どうしても思い出せないまま憔悴していく。
メイザースの弟子も、これにやられて今日は仇討ち。
メイザースは病魔へと触れ、魔力を叩きこむ。
「……やっと。君との最後の約束が果たせたよ、私の最初で最後の弟子」
その一撃に、病魔の姿は崩れ去って行った。
縁のある病魔を探し、倒すものもいれば――他の、敵であった者達がかかっていた病を探すものも板。
ティアン・バはモザイクの姿を探した。
けれどモザイクの病魔は――見当たらない。だからもう、誰からも、何も欠けぬのだろう。
なら、とティアンは顕現し、攻撃仕掛けてくる他の病魔たちへと向き直る。
これまで数々の病魔根絶作戦があったと青沢・屏は思い返す。
今回は本当の意味での『根絶』だ。
六年間にわたる戦争はここで終幕――私たちの手で病魔の存在を徹底的に終わらせましょうと屏は動く。
ほんの少しだが、撲滅する力になればと、見つけた病魔へと向かい合って。
「発見だな……ゼロ・インキュベーター」
足止めをかけるように一体ずつ。そこには様々な病魔が集い続けていた。
狂犬病、白血病、狂森病、重グラビティ起因型神性不全症、オーバーセルシンドローム、黒死病、不活性型細胞分裂症と――病滅隊は滅ぼすべき病魔へとひとつずつ、向き合う。
「医者の不要な世界ができるなら、これに勝ることは無い、です」
これは最後の治療とシェスティン・オーストレームは駆ける。
これが本当の最終決戦とソフィア・ワーナーも思っていた。
それは長い道程。10歳で来日して今が16歳、6年だ。
どうか私たちの祈りが、治療が、届きますようにとソフィアも願う。
「さあ、行きましょう。シェス、皆さん。ここからは未来です」
シェスティンは飛翔し、敵の咆哮定め皆と戦いを。
間接的とはいえ病魔に惑わされた悲劇の連鎖でもあったとミリム・ウィアテストは思う。
「連鎖を断ち切る全病完治の刻! 参ります!」
ミリムは連携して確実に仕留めていく。
篠・佐久弥の前にいるのはほっておけない友人を蝕む病魔のひとつだ。
「宇宙に存在するあらゆる病を宿すってのはまた……今後どうするにせよ楽になってほしいもんす」
完治したら前をむいてくれると良いんすけど、と言いながら攻撃かける佐久弥は反撃受けて傷を負う。
「あ、シェスさん。病魔じゃないけど怪我の治療プリーズ」
その声に、ええもちろんとシェスティンは癒しの力を向けた。
そして、その友を蝕むもう一つは不活性型細胞分裂症だ。
ノアル・アコナイトはその病を前に攻撃を仕掛ける。
「ようやく掴んだチャンスなんです! あの人の未来を掴むためにも! 撲滅します!」
これできっとひとりの未来が開けるだろうからと。
バラフィール・アルシクは黒死病を前に、拳にオウガメタル纏わせ攻撃をかける。個人的に優先したい病魔を前にその拳に力が籠っていた。
白血病を前にシルディ・ガードは友の事を思い出す。
患って、あっという間に――願いを叶える前に。叶えてあげられなかった事を。
「こんな思いをする人がもうでないように撲滅しよう!」
シルディの言葉に皆、思いは重なる。
「まさか、息子の大怪我を治す方法調べて行き着いた先が、『病魔の根絶』とは」
自分でもビックリモノですねと古海・公子は零す。
息子の敵は見つけられないけれど、それも致し方なし。
多くの病魔がこの場に広がっているのだからと黄金の果実を実らせ恩恵を注いだ。
そんな乱戦の中を駆けまわる者たちもいる。
いちウィッチドクターとして手薄なところへとヨハン・バルトルトは向かっていた。
この戦い、そしてスルトの行方を見届けるためにも。
いぶきは回復をかけながら少し小さくなったように見えるスルトを見上げていた。
己の務めは誰も倒れさせないこと。
けれど、彼女が何を望むのかは知りたいと思う。共存を望んでくれるなら――。
「話してみないと、分かりませんね」
でも今は何もわからないままに。
こちらが優勢かと、据灸庵・赤煙は新たに病魔を召喚しつつ仲間の援護も重ねる。
そのたびにスルトの身体は小さくなっていた。
だがまだ宇宙から全ての戦いが消えたわけじゃないと淡島・死狼は攻撃かける。
「僕の夢は見つかっていないけど、人々の夢を守るために」
戦うことで世界を守ることができるならと黒い液体をその足に纏って。
「全てを砕く、破滅の一撃を受けてみろ」
病魔へと一撃を。
スルトの身よりはがされていく病魔たち。
集ったケルベロス達は力を結集し、次々と倒していく。病魔が剥がされる度にスルトの身は小さくなっていった。
そして長い戦いはやがて、終わる。
●スルトのこれから
病魔がスルトの身より排され不死性は失われ、スルトはここで己は終わると思っていた。
しかし、倒されると構えても攻撃はこない。代わりに向けられたのは言葉だった。
「もう大丈夫、怖がらないで。キミを傷つけるものはもう、どこにもいない」
優は語り掛けるけれど、大勢のケルベロス達の中でスルトはそう簡単に受け入れられない。
「僕は、僕達は、キミの仲間だよ。キミは一人じゃない、この先も、一緒にこの宇宙で暮らしましょう」
誘われている? とスルトは警戒しながらも対話に応じる様子。
かごめはスルトへと告げる。
地球に危害を加えないなら命は取りません、と。
かごめはエインヘリアルの肩を持つ気にはなれなかった。後はアスガルドにいる彼らとスルトの問題。復讐を果たすなり好きにしてくださいと言う。
そう紡ぐ者もいれば、また違う意見の者もいる。宇宙平和への完全なる協力をしてほしいというのはエトヴァだ。
「争いの時は終わりまシタ。地球とあらゆる星の生命と文明を尊重することを願いマス」
それは、憎む限りでは無理だとスルトは思う。
「『終末を齎すもの』と呼ばれた一族……「プトラナ台地の戦い」?」
スズナは問うてみるがなんだそれはという顔をスルトはしていた。
わからぬことは、これ以上問えない。保はこれ以上の争いは望まへんよ、と告げる。
「まずは二度と争わへんことを約束してな」
知らない事、歴史や世界の仕組みを教えて欲しいと言うがスルトは首を横に振る。
お前達の方が詳しいだろうと。
今、この世界について一番理解しているのはケルベロス達。だからまず、現状をケルベロス達はスルトへと伝えるのが一番のようだ。
どう、世界がかわったのかを。
これからはデウスエクスも人生は一度きり。憎みたいなら止めないけどね、魔導神殿で色々見たからと言葉は紡ぐ。
「ただね、一度だけの人生を消費するなら、これから同じ悲劇が起こされないようにして生きていくのが効率いい復讐なんじゃないかしら」
お前達の目論見は永遠に叩き潰してやるぞって気概でねと、その気持ちを汲んで。形の違う復讐もあるのだというように言葉は紡ぐ。
「今はもう、コギトエルゴスム化が出来なくなってしまったんですよ」
と、リュセフィーは世界がどう変わったかを、具体的に告げた。
「宇宙全体の問題は今解決に向かっています!」
恨みを忘れろとは言いません! とシィカは言う。
「でも、もしできるのなら最後の巨人族として、巨人族の再興を目指したりしないデスか!」
「あらゆる苦しみを引き受けてきて最後消えてなくなっちゃうなんて、そんなのダメだよ」
シルディも想いを紡ぐ。何よりボクがいやなんだと。
「住む場所だってここじゃなくて地球でもいいし、これから探したいのだったらそれをお手伝いもするよ! だから、どうか……生きて欲しい!」
括も、無辜の命を巻き込まんとするなら、今この場で命奪うてでも止めねばならぬと紡ぐ。
しかしその矛先が恨み募る者に向かうならば、其を留めることはできぬとも。
「けれどユミルに、おぬしの母に無体を働いた者どもの粗方は蘆原を襲ったが故に既に我らの手で滅ぼした」
括は許すことは叶わぬものかと問う。
あなたの大事な方を束縛してた縛めは既に私達が解きましたとミリムも言葉重ねる。もう復讐を目標に生きる必要は無いと。
「業病や模倣体研究に関わっていたマスター・ビーストも既に滅しています」
それでも、貴方の復讐は止められぬものかもしれませんとフローネは紡ぐ。
それでも亡くなられた巨人族の方達の想いを、一度立ち止まって聞いてみて頂けませんかと。
巨人族として、生きて頂けませんかと――きっと、そう願われている筈とフローネは言う。
亡骸はケルベロスの手で葬送されたことを瑪璃瑠も告げる。
「――さようなら」「……おやすみなさい」
それが、葬った者達が向けた言葉だと。そして復讐は待ってほしいというのだ。
アスガルドもこれから変わるだろうから。
スルトは生きることを願われているのか、と心のうちに落とす。
「これからのあなたはどう生きますか? 生きる目標を探しに地球に来てはみませんか?」
黙っているスルトへと、まだどこか苦しい所はありますか? と赤煙は問いかける。
「自覚はないでしょうが、貴女の行動は確実にエインヘリアルを追い込み、力を削いでいました。それも私達が彼らを倒し得た理由です」
貴方は復讐を果たしたんです、もう楽になっても良いのですぞとスルトの知らぬことを伝えて。
「だが、やはり……憎い」
絞り出すような声だ。その気持ちは簡単に昇華できるものではないものだから。
「憎しみをすべて捨てられるわけじゃないよね」
シルはでも、と言う。
「その憎しみが新たな憎しみの連鎖になるなら……ごめんだけど、止めさせてもらうよ」
もし、憎しみに捕らわれるならとシルはその先のことをスルトに考えさせる。
私も父母を奪われ、最初は憎しみで戦ったと鳳琴は紡ぐ。気持ちも分かるところもあるのだと。
「けれど英雄王達は滅び貴女の復讐の対象は、もういないのです。どうか共に生きて欲しい」
そこへリビィは自分の身の上を語る。シャイターンに操られ虐殺をさせられていた。恨みがないといえば、嘘になるが。
「それを上回るほどの、素敵な人たちに巡り合えました」
貴方にもそんな機会を持ってほしいと、願っていると。
「……世界は今、変わり始めているわ。生き残ったエインヘリアル達も、きっと変わっていく」
さくらは、憎む以外の生き方が出来ると思うのよと微笑んだ。その様をヴァルカンは願わくば命を奪うことなく収めたいものだがと静かに見守る。
そうですとイリスも頷く。今アスガルドに残っているのは穏健なエインヘリアル達だと。
「恐らく、貴女に害を為す者達は居ないでしょう。私は貴女にも、新しい一歩を踏み出して欲しいんです!」
「病魔を取り込むと言う貴女の特性を活かせば、新たな病魔の発生を確認する事も出来ます」
それは病魔根絶の希望。地球に生きる者達は貴女を愛するでしょうと絶奈は未来を示し、生きて協力してほしいと告げた。
そこへヨハンは言葉向ける。業病、と言いましたか、と。
苦しみを手放して初めて掴める物事もある筈です、と。
「治療で最も肝心なのは患者さん自身が自分を救う意思なのです。どうか、ご自身を救ってはくれませんか?」
スルトは向けられる言葉一つずつをかみ砕いて飲み込もうとしていた。
好きにすればいいというものもいる。平和を願うものもいる。それを破れば、飲めないなら排するというものも。
「スルトも、スルトの憎むエインヘリアルも、ケルベロス以外の力でも死ぬようになった」
ティアンの言葉にスルトはそれは理解したと頷く。
「どうしたい」
憎み続ける道を選べば、いずれの内にかケルベロス達に滅ぼされるだろう。しかし、違う道も示してくれている。
スルトの胸にまだわだかまりはある。憎む気持ちもまだある。だが、もう己に力が無いこともわかっているのだ。
何ができるのか、どうすればいいのかはすぐには出てこない。
ただ、ケルベロスと対する気はないとスルトは言う。対する利がないからだ。
「――どうすべきか、考える」
しばらくしてスルトは身の振り方を決める。
ユグドラシルでこの先の過ごし方を考えると。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2021年7月30日
難度:普通
参加:52人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 2
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|