星空に慟哭する獅子

作者:塩田多弾砲

 そこは、『無人島』。
 かつては人が住んでおり、漁村も、簡単だが船着き場なども存在していた。
 が、様々な理由から人は去り、現在は誰も住まない。その船着き場にも、船は無い。残された集落の建物にも、人の気配はない。
 月と星が輝く夜。人工的な灯火が無く、月明かりと星明りにのみに照らされている。
 そこを闊歩するは……四本腕の何物か。
『それ』は、腕のみならず、胸部にも獅子の顔を持っていた。星空を仰ぎ、咆哮した『それ』……獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)は、
 歓喜とも、憎悪とも、或いは慟哭ともとれる咆哮を夜空に響かせ、
 そのまま、無人の漁村内へと駆け出し、消えていった。

「……と、このような光景を予知しました」
 セリカが君たちに、語り始めた。
「それで、皆さん。銀子さんは月面に取り残されたはずですが……」
 月面にいたはずの銀子が、なぜ地球の、それも日本の無人島まで戻って来れたのか?
 皆が生じたその疑問には、セリカもかぶりをふる。
「さすがに、どうやって移動したかまではわかりません。そのあたりも予知では見られませんでしたし。ただ……」
 ただ確かなのは、彼女は月面にて強力なダモクレスと暴走状態で戦い、相打ちに近い形で倒した。その際に敵は、大量のミサイルを周囲に散布している。ほぼ完全に、周辺の遺跡そのものを破壊するほどに。
 帰還できたのは何らかの原因があるかもしれないが、現時点ではその理由を証明する事も、検証もできない。
 しかし原因や理由より、現状への対応の方が今は重要だ。

「まず心得てほしい事は、彼女自身……かなり『消耗』している、という点です。最後に受けたミサイルは、『毒』も含まれたもの。ただですむわけがありません」
 彼女には、早急に保護が必要。しかし今の彼女は、前後不覚に陥っている。
「なので、今の彼女は、異形の姿のままです。胸部に獅子の顔、両肩から獅子の腕。この四本腕には赤い文様が走り、体格は2mほどに。四本腕を用いてダモクレスの両腕を掴み、頭部をも掴み、腕と頭を引きちぎった事は言うまでもありませんが……」
 それだけのパワーと凶暴さを、今度は人類に向けようとしている。このままでは、殺戮が起こる事は必至。この無人島にいる間はともかく、人家の存在する場所に向かわれたら、大変なことになる。ゆえに、早急に助け出さねばならない。
「で、予知で見た事を説明しますが……」
 彼女、銀子は警察官であり、レスラーでもある。忍術も心得ているが、今の彼女はそれらを『用いない』。既に野獣の本能に支配されかけているため、今の彼女は戦い、喰らい、犯す事しか考えに無い。
 用いるのは、自身の『術紋・獅子心重撃』。相手が倒れるまで、ひたすら力押しで四本腕でのラッシュを叩き付けてくる。
 その他には、『獅子爆咆哮』。胸部の獅子の咆哮で周囲を爆ぜるように粉砕させる事も可能。
 そして、『獅子紋闘気』で、四肢の紋様を全身に拡大し、回復する事も可能。ただし、これはよほど不利な状況でしか用いない。
「平たく言えば、彼女は『飢えて』います。血のたぎる戦いへの『飢え』、食事が取れず、空腹ゆえの『飢え』、性的なものも含む、体と心の触れあいが足りぬゆえの『飢え』。それらを何でも良いですから、与える事で『弱体化』できます。拒否はしないでしょうが、与えられて得ていく事で、更に求め続けるでしょう。それに……」
 何もない『月面』に居た事で、その『飢え』そのものも、簡単に満足はしないかもしれないとも、セリカは付け加えた。
 要は、多少与えたところで済みはしない。そう簡単に『飢え』を満たす事は出来ないという事だ。

「……暴走した銀子さんを放置するわけにはいきません。このまま放置すれば、必ず被害が出てしまいます。そして、彼女自身も犠牲になるでしょう。そうなる前に、力づくで彼女を止め、正気に戻してあげてください」
 そうだ。このまま彼女を放置するわけにはいかない。
 かけがえのない仲間であり、有能で歴戦の勇士たるケルベロスの一人である彼女を、獅子谷・銀子を失うわけにはいかない。
 いかに『飢え』を満たすか。いかに、彼女を助けるか。
 君たちは仲間を助け出す方法を考え始め、天を仰いだ。


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
清水・湖満(氷雨・e25983)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)
皇・露(スーパーヒロイン・e62807)
青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
九田葉・礼(心の律動・e87556)

■リプレイ

●炭を並べて、火を起こそう
「姉様、炭の量は?」
「大丈夫、充分ですよ」
 コンロを用意した源・那岐(疾風の舞姫・e01215)は、
 妹の如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)、彼女の目前で、炭をその内部に並べていた。
 太陽は沈み、夜の闇が帳を下ろす。
「まさに、一秒ごとに世界は変わっていく。ですね」
 青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)は、闇の中、周囲へと警戒の目を向けていた。
 ここは港、船着き場に面する場所。
 周囲には遮蔽物はほぼ無い。ここからならば、何かが接近しても、それを目視する事ができる。
「こ、この島のどこかに、し、獅子谷さんが……」
 瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)も、呟きつつ、周囲を見回した。
 キャンプ用の机。それを広げ、設置しつつ……夜の闇の中へ、視線を向ける。
 夜空を見上げると、星明りと月明かりが。
 照明用のランタンを机の上に置くと……優しい光が、周囲を照らしだした。
「銀子さん、前に一緒に戦った事、ありましたわね。いろいろ助けて頂きました。ですから……」
 今度はこの皇・露(スーパーヒロイン・e62807)が、助けるために頑張りますわ!
 寧々花と対照的に、彼女は力強く、コスチューム姿で言い放った。
「ええ、ほんまに」
 清水・湖満(氷雨・e25983)、シャドウエルフの着物美女の言葉は、やや静か。
「……この敷布は?」
「私の自作です。バーベキューのお料理や、皆さんが持参したものを、こちらに並べておもてなしできれば、と思って」
 九田葉・礼(心の律動・e87556)は、机の上にランチョンマットをいくつも並べていた。
 そして、
「それじゃ、皆さん。持ってきた食材やお料理を確認しましょうか」
 那岐と沙耶が火起こしを始めている横で、
 巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)が、肩にかけていた小さなクーラーボックスを開けた。

●着火剤入れたから、炎が上がるとは限らない
 コンロに並べられた炭の黒色が、熱の赤色に変化しつつある。
 それを横目に、菫が数個のタッパーを取り出した。
「まずは、私から……」
 詰められているのは、肉系の総菜や食べ物。
「カラッと揚がった狐色の唐揚げに、焼き鳥に、こちらはビッグハンバーガーです。あと、どこでもカレー缶。礼さんは?」
「私は……リンゴのスイーツに、冷たいジュースです」
 アップルパイなどリンゴのスイーツと、瓶が、机の上に並べられた。
「菫さんも揚げ物ですか、こちらも……」
 と、屏も持参した弁当を。中身は唐揚げ、そしてコロッケにとんかつ。
「被っちゃいましたね」という屏に、
「それでしたら、私たちも被ってますよ」
「ええ、私と姉さんも、リンゴのスイーツを作ってきましたからね」
 那岐と沙耶は、自身の持参物を取り出す。
「私はおにぎりと……アップルパイを作ってきました」
 那岐は、自身が作ったアップルパイを見せた。いわゆるショーソン型と呼ばれる小さなタイプのものが、箱にいくつも入っている。
「私のは、りんごマフィンです。それから、こちらはカツサンド」
「これは、珈琲か紅茶が欲しくなりそうやなあ」
 と、沙耶の林檎マフィンを見て、感心する湖満。
 そんな彼女は、既に那岐と沙那が火起こししたコンロの上に、食材をいくつか並べていた。湖満と露、寧々花は、ここに来る前にスーパーに寄って食材を購入していたのだ。
「うちが買うたのは、普通の肉ですが……」
 焼き網の上には、湖満が購入した焼き肉用の肉が何枚か並べられている。
「露は、肉だけでなく、お野菜も購入しましたわ!」
 その隣に並ぶは、鶏に豚、そしてトウモロコシにタマネギなど。
「わ、私も、お肉と、お魚を用意しました」
 寧々花の肉は、塊の牛肉と、羊の骨付き肉の切り身。そして切り身の鮭や、干物にしたアジやサンマなど。
「ぁ、あと、沙耶さんたちとかぶりますが、リンゴを……」
 焼かれている数個のリンゴは、アルミホイルに包まれていた。
 食材が焼けてくるに従い、食欲そそる匂いが漂ってくる。
「……露さん、やっぱり焼きトウモロコシは欠かせませんよね。特に醤油ジュージューなやつは」
「菫さん。その件に関しては、異論も異議もありませんことよ?」
 自身の食欲を必死に抑えている二人だったが、
「!!……皆さん!」
 屏が、陸地の方へ視線を向けた。
 他の皆もまた『気配』を感知。同じ方向へと視線を向ける。
 その視線の先にあるのは、唸り声と、強烈な『殺気』。
 そして、『殺気』を発しているその存在は、
 胸に獅子の顔を、両肩に獅子の前肢を、それぞれ有していた。

●炭の入れ方で、火力の調節
 獅子谷・銀子。
 彼女が姿を現した時。ケルベロスたちは、打ち合わせ通りに行動し終えていた。
 菫は既に物陰に隠れている。出現と同時に食料強奪と強襲されるのを防ぐため、気配を感じたらすぐに、『荷物を取りに別の所へ向かう』ふりをして、その場から離れたのだ。
 那岐と沙耶、湖満と礼もそれに続き、物陰に。
 露と屏、寧々花のみが、その場に残っている。
 銀子が出現したら、強襲され全滅する事を警戒し、薫たち三人以外は一旦距離を取り、隠れる。
 もしも問答無用で戦いを挑んできたら、全員が出て迎え撃つ。
 しかし、話が通じ、食欲の『飢え』を先に満たせるようならば、露、屏、寧々花がまず食材を勧めてみる。
 それで満たされ、彼女を落ち着かせれば僥倖。そうでなかったら、全員で対処。彼女の戦闘欲の『飢え』を満たす。
 これが、今回立案した作戦。それ以上の事は……それからだ。
「し、獅子谷さん! 覚えていますか? る、瑠璃堂・寧々花です!」
 寧々花がまず、銀子に問いかけた。
 だが……、
 目前の銀子の頬はこけ、顔色は悪かった。よろよろ……と、おぼつかない歩調で進む様子は、力強さが感じられない。
「……あれが……?」
「本当に、銀子さん……?」
 那岐や沙耶など、銀子と既知の者たちもまた、その変貌に驚愕を隠せなかった。あの力強く、頼りになった彼女が、あのような姿になるとは。
 月面での戦いが熾烈だった事に加え、ここまで何らかの理由で帰還した際に、かなりの無理があったのだろう。
 その様子は、銀子を知らない者たちも、『彼女を助け出さねば』という使命感を生じさせるほど。
 銀子は、その鼻をひくつかせ、匂いに釣られるようにコンロへと近づく。
 が、寧々花を見て、威嚇するように唸った。その唸り声にも、力強さが無い。
「ぉ、お腹空きませんか? お弁当やリンゴ料理も沢山あるんですよ」
 寧々花の差し出す弁当を一瞥したが、すぐに銀子は咆哮し……、四本腕を身構える。
「……やはり」
「戦いは、避けられないんですか……」
 屏と礼は、苦々しく呟く。
 それとともに、他のケルベロスたちも出てくると。戦闘態勢を取った。
 露、寧々花と如月姉妹が前衛として立ちはだかり、その後ろに礼、そして湖満と屏、薫が後方に控える。
 礼が、サークリットチェインを放ち、前衛の防御力を増加させたが、
 突如、耳をつんざく咆哮が、その場に響き渡った。
「……っ!」
 ケルベロスたちは、思わずその両耳を押さえてしまった。獅子爆咆哮、銀子の攻撃だ。
 そのまま、銀子は駆け出し……、
 前衛の四人へ、飛び掛かった。

「くっ……」「あああっ!」
 那岐と沙耶は、銀子の攻撃を、『術紋・獅子心重撃』を、『あえて』受け止めた。弱体化と防御力増加のため、致命傷には至っていないが……それでも、痛恨の一撃である事には変わりない。
 寧々花も攻撃される。が……、
(「……や、やっぱり……」)
 その攻撃には、力が無い。
「大丈夫ですの銀子さん! どーんと来てくださいまし!」
 振り向いた銀子は、露を殴りつけるが、
「はあああああーーー!!」
『破纏撃(ハテンゲキ)』、露のお尻アタックに反撃された。
 お尻が銀子に命中すると……銀子は後ろざまに吹っ飛び、転がった。すぐに立ち上がるも、その動きには精彩を欠いている。
 再び、駆け出すが。
「動くな……『0'O・clock(ゼロ・インキュベーター)』!」
 屏の放った12発の弾丸が、地面に魔法陣を召喚。その時間を封印した。
 立ち止まった銀子に、
「つ、月ではお世話になりました」
 寧々花が、問いかける。
「ぉ、お陰でみんな無事でしたよ。……ダモクレスとの戦いも、終わりました」
 その言葉に、何かを思い出したかのように……銀子は動きを止めた。
「銀子さん。『ハールとの決戦』を覚えていますか? あの時、頑張って敵を抑えてくれた銀子さんが忘れられません」
 沙耶も語り掛け、
「私達、家族三人と依頼に向かった時の銀子さんは……いつも仲間の為に、身体を張る人でした。その頼もしい姿に、どんなに助けられた事か」
 那岐もまた、義妹に続く。
 銀子は、それでも唸りを止めないが……攻撃を仕掛けては来ない。
「獅子谷さん。私は、清水・湖満いいます。初めまして、よろしゅう」
 湖満が、前に進み出た。
「私はあなたのことを知らん。けどな、あなたの活躍はしっかり報告書読ませてもろて、知っとるの。……仲間を守るため、やり遂げたのね。ほんま……凄いこと、誇るべきことや」
 最後の言葉を強調するように、湖満はおだやかに語り掛ける。
「私は、九田葉・礼と申します」
 礼も、それに続いた。
「私は初めてお会いしますが、獅子谷さんがどれだけ体を張って、人の為に戦ってきたかはお聞きしました。ここにいる全員も、今日は来られなかった方々も、貴女のことを待ってるんです」
 そして、白猫のぬいぐるみを差し出す。
「猫ちゃんもです、きっと。だから……一緒に、帰りましょう?」
『…………』
 返答はない。だが、明らかに戸惑いを見せている。
「……銀子さん。露にとって、銀子さんはヒロイン……いいえ、『ヒーロー』なんです! それも、『スーパー』と付くヒーローです!」
 戸惑いに対し、露が追随し、
「……一緒に戦って、いつも助けて下さいました。なので、今度は私が助けます。ケルベロス同士、そして……ヒーロー同士、助け合うのは当然でしてよ!」
 その手を、差し伸べた。
『…………』
 やはり、返答はない。だが、両腕が下がり、肩からの獅子の両腕もまた、力を失い下がっている。
「なあ、他人に、ここまで言わせられるなんて、ほんまに凄いことやで。だから……」
 再び、湖満が語り掛け、
「……だから、もう一度……頑張ってみない? 『こっち』に戻ってきて、笑いながら人生を全うすることをさ!」
 手を差し伸べた。
「私も……その逞しい背中が、まだ記憶に色鮮やかなうちに……」
 沙耶も、
「元の銀子さんに戻って欲しい。さあ、帰りましょう」
 手を、差し伸べた。
「かけがえのない戦友を、ここで失う訳にはいきません。あなたは、私達姉妹にとって……」
 那岐も、義妹に続き、
「家族も同然……いいえ、家族です。だから、戻ってきてください!!」
 手を差し伸べた。
 礼と菫、屏も、同様に手を差し伸べ、
「……獅子谷さん、一緒に帰りましょう。来れなかった皆も……心配してますよ」
 最後に寧々花が、手を伸ばした。
 空には、月が煌々と輝いている。
『……うっ……うっ……』
 四本腕の獣人は、その手を握り、牙を剥き出し、顔を上げ、
「「「!!!」」」
 大きく、咆哮した。
 威嚇でも、鼓舞でもなく、それは『慟哭』の咆哮。少なくとも、その場に居たケルベロス達八人は、そう感じた。
 やがて、慟哭が収まると……獅子は崩れ落ち、動かなくなった。
「……し、獅子谷、さん?」
 寧々花が恐る恐る近づき、触れる。
「銀子さん?」
「銀子さん! しっかり!」
 那岐と沙耶も駆けつけ、彼女を起こす。
 ぐったりした銀子は、目を閉じ、動かない。
「……ちょ、ちょっと銀子さん! ここは目を覚ますシーンでしてよ!」
 露の言葉にも、返答しない。
「まさか……」
 屏が、最悪の状況に陥った事を口にしようとしたその時、
「……ぉ……」
 かすかに、声が聞こえてきた。
「お?」
 菫が聞き返すと、
「……おなか、空いた……」
 かすれた声で、九人目のケルベロスが、
 帰還した事を、皆に知らせていた。

●後始末も、きちんとしておこう
 銀子は、むさぼっていた。
 先刻に現れた時と異なり、用意された食べ物を端から腹に詰め込んでいく。
 最初のうちはゆっくり噛んで飲み下していたが、次第に食欲を刺激されたのか、がつがつと口に放り込むように。
「唐揚げにカツにカツサンド、おにぎりも……」
「もう、無くなりそうです」
 しかし、那岐と沙耶は嬉しそうだった。食べ物が銀子の腹に収まっていくにつれ、彼女に元気が、そして生命力が、徐々に戻って来るかのよう。
 半日もあれば戦車も、戦闘機も直る。食欲があれば体力も戻り、体力が戻ったら気力も、精神も戻る。彼女は回復し、助かるだろう。
「ふふっ。私の塩おむすびも、おいしいよ?」
「いただくわ……あむっ」
 湖満から差し出されたおむすびも受け取り、銀子は満足げに噛んで飲み下す。
 やがて、落ち着きを取り戻したのか。
 差し出された水を飲み干し、銀子はようやく……、
「みんな、ごちそうさま。おかげで……」
 戻って来れたわ。ありがとう。
 まだ弱々しくはあるが、はっきりと。銀子はかつての調子で、礼を述べた。
 なぜ戻って来れたかは、覚えてはいないようだったが。それでも……暴走状態から戻って来れた。それで十分。
「……よ、良かった、です。本当に……」
 涙目になりそうな寧々花。その横では露が、
「ほら、寧々花さん。ここは泣くところではなく、喜んで笑い合うところでしてよ!」
 私服姿で、食材をバーベキューしていた。
「さ、お肉焼けました! 牛、豚、鶏、羊、どれになさいます?」
「お、お野菜と、魚も……焼けましたよ」
 露と寧々花が、焼けたそれらを差し出す。
「……いやあ、良かった良かった。あとは、性的な飢えを満たせば……痛っ!」
 気を抜き、思わず言わんでもいい事を言った屏を、菫がどついた。
「そういう野暮な事は言わんでくださいよ。……まあ、銀子さんが求めるなら、やぶさかではありませんが」
 その脇では、礼がデザートを勧めていた。
「いかがですか? リンゴのスイーツ、ありますよ」
 もちろん頂くと、銀子は甘い菓子を口にする。礼のリンゴスイーツ、寧々花の焼きリンゴ。那岐のショーソン型アップルパイに、沙耶のリンゴマフィン。
「……おいしかったわ。それじゃあ……」
 腹を満たしたら、次は『食後の運動』かと思ったが、
「……バーベキュー、もう一ラウンド頂きましょうか」
 銀子の食欲に、驚きあきれると同時に、
「……ええ! 皆様でバーベキュー、楽しみましょう!」
 露がそれに応える。
 仲間を救い出した祝いとばかりに、ケルベロス達は。コンロに新たな食材を並べ、焼き始めるのだった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。