「クレープパーティをやりましょう!」
ある日、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)はそんな提案を口にした。
「クレープの皮をじゃんじゃん焼いて、それぞれ好きな具を入れて巻いて食べる……っていうのをやってみたいのですよ。それで、みんなで食べたいものとか、おすすめのものを持ち寄ったらなんだかすっごいのができるんじゃないかなーって思いまして」
公民館の一室を借り、そこでどっさり生地を焼いたら、あとはお好みで持ち寄った具材を使って思い思いのクレープを作って食べよう。そんな計画の内容を説明しつつ、ねむは思い出したように両手を握って。
「あっ、皮の材料はねむがたっくさん用意しておきます! なのでみんなは、入れたい具材をお好きに持ってきてくれたらなーって思います!」
生クリームやカスタードクリーム、チョコレートソースやフルーツソースといったソース類、果物、ナッツ、アイスにジャム。和風の味わいが好きなら白玉や餡子、黒蜜。或いは軽食系の甘くないクレープとして、レタスやトマト、玉ねぎ、ポテトサラダ、ハムやソーセージ等をケチャップやマヨネーズ、サルサソースと一緒に――といったあたりが一般的なクレープの具材だろうか。
無論、材料は持ち寄りという点を活かして、個人の好みに振り切ったクレープを作り上げてみるのもいいだろう。ただし、実験的チャレンジは自己責任がお約束だ。
「みんなのおすすめとか、好きな味とか、色々見せてもらえたらねむも楽しいですし、それに美味しいものはみんなで食べると百倍美味しいですから!」
……というわけで、夏のクレープパーティ、どうですか? と。
君たちに向け、そんな風にねむは笑って首を傾げてみせた。
「お、おお……」
目の前で次々焼き上げられていくまん丸いクレープ生地を前に、シズネは思わず感嘆の声を上げる。
「ねむは職人さんだな! オレなら穴だらけになってるぜ」
「えへへ、上手に焼けましたよ! じゃんじゃん持ってってくださいねっ」
それじゃあ、と早速皮を1枚取りながら、凄く素敵な響きだね、とラウルも笑う。クレープパーティだなんて、これは乗らない訳には行かない。
太陽のようなマンゴーに、つやつやの白桃コンポート、さっぱり味のヨーグルトジェラートにプラムジャムを合わせたら、それらをくるりと巻き込んで、更には同じ手順でもうひとつ。両手に握ったクレープの片方をねむに差し出して、朗らかに祝いの言葉をかけて、そしてラウルは傍らを見てまた笑う。
「やっぱりお肉?」
「勿論!」
そう言うシズネの手の中にあるのは、ローストビーフに牛肉のソーセージ、ステーキパテ――ぎゅうぎゅうにお肉を詰め込んだ、ボリュームたっぷりの特製クレープだ。こちらも同じレシピの作品をねむにしっかりお裾分けしてから、じっ、とシズネはラウルの口元、いや、手元に目を向けた。大きく口を開けて甘い幸せに今しもかぶりつこうとしていたラウルが視線だけで振り返り、笑う。差し出されたそれに思い切り口を開けて飛びつけば、わ、と慌てたような声が上がった。
「ちょ、待っ……!」
「うまー!」
思いのほかがっつり持っていかれてしまったクレープに目を瞠っていたラウルだけれど、シズネの幸せそうな表情と鼻の頭のクリームを見比べれば、やがてその顔も笑いに塗り替わる。そこでようやく、ふたりの目がまた合って――照れたような笑みと共に、シズネは自慢のお肉クレープを屈託なく前へと差し出した。
と、不意にオーブンがひとつベルを鳴らす。両手にそれぞれ生クリームとホイップクリームを詰めた絞り袋を握ったまま、ティアンがアガサの開けた扉の中を覗き込んで。
「なるほど、こうなるのか」
「うわー凄い、お洒落だ。女子力高ぇ」
キソラもそう言うように、オーブンから取り出されたココット型から出てきたのは花が開いたようなクレープ生地の器。これが完全に冷めたらアイスとレーズンを入れるのだと語るアガサの口調は、懐かしげで楽しげで。
「子供の頃、母親がよく作ってくれたおやつなんだよね。どんなクレープにしようかなって考えた時にふと思い出してさ」
「母君、お料理上手。というやつか。ウケツガレルカテイノアジというやつ」
どこかぎこちない発音でそう評して、ならば型が冷めるまでにとティアンは自身の分のクレープ生地に向き直る。そこへ、キソラが何気ない風にひょいと顔を覗かせた。
「あ、そうだそうだ。ティアンちゃん、コレ使う? 果物をソース代わりっぽくすると結構イケる、ってどっかで見たんだ」
「果物のソース。何ともおしゃれだし、甘酸いのはすきだ。……じゃあ、ティアンからはこれを。多分これが一番あまくない」
「イイね、アリガト! 肉にも野菜にも合うやつじゃん」
肉やトマトソースやスパイスを包むクレープに合うかどうかと控えめに差し出されたクリームチーズに、キソラは満面の笑みでそう答える。更に悪戯っぽい色を目元に添えて、こうも彼は続けた。
「アイスとクリームチーズを混ぜたディップを生ハムに添えると意外と美味い、コレもどっかで聞いた」
「アイスと?」
本当に? と言いたげに首を傾げたティアンの視線を受け、アガサもそれには首を捻る。チョコチップアイスの上にティアンからお裾分けされたレーズンを散らしながらしばし思案して、彼女はやや低い声でふたりに問うた。
「……チャレンジしてみる?」
「するならミンナ諸共な」
「じゃあ、やろう。気になる」
勇ましくボウルを手に取ったティアンが早速バニラアイスとクリームチーズを混ぜ合わせ始めれば、自らは作業に手を出さないまま上手い上手いとキソラが囃し、いそいそと記念撮影の準備にかかる。さあ、とびきりの1枚が残されるまであと少し。
「8分割8分割……」
相棒に教わったコツを何度も声に出して繰り返しつつ、広喜が真剣に頑張ること数分。そこには、破れひとつなく巻かれたクレープがしっかりと完成していた。
「見事なものだナ」
「おうっ、眸の教えてくれた通りやったらきれいにできたんだぜ!」
無邪気な返答にそウかと小さく笑って、眸も寸分のズレもなく巻き上げたクレープを広喜の前へと差し出した。
「でハ、交換しよウ」
いつもなら広喜の好きな桃をたっぷり――とするところだが、折角だからと普段使わない食材を贅沢に使ってみた意欲作だ。果たしてどんな反応が返ってくるかと口は閉ざしたまま見守れば、ぱくりとクレープにかぶりついた広喜の瞳が一瞬の間の後にキラキラと輝いて。
「――!」
どうやら、言葉にするのも難しいほど口に合ったらしい。一心不乱にクレープを頬張る姿を眸が微笑ましく見守っていると、ふと顔を上げた広喜と目が合った。促すような視線を受けて、こちらも受け取ったクレープを口にすれば、漉し餡とチョコレート、生クリームにバナナ――いくつもの層をなす甘味が舌の上で躍る。
(「餡子入のクレープ珍しイが、とても美味しイ」)
そう言えば、『8分割』の合間に『美味しくなれ』とも何度となく呟く声が聞こえた覚えがある。あとでしっかり口にも出して伝えようと思いつつも、今はまだこの甘さを、愛情の味を存分に感じていたい。広喜がいつになく静かなのも、きっと同じ理由だろう。そう確信できることもまた、滑らかな餡子をいっそう優しい味に思わせる。
そうして再びぶつかった視線が、どちらからともなく幸福の色に煌いた。
青空高くに昇った太陽の光は、窓越しにも眩しい。その光をいっぱいに背中で受けながら、クリスはぐっと腕を伸ばして気合を込める。
「手洗いよし! エプロンよし! 三角巾よし!」
こだわりのアイテムでお料理スタイルを決めれば、気分も一層上がるというもの。ぐっと自身の二の腕を撫でて、早速生地をゲットしようとクリスはまっすぐに駆けていく。
「私も準備万端です!」
どうせならねむにも最高の思い出になるような1日をプレゼントしたい。クリスのそんな意気込みにミリムも力強く頷いて、ねむと同じくホットプレートの前に陣取って。
「ふふふ、こういうのはお手の物ですっ」
サッと生地を流したらすかさずトンボをくるりと回し、もちもちの綺麗な円形に焼き上げる。ミリムの一連の手際に、わあ、とクリスの口元から楽しげな声が零れた。
「初めてでもできるかな。難しそう」
「慣れないうちはフライパンでやってみましょう♪」
確か、コンロを借りることもできた筈。そんな風にミリムが提案すれば、なるほどとクリスが両手を打つ。そんな風にしてふたりで生地を焼き上げたら、次はいよいよ具材を巻き込む段だ。どのフルーツを入れようか悩んで悩んで、クリスが出した答えはと言えば――。
「こうなったら全部! ってしたんだよ!」
「わ、いいですね!」
片や、苺にブルーベリーにバナナ、他にも様々な味をひとつずつ巻き込んだフルーツ食べ比べセット。片や、ホイップ、カスタード、アイスと3種のクリームに苺とチョコとスポンジケーキを合わせたショートケーキ風。
顔を見合わせ、笑い合って、そうしてふたりはねむの方へと揃って自信作を差し出し――明るい祝福の声が、ふたつ綺麗に重なった。
「あ……ねむ、良かったらこれもどうぞだよ」
そう言い、歩み寄ったリリエッタがテーブルに置いた皿の上にあるものに、わあ、とまたヘリオライダーの声が上がる。そこに鎮座していたのは、なんともボリューム感溢れるミルクレープだった。その上には、クリームで『誕生日おめでとう』と書かれたチョコプレートがしっかり飾られている。
ざくりと思い切ってナイフを入れれば、ちょっぴり厚めの生地の間から生クリームやジャムの艶やかで美しい色合いが縞模様となって顔を出す、だけではなく。
「ちょっと不格好だけど……」
「でも、お味は保証しますわ。さ、こちらのアイスティーとご一緒にどうぞ?」
穏やかに笑って、ルーシィドがことりと紅茶のグラスを皿の横に添える。ミルクレープの中から溢れんばかりに覗いている色とりどりのフルーツに目を奪われていた様子のねむがはっと気を取り直してお礼を口にすれば、ふたりは作戦成功とばかりに顔を見合わせて。
「お気に召していただけたみたいですわね」
「うん、よかった……ルーがいっぱい手伝ってくれたおかげだよ」
ミルクレープを冷やす為の氷を沢山用意してくれたり、重ねた生地を綺麗に整えてくれたり、ちゃんと美味しくできたか確かめてくれたり――そんな風に数え上げれば、ふふ、とルーシィドは肩を揺らす。
「今日のわたくしはリリちゃんのアシスタントですから」
そう言うルーシィドの声はどこか嬉しそうで、少し誇らしげで、そのことがリリエッタにも何となく嬉しい。うん、とひとつ頷いて、リリエッタは小さな拳を握る。
「今年も無事にお祝いできてよかったよ」
各々チョイスしてきた具材で、クレープを合作しよう。そんな約束のもとにリーズレットと瑪璃瑠が作り上げたのは、確かに力作だったと言えよう。すり下ろした人参をたっぷり混ぜ込んだ生地でリーズレットお手製のポテトサラダをくるりと巻けば、出来上がるのは紅白の彩りが目にも鮮やかな『メリリズ特製ポテサラ人参クレープ』。その出来栄えにまずは満足げに胸を張り、リーズレットは次なる食材を取り出してみせた。
「私はフルーツを色々用意してきたぞ! どうだ、宝石のようだろう」
「うん、すっごいツヤツヤで綺麗……! じゃあ、ボクからはこれ! プリン!」
「おお、と、言うことは……」
「そういうことだよ!」
フルーツを彩りよく敷き詰めたら、崩れないよう丁寧にぷるぷるのプリンを載せて、そして最後の仕上げには。
「どうかな? 結構可愛く描けたと思うんだ」
「わ、わ、メリリクッキー、とっても可愛いんだよ!」
「メリリもめっちゃ可愛く描いてくれてるー!」
わいわいと賑やかに、ふたりの似顔絵を可愛く描き合ったクッキーをてっぺんにちょんと添えたら、本当の本当に出来上がり。目を細めながらクッキーの上の笑顔を見比べて、ふふんとリーズレットはオリジナルクレープの名を口にする。
「これは……『合体! メリリズ特製プリンアラモードクレープ!』だな!」
その命名に再び目を輝かせて拍手喝采する瑪璃瑠にぎゅっと肩を寄せ、ふたりとクレープの写真をばっちり撮って、そしてリーズレットは手にしたクレープを瑪璃瑠の口元に持っていく。
「はい、メリリ~あ~んして♪」
「えへへ、それじゃこっちも! リズさん、あーんだよ!」
幸福で平和な時間は、まだまだきっと終わらない。
――本当に平和だな、と蓮は改めて考える。フリューゲルの持ち込んできたやけに大きな鞄の中から出てきたのは、タッパーに詰め込んだローストビーフにパンチェッタ、旬の野菜や果物各種、甘いクリームやチョコレートにお手製の飴細工。それでなくともクレープというのは存外ボリュームのある食べ物だが、これだけの食材を使い切れるだけの量となると――いや、フリューゲルに限ってその心配はない。よく食べよく育った彼の頭頂部に視線をやって、蓮はお祝いついでにねむから貰ってきた生地を台上に広げた。
「ほら、何から包む?」
「えー? どうしよ、迷うなー。あ、でもね、これは蓮に使ってほしい!」
そう言って差し出されたのは、オルトロスの空木を模した飴細工。先ほどねむに贈っていたパンダといい、全く器用なものだ。指先でつまんだそれを蓮がじっと見つめていると、いつからかそれを見上げる視線がもうひとつ。
「……後で食べさせてやるから」
ぱたりと尻尾を振る小さな相棒に座っているよう手で示し、そこで蓮はフリューゲルもまたこちらを見ていることに気付いて振り返る。
「……どうした?」
「ねぇ、蓮、あのね」
戦いは終わって、共に肩を並べて行くことはもうなくなるけれど、でも。拳を握り、懸命に、そうしてフリューゲルは言葉を紡ぐ。
「……またこうして、時々でいいから遊んでくれる?」
「……なんだ、急に何を言い出すかと思えば」
嘆息に、フリューゲルの瞳が僅かに縮む。その色をまっすぐに見返して、蓮は随分と近くなった頭に手を伸べた。
「俺達は戦う仲間じゃないだろう。友達だろう?」
だから、理由などなくとも共にある。これからの未来も、きっとずっと。
作者:猫目みなも |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年7月28日
難度:易しい
参加:15人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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