●蒼きひかりの夜に
「皆さんは、夜光虫をご覧になったことはありますか?」
フィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)はそう、微笑みながら問いかける。
「ちょうど今の時期に、夜光虫が見られる場所があるのだそうです。せっかくですので……皆さんと、ご一緒出来たらと思いまして」
とある街の海辺で今、夜光虫が見頃を迎えているのだそうだ。
夜の海が、青く輝く。
まさにその言葉の通り、波が寄せては返す度に青白い光がふわりと零れるように浮かび上がる、とても幻想的な光景が見られるのだという。
波打ち際をゆるりと歩きながら、青い光を辿るのもよい。
少し歩けば高台のような場所もあるから、そこから一面の青い世界を見渡してみるのもよいだろう。
風のない、静かな夜だ。
見上げれば澄んだ夜空には新月に近い細い月と天の川の名残のような無数の星が煌めいて、空と海と、言わばふたつの星が楽しめる。
「特別なお祭りなどがあるわけでもなくて、……ただ、空と海のお星様を見ながらゆっくり、のんびりするだけ、ですけれど。きっと、とても綺麗だと思うので、――宜しければ」
――デウスエクスとの、永きに渡る戦いも終わった。
皆の手で確かに掴み取った未来に、これから先のいつかに、静かに想いを馳せてみるのもよいだろう。
まるで星が降るような、あるいは、星が巡るような。
そんな場所でのひとときを、どのように過ごすかはあなた次第。
「……皆さんにとっても、素敵な夜になりますように」
願うようにそう紡ぎ、フィエルテははにかむような笑みを深めた。
浜辺に腰を下ろし、静かに波音に耳を傾ける。
寄せては返す蒼と美しい星の光に――ティアン瞼の裏に蘇るのは、いつかの光景。
ひとりでいることには慣れたつもりだが、やはり誰かと共に在る方が心地良い。
ひとりでも生きていけるようになりたいと望んだことはあったけれど。
今日のような蒼い光を初めて目にしたあの日も、真っ先に見せたいと思ったのは。
――変わらぬ心の在り方に小さく息をつきながらそっと指を伸ばし、ファミリアの鴎に触れる。
故郷で教わった星は結局覚えきれなかった。
そもそも、空が違うとも聞く。
「……北極星、どこかな」
ティアンは灰の眸を空へと向けて、星を探す。
たとえ見上げる場所が違っても、空の一番高い場所で輝く導きの星を。
「プリエールさん、お誕生日おめでとうございます」
薄紫の地に咲くのは、刺繍のブルースター。
「ありがとうございます、大切に使わせて頂きますね」
祝辞に添えられたハンカチを受け取り、はにかむように微笑んだ娘と別れ、礼は一面の蒼い海へと向き直った。
海を揺蕩う夜光虫も美しく、見上げた先には満天の星々が煌めいて。
いつもなら、綺麗な景色を形にするためのスケッチや撮影にも勤しむのだけれど、今は。
瞬く無数の煌めきにかつて空へと送った命とまだ見ぬ者達の姿を重ね、礼はただ静かに、今までとこれからに想いを馳せる。
「……流れ星に願い事?」
二人で足を運んだのは、天の星がより近い場所。
「俺の星になら願いを請うのも請われるのも悪くはないが。星に願いを請う様なタイプに見えるか?」
「いいえ全然。自分で何とかしそう」
深く絡めた腕の先で、柔く震える笑みの気配。
願いは星にかけるものではなく、己の手で掴むもの。
天にも海にも無数の星が煌めいて、傍らには寄り添う唯一の星。
――『また』を願い、手を伸ばし続けたアリシスフェイルと。
ただ待つだけでなく、自らの手で手繰り寄せたルクス。
だからこそ二人の運命は再び交わり、巡り合わせだけでは叶わなかった未来が今、ここに在る。
「けれど奇跡を願う事も無意味とは思わない。今はもう天の川の様に俺達を隔てるものもない」
「……ルクスもロマンチックな事を言うのね、織姫と彦星?」
「……俺を何だと思ってるんだ」
そんな他愛のないやり取りもただ愛しくて。けれど愛しさと幸せが募る程に、アリシスフェイルの胸の裡には今も尚心に深い疵を残す喪失の痛みが広がっていく。
「ねえ、ルクス。もう私を置いていかないでね」
紡いだ声は少しだけ、震えていた。
「俺はアリスを手離さないし、姿を消す事もない。もう嫌だと言っても、次は」
温もりを求めるように伸ばされた手を取って、重ねる唇に永遠を誓う。
「運命、とはよく言ったものですね」
救い、救われた命。
かつて瑛士に助けられたからこそ、詩織は今ここにいる。
そうして共に日々を紡ぐ中で、瑛士の心を占めていったのは他の誰でもない詩織だった。
眩くて何時までも眺めてしまう星空のように、灰色に見えていた世界に鮮やかな光を灯してくれたひと。
「且て君を助ける事ができたけど、今度は僕が君を傷つけ、泣かせる事もあるかもしれない。でも、僕は君の傍にいたい」
手放したくないという想いを言葉に変えて、瑛士は詩織の手を取った。
逃げるならば今の内だと、容易く振り払える程度の僅かな力を籠めて。
「汐原さんは……その、私に好意を抱いてくださっているのですよね? なら、大丈夫です」
言葉だけでは足りない気がして、詩織は瑛士の手をそっと握り返す。
「私は、汐原さんが好き、ですから」
静かに瞬く星々と夜の帳のように、優しく包んでくれる――。
詩織にとっての瑛士もまた、星空のようなひとだから。
「先に言われてしまったけど、僕も君が好き」
胸の裡を満たしても尚溢れて止まない愛おしさと独占欲。
それを、彼女は受け止めてくれるのだという。
「……私の手を離さないで。なんて心配不要の様ですね」
瑛士は仄かに笑い、詩織を抱き寄せる。
「君がこの手を振り払わないなら僕から離す事はない。……覚悟しててね」
手を繋ぎ、辿る星明かり。
「どうしたの?」
どこか不安げな白空と目線を合わせて尋ねれば。
「白空の仕事、は終わって……弥鳥も、それは同じで。……そしたら、弥鳥は、もう……会えない?」
ぽつりと零れた音に、弥鳥は目を瞬かせてから表情を和らげる。
普段から我儘を言わない少女が、胸の内を伝えてくれたことに安堵もして。
(「寂しいと思ってくれたのかな」)
そうだとしたら少し嬉しい。けれどそれを表には出さぬまま、弥鳥はそっと続きを促す。
「弥鳥はちがうお家、だから。弥鳥は……お歌と音とキラキラした世界も、お仕事って言ってた、から。もう、白空とは、白空たちとは……会えないのかな、って」
紡ぐ白空の瞳が蒼い海へと落ちる。
「お星さまはキラキラしてて、弥鳥と歩くの、好きだけど。でも……もう、終わりなら、お星さまも、歩くのも、きらい」
「大丈夫、終わりなんかじゃないよ」
安心させるように、弥鳥は少女の頬を両手で包み。
「歌と音でキラキラした世界も俺のお仕事の場所だけど、俺は戦うお仕事がなくたって白と会いたいよ」
「……本当? 弥鳥と、会える? お話、できる?」
瞬く桜色にゆっくりと大きく頷く。
「本当だよ。いつだって来てくれて良いし、気にせず連絡して欲しい」
そこで漸く、白空は微笑った。
「なんだか……お星さまがさっきよりキラキラしてる、気がするね」
腕の中のテレビウムも、何だかご機嫌な様子で。
きっと自分も同じだと思いながら、白空は煌めく世界を瞳に映した。
「へへ、きらきらっすねー。文字通り星の海っす」
祝いの言葉に微笑むフィエルテの傍らで、シキは眼前に広がる星の海に瞳を輝かせる。
長きに渡る戦いの果てに、掴み取った未来。やるべきことはまだあるけれど、これからは先の見えぬ明日に憂うこともない。
「どっちにしろ、こんな風にたまに会えるといいっすよねー。星空、今度は南十字星の見える所とか」
「はい、これからもきっと、会えますよ」
この空と海の星々の先で、願うならばまた共に。
筆で描く色とりどりの世界のように、シキは無垢な心のキャンバスに無限に輝く幾つもの未来を想い描く。
空も海もきらきらと輝いて、まるで星空が落ちてきたよう。
巽が見守る中、共に海面を飛ぶ妹の由佳が大きく翼を羽ばたかせれば、生まれた風に撫でられた夜光虫達が一斉に瞬いた。
ありふれた、穏やかな光景がそこにはあった。
「……まだ実感が湧かない、かも。こうして平和になった世界で、のんびり出来る日がくるなんて……不思議な気分、だね」
大好きで大切な家族と翼を失ってから十年近く。本当にあっという間だったけれど。
これからは侵略者の恐怖に怯えることもない、平和な時代がやって来る。
「……そうよ。由佳と巽お兄ちゃんだけになって、もうそれだけ経つの」
巽の回想を適当な相槌で聞き流していた由佳が不意に呟く。
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、でも、天国のパパやママ、空お兄ちゃんに褒めて貰うためにも一生懸命頑張るんだから!」
頼もしい妹に微笑んで、巽はそっと、傍らに寄り添うビハインドの翠と手を繋いだ。
たとえ姿かたちは違っても、彼もまた巽にとって大切な家族の一人。
「……もちろん、由佳も……これからもずっと、一緒だよ?」
そうして、三人で一緒に遠い夜空の星を追いかける。
「これからは……ううん、これからも舞台役者として活躍できるように、頑張らなくちゃ。やること沢山……楽しみ、だね」
のんびりと微笑む巽に、小さく胸を張る由佳。
「やりたいことなんて沢山よ。旅行も行きたいわ!」
由佳はもう一度大きく翼を羽ばたかせ、より一層の青い煌めきを波間に燈し。
「夜光虫の海って、お空の上からはどんな風に見えているのかしら? 由佳達は元気にしてるわ! って伝えたいわ」
「きっと、届くよ……だってこんなにも、きらきらしているんだもの」
「おー、きらっきらじゃん」
「ココ涼しくて俺好み。しかもキレーってね」
一面の煌めく青。早速取り出したカメラにはやはり天地の光を収めたくて、キソラは真剣な表情でレンズを覗き込む。
すると、その頭にぽんと大きな手。
「ソラチャンの髪ん毛も気持ち青強くておそろじゃん」
青が混ざるキソラの髪を雑に掻き混ぜ、既に虫をつかまえた気でいるサイガ。
「そうかぁ?」
少々不服そうなキソラだが、されるがままなのは決して悪い気分ではないからこそ。
「似ているようで、星空とは違うモンだなあ。色々な色に光ってもネオンみたいで面白そーだが」
「おー。なんつーか都会味もあるわな。キラキラ度が強ぇから味も濃そう。酒ん中に浮かべてぇかも」
綺麗な景色の前でも結局サイガの思考は食べ物へ。
とは言え眠りも帰りもしないのは、これでも十分に楽しんでいる証拠。
「なあアレ何が光ってっか知ってる? 刺激で光るっぽいぞ」
「ナニ、っておめームシ……ハ? 刺激でもっと?」
殊更に悪戯めいた笑みを深めながら、キソラはまだ少し半信半疑なサイガを波打ち際へ追いやって。
「でさ、波と戯れるサイガ君とか撮るのでご協力ヨロシク」
「大体、俺ばっか写っててもしゃあねぇし?」
「……ってちょい何して、ぇえええ」
度々盗み見て覚えた通りにサイガの手がセルフタイマーをぽちり。
そのままキソラの腕を引き、砂浜へと駆け出した。
「じゃあブレても超楽しいの分かるようにしろよな」
薄明かりの中でも伝う笑みの気配。
ぱしゃん、二人の足が波を揺らした刹那、ひときわ強い光を放った夜光虫と。
「ブレブレなのも味ってな」
ぱしゃり、波音に紛れたシャッター音。
切り取られた一瞬はきっとどこまでも青くて、それから――。
満天のおほしさまと、海に舞う夜光虫。
世界を彩る青いひかりに目を細めた春乃はくるりと振り返ると、満面の笑みを咲かせて告げる。
「ねえ、フィーちゃん。今日からまた同じ歳ね!」
微笑む娘の傍へ駆け寄って、そっと腕を絡めるけれど。
「春乃さん?」
首を傾げるフィエルテの前で、気恥ずかしげに目を伏せる春乃――の視線の先には何か言いたげな翼猫の姿。
その眼差しに、意を決して顔を上げる。
「あのね、お誕生日おめでとう」
紡ぐ言葉は真っ直ぐに。大好きなおほしさまの傍で祝えたことを、一緒に居られる幸せを、めいっぱいの笑顔に変えて。
「大好きよ、フィーちゃん! これからも傍に居てね」
「私も――」
大好きですよと笑み綻ばせ、重ねた手をぎゅっと握り締めた。
ゆらゆらと泳ぐ青い星。サンダルを脱いで波を歩めば、夜光虫の青い光と波音に包まれる心地にエヴァンジェリンは目を細める。
「綺麗ね、レフィ」
素足で波を楽しむ様子を微笑ましく見守っていたレフィナードも、促す声に靴を脱いだ。
「ところで……ねえ、その左腕どうしたの?」
エヴァンジェリンの瞳は、地獄の炎に包まれているレフィナードの腕へ。
「ああ、これは……」
かつての主君との二度目の永遠の別れの折に、花の代わりに手向けたのだと――いつかの奇跡の物語をレフィナードは穏やかに語る。
――戦いは終わった。
もう生きるために、明日を迎えるために、武器を取る必要はない。
「レフィはこれからどうするの?」
「そうですねぇ、知り合いの店で雇ってもらいましょうか」
「そっか……ふふ、それもいいわね」
冗談交じりに挙げられた共通の友人の名に、エヴァンジェリンは顔を出す理由が一つ増えると微笑むけれど。
「アタシは決めかねてる。戦うことはずっと好きじゃなかったけど、戦うことの無い世界を想像できずにいたの」
だからどうしようかな――と、夜光虫をどこかぼんやりと見つめる友へ、レフィナードは穏やかに告げた。
「それこそ道は無限だと思いますよ。私たちは、生きているのですから」
その言葉に、エヴァンジェリンは目の前が少し晴れたような気がした。
「そうね、生きてる。……時間はある、わね」
決めかねた未来はまだ見つからないけれど、今は――。
友と歩むこの海と優しい光に、もう少しだけ浸っていたい。
青く光る波打ち際を、引き摺るような重い足取りで歩む影がひとつ。
ロコの空っぽの胸はただ似た色の炎を揺らすだで、海と空の光を映す瞳も焦点すら定まらぬよう。
「――エピカさん、エピカさん」
不意に届いた声にぼんやりと振り向けば、橄欖石の光が勢いを落とさぬまま飛び込んでくる。
衝撃に思わず膝をつくロコに慌てる気配。
だが、それ以上に。
「ひとりで何してるんですか」
降ってきた声は、震えていた。
綺麗な海が見られると聞き、ホリィが訪れたのはほんの気紛れで偶然。
――なのに、海を彩る青い光と満天の星の間に彼の炎を見つけてしまったから。
追いかけずには、いられなかった。
「あなたはひとりじゃ駄目なのに」
「うん」
「わたしじゃ駄目だと諦めたのに」
「……うん、そうだね」
「会う度ぼろぼろじゃないですか」
「――ごめんね」
泣きそうになるのを懸命に堪え、ホリィは溢れる想いを言葉に変える。
濡れた衣服に纏わり付いた夜光虫を海に帰してやりながら、ロコはただ静かに微笑んで受け止める。
いつしか、煌めく海と空の間を並んで歩いていた。
言葉はなくただ寄り添って。この刹那を、美しいひかりを、心に焼き付けるように。
やがて空が白み始めた頃、ロコはそっとホリィの背を押すようにもう一度微笑んだ。
ほんの少し歪んだ、精一杯の笑みを返したホリィは、そのままロコをひとり残して翼を広げ。
ロコはその場に佇んだまま、空へと発ったホリィの姿が消えるまで見送って――それから何処へともなく歩いていく。
雲に紛れた涙の行方は誰も知ることはなく。
砂浜に残っていた足跡も、いつしか波が攫っていった。
波音だけの静かな世界に揺れる、幻想的な青い光。
「海には青く光る生き物が多いのですね」
微笑む志苑に、傍らに立つ蓮もああと頷く。
以前、共に見たのは海蛍だった。
あの時はまだ、こうして彼の隣に立つ未来など有り得ないと思っていたけれど、今は穏やかな心地で、志苑は美しい青を見つめていた。
そんな彼女と青い海を見ながら蓮もまたこれからに想いを馳せて――そうして。
「なあ、あんたは卒業したらどうするんだ?」
何気なく零した問いに、志苑は瞬いた。
予め定められていた未来ではなく、己の意思で歩む道を決める。
そんな日が現実として訪れたことが改めて感慨深くもあり、やはり何らかの職に就いて自立するのだろうか――と、何とはなしに考えた志苑だったが。
「もし良かったら……うちへ来ないか」
そこで蓮から告げられた提案に、一瞬面食らったような顔をした。
志苑の隣を歩ける、それだけでも嬉しいと蓮は思っていた。
だが、一度は諦めようとさえした想いが叶ったその先を、もっとと望む自分がいることもわかっていた。
――絶対に、離したくない。
それは志苑と出逢うことがなければきっと、知ることがなかった感情で。
随分と我儘で強欲になったものだと、蓮は心の中で自嘲する。
繋ぐ手も寄り添う距離も、ごく自然に。
蓮の指先が、志苑の薬指に光る銀環を焦がれるようになぞる。
今はまだ。けれど、そう遠くはない未来。
志苑の答えは、とうに決まっていた。
(「――私は、」)
これからも、彼と未来を歩んでゆきたい。
微笑んで頷いた志苑を抱き締めて、蓮はそっと額に口付けを落とす。
蒼い煌めきが満ちる中、二つの影が解けるように重なり合った。
波間に浮かぶ青蛍の光は魂のようで、大切な人を見送った海の記憶が蘇る。
シズネの瞼に浮かぶのは小さな人影と、掛け替えのない笑顔。
その風景に、彼女の隣に己がいないのは、過去を超えた先の未来で見たい彩があったから。
――独りじゃなかったから。
揺蕩う青光の眩さに瞳を閉じたラウルの瞼の裏には、月彩の愛しい人の姿。
そして、黄昏の――。
「シズネ」
ラウルは静かに彼の名を紡ぎ、黄昏の瞳と視線を重ねる。
幸せにと、月彩纏う彼女は言った。
想いが消えることは永遠にないけれど、愛し愛された温もりは今もこの胸に在るから。
だから――もう面影に縋ることはせずに、前を、未来を見つめて。
告げることが怖くて幾度も心の奥底に沈めたこの感情の名を、言葉を、ラウルは確りと音にする。
「――大好きだよ、愛してる」
刹那、シズネは勢いのままにラウルを抱き締めた。
これまでずっと心に抱いてきた、きらきらした感情。
シズネは今この瞬間に、それが、彼が抱く想いと同じものだったのだと理解した。
「君に逢える明日があるなら、他に何も要らない。最期の瞬間まで傍に居たい」
――これが心からの願いだと告げた刹那、指先にまで満ちる温もりがあった。
「オレも、愛してる。ラウルと生きる明日が欲しい」
想いを確かめるように額を重ね、高鳴り続ける心臓の鼓動が叫ぶままにシズネも告げる。
蕾が花開いたように胸の裡に満ちて溢れて止まぬ想いに、漸く知った、たったひとつの名をつけて。
「最後の瞬間までオレが迷わないように、……おめぇの願い、叶えてもいいか?」
耳朶を擽る柔らかな声に、ラウルは幸せの笑みを咲かせて頷いた。
「……願い、叶えてくれて有難う。俺は、」
――君だけの導星になるよ。
作者:小鳥遊彩羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年7月20日
難度:易しい
参加:22人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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