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「七夕の季節の魔法の影響で、宿敵主に引き寄せられた宿敵が出現することがわかりました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
出現する宿敵は宿敵主の数だけいる。つまりは複数の宿敵が現れる可能性があるのだった。
これは複数の宿敵をたおす機会である。同時に危険な情況でもあった。
通常、単対単で宿敵に勝つのは困難である。宿敵は、それほど強力な敵であるからだ。下手をすると同数の敵と戦わねばならない危険があった。
けれど、とセリカはいった。
「勝ち目がないわけではありません。デウスエクスはいきなりケルベロスの前に転移させられます。きっと彼らは状況が判らなくて混乱するでしょう。そこに勝機があります」
そう告げると、セリカは戦場と敵について説明を始めた。
「戦場は七夕祭りが行われている付近。戦闘しやすい開けた場所となります。周囲の避難は済んでいるので、一般人が紛れ込むことはありません。戦闘開始は七月七日の夜二十二十時から二十四人時頃です」
作戦チームには四人の宿敵主が参加することが決まっていた。それは、すなわち四体の宿敵が現れることを意味している。
「自分以外に三体のデウスエクスが同じ戦場にやってくる為、更に彼らは混乱するに違いありません。その点を利用すれば強敵であっても勝てるはず。貴重な機会です。宿敵主さんの宿敵を撃破してください」
「面白そうね」
豊満な肉体をわずかな布切れで包んだ美女が凄艶に微笑んだ。和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)である。香蓮はいった。
「わたしも行くわ」
●
その刻は突然訪れた。
現れた異形。数は四つあった。
一体は異形と呼ぶにはあまりにも神々しい姿をしていた。真紅の目時と白銀の体躯。ドラゴンであった。
二体めはダモクレスである。機関砲の腕と一輪バイクの下半身を有していた。
三体めは女神を思わせる玲瓏たる女であった。天使のもののごとき輪を頭上にいただいている。
そして、四体め。可憐な姿の持ち主であった。無論、人間ではない。死神であった。
「これは、どうしたことだ?」
白銀のドラゴンーー零は戸惑ったように辺りを見回した。そして三体のデウスエキナを見いだした。
「貴様たちの仕業か?」
「わたしは知らないわ」
女ーー天使病が首を横に振った。他のデウスエキナーーマッドキャリバーと偽ヴァルキュリアOrange-304改も同様である。
何が起こったのか、誰もわからないようであった。が、ひとつだけわかっていることがある。他のデウスエキナは誰も信用できないということであった。
その時だ。すう、と四体のデウスエキナの身から凄絶の殺気がにじみ出た。
参加者 | |
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相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889) |
伏見・万(万獣の檻・e02075) |
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506) |
烏羽・光咲(声と言葉のエトランジェント・e04614) |
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077) |
ジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757) |
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937) |
山元・橙羽(夕陽の騎士妖精・e83754) |
●
突如顕現した異形は四。デウスエクスである。
それを見下ろす影は十あった。こちらはケルベロスである。
「やれやれ」
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)が苦笑した。デウスエクス出現場所を探知したのはゴッドサイト・デバイスを装備した彼女である。
「宿敵のお中元ギフトみたいによりどりみどり……って奴だね。かわいくラッピングと言いたいけど……残念ながら、ラッピングは別料金なんだ。まあ、血化粧ならサービスでつけておくよ。もちろん、キミ達の自前になるけどね」
「おうおう、デウスエクス様がよりどりみどりじゃねぇかぁ…あぁ?」
子供と見まがう短躯で華奢な男がニヤリとした。
ドワーフの医師。ジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757)である。
ジンは女神を思わせるデウスエクスを見据えた。
「いたなぁ、くそったれの天使様…てめぇにかかって俺様は一時期天使みたいな言動、それから屋上から飛び降りて重傷になったんだったなぁ…覚悟しとけよぉ…」
「気持ちはわかるけれど、作戦は忘れないでね」
烏羽・光咲(声と言葉のエトランジェント・e04614)が自制を促した。作戦では最初に撃破を狙うのは偽ヴァルキュリアOrange-304改となっている。
「わかっている」
ジンは答えた。が、血の奔騰はどうしようもない。
「僕に似たヴァルキュリア風の子」
可愛らしい顔立ちの少年が偽ヴァルキュリアOrange-304改を見つめた。
山元・橙羽(夕陽の騎士妖精・e83754)。タイタニアである彼がのは偽ヴァルキュリアOrange-304改の宿敵主であった。
「本当は説得して仲間に出来ればいいのですが、死神という事はもう定命化しない…。こうなれば僕達に出来る事は一つ。死してなお利用される苦しみを、早く終わらせるだけ」
橙羽は覚悟を口にした。それがせめてもの情けであると思うから。
同時に橙羽は戦略についても考えをめぐらせた。
「四体が連携すればするほど勝ち目が無くなる。どうにか仲たがい出来ないでしょうか…」
妙案はない。ともかく接触テレパスによる説得を行うつもりであった。
「リィン」
光咲が、シュシュで目がさめるほど鮮やかな蒼髪をポニーテールに結った女ーーリィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)を見やった。
その光咲の深海色の瞳は告げている。戦闘は任せた、と。
わかっている、とリィンはうなずいた。そして、リィンは光咲の手にある羽に気づいた。
地獄の業火をまとわせた羽。それは光咲の左の翼から引き抜いたものであり、戦いの成功を祈るためのものであることをリィンは知っていた。
「宿縁の糸がまだ繋がってるとはな。なれば、ここで全ての糸を断ち切って次に進むのみ!」
「そういうことだな」
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)の鋭い目がぎらりと光った。
「わざわざ呼び出しといて悪ぃんだけどもよ、今更暴れられても困る訳さ。片付けさせてもらうぜ」
竜人はいった。その言葉が戦端を開く。
九田葉・礼(心の律動・e87556)を含めたケルベロスたちは一斉に襲った。標的はOrange-304改である。
その攻撃はほぼ奇襲といってよかった。ケルベロスたちの目論見通り、混乱しているOrange-304改は対処できない。
「ほう」
笑いを含んだ声が轟雷のごとく響いた。
●
「万ではないか。まさか、貴様がここにいるとはな」
白銀のドラゴンがいった。零である。
すると万と呼ばれた黒狼のウェアライダーの男ーー伏見・万(万獣の檻・e02075)は獰猛に笑った。零は万の宿敵である。
「驚いたかよ、零」
万は己の胸を叩いてみせた。彼の肉体にはイツという名のドラゴンが封じられている。封じたのは零であり、零はイツの兄であった。
「喰いてェんだろ? まさかドラゴン様が、獲物を仕留めンのに、皆様にご協力頂いて…なんて、こすい事は言わねェよなァ」
万はいった。零を煽り、デウスエクス同士の連携を阻止するためである。その計に、零はまんまとはまった。
「ふふん。当然だ。この俺が、貴様ごときを狩るのに他者の手など借りるわけがない」
そう零がいった時だ。
突如、銃声が鳴り響いた。弾丸の嵐がケルベロスを襲う。
咄嗟にレフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)とテレビウム、シャーマンズゴーストーートーリが前衛のケルベロスを庇った。彼らの身体がズタズタに引き裂かれる。ガトリングガンを斉射したのはマッドキャリバーであった。
「貴様!」
零がマッドキャリバーを睨みつけた。
「万は俺の獲物だ。手出しは許さん!」
「オ前ノ指図ハ受ケン。俺ハ、俺ノ宿敵ヲ殺スノダ」
「そうだ!」
叫び、Orange-304改が巨剣を横ざまに薙ぎはらった。生み出された剣風が万を庇った竜人とリィンを切り裂く。香蓮はこの時後衛に位置していた。
「ええい、どいつもこいつも……勝手にしろ!」
怒号を発すると、飛行状態にある零は爪を繰り出した。万の身がざっくりと引き裂かれる。他のデウスエクスにやられる前に万の始末をつけるつもりなのであった。
光咲とボクスドラゴンーーワカクサ、さらには香蓮が治癒を施した。が、完治にはほど遠い。
「早くたおさなければ回復が追いつかなくなるわ!」
香蓮が叫んだ。
すると、再びケルベロスたちが攻撃を加えた。標的はOrange-304改である。が、まだ倒すには至らない。
対するデウスエクスの攻撃。
テレビウムとトーリが戦闘不能状態に追いやられた。レフィナードは瀕死、竜人と万とリィンは半死の状態だ。姶玖亜が引きつけようとしたのだが、デウスエクスは個よりも多への攻撃を選んでいた。
ワカクサが万に属性インストール。光咲は生命の賛歌を口ずさんだ。竜人とリィンの体力がわずかではあるが回復力する。さらに竜人が気を飛ばした。
「次で決めるよ!」
叫んだのは濡れたように艶やかな黒髪と透き通るほど鮮やかな青瞳の少女であった。十六歳であるのだが、綺麗な顔だちのせいか大人びて見える。
少女ーークロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)は宿敵であるマッドキャリバーに目をむけた。
「ライドキャリバーは、人とともにあってこそ真の力を発揮できるんだ! 人を乗せるシートも無いお前になんて負けない!」
宣言するなり、クロウはレイヴンシューターでOrange-304改をポイント、撃った。
●
唸り飛ぶ魔法光がOrange-304改を貫く。
Orange-304改の手から巨剣が落ちた。好機と見て取ったリィンが音速を超える速さの拳撃をOrange-304改にぶち込んだ。
よろめくOrange-304改。その目から流るるのは血涙であった。解けぬ洗脳に魂が慟哭しているのである。
「可哀想だけれど、見逃すわけにはいかないんだ。踊ってもらうよ」
姶玖亜の手のフォーリングスターか火を噴いた。怒涛のように吐き出された銃弾がOrange-304改の足を襲う。たまらずOrange-304改が後退った。
追ったのはジンである。獣のごとく吼えるチェーンソー剣でOrange-304改を切り刻んだ。
後、数撃。
そう読んだ万が攻撃した。破邪の聖拳を叩き込む。Orange-304改の呪的防護ごと骨肉を粉砕する。
が、まだだ。まだ、足りない。
回復か攻撃か。一瞬の迷いを振り払い、竜人は攻撃を選択した。竜人の手が視認不可能な速度でパズルを操作する。
カチリ。
パズルが開き、稲妻が竜の形をとって放たれた。
「今だ、やれ、山元!」
稲妻に撃たれて動けぬOrange-304改を見据え、竜人が叫んだ。
「わかりました」
橙羽はうなずいた。
本当は殺したくない。が、テレパスでの説得は効を奏さなかった。ならばーー。
もしかすると血のつながりがあるかもしれない宿敵に対し、橙羽は手を差し出した。ブラックスライムから槍のごときものが噴出、Orange-304改を貫いた。
もう、これで洗脳からは解き放たれたのだろう。亡びる寸前、Orange-304改の血涙がとまった、ように橙羽には見えた。
●
感慨に浸る間もなく、デウスエクスの攻撃が来た。万を庇ったレフィナードが戦線から離脱する。
「させるかよ」
竜人から血がしぶいた。零の爪から万を守ったのである。
のみか、竜人は攻撃した。彼の放った雷竜が零を灼く。
「待たせたな、零。遊んでやるよ」
万がニヤリとした。その手は一瞬でパズルを解いている。
謎、解析完了。解き放たれた膨大な力は血と殺戮の戦神カーリーの姿をとり、零に襲いかかった。容赦なく竜身を切り裂く。
続くケルベロスの攻撃と回復。無論、零はまだ倒せない。
そしてマッドキャリバーの攻撃ーーだけではない。天使病が毒液を降らせた。とうとう四体めのデウスエクスが戦いに加わったのだ。
「……どうやら俺はここまでのようだ」
竜人が血笑を顔にうかべた。万を最期まで庇い続けた男の快笑である。
昏倒した竜人が光咲のドローンで運ばれるのを見送り、そして後、万は零を見やった。毒液と零の攻撃を受け、彼は満身創痍となっている。
「仲間が命がけでくれた機会だ。一発くれてやるぜ」
己を構成する獣の幻影を、己の奥に潜む黒き禍竜の頭部を模して万は練り上げた。規格外の熱量に空間が悲鳴をあげる。
「喰い千切れ、飲み込め、塗り潰せ!」
万は禍竜を解き放った。禍々しい巨大な顎が零に食らいつき、引き裂く。が、まだ零は倒せない。
続くケルベロスの攻撃と回復。それでもまだーー。
マッドキャリバーと天使病の攻撃の後、零はニンマリと笑った。
「先ほどの業、効いたぞ。さすがの俺も危なかった。が、それもここまでだ」
零の爪が閃いた。万の気力体力を根こそぎ削りとっていく。
「くっ。無念」
悔しそうに呻き、万が喪神した。するとリィンが叫んだ。
「いくぞ。伏見に成り代わり、彼の宿縁の糸を、我らの手で断ち切るんだ!」
鎖から解き放たれた猟犬のようにケルベロスたちが零鉈に襲いかかった。そして、リィンも。
「伏見、貴様の無念、我々が晴らす!」
スピーディな音楽を波のように乗りこなし、白銀の巨躯に肉薄、リィンは怒涛のように拳撃と蹴撃を放った。超音速でふるわれる手足はもはやデウスエクスですら視認不可能だ。たた氷片のみが攻撃の軌跡であった。
「ええい、小癪な番ーー」
零の声が途切れた。その目は己をつらぬいている氷の巨剣を信じられぬもののように見おろしている。
「ば、馬鹿な」
「終わりだ」
氷の巨剣を引き抜きざま、リィンは跳び退った。
●
最強の敵であるドラゴンをケルベロスたちは倒した。
早期に成し遂げたことは僥倖といえる。が、まだ敵は二体残っていた。
マッドキャリバーのガトリング砲がマズルフラッシュを閃かせた。銃弾の奔流がケルベロスを襲う。
肉体が引き裂かれた。リィンのーーいや、香蓮の。
「今度は私が盾になるわ」
香蓮がニヤリとした。ケルベロスたちがうなずく。
彼らの目にやどるのは決死の光であった。倒れていった仲間のため、ここでひくわけにはいかなかった。
繰り返される攻防。ついには香蓮も倒れた。が、まだマッドキャリバーは倒れない。
「ええい、まだか」
焦るリィンの目が光った。
座標軸固定。凝縮された思念をリィンは解放した。
次の瞬間だ。マッドキャリバーが爆発した。リィンは思念のみにて標的を爆破することができるのだった。がーー。
デウスエクスの攻撃。リィンががくりと膝をついた。
「ーーがんばれ、みんな」
リィンが倒れた。唇を噛んで光咲がドローンでリィンを運ぶ。
「ああ、がんばるよ」
一秒のさらに十分の一秒。異次元の早撃ちで姶玖亜のフォーリングスターが火を噴いた。撃ち出された弾丸がマッドキャリバーを貫く。
「僕もがんばります!」
橙羽の手から粘塊が噴出した。空で形態固定、巨大な顎門と変じてマッドキャリバーに食らいついた。
「おい、リトルラウンド」
ジンがちらりとクロウを見やった。
「やるぜ。きめろよ」
ジンの手から漆黒の鎖がほとばしり出た。弾丸を超える速さで空を裂いて疾ったそれは、まるで意思あるかのようにマッドキャリバーに巻きついた。
「つかまえたぜ。やれ、リトルラウンド!」
「わかったよ!」
クロウはマッドキャリバーを見据えた。
マッドキャリバーは彼女の母が作ったものである。いわばクロウとは姉弟ともいえる存在であった。
「俺ハ憎イ! 俺ヲ捨テテウイングキャットヤオルトロスニ鞍替エシタ人間ガ!」
マッドキャリバーが怒鳴った。哀しげにクロウは唇を噛むと、胸部を開く。現れたのは砲口であった。
「わかるよ、その哀しみ。でも、だからって誰かを傷つけていいはずない。その怒りと憎悪ごと、マッドキャリバー、あなたを葬ってあげる。さようなら、マッドキャリバー。くらえ、熱線! ワカクサ・ランチャーッ!」
クロウが叫んだ。
ワカクサが増幅装置として合体しており、より高圧高密度の破壊光線噴出。空を灼きながら疾ったそれは、逃げもかわしもならぬマッドキャリバーを飲み込んだ。
「モウ一度、全力デ走ッテミタカッタナ……」
消滅する前、確かにマッドキャリバーはそうつぶやいた。
●
「……とうとうお前だけになったぜ」
ジンが挑戦的に笑いかけた。天使病がニンマリと笑みを返す。
「そんなボロボロの状態でわたしに勝てるのかしら?」
天使病が毒液を降らせた。どす黒い薬液がケルベロスたちを腐食する。
「勝てます!」
橙羽が脚を跳ね上げた。蹴り放たれた闘気が流星と化して天使病に撃ち込まれる。がーー。
天使病はするりとかわした。そうと見てとったクロウが砲撃形態のハンマーでポイント、撃つ。竜弾の直撃を受けて、天使病が吹き飛んだ。
さらなるケルベロスの攻撃。無論、礼も加わっている。
「ふふふ。こんなものではわたしは倒せない」
嘲笑う天使病はまたもや毒液を降らせた。橙羽と礼が倒れる。
去りゆく二人の声はないが、ジンは背で感じていた。彼らの激励の叫びを。
こたえるようにジンは攻撃した。クロウもまた。光咲と姶玖亜は回復だ。
「さすがにしぶといわね。なら、これは、どう?」
天使病の繊手が舞った。魔法的外科手術を破壊に転用。ジンを切り刻んだ。
「もう動けないでしょ」
「いいや」
血笑を浮かべ、ジンは立った。宿敵を前に、膝を屈することはできなかった。
ジンに攻撃の機会を与えるため。クロウが襲撃した。
一瞬生じた隙。ねじ込むようにジンが瞬く間に肉薄した。
「くそったれの天使だったが、俺様が医者になったのはてめぇがいたからだ…そこは感謝しとくぜぇ」
お返しとばかりに、今度はジンのナイフが閃いた。煌めく銀光が赤く染まる。芸術的な鮮やかさで舞う刃は無惨に天使病を切り裂いていた。
光咲と姶玖亜はジンの治癒だ。がーー。
「たいしたナイフさばきね。医師にしておくのは惜しいわ」
嘲笑というより、むしろ憫笑をうかべ、天使病は必殺のメスをふるった。ジンの意識が消し飛ぶ。
「やったわね!」
光咲が叫んだ。抑圧を解き放ち、彼女の魂は戦場を翔けている。
倒れていった仲間のためにーー何よりジンのために光咲は矢を放った。地獄の業火をまとわせた矢は破滅の炎の尾をひいて。貫かれた天使病が消えぬ炎に包まれる。
クロウが放ったのは冷凍光線であった。
絶対零度。神ですら生きることを許さぬ温度である。直撃された天使病が瞬時に凍りついた。高温と低温に天使病の身体的がひび割れる。
「さあ、さよならだ。おやすみ」
姶玖亜のフォーリングスターが咆哮した。
●
戦いは終わり、多くの仲間が倒れた。
が、ケルベロスは勝った。つよい思いと願いが、圧倒的不利な状況をはねかえし、強敵を撃ち破ったのである。
「戦う必要がなくなってもケルベロスの力が必要とされるのならば、私のこの炎も消えずに燃え続けるのだろう。これからの未来の世界のために」
地獄の業火を纏った左翼を見つめながら、光咲は静かに、しかししっかりとした声音でいった。クロウと姶玖亜がうなずく。
誰もが夢見た平和な世界。ケルベロスが開いた未来は、もうそこまで来ていた。
作者:紫村雪乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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