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東京都町田市のとある閑静な住宅街。そこに面した公園は上空より飛来した3体のヴァルキュリア達によって混乱の坩堝と化した。
「逃げろぉぉぉ!」
「きゃあああ!」
逃げ惑う人々を他所に、ヴァルキュリア達が己が武器を構え、虐殺を開始せんと動き出す。逃げ遅れた人々が1人、また1人と彼女達の凶刃に倒れていった。その中に、
「だうー、あー」
幼子が1人、周囲の異変を察知できずによちよちとヴァルキュリアの前に歩み出た。
「ユウ君!?」
弟の行動に気付いた年端もいかぬ少女が慌てて幼子を抱き止める。そのまま連れて逃げ出そうとするが恐怖に足を竦ませたのか、少女は幼子を抱き締めるだけで精一杯だった。
「あ……あ……」
「あぅ?」
悲鳴を上げることもできずに震える少女と無邪気に手を伸ばす幼子。その伸ばされた手の先にはヴァルキュリア。
「…………」
ヴァルキュリアが無言でゆっくりと槍を構える。見上げてくる幼子の目を真っ直ぐ見下ろし、その目に赤い血の涙を溢れさせて。
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「緊急事態です」
城ヶ島のドラゴン勢力との戦いも佳境に入る中、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったケルベロス達に向けて、緊張した面持ちで話し始めた。
「エインへリアルに大きな動きがありました。鎌倉防衛戦で失脚した第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球侵攻を開始しました」
ざわめくケルベロス達にセリカが続ける。
「そのエインへリアルはザイフリート配下であったヴァルキュリアをなんらかの方法で強制的に従え、魔空回廊を利用して一般人達を虐殺し、グラビティ・チェインを得ようと画策しています」
セリカが用意した地図をホワイトボードに貼り付ける。
「こちらのチームには東京都町田市に向かって頂きます」
地図には幾つものポイントがマーキングされており、その中の1つを彼女は指し示した。
「ヴァルキュリアを従えている敵は妖精八種族の1つ、シャイターン。今回の作戦は都市内部で暴れるヴァルキュリアに対処しつつ、シャイターンを撃破する必要があります」
まずは、と前置きした上でセリカが説明を始める。
「敵は住宅街に面した公園へ飛来した3体のヴァルキュリアです」
収まりかけていたざわめきがまた大きくなる。1体でさえ簡単な相手ではない。それが3体である。
セリカは今度はざわめきが落ち着くまで待った。
「ヴァルキュリアは住民を虐殺して、グラビティ・チェインを奪おうとしていますが、邪魔する者が出た場合、その邪魔者の排除を優先して行うように命令されています」
つまり、ケルベロスが戦いを挑めばヴァルキュリアが住民を襲うことはない。
「ヴァルキュリアは……」
セリカが一度言葉を切った。少し言い淀んでから、続ける。
「都市内部にシャイターンがいる限り、ヴァルキュリアの洗脳は強固で、なんの迷いもなくケルベロスを殺しにくるでしょう。シャイターン撃破に向かったケルベロスがシャイターンを撃破した後であれば、なんらかの隙が生まれる可能性はありますが……」
確かなことは言えません、と彼女は肩を落とした。それでも、とセリカが顔を上げる。
「ここでケルベロスが敗北すれば、ヴァルキュリアに住民を虐殺されてしまいます。それだけはなんとしても避けなければなりません」
例え同情の余地があったとしても。
「公園に飛来するヴァルキュリアは槍を持つ者が1体、ゾディアックソードを持つ者が2体。それぞれが三種類のグラビティを使用してきます。状況によっては更にもう1体のヴァルキュリアが援軍としてやってくる場合もあるので注意して下さい」
セリカが最後に付け加える。
「どういった状況であるにせよ、悪事を働くのであれば黙って見過ごすわけにはいきません。ヴァルキュリアの凶行を阻止してください」
よろしくお願いします、と彼女は深々と頭を下げた。
参加者 | |
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フィーア・フリート(レプリカントのウィッチドクター・e00315) |
広井・世界(井の中のイタチ世界を廻る・e00603) |
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664) |
森光・緋織(薄明の星・e05336) |
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703) |
ガルフ・ウォールド(でかい犬・e16297) |
鳳・都(瑠璃の鳥・e17471) |
鋼・五六五六衛門(通信教育なんちゃって剣術使い・e17520) |
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上空より舞い降りた戦乙女達に公園内は騒然となった。
「逃げろぉぉぉ!」
「きゃあああ!」
慌てて逃げ出そうとする人々。武器を手にその後を追おうと動き出すヴァルキュリア達。そこへ、
「ん。させないの!」
人々の頭上を飛び越えて公園に突入したフォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)が空中で左手を掲げた。球状の気咬弾を作り出すと同時に、彼女の体がエイティーンで見る間に18歳の姿へと変わっていく。幼い体が大人びたラインへ。
弓なりに体をそらせたフォンは作り出した気咬弾を右手のバトルガントレットで勢いよく殴りつけて逃げる人々とヴァルキュリアの間に叩き込んだ。警戒したヴァルキュリア達が闖入者に退く。その隙にケルベロス達が公園へと雪崩れ込んだ。
「今のうちに、こちらへ」
混乱し、逃げ惑う人々を鳳・都(瑠璃の鳥・e17471)のラブフェロモンが優しく包み込んでいく。
「さぁ……」
艶のある都の声に誘われて、頬を赤らめた一般人が1人、また1人と誘導に従い、公園から避難し始めた。その様子を見守る都の足にいきなり何者かがしがみつく。
「きゃっ」
小さく悲鳴を上げて、足元を見ると予知された中に出てきた男の子が都の足にしがみついて見上げてきていた。
「あう?」
「ユウ君?」
首を傾げる幼児に気付いた姉の少女もこちらへやってくる。まだどこか、少し頼りなげな歩みを見せる少女にしゃがみ込んだガルフ・ウォールド(でかい犬・e16297)がその大きな手を少女とユウ君の頭に乗せた。
「……もう、大丈夫」
大きな体に優しい眼差しから放たれたアルティメットモードの励ましが少女の心に触れて勇気を取り戻していく。地にしっかり足をつけた少女は弟の手を取り、二人の誘導に従って公園の外へと歩き出した。
「それにしても……」
避難する人々を見守っていたガルフが視線をヴァルキュリア達に向ける。そこには一緒に公園へ突入した仲間達がヴァルキュリア達の行く手を遮っていた。
「よく知らない相手だけど、早く正気に戻してやりたい」
望まないのに無理やり戦わされる時の辛さを知る彼にとってそれは耐え難いことで。何かを感じ取った都は静かに頷いた。
「命を奪わずに済む方法があればそれが一番だよね」
それが如何に困難なことであっても。ならば、と都は口を開いた。
「救える方法があるなら試してみるのも悪くないさ」
「……ああ」
立ち上がるガルフが頷いて、戦闘体制へと移行していく。
一方、ヴァルキュリア達の注意を引き付けていた広井・世界(井の中のイタチ世界を廻る・e00603)は瞬時に周辺の状況を確認した。援軍の可能性を考慮して、視界の開けたところで戦いたいという思惑があったからだ。都合よくこの公園には遮蔽物となる背の高い木々は存在しない。
世界から視線を受けたフィーア・フリート(レプリカントのウィッチドクター・e00315)が静かに頷いた。
「強制的……というのはどうにも好かないでありますな」
目の前で無感情に武器を構えるヴァルキュリア。いや、彼女らの流す血の涙が感情の全てを表現しているというのなら、こんなに酷い話は無い。
「当機は自由の民出身故、どうしても助けなければならないのですよ」
「へぇ……」
感心する世界。
「いったい、いつから?」
「つい、今しがた」
「は?」
フィーアの発言に思わず顔を引きつらせて疑問符を浮かべる世界。よく分からない後付設定にボクスドラゴンのディアとクルルが並んで同じように首を傾げた。
そんなやり取りの間にも、ヴァルキュリア達はこちらを邪魔者と認識し、武器をケルベロス達に向けてくる。
あらかた一般人の避難が完了したことを確認して新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)が手にした魔導書を開いた。
「よろしい。これ以上はさせん」
「ここから先は通行止めでござる」
肩を並べた鋼・五六五六衛門(通信教育なんちゃって剣術使い・e17520)が腰に帯びた日本刀をすらりと引き抜く。
「オレはケルベロスだから、相手にどんな事情があれ、地球を守る為に戦う……でも」
戦闘に対する恐怖感に押されながら、森光・緋織(薄明の星・e05336)がぎゅっ、と拳を固めた。
「こういうのを見るのは、何かやっぱり腹が立つよ」
そんな恐怖を凌駕する彼の怒りに呼応するかのように緋織の左目が赤く光る。ヴァルキュリアの無念からなる朱の涙を写し取ったかのように。
「……動かないで」
緋織の夢現の瞳が引き金となって、双方弾かれたように戦闘を開始した。
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「障りを除く壁となれ」
恭平が前衛に向けてライトニングウォールを展開する脇を抜けてフォンが星拳【ミアプラキドゥス】を腰溜めに構えてヴァルキュリアに肉薄する。狙うは槍を携えた黒髪のヴァルキュリア。
「ん。止めるの!」
突き出された指天殺をヴァルキュリアが槍で逸らす。避け切れなかった攻撃がヴァルキュリアの脇を掠めた。
「ガルルル……!!!」
飛び込んできたガルフの敵意を集めた唸り声が前衛のヴァルキュリアを撃つ。注意を向けた黒髪のヴァルキュリアが携えた槍で強烈な突きを繰り出した。
「……!」
体を捻ったガルフの腕を掠めて剛槍が突き抜ける。
「まずは動き、止めさせてもらうぜ!」
世界が構えた御霊殲滅砲が盾になる黒髪のヴァルキュリアを2度捉えた。その脇を抜けて銀髪のヴァルキュリアがゾディアックソードを構えて突進してくる。山羊座の重力を宿した一撃をフォンに振りかざした。
「させぬでござる!」
間に入った五六五六衛門が日本刀でゾディアックソードを受け止める。押し込まれた分肩を裂かれたが、そのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。有らん限りの力を込めるヴァルキュリアに対して五六五六衛門が日本刀を逸らして相手の体を崩した。がら空きになった背後に回り込み、日本刀を容赦なく叩き込む。
「ふっ……! 案ずるな、峰打ちでござる」
どう見ても案じれないような一撃にドヤ顔を浮かべる五六五六衛門。それにイラついたわけではないのだろうが、金髪のヴァルキュリアが遠方から剣に宿した守護星座のオーラを前衛に向かって撃ち放った。羊のオーラが冷気を伴ってケルベロス達の前衛に襲い掛かる。
「ん。クルル、お願いなの!」
「ディア!」
スナイパーの警戒をしていたクルルとディアが主と仲間達の前に立ちはだかって正面から羊のオーラを受け止めた。その隙に回転弾倉式グレネードランチャーを二丁構えた都が黒髪のヴァルキュリアに照準を合わせる。
「火力調節はきかないんだ、残念ながらね」
御業を纏った愛銃から撃ち放たれた熾炎業炎砲が敵を炎に包み込んだ。動きを止められ炎を放たれ、封じこめられていく黒髪のヴァルキュリアにフィーアが飛び込んだ。二本のライトニングロッドを叩きつけ、膨大な雷を相手に流し込んでいく。
「これも何かの縁、助けられれば……とは思うのであります」
荒れ狂う雷を冷静に見届けるフィーア。
「こんな事、やりたい訳じゃないんでしょう?」
緋織が精神操作で伸ばした鎖で黒髪のヴァルキュリアを締め上げる。
「オレ達は君達を止めたいんだ……だから」
少しの間、辛抱していて、と緋織が心の中で願う。
ケルベロス達が掲げたのは不殺。操られ、血の涙を流すヴァルキュリアを救出する道。しかし容易なことではない。この後、来るかもしれない援軍も視野に入れなければならない。一進一退を繰り返し、攻防はさらに白熱していく。
●
黒髪のヴァルキュリアが髪を振り乱し、強烈な突進で前衛をなぎ倒していく。
「きゃあ!」
「下がって」
フォンを庇ったガルフの脇を槍が突き抜けて血が宙を舞った。
「ガウ!」
膝をついたガルフが引き戻される前の槍を絡め取る。その肩を支えに体を浮かせたフォンが大きく回した足でヴァルキュリアの急所を蹴りつけた。
よろめくヴァルキュリアを立て続けにガルフが引き寄せる。
「ガルルル!」
立ち上がり際にジェットエンジンで急加速したガルフの一撃が黒髪のヴァルキュリアを大きく弾き飛ばした。
「追撃するぞ! ディア!」
二人の前に飛び出した世界が己のボクスドラゴンの名を呼ぶ。掲げたファミリアロッドから燃え盛る火の玉を放ち、黒髪と銀髪のヴァルキュリアの間で爆破させた。その沸き立つ煙を突き抜けるようにディアのボクスブレスが黒髪のヴァルキュリアを捉える。
傷つき、今にも崩れ落ちそうなヴァルキュリアを金髪のヴァルキュリアの守護星座の光が癒やしていく。
そうはさせないと都が愛銃を天に向けた。
「結構貴重な弾なんだ……避けずにしっかり当たってくれないかな」
上空に撃ち出された特殊グレネード弾が炸裂し、黒髪のヴァルキュリアを劇物の豪雨が襲う。攻撃を集中された黒髪のヴァルキュリアは満身創痍。だが、
「ん。後衛、危ないの!」
いち早く気づいたフォンが短く叫ぶ。銀髪のヴァルキュリアが冷気を帯びた山羊のオーラをケルベロス達の後衛に向けて撃ち放つ。
即座に間に入った五六五六衛門が後衛を庇って弾き飛ばされた。
「なっはっは、この程度なれば某、倒れはせぬでござるよ!」
満身創痍をペインキラーで誤魔化し、即座に立ち上がる。ダメージは双方かなり蓄積されていた。
「仲間の手術を開始するであります」
「ああ」
メディカルレインで後衛の治療するフィーアに合わせて恭平が腕を振る。
「癒やせ、慈愛の涙」
前衛に向けてメディカルレインを放つ、その視界の端に影を捉えて恭平が叫ぶ。
「五六五六衛門!」
飛び込んできた銀髪のヴァルキュリアが五六五六衛門に肉薄する。
(まずい、回復が……)
広域をカバーした為、回復が追いついていない。
「くっ!」
反応した五六五六衛門が受けにかかる。が、攻撃重視の相手に受け切れる可能性は低く。衝撃に備えて五六五六衛門が歯を食いしばる。
「負け、ないで……!」
「っ!?」
不意に響いた声と温もりに背中を押されて五六五六衛門が強烈な一撃を日本刀で受け切った。視界の端に手を伸ばす黒髪のヴァルキュリア。その瞳からは正しき透明の雫が頬を伝って零れ落ちていた。同時に届いた着信に五六五六衛門が片目を閉じる。それはシャイターンを討伐に向かった仲間からの報。コール回数を聞き取って五六五六衛門が口の端を吊り上げた。
「おおお! 通信教育流剣術!!」
吠えてヴァルキュリアを押し返す五六五六衛門の肩が盛り上がり、服が裂ける。
「マルチプルミサイル剣!!」
零距離から盛大にばら撒かれた剣(?)が相手の前衛を巻き込んで爆発した。余波で後方に飛ばされた五六五六衛門が体勢を立て直す。
「シャイターン討伐班から連絡があったでござる。討伐完了、援軍はないでござる!」
別班が上手くやったのだ。ならば後は目の前のヴァルキュリア達を救うのみ。ケルベロス達の表情に力が漲る。
「行くよ!」
緋織が疾走する。真っ直ぐ前だけを見て黒髪のヴァルキュリアの元へ。
「ん。クルル、援護なの!」
フォンの声にクルルがボクスブレスで黒髪のヴァルキュリアを撃つ。咄嗟に槍で防御を図るヴァルキュリアの懐へ緋織が滑り込んだ。
「もうシャイターンの思い通りになんかならないから、ゆっくりお休み……」
そう呟いて、緋織の当て身が黒髪のヴァルキュリアの鳩尾に突き刺さり、彼女の意識を刈り取った。
「よし、一気に畳み掛けるぜ!」
好機と見て世界が地を蹴る。疾走する世界の力に呼応するかのように空中を稲妻が走った。
「死にたくなければ避けやがれ!」
宙を舞い、真空波由来の稲妻が斬撃となって銀髪のヴァルキュリアを強襲する。
「シビれさせてやるよ!!」
振り抜かれた斬撃が銀髪のヴァルキュリアの傷跡を押し広げた。
「終わらせる!」
よろめくヴァルキュリアに、飛び込んだガルフが強烈な旋刃脚を叩き込む。さらに死角へ回り込んだ五六五六衛門が日本刀を振り上げ、そのまま峰を叩き込んだ。
「安心されよ、今度はしかと手加減しているでござるよ」
崩れ落ちるヴァルキュリアに五六五六衛門はニヤリと口の端に笑みを浮かべた。
「あと1人」
残った金髪のヴァルキュリアへガルフが視線を向ける。
任務を完遂する為、ケルベロス達は今一度足に力を込めた。
●
距離を取って戦おうとする金髪のヴァルキュリアをケルベロス達が巧みに追い詰めていく。
「ん。逃がさないの!」
左手で高く上げた気咬弾をフォンが右手のバトルガントレットで強烈に叩き込む。直撃を食らった金髪のヴァルキュリアが大きくよろめいた。
「大地に眠りし黒の刃よ」
恭平が古代語魔法と精霊魔法を合わせた複合魔術を一気に編み上げる。狙いを金髪のヴァルキュリアへ定め、解き放った。
「彼の敵を浸食し爆ぜて砕けろ!」
崩れた体勢で身を捻った金髪のヴァルキュリアの鎧が生み出された黒曜石の炸裂で爆ぜる。そこにすかさずフィーアが飛び込んだ。
「当機、患者を発見。これより施術開始する故」
縦一線に振るわれたフィーアの腕がヴァルキュリアの腹を捌く。痛みに一瞬体を折った金髪のヴァルキュリアが混乱して自分の刃を己に向ける。
「そこまで」
背後を取った都が回転弾倉式グレネードランチャーを振り被った。
「さあ、悪い夢から覚める時間だ」
そう呟くと勢いよく砲身でぶん殴る。ものすごく鈍い音がして、金髪のヴァルキュリアはそのまま意識を失った。
「私たちの事を気にかけなければ、もっと楽に戦えたでしょうに……」
意識を取り戻した黒髪のヴァルキュリアはケルベロス達を見回すと少し呆れたようにため息をついた。
仲間に連絡をとるでござる、と離れた五六五六衛門を含め、ケルベロス達は相当の深手を負っている。疲れきったフォンはエイティーンが切れ、ガルフの背中におんぶされ、寝息を立てていた。
そんなケルベロス達を眺めるヴァルキュリア達の表情に戦意はない。
「少し聞きたいんだけど、いいかな?」
緋織がそんな風に切り出す。これまでの経緯、ヴァナディーズの事、シャイターンやヴァルキュリア達が人間をどう思っているか等々、聞きたい事はいくらでもあった。が、黒髪のヴァルキュリアは首を横に振った。
「こちらの内情を喋れるものではありません」
そう言って彼女は踵を返した。
「いくのか?」
世界の問いかけに彼女が少しだけ振り向く。
「覚えておきましょう。ケルベロス達の中にも、あなた達のような方がいることを……」
最後まで不殺を貫いたケルベロス達にそう言い残して、ヴァルキュリア達は来た時と同じように空へと飛び去っていった。今度は自分達の意志で。
「これで一件落着、となればいいが」
愛用のウィザードハットを被り直した恭平が呟く。
「どうだろうね?」
「それに越したことはないでありますな」
都とフィーアがそれぞれ応える。飛び去っていくヴァルキュリアを見送りながら、ケルベロス達はひとまず最高の形で任務を完遂させたのであった。
作者:綾河司 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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