最後の宿縁邂逅~最後の戦い!

作者:ゆうきつかさ

●セリカからの依頼
「七夕ピラー改修作戦で使用する七夕の魔力に導かれ、4体の宿敵が現れるようです。しかも、そこに現れる宿敵は、本星でコギトエルゴスム化していたとしても、季節の魔法の力で復活しています。宿敵が現れるのは、7月7日の夜24時頃。その時間になったのと同時に、4体の宿敵が姿を現します。幸い、宿敵達は、いきなりその場所に現れるため、状況が全く分かっていません。そのまま放っておくと、ケルベロスと戦う為に共同戦線を張ってしまうため、そうなる前に手を打っておくといいでしょう。また今回の作戦には村雨・ビアンカ(地球人の螺旋忍者・en0020)も同行します」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、真剣な表情を浮かべ、今回の依頼を説明した。
「戦闘が行われるのは、都内で七夕のお祭りが行われている場所から、それほど離れていない運動場。既に周囲の避難は済んでいるので、一般人が紛れ込むことはありません。その場所に現れる宿敵は、シン・オブ・エンヴィ(ダモクレス)、チャイレス(ドラグナー)、フィリア・オスト(死神)、辻風の円城(螺旋忍軍)の4体。シン・オブ・エンヴィは、七つの大罪をモチーフとしたダモクレス集団の一人で、対応する罪は嫉妬。ドリームイーターを模した姿をしており、人の美しい部位を妬ましく思っているため、それを奪い去ろうとするようです。またチャイレスはグラビティ・チェインを効率良く集めるため、子供の誕生日を襲撃していたドラグナーです。基本的には配下を使っていたようですが、今回は彼ひとりです。とても好戦的な性格で、炎を扱いに長けています。一方、フィリア・オストは、配下に見目麗しい人物の殺害と死体の回収を命じている女の死神です。 回収された死体は彼女や配下の肉体と化し、彼女の美の楽園の一部となっているらしく、現在の肉体は神白・鈴の母親のもののようです。最後に、辻風の円城についてですが、彼女は歩き巫女という組織に所属していたようで、他種族との共同作戦の経験も多いようです。そのため、この中で最も厄介な敵と言えるでしょう。最悪、彼女の言葉で宿敵達が共闘する可能性もあるため、優先して倒しておく必要があります。それでは、よろしくおねがいします」
 そう言ってセリカがケルベロス達を見つめて、深々と頭を下げるのだった。

●七夕の夜
(「ここに、一体……」)
 シン・オブ・エンヴィは一瞬何が起こったのか、分からなかった。
 そもそも、どのような経緯を経て、この場所にいるのか、理解する事すら出来なかった。
 だが、そんな事は、どうでもイイ事だった。
 目の前に敵がある。
 憎い、憎い、憎い……あの金色の髪が……青い瞳が……綺麗な顔が……すべて憎くて、憎くて、仕方がなかった。
 だからと言って、まわりにいる者達と共闘する気にはなれなかった。
 そもそも、見た目が気に入らない。
 態度も、雰囲気も、嫌悪するレベルで、アレだった。
「なんだ、コラ! 文句あんのか!」
 そんな空気を察したチャイレスが、不機嫌な表情を浮かべた。
 チャイレスも、同様に状況が飲み込めていないものの、苛立ちの方が勝っているため、とにかく誰かを殴りたかった。
 とにかく、誰かを……。
 まずは手っ取り早く、ケルベロスを……。
 まわりの奴等は、どうでもいい。
 ただし、邪魔さえしなければ、と言う前提だが……。
「少し静かにしてもらえませんか? あまり騒がしいようなら、無理やり黙らせるだけですが……」
 フィリア・オストが苛立ちを隠せない様子で、チャイレス達に警告をした。
 これ以上、騒ぐようなら、首を刎ねるのみ。
 ただでさえ、状況を理解する事が出来ないのに、これでは冷静に考えている時間もない。
 ならば、物言わぬ肉の塊にした後、配下の肉体にした方が、色々な意味で効率的だった。
「ケンカは止めてください。今は、状況を正しく確認するべきでは?」
 その仲裁をしようとしていた辻風の円城が、まわりの反応にムッとした。
 状況的に考えれば、ここで手と手を取り合って、一緒に戦うべきなのかも知れない。
 だが、状況的に考えて、それは難しそうだった。


参加者
ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

●七夕の夜
「皆サァーン! ケンカはダメ! 絶対にダメデェース!」
 そんな中、村雨・ビアンカ(地球人の螺旋忍者・en0020)が、慌てた様子で仲裁に入った。
「なんだ、テメェは! 殺すぞ!」
 その途端、チャイレスが苛立ちを隠せない様子で、ビアンカにオラオラと迫っていった。
「ぼ、暴力反対デェース!」
 その気迫に圧倒され、ビアンカが脂汗を流した。
 どうやら、ノープランで突っ込んでいったため、今にも白旗を上げそうな勢いで、弱気になっているようだ。
「少しだけ話を聞いてもらえますか?」
 そんな空気を察した如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)がビアンカと入れ替わるようにして、今の世界の状況を分かりやすく解説し始めた。
 グラビティ・チェインの枯渇の原因はデスバレスであり、死神はそれを知りながらデウスエクスを利用していた事。
 アダムカドモンの命を受けダモクレスの主戦派は今ケルベロスと停戦している事など、包み隠さず語っていった。
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)もジェットパック・デバイスで、忍法ムササビの如く飛翔しながら、地球と宇宙の現状、そうなった経緯を伝達した。
 だが、その言葉がケルベロスの口から発せられたためか、半信半疑のようだった。
「どうやら、私達を仲違いさせたいようですね」
 フィリア・オストが警戒した様子で、ケルベロス達に視線を送った。
「……とは言え、誰も信用できないわ。だって、そうでしょ? みんな、今日会ったばかりなのだから……」
 シン・オブ・エンヴィが、フィリア達の反応を見た。
 その反応は、様々。
 元々、一緒に戦うつもりがなかったため、これ幸いと思った者もいたようだ。
 そのため、共闘するという選択肢が、真っ先に消えた。
「とにかく、いまは目の前の敵を倒すのが先です。誰も信用できないのであれば、バラバラになって戦えばいいだけ。それで構いませんね」
 そんな空気を察した辻風の円城が、返事を待たずに間合いを取った。
「よっしゃ、そうと決まれば、皆殺しだ!」
 その気持ちに応えるようにして、チャイレスがケルベロス達に攻撃を仕掛けていった。

●フィリア・オスト
「それにしても、七夕にこんな力があったとは……。デウスエクスめ、今更わざわざ戦いに出てこなくていいのに……」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が苛立ちを隠せない様子で、フィリアをジロリと睨みつけた。
「こっちだって、望んでここに来た訳ではないのですが……」
 フィリアがウンザリとした様子で、深い溜息を漏らした。
 おそらく、フィリアにとっても、予想外の出来事だったのだろう。
 しかも、まわりにいるのは、見知らぬ相手ばかりであったのだから、戸惑うのも無理はない。
「それじゃ、固まって現れたのも、望んでいなかったって事か? まあ、そうでなきゃ、いつも群れるケルベロスを馬鹿にしてきたデウスエクスが群れる訳もないが……」
 ピジョンが皮肉混じりに呟きながら、カーリーレイジを発動させ、パズルから怒れる女神カーリーの幻影を出現させた。
「うくっ! あ、頭が……」
 その途端、フィリアが険しい表情を浮かべ、崩れ落ちるようにして頭を押さえた。
 まるで頭の中を見えない何かによって、グルグルと掻き回されているような感覚。
 一瞬でも気を抜けば、狂気に身体を乗っ取られ、全身に激しい痛みが駆け巡り、暴走してしまいそうなほどの恐怖に襲われた。
「ならば、こちらにも考えがあります……!」
 フィリアが激しい痛みに襲われながら、死神の群れを出現させて、怒れる女神カーリーの幻影を消し去った。
「それじゃ、ここからが本題だよ。その身体、鈴達に返してもらおうか!」
 アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)が嫌悪感をあらわにしながら、猟犬縛鎖でフィリスの動きを封じ込めた。
「……お断りします。それに、この程度の攻撃で、私を屈服させる事が出来ると思っていたのなら、考えを改めるべきですね」
 フィリスが指をパチンと鳴らし、死神の群れを呼び寄せた。
 それと同時に、死神の群れが鎖に食らいつき、跡形もなく消滅させた。
「おい、さっきから何処を見てやがる! 俺は、ここだ! 会いたかったぜぇ。……フィリアァァァっ!! 親父を殺し、お袋の体を奪い、俺の右腕を奪った恨みは忘れてねぇぞ! この蒼き地獄の炎は、てめぇへの怒りが形になった俺の新たな右腕だ。死闘を潜り抜けた今となっちゃ、てめぇをぶっ殺すなんざ訳はねぇ」
 そんな中、神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が今にも飛び掛かってきそうな勢いで、殺気立った。
「そう言えば……、そうでしたね。あまりにも身体に馴染むので、その事をスッカリ……忘れてました。……で、どうしますか? 地べたに顔を押し付けて、母を返してくれと叫びますか?」
 それでも臆する事なく、フィリアが煉を挑発するようにして、含みのある笑みを浮かべた。
「……フィリア、デスバレス崩壊で死んだと思ってましたが、生きてたんですね。ここであったが百年目。……あの雪の日、ケルベロスですらなかったわたしは貴女に人質にされ、両親と……弟の右腕を奪われた。悲しさもそうだけど……。何より、無力な自分が許せなかった……。今宵は良い日です……。わたし達、姉弟が味わった苦しみを思い知れ!」
 その言葉と共に、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)がボクスドラゴンのリュガと連携を取りつつ、フィリアに攻撃を仕掛けていった。
「おそらく、これも運命……。いや、さだめかも知れませんね」
 フィリアが何かを悟った様子で、キッパリと言い放った。
 実際に、何か見えない力によって、この場に引き寄せられた事は、間違いない。
 そうでなければ、目の前に鈴達がいる訳などないのだから……。
 故に、フィリアは悟った。
 ここで生き残るのは、どちらかだけである事を……。
「理由が何であれ、
「こっちは真っ先に、てめぇを始末する許可もらってんだ! 二度とそんな事が言えないようにしてやるぜ! 地獄の炎に蝕まれながら、逝きやがれ! おらおらおらぁ!」
 その怒りを糧にするようにして、煉が地獄の炎を蒼星狼牙棍に纏わせ、フィリスめがけて叩きつけた。
「……クッ!」
 間一髪で、その攻撃を死神の鎌で受け止めたものの、フィリスの表情に余裕がなく、焦りの色が見え隠れしていた。
「……実に愚かな選択ですね。生き残った事を神に感謝し、私の前に二度と姿を現さなければ、死ぬような思いをする事もなかったのに……。ならば、ここで死になさい!」
 その焦りを誤魔化すようにして、フィリスが死神の群れを召喚した。
 それと同時に、死神の群れが牙を剥き出し、一斉に襲いかかってきた。
「今のわたしには誰かを守り切る力があるんだから!」
 すぐさま、鈴が時空氷壁(ジクウヒョウヘキ)を発動させ、時を凍結させる空間を作り出し、死神の群れの動きを止めた。
 その間に、リュガが属性インストールを使い、自らの属性を鈴に注入した。
「いくぞ、姉ちゃん! 姉弟連牙『双星狼牙』!!」
 それに合わせて、煉が鈴に合図を送り、姉弟連牙『双星狼牙』(シテイレンガ ソウセイロウガ)を仕掛けた。
 次の瞬間、姉弟の右腕に宿った白き光と蒼き焔が狼の咢を形作り、フィリスの身体に食らいついた。
「強く……なりましたね……」
 その途端、フィリスが二人を見つめ、安らかな笑みを浮かべた。
 それと同時に閃光と爆炎がフィリスを包み、その身に宿っていた禍々しい魂が、断末魔を上げて跡形もなく消え去った。
「……お疲れ様、ゆっくり休んでね」
 そんな中、アリアが鈴に駆け寄り、優しく頭を撫でた。

●チャイレス
「いまさら、何をしに来た! 貴様の主は竜業合体を行い地球まで来たが、既にケルベロスに倒された! いい加減に諦めろ!」
 灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)にとって、チャイレスは因縁の相手であった。
 恭介が八歳の誕生日。
 チャイレスは仲間と配下を引き連れ、恭介の家を襲撃し、家族と友人の命を奪った。
 その頃の恭介は戦う術を知らなかったが、今は違う。
 だからと言って、会いたかった訳でもない。
「おいおい、ツレねぇ事を言うんじゃねえよ。つーか、たまらねぇな! その視線ッ! ひょっとして、俺を殺したくて仕方がねぇのか? だったら、来いよ! 掛かってこい!」
 チャイレスにとって戦う事こそ、すべてであった。
 ……弱い者を嬲り殺す。
 それこそ、至福の悦び。
 特に自分の実力が分からず、向かってくる敵ほど、殺し甲斐のある相手であると認識しているようだった。
「……俺を覚えていないのか? だが、例え貴様が忘れても、俺は絶対に忘れはしない! 俺の家族と友の仇、取らせてもらうぞ!」
 恭介が家族を殺された怒りを隠す事なく、サイコフォースを発動させ、チャイレスの左肩を爆破した。
 その一撃は致命傷にはならなかったものの、大量の血が一瞬にして大地を真っ赤に染めた。
「おっと、誰かと思えば、あの時の坊ちゃんか。あン時は殺す価値もねぇと思ったが、今は……違うようだなァ!」
 チャイレスが左肩を庇いながら、邪悪な笑みを浮かべ、ドラゴンブレスを吐き出した。
 その炎が竜となって咆哮を上げ、恭介の首元に噛みつく勢いで迫ってきた。
「それが、どうした! 一片も残さず燃え尽きろ!」
 すぐさま、恭介が地獄炎竜・煉獄追炎葬(ジゴクエンリュウ・レンゴクツイエンソウ)を発動させ、最大まで燃え上がらせた地獄の炎を竜の姿に変え、チャイレスの炎を飲み込んだ。
「このまま一気に倒してしまいましょう」
 それに合わせて、イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、チャイレスに攻撃を仕掛けていった。
「いいね、いいねェ! 纏めて掛かって来いよ! そうじゃねえと面白くねぇ!」
 チャイレスが興奮した様子で竜の爪を振り回し、イッパイアッテナの攻撃を防いだ。
「ところで、私の相手ばかりしていていいのですか?」
 イッパイアッテナがチャイレスに問いかけながら、竜の爪から逃れるようにして後ろに下がった。
「チィッ! テメエは囮か!」
 チャイレスが悔しそうに、ギチギチと歯を鳴らした。
「このまま蹴り砕く!」
 その隙をつくようにして、恭介がスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放った。
「そんな攻撃、簡単に避け……!」
 その途端、チャイレスが、違和感を覚えた。
 それは目には見えなかったが、確かに存在していた。
(「わざわざ迷い出やがって。そこまでして……ヤツの力になりたいのか。だが、甘い!」)
 その正体に気づいたチャイレスが、身体に纏わりつく『何か』を、竜牙剣で振り払った。
 だが、チャイレスは気づかなかった。
 すぐ目の前まで、恭介が迫っていた事を……!
「貴様に殺された大勢の命の報いを受けろ!」
 次の瞬間、恭介の蹴りが竜牙剣を木っ端微塵に砕き、チャイレスの身体を容赦なく貫いた。
「先に、あの世で……待っているぜ!」
 チャイレスが風穴の空いた胸元を押さえ、血溜まりの中に沈んでいった。
「……もしこの後やりたいことがあったら、私が一緒に行きます。だから、今回の復讐が終わったら、何も終わったとは思わないでください」
 そう言って青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)が、心配した様子で恭介に声を掛けた。

●シン・オブ・エンヴィ
(「何っ、このプレッシャー!?」)
 一方、エンヴィはヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)を前にして、身体が動かなくなっていた。
 おそらく、本能的に理解してしまったのだろう。
 ヴェスパーとの力量差を……。
 それが激しいプレッシャーとなって、ヴェスパーを見た目以上に大きく見せていた。
 その影響で身体が拒絶反応を示しており、エンヴィの指示に逆らっているような感じになっていた。
 しかし、それはエンヴィにとって、受け入れがたい事実であった。
「他の兄弟達と共に出てこなかったと思えば、今更出て来たでありますか」
 その事に気づいたヴェスパーが、呆れた様子でエンヴィに視線を送った。
 ヴェスパーは七つの大罪を擁するダモクレス達とは、兄弟機。
 だが、性能の差は、明らか。
 エンヴィに生じた迷いが、手に取るように分かる。
 それ故に、エンヴィが、とても小さく見えた。
「いま、心の中で、私の事を馬鹿にしたでしょ! そんなの、絶対に……許せない!」
 次の瞬間、エンヴィが殺気立った様子で、嫉妬の雨を降らせた。
 その雨は微量に酸が混じっているらしく、少し当たっただけでも、ジュッと白い煙が上がるほどの破壊力を秘めていた。
「他の兄弟達は一緒に出てきたのに、一人だけ出遅れてどんな気持ちであります? ひょっとして、戦力外だったのでありますか? 他のダモクレスは共存するか眠りについたのに、往生際が悪いでありますよ」
 ヴェスパーがまったく臆する事なく、エンヴィの感情を逆撫でした。
「もう、うるさい! なんで、この状況で余裕な訳! そうやって、私を見下して、自分の方が性能的に上だって言いたいわけ? だったら、全部……奪ってやる! その目も、その手も、その足も! 全部、私が奪ってやる!」
 エンヴィが嫉妬の鬼と化しながら、狂ったように嫉妬の鍵を振り回した。
 だが、剥き出しになった感情が仇となり、ヴェスパーには一発も当たらなかった。
「それでも、放っておく訳にはいきませんね」
 すぐさま、沙耶がライトニングウォールを発動させ、ヴェスパーの身を守った。
「もう邪魔をしないで! そうやって、あなたも私を馬鹿にしているでしょ!」
 エンヴィが嫉妬の炎を燃え上がらせ、呪いの言葉を吐き出した。
 それがネットリとケルベロス達に纏わりつき、見えざる刃物となって身体を傷つけた。
「これじゃ、八つ当たりじゃないか」
 その巻き添えを食らったピジョンが、ゲンナリとした表情を浮かべた。
「……仲間がいないのも納得ですね」
 沙耶も納得した様子で答えを返しつつ、運命の導き「騎士」(フェイト・ガイダンス・ナイト)を発動させ、ヴェスパーを守るようにして陣取った。
「邪魔よ、退けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 エンヴィが巨大な嫉妬の塊と化し、狂ったように嫉妬の鍵を振り回した。
「そんな攻撃、当たりまセェ~ン!」
 その流れに乗るようにして、ビカンカが影分身を発動させ、エンヴィを挑発しながら、舞い踊るようにして攻撃を避けた。
「後は任せましたよ」
 それと同時に、沙耶がエレキブーストを発動させ、生命を賦活する電気ショックを飛ばし、ヴェスパーの戦闘能力を向上させた。
「そういえば、今日は誕生日でありましたな。過去の清算には丁度いいであります」
 次の瞬間、ヴェスパーが七星断罪剣(シチセイダンザイケン)を仕掛け、その悪徳を断罪するための力を剣に集め、容赦なく上段から振り下ろした。
「嘘、嘘、嘘ォ! あり得ない、あり得ない、あり得ない!」
 その一撃を食らったエンヴィが、呪いの言葉を口にしながら、辺りを巻き込む勢いで爆発四散した。

●辻風の円城
「どうやら、最後まで残ったのは、私だけですね。ならば……殺しなさい」
 辻風の円城が躊躇う事なく、キッパリと言い放った。
 その言葉には、何か含みがあった。
 だが、その理由を辻風の円城自身が語る事はなかった。
 もしかすると、最後に与えられた任務が関係しているのかも知れない。
 それは決して断る事の出来ない任務。
 それ故に、伝える事が出来ず、苦しんでいるように見えた。
「どうやら、拒否権はないようじゃな」
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)が悟った様子で、キアリに視線を送った。
「考えを改めるつもりは……ないという事ですか。……分かりました」
 キアリが辻風の円城の気持ちを察し、喉元まで出ていた言葉を飲み込んだ。
 それが正しい選択なのか分からないが、迷っている暇はない。
「それでは、全力を尽くしましょうか」
 その気持ちに応えるようにして、屏がレゾナンスグリードでブラックスライムを捕食モードに変形させ、辻風の円城を丸呑みさせようとした。
「ただし、私も手加減はしません」
 すぐさま、辻風の円城が毒霧を放ち、ブラックフレイムを牽制した。
「先……生ッ……!」
 キアリが溢れ出る感情を抑え込みながら、その気持ちをフォーチュンスターに籠め、辻風の円城を蹴りつけた。
 それに合わせて、オルトロスのアロンが、パイロキネシスで辻風の円城を炎に包んだ。
「……心に迷いがあるようですね。雑念を捨てなさい。私を倒したいのであれば……」
 辻風の円城が表情ひとつ変えず、炎をドレスの如く纏ったまま、烈風蹴りを繰り出した。
 その一撃を食らったアロンが宙を舞い、土煙を上げて転がった。
「いくたま。たるたま。たまとまるたま。むすび括るは我が磐境。これより先に、黄泉路の手引を通しはせぬよ」
 即座に、括が鎮守千曳磐戸・魂留括(チンジュノチビキイワト・タマツメククリ)を発動させ、禊言葉と共に弾丸を乱れ撃ち、守護の神域を展開した。
「迷っている暇はないよ。あっちは僕らを殺す気でいるからね」
 その間に、ピジョンがアロンに駆け寄り、仲間達に対して警告をした。
「開け、運命! 貫く、信念! この力、みんなが望む未来為に!」
 それに合わせて、屏がクロス=デスティニーで双銃を乱射し、魔法陣を使って弾丸を辻風の円城のところまでテレポートさせた。
 その間に、魔法の刃を生成すると、双銃を交差し、バツの形に辻風の円城を斬り裂いた。
「この程度で、私を倒せると思ったら、大間違いですよ」
 辻風の円城が躊躇う事なく祈りを捧げ、一瞬にして傷口を塞いだ。
「もう何も迷いません。後悔もしません。だから……この一撃、受け止めてください。これが私の全力です……!」
 キアリが自らの迷いを消し去るようにして、辻風の円城に声を掛けながら、螺旋転生・英雄王剣(スパイラスブリング・バルムンク)を仕掛け、自身の手刀を核にエインヘリアルを統べた英雄王シグムンドの愛剣バルムンクを半実体・半幻影で模倣・再現し、躊躇う事なく斬撃を繰り出した。
 それが辻風の円城の身体を斬り裂き、大量の血が花びらの如く飛び散った。
「み、見事です。……成長しましたね」
 その一撃を食らった辻風の円城が、満足した様子でキアリを見つめ、笑みを浮かべた後、崩れ落ちた。
「まだ息があります。連れて帰りましょう。助かるか、どうか分かりませんが、放っておく事なんて出来ません!」
 そんな中、屏が辻風の円城に駆け寄り、キアリに声を掛けるのであった。
 そして、最後の戦いが終わった。
 その勝利を祝福するようにして、月明かりがケルベロス達を照らしていた。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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