季節の魔力が呼ぶのは祝福だけではない。忌まわしき、あるいは追い求めた宿敵たちもまたそこに現れる。
「どうやら我々の宿敵も七夕の魔力に呼ばれたらしい。決着をつける時が来たようだ、ケルベロス」
リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は敢えて『頼む』とは言わず、集結したケルベロスたちに状況を述べていく。
「この首都郊外の七夕祭りの郊外で深夜、皆の宿敵が召喚される事が判明した。混乱はしているだろうが、苦しい戦いになるだろう。だがこれは最後で、最大のチャンスだ」
今なら因縁との決別が、宿命との決着がつけられる。
「既に周辺の避難は手配している。場所は再開発中の荒地で、被害を気にする建造物もない。全てをぶつけ、勝利を掴んでくれ」
出現するデウスエクスは四人。どのデウスエクスも協力で因縁深い相手だが、突然の召喚という状況ゆえに付け入る隙があるとリリエは言う。
「まず一人目は『avare』、地球に住む者を素体とした劣化ダモクレスによる『グラビティ養殖計画』を指揮していた野心家のダモクレスだ」
『avare』はコート姿で葉巻をたしなむ老紳士風だが、戦闘では侮りがたい堅牢なディフェンダーとして『エレメンタルボルト』を武器に接近戦を得意としている。
一方で司令官らしく慎重に様子を見極めるタイプで、序盤から積極的には攻めてくることはないだろうとリリエは推察を追加した。
「次に『レフィストレーゼン』、自身の仕えるドラゴンを復活させるために死神と結託してきたドラグナーで、『avare』とは逆に攻撃的で、また他のデウスエクスとも積極的に連携してくる」
ジャマーの位置を好む『レフィストレーゼン』はブラックウィザードの術と武器を得意とし、この召喚をチャンスとグラビティを集めるべく攻めてくる。
他のデウスエクスと手を組むする事もためらない最も危険な一人だ。
「そして三人目……『羽毟りのフルーリア』は、レフィストレーゼンが結託してきた死神の一派だが……その中でも少々変わり者でな」
彼女は有翼種の翼のみ積極的に狙ってくる一方、それ以外には徹底して冷淡だという。
とかく我が道を行くタイプで邪魔されることを嫌うため、うまく誘導すれば他のデウスエクスとの同士討ちも狙えるだろう。
「フルーリアはグラビティも特殊で、その身に接合した翼の種族……つまりドラゴニアン、オラトリオ、サキュバス、ヴァルキュリア、四種族のグラビティを模した能力を使用する……どれを使うかは読めないが、能力傾向はオラトリオに近く、メディックらしいのが手掛かりになるかもな」
そして最後は『焔のセツナ』。死神の手で復活した螺旋忍軍だ。
「セツナも非常に危険な一人だ。クラッシャーとして十分な火力を持ち、螺旋忍軍とブレイズキャリバーの特性を併せ持つ……ただ死神と協力的な姿勢はフルーリアの特異性で弱点になるかもしれない」
ただしセツナはどんな手段も使う放火魔だ。うまく仲違いに持ち込まなければ強調し、更に強力な敵となるかもしれない。
「……私から渡せる情報はこれで全てだ。決戦は七夕の夜、二四時。皆の検討を祈る」
そして決戦の日。満ち満ちた魔力をくぐり、不倶戴天は集結する。
「む……これは。現在地、全天観測」
機械仕掛けの紳士『avare』は葉巻を一吹きすると状況に油断なく構える。
「アダム・カドモンは滅びたが……この状況は僥倖たりうるか」
「今や主を失くした者同士というわけだ。この出会いを良きものとしたいところ……」
より積極的に協調を図る『レフィストレーゼン』だが、それに答えるのは炎をまとう影一つ。
「そいつぁやぶさかじゃあねぇな。ま、俺は焼き払っちまうが」
「翼は……」
「っと、失礼。レディ」
睨みつける『羽毟りのフルーリア』にたじろいで見せる『焔のセツナ』
一見悪くはない、だが噛み合っているとはいいがたい空気でデウスエクスはケルベロスたちと対峙する。
さぁ、勝負だ。
参加者 | |
---|---|
ディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046) |
立花・恵(翠の流星・e01060) |
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253) |
ソフィア・エルダナーダ(災厄の狂奔・e03146) |
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423) |
プロデュー・マス(禊萩・e13730) |
津雲・しらべ(山梔子・e35874) |
●奇跡の夜に
七夕祭り会場からほど近い再開発地に煙が燻ぶった。
「アダム・カドモンは滅びたが……この状況は僥倖たりうるか」
その一つは葉巻。いや彼のものが戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)の語る『avare』なるダモクレスなら、見た目そのものではないのかもしれないが。
「久遠の因縁がある相手があの紳士……?」
「そう面識はありゃせんがね……こうして元凶を直接叩けるたあ、僥倖だぜ」
だが間違いようはない。これは七夕の魔力が起こした一夜の軌跡。津雲・しらべ(山梔子・e35874)に答え、久遠は第一声をこう選ぶ。
「あんたが『avare』か? 『ciconia』には世話になったよ。『刃』と『水鎖』共々な」
「ほう……失敗作が生き延びたか」
興味なさげな返しに久遠の唇が歪む。
だがわかりきったことだ。avareが創設した人造ダモクレスの実験施設『白い家』の恩師、同胞たちは既に滅びた。ダモクレスの価値観で言えば、失敗したということだ。
「失敗作か……だが、逃がした失敗作が『白い家』の兵士を撃破したと言ったら」
「ほう……お前が?」
だからこその必殺の言葉。
顔にかけた『不変のGlaselentirs』のフレームをつまみ、久遠は見せつける。
しらべの握る、『九十九式』にまいた『銀蜻蛉』が手に痛い。まっすぐ前を向いて、共に進めとレプリカントの少女を激励する。
「その性能、見てみたくないかい?」
「のってやろう」
その名に恥じぬ貪欲な笑みで拳を降ろすavareに、久遠もまた感情を殺して薄く笑う。
お前は最後だ、と。
その様子に動揺したのは死神と縁ある二人のデウスエクスである。
「え、ちょっとそりゃねぇでしょうダンナ?」
「我々は過去に拘らないものでね。良き出会いかを決めるのは結果のみだ、ドラグナー」
理性的で利用しあえる、そう踏んだはずのダモクレスに挑発された『レフィストレーゼン』は筆舌に尽くしがたい。
「ねえねえ今どんな気持ち?どんな気持ちぃ?」
そこにこのソフィア・エルダナーダ(災厄の狂奔・e03146)の煽りである。
「あたしの一族殺した結果、ご主人様、復活出来たんですかぁ? 取りこぼしどころかすがったデウスエクスにまで煽られちゃってぇ、ねぇ!?」
返されたのはエゴを固めた暗黒縛鎖。しかしそれも届かない。
「大人しくしていろよ? すぐにも手足と喉を焼き砕いて妻の前に差し出してやる」
装甲化された拳が掴み、鉄塊剣が引きちぎる。宣戦布告と共に突進するプロデュー・マス(禊萩・e13730)へ、動いたのは『焔のセツナ』
「まぁそうがっかりするなよ! 俺はやぶさかじゃねぇからさぁ!」
死より拾い上げられた放火魔の放つ地獄の炎がぶつかり合い、距離を取らせる。かつて自らまで燃やしつくした螺旋忍軍の火力は圧倒的。
「その小さな火で私の翼が焼け落ちるとでも?」
「試せばわかるさぁ!」
延焼から身をかわすイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)の明らかに強がりな声が上ずり、それがセツナの火力をさらに上げる。
だがしかし。
「どーもぉ、誰かさんの燃やし残しが相手だよ……今まで戦ってきたのも、ここまで死ななかったのもアンタのお陰ってことで一つ忠告しておくが」
「ほーう、いや忘れようもねぇさ。それで?」
余裕の笑みをぶつけディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046)はその後ろをちょいちょいと指差す。
彼の存在がセツナの余裕を崩すことはない……それを崩すのは彼が指し示した、avareと背に立つ四人目のデウスエクスだから。
「その翼は……よくもッ」
「冗談だろぁっ!?」
叩きつけられる翼の竜爪。
狂気を帯びた『羽毟りのフルーリア』が間一髪交わしたセツナを突き飛ばし、イリスめがけ肉薄する。
「大丈夫? すぐ一つにしてあげる……!」
「ッ! 貴女に渡す翼など、羽一枚たりともありません!」
メディックの役割を果たさせぬよう、同時にイリスの心からの挑発が『羽毟りのフルーリア』を……彼女の母の顔をゆがめさせる。
飛び掛かる翼の怪物、そこに割り込む流星の一蹴。立花・恵(翠の流星・e01060)のスターゲイザーに跳ね飛ばされた身が運のないドラグナーを巻き込んで転回する。
「俺に翼はないけど、翼を持ってる友達は沢山いるんだ。その妄執につきあわせるわけにはいかないな」
「まったくもって同感なんですがね!」
協調性の欠片もない異種同族の者たちへ、レフィストレーゼンの罵声。もはや連携などあったものではない。
「敵はこちらだけでは無い様だな?」
「くっ……マトモな奴は私だけかッ」
自身を棚に上げたレフィストレーゼンの罵声に、ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)は『晶樹の手鎚』を回転させると轟竜砲を叩き込む。
「庇うより体力を保ってくれよ? そちらのソフィアさんも!」
「承知しました、援護いたします」
ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)の飛ばすヒールドローンがドラグナーの連射する虚無魔法と衝突、火花を散らす。
戦いはまだ始まったばかりだ。
●激突する因縁
大乱戦のなか、デウスエクスの傾向は二手に分かれていた。
そのうち、ツイていない方がレフィストレーゼンとセツナである。
「あぁクソッ、黙って俺に燃やさせてくれよ!?」
「燃やすなぁぁぁーッ!」
セツナは燃え残りの怨深いディルティーノを燃やしたい。
しかし火を放つと『羽毟りのフルーリア』に殴られる。彼女にとって羽は全て自分のもので、それを失くそうとする輩は誰であろうと敵だ。
「こっちも好きで傷つけたいわけじゃないんですよッ」
「残念だけど、聞いちゃないようだぜ?」
レフィストレーゼンもまた同じだ。皮肉る久遠へ因縁をこらえて暗黒縛鎖を放つも、努力空しく縛鎖が掴んだ先は庇いに入るソフィア・エルダナーダである。
「そっちがどうだろうが、あたしはアンタを殺しに来てるんだよね! そら来た!」
「また羽をッ、おのれぇッ!」
身を引く瞬間、光と化した『羽毟りのフルーリア』のヴァルキュリアブラストがレフィストレーゼンを殴り倒す。
「比翼連理の私たちを見習え、と言いたいが……そうされるのも禍々しいな」
片翼ばかりを集めるアンバランスさもまた、その狂気ゆえかと皮肉るプロデューの声も届いていない。『羽毟りのフルーリア』の姿は恐ろしく歪で、かつての姿を知るイリスの心をえぐる。
「お母さま……」
だがケルベロスたちもまた、彼女を止めることはできない。彼女の狂気こそ四人のデウスエクスを仲違いさせる鍵であり、その体を解放させるには先に為すべきものがある。
「もつも保たなくなりかねないな。短期決戦でいこう、二人のソフィア」
「同感です、ディークス殿」
「よろしくねっ!」
ソフィア・グランペールから合いの手のヒールドローンを足場に蹴って、ディークスとソフィア・エルダナーダの体がフルーリアを越えて飛ぶ。
装着された『ジェットパック・デバイス』が身を加速し、一気に高空より急降下。
「ちょぉっ!?」
藍色の鍛冶師……『ランスー・ティエジアン』の銘をもつバトルガントレットから伸びた竜爪が、まさに梶氏の腕の如く撃ち込まれる『晶樹の手鎚』をさらに叩き、レフィストレーゼンを押し返す。
三人の意図に一礼し、イリスも駆けた。
「助太刀します」
「助かる。いや、死神にはロクな奴がいないや」
ディルティーノに一言、歴戦の妖気を紫黒にまとう『妖刀「紅雪散華」』が、セツナの脇を炎ごと切り裂く。
因縁に手を出せぬなら、早々にケリをつけてやる。
不意討ちに裂けたセツナのジャケットから漏れるのはまた炎。
「てめぁっ!」
「そうワキが甘いから、燃やし残ることになるんだよ」
傷口を引き裂くシャイニングレイ。罪の炎が音を立てて浄化され苦悶の声が叫ぶ。
「このまま倒れてもらう。生まれ変わる新しい宇宙にお前達の野望なんて持ち込ませない!」
「やれやれ、とんだ者たちと組まされたものだ」
恵の『イノセントグラビティ』が刃と伸び、絶空斬を止めと放つ。だが、あまりものデウスエクス達の様相にavareも動いていた。
「気を付けて! 大きいのが来る!」
駆け付けるイッパイアッテナ・ルドルフが叫び、『龍穴』を放つもほぼ同時。
「間に合え!」
突き刺さる浄化の光にジャケットを投げるや、掌からボルトが伸びる。同時、炸裂するエレメンタルデトネイション。
「もう十分ってかい?」
「この有様では真価も何もなくなるではないか?」
うまくやりすぎたか。
相殺されながらも十分な衝撃に跳ね飛ばされながら、久遠はavareの言い分に至極もっともと返す他ない。
「少々教導してやろう」
「はっ、いなくなった上司にかわり指導者面か!」
シャウトと共にたちあがるプロデューの皮肉ものともせずavareはその通りと笑みをゆがめる。
「くる!」
ダモクレスの指揮官の突進へ、しらべの紙兵散布が舞った。
●不協和な連携
avreの参戦にケルベロスたちが選んだのは、前進。
「連携はさせません! セツナだけでも!」
「火力を集中しろ! 一撃をッ!ぶっ放す!!」
方針に変わりはない。すなわち連携される前に潰すのみ。
「なんてこったよ、火に油じゃあねぇかッ!」
足から蹴り抜くように放ったイリスの『時空凍結弾』がセツナの炎を静止させ、生まれた間隙を恵の『スターダンス・ゼロインパクト』が貫いていく。
握りしめる『T&W-M5'キャッツアウェイク』に繋いだ絆は、それを焼こうとする炎を逃さない。許さない。
「油を挿せば滑らかになるものだが、君は違ったかね?」
「て、てめぇ!」
加えて幸いだったのはavareの参戦が全軍の協力には繋がらなかったことだ。
飄々と抗議を受け流す彼は、すでに彼はこの螺旋忍軍に見切りをつけていた。
「悪いが君までを守る余裕はない。頑張って凌いでくれ」
「だそうだ……しっかり耳ふさぎな」
無論、ディルティーノが手を抜く謂れもない。
答えを待たず、内外の炎を失ったセツナの目前に召喚される巨大スピーカー。
炸裂するハウリング、ノイズ、最大出力。『rEpeaTtRanqUilizEr』の増幅した叫びが切り裂かれたセツナを打ち砕いていく。
「お前はきっちり、燃やしつくせよ……?」
「なに」
その最後の言葉にディルティーノは首を傾げかけ、すぐ気づく。
螺旋忍軍の姿が音の衝撃に消し飛んでいくのに一瞬遅れ、飛び込んでくる二つの影。
「狙いはグラビティチェインって事……!」
見破るしらべの動きは速い。ばらまく『殺神ウイルス』が接近を阻み、わずかなりとも残滓を奪わせない。
多少なりとも力を回収しようとしようとしたデウスエクス達の目論見は、圧倒的なディルティーノの火力と素早い対応に阻まれることになった。
「であるのならッ!」
レフィストレーゼンの暗黒魔法が向かう先はケルベロスではない。
「何を……!?」
「戦いを害する者は味方でも、傍観者でもなかろう」
「お説ごもっともだけど、ゲスな発想ね!」
思わぬ行動に動揺したソフィア・グランペールに嘲うavareへ、ソフィア・エルダナーダが吼える。『羽毟りのフルーリア』が気づき、ケルベロスに向けていた羽が背へと返す。
「くっ!?」
それでもレフィストレーゼンの強襲の方が早い。だがそうならなかったのは。
『Start the system -halo-. Hello world, Farewell shell.』
プロデューの起動した『HALO』が爆発的な加速で割り込んだから。禊萩を使い進化したその先の力は、背後の光輪に送られて還元と増幅を繰り返す事で後光を描き、鎖を千切って飛び込んでいく。
「雌雄を決する時だ、ソフィア!」
「邪魔は、させんッ!」
同時、avareの構えるボルトへとディークスもまた神速で踏込む。『葬造拳肢』の作りだす連打の壁が属性を帯びた拳と激突し、光を祝福と散らす。
「ぐ、うぅ……!」
二人の目的は『羽毟りのフルーリア』の援護ではない。
決着に挑むソフィア・エルダナーダへの一助が結果としてデウスエクスを助けただけ。
ただその結果、生き永らえた死神の牙が、作戦に沿ってレフィストレーゼンを優先したイリスと相合わさっただけ。
「光よ、かの敵を縫い止める針と成せ!」
「ドラグナー風情が、私の羽をぉぉぉぉッ!」
あまりにも不揃いで、連携というのもおこがましい同時攻撃。
しかし『冽刀「風冴一閃」』が氷の如き斬れ味で突き立てた『銀天剣・玖の斬「改」』はレフィストレーゼンのわき腹を突き刺して地に落とし、集束したシャイニングレイが動きを完全に封じ込めた結果だけは、完璧な連携だった。
「ソフィア、止めだ!」
恵が叫び、飛びかける『RocketBladeSS』が火花を散らして『羽毟りのフルーリア』を蹴り飛ばす。
援護に一つ頷き、レフィストレーゼンの放とうとする虚無球体へとソフィア・エルダナーダは身を投げ出していた。
「曉天に吼える赤き龍 熾天を背負う白き龍 曇天創る蒼き龍 嵐天轟く黒き竜 我が底より湧け猛き牙 ほむらに咲いて……ほむらよ盛れ!」
赤き光条と、咆哮の如き轟音。
小細工無用の『絶咆拳・炎龍光輝』
解き放たれたソフィア・エルダナーダの竜の力は虚無を撃ち抜き、ドラグナーの胸板を貫く。
「とったのか……?」
「うん、やったよ」
『HALO』の反動で息荒いプロデューの声に、ソフィア・エルダナーダも短く息を吐く。
目を見開く一族の仇は、最後の言葉すら口にせず驚愕に息絶えていた。
●今日の日を超えて
ケルベロスたちのダメージも決して小さくはない。
「残り二つ……撃ち抜けるか?」
まだ余裕を見せるavareを前に、ディークスは荒く息を吐いた。
既に傷ついた『羽毟りのフルーリア』は倒せるだろう。だが残るavareはどうか。
「君を失敗作としたのは、完全に見誤っていたよ」
「ありがとうよ。光栄過ぎて反吐が出るぜ」
咥え葉巻のダモクレスの言葉は媚びでも命乞いでもない。『不朽の金属片』を握りしめた久遠の手は赤く染まり、足元には血だまり。
彼一人ではない。ケルベロスたちいずれも似たようなものだ。
「なぁに、半分は終わらせたんだ……もう少しだよ」
それでも。
ディルティーノはやんわりと笑い、メタリックバーストの輝きと共に身を起こす。
「半分ではありません。すぐに」
イリスはゆっくりと、確かな足取りで進む。『虹女神のパトロン』の空色と白は汚れても、まだ失われれはいない。
「そうはさせんさ」
「できないでしょう?」
エレメンタルデトネイションを構えるavareに、既に『羽毟りのフルーリア』は見る影もない姿になりながらもなお敵意をむき出しにする。
「解せんな、そこの連中より君はまったく解せん」
「だろうな」
身を盾としたプロデューの前をイリスが踏み込む。今度こそ奪い取る、満足そうに笑う『羽毟りのフルーリア』の瞳がサキュバスの魔眼の色を帯びる。
「惑わされはしません……ゆっくり休んで下さい、お母様」
貫いた妖刀から伸びた竜の幻影、ドラゴニックミラージュの炎が『羽毟りのフルーリア』を焼いた。既に催眠への耐性は十分付与されており、なによりデウスエクスがその姿である事が彼女への誘惑を振り切った。
「しかも思いのほか保たんとは。これで終わりか」
「そんな事はないよ」
膝をつくイリスを前に、足蹴にせんばかりのavare。その手を掴んだものがいた。
しらべの『九十九式』縛霊手が添えるように、しかし強固な力でダモクレスを押しとどめている。
「久遠……!?」
「ううん、私だけじゃないよ」
地の底から、天上から、腕型の祭壇を通して思いはほとばしる。
「至り損なった者が、導こう。生を怨む亡者……死を尊ぶ亡者……貴方が出会うのは、どちら……?」
「なんだ、これは……私の知らぬ力が!?」
それは遠き彼岸からだけではない、目前からも。
「お母、様……?」
avareの驚愕を一瞥する赤と黒の瞳の案内人に導かれ、『九十九式・煉獄楽土』が顕現する。
羽毟りではないフルーリアがそこにいた。
滅びたソフィア・エルダナーダの一族の姿があった。
「あと一手……いけるよね?」
「あぁ。決めてやらねぇとな」
亡者たちを吹き飛ばし守らんと展開されるエナジープロテクションを竜爪が力強くえぐり、恵の抜き撃つ達人の一撃を届かせる。
「ありがとう……宿縁の因果は、ここで断つ!」
「悪いが止まっている場合ではなさそうだ。力を尽くそうか、最後まで!」
咄嗟、avareが塞ごうとした大穴をふさぐアイスエイジインパクト。ディークスの『群勢ノ纏』に並ぶ勲章が、過去が前に進めと輝く。
「陽を巡らせ陰を正す……万象流転」
まず自分へ。そしてのけぞるavareへ。
久遠の活性化させた陽の気が、穿たれ凍り付いた傷口を通してダモクレスへと撃ち込まれる。
小さな爆発。
「終わった、ね」
「因果の巡りは人もダモクレスも変わらねぇな……ありがとうな」
バトルガントレットに握りしめた金属片から、懐の『不滅の氷結晶』から、顕現し、去りゆく気配に久遠はしらべと二人頷いた。
「私はいつまでも一緒に居るよ」
「ああ」
寄り添うしらべに、それ以上の言葉は要らなかった。
「終わったかぁ……」
取り戻された静けさにディルティーノは倒れ、天を見上げる。
夜は更けて星は高く、空に天の川がかかる。
「七夕は短冊に願掛けをすると、天の川を超えて願いが叶うのでしたね」
見上げるソフィア・グランペールのふとした呟きに、彼も笑った。
「願いか……願うのなら、もう新しい傷を作らなくてもいいように、かな」
小さな願いを否定する者は、その場にはもういない。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
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