シャイターン襲撃～ I Gotta Feeling

■リプレイ

●神奈川県相模原市
　相模原駅が見えるビルの屋上。
　ケルベロス達はヘリオンを降り、ビルの階段を昇って接近する。
　階段室からは、隠密気流で隠れ潜む藤波・雨祈（雲遊萍寄・e01612）が先頭になり屋上の様子を窺っている。
　シャイターンの周囲に居たヴァルキュリア達のうち、指示を受けた１２体がそれぞれ街中へ向かってから、数分が経つ。
「おっせえなァ……。おい、お前らも、行ってコイ」
　シャイターンが指示すると、護衛に残っていたヴァルキュリアのうちの２体が傍を離れて飛び立つ。派遣先は先に戦っているヴァルキュリア達の元だろう。
　その様子を確認した雨祈は、腕を旋回させて合図する。
　階段の下方に居る、八千沢・こはる（ローリングわんこ・e01105）はすぐにスマホで電話発信する。連絡先は、同じ市内で任務に就いているケルベロス達で、番号は短縮登録してある。順に４つの連絡先へとコールする。
　ヴァルキュリアはあと２体残っていた。
　こはるも、他のケルベロスたちも、息をひそめて時が来るのを待った。
　雨祈は、シャイターンとヴァルキュリアを見守り続ける。
　そしてまた数分後、シャイターンが動く。
「ちんたらしてンじゃねーぜ。おい、さっさと行ってブッ殺してコイ！」
　シャイターンの声が響く。残り２体のヴァルキュリアも街中へと向かった。
　ヴァルキュリアが屋上から居なくなると、シャイターン１体が残された。
　雨祈は腕を振り下ろして、攻撃開始の合図を送る。
　こはるは、もう一度、先程と同様にスマホで短縮登録先へとコールする。
　コールしながら、残り僅かな階段を駆け上って、同行するケルベロスの仲間達と共に屋上へと雪崩れ込んだ。

●One minute
　街を眺めていたシャイターンが、屋上へと現れたケルベロス達を一瞥して口角を上げた。
　立ち止まることなく、ケルベロス達は攻撃を開始する。
　雨祈の達人の一撃が、シャイターンの頬を掠めた。
「よーお。丁度俺サマは退屈してたトコロよ！」
　シャイターンは、濁った瞳を戦意で爛々とさせる。
　レーグル・ノルベルト（ダーヴィド・e00079）が電光石火の蹴りで敵を狙うも、身構えたシャイターンは急所を避けた。
　レーグルはシャイターンの真正面に陣取り、雨祈や仲間達を庇える位置を取った。
　先程結っておいた雨祈の後ろ髪が、屋上に吹く風に揺れる。
　気合いも一緒に編み込まれたのか、自分で結うよりピシッとした雰囲気の雨祈だった。
「幹部は潰す、基本だね……炎だろうとなんだろうと、すべて纏めて刈り尽す……！」
　シェミア・アトック（悪夢の刈り手・e00237）はシャイターンを見据えると、禁忌魔術を詠唱する。莫大な「無」の力を反転し、純粋なる「存在」の力の力場を生成する。
「無天の空に遍く拡がる闇の中、幽かに宿る灯火よ、やがて神代の光と成りて、無天の空を遍く照らし、虚無も無限も置き去りて、今輝かん――」
　生成された力場が敵を飲み込む。
「――唯一の星」
　その力は触れたあらゆる存在をさざ波のように掻き消し、消し去ってしまうもの。強い理力に包まれたシャイターンは呻き声を上げて苦しんだ。
「力はまだ未知数だけど、そこまで強いのかな……？」
　敵はかき消されてはいない。だが、濁った瞳はシェミアをきつく睨む。
「ちったァ遊べるンじゃねーかァ……精々愉しませてくれよォ……」
　薄ら笑うシャイターンは手のひらを差し向けて、砂の嵐を巻き起こす。
　解き放たれる幻砂蜃気楼、幻覚作用をもたらす砂の嵐が、ケルベロスたち前衛を襲う。
　レーグル、シェミア、雨祈は幻に包まれた。
　蜃気楼が複数のシャイターンの幻覚を見せる。
　吹き荒ぶ砂嵐のなか、エウジェニオ・バルダッサーレ（真実を嘯くパラノイア・e01048）の武神の矢が放たれる。
「極論、動けなくしてしまえばイイんですよね♪」
　妖精弓を2つ束ねて放った漆黒の巨大矢が、シャイターンに命中する。
　刺さる矢にいまいましげな顔をしたシャイターンだが、動きはまだ鈍らない。
「……とはいえ、そう簡単にはいきませんからね。まァ、遊んであげますよ♪」
　エウジェニオは笑った。シャイターンも愉しげに笑う。
　狐村・楓（闊達自在な螺旋演舞・e07283）のスターゲイザー。流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが、シャイターンの頭部に炸裂する。
「ぐはっ……」
「わっはー！　楓さん参上っす！」
　タン、と屋上に着地した楓が、笑顔で敵を見返した。
　頭部の痛みに傾いている敵へと、イスクヴァ・ランドグリーズ（楯を壊すもの・e09599）が縛霊撃を放った。
　殴りつけると同時に放射した網状の霊力が、敵を緊縛する。
「嫌がる相手を無理やり強制させるそのやり口、気に入らん。それとも、一人では何も成せない愚者故、か？」
　卑怯な手を嫌うイスクヴァには、シャイターンのやり口は気に入らない。
　イスクヴァの射抜くような視線を受け止めながら、敵はせせら笑う。
「俺サマは～、愉しく遊ぶだけー。貰ったオモチャは使うだけー。ひゃっははあ！」
　嘲笑うシャイターンに、リュート・ヴィヴァーチェ（のほほん剣士・e18728）の雷刃突。雷の霊力を帯びた武器が神速の突きを繰り出す。
「シャイターン……僕に貴方を討つ理由があります」
　ほう、と敵がリュートを見る。
「顔を知る人が戦場に居ると聞きました」
「俺サマは知ってても知らなくても遊べたらイイんだぜ！」
「そうですか………が、縁と言う物はあります！」
　一歩引いたシャイターンへと、こはるが螺旋氷縛波を放つ。
　放たれた氷結の螺旋は、シャイターンの翼の一部を凍りつかせた。こはるは猫柄スマホを懐へ仕舞い込み、後方から仲間達の状態を把握に努める。

●Two minutes
「よおよお。遊んでくれるンだろォ……？」
　砂嵐の幻覚のなか、シャイターンの笑い声が響く。
「ーー戦慄け、炎よ」
　レーグルの奪われた両腕に纏わりつく地獄の炎が、大きく揺れた。
　炎祓の力が、前衛の仲間達へと癒しを施し、破剣の力を与える。
　シェミアのオラトリオヴェールが、オーロラのような光で包み込んでいく。ささやかな癒しと共に、仲間と己を包んでいた幻を打ち払う。
　こはるの紙兵散布が続いて、祭壇から霊力を帯びた紙兵を大量散布する。紙兵が仲間達を守護すると共に、残る幻覚も打ち払った。
　シェミアとこはるの連携により、蜃気楼の幻覚が解ける。
「――む」
　周囲を包む砂嵐が晴れていく様に、シャイターンは鼻白む。
　エウジェニオのペトリフィケイションが放たれる。古代語の詠唱と共に放った魔法の光線が、シャイターンの肩を射抜いた。
「遊んであげますって。エウジェニオ様は嘘なんて吐きませんよー」
　光線が射抜いた肩の部分が、僅かに石化していく。
　先程同様に笑うエウジェニオに対して、敵は小さく舌打ちした。
　だが、まだ、不敵に笑みを浮かべて佇む。
「よーしよし……、まだ『遊んで』いるからなァ……」
　イスクヴァの螺旋氷縛波が追い撃ち、タールの翼を冷たく凍りつかせる。
　シャイターンは街の方を一瞥したが、飛び立ったり、ヴァルキュリアを呼び戻したりするような素振りはない。派遣したヴァルキュリアが戻ってこないことから、指示に手古摺っていると判断し、そのことに少々苛立っているようだった。
「ふん……」
「手下がこんだけ下種なんだし、イグニス王子とやらの器も高が知れるぜ」
　雨祈は言葉でシャイターンを煽りながら、グラビティブレイクを放った。
　グラビティ・チェインを破壊力に変え、拳に乗せて叩きつける。
　ひらりと避けようとしたシャイターンだが、凍結した翼の重さと、身体の石化が動きを鈍らせた。
　グラビティ・チェインを乗せた一撃が、左肩を砕く。
　ずしりと重い手応えを雨祈の拳に返す。
「ぐ……ッ。俺サマに痛えと言わせるたァ……イイ度胸だ」
　シャイターンは掌を、雨祈へと向けた。
「来るぞ、気をつけろ！」
　イスクヴァの声。
　敵の掌に生じた灼熱の炎塊が膨れ上がり、至近距離で放たれるゲヘナフレイム。
　炎塊が雨祈を撃つ、その寸前に、レーグルが守りに入った。
「我が前で相棒が倒れるはずが無かろう？」
　受け止めるのは、地獄化した炎の両腕を飾る巨大な縛霊手。
　破壊の炎が、縛霊手から腕を、レーグルの身体を包み込んでいく。
「ん、任せるな、レーグル」
　相棒が盾になってくれるから。雨祈は矛となり、無心に拳に力を込める。
　リュートの桜花剣舞。桜吹雪と共に、敵を一太刀、斬る。
　楓の月光斬。緩やかな弧を描く斬撃が、シャイターンの腱を的確に斬り裂く。
「初めは面白い敵じゃなさそうと思ってたっすけど、なかなかやるじゃないっすか！」
　あざやかな刃の閃きと共に笑う楓。
　シャイターンは剣呑な笑みを浮かべた。

●Three minutes
　レーグルの降魔真拳。腕の巨大な縛霊手から、魂を喰らう降魔の一撃を放つ。
「我のお相手をしていただこう」
　敵をひきつけるように放つ言葉。真正面から動かぬ立ち位置。仲間を守る壁役として。相棒の盾として。
　相模原市内へと向かったヴァルキュリアの解放の為にも、素早い撃破を。
　ケルベロス達は交戦を続ける。
　リュートのサイコフォースによる爆破、シェミアのデスサイズシュートと攻撃が続く。
　投げつけられた鎌は、敵を斬り刻んだ後シェミアの手元に戻った。
　雨祈の跳弾射撃。足元を狙って射撃した弾丸、跳ね返って敵の死角を貫く。
「まだ『遊んで』欲しいですか。それともそろそろ『本気で』お相手しましょうか」
　エウジェニオの言葉に、被弾した腕を押さえながらシャイターンが睨んだ。
　濁った瞳には剣呑さが増している。
「あ、今言ったことはすべて嘘ですよ。あ、これは本当。というのは冗談です、なんてね。もちろん、嘘偽りなく事実を述べているまでですよ」
　流れるように紡ぎ出される支離滅裂な言葉の羅列で、敵の混乱を狙う。
　シャイターンはエウジェニオをじろりと見た。
「嘘でも事実でもー俺サマどっちでもイイのさ。つまり『本気で』殺して欲しいンだな？」
　シャイターンは指に嵌めたマインドリングから光の戦輪を具現化する。
　魔法の光の輪が、中列へと飛んで斬り裂き、衣服を破っていく。
　こはるはすぐにルナティックヒールを放った。満月に似たエネルギーの光球が、エウジェニオとリュートを癒し、壊アップの効果を与えた。
「サポートです！　チビだからって舐めんなって感じです！」
　膨れ上がったマインドリングの光が収縮する。
　その周囲に、無数の刃。
　楓は無数の刃を宙空へと放り投げ、螺旋の力で自在に操る。
「楓さんから逃げられると思わないほうが良いっすよ！」
　無数の刃は、四方八方から敵を突き刺し、逃げることすら敵わぬ刃の包囲網を構成する。
　――孤村流操剣術・枝垂柳。
「楓さんにかかればこんなものっすよ！」
　刃の包囲網が、シャイターンを見事に捕縛した。
　イスクヴァのフレイムグリード。地獄の炎弾は敵の生命力を喰らう。
　最後に派遣されたヴァルキュリアが他班の元へ着く前にケリをつけたい。
　……開始から３分程経っている。
　難しいかもしれないが、その位の気合を入れて臨む所存だった。
「貴様のような愚者相手に、我らが負けるはずなど無い！」
　イスクヴァの高らかな声が、仲間の士気を高めて鼓舞する。

●Four minutes
「ケルベロスが人類の守護者であり続けます様……僕が活路を切り開きます！」
　リュートは神速で踏み込みながら、抜刀する。
「奥義・明鏡止水……丙型……受けなさい！」
　『超神速の抜刀術』基本、後の先を制する切り札の抜刀術である。神速で踏み込みながら攻撃を弾きいなすのが甲型、待ち受ける形で攻撃を弾きいなすのが乙型。そしてこれが丙型の、神速で踏み込む斬撃。左足の踏み込みで、剣速と威力を向上させている。
「達人の攻撃は、歪が少ないのです……」
　抜き放つ動作で与えた刃の一撃は、シャイターンの身体を真っ直ぐに斬り付けていた。
「痛えなァ……」
　ゆらり、ゆらりと二歩下がり、敵はニィッと笑った。
　ボタボタと滴り落ちる血が屋上にシミをつくる。
　レーグルのフレイムグリード。生命力を喰らう地獄の炎弾が敵の腹部を撃つ。
　エウジェニオは武神の矢を放った。漆黒の巨大矢がタールの翼を射る。
　よろめき下がるシャイターンを追って、無数に舞う花弁。
「ひさかたのー、光のどけきー……なんて。ただの目眩ましとは、一味違いますよっ！」
　こはるの手の内から溢れた無数の花弁は、周囲を花海へと落としてゆく。
　八十花吹雪の花弁に包まれながら、ふらり、ふらりと、敵は屋上のフェンスに掴まった。
「チッ……喰らえ！！」
　シャイターンは手のひらをこはるへと向けた。
　ゲヘナフレイムの灼熱の炎塊が、真っ直ぐ放たれる。
　しかしすぐに、こはるをシェミアが守る。炎塊はシェミアを襲い、炎が包む。
「これならドラゴンの炎の方がずっと熱かったね……！」
（「わたしだって地獄の炎を武器にする身……絶対に負けられない……！」）
　シェミアのドレインスラッシュ。鎌の一撃は生命力を簒奪する。
　続けて放たれた雨祈のグラビティブレイクに、敵は膝をついた。
「ふふっ！　洗脳なんて手段を使うから、こんな事態に陥るっすよ！」
　楓の絶空斬が、敵の傷跡を正確に斬り広げた。
　濁った瞳が見上げる、足元に血溜まり。
　イスクヴァは、空をも切り裂く素早い一薙ぎにより、衝撃波を生み出す。
「貴様の罪が、枷となろう」
　――Aurgelmir。
　強力な衝撃波が、敵の頭部を直撃する。
　衝撃と共に耳の奥で何者かが喚き叫ぶような幻聴に囚われ、シャイターンは断末魔の悲鳴をあげた。
　シャイターンはその場に崩れ落ち、そして絶命する。
　イスクヴァの地獄化した瞳が、その最期を見届ける。
　こはるはすぐにスマホを取り出して、撃破の報を知らせるためのメールを一斉送信した。

●ヴァルキュリアの行方
「他のチームは大丈夫っすかねー」
　楓が呟く。屋上からは相模原市の街並みが見渡せる。
「きっと、大丈夫ですよ！　さてヒールしておきましょうか」
　こはるは、紙兵散布で仲間達の怪我を癒した。
「皆無事だと嬉しいっすけど！　シャイターン以外は皆！」
　楓は笑顔で頷いた。シャイターン以外、と、無事を願うなかに、洗脳されて戦わされている、ヴァルキュリア達も含めて。
「解き放たれる事を祈りますよ……」
　リュートは街を眺めて、ヴァルキュリア達の解放を祈った。
「ヴァルキュリアは敵とはいえ出来れば解放してやりてぇよな」
　雨祈の声に、レーグルが頷く。
「他班の救援に……行く？」
　シェミアが問う。こはるは取り出したスマホをジッと見つめた。
　おそらく其々の場所で、戦いは佳境か、終えている頃合だろう。
「落ち着いたらメールでもしてみましょう」
　ケルベロス達は、静かに相模原市の空を見上げた。

作者：藤宮忍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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