定命生物補完機械化計画

作者:久澄零太

「あ、こんなところにいい車輪が!」
 事情を知らない人が聞いたら、コイツ何言ってるんだろうって反応をされる気がするクロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)。彼女は趣味でジャンクパーツを拾い集めては謎の(?)装置を作っており、今日もその為に廃工場へ足を踏み入れていたのだが。
「あっちにも車輪!?」
 点々と、車輪が落ちている。いやそこは歯車じゃねぇのかよってツッコミをしないのがクロウである。一輪ずつ、拾いながら工場の奥へと踏み込んでいくクロウだったが。
「なんでこんなに車輪が落ちてるんだろう?」
「両手に持ちきれなくなってから気にするのね……」
「あ、これ罠ってパターン!?」
 完全に術中にはまってから気づいて、背後に立っていた相手へ振り向けば。
「え……」
「まぁいいわ。後は解体してデータを取るだけ……捕獲の手間が省けたわ」
 フリーズした機械のように、身動きの取れなくなったクロウへ女性型ダモクレスは車輪型のヒールを鳴らして迫りくる……逃げ出す代わりに、絞り出したクロウの声は。
「どうして、母さんがここに……!?」

「みんな準備はできてるよね!?」
 ヘリポートへ走る大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)の確認に、集まった番犬達が頷いた。
「改めて状況を確認するよ! リトルラウンドさんが宿敵に襲撃される予知があったんだけど、本人に連絡がつかないの! きっと、場所的に通信ができないんだと思う!!」
 しかし、襲撃地点が分かっているのなら、現場まで太陽機を飛ばせばいい。四夜・凶(泡沫の華・en0169)が殿を務める救援部隊は屋上にて待機していた太陽機を前に、一旦足を止めた。
「現場は閉鎖されて日が経ってる廃工場だよ。使わなくなった機械が放置されてて、見通しが悪いのと、状況次第では大きい武器は振り回しにくいかもしれないから気を付けて!」
 番犬達が携行する装備を改めて見直しつつ、太陽機へと乗り込みながら、白猫が続けるには。
「敵は車輪を背負ったような人型のダモクレスで、踵に車輪がついたハイヒールを履いてるよ。足場が平坦なコンクリートだから、動きはものすごく速いから気を付けて!」
 相手は人型でありながら、バイクか何かのような速度で動き回ると考えていいい。戦場の見通しの悪さや遮蔽物を考えれば、立ち回りには気を付ける必要があるだろう。
「でも、元は地球人だったみたいで、生体部分が多いみたい。無機質な装甲がない分耐久性はそれほどでもないけど、車輪とエンジンの高速移動に合わせて、人体特有の滑らかな動きをするから気を付けてね!」
 機械染みた高速移動をしながら、機械にはできない柔軟な挙動をする。これに対抗するには番犬側もそれ相応の機動力を要求されるかもしれない。
「最悪、必要とあらば戦場諸共爆破します。その際は……お任せしますね」
 気を引き締めた番犬達へ、凶は淡く微笑む。対策が足りなければ、彼は自身の命を火種に、戦場を焼き払い遮蔽物を取り除いてくれるだろう。そうなれば相手の優位性はそがれるかもしれないが、そこまで至ってしまった時点で、番犬側にも余力がない事は想像に難くない。
「今回はなんていうか……ちょっと戦いにくい相手かもしれないけど、油断しちゃだめだよ。絶対に全員で帰ってきてね!」
 何か、言いづらそうに眼を逸らしたユキだったが、改めて番犬達を見回してから太陽機を離陸させるのだった。


参加者
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
清水・湖満(氷雨・e25983)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)
青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)

■リプレイ


「母さんにも母さんなりの考えがあって自分からデータを取りにきたんだから、代案もなくやめて定命化してなんて言えないよね」
 かつり、かつり、無機質に歩を進める侵略者へ、クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)は指先を突きつける。
「だからここは、デウスエクス式で決めよう!要するに力比べ、勝ったほうが決めるってやつだ!自分たちが勝ったら武装解除して定命化して、技術を平和のために役に立ててもらう!もし自分が負けたら……その時は観念して、一緒に小烏堂で母さんと暮らす!」
「……あなた何を言っているの?」
 頓珍漢な物言いに、侵略者はクロウの鏡写し(と言うには結構大人びているが)な姿を示して。
「私はウィールダー。どこの誰と勘違いしているのか……」
「行くぞー!」
 まだ敵が喋っているのに、天井へ拳を突き上げたクロウを止まり木に、ワカクサが飛来。
「こういう時は折紙竜装【ワカクサクロウズ】!父さんの真似だけど、合体だワカクサ!」
 折り紙の特性を持った箱竜がその色彩を黒く染め、細切れに分離した無数の『羽』はクロウの肉体と一体に。
「人の話もロクに聞かないなんて……調整が必要そうね?」
 タイヤを繋ぎ、串刺しにまとめたような大鎚を振るいワカクサを模した炎を放つクロウに対し、片手で振り払って距離を詰めようとするウィールダーだが。
「ターゲット」
 空虚な工場に響く声に飛びのいて、その進行方向を紫炎の獣が駆け抜ける。
「リトルラウンド君の母親か。うん、よく似ていて美人だね」
 物陰から楽しそうに微笑み、ゆっくりと姿を見せた千歳緑・豊(喜懼・e09097)は肩越しに視線を投げて。
「あと、四夜君は無茶をして私の楽しみを奪わないようにね」
「ご冗談を。私は戦闘を楽しみ、と呼ぶには未熟な身ですから」
 苦笑する凶に牽制を投げている隙に、ウィールダーが豊の目前へと踏み込むが。
「あぁ、言い忘れたが……」
 顔は後ろに向けたまま、至近距離に来たのであろう敵へ。
「私の飼い犬は諦めが悪いんだ」
「チッ!」
 殴り飛ばそうとした腕を引き、割り込んできた猟犬の牙を躱す。ほぼ攻撃姿勢に入っていた体勢から飛び退いて見せたウィールダーへ、豊は小さく拍手を送り。
「うん、速い」
「なんや、やりがいのありそうなお相手やなぁ」
 下がる敵へ、追撃は清水・湖満(氷雨・e25983)。長い髪をシニヨンにまとめて、着物の袖を襷でまとめたアクティブスタイル。床の上を滑るように動く彼女の足跡は、積もった埃を舞い上げて。
「……ま、私はボコるだけさ」
 クロウが、母と呼んでいたモノを前に口角が上がる。皮肉にも……否、自らの道程故に、同じ道だけは歩ませたくない。多くを語らぬ女はエゴの為、手にしたそれは短刀。居合を放てど、鞘が短い分加速が乗り切らず、ウィールダーへは届かない。
「なんや、似たようなモン思たけど、ドスは使いにくいもんやなぁ……」
「母親……家族……大切な存在ならば、クロウさんの意思に沿えるように精一杯努めますね」
 空振りに終わって、なお追走をやめない湖満を前に、ウィールダーが急加速。粉塵で目くらまししながら部隊と距離を取る。その様相を遠目に見つめバラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)の表情は険しい。
「ウィールダーはクロウさんのことを『道具』としか見ていないのでしょうか……?」
 形はどうあれ、産み出したモノ、あるいは作り出したモノには何らかの感情が宿るはず。ダモクレス相手に感情など、笑い飛ばされそうなものだが。
(生みの親として、ともに生きることを選んでほしい……身勝手な願いですが本心です)
 振りまかれる銀の祝福。戦場を照らす粒子に照らされ、ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)の蹄鉄が軽やかにコンクリを叩く。
「曳光弾装填!」
 狙いを定める必要はない。そもそも、お互いが高速で動き回る者同士。狙撃しようという方がどうかしている。故に、初弾はトレーサー。赤く明滅する弾丸を発砲し、威嚇と牽制をかねて敵方向へ撃ち込む。弾道の軌跡と敵の反応から予測される移動経路を割り出し、砲塔から機関砲へ武器を持ち換えて。
「誤差修正、斉射!」
 回転する砲身から弾幕を張り、初撃で誘導した方向へ追い込みをかけるも、重火器では旋回速度が追い付かず。
「そんなデカブツで私が止められるとでも?」
「知っていますか?曳光弾は弾道予測の他、友軍へのサインにも使われているんですよ」
 弧を描いてケイトの側面から突っこんできたウィールダーに対して、咄嗟に飛びのいた人馬を追う形でダモクレスが着地。空ぶった蹴りの二撃目を放とうとした瞬間に、黒と銀。二挺の銃が輝く。見れば青沢・屏(光運の刻時銃士・e64449)の得物は既に硝煙を上げていて。
「動くな……ゼロ・インキュベーター!」
 ウィールダーを中心に刻まれた十二の弾痕。戦場に刻まれた模様は時計を顕し、高速移動する敵ではなく、その周囲の時間の方を封印することでその場に『固定』させる。
「なるほど……掠りもしない弾幕は拳銃の消音と私の注意を逸らすためか……!」
 動きを止めたウィールダーを前にして、エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)は生唾を飲む。
「クロウちゃんのお母さん……なんていう巧妙なワナ、これは強敵なんだよ……」
 頭上に両手を掲げて、エヴァリーナの思考を反映してか生み出されたプラズマは球体からその身を潰し、中心に穴を開けた円環を形作るが。
「知的クールな頭脳派な私なら大丈夫だけども、これが車輪じゃなくてドーナツだったらさすがの私も危なかったんだよ……」
「いやそれはそれでおかしいでしょ」
 全身を使って投げつけたドーナツプラズマがウィールダーを吹き飛ばし、追撃に薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)が疾駆。吹き飛んでいく速度に追い付き、追撃の蹴りを叩き込もうとして、ウィールダーもまた蹴り返し回避叶わずとも相殺を試みる。しかし、お互いの蹴脚がぶつかり合えば、あすかの体は黒液へと溶けてダモクレスの柔肌を染め上げて。
「あ、それハズレだね」
 天井を走るパイプ伝いに背後を取っていた本体のあすか。虚を突く形で後頭部へ膝蹴りを叩き込み、潰しきれない運動エネルギーに従ってウィールダーの体が反転。
「シリアスなんて知らないね!勢いでギャグにしてひっくり返す!それがケルベロスってもんでしょ!」
 滞空するウィールダーの背中へクロウが滑空。背骨を踏みつけながら床へ叩き落し、反動でクルリと翻るも。
「あの車輪は罠だよねどう見たって。なんで引っ掛かるの?怪しいと思わなかったの?薬袋さん普通に心配」
 戦場の隅っこに綺麗に並べられている車輪を示したあすかへ、クロウは照れたように頭をかきながら。
「母さんの選んだ上質な車輪だったから……」
 オイコラと言いたげな半眼でクロウを見つめるあすかだったが、やがてため息を溢し。
「無事だったからいいけどさ。つか親子なの、ふぅん、似てるね……マァ折角の親子の感動の再会だ、思う存分ぶつかってきな、援護はするさね」
「クロウの母親……だと?」
 支援部隊として到着した計都は、愛機・師子王丸と一体化した姿で一礼。
「初めましてクロウのお母さん、クロウの父親の北條・計都です……物凄い会話だなおい!?」
 自分で言っておいて、発言内容にツッコむ計都へ、怪訝な顔で立ち上がるウィールダー。彼女へ己の姿を示すよう、胸部装甲を叩き。
「人と機械の融合、正直に言って素晴らしいことだと思います。人の持つ意思の力と機械の精密動作性、双方の欠点を補うその二つが合わさればなんだって出来る!しかし問題なのは、その完成形がダモクレスであること、今のあなたはダモクレスでありこのままでは共生できないこと。そして何より俺の娘の命を脅かそうとしていること。どれも看過出来るものではありません!」
 カチン、両腕に装備された機関銃のセーフティが外れた。
「だから俺達は証明して見せます……定命のままでもいけるって事を!」
「不完全な下等生物が、私の理論を否定しようというのか……!」
 連射する、と見せかけ六つの銃口から同時に飛び出した弾丸は散弾銃よろしく、反応の遅れたウィールダーの体を穿つ。出鼻をくじかれてなお、瞬時に速度を上げて回り込むウィールダーであったが、その反撃を許すまいと、撃ち込まれたのは鉛弾。雑な狙い、むしろ外しているのではないかと思えるほどの射撃を一々相手にする必要はない。構わず計都のヘルメットを吹き飛ばそうと、トーキックが放たれるが。
「なんっ!?」
 突如弾丸は巨大な岩に姿を変えて、落下の衝撃で足場を揺らし、脆い工場が悲鳴を上げる。そこら中で錆びた建材やパイプが落下し、騒音響く中でぺたり、ぺたり。
「たいやはわしも好きじゃよ。何しろ一文字足したらたい焼きじゃからの!」
 草履を鳴らし、視線を一身に集めた括は、用意してきたジョークとも、本気の同調ともとれる一言が色んな意味で滑った気がして。
「……けほん」
 咳ばらいを一つ。
「師団で馴染みのクロウが、そのおかあさんの命を助けられるか否かの瀬戸際とあらば!」
 強引に真面目な方向へ持っていった!
「四夜さんが爆発してしまうと聞いて!こほん、クロウさんがピンチと聞いて!」
 と思いきや、ノアルによってまたしてもシリアスが台無しである。しかも。
「まだ今年の水着も見てもらっていませんし、この前の感想だって聞いていないんですから!」
「この前……?」
 投げこまれた爆弾発言に、クロウがじっと凶を見る。
「やっぱり何かあっ……」
「何も、ありませんよ?」にこり。
「自分知ってる!凶が綺麗な顔で笑う時は嘘ついてる時だって!!」
 グダグダしてきたが、夢魔のエヴァリーナがにやにやしてる辺り、何があったのかは察してやってほしい。
「なんなんだこいつらは……?」
 呆気に取られて、精神的置いてきぼりを食らったウィールダーがぽつねん……ってしてたら右足に弾丸が撃ち込まれて避けた瞬間着地した逆脚目掛けて二発目が飛来。咄嗟に避けたら回り込むように三発目……踊るように弾丸を跳ね避け回るウィールダーへ豊はハハハと笑い。
「油断していたから撃ってみたけど、中々上手に踊るじゃないか」
「次は私のお相手願おうかな?」
 跳躍して距離を取ったウィールダーの懐へ、湖満が踏み込む。右手に握った小型の得物はリーチがない分小回りが利く。避けた直後に追いすがる二撃、三撃と続く攻め。だが、途中で気づいた。湖満の得物は短刀だったはずが。それが何故。
「鞘ごと振るっている?」
「あぁ、気づいたん?それはなぁ……」
 うっすらと霜が降りたような薄氷の微笑みのまま、振るわれたのは六尺棒。突如射程が切り替わった得物に打ち据えられたウィールダーが踏みとどまり、再度迫る打撃を受けようとした途端、その防御を湖満の手の中に納まる短刀のようなものがすり抜けて、再び身を伸ばして顔面を強打。
「初手で見せたんは短刀やけど、私の武器はこの如意棒やねん。苦労したで?これそっくりのドスを探すんは」
 此度の敵は機動力が高いと聞いていた。ならば、大技は当たる時まで温存した方がいい。そしてそれを確実に当てるために小細工を弄してきた。それが、似たような武器を見せることでこちらの射程を誤認させる事。滅多打ちにされてたたらを踏んだウィールダーだが、体勢を整えるより先に屏の指先がその足元を示し。
「捉えた!」
 一瞬の意識の収束。見えざる弾丸が足元を爆破し、重心も狂ったまま飛び退かなければならなくなったウィールダー。その予想着地点を狙い、あすかは床と胴体を水平に片足でギリギリまで粘り、最後の瞬間に、跳ぶ。
「足元注意ってね!!」
 床を滑らせるようにして投げたバールのような何かがウィールダーの着地に滑り込み、転倒させるが背中のタイヤが先に床にぶつかって、跳ねるようにうつぶせに倒れてしまう。
「おのれ……!」
 すぐさま起き上がろうとして彼女が見たものは、ノアルの尻。
「は?」
 見上げれば、尻尾。
「えーい!!」
 ドゴォ!竜の尾が倒れたウィールダーの頭に振り下ろされた!
「今なら私でも、白兵戦ができる気がする……!」
 若干顔面が床に埋まっている敵を前に、エヴァリーナは両手の間に光を放ち、それが大剣を形作れば。
「おりゃー!!」
 バキィ!!相手が倒れている事をいい事に、尾と大剣で殴り続ける二人組……これなんてリンチ?
「あ、雰囲気的に地の文がシリアスに飽きてる!」
 こっち見んなクロウ。いや、まさか支援部隊があそこまでふざけてくるとは思わなかったんだもん……。
「「「私(俺)(わし)はふざけてなんかいない!全力で緋色蜂しているだけだッ!!」」」
 緋色蜂(動詞)とは一体……?
「うちの子達は良くも悪くも自由な子ばかりだからねぇ……」
 他人事のように飄々と笑う豊だが、奴も緋色蜂である。
「皆さんの師団って、そんな人ばかりなんですか……?」
「え、あの、どう、ですかね……?」
 屏にこそっと聞かれたバラフィール。自分も同じ師団の身としては何も言えなかった……。
「舐めるなよ出来損ない共がぁ!!」
 あ、ウィールダーがキレた。
「感情と言う不確定要素に揺らぎ、定命という鎖に繋がれ、未熟な幼体として生まれてくる下等生物め……!」
「母さん……それは、違うんだ」
 睨みつけるウィールダーを見据えて、クロウは悲し気に首を振ると、揺るがぬ視線で迎え撃つ。
「心があるから、人は強くなれる。まっさらな状態で生まれてくるから色んな可能性がある。そして、いつかは果てる命だから、愛情っていう鎖で繋がっていくんだ……!」
「黙れ黙れ黙れ!私の複製の分際で、何を偉そうに……!」
「クロウ」
 ポンと、計都の手が肩に置かれれば、娘を名乗る少女は、父と定義づけた男性を見上げて。
「見せてやろうじゃないか。俺たちの力って奴を……!」
 差し出されたそれは、こがらす丸のキーデバイス。クロウがそれを受け取った瞬間に、黒鉄の鴉は宵闇を覗かせる窓を粉砕して、二人の前にブラックマークを描く。
「うん……いくよ、母さん!」
 デバイスを折紙竜装に叩き込めば、こがらす丸のヘッドは青く輝きを放ち……。

 ――Crow&Raven……FlyHigh!

「な、ん……」
 クロウの体をこがらす丸の装甲が覆う。計都のそれによく似た漆黒の装甲に、背面に背負ったタイヤは調子を確かめるように一瞬だけ高速回転。ワカクサの翼にこがらす丸の翼装が重なり、クロウの背中には小鴉【クロウ】の身にそぐわぬ翼が広がる。
「親子喧嘩も、これで終わりにしよう……!」
 小鴉と大鴉。親子二羽の鴉が羽ばたく。爆風で粉塵を巻き上げて滑空に近い滑走を見せる二人。挟撃だけは避けねばならぬと、ヒールタイヤを回転させてウィールダーもバック、スラローム軌道で後退するが、放棄された機材を足場にして、鴉が飛ぶ。
「これで……」
「決めるよ!」
 左右から同時に迫る蹴り。回し蹴りで二人の脚を迎撃するウィールダーだったが、計都が絡めとるようにして上空へ蹴り飛ばし。
「跳べ、クロウ!」
 言い残して、計都がウィールダーを中心にしてエンジンをフルスロットル。身に纏った師子王丸の咆哮と共に高速回転し、黄金の輪を描く。夕暮れ空に顔を覗かせる満月の如くウィールダーを照らす計都ヘ向かい、クロウが飛び込んだ。
「ダモクレスにならなくったって、人と機械はひとつになれるんだ……だから!」
 高速回転する計都の背中を蹴って跳ね返り、ウィールダーを蹴りつけてすれ違い、反対側で計都が構えた手を足場に送り出されて再び放つ蹴りがダモクレスの体を折り、反対側へ跳んだクロウは計都の背を蹴って跳ね返りウィールダーが背負っていた車輪を直撃すれば、接合部にスパークが起こる。
「レプリカントになって一緒に改良してこう?ケルベロスならサンプルにできそうな人はいっぱいいるから……父さんとかさ!」
 笑いながら、狙うは接合部。
(全身人間っぽいのに、車輪だけ不自然なくらい機械だ……!)
 狙いを定め、刹那。計都と視線を重ねると計都が反転して片腕を引き、そこに片足を乗せたクロウが、グッと弓引くように……。
「思いっきり、『飛んで』来い!!」
 バサリ、こがらす丸とワカクサが連結した翼を広げ、小鴉は母を求めて、空へ……!
「全員で帰る……その全員の中に母さんも含めてみせる!」
 重力鎖を翼から放ち、呼応して折紙竜装が光を纏う。
「ワカクサ!フルスロットルだ!!」
 脚部の装甲が展開し、クロウの魂から引き出した重力鎖を放出。更なる加速を続けるクロウの一撃が。
「帰ろう、母さん……!」
 ウィールダーの背中に繋がった車輪を、打ち砕く……!
「母さん!」
 空中で反転して、受け身を取りながら両脚と片手で床を滑り、その軌跡から炎を巻き起こしながら急制動をかけたクロウが、装甲を解除しながら駆け寄るも、ウィールダーは弱弱しい視線を向けるだけで。
「母さん……?」
 手を取るが、そこにもはや温もりはない。宿敵として番犬の前に現れた時点で、その誰かを救う手立ては残されてなど、いなかったのだ。無慈悲な現実が、少女の前に横たわる。
「そんな……母さん……」
「クロウ……」
 最期に、彼女は淡く微笑みを浮かべて。
「大丈夫……あなたはもう、一人で飛べるわ……」
「母さん……もしかして、地球人の時の人格が!?そんな……ここまで来たのに……!」
 微笑みを浮かべたまま動かなくなったウィールダーの手を握り、クロウの頬を一筋の雫が伝っていった……。
「こんな……事って……」
 胸の前で手を重ね、震えるバラフィールの頭にカッツェが舞い降り、前足で顔をてしてし。
「凶君……何とかしてあげられない……?」
 エヴァリーナが見つめれば、凶はチラと部隊を見回す。
「……」
 何かを察した豊は、クロウの肩を抱き。
「何の慰めにもならないが、君は立派なケルベロスだよ。ところで……」
 二コリと、いつもの笑顔のまま。
「外道になる覚悟はあるかい?」
「……え?」
 呆けたクロウを、豊がそっと引き離す。
「ここから先は、正義とは真逆の道です」
 凶はウィールダーの遺体を前に膝をつき、その手に地獄を纏うと彼女の胸に触れて。
「あなたに、人の道を外れる覚悟はありますか?」
 一瞬の水音と共に、凶の手が女体を穿つ。美しく膨らんだ乳房を空洞に変えて、彼が引きずり出したものは……。
「え、エン……ジン……?」
 赤黒い血に塗れて、今なお微かに鼓動を刻み続けるコアユニット。多くの番犬達が目を背ける中、湖満が察する。
「なるほど。おもろい事考えるわぁ……」
 思考が追い付かないクロウへ、湖満が微笑む。
「アダムカドモンは定命化を『退化』言うとった。それはこのお母ちゃんも同じ考えやったんやろ。せやから、『命を司る器官』を機械化しとったんやない?」
「人の命や心は心臓と脳のどちらに宿るのか……」
 目の前で行われるやり取りの真意に気づいたバラフィールは、口元を覆う。
「医学でも話題になる事はありますが……ダモクレスであれば、その全てはコアに集約されていてもおかしくない……でも……」
 そこで、静かに彼女は首を振って。
「子を想う母の心を、彼女も持っていたのなら……それを、私達が疑うわけには行きませんよね……」
 ダモクレスは、心を得ることでレプリカントへと『変形』する。だとすれば、心を宿したこのコアへ、適応する機体を用意してやれば……。
「母さんが、帰ってくる……?」
「上手く行く保証もなければ、成功したところでそれは人倫に反した行為です。それでも、会いたいですか?」
 差し出される血染めの心臓を前に、少女の答えは……。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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