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東京都国立市。
その魔空回廊から現れた、12体のヴァルキュリアは3体ずつ。4方向に分かれて住宅地へと向かう。
その中の一組が降り立ったのは、最近開発の進んでいる新しい住宅地が立ち並ぶ場所であった。
話し込む若い母親がいれば、道ばたで遊び回る子供達もいる。何処にでもあるありふれた午後のひととき。そして其処に彼女達は降りたって……、
「え!?」
「きゃ……!」
悲鳴が響いた。ヴァルキュリアの三人は、躊躇うことなく歓談していた母親の身体を槍で貫く。
「おかあさん!?」
悲鳴を上げて子供が駆けてくる。それを彼女達は一瞥した。そのうちの一人が槍を翻す。
長い黒髪。未だあどけない顔立ち。しかしその貌に表情はなく。ただ淡々と彼女は槍を子供にも突き立てる。
続いて銀髪のお下げ髪のヴァルキュリアが動いた。子供に駆け寄ろうとする母親を殺し、泣き出す子供に向かって歩き出す。
その子供は彼女が片付けるだろうと判断したのか、三人目の金髪のヴァルキュリア反対側に地を蹴った。子供を抱えて逃げ出そうとする母親の背に、槍を突き立てるその為に。
三人のヴァルキュリアには全く表情が無く、ただ淡々と仕事をこなすように殺戮を繰り広げる。
ただ、彼女達の瞳からは血の色をした涙が流れ、頬を赤く染めていた……。
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「……さて」
浅櫻・月子(オラトリオのヘリオライダー・en0036)は長い髪を掻き上げた。真剣な表情は雑談を許さないような鋭い緊張感がある。
それだけで、難しい話なのだと知れた人もいるかもしれない。一同を見回して、月子は口を開いた。
「城ヶ島のドラゴン勢力との戦いも佳境に入っている所だが、エインヘリアルにも動きがあった。少々忙しくなってきたが、聞いて欲しい」
そんな前置きをして、彼女は話を続ける。
「先の鎌倉防衛戦の失敗でどうやら第一王子ザイフリートは失脚したようなのだが、その後任として新たな王子が地球への侵攻を開始したらしい。……一体何人王子様とやらがいるのかは知らないが、厄介なことだ」
とにかく、と月子は話を続ける。
エインヘリアルは、ザイフリート配下であったヴァルキュリアをなんらかの方法で強制的に従え、魔空回廊を利用して人間達を虐殺してグラビティ・チェインを得ようと画策しているらしい。
「ヴァルキュリアを従えている者は、妖精八種族の一つでシャイターンと言うらしい。都市内部で暴れるヴァルキュリアに対処しつつ、シャイターンを撃破するのが全体としての作戦だな」
それで、と彼女は話を続ける。
「諸君らに向かって貰いたいのは東京都国立市のとある住宅街だ。先に言ったようにヴァルキュリアが出現する。ヴァルキュリア達は幾つかのチームに分かれて方々に散っているが、そのうちの一つの相手をして貰いたい」
月子は一度、自分たちの担当がヴァルキュリアであることを念を押すように繰り返す。それから、
「彼女達は周辺にいる住人を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとしているが、邪魔者は優先して排除するようにという命令もされているようだ。……故に、君達がヴァルキュリアに戦いを挑めば、彼女達が住民を襲うという心配はなくなる……だからと言って」
周囲を見回す。僅かに心配そうな表情を乗せて、彼女は釘を刺した。
「都市内部にシャイターンがいる限り、ヴァルキュリアの洗脳は強固だ。向こうは迷い無く君達を殺しに来るだろう。君達が優しいのは知っているが、君達が倒れては意味がない。気をつけてくれ。……シャイターン撃破に向かった者達がシャイターンを撃破した後ならば、また状況は変わってくるかもしれないが……。まあ、良い方向に転ぶことを祈るぐらいしかできないな」
どうなるかは本当に解らないので、心するようにと彼女は言った。ケルベロスが敗北すれば、ヴァルキュリア達は住人を殺し尽くすだろうから。
「……彼女達の戦法だが、主に槍を使う。また、シャイターン側の状況によっては更に一体ヴァルキュリアが援軍としてやってくる可能性がある。それも注意するように」
話はそれで終わりだった。月子はそこで一息つく。何せ、と目を眇めて彼女は呟く。
「各々信じるものがある者は、それを信じ祈ると良い。それはきっと力になる。……祈る中身は人それぞれだろうがな」
住宅地への被害を減らすことか、仲間の無事か、はたまた……。月子はそれ以上言わずに、静かに微笑んだ。
「まあ、何せ言ってくると良い。けれどもどうか、気をつけるんだよ」
そして話をそれで締めくくるのであった。
参加者 | |
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藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) |
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311) |
鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632) |
レイ・ヤン(余音繞梁・e02759) |
桐崎・早苗(天然風味の狐娘・e03380) |
アップル・ウィナー(レプリカントの降魔拳士・e04569) |
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555) |
シェン・リー(神籬・e19187) |
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ヴァルキュリアの槍が翻った。
まるで鳥が墜ちるかのように、真っ逆さまに彼女達は降下していく。
その先にあるのは住宅地。ただひたすらに日常を謳歌する人たちだった。
「え?」
接近する影に誰かが顔を上げる。それを目掛けてヴァルキュリア達が槍を持ち直した。――その、瞬間。
「ふ、ざ……っ」
雪のように白い長髪が翻る。ゴシックファッションを身に纏った美しい少女が二者の間に割り込んだのだ。
「けるんじゃないわ!!」
叫ぶ。叫ぶと同時に高々と脚を上げてその槍を蹴り飛ばして一般人を庇った。弾かれる槍が再び構えられる前に、少女、イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)は己の攻性植物を黄金の果実を宿す「収穫形態」に変形させる。
「いい? 私はデウスエクスの事が嫌いよ! そこの所間違えないで頂戴! でも、操られて無理矢理戦わされてる奴を倒すなんて私のプライドが許さないわ!」
相対していたヴァルキュリア、黒髪のユリアに指を突きつけて叫ぶも、ユリアの方は全く反応がない。その無表情にイリスは唇を噛む。
「どうせ戦うならば意思のある時に正々堂々をやりたかったものだ!」
シェン・リー(神籬・e19187)も駆けつけて前に出る。頭上から急降下するヴァルキュリアを警戒しつつ、
「ヴァルキュリアだ! 直ちに避難を!」
「逃げて、はやく」
シェンに続けるように、鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)も殺界形成を使用する。庇われていた母親が、子供を抱えて走っていくのを背中で確認しながらハクアも前を見据えた。
「ユリアさん……」
彼女は意識がないようにも見えた。自分の名前が呼ばれていることすら解っていないのか、弾かれた槍を再び構え直す。背後にいた銀髪のヴァルキュリアも、槍を手に駆けようとして、
「……させません」
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)が淡々と、その行く手を阻むように前へと立ち塞がった。眼鏡を外したその姿。静かな佇まいにだがヴァルキュリアは何か感じたのか一歩下がる。入れ替わるように金髪のヴァルキュリアが、前に出た。
「……はっ!」
掛け声一つ。走った槍をレイ・ヤン(余音繞梁・e02759)が絡め取るようにして防ぐ。しかし勢いを殺しきれずに切っ先が掠った。
「……っ」
「きゅ!」
「大丈夫。太郎、頑張ろうな」
ボクスドラゴンの太郎の心配そうな声にレイは首をを横に振り、イグニッション! と唱え、戦闘モードへと変わった。
「ユリアさん……」
そんなヴァルキュリア達に、藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)も目を伏せる。しばし考え込むような間の後で、
「微力ながら、尽力させて頂きます……ね?」
ただ。それだけ言って。景臣は斬霊刀を構えた。きっと今は……声も届かないだろう。
「洗脳とか許せませんよね。絶対に解放してあげないと」
アップル・ウィナー(レプリカントの降魔拳士・e04569)も日本刀に手をかける。今は届かずとも、いつかは必ず届くと信じてヴァルキュリア達を見つめた。そんな仲間達に桐崎・早苗(天然風味の狐娘・e03380)はそっと両手を組んだ。
「これは私の自己満足でもあります。しかしそうと自覚しながら仲間の成果を祈り、目前のヴァルキュリアたちを生かしたまま止めることを決意しましょう」
それはとても困難なことだと理解している。それでも、
「それを歪な祈りだと笑われようともそれが今の私の最善。ならばこそ、今はただ全力であたるのみ。……桐崎早苗、参ります!」
早苗は狐火を作り出す。ヴァルキュリア達も彼女達を敵と認め槍を向けて。……そして、戦闘が始まった。
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レイの全身に禍々しい呪文が浮かび上がる。身体を魔人へと変質させて、その傷に耐えようとして、
「……太郎!」
「きゅ……っ!」
槍の一撃が走った。太郎がレイを庇うように前に出る。そして次の瞬間、太郎の姿は消え失せた。
「あ……っ」
伸ばしたレイの手が空を掻いた。……其処に、
「危ないっ!」
霧華が思わず声を上げて駆けた。しかし間に合わない槍にその胸を貫かれて、レイはバランスを崩す。
揺らぐ視界の中に、黒い髪のヴァルキュリアの姿が目に入った、きがした。
「つれないなぁ。良い女がそんな表情じゃ、もったいないぞ? なあ、話くらいさせてくれても良いだろ?」
思わず、呼びかける。あの時、大事な家族だと言った、太郎を倒したその少女に。
「しゃべっては、だめ……っ」
ハクアが魔法の木の葉を纏わせる。ハクアのボクスドラゴン、ドラゴンくんも必死で仲間達の回復に回っていた。しかしレイはそれ以上起きることが出来なくて、
「血の涙を流すまで、葛藤があるなら、今のその姿は望んでないんだろう?」
早めに、言うことを言っておかなくちゃ。そんな彼をユリアは無表情で一瞥する。……そして、
「させ……ません!」
無表情でとどめを刺そうとする彼女とレイの間に、霧華は無理矢理割って入った。その槍が彼女の肩へと突き刺さる。
「……っ、まだまだ、負けません……!」
景臣も気力溜めで攻撃に備える。その間を縫うように、シェンが雷纏った斬霊刀で銀髪のヴァルキュリアを突き刺した。
「状況は厳しいな。だが、理不尽なこの状況、なんとしても覆さねば」
ヴァルキュリアは一歩下がる。既に攻撃を受け血塗れの様子であった。
普段からしてケルベロス八人で1人と相対しているヴァルキュリアである。
それを3人、しかも手加減攻撃を交えての攻撃となると、被害が広がるのも必定であった。開始より10分。既に取り返しの付かないまで傷が深い者も幾人も出始めている。……そして、
「……なかなか笑える冗談ね。解ってたことだけど!」
イリスが衣装を翻し、茨型の攻性植物を走らせる。それは生き物のように金髪のヴァルキュリアに絡みつき、そして毒を流し込んでいく。
しかし彼女の視線は天に。開始より11分。厳しいこの状況で天から新たなヴァルキュリアが舞い降りた。
「まずは九紫、八白、七赤、六白……、さらに五黄、四緑、三碧、二黒、そして一白。……我、九星の理を以て汝に厄を与えむ……!」
即座に早苗が反応する。狐火が陣を描いて新たな赤髪のヴァルキュリアを拘束するように包み込んだ。彼女の詠唱と共に狐火は進化し、変化していく。
「……っ、まだまだ! 聞こえるよ、貴方達の心の叫びが! 必ず、止めて見せるから!」
アップルが曲を奏でる。思いを声に乗せて叫び続けた。彼女達が戻る、せめてその間まではと。……しかし彼女達の表情は変わらない。
「(もしかしたら、このまま……)」
降り立ったヴァルキュリアに霧華は思わず敵を見据える。このまま、ヴァルキュリア達の意識が戻らなかったら。このまま、仲間が全て倒れてしまったら。
「……っ!」
思案する暇を与えぬかのように、金髪のヴァルキュリアの槍が走る。深々とその一撃が彼女の身に沈んで、
「……いっそ視界も晴れるでしょう。……それでも、出来る限りのことを」
槍が刺さったまま己が刃を一閃させた。
「今……!」
「私は、良いです。もう無理ですから、他の方を」
ハクアの言葉に霧華は淡々と言った。回復できないダメージが蓄積されている。ならばその方が効率がいいと。
「……そうですね。援軍は、予想していたことです」
景臣もあくまで落ち着き払った声音でオーラを溜める。冷静に周囲を見回した。霧華は勿論のこと、シェンもイリスも傷は深い。勿論、景臣自身も。
「もう少し、耐えられるところまで、耐えましょう」
イリスにオーラを送りながら景臣は声をかけた。しかし銀髪のヴァルキュリアもシェンに向かって槍を構える。
「やるというならば……来い!」
シェンも日本刀を構えた。槍の一撃が走ると同時に、シェンもまた雷光纏った一撃を叩き込む。
「……お前達がどうしたいか、お前達の意思を聞きたいのだよ」
ヴァルキュリアの服が刃により紅く染まる。手加減されていてもそれは充分なダメージで、崩れ落ちると同時に、槍もまたシェンの身に深々と突き刺さった。最後にそう呟いてシェンは崩れ落ちる。最後にもう一度と、刀に手をかけようとしたその体勢のまま。
「……」
しゅっと赤髪のヴァルキュリアの槍が翻る。とどめを刺そうとしたのだろうか。だが、
「教えてください。あなた達が今後どうしたいのか。私達は。私は……」
霧華がその前に立ち塞がる。槍は真っ直ぐに彼女の腹へ。彼女もそれで限界であった。膝をつき天を見上げる。……あぁ、
「天に祈りを、地に花を、嘆くあなたに安らぎを……」
何処か祈るように譫言のように彼女は呟いた。瞬時に繰り広げられるのは花の舞う空間。せめて最後に仲間達だけでも傷を……、と造り出した在るはずもないセカイ。その中でイリスも立ち上がる。ユリアを睨むように見据えて指を突きつけた。
「いい加減になさいよ! 言っておくけど別にあなた達の事を許したわけじゃないから! 勘違いしないで! 私達は敢えて貴方達を助けるためにこうしてるってのに! ……もう、なんなのよ!」
ユリアは槍を彼女に向ける。イリスも殺意を込めた目で攻性植物を握りしめる。
ユリアが駆けた。イリスは迎え撃つ。次の一撃でイリスは倒れる。だから……倒される前に倒さなければ。
「あ……」
けど、なんて。
「泣くほどイヤならこんな事してるんじゃないわよ……」
なんて馬鹿な自分だと、イリアは小さく呟いた。
悪夢の揺り籠は憎き敵を捕らえきれず空を切る。そして槍はしっかりと彼女の身を貫いていた。
「……何度だって言うわ。私はデウスエクスの事が嫌いよ。けれども話し合いましょう。だって、私達は……」
そっとイリアはユリアを抱きしめて、そしてゆっくりと崩れ落ちた。ユリアは首を傾げる。思わず彼女の身体を抱き留めて。……そして、
「……え、わた……し……?」
呆然と倒れ伏すケルベロス達を見て、顔を見上げて自分たちが相対していたケルベロスの顔を見た。
「貴方達……」
「危ない!」
思わず早苗が声を上げた。金髪のヴァルキュリアの槍が走る。しかし今度は早苗達ではなく、ユリアの身体を貫いたのだ。
「ぁ……、く……っ!」
「このような戦い、私達の戦いではない……!」
「せめて、これ以上……!」
彼女だけではない。ヴァルキュリア達は次々に苦しみだし、仲間達を攻撃し始める。
戦闘開始から15分後。彼女達を操っていたシャイターンが遂に撃破されたのだ。
シャイターンの洗脳に綻びが出来たことにより、この時彼女達は、ヒール不能な強い【催眠】状態にあり、仲間達を攻撃し、もしヒール技を所持していたならケルベロス達にヒールをかけたであろう。
しかし残念ながら、完全に洗脳が解けたわけではない。だから……、
「女神ヴァナディースはヴァルキュリア達が自由になることを望んでいたように思う。だから届け! 愛の炎!」
今が好機と感じ取ったのか、アップルが声を上げて曲を奏でる。届けるのは仲間達ではない。傷付き今にも倒れそうなユリア達だ。
「ザイフリートの元に戻すことが、女神の言っていた彼女達を自由にすることなんですかね? 教えてください!」
「私……。私達は……」
「頼む、殺してくれ! これ以上、我々が我々でなくなってしまう前に!」
「そんなことはさせません!」
即座に早苗が声を上げた。今までになかった、はっきりとした口調で告げる。どのヴァルキュリアにも聞こえるように、祈りを込めて。
「何故聞いてくれないのです。聞いてくれないなら、私達が私達を……」
「それも、させません」
「……どうして」
絶望が染みるようなユリアの声。抱いていたイリスの身体がゆっくりと地に落ちた。早苗は首を横に振る。
「そうですね。しいて言うなら私の自己満足です。それを解っていて、私は仲間の成果を祈り、あなたたちを生かしたまま止めることを決意しました。……無茶だろうと、それを歪な祈りだと笑われようともそれが今の私の最善。私がそうしたいからそうするのです。……でも、きっと」
他の皆さんもそうだと思いますよ。と早苗は微笑んで一歩横に退いた。その脇を景臣が駆け抜ける。
「……痛かったですよね。力尽くになって申し訳ない」
彼女の前に立ち、そっとその手を握った。
「やめて、危ない」
「もう、大丈夫です。シャイターンの洗脳から解放された貴女方と戦う意思はありません。こんなに涙を流して……お辛かったでしょう」
「……」
手を引かれ、彼女は迷うように景臣を見る。すると景臣は優しく微笑んだ。
「……私……」
その笑顔に、誘われるようにユリアは息を呑む。泣きそうな顔をして彼を見つめた。
「貴女達がこの後どうするかは自由。でももし、わたし達の手助けを望むのなら……、力になりたいと思うの。放っておく事なんてできない」
そっと、ハクアも彼女に歩み寄った。ユリアの目を覗き込み、血の涙を優しく拭う。
「ね、もう、やめよう? 戦うのは」
「貴方達も。出来るだけ丁重に扱いたいと思っています。戦いは止めて、互いが幸せになれる路を探しませんか?」
「そうだよ! 愛があれば私達とヴァルキュリア達だって、きっと仲良くなれるはず!」
早苗とアップルが他のヴァルキュリアにも呼びかける。同士討ちをしていたヴァルキュリア達は一瞬、苦しそうな顔で彼女達を見る。その手が鈍ったような、気がしたけれど、
「……っ、あぁ……!」
叫んで、彼女達は顔を上げた。何か別の指令を受け取ったのだろうか。戦いを止め倒れていた銀髪のヴァルキュリアを抱え翼を広げて空へと飛び上がる。
「待って……!」
早苗が声をかけるも届かない。彼女達を説得するにはその言葉が足りなかったのだろう。その表情は彼等と初めてまみえたときと同じ顔をであった。
「あなた達も、必ず助け出します。……必ず」
遠くの空へ消えゆくヴァルキュリア達に最後まで早苗は声をかけ続けた。
「……ユリアさん」
思わず、景臣がユリアの手を握りしめる。しかし彼女は違った。ユリアはそっと彼の手を握りかえした。
「私……」
視線を足元に。倒れたケルベロス達を見つめた。
「ごめんなさい……。私、こんな、事をするつもりじゃ……」
「いいの。わかってくれたなら、いいの」
ハクアが声をかける。彼女は小さく頷いて光の羽を広げた。
「ありがとう。私に出来ることは少ないけれど……。この恩は、忘れないよ」
そして彼女はヴァルキュリア達が飛んでいった場所とは別の方角に向かって飛んでいった。
鳥が一度、住宅地を旋回しあらぬ方向へと飛び立っていく。
「うん。……いつでも、おいで」
景臣が小さく呟いて、消えていくその背中をいつまでも見送っていた……。
作者:ふじもりみきや |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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