「まずは『ケルベロス・ウォー』の勝利、おめでとうございます。そして、地球をマキナクロス化から救って下さり、ありがとうございました」
ケルベロス達に、丁寧に礼をする都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「ダモクレスの十二創神『超神機アダム・カドモン』の撃破を以て、地球に侵攻してくるデウスエクス勢力はなくなりました。平和を勝ち得たケルベロスの皆さんに、敬意を表します」
アダム・カダモンは、約束を守った。決戦後、万能戦艦ケルベロスブレイドに届いた様々なダモクレスの研究データを解析した結果、破壊されたゲートを修復した上でピラーに戻す目星がつきそうだという。
「『ゲートを修復し、ゲートをピラーに戻す』には、特別な季節の魔力が必要になります」
それは、『銀河を越えて、遠く引き離された2つの地点を結び合わせて邂逅させる季節の魔法』――即ち『七夕の魔力』だ。
「ダモクレスが、このタイミングで決戦を挑んできたのも、決戦後にゲートをピラーに戻す考えがあったのかもしれません……それで、早速ではありますが。皆さんには7月7日に七夕の魔力を集めて戴きたいのです」
「あのね、今、日本各地の自治体に連絡して、七夕祭りの開催をお願いしているんですって」
ヘリオライダーに続いて口を開いたのは、結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)。何だか楽しそうな笑みを浮かべている。
「季節の魔力を集めるなら、やっぱり『お祭り』が1番よね。例年なら8月に七夕祭りがある地域も、今回は7月7日に前倒しして貰うそうよ」
或いは、突然の前倒しで、七夕祭りの準備が整っていない地域もあるだろう。
「そんな処は、出来る範囲で準備をお手伝いしてあげたらいいと思うわ。皆で力を合わせれば、きっと間に合う筈よ」
「当日は、地球の危機を救ったケルベロスが祭りに参加するだけでも、市民の皆さんは喜んで下さるでしょう。しかし、更に、ケルベロスのサプライズ企画等があれば、もっと七夕祭りは盛り上がると思われます」
尚、蒼鴉師団のファーストアタックで、戦争直前に世界各地でも「TANABATA」の祭りが催されている。特に盛り上がった地域の「TANABATA」を7月7日に再び開催すれば、日本のみならず世界中から季節の魔力を集める事も可能かもしれない。
「勿論、ケルベロスの皆さんが七夕祭りを満喫する事も必須事項です。デウスエクスの危機の去った地球で、友人や家族……恋人といった大切な方と、大いに楽しんで戴ければ」
そうして、満面の笑みを浮かべる美緒が、ヘリオライダーのタブレットを借りて見せた画面には「神戸七夕スカイランタン祭り」の文字がでかでかと。
「スカイランタンって知ってる? 『天灯』の方がピンと来る人もいるかもしれないけど」
簡単に言えば、火を灯すと空に浮かんでいく紙製の小さな熱気球の事。元々は通信手段であったそうだが、現在はアジアやヨーロッパを中心に祈祷儀式に使われている。幸運のシンボルでもあるとか。
「ここ数年、かな。兵庫県神戸市のメリケンパークでは、七夕の頃にスカイランタンを夜空に飛ばすイベントが恒例なんですって」
ポートタワーや海洋博物館のライトアップも美しい中、沢山のスカイランタンが夏の夜空を舞い、オレンジ色の優しい灯りが揺らめく光景は、まるでおとぎの国のようにロマンティック。ちなみに、ランタンの灯はLED製で安全。糸付きランタンなので、イベント後の回収も万全で環境にも配慮されている。
「でも、いつもは2日間のイベントで……それを1日でやっちゃうから、今年はいつもより沢山の人出が予想されているのよね」
メリケンパーク内には屋台も建ち並ぶがその数も足りないだろうし、混雑によるトラブルも起こり得るだろう。
「だから、私達ケルベロスで屋台を出してみても楽しいだろうし、見回りとかお手伝いするのも、ミニイベントを企画するのも喜ばれるんじゃないかな。勿論、仲間でスカイランタンを飛ばして、お祭りを盛り上げてくれてもいいのよ」
今年は特別に、ランタンの中に「願いを書いた短冊」を仕込んで飛ばすのもOKだそうだ。沢山の人々の切なる願いに、きっと七夕の魔力も応えてくれるだろう。
「七夕のお祭りが盛大になればなる程、沢山の季節の魔力が集まるわ。私達ケルベロスの手で、パーフェクトに盛り上げていきましょ!」
神戸七夕スカイランタン祭り――人々の願いに誘われ、季節の魔力が集まり始める。
●ポッフェルチェ始めました
コナモン屋台をやる事にした。
「ポッフェルチェってオランダ風……発祥はベルギー?」
つまりはパンケーキの仕込みを始める美津羽・光流。
「焼くのは任しとき。完璧に仕上げたる」
「僕は接客だね」
調理は旦那様に任せ、ウォーレン・ホリィウッドは声を張る。
「可愛いミニパンケーキは如何ですかー。七夕限定星のシュガーをお付けしますー」
たこ焼きのようなポッフェルチェはふわふわ食感。忽ち大繁盛だが、ケルベロスの屋台は売るだけで終わらない。
「ケルベロスの本気や! 行くで、レニ!」
電光石火! ぽいぽい焼き立てを飛ばす光流。
「おーけー、コンビネーションだね」
ウォーレンもしっかりキャッチして、パパッと星形シュガーをトッピング。
「お待たせしました!」
盛り上がったのは、言うまでもない。
「せやけど、全然いちゃいちゃできへんな」
「また後で……!?」
電光石火! 唇の感触に、ウォーレンの頬に熱が上る。
●誓いは1つ
「成程、流石だ。申し分ない」
「七夕の魔力、上手く使いたいねって師団でも話し合ったのに」
賞賛する巽・清士朗の隣で、小車・ひさぎはむくれ顔。
「先の先まで計算済みなのは、ダモクレスのトップなら当然かもしれないけどさあ!」
アダム・カドモンの先見の明が、余程悔しかった模様。
という訳でやけ食い、もとい屋台巡り。牛肉串をもぐもぐしながら、結局ひさぎは願い事を思い付かなくて。
「清士朗さんは?」
「秘密だ」
けれど、誓いはある。
普通の子供にも。普通の少女にも。普通の女になる事も。
自分に許さなかったひさぎを――この平和な世界の何処にでもいる、普通の女で、母親にする事を。
「悪くないだろう?」
「もう……どんだけうちを泣かせる気なんです?」
●灯に願いを込めて
暮れなずむメリケンパークに、橙がぽつりぽつり。
19時を過ぎて――スカイランタンを飛ばす時間だ。
「蝋燭の火でなくても飛ばせるのね」
シア・ベクルクスはLED製スカイランタンに興味津々。糸とおもり付き、浮力はヘリウムガスだ。
「ロウソクより安全に楽しめて、回収も万全の安心感よ」
吉杜・有司も感心の表情で短冊を仕込む――脅威が去った世界で、皆がこれからも満足できますように。
「吉杜さんはご準備宜しいでしょうか~?」
「タイミングを合わせよう、シア。内容は互いに秘密か?」
「ふふー、ナイショです」
悪戯っぽく微笑むシア――親しい方々に、より多くの満足が訪れますように。
「戦いの無い穏やかな時間は良いものですわね」
「ああ、素晴らしいな」
異口同音の『願い』を知る由もなく、2人は彩りの浪漫に心躍らせる。
●Gift
「……そろそろ、かね」
揃ってランタンを灯す浴衣姿のギフト・アムルグとロコ・エピカ。
「ロコは短冊入れねェの?」
「入れていないよ。ギフトは?」
「どうすっかなァ」
伏した赤眼が、真っ直ぐロコを捉える。
「願いがあんだ。あんたにしか叶えられないヤツ」
「誕生日のやつじゃなく?」
いつにない真剣な声で肩を引き寄せられる。
「ロコ、俺の星。お願いきいてくんねェか」
唇を重ねる寸前、手から離れたランタンが夜光を目指す。
「いつかこう出来りゃって。誰に隠すでもなく堂々と」
「初めて聞いた」
ギフトの喉に、甘い痛み。ロコの牙が首輪の様に薄い痕を残す。
「御主人サマじゃなかったの」
「勿論そうだぜ。そんで俺は」
咬み癖は、ギフトの筈なのに。
「ロコの自慢のパートナーに、ずっとなりたくてさ」
蠱惑の笑みに、うねり猛るは混沌の律動。果たして、彼の願いが叶った否かは――『彼』のみぞ知る。
●希望の光
「はー。アイツらグラビティ無しに飛ぶんだって? いよいよけるべろの出番なくなるな」
「ヘリウムで飛んでンだ。元より出番ねぇよ」
昇る灯にカメラを向けるキソラ・ライゼ。浮足立って、サイガ・クロガネの軌道修正(どつく)も何度か。
「折角だから、飛ばしたいじゃんね?」
心行くまで撮影して、キソラはランタン2つ、サイガに押し付ける。
「飛ばすトコ撮りてぇからオレの分もヨロシク」
「俺が超欲張りみてぇじゃんよ」
文句を言いつつ、サイガはランタンの軽量化を図る。より高く飛べるように。
「……ああ、イイじゃん、光は希望だもんな」
「んー。はひほはろ(賢かろ)」
「ナンか美味そーなの食ってんし! 俺手ぇ塞がってンのに!」
ズルイオレも食いたいと叫ぶキソラを横目に、サイガはイカ焼きをごっくん。
――ま、これ飛ばしたら、食い物屋台付き合ってやんねーコトもねぇケドな?
●月の子達の祈り
リューディガー・ヴァルトラウテとチェレスタ・ロスヴァイセにとって、神戸は馴染み深い街。そして、エリオット・アガートラムは、運動会の聖火リレーでメリケンパークを走った。そんな3人の出張版洋菓子店「Mondenkind」は、ドイツ菓子の屋台だ。
メインはハート風のプレッツェル。菓子パン風やらスナック風やら、チョコや砂糖掛け等等。
「冷たい飲み物も欲しいわね」
飲み物は天灯で有名な台湾由来のチーズティー。お茶にクリームチーズ入りホイップの2層仕立て。まろやかな甘じょっぱさが癖になる。
「皆が喜んでくれるのに勝る幸せはないな」
楽しそうな夫妻を前に、エリオットは思う。
ケルベロスが守った日常、人々の笑顔――辿り着くまで少なくない犠牲があったからこそ、日々を大切にしたい。
休憩の合間に、ランタンを飛ばした。
夫妻の願いは、家内安全、商売繁盛、世界平和。も家族皆で幸せに暮らせますように。
エリオットは祈る――勝ち取った幸せが、2度と失われませんように。
●together
この平和がいつまでも続きますように――ジェミ・フロート
より良い未来に届きますように――ティユ・キューブ
「皆の熱気、凄い。地球が本当の意味で楽園になった喜びだろうね」
「この灯りも喜びの証だね。心躍るよ」
ティユの綺麗な横顔に気後れしながらも、勇気を出して。
「ティユさんとは、戦争で一緒に戦えて嬉しかった」
「こちらこそ」
ジェミの手を、ティユは微笑んでしっかり握る。
「こう繋ぐと思いも強まるようで嬉しい」
「う、うん」
頬染めるジェミ。何とか次の話題を探す。
「これからは?」
「……標は残したいかな。僕らの思い出も詰まった家だしね」
もっとやりたい事がある。
「この空のもっと先へ、平和を届けにいかなくちゃ。ジェミもそうじゃないかなって」
「うん、超神機さまから受け継いだもの、形にしていきたい」
そして、何よりも。
「ティユさんと一緒に行きたいです!」
「勿論、一緒に行こう」
繋いだ時の思いと歓びを胸に。
●生まれ変わっても
「るえるサン、か、かわいいっス……!」
「えへへ」
林檎の花柄浴衣、赤い帯でおめかしの笹川・るえるは照れ照れと。
本音駄々洩れたラランジャ・フロルは、照れ隠しにスカイランタンを放つ。
――るえるサンがずっと元気でいますように。
――生まれ変わっても、またララくんと出逢えますように。
長い間、会えずにいた2人。元気そうな様子にホッとして。ずっと大人びた横顔にドキッとして。
「「ずっと、一緒にいて(欲しいっス)」」
同時の言葉に思わず吹き出した。
「想ってる事、一緒だね」
嬉しくて彼の胸に飛び込んだら、抱き締められた。
(「ララくんの匂い……ぽかぽかして安心する」)
「大好き」
るえるの告白に、ラランジャは心の中で願い事を書き直す。
――生まれ変わってもずっと、ずっと……。
●叶えるならば
「スカイランタン、見たかったんだ!」
はしゃぐヴィ・セルリアンブルーに、わくわくと眼を輝かせる香坂・雪斗。
「短冊に願い事を託すんだね」
2人の願いは1つだけ――隣にいる大切な人と、ずっと一緒に仲良くいられますように。
(「出会って6年、あっという間だったな」)
ふと思う――いつかお別れが来るかもしれない。
「あんな、ヴィくん」
ヴィの表情が沈んだ時。雪斗は愛しい人の手を握る。
「この願いは、ヴィくんと2人で叶えていきたいんや」
大丈夫。願い続ける限り、繋いだ手は離れない。
「お星様まで届くかなぁ。俺らの決意表明!」
舞い上がるランタンを見上げ、ヴィは彼の手を握り返す。
「そうだね」
いつまでも。君の1番傍にいる。
●唄う大窯
「目の保養だね~」
膝丈の白い浴衣が元気な装いのシル・ウィンディアは、仲間の晴姿にはしゃぐ。
「いつもと違う装いが、ろまんちっくです」
愛らしくレトロな椿柄の華輪・灯が誉めれば、天の川の浴衣姿のクローネ・ラヴクラフトも笑み零れる。
「ふふ、皆の浴衣も華やかで良いね」
黒地に蝶が舞う浴衣が艶やかな胡・春燕は、徐に首を巡らせる。
「賑わってるわね、今夜は沢山のランタンが見られそう」
早速、短冊を手に取る4人。
この星で出会えた、かけがえのない人達といつまでも笑顔でいられますように――シル
大好きなお友達皆と、楽しい思い出を沢山作れますように――灯
「屋台も楽しみです!」
「後で見に行こう」
笑顔溢れる平和な時間が末永く続くように――クローネ
「甘い物も食べたいし、皆と沢山遊びに行きたいし、それから……」
「そんなに詰め込むの?」
少し悩んだ春燕が記した願いは――痛みも、楽しさも、思い出が色褪せる事なく残りますように。
「次は、恋愛絡みの願い事になるかしらね?」
「え、ええと、その……今年の3/14に、式を挙げました……」
悪戯めいたおねーさんの言葉に、真っ赤になったシルはごにょごにょと。
「み、皆はどうなの?」
何だか、一斉に視線を逸らされた。
「私もいつかは……って、その願いは好きな人に直接言います!」
「ぼ、ぼくも、えぇと、願い事は好きな人に直接、伝えるから……そう言う春燕は、何かあるのかな?」
「私の願いは天のみぞ知る、よ」
秘密めかしの笑顔のまま、春燕は灯火の群れを、ほんの少し切なく見上げた。
●Ghost church
常ならば廃教会に憩うケルベロス達も、今宵は神戸に足を運ぶ。
「ユエ、見てみて? どんどん賑やかになるよー! ふふ、何だか嬉しいね?」
ビハインドと楽しく運営スタッフを手伝った月岡・ユアは、漸く仲間と合流する。
「しかし……皆屋台で色々買い込んだな」
ちょっぴり呆れた風情のマルティナ・ブラチフォードの戦利品は林檎飴。ちなみに、屋台飯の大半は、柄倉・清春の仕入れだ。
「……そう言えば、七夕とはどんな祭なんだ? 余り明るくなくてな……」
かき氷を手に、首を傾げるキース・アシュクロフト。
「では、私がご説明しましょう」
レフィナード・ルナティークは、今日の祭りのガイドスタッフをしていたから慣れた様子。
「ふふ、七夕かー。執事喫茶で彦星のコスプレとか色々……あ、折角だから、皆涼んでね?」
立花・雪菜は笑顔で、冷たい飲み物を全員に振舞う。
巡る口福を堪能して……いよいよ、灯を空へ放つ頃合い。
「ふむ。今回はランタンに仕込んで飛ばすのか。面白い趣向だ。しかし、何を書けばよいのか……」
生真面目に思案顔のヒエル・ホノラルムと同じく、少し悩んだレフィナードだったが、自然と浮かんだ願いをサラサラと。
「願い事は、そうだなあ……」
「私の願いは1つだけだ」
ビハインドと揃って考え込む雪菜と対照的に、マルティナの筆致は潔い。
「皆はどんな願い事を書いたのかな?」
興味津々なリーズレット・ヴィッセンシャフトの質問に、鷹揚に肩を竦めるレフィナード。
「さあ? 内緒です」
「……見るか? 俗っぽいが。言っておくが冷やかし厳禁だぞ」
キースは仲間の視線に居たたまれず、頭を抱えている。
「いいだろう! そろそろ自分の幸せを考えても!!」
「勿論、悪くはない、よ。柄倉やオラリズもこんな感じじゃないのか、な?」
「あ、やべ。ソース飛んじった! ……ま、これも味ってやつで」
リーズグリース・モラトリアスのフォローを、清春が粉砕していく。
「ま、俺のは空に託す事じゃねーが、あんたらを教訓にさせてもらうって意味もあるからな!」
「さぁさぁ、皆あっつまれー!」
各々願い事を胸に、リーズレットの号令で輪を描く8人。
世界、否、身内の健康と安全を願う――ヒエル
……(小さな文字で読めない)……。――レフィナード
大切な人たちとずっと笑顔で一緒にいれますように――雪菜
皆と過ごすこの平和が、いつまでも続きますように――マルティナ
大切な人といつまでも一緒に居られますように――キース
いつまでも夫婦円満に――リーズグリース
家内安全!――清春
みんなに沢山の幸せが訪れますように――ユア&ユエ
みんなとこうやってずっと笑っていられますように――リーズレット
「明日も明後日もずーと先も! みーんな、幸せになぁれ♪」
ユアの祈りが7人の笑みを誘う。一斉に手を離せば、ふわりふわり。
「ランタンがいっぱいで壮観できれいだ、ねぇ」
「天上の連中にも地上の天の川を見せてやれりゃいいよな」
「また素敵な思い出ができたね。ランタンの写真、撮っておこうかな?」
8人の表情はどれも優しい。
「皆、笑って~」
そんな幸福の光景を、リーズグリーズは写真に何枚も記憶した。
●夜明け
いつも眠そうなアラドファル・セタラの趣味は昼寝。
(「願い事……折角空に上がるのだから、大きな事がいい」)
――皆良い昼寝ができますように。
「睡眠は、大事」
ちゃんと寝る事は幸せに繋がると、力説するアラドファル。
「ふふ、確かに大事、だけれど……何だか可愛らしいお願い」
茶菓子・梅太はくすくすと、短冊に書き付ける。
――みんながよい夢を見れますように。
「「せーの」」
同時に手を離したランタンが、寄り添うように昇っていく。
「綺麗だな」
「そうだね……瞬きするのも、忘れてしまいそうだ」
数多の『願い』が叶いますように。
「今夜の光景も、夢に出てきたら良いな」
「みんなの夢にも、ね。ふふ、眠るのがたのしみになってきた」
●きっとこれからも
「俺達の燈りも送り出そうか?」
クレス・ヴァレリーの笑顔に、慎重にランタンを離す九条・小町。
「……自分の為の願い事なんて、初めてかもしれないな」
「何て書いたの?」
穏やかな夜空に温かな彩を見送る小町の耳に零れた言葉。小首を傾げて問えば。
君の隣で生きていけるように――欲張りになってしまった、クレスの願い。
「あ……」
黒の双眸に紗幕が張る。ほろりと零れ、青年の息が詰まる。
「知らなかった……悲しくも苦しくもないのに涙が零れる事なんて」
クレスはホッと安堵の吐息。
「本当に……君と居ると退屈しないな」
冷静が常の彼の動揺が珍しくて、小町も思わずクスリ。
「私は今が恵まれ過ぎているから、短冊には貴方の願いが叶うようにと書いたのよ」
だからきっと……私達、これからも一緒にいられるわね。
●トリオ
敢えて、いつも通り書いた――いつまでも3人で仲良く過ごせますように。
楽しい事も嬉しい事も、ずっと共有したくて。
各々ランタンを飛ばし、朱藤・環とアンセルム・ビドーは、同時にエルム・ウィスタリアの手を握る。
「何ですか、2人とも」
怪訝そうなエルムに、アンセルムは眉根を寄せる。
「何処かに行きそうな気がして」
「勝手にいなくなっちゃ駄目ですよー?」
「いきなり何言ってるんですか……アンセルムの馬鹿。環まで」
判っている。近い内、エルムは2人を見守る側になる。今まで通りでなくなってしまう。
(「2人が結ばれるのを願っていた筈なのに……寂しい」)
言葉を呑み込む彼を見上げ、環の猫尻尾も力無く。
(「……本当は理解してるんですよ。アンちゃんとエルムさん、それぞれへの感情は別物なんだって」)
いつまでも3人組であり続ける事は難しい。それは、アンセルムも実感している。
「でも、環とは違う方向で、エルムも大事な人だと思っているからね」
「そうですよ! 2人は代わりがいない大事な存在なんですから」
「……そんな事言われたら、一緒にいたくなっちゃうじゃないですか」
今も「3人でいつまでも」なんて書けなくて、ランタンだけ飛ばした。1人でも大丈夫になろうと頑張っているのに。
「ほら、冷却装置が壊れた……」
ほろほろと、透明が頬を伝う。
「冷却装置? 大変だなあ。本格的に暑くなる時期なのに」
「ふふっ、エルムさんてば、どうしちゃったんですかー?」
アンセルムのハンカチを奪うように目尻を抑えるエルムに、2人は優しい笑顔で寄り添う。
「……だから、泣いてませんから!」
「はいはい」
●始まりの灯
「お疲れ様。無理せず休憩してね」
「別に、疲れてなんか」
強気な淡島・死狼に、結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)は「まあまあ」と缶ジュースを押し付けていく。
後15分で21時。もうすぐ祭りも終わる。
「ケルベロスも万能じゃないな……」
さして大きなトラブルもなかったが、運営スタッフとしてヘトヘトだ。
「まだまだ僕らにやれる事はあるんだな」
世界を危機から救ったからと言って、劇的に何が変わる訳でもない。
(「でも、ゲートの問題が片付いたら、生き方も変わるんだろうか……」)
将来とか、夢とか、そろそろ向き合ってもいいかもしれない。
「まだまだ、始まったばかりなんだから」
神戸の夜空に舞う灯を見上げて、サイダーの甘さが身に沁みた。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年7月14日
難度:易しい
参加:40人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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